つ,学説・判例の展開のほか,第 2 次契約法リステイトメント(Restatement (Second) of Contracts,以下では「リステイトメント」と略す)や統一商法典(Uniform Commercial Code,以下では UCC と略す)において定式として現れているところを認識することにしたい。
損害賠償額算定の理論と規範(1)
x x x*
Ⅰ 契約責任と賠償されるべき損害額の算定
Ⅱ アメリカ契約法における賠償されるべき損害の金銭的評価 1 .損害賠償額算定の前提としての保護されるべき利益論
2 .損害賠償額算定の基礎としての「価値」と算定を規律する 4 要素
3 .物・サービスの供給者の救済における損害賠償額の算定(以上,本号)
4 .物・サービスの受給者の救済における損害賠償額の算定
5 .損害の「回避可能性」と免れた損失
6 .代替的な損害賠償額算定方法としての信頼
Ⅲ 損害賠償額算定と実体法規範
Ⅰ 契約責任と賠償されるべき損害額の算定
損害賠償額の算定は,契約責任の追及における最終段階のテーマであるが,わが国では,この算定という作業がどのような情報をもとに,どのような処理を経て行われるべきかについて民法上はxxの規定が存在しない(商法 580 条参照)。他方,多様な契約における賠償額の個別の算定例は裁判例から伺うことができ,算定の基準時のように特に注目されてきた問題点は見られたが,算定の作業全体を見渡した判例法理は必ずしも明らかになっていないように思われる。また,学説においても,十分に体系立った説明は見つからない。従来の学説の関心は,目的物の価格変動に伴う算定の基準時の問題に極端に偏っており,算定作業の全体を見渡す視点や理論が欠けていたようににみえる。特に,損害賠償額の算定において,取引に関するどのような情報を基に,それをどのよう
* 中央大学法科大学院教授
に処理するかという,算定の基本的な考え方が未完成であり,これらの点について,わが国の民法学には大きな空白が残されているように思われる。
契約責任の成否についていかに緻密な理論を組み立てても契約責任論のゴールともいうべき損害賠償額の算定の理論に曖昧xx未整備な部分が残ると,契約責任論の緻密さの価値も大きく減殺されてしまうであろう。また,契約責任の理論的対立についても,それが損害賠償額の算定の上にどのように反映されるのかを(差異をもたらさない可能性も含めて)視野に入れることにより,より正確にその対立の実際上の意義を把握することができよう。
本稿は,債務不履行に基づく損害賠償額の算定について現状を眺めたうえで,ハドレー・ルールを前提とした算定について実体法上の規範を有するアメリカ法の状況を考察し,算定を導く理論とそこで働くべき諸要素を,損害賠償制度によって保護されるべき利益論とのかかわりに留意しつつ,論じようとするものである。損害賠償額算定の過程を実体法上規範化することは,今般の民法改正においても見送られたが1 ),その過程を理論的に整備する作業は放置されるべきではない。この点に関する検討は,必ずしも最新の理論的発展や判例の動きに目を向けるという性質の研究ではないが,上記の空白を埋める上で欠くことのできない作業である。
1 .損害賠償額算定の性格
債務不履行における損害賠償額の算定の法的性格については,周知のように,従来いくつもの可能性が指摘されてきた。あえて確認すれば,例えば,損害を金銭的な差額ととらえる立場からは,賠償されるべき損害の範囲論と算定論の関係は一体のものとなり
(差額という損害概念にはすでに損害の金銭的評価が持ち込まれているため,損害評価とその金銭的評価とを分離することは難しく,賠償されるべき損害の範囲もその金銭的評価もすべて民法
416 条の問題となり),金銭的評価の問題を賠償されるべき損害の範囲の問題と切り離す
意味はないことになる(原則的には,損害額を算定できなければ,損害発生の有無自体も確認することができない)。そして,財産的損害については,損害の数額についても,債権者が主張立証責任を負うものと解されている2 )(つまり,損害賠償額の算定は,裁判官の仕事以前に当事者の課題となる)。そのうえで,上記の差額の評価は総体的,包括的なものでありながら,他方で,それが,損害賠償の範囲内に入ると判断された各損害項目3 )において損害額を具体化する作業と結合して行われていると指摘されることもある。
これに対し,損害を事実ととらえたうえで,賠償されるべき損害の範囲とその金銭的
評価を切り離す考え方も学説上強く主張されてきた4 )。そのうえで,損害賠償額の算定の性質について,それを実体法の問題ではなく裁判官の専権に属する金銭的評価の問題であるとする5 )。そうすると,損害の事実に対する金銭的評価は,裁判官の裁量的・創造的作用によって決せられるべきものであり,原告は損害の数額を主張立証する必要はないことになるとする6 )(弁論主義の領域から排除されることになる)。
このような対比を前提にしつつも,他方で,それぞれにおいて賠償額の算定という作業がどのような「具体的情報」をもとに,それをどのように「処理」して行われるべきか,という段階に進むと,算定の基準時の問題を除けば,従来必ずしも明らかではなかった。賠償されるべき損害の範囲論と算定論とを一体的にとらえる立場でも,算定そのものの過程に立ち入った理論化が完成しているわけではなく,また,上記の後者の立場をとったときでも,その裁量のプロセスにおいて,賠償額の算定作業が判断者に何の指針や基準もなく委ねられるべきものではないであろう。
そして,このような算定の過程を理論化し,具体化することによって,上記の対比が賠償額において実際にどのような差を生むのか,あるいは,具体的な差となって現れないのか,も見て取ることができるようになるであろう。ところが,上記のような対比の一方で,いずれの立場からも,損害賠償額の算定という行為がどのような情報に対するどのような処理によって行われるべきかという算定作業の理論化とさらには規範化については,突き詰めた議論をうかがうことができないのである。
2 .金銭的評価の基準時に対する関心の集中
ただ,従来学説が大いに議論してきた論点も若干存在し,特に損害賠償額算定の「基準時」の問題は,損害賠償額の算定論のメインテーマであるかのごとく,大きな関心をもって論じられてきた。そして,これは,上に触れた賠償額算定という作業の性格にかかわる理解と損害概念そのものの捉え方が反映された議論となってきた(さらに注目するべきは,基準時の対立が損害項目の相違になるときもあることである。例えば,解除時の時価か転売価格かという対立は,基準時の問題とともに損害項目の差ともなっている7 ))。
ただ,この議論は,裁判例に現れた取引類型と不履行形態の多様性に即して,基準時
の考え方を整理し,そこに内在する基準時の決定要素や準則を探る努力を試みる段階であり8 ),いまだ個別事例や類型ごとの状況把握を抜け出していないようにみえる。もっとも,不履行形態や解除の有無に即しつつ,範囲を限定した準則の探求は試みられており,何らかのxx的基準(損害賠償債権の発生時,口頭弁論終結時など)を基準とするもの
と,多様な基準の中からの選択を原告に認めるものなどが主張されているが9 )(これらの基準は,それぞれ根拠を有するものであり,債権者は,どの時点を選んで主張立証してもよい
と解する見解もある),いまだ共通の理解になってはいない。
また,基準時の問題が論じられるのは,物の引渡債務に関する不履行のケースが中心であり,対価の支払いに関する不履行のケースをとり上げた基準時の議論はほとんどみられない。しかし,例えば,買主の代金不払いにおいて売主が第三者への目的物の再売却を余儀なくされる場合(あるいは,損害回避策としてそれが望ましい場合)もあり,その場合には再売却価格は損害賠償額から控除されることになろうが,再売却の時期によって再売却価格が変動しそれが損害賠償額を変動せしめることはありうるから,対価の支払いに関する不履行のケースにおける基準時も論点とされるべきであろう(もっとも,それを「適切な時点における損害回避行為」の判断の中に解消してしまう可能性もある)。
他方,賠償されるべき損害の金銭的評価は,民法 416 条によって決せられた範囲の損害について裁判官による創造的判断の結果として行われるとする立場からは,賠償額の金銭的評価は,同条の定める範囲の損害につき,口頭弁論終結時において,債権者に対してできるだけ本来の給付を受けたのと等しい経済的地位を回復させるように判断されるべきである,という原則 10)に従ってなされるものとする主張もある。そうすると,基準時の問題は実体法的意味を失うことになるという。しかし,この原則自体,賠償されるべき損害の範囲を含むものと読む余地があり,また,その金銭的評価そのものを支える情報をどのように選択し処理するべきかについてはなお空白のままである。
では,基準時の問題はいかなるアプローチにより統一的に理解されうるであろうか。基準時に関する考え方をより一般的な算定理論の中に位置付ける努力が必要であろう。
3 .金銭的評価の一般的指針の必要性
そこで,より一般的な算定の指針が求められることになる。上に述べたように,これまでも,債権者に対してできるだけ本来の給付を受けたのと等しい経済的地位を回復させるように算定するべきである,という主張 11)が一部でみられたが,そもそもどのような情報と手順によって賠償額が確定されれば「本来の給付がなされたのと同等の経済的地位が回復された」ことになるのか(収集されるべき情報とその処理基準)という肝心の点については,必ずしも明らかではなかった。
ⅰ︶ まず,損害額をどのような要素・材料によって算定する必要があるかにつき,例えば,履行によって得られたはずの価値の算定においては,物の価値の評価(市場価格,
騰貴した価格,時価との差額,転売価格と約定価格との差額など),役務の価値の評価,不完全履行の場合における未履行分の評価などが考慮すべき情報とされ,そのうえで,得べかりし利益,人身損害などが算定の材料とされてきた 12)。
また,契約当事者が,相手方の不履行に対応して代替的取引(買主による代物調達,売主による第三者への再売却など)を行っていた場合には,それは賠償額の算定に反映されてきた。例えば,売主の不履行において買主が市場において代物調達を行った場合には,その代物購入の価格と契約価格との差額が損害とされる 13)。なお,代替的取引による
「損害回避の可能性」についても,(損害軽減義務などの構成の中で)賠償額に反映されてきたとみることができる 14)。
ⅱ︶ 他方,算定方法については,学説上,抽象的計算方法(当該被害者の具体的事情を捨象して,客観的な方法で調査・確定されたものを損害とする計算方法)と,具体的計算方法
(当該被害者の個々の損害項目を調査する計算方法)の区別が一部の学説で主張されていることが目につく 15)。そして,原告が,当初,抽象的損害計算方式で算出した賠償額を請求した場合であっても,後にこれを改めて具体的損害計算方式により算出した(より有利な)損害額に切り替えて請求することも(その逆も)妨げないという 16)。もっとも,具体的損害計算によって数額に差が生じるような損害は,特別損害となることが多いであろうから,それが予見可能性要件によって排除される可能性を考慮すると抽象的損害計算との差もそれほど大きくはならないであろう。
ただ,上のような視点は,金銭的評価において,契約に基づく給付の価値を,具体的な契約当事者にとって有する主観的な意味(当事者の好みや心情的な要素も作用する)をも考慮して評価するべきか,一般的・仮定的な当事者像を設定してそのような仮定的な当事者にとって有する客観的な意味を基に評価するべきか,という問題にも発展しうるであろう。
ⅲ︶ さらに,不履行形態の相違や第三の取引者の有無 17)が算定において取り上げるべき情報や算定方法の差異となることは伺えるが,それらがどのように理論化され,規範化されるかという点については,ほとんど手付かずのままであるようにみえる。
4 .現状の問題点と本稿の課題─利益論から説き起す算定論の必要性
⑴ 損害賠償によって保護されるべき利益
以上のような状況のもとで,損害賠償額が,どのような情報に基づいて,どのような手順によって確定されるべきものかという肝心の準則については,実務の動向を契約の
目的物や不履行形態ごとに部分的に整理するにとどまっていた(特に役務提供型の契約については,準則はほとんど明らかになっていない 18))。このような観点からの学説による分析もかなり大掴みなものにとどまっており,十分な任務を果たしてこなかったというほかない。
本稿は,この状況をのりこえるひとつの鍵は,損害賠償によって保護するべき利益論から説き起こした算定論を探求することではないかと考える。すなわち,債務不履行による損害賠償によって保護されるべき利益の性質・内容を起点とすることにより,その金銭的評価において取り込まれるべき要素やその処理についてもそれを具体化する方向が見出されるように思われる。また,それらの要素の理論的位置付けも見極めが可能となろう。わが国における利益論は,必ずしも算定論を指導する位置付けを与えられていない。
⑵ 利益論を基礎とした算定論
つまり,賠償されるべき利益の本質論から賠償されるべき損害賠償額の算定のあり方を説き起こすという観点からみるとき,わが国の利益論の分析は十分ではなかった。そのうえ,利益論を実体法上もう一段分解した,「損害の構成要素」に関する議論がさらに欠落していた。そのため,損害賠償額の算定に関する実体法上の議論が曖昧で深まりを欠いていたと思われる。実務的観点からより具体的な費目に即した検討も試みられているが,そこに働く判断要素を分析し算定の過程を実体法規範としてとらえなおす作業はみられない。これを理論化し,実体法上規範化する課題が残されていたということができる。
ただ,これまでには,損害賠償額の算定にかかわるルールを規範化すること,特にそのルールを民法の中に条文として規定することについては,それが,民事訴訟法 248条 19)のもとでの裁判官の裁量による柔軟な賠償額の決定を制約する方向で作用するおそれを懸念する意見すらみられたように 20),それを実体法上の任務とする意識が希薄だったのである。
5 .比較法的関心
⑴ 範囲論と利益論
以上のような関心に基づき,以下では,アメリカ契約法における契約違反の損害賠償額の算定ルールについて考察を試みる。ここでアメリカ法を参照するのは,日本民法学
からみた場合に,次のような特に注目するべき諸点を見出しうるからである。
ⅰ︶ まず,損害賠償額算定に関する理論が損害賠償によって「保護されるべき利益」論から説き起こされており,それを基に,その「保護されるべき利益を左右する要素」が比較的明確に位置付けられている。つまり,保護されるべき利益と各損害項目の位置づけがより鮮明となっており,それによる算定方法につき緻密な理論の蓄積がみられる。これは,わが国における議論の希薄であった観点であり,参考とするべき価値があるものと考える。また,契約類型および保護されるべき当事者の相違に即して,保護されるべき利益を算定においてどのように考慮しているかについても注目することができる。
ⅱ︶ 次に,アメリカ法では,損害賠償額の算定にかかわる理論もまた実体法規範の重要な一部をなし,そのうえでハドレー・ルールと損害算定との関連が意識されている。特に,賠償されるべき損害の範囲に関する議論が,常に賠償額の算定を強く意識して展開されていることに注目するべきであろう。xxxx・xxxは算定論との結び付き(過度の切断ではなく)を得てはじめて成り立つルールであることが伺われる。わが国と同様にハドレー・ルールを承継した国において,賠償されるべき損害の算定がハドレー・ルールを前提としてどのように規律されているかをみることは,このルールの一発展例 21)の理解にとってもきわめて有益であると考える(わが国で賠償されるべき損害の範囲の問題において論じられてきた点が,アメリカ法ではその範囲内の損害の金銭的評価の問題
として論じられる点もある)。
ⅲ︶ さらに,賠償額の算定の過程が,損害の数額を取り込んだ実体法規範として定立されている点に注目することができる。そこでは,数額の決定は,実体法規範・裁判法規範の重要な規律対象となるのであり,それは,単なる損害賠償債権ではなく,数額に及んだ権利表現となる。
⑵ 検 討 範 囲
もっとも,このテーマは,それをめぐって大論争が展開されてきたというような問題ではなく,近時急速な発展があったというものでもない。また,実際の算定において日本もアメリカも実務上はそれほど違わない計算を行っているのがむしろ通常である。しかし,その算定がどのような要素をどのように位置付けて行うべきか,という点については,わが国の,特に民法学はやや未整備であったのではないかと思われる。これを見直すためには,同様にハドレー・ルールを承継した国における算定の手順をみておくことが有益であろう。アメリカにおいては陪審制がとられていることを前提としつ
つ,学説・判例の展開のほか,第 2 次契約法リステイトメント(Restatement (Second) of Contracts,以下では「リステイトメント」と略す)や統一商法典(Uniform Commercial Code,以下では UCC と略す)において定式として現れているところを認識することにしたい。
Ⅱ アメリカ契約法における賠償されるべき損害の金銭的評価
1 .損害賠償額算定の前提としての保護されるべき利益論
〔1〕 3 種の利益概念
⑴ 保護されるべき利益
アメリカ法における損害賠償額の算定ルールは,古くは,取引の類型ごとに,算定に取り込まれる要素,評価の方法等をめぐって大きな多様性がみられた。そして,同時にこの多様性によって評価されるべき損失等の要素や算定方法について明確性を欠く場合もあり,また,正確な定式を把握することができない場合もあった 22)。他方で,判例には一般的な算定基準を論じるものもあり,例えば,それを,未払い分の契約価格マイナス免れたコストとしてまとめるような例もみられた 23)。
しかし,今日では,一般に広く支持されている考え方もある。これは,契約違反がもたらす経済的不利益を 3 種に分解して表現したうえで,「損害賠償はいかなる利益の保護を目的とするのか」を明らかにすることにより,その算定において取り上げられるべき要素を特定するアプローチである(それが成功しているかについてはもとより議論がある)。すなわち,今日の考え方によれば,契約違反にともなう救済としての損害賠償は,3 種の利益の保護に奉仕するものとされてきた。すなわち,「期待利益」(expectation interest),「信頼利益」(reliance interest),「原状回復利益」(restitution interest)である。
これらの利益について,第 2 次契約法リステイトメントは次のように規定する。
第 2 次契約法リステイトメント第 344 条 救済の目的
xxxxxxメントの定める諸準則に基づく司法上の救済は,受約者の以下の利益のひとつまたは複数を保護するものである。
⒜ 『期待利益』,すなわち,受約者が,契約が履行されたならばおかれていたであろうと同等の状態におかれることによって,交換取引利益を取得することの利益,
⒝ 『信頼利益』,すなわち,受約者が,契約が締結されなければおかれていたであろうと同等の状態におかれることによって,契約に対する信頼から生じた損失を塡補されることの利益,または,
⒞ 『原状回復利益』,すなわち,受約者が相手方に与えた利益を自己に回復することの利益。
状況によっては,xxxx,原状回復利益の一部は期待利益とも評価されうる。算定過程においてそれが見落とされると損害のダブルカウントが生じうることになり,それによって過剰賠償となるおそれもあることは指摘されてきた 24)。
⑵ 3 種の利益による 3 種の算定方法
アメリカ契約法におけるこのような利益概念とそれに基づく算定方法に基礎を与えたのは,フラーとパーデューによって 1936 年に発表された研究 25)であり,これは長くアメリカ契約法における損害賠償の基礎理論となってきた。この研究は,xxxxの概念を確立したものであるが,その議論の前提として,期待利益による算定が原則とされることの根拠についても重要な分析を行っている。今日では,この研究を批判・克服しようとする研究も少なくないが 26),この考え方が今日もなおアメリカ契約法の損害賠償の基礎(拘束力の根拠に対応する)をなしていることは疑いないであろう。この論文については,わが国でもすでに紹介があるが 27),ここではこのような利益論が賠償額の算定方法との関連性のもとに展開されていることに注目して, 3 種の利益に関連する説明を概観したい。
すなわち,第 1 に,受約者が約束者の約束に信頼をおいて,一定の給付を提供したにもかかわらず,約束者が自己の約束を履行しない場合には,裁判所は,約束者が対価として受領した価値を吐き出すように強制する必要がある。これは,不履行に陥った約束者が受約者を犠牲にして利得を得るのを防止するためである。つまり,不当利得の防止であり,ここで保護される利益が,「原状回復利益」である。
第 2 に,受約者は約束者の約束に信頼をおいて行動を決定しているのであるから(例えば,土地の買主はこのような信頼に基づいて,売主の権限等に関する調査コストを支出し,あ
るいは他の取引の機会を見送る),契約違反があった場合には,この信頼に起因する損害の解消を損害賠償として認めるべきことになる。この場合の損害賠償の目的は,受約者を約束がなされる前と同じ状態におくことにある。このような損害賠償によって保護される利益が,「信頼利益」である。多くの場合に信頼利益の回復は原状回復利益を含ん
でおり,その場合には原状回復利益は,信頼利益の亜種ということになる 28)。
第 3 に,約束者の約束が創り出した期待(expectation)の価値を受約者において実現する必要もある。すなわち,特定履行を求める訴訟において約束通りの履行をすることを約束者に強制すること,あるいは損害賠償訴訟において当該履行の金銭的価値を受約者において実現することが求められる場合がある。この場合の損害賠償の目的は,約束者が約束を履行していたら受約者がおかれていたであろう状態を金銭によって実現することにある。このような損害賠償によって保護される利益が,「期待利益」である 29)。
判例・学説は,この 3 種の利益のうち,契約違反の損害賠償額につき,契約違反をされた当事者の期待利益による算定が原則であるとする明確な方向を共有している 30)。つまり,損害賠償額によって保護されるべき利益は,契約違反をされた当事者の期待に基づくものであり,その目的は,金銭によって当事者を,「契約が履行されたならばその当事者が得たであろうと同等の状態におく」(リステイトメント 344 条 a 項)ことにあるとする 31)。これは,こうむった損失(losses caused)とともに得べかりし収益(gains prevented)をも含む。
ただ,リステイトメント 32),判例・学説も,賠償されるべき損害の範囲を画するにあたり,回避可能性(avoidability),予見不可能性(unforeseeability),不確実性(uncertainty)などによる制限を課しており,これらの要件は,期待利益の一定部分を削ぎ落とすことになる。すなわち,損害賠償が受約者を実際に契約が履行されたならば同人が得たであろうと同等の状態におくことを正面から妨げることになる。この点において,契約法がすでに内的な矛盾を抱えていることは否定できない。
〔2〕期待利益の賠償の根拠
⑴ 期待利益の賠償の正当化─損害賠償の能動的な機能
では,期待利益の賠償を原則とすることの正当化根拠はどこにあるか。算定の基礎としての期待利益の把握のために,この点の理解も必要と思われる。
期待利益の賠償は,単に侵害された状況を修復するよう求めるのではなく,本来の契約が実現しようとしていた「新しい状態」,つまり「契約を結ぶ前よりもよい状態」を金銭によって生み出すように求めるもの(配分的xxに奉仕するもの。これに対し,原状回復利益や信頼利益の回復は,矯正的xxに向けたもの)である。そこでは,契約法は,受動的・修復的に機能するのではなく,能動的に機能することを引き受けている。これは不法行為法における損害賠償(加害行為がなかったと仮定した場合の被害者の状態に向けて修復を行
うことを目的とする)に対して一定の対比を見せる。フラー = パーデューは,契約上の救済の算定がなぜ期待利益という,受約者が得たことのない「約束された履行の価値」によって行われるべきであるのかにつき,次のような検討を行う。
すなわち,第 1 に,「心理的な説明」である 33)。受約者は約束に対して一定の期待をいだいていたため,契約違反が生じると,受約者には自己のものを奪われたという感覚が生じるのであり,法はこの感覚を基礎にしたルールを形成しているという。しかし,法が救済を与えるべき約束違反は必ずしも受約者の心理的状態を反映したものではなく,心理的衝動は期待利益を保護すべきとする考え方のすべてを説明できるものではないという。
第 2 に,「意思理論による説明」である 34)。つまり,契約の法的強制は,すでに当事者の意思によって創出された一種の私法的状態を実現するものであると理解する可能性がある。しかし,契約というものがある種の私法を意味するのであるとしても,それは,契約違反に対する制裁を定めたものとはいえず,また,その目的を実現する方法を裁判所に委ねているような,不完全な制定法に似たものであり,そこからは,損害賠償を(期待利益ではなく)信頼利益に制限するルールを導く可能性もまたありうると批判する。
第 3 に,「経済学的または制度的な説明」である 35)。信用経済においては,将来見込まれる財貨への期待は現在の価値となるのであり,信用取引が浸透した社会では,強制可能な約束により創り出された期待権は現在における一種の価値となるから,約束違反はこうした価値への侵害となるという。つまり,契約違反は約束者の資産の現実の減少となる。このような通常の財産権との類似性は,ありうべき将来の期待利益にも及ぶことになると説明することができる。しかし,これは一種の循環論法であり,期待利益は現在の価値とみなされるとしても,それは法的介入の原因ではなくその結果でもある。また,約束の強制は信用経済の登場以前から行われてきたという歴史的考察とも矛盾するとする。このような,経済に対する法の優位性を前提とする説明には与しないという。
第 4 の説明は,「法律学的な説明」である 36)。これは,損害回復のルールの正当性を,裁判所その他の法の創造者によって自覚的に追求される何らかの「政策」の中に求めるものであり,フラー = パーデューは,この説明に説得力を見出している。すなわち,期待利益は,原告の,契約への「全信頼」を形成しているもの(それはたいへん多いが証明はきわめて難しい)を補償するために最もふさわしい損害賠償額の「算定方法」を提供するという。そしてこれは,信頼により「妨げられた収益」,すなわち,「他の契約を結ぶ機会を見合わせたことによる損失」とみることができる。つまり,期待利益の賠償を認めるということは,損害を伴う信頼(detrimental reliance)を補償する最も有効な手段
となる 37)。このような「機会の喪失」にともなう信頼の保護はそれ自体を何らかの算定方法のもとに置くことは困難なので,この種の損失を「代替」する最も合理的な方法として期待利益の賠償が正当となる 38)。回避可能な危害(avoidable xxxxx)のルールによる制限も,このような観点の現れであるという。
また,期待利益賠償は,より積極的に,ビジネス上の合意に基づく信頼を促進および助長するという働きもある。ビジネス上の信頼を促進するためには,現実の信頼の証明なくして,信頼から独立した,約束に基づく期待利益を回復させるのが望ましい。つまり,双務的なビジネス上の合意のケースのように,約束に対する実際の信頼の有無を離れて約束が強制されるべき場合があり,また,回復されるべき損害は信頼から引き起こされたものに限られないからであるという。ここに,期待利益の保護と信頼利益の保護に関する,原則と例外の逆転が説かれることになる。
⑵ 今日における正当化
今日では,同様の,あるいはより広い観点から期待利益の賠償を正当化する主張もみられる。例えば,期待利益の賠償が原則とされることにより,当事者の約束にもとづく取引を促すことになるという主張 39),効率的な履行に向けた動機付けとして働くとする主張 40),もし期待利益の賠償が原則とされない場合には,当事者は契約違反に備えて,その他の契約上の取決めや担保を時間と費用をかけて手当てしなければならないことになり,あるいは,受約者のごく内輪の中でしか取引することができないことになりかねないという主張 41)などがなされている。
ただ,これらも,フラー論文の発想を発展させたものにみえる。期待利益と信頼の考え方は,その後も多くの議論を呼んだが,本稿の関心においては,期待利益(さらには,信頼利益)の保護を損害賠償の目的とした考え方のもとで,その利益が損害賠償額の算定においてどのように金銭に反映されるかという点に注目することになる。
⑶ 損害賠償額の算定作業の規範化
上記のような考え方は,第 2 次契約法リステイトメントにおける損害賠償額の算定方法に関する規定の起草において採用されるに至り,また,UCC における算定論の基礎ともなった。そして,このような保護されるべき利益の考え方を基点にした場合に,関心は,「その先」の算定の過程はいかにあるべきか,に進むことになる。
〔3〕利益に着目した算定の設例
期待利益に基づく算定は,約束が履行されたならば成立したはずの,「事実に反する世界」を想定し,現実の世界との差をとらえて,被告の約束から本来期待されたところを原告に与えるという発想を出発点とするものである。
①設例(ア) 上記の 3 種の利益に関してまずリステイトメントに示された簡潔な設例(建築請負の例)42)をみてみよう。
請負人が注文者の土地の上に 10 万ドルで建物を建てる契約をした。請負人は 9 万ドルでその建物を立てることができたはずであったが,請負人が契約を信頼して仕事を始める前に注文者が契約の履行を拒んだという場合には,請負人の損失は請負人が得たであろう 1 万ドルにとどまる。これが請負人の期待利益である。というのは,この額は請負人を契約が履行されたのと同様の状態におく額だからである。請負人は信頼に基づいて何かをしたわけではなく,また注文者も何の利益も得ていないから,請負人の信頼利益も,注文者の原状回復利益も,ゼロである。他方,請負人が建設に必要な 9 万ドルのうち 6 万ドルを支出した段階で注文者が契約の履行を拒絶した場合には,請負人の期待利益は, 7 万ドルとなる。というのは,これは,請負人を契約が履行されたのと同様の状態にするのに要する額だからである(これは,請負報酬がまったく支払われておらず,請負人も 6 万ドルの出捐をまったく回収することができないことを前提とする)。もし,工事途中の施工部分が注文者にとって 4 万ドルの価値を持つ場合には,請負人の原状回復利益は, 4 万ドルとなる。
②設例(イ) 次の設例(売買の例)43)もみてみよう。
甲土地の売買につき,代金 10 万ドルとし,担保付融資を得て,売主に 1 万ドルの分割払いががなされた。買主の銀行の評価委員会は,甲土地は 12 万ドルの市場価値があると評価していた。売主は,この評価を知り履行を拒絶した。売主が履行を拒む前に,買主は甲土地の調査のために 500 ドルを,融資申請の銀行の手数料ために 500 ドルを,甲土地上の建物利用にともなう駐車場の購入のオプションとして 1,000 ドルを,支出した。買主の期待した収益は 2 万ドルである。原状回復利益は,分割払い金の 1 万ドルである。信頼利益は,2,000 ドル(原状回復利益の 1 万ドルを別にすれば)であるが,調査費用と手続料は期待したもの,つまり土地を手に入れるために必要なものであった。したがって,賠償されるのは, 3 万 1,000 ドルとなる 44)。
以上のような設例を念頭において,以下では,主としてリステイトメントと UCC を手がかりに賠償額算定の「規範」を考察する。
2 .損害賠償額算定の基礎としての「価値」と算定を規律する 4 要素
─第 2 次契約法リステイトメントに現れた「期待利益」の算定方法
上の利益論を前提としつつも,損害賠償額算定の議論は,なお主要な契約類型にあてはまる方法を個別に展開するものもあり 45),また,実体法としての規範の設定には,いくつかの可能性が追求され,それに即した算定ルールの設定も試みられてきた。
〔1〕期待利益の賠償における契約解除の有無と部分的な違反・完全な違反
契約違反に基づく損害賠償は,すでにみたように,原則的に期待利益の賠償を目的としたものとされ,同時にその算定においては通常損害あるいは特別損害が考慮されるが 46),この期待利益の算定につき,ここでは,まず第 2 次契約法リステイトメントに現れた,期待利益の一般的な算定ルールをみる必要がある。すなわち,どのような額の賠償がなされれば,債権者は「契約が履行されたのと同等の状態」47)を金銭によって得たことになるのか,である。この点について,リステイトメント 347 条は,次のように規定する。
第 2 次契約法リステイトメント第 347 条 損害賠償額の算定方法総論
被害を受けた当事者は,以下の方法によって算定される期待利益を基礎とした損害賠償を求める権利を有する。ただし,第 350 条から第 353 条に定める制限に服する。
⒜ 相手方の履行の不存在または不完全によって生じた,被害を受けた当事者にとっての相手方の履行の価値の損失(loss in value)に,
⒝ 付随的損失または結果的損失を含むその他の損失(other loss)を加え,
⒞ 被害を受けた当事者が履行の義務から解放されたことによって免れたコスト
(cost avoided)もしくはその他の免れた損失(loss avoided)を控除した額。
リステイトメント 347 条に基づく期待利益の算定作業は,上の 4 要素を用いて次のように表現することができる 48)。
〔A〕 一般的算定 = 価値の損失 + その他の損失 - 免れたコスト - 免れた損失
この期待利益の賠償額は,まず,契約違反による価値の損失(loss in value)を最も重要な基礎としつつ(価値損失アプローチ),あわせて,反対債務の存否を考慮して算定さ
れることになる 49)。つまり,債権者が,①完全な違反(total breach)に対して,契約を解除して反対給付の提供を拒絶しつつ,損害賠償を求めた場合か,それとも,②部分的な違反(partial breach)に対して,契約を解除せず自らは反対給付を行う用意をもって,損害賠償を求めた場合か,による区別が働いている。
すなわち,上の①は,契約違反が重大(material)であって,債権者が,契約の解除を選択し,以後の履行を拒絶し,完全な違反に基づく損害賠償を求める場合であるが,これは,契約違反による価値の損失のほか,契約解除によって免れた出捐も考慮に入れた計算が必要となる。
他方,②は,債権者が契約を終了させない場合であるが,この場合には,損害賠償は,他方当事者の履行の不首尾によって引き起こされた損失を填補するものである。例えば,請負人が建設工事の仕事を完了したが,その仕事には契約不適合な部分があったという場合には,注文者は部分的違反に対する損害賠償を求める権利を有することになり,注文者は完全な履行を求めつつ部分的違反の損害賠償を請求することができる。これは,部分的な違反によって引き起こされた損失の計算に基づくものである 50)。
完全な契約違反または部分的な契約違反に対する損害賠償の請求は,多様な状況で生じてくるが,ここでは,まず完全な契約違反における損害賠償を中心にして,「損害賠償額算定の一般的要素」をみることにする。
〔2〕完全な契約違反における損害賠償額の算定とそこに働くべき 4 要素
完全な契約違反に基づく損害賠償額の算定においては,上の 4 つの要素が働く。これらは,契約違反が 4 つのかたちで債権者に影響を及ぼすことに着目したものであり,すなわち,「価値の損失」,「その他の損失」,「免れたコスト」,そして「免れた損失」である。前二者は,すでにみた日本法における損害項目と類似の性質をもつものである 51)。なお,学説においては,上記①の完全な契約違反の場合には,算定においてこれら の 4 要素のいずれもが働くが,②の部分的な違反の場合に働くのは,「価値の損失」と
「その他の損失」の 2 要素に限られるとする,一般的な説明がみられる 52)。つまり,①の完全な契約違反の場合において,契約違反が重大であるとして契約の解除がなされると,債権者は自己の履行が何か残っていたとしても,それを行う義務から解放されることになり,この場合にのみ,上の 2 要素に加え,「免れたコスト」と「免れた損失」の 2 要素も働くことになるという 53)。このように峻別しきれるものかについては,なお判然としないところもある。
かねてより,期待利益の算定方法については,上のような一般的な定式が提案されて
きたが,このような定式化は機械的法学(mechanical jurisprudence)54)の影響を映し出すものである。これは,状況を論理的に考える手助け以上の意味があるとまでは言いにくいが,なお二つの側面がある。まずは,事実的な因果関係と法的評価の分析に焦点を合わせる概念的整備を可能にし,損害概念や賠償されるべき損害の範囲論と賠償額算定との関連を明らかにすることになる。また,金銭的評価のテンプレートを提供することができる。以下,これらの 4 要素を検討する。
⑴ 価値の損失
⒜ 価値の損失の意義
まず,契約違反によって,債権者は,契約上予定されていた履行のもたらすべき利益を一定の程度において奪われる。この場合における,債権者が契約に基づいて受領するべきであった履行の価値と債権者が実際に受領した履行の価値の差 55)が「価値の損失」である。
例えば,動産の引渡しがなされないとして,買主が完全な契約違反に基づく損害賠償請求する場合には,単純に当該動産の引渡しという履行の価値が価値の損失となる。これに対し,動産の買主が,引き渡された動産が契約不適合であるとして部分的な契約違反の責任を追及する場合には,買主に引き渡されるべきであった契約に適合した動産の価値と,買主に実際に引き渡された動産の価値の差が価値の損失にあたる 56)。
⒝ 前提となる当事者─具体的当事者か,仮定的人間か
ⅰ︶ ここにおけるxx的な問題は,契約の価値の損失は,「契約違反をされた具体的当事者自身」にとっての,その当事者がおかれた「特定の環境下」での,約束された履行の価値に基づいて,いわば主観的に算定されるべきか,あるいは,「仮定的・合理的人間」にとっての,約束された履行の市場価値に基づいて,いわば客観的に算定されるべきものか,という点である 57)。この点については,かなりの不統一が残されているようにみえる。
設例をあげると,例えば 58),土地所有者が自分の土地の一部を開発業者に売却することを約束し,その開発業者は,2 つの土地を分ける塀を建てることを約束したとする。売主はそのような塀があると自分の残りの土地の市場価値を減じることになることを承知しながらも,その開発に反感を抱きそれを自分の土地から見たくないと考えた。しかし,開発業者は,約束を破り塀を設置しなかった。第三者にそのような塀を設置させると 3,000 ドルかかるが,塀を作ると売主の残りの土地の価値はむしろ 1,000 ドル低下することが見込まれた。つまり,契約違反ではあっても塀がない方がバランスシートとし
てはよい。問題は,このような設例で売主の得るべき賠償額は,当該環境下での履行の価値である 3,000 ドルか,ゼロかである。
このような問題について判例は一貫していない。一方で,裁判所によっては,具体的当事者の事情に即した損害賠償額を認めるものもあり 59),それは,契約法は,契約違反をされた当事者の主観的な観点に基づいて期待利益を算定するべきであるという考え方をとるものである。しかし,より客観的な判断を行う例 60)もみられる。
ⅱ︶ この点について,すでにみたリステイトメント 344 条のコメント b は,「原理的には,当事者の期待利益は,同人に対する契約の実際の価値であり,何らかの,合理的な第三者に対するそれではない。従って,期待利益に基づく損害賠償は,契約違反をされた当事者の状況にとって特有の環境を考慮したものとなる。それには,同人の個人的価値や嗜好,さらにはニーズや機会をも含む。」61)と説明している 62)。ここには,一種の規範的な評価が入り込むように思われる。しかし,これに続けて,「実務では,契約違反をした当事者の期待利益についてより客観的な評価がしばしばなされる。」とし,その理由として,個別の当事者の「特殊な環境から生じる損失」の賠償は,回避可能性
(350 条),予見可能性(351 条),確実性(352 条)などによる制限を受けるから,結局は,
「しばしば市場価格(market price)という客観的な基準によって制限されることになる。」と説明する。特に,個人的価値や嗜好などによって評価された損害は特別損害と見られるのが一般的であろうから,予見可能性による制限を受けることになる。
さらに,さきに見たリステイトメント 347 条は,期待利益の算定方法を規定するが,同条のコメント b も,「原理的には,ここで確定することが必要なのは,これらの履行が契約違反をされた当事者自身にとってもつ価値であり,何らかの仮定の合理的人間にとっての価値あるいはある市場における価値ではない。」63)とするが,やはり,損害レベルで予見可能性等の制限に服することを指摘しているのである。
ⅲ︶ 学説の中には,当該当事者の具体的な事情の下での評価を支持するものが多い。例えば,期待利益の算定においては,当該債権者自身の期待を金額として表現することが求められるのであるから,価値の損失は,当該債権者の損失であり,何らかの仮定的な合理的人間の損失のことではないとし,価値の損失は,債権者のおかれた状況によって決まってくるとする見解がある 64)。しかし,債権者の期待していたところが個人的な満足をえることであれば,その金銭的評価はきわめて困難となる 65)。
ⅳ︶ そのうえで,この具体的・主観的な算定の考え方は,次のような,市場価格と代替的履行の費用の選択にも結びついていることに注意が必要である(これは,履行の価値の損失に代わる算定方法を規定するリステイトメント 348 条においてその 2 項の基礎をもなして
いる)。
⒞ 差額の評価方法─市場価値と代替的履行費用
債権者が契約に基づいて受領するべきであった履行の価値と債権者が実際に受領した履行の価値の差としての価値の損失の算定方法には,多様なものがみられるが 66),大別すると,履行の市場価値を基準とする方法と代替的履行のコストを基準とする方法とがある 67)この両者の算定方法において算定額に差が生じることがある。まずは,両者の基準について確認し,後者については,それが特に問題となる(算定方法によって額に差が生じやすい)建築請負人の履行が不完全であった場合に関して取り上げることにする 68)。
ⅰ︶ 価値の損失を評価するうえでの基礎となる中心的な基準は,履行の価値(value)であり,これは,一般的には,市場価値(market value)である。これは,上に述べた理由により,履行の対象が当該当事者にとって有したであろう特別の価値よりも重視されることが多い 69)。
ここでは,まず,契約法における「市場」の意義自体が問題となる。この場合における市場とは,代替的取引が行われうる場とされる 70)。つまり,契約違反をされた当事者が代替品を得ることができる場を指す。例えば,売主に契約違反があれば,買主は代りの物の売主を見つけるための市場に目を向けるであろうし,その市場価格が履行の価値となる。また,同じことは買主に契約違反があった場合についても言うことができる。その場合に,売主は代わりの買主を見つけるための市場に目を向けるであろうし,その場合の市場価格が基準となる。
しかし,契約の目的物が実際に公の市場で取引されていない場合(例えば,公開されていない株式,特殊な動産,特殊な専門的サービスなどの場合)には,その市場価値の判定は少なからずフィクションとなる。裁判例には,フィクションを用いることを嫌い,市場が存しない場合に,代替的な価値を論じるものもある 71)。他方,原則に反して,市場価格が目的物が債権者のものとで有するべき特別な価値を完全には賠償しない場合には,当事者にとっての価値が基準として用いられることもある 72)。いずれの基準を用いた場合であっても,損害賠償額の算定においては証拠の評価の問題が重要な意味を持つことになる 73)。
市場価格による算定に一定のメリットがあることも確かである。すなわち,契約の両当事者にとって,契約責任を予測しやすいものであり,損害額の証明の負担も大きくないといえよう 74)。さらに,後に述べる「回避可能性」による損害額の控除 75)においては,市場価格の概念がきわめて大きな役割を果たしているのである。
ⅱ︶ 損害賠償額の算定において,市場価格によるべきか代替的履行の費用によるべきかについては,判例にも不統一がみられる。実際に問題になるのは,市場価格の喪失が修繕費用よりも小さい場合である。
この点については,しばしば注目される 2 判決が対比される。ひとつは,Groves v. Xxxx Xxxxxx Co.事件 76)である。被告は,原告の土地を砂利を採取する目的で賃借し,賃貸借契約の中で「土地を uniform grade で,現状と実質的に同じ状態に復せしめる。」と約束していた 77)。リースが終わり被告は土地を返還したが,それを修復するという約束は果たさなかった。修復の費用は 6 万ドル以上かかるものと考えられたが,修復しても土地の価値の上昇は 1 万 2,000 ドルを僅かに超える程度にとどまるものと考えられた 78)。このケースは,期待利益の損害賠償は修復に実際に要した費用によって算定されるべきか,あるいはその修復による土地の価値の上昇分によって算定されるべきかという問題を提起した。
ミネソタ州最高裁判所の多数意見は,修復の費用約 6 万ドルを賠償させるべきであるとした。契約では,被告は,修復のために土地から砂利を除去することが求められ,それが出捐全体の一部をなしていることは明らかであるとした 79)(反対意見は,原告は,契約違反によって土地の価値について 1 万 2,000 ドルの損害をこうむったにとどまるから, 1 万 2,000 ドルの賠償義務を負うべきであるとした)。
これに対し,Peevyhouse v. Garland Coal & Mining Co. 事件 80)では,反対の判断が
なされた。この事件で,被告は,原告の農地を借りて石炭の露天掘りを行ったが,その終了後にその土地を埋め戻して原状回復を行うことを原告との契約において約束していた。被告がこの埋戻しを行わなかったため,原告が責任を追及した。埋め戻すには 2 万 9,000 ドルかかるが,埋め戻さなくても農地の価値は 300 ドル低下するにすぎないとされた。
オクラホマ州最高裁判所の多数意見は, 2 つの金額の差がきわめて大きいことに着目し,原状回復費用を基準とした損害賠償額の算定を否定し,300 ドルの賠償を命じた。
これらの対立する両判決をどのように理解するかは,学説の議論を呼んだ。学説には, Peevyhouse v. Garland Coal & Mining Co. 事件判決を批判するものも少なくない 81)。注目するべきは,契約上の倫理的な義務,契約違反の抑止,不当利得の防止という観点からこのような算定方法の問題点が議論されていることである 82)。
⒟ 価値の損失の代替的な算定方法
上記のような,価値の損失の金銭的評価に関する 2 方法については,リステイトメントにも取り込まれている。すなわち,リステイトメント 347 条のコメント b が,「損失
の見積もりを損害賠償をえる十分な確実性をもって行うために,建設工事の請負契約において違反をされた当事者には,その価値の損失を算定するためにいくつかの代替的基礎の中での選択肢が与えられている。そのなかで,最も重要なものは 348 条に規定されている。」としており,リステイトメント 348 条 2 項は,建設工事の請負契約における代替的な算定方法として,「契約違反によって工事に瑕疵が生じ,または未完成となったが,被害を受けた当事者にとっての価値の損失が十分な確実性をもって立証されない場合に,次のことがらを基礎とした損害賠償を請求することができる。」として,「⒜違反によって生じた財産の市場価値の低下,または,⒝費用がその者にとっての価値の減少見込額と明らかに不均衡にならないときは,履行を完成し,または,瑕疵を治癒するための相当の費用」をあげる。この算定方法の分裂は,特に注文者の救済において問題となるため,詳しくは後述する 83)。
⑵ その他の損失
次に,契約違反によって,価値の損失以外の「その他の損失」が算定に取り込まれる場合もある。その中心は,付随的損害の賠償(incidental damages)および結果的損害の賠償(consequential damages)が妥当とされる場合である 84)。そして,ハドレー・ルールにおける特別損害として賠償の対象となる損害は,リステイトメント 347 条の枠組みにおいては,同条 b 項にいう「その他の損失」として算定される場合が多い(予見不可能性等の制限に服しつつ,賠償の対象となる 85))。
付随的損害には,契約違反後に損失回避のための合理的な努力が行われた場合における付加的な支出が含まれる。これはその努力が不首尾に終わったとしても付随的損害とされる 86)。例えば,債権者が約束に適合した履行を得ていない場合において,その代替を得ようとする合理的な努力を行い仲介人に報酬を支払ったが,それが得られなかったときでも,その仲介人の出捐は賠償されるべき損害に含まれる 87)。
結果的損害としては,例えば,債権者に提供されたサービスに瑕疵があり債権者の身体・財産に損害を生ぜしめたというような,契約違反から生じた身体または財産上の損失をあげることができる 88)。
なお,この場合の特別損害の算定においては,それが契約に基づく履行の価値の損失にあたるものではないから,客観的な市場価値による算定ではなく,個別の契約ごとに多様な要素が算定の基礎とされることが注目される。特に,失われた収益(lost profit)が重要な意味を持つことになる 89)。同時に,特別損害の算定については,算定ルールとして不明確さが残るという指摘もあるところである 90)。
⑶ 免れたコスト
完全な契約違反にあたる場合において,債権者が契約を解除し,損害賠償を請求するときは,その債権者は,契約を存続させた場合に負担したはずのさらなる出捐を免れることになる。これが「免れたコスト」であり,損害額から控除するべきことになる 91)。例えば,債権者たる請負人が,注文者の契約違反を理由として建設請負契約を解消し後の作業を停止した場合には,請負人はそれ以上の支出を免れるので,これを損害額から控除する。
免れたコストが特に注目されるのは,請負契約のような役務提供型の契約の場合であるから,これも後述する 92)。
⑷ 免れた損失
契約違反をされた当事者が,契約を解消したうえで完全な契約違反に基づく損害賠償を請求する場合には,その当事者は,その契約の履行に向けられていたはずの物・サービス・資金を新たな取引に投入することによって一定の損失を回避することができる立場に立つ。このような代替的措置(代替的取引,反対給付の停止)によって回避された損失が「免れた損失」である。
例えば,注文者の契約違反において,請負人が建設請負契約を終了させ仕事を停止した後に,残りの資材の一部を他の請負契約に振り向けるという場合における,それによって節約できた分である。あるいは,被用者が雇用者から不当に解雇された後に,他の職をえた場合には,その新たな雇用関係から得た収入または得るであろう収入は,免れた損失と評価される 93)。
契約違反をされた当事者が実際に出捐を回避しえた場合には,たとえ他の者にはそのような出捐回避ができなかったであろうというときでも,その回避分は免れた損失として扱われる。すなわち,契約違反をされた当事者が,残った資材の活用についてたまたまきわめて有利な契約を結び,それによって通常以上の出捐回避をした場合にも,その実際の有利な契約に基づいて免れた損失が評価される 94)。
さらに,契約違反の後に,実行困難(impracticability)またはフラストレーションに基づいて当事者が免責されるような事情が生じた場合には,損害賠償は,その事情の前に認められた損失に応じたものに限定される 95)。他方,不履行とは関係のない事情に由来する出捐回避については,それが損害賠償額に影響を及ぼすことはない 96)。
なお,代替的措置による損害回避の「可能性」があったという場合にも,これを「免
れた損失」と評価することができるかは,重要な問題となる 97)。
以上の整理をもとに,次に,契約違反において救済するべき当事者の相違と契約類型の相違を念頭において,上記の 4 要素の扱いを検討しよう。すなわち,多様な契約類型のなかから,物やサービスの受給者の契約違反において供給者が損害賠償を請求するケースと,供給者の契約違反において受給者が損害賠償を請求するケースとを大別し
(例えば,UCC の算定規定もこの区別に立っている 98)),それぞれについて主として売買契約と請負契約を取り上げて考察する。
3 .物・サービスの供給者の救済における損害賠償額の算定
〔1〕物・サービスの供給者からの損害賠償請求
まず,上記の一般論における諸要素を,物・サービスの受給者(買主,注文者など)が対価の支払いを拒んだため,供給者(売主,請負人など)が契約の完全な違反に基づく損害賠償を請求する場合についてみることにする。そこで「価値の損失」として算定されるのは,原則として,契約違反によって供給者が受領することができなかった対価の額そのものである 99)。
しかし,「免れたコスト」と「免れた損失」の算定については,やや区別して考えるべき場合がある 100)。つまり,①供給者が完全に履行していた場合には,免れたコストと免れた損失の算定は問題にならない(単純に上の額のみが賠償されるべき額となる。遅延利息が付される可能性はある)。他方,②供給者が完全には履行を終えていなかった場合には,免れたコストと免れた損失の算定においては以下のようないくつかの問題が生じる。
〔2〕具体的算定方法
⑴ 売主の救済における損害賠償額の算定
⒜ 価値の損失
買主が支払いにつき不履行に陥った場合に,売主の価値の損失として算定されるのは,上に述べたように,原則として,契約上売主が受領するべきであった対価の額そのものである。ただ,UCC は,いくつかの問題について,以下のようなより詳細な規律をおいている。
ⅰ︶ 買主が契約違反をした場合の売主の価値の損失は,UCC2-708 条 1 項の規律によれば,「市場価格と未払いの契約価格の差額」(未払いの契約価格から再売却した場合の市場価格を控除した額)である 101)。売主による再売却を考慮した算定である。もっとも,このような算定によって常に売主を履行が行われたのと同様の状態におきうるというわけではない。例えば,ディーラーが車を市場価格で売る契約をしたが,買主に契約違反があったという場合には,市場価格と契約価格との差額をもとに算定する以上損害額は少額なものにとどまる場合が多い。しかし,通常はこれに加え,契約価格とxxxxxの仕入額との差額に基づく収益(profit)の損失も生じている。
UCC は,このような場合についてさらに定めをおいている。すなわち,まず,売主の救済一般を規定する UCC2-703 条が,「買主が,物品の受領を違法に拒絶するかまたは取り消すか,あるいは引渡時またはその前になすべき弁済をしないか,あるいは一部または全部の履行拒絶をするときは,直接影響を受ける物品に関して,また,違反が契約の全体にかかわるものならば引き渡されていない残り全体に関して,損害をこうむった売主は,次のことを行うことができる。」としたうえで,まず,同条 d 項が「以下に規定するように,再売却して損害賠償を回復すること(2-706 条)」を規定し,次に,同条 e 項が「受領しないことに対する損害賠償(2-708 条)または,要件をみたす場合には価格に対する損害賠償(2-709 条)を請求すること」を認めている。
ⅱ︶ これを受けて,売主からの損害賠償請求における「基準時・基準地」の問題 102)について規定がおかれている。買主が支払いを拒絶した場合には,売主は,目的物を第三者に再売却する必要に迫られ,これにより控除されるべき金額に相違を生じるため,売主の救済においても基準時・基準地の問題が生じるのである。この基準時・基準地について,UCC2-708 条 1 項は,「提供がなされるべきであった時と場所」103)としている。契約によって保護された期待利益だからである。ただ,このルールと,履行期前の履行拒絶(anticipatory repudiation)の法理および回避可能性の法理との関係は,やや混乱した問題を生じさせる。買主が支払いを拒む場合における損害額算定の基準時・基準地はxxxの問題について,UCC はつじつまが合わず一貫していないところがある 104),と評されてきた。
この点については,まず,UCC1-305 条の規定するように,「契約違反をされた当事者は,他方当事者が完全に履行したのと同様の状態を得ることができ」105)る基準時・基準地を探すべきことになる。また,同時に,売主については,商業的に合理的な行為
(commercially reasonable conduct)を求める基本的考え方を考慮すべきことになる。基準時の問題が,「適時における損害回避行為」の有無の判断に解消される可能性があるか
らである。そこで,例えば 106),一方で,目的物が売主が通常取り扱っている種類のものであり,それについて市場が存在する場合(例えば穀物)には,売主が対応をとらずに弁済期を待ち,その「弁済期」における,未払いの契約価格と市場価格の差額を持って損害賠償額を算定することを求めるのも商業的に合理的であろう(もちろん,穀物の価格が上昇するという予測が正しかった場合にのみ売主に損害は生じる)。他方で,「買主の履行拒絶を知った時点」で,売主は,その穀物を売却する先渡契約を結び再売却価格と未払いの契約価格との差額を,契約違反をした当事者に請求することが合理的であるとする主張もある。
ⅲ︶ 場合によっては,買主の契約違反は,未払いではなく,目的物を特定するための協力義務に違反し,売主に追加的な出捐をさせるという形態の場合もありうる 107)。 UCC は契約の解除を認め 108),あるいは売主自身による特定 109)のような合理的な方法での履行を認めている。他方で,売主が,買主による特定を商業上合理的な期間待ち,それによる損失をこうむったという場合については,直接は何も規定していない。買主の違反は,付随的義務の違反であり,それに対する救済の権利は,UCC によって排除されたのではなく 110),売主はその損失を付随的損害または結果的損害として回復することができる。
そこで,2-708 条 1 項の場合には,以下のような定式となる。
〔B〕 売主の損害額 = 未払契約価格 - 市場価格 + 付随的損害額 - 免れた出捐
ⅳ︶ さらに,代替的な算定方法として,UCC2-708 条 2 項は,「もし前項に定める損害賠償額の算定が,履行されていたならば得られたものと同程度の立場に売主をおくために不適切である場合には,損害賠償額の算定は,買主が完全に履行していたならば売主が取得したであろうと思われる収益に,本編に定める付随的損害賠償額(2-710 条),および合理的に負担された適正な費用と認められる額を加算し,再売却の収益または売上金を控除した額とする」111)と規定する。つまり,次のようになる。
〔C〕 売主の損害額 = 失われた収益 + 付随的損害額 + コスト - 再売却の売上額
上記のような失われた利益の賠償は,売主が取引の対象となった種類の物品を無制限に供給しうるケースであれば適切であろう(取引高減少〔lost volume〕112)となるからである)。なお,売主の失われた利益は,契約価格から目的物の多様なコストを控除することによって計算される。
⒝ 免れた損失
売買契約の場合にも,すでにみた一般的フォーミュラがあてはまるが,そのうえでなお,売主の救済における,免れた損失による減額については,以下のような代替的取引の問題(買主の救済における代物調達〔cover〕の問題 113)に対応する)の規律が必要となる。
ⅰ︶ リステイトメントの規律 すなわち,買主の契約違反において,契約違反をされた債権者たる売主が,目的物を買主に引き渡す前であったため,契約の目的物であった不代替的な物を第 2 の買主に売却したという場合には,この第 2 の売買は第 1 の売買の代替的取引であり,損害賠償額の計算において控除されるべきものであるから 114),第 2 の売却の対価は,免れた損失として扱われる。リステイトメント 347 条のコメント e がこれを明言する 115)。つまり,契約価格から再売却価格を控除することとなる。そこで,この場合については,より一般的な表現として次のように言うことができる。
〔D〕 売主の損害額 = 契約価格 - 代替的取引の価格 + その他の損失
ⅱ︶ UCC の規律 UCC は,さきに述べた 2-703 条 d 項を受けた 2-706 条において,これを規定している 116)。つまり,同条 1 項は,ある売買を代替的取引としての意味における再売却として扱い,再売却価格と契約価格との差額を加算し,節約できた経費を控除するためには,それが「xxxxに即し」,「商業的に合理的な形態で」
(commercially reasonable manner)117)なされたものであることを求める。それをみたす場合には,次のように定式化できる。
〔E〕 売主の損害額 = 契約価格 - 再売却価格 + 付随的損害 - 免れた出捐
ある売買がそのようなものであるならば,後から考えれば売主はもっと良い取引ができたはずであるという場合でもかまわない。例えば,売主が,買主の拒絶を予想して早期に再売却したとしても,売主は,後で再売却していたらもっと高く売れたはずだから,損害はもっと小さかったはずであるという契約違反者からの反論は免れる。つまり,売主は,契約価格と代替的取引の価格との差額に基づいて実際の損失を回復することができる 118)。
もっとも,再売却は,それが義務付けられるものではない 119)。また,第 2 の取引が代替的取引とみられない場合には,損害賠償額はこの取引とは無関係に算定されることは当然である。そもそも,再売却の価格の方が契約価格よりも高くなってしまえば,損害は生じなかったことになる。
このようにして,供給者が代替的な取引をアレンジすることにより損失を回避した範
囲で,損害額は減額される(このことは,通常は好まない取引によって,合理的に予想されるよりも大きな損失を回避することに成功したとしても,あてはまる 120))。
なお,売主が「回避できたであろう」と合理的に期待することができたが,実際には回避しなかったという損失について控除を行うかは,別の問題(回避可能性の問題)であり,後述する 121)。
⑵ 請負人の救済における損害賠償額の算定
⒜ 価値の損失
建設請負契約の請負人は,動産の売主と類似する立場に立つ場合にもあるが,請負契約自体が新たな富を創出する契約でありながら,その履行は他者の土地に固定されたものであり,再売買や動産占有回復訴訟(replevin)の対象とはならないという特性もある。
すでに示した設例(ア)の場合において,注文者がその報酬の支払いを拒絶したため,この注文者の契約違反に対し,請負人が契約を解除したとする。
この場合の価値の損失としては,まず第 1 は,契約価格に注目する算定方法がある 122)。ただ,その額は請負人の履行状態によって相違があり,例えば,請負人が仕事を完了していない場合には,10 万ドルのうちの未払いの契約価格と履行完了に要するであろう費用の差額によって収益が算定される 123)。他方,請負人が仕事に着手しなかった場合には,損害賠償額は,遅滞期間の設備の賃貸価格 124),間接費用(overhead)の増加分 125),および人件費が高騰した場合にはその費用である。結果的損害の賠償もありうる 126)。
他方,第 2 の算定方法として,履行済みの仕事に要した費用から受領された出来高部分払い(progress payment)を控除することによって算定される収益を損害額とするものもある 127)。
さらに,第 3 の算定方法として,仕事完成の費用に対する既履行の仕事の費用の割合に即した契約価格に,残余の仕事およびそれによる収益を加算することによって算定することもある 128)。
これらのどの定式を使っても同じ結論になるケースも多いが,もともと請負人が履行すると損をするような契約(losing contract)では,結論が変わってくる 129)。例えば,契約価格は 1 万ドルであり,既履行部分に 5,000 ドルかかり,未完成部分の仕事を完成するのにあと 1 万ドルかかるというケースでは,請負人の得る賠償額は,第 1 の定式ではゼロ,第 2 の定式では 5,000 ドル,第 3 の定式では 3,333.33 ドルとなる。しかし,このような契約では,損害賠償を請求するよりも原状回復を請求した方が額が大きくなるで
あろう 130)。
⒝ 免れたコスト
他方,請負人の免れたコストまたは免れた損失の算定については,以下のような問題がある。
ⅰ︶ 請負人が履行の準備を行う前または履行自体を行う前に注文者が報酬の支払いを拒絶した場合には,免れたコストは,建物を建てなかったことによって支出を免れた額である。すでに示した設例(ア)で,報酬が全く支払われず,かつ,請負人が,建物を建てるのに 9 万ドルを要するであろうということを証明することができた場合には,免れたコストは 9 万ドルであり,請負人の価値の損失 10 万ドルと免れたコスト 9 万ドルの差額は 1 万ドルである。免れた損失もその他の損失もなければ,請負人が損害賠償請求することができるのは,この額である。
これに対し,この設例で,注文者が報酬支払い拒む前に,請負人がすでに 3 万 5,000ドルを支出し,そのうち 5,000 ドルは資材をほかの仕事に振り向けることによって後から回収できたとしよう。請負人は,その仕事を完成するためにはあと 5 万 5,000 ドルを要したであろうことを証明できるとする。請負人の価値の損失 10 万ドルと請負人の免れたコスト 5 万 5,000 ドルおよび免れた損失 5,000 ドルの差額は 4 万ドルである 131)。ほかには免れた損失はないとすれば,請負人が損害賠償請求できるのは,この額である 132)。
ⅱ︶ もっとも,実務では,特に請負人の免れたコストについては,代替的な算定方法が使用いられることがある。
すなわち,請負人が支払った,契約に対する信頼コスト(cost of reliance)の額を計算し,完全な履行に要すると見積もられる費用からこの額を控除することがある。つまり,免れたコストは,完全な履行のコスト 9 万ドルから信頼コスト 3 万 5,000 ドルを控除した 5 万 5,000 ドルとなる。これを,リステイトメント 347 条の一般的な適式に挿入すると,
〔F〕 請負人の損害額 =価値の損失 + その他の損失 -(完全な履行に要するコスト
- xxxxx)- 免れた損失
ということになる。
また,価値の損失から完全な履行に要するコスト 133)を控除したものは(見積もられていた)収益であるから,次のように表すこともできる 134)。
〔G〕 請負人の損害額 =(見積もられていた)収益 + 信頼コスト + その他の損失 -免れた損失
上記の設例では,請負人の損害は, 3 万 5,000 ドルの信頼コストマイナス 5,000 ドル
(免れた損失)プラス 1 万ドルの収益,つまり 4 万ドルとなる(その他には,免れた損失およびその他の損失がないものとする 135))。
⒞ 免れた損失
上記の設例では,請負人は,他の仕事のために資材を利用することにより 5,000 ドルの出捐を免れることになる。ただ,問題もある。すなわち,注文者の契約違反の後に,請負人が余った資材などを類似のほかの契約に転用すると,常にそのような損失回避ができるのか,新しい契約から得られるものは,常に最初の契約のリソースを供給者が再配分したことによって生じたものであるとして,免れた損失と考えるべきか,である。これは事例ごとの評価によるほかない(フルタイムの雇用契約を結んでいた被用者が,不当に解雇された後でほかの仕事を見つけたような場合も同様)。
請負人が両方の仕事を同時にするわけにはいかない場合には,請負人が第 2 の仕事から得たあるいは得るであろう額は,あたかも請負人が最初の契約からリソースを再配分したことによって生じたかのように認識されるべきであり,この額はもっぱら免れた損失として扱われる。そして,第 2 の契約から得る分は最初の契約に関する損害賠償額の計算から控除されることになる。たとえ,第 1 の仕事と第 2 の仕事とが異なる種類のものであるとしても,第 1 の仕事に対する代替と考えた先例もある 136)。
⑶ 取引高減少の評価
なお,すでに見たように,買主や注文者の契約違反に対し,売主や請負人が代替的な取引を行った場合には,注文者や買主から,そのような代替的取引によって損害の発生が回避されたという反論がなされる可能性があるが,これに対し,請負人や売主からの再反論として,「取引高減少」(lost volume)が主張される場合がある 137)。
⒜ 取引高減少の肯定例
取引高減少の主張は,売主や請負人の供給能力が買主や注文者に対する供給義務を上回っていたと判断されるときに生じてくる。
ⅰ︶ 例えば,上にあげた設例において,請負人が履行の準備も履行も行っていない段階で注文者が自己の債務の履行を拒絶したとしよう。請負人はすばやく別の注文者との間で,同様の建物を 10 万ドルで建てる契約を結び,収益が 8,000 ドルであったとする。
そうすると,第 2 の契約が第 1 の契約の代替的取引となり,第 2 の契約の 8,000 ドルの利益は免れた損失となって請負人の 1 万ドルの損害賠償請求から控除され,2,000 ドルのみが賠償されるのか 138)。
請負人は,最初の契約が履行されたならば得たであろう状態を賠償請求するであろう。そして,請負人は両方の契約を結ぶことができ,また結んだであろうから,最初の契約が履行されたならば得たであろう状態とは,両契約が結ばれた状態を指すものと考えられる。つまり,第 2 の契約は第 1 の契約の代替ではなく,ここでは,請負人には契約違反の効果として「取引高減少」が生じているのである 139)。
そして,同様のことは,動産の売主についてもあてはまる。例えば,売主が手元にある在庫から売るのではなく,まだ売るべき品物を他者に対して注文していないか,または注文をキャンセルしていない場合には,売主は,契約違反によって取引高減少が生じ,契約違反がなかったならば両方の取引を行うことができたはずであるとして賠償を求めるであろう。つまり,売主が転売のために商品を別途入手しそれを別の買主に売った場合であっても,売主は当初の契約違反の結果として取引高減少を主張し,その賠償を求めることができ,第 2 の売買に基づいて減額されることはない。判例にも,売上高の減少をこうむった供給者について,第 2 の取引の結果による減額を行うことなく,第 1 の契約の違反に基づく損害の賠償を認めているものが多いのである 140)。
ⅱ︶ つまり,上の請負の設例において,請負人は,両方の契約を結んでビジネスを拡大することができたはずである。そうすれば,あわせて 1 万 8,000 ドルの利得をあげることができたはずである。しかし,契約違反のせいで請負人は一つの契約(第 2 の契約)のみを結ぶことができ,そこから 8,000 ドルの利益をえた。この場合に,請負人は第 1の契約の違反について 1 万ドルの賠償を得ることができ,第 2 の契約に基づく利得は控除されないはずである 141)。
同様の理由により,上の動産売買の設例において,売主は第 2 の取引から得られたであろう利得の賠償を求めることができる。これは,第 2 の契約から実際にどのような利得が得られたかにかかわりないことになる。
⒝ 取引高減少の否定例
他方,取引高減少の判断が否定される場合もありうる。例えば,供給者は一般に自己の企業を適正な取引高で経営し,いったんこの取引高を達成した以後は追加的な契約を引き受けることはないという場合もありうる。もし,この理由により供給者が契約違反がなかったならば第 2 の契約を締結することはなかったであろうという場合には,第 2の契約は第 1 の契約の代替的取引とみなされ,第 2 の契約の利益は免れた損失とみなさ
れて,損害賠償額算定において控除されるのである 142)。
(次号に続く)
注
1 ) 民法(債権法)改正検討委員会においては,この点について問題提起がみられた。民法(債権法)改正検討委員会編『詳解債権法改正の基本指針Ⅱ』(商事法務,2009 年)268 頁以下。
2 ) 最判昭 28・11・20 民集 7 巻 11 号 1229 頁,xxxx『証明責任の研究』〔新版〕(有斐閣,1986年)150 頁。
3 ) 損害を,不履行によって債権者にもたらされる個々の不利益等の総体ととらえる立場であっても,具体的にどのようにそれを認識するかは,さらに問題となる。それを具体的に捉えることができなければ,訴訟における攻撃防御の対象がつかみきれず,また,損害額の「算定」にも困難がともなう。そこで,債務不履行から生ずる個別の具体的な不利益を「資料」として取り上げることにより抽象的な損害を具体的に認識することが行われる。これらの個々の不利益を「損害項目」とする見解がある(xxxx『債権総論』〔増補版〕(悠々社,1992 年)172 頁)。
損害項目としては,例えば,売買契約において売主の目的物引渡義務の不履行があった場合に,その買主の損害項目としては,①目的物の客観的価値(価格)相当額(の損失),②同種の物を他から購入するために要した余分の費用,③他から代替物を購入するまで,同種のものを賃借した賃料,④予定していた転売ができなくなったことによる得べかりし利益,⑤転売契約を解除されたことによる違約金,賠償金,⑥本来の目的物を利用すればえられたであろう収益などが考えられる(xx・171 頁の例示)。
この損害項目の概念には,後述するアメリカ法において用いられている算定要素との対応も見出しうる。本稿Ⅱ,2 参照。
4 ) xxxx『損害賠償法の理論』(東京大学出版会,1971 年)140 頁,xxxx『民法概論 3 債権総論』(良書普及会,1992 年)80 頁以下,xxxx『口述債権総論』〔第 3 版〕(成文堂,1993 年) 201 頁以下,xxxx『債権総論』(有斐閣,2002 年)167 頁,xx・前掲注(3)180 頁以下など参照。
5 ) xx・前掲注(4)489 頁。そのように考えれば,損害の事実に対する金銭的評価は要件事実ではないことになる。つまり,損害の金銭的評価は賠償範囲の決定の問題とは区別され,一種の「創造的なもの」となるから,事実の存否について心証を得るかどうかという問題ではないことになる。これにより,損害賠償訴訟は非訟的性格をもつものとなる(また,損害賠償額算定の基準時の問題も,実体法的な性格を持つ問題ではなく,やはり裁判官の金銭的評価の問題として位置付けられることになる)。しかし,例えば,金銭的評価を裁判官のxxな裁量とすることは,弁論主義からみて疑問であり,また,裁判官の負担が過大になることにより安易な賠償額の認定につながるとの,法政策的観点からの批判(xxxx『債権総論』〔第 3 版〕(成文堂,2005 年)105 頁)もみられるところである。
6 ) xx・前掲注(4)492 頁。
7 ) xxxx編『注釈民法(10)』(有斐閣,1987 年)629 頁〔xxxxx〕,xx・前掲注(3)184 頁。
8 ) 例えば,xxxx『債権総論』(弘文堂,1994 年)102 頁,xxxx編『新版注釈民法(10)Ⅱ』
(有斐閣,2011 年)416 頁以下〔xxxx〕,xxxx『債権総論』(有斐閣,2002 年)187 頁,xxxx『債権総論』(信山社,2005 年)269 頁参照。
9 ) 状況については,淡路・前掲注(8)187 頁。
10) xx・前掲注(4)263 頁以下は,「全額評価の原則」と呼ぶ。賠償範囲に関する立法政策は区々ではあるが,金銭的評価の原則としてはどの法系でも共通となっていると指摘する(267 頁)。
11) 例えば,xx・前掲注(4)263 頁。xx・前掲注(3)201 頁も参照。
12) 個別事例における判例の傾向については,しばしば指摘がある。例えば,xx・前掲注(8)
100 頁以下,淡路・前掲注(8)185 頁以下参照。
13) 大判大 7 ・11・14 民録 24 輯 2169 頁。
14) 最判平 21・ 1 ・19 民集 63 巻 1 号 97 頁。
15) xx・前掲注(7)570 頁,高橋眞『損害概念論序説』(有斐閣,2005 年)153 頁,xx・前掲注(8)
315 頁。
16) 学説の状況について,xx・前掲注(7)頁。
17) xxxxx「損害賠償法における理論と判例」『xxxxx先生還暦記念民法学の基礎的課題上』(有斐閣,1968 年)129 頁以下。
18) xx・前掲注(8)101 頁。
19) 民事訴訟法 248 条は,損害が生じたことは認められるが,損害の性質xxx額を立証することがきわめて困難であるという例外的な場合には,裁判所は,口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づいて,「相当な損害額」を認定することができるものとしている。債務不履行責任の損害賠償における,「損害が生じたこと」の判断,「損害の性質xxx額を立証することがきわめて困難であるとき」の困難性の判断にとっては,本来損害賠償額の算定がどのような要素をどのように計算してなされるべきかが明らかであることがその前提となるはずである。損害額がはっきりしなくても損害の発生を認識することはできるという指摘も存在するが,不法行為責任のケースはともかく,契約責任のケースにおいてはこれはあるべき姿ではない。民事訴訟法 248 条については,その性質論が争われてきたが,本来の算定方法に関する実体法上の議論がつめきれていなかったと言わざるを得ない。
なお,xxxx「民事訴訟法第 248 条に関する実体法学的考察」『現代企業法学の研究』(信山社,2001 年)455 頁も参照。
20) 民法(債権法)改正検討委員会・前掲注(1)270 頁。
21) 民法 416 条との対比におけるハドレー・ルールの発展については,xxx「損害賠償法における『予見可能性』の基礎付け」中央ロー・ジャーナル 9 巻 3 号 49 頁(2012 年)参照。
22) Xxxxxx X. Xxxxxxx, Calamari and Xxxxxxx on Contracts 489 (6th ed. 2009).
23) Great Atlantic & Pac. Tea v. Xxxxxxxx, X. & S. F. Ry., 333 F.2d 705 (7th Cir. 1964).
24) Xxxxx X. Xxxx and Xxx X. Bushaw, Contracts 799 (2012).
25) Xxx Xxxxxx and Xxxxxxx Xxxxxx, Reliance Interest in Contract Damages (Parts I and II), 46 Yale L. J. 52, 373 (1936).部分訳として,フラー = パーデュー(xxxxx)「契約上の損害賠償における信頼利益」xxxx・X・xxxx = xxxxx『現代アメリカ契約法』(弘文堂,2000 年)139 頁以下参照。
26) 例えば,Xxxxxx Xxxxxxxx, The Performance Interest in Contract Damages, 111 L.Q. Rev. 628 (1995); Xxxxx X. Xxxxxx, The Net Expectation Interest in Contract Damages, 48 Xxxxx X.X. 1137 (1999); Xxxxxxx Xxxxxxxx, Against Xxxxxx and Perdue, 67 U. Chi. L. Rev. 99 (2000) ; Xxxxxxxxxxx X. Xxxxx, Reconsiderating the Reliance Interest, 44 St. Louis U.L.J. 1361 (2000). W. Xxxxx Xxxxxxx, Why Expectation Damages for Breach of Contract Must Be the Norm: A Refutation of the Fuller and Perdue “Three Interests” Thesis, 81 Neb. L.Rev. 839 (2003).特に,Barnes の批判によれば,損害賠償額の算定が全面的に利益分析に依拠しているわけではないという。
27) 例えば,xxx『契約の再生』(弘文堂,1990 年)124 頁以下,xxxx『契約法・医事法の関係的展開』(有斐閣,2003 年)70 頁以下,xxxx『アメリカ契約法』〔第 2 版〕(弘文堂,2008 年) 63 頁以下など参照。
28) もっとも,原状回復利益には,契約違反をした当事者による収益も含まれるから,亜種とは言い切れない面もある。Perillo, supra note 22, at 490.
29) 期待利益は,正確には「得べかりし収益」(gains prevented)と同じ概念ではない。後者は「機会コスト」を含まない。
30) 11 Xxxxxx X. Xxxxxx, Xxxxxx on Contracts §55.3 (Interim ed. 1993); Xxxxxxx X. Load, Williston on
Contracts §§64:1–64:2(4th ed. 1990); E. Xxxxx Xxxxxxxxxx, Contracts §12.8 at 757 (4th ed. 2004); Xxxxx X. Xxxxxxx, Contracts 17 (2010).これを明言する判例は多い。Xxxxxxx v. XxGee, 84 X.X. 114, 146 Atl. 641 (1929).例えば,損害賠償の目的は,「原告を,契約が履行されたならば同人が得
たであろう状態におくことにある」(Xxxxxxxx v. X’Xxxxxx, 296 N.E.2d 183, 186 (Mass. 1973))とする表現がみられる。さらに UCC 1-305 条(救済方法の弾力的な運用)(a) 項も,「[UCC]にさだめる救済方法は,相手方が完全に履行していたなら契約違反をされた当事者がおかれたであろうと同様の良い状態におかれるように弾力的に運営されなければならない。」と表現する。
31) ただ,期待利益による算定については批判的分析もある。Xxxxxx X. Scott & Xxxxxx X. Triantis, Embedded. Options and the Case Against Compensation in Contract Law, 104 Colum. L.Rev. 1428 (2004); Xxxxxx X. Xxxxxxxxx and Xxxxx X. XxXxxxxxx, Expectation Damages and the Theory of Overreliance, 54 Hastings X.X. 1335 (2003); Xxxxxxx X. Xxxxx and Xxxxxx X. Xxxxx, “Measuring Sellers’ Damages: The LostProfits Puzzle,” 31 Xxxx. L.Rev. 323 (1979); Xxxxxx Xxxxxx and Xxxxxx Xxxx Xxxxxxxxx, Damages for Breach of Contract, 73 Cal. L. Rev. 1432 (1985).
他方,そもそも期待利益によっては「契約が履行されたならば得たであろうところと同一の経済的地位を与えること」はできないとする指摘もある。Xxxxxx X. Xxxxxxx, Contract Lore, 27 J. Corp. L. 505 (2002).例えば,予見不可能な結果的損害,不確実な損失などのように回復されないものがあり,また,契約違反の原因は,違反の重大性,賠償額の判断,原状回復による救済の可否に影響を与え,さらに,契約成立や解釈の段階で実際の当事者意思に依拠しているわけではない,と指摘する。Id, at 506.同様の指摘として,3 Dobbs, Law of Remedies: Damages-Equity- Restitution §12.2 (1) at 23 n.1 (2d ed. 1993).また,従来の期待利益の定義では過剰賠償になってしまうという。Id. at 45.
32) Restatement (Second) of Contracts §350–353. 33) Xxxxxx and Perdue, supra note 25, at 57.
34) Id. at 58.
35) Id. at 59.
36) Id. at 60.
37) Id.
38)「損害軽減のための措置」(mitigation)をとるべきであるというルールからも,期待利益賠償を支持する考え方の背後に,受約者の「他の契約を結ぶ機会の喪失」に起因する損害(信頼利益)を塡補しようという意図があることがうかがわれるという。同様に,「回避可能な危害」(avoidable harm)のルールは,期待利益の賠償の制御に関するものとみることもできる。というのは,受約者が契約に信頼をおいて,それと同様の結果を得るための「別の取引の機会を失った」限度で受約者を保護することになるからであるという。Id. at 61.
39) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 730.
40) Cooter & Eisenberg, supra note 31, at 1468.
41) 3 Dobbs, supra note 31, §12.2 (1) at 27.
42) Restatement (Second) of Contracts §347 Ill. 1, 2. また,Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 734 も参照。 43) Xxxxxxx, supra note 22, at 490.
44) Xxxxxxx, supra note 22, at 491.この広い意味では,「履行利益」(performance interest)という方がよいという。
45) Dobbs, supra note 31, §12.2 (1) at 21.
46) Xxxxx, supra note 31, at 38.
47) Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. a.「契約上の損害賠償は,通常は契約違反をされた当事者の期待利益に基づくものであり,その当事者を,可能な範囲で,契約が履行されたならば得たであろうと同じほどの状態におく金額を認めることにより,その当事者に取引の利益
(benefit)を与えることを意図したものである。344 条 1 項 a 号。例えば,契約違反をされた当事
者が代替的な取引を結ぶために付加的な額のみを払えば足りる場合があり,その場合にはその金額の損害賠償によって適切に救済されるから,この認められる賠償額は上記の目的を十分に果たすであろう。他方,状況によっては,このような金額では期待を裏切られた当事者に十分な賠償とならない場合がある。例えば,履行の遅滞によって評価しきれないほどの機会を逃すことになったような場合である。本条に規定する損害の算定は当事者の合意に服する。例えば,損害賠償額の予定(356 条)を証明する場合,あるいは結果損害に対する責任を排除する場合である。」。
48) このように定式化するものとして,Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 768; Barnet, supra note 30, at
24.
49) このような定式に疑問を呈するものとして,Xxxxx, supra note 31, at 21 n.1.
50) そのような場合の損害賠償額の算定に関しては,本稿Ⅱ,4 〔,2〕,⑵,⒜を参照。
51) 前掲注( 3 )参照。
52) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 764.
53) Southern Colo. MRI v. Med-Alliance, 166 F.3d 1094 (10th Cir. 1999).原則的には,契約違反の結果,原告に利益がもたらされれば,その分原告の損害賠償額は引き下げられるが,契約違反後の利益については市場価格に基づく損害賠償額から控除しないのが適切である,とする。
54) これについて, 古典的には,Xxxxxx Xxxxx, Mechanical Jurisprudence, 8 Colum. L. Rev. 605
(1908).
55) Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. b.「期待利益をxxに表現する額を確定しようとする場合に評価しなければならない第 1 の要素は,他方当事者の履行によってもたらされるはずの価値の損失であり,これは,その不履行または不完全な履行によって生じるものである。履行が全くなされない場合には,価値の損失は,その履行がなされたならば契約違反をされた当事者が得たはずの価値に等しい。…瑕疵ある,または部分的な履行がなされた場合には,契約違反に起因する価値の損失は,契約違反がなかったならば履行がもたらしたであろう価値と実際になされた履行の価値の差に等しい。」。
56) UCC2-714 条 2 項は,受領した物品のワランティ違反に基づく損害賠償の一般的算定は,「受領した時点・場所における物品の価値とそれが保証されたとおりの状態であれば有したであろう価値との差」である。
なお,国際物品売買契約に関する国際連合条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods: CISG)は,これに加えて,この場合に減額の請求権を買主に認めている。すなわち,CISG 50 条は,物品の契約不適合において,「現実に引き渡された物品の引渡しの時の価値が契約に適合する物品ならばその時に有していたであろう価値に対する割合に応じて,買主は代金を減額することができる」とする。この救済は大陸法システムから採用されたものであり,部分的違反に対する損害賠償の代替物としてはコモンローにはみられない救済手段である。これが主としてインパクトを持つのは,その物品の市場が引渡しの時に暴落した場合,または,売主がその契約不適合につき責任がない場合である。Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 763.
57) Xxxxxx X. Xxxxxxx, Principle of Contract Law 158 (3rd ed. 2009); Xxxxxxx, supra note, at 504.この問題については,わが国の具体的損害計算・抽象的損害計算の区別と対比するべき観点を見出すことができるように思われるが,当事者の価値観や嗜好などにも考慮が及ぶところは,当該当事者にさらに特化した評価を行う観点ともみえる。
58) Xxxxxxx, supra note 57, at 158.
59) 例えば,Freund v. Washington Square Press, Inc., 34 N.Y.2d 379, 314 N.E.2d 419, 357 N.Y.S.2d 857 (1974) 参照。Xxxxxx Xxxxxx Pope Foundation v. New York, N.H. & H. Ry., 106 Conn. 423, 138 A. 444 (1927) も参照。
60) Perillo, supra note 22, at 504; Heiman v. Bishop, 272 N.Y. 83, 4 N.E.2d 944 (1936).
61) Restatement (Second) of Contracts §344 cmt. b.さらにそこにあげられている設例 3 として,「A
は,演劇をプロデュースしようとして,俳優 B に主演の契約をし,シーズンあたりの報酬を合意
した。A は,契約に違反して別の俳優に出演させた。B の期待利益には,B の得られなかった報酬のほか,B が A の演劇に出演したならば評価が高まったであろうところも含まれる。」。
62) さらに,同条の設例 4 は,「A は,B の土地上に 1 万ドルでモニュメントを建てる契約をしたが,土台を作った段階で工事を放棄した。他の業者に依頼して残工事を完成させると 6,000 ドルを要するものと評価された。この場合に,そのモニュメントは美観を損なうため,それを建てるとむしろ土地の価値が低下するであろうと思われたとしても,B の期待利益は,そのモニュメントが B 自身にとって有するであろう価値であり,348 条 2 項 b 号の規定するルールによれば,6,000 ドル(完成費用)と算定される。」とする。
63) Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. b.「原理的には,ここで確定することが必要なのは,これらの履行が契約違反をされた当事者自身にとってもつ価値であり,何らかの仮定の合理的人間にとっての価値あるいはある市場における価値ではない。…したがって,それらは同人自身の特別な環境あるいは同人の営利活動のそれに基づくものである。ただし,これらの環境を考慮することが予見可能性の要件によって制約を受ける場合は別である。351 条。契約違反をされた当事者の期待した利益がほとんどあるいはもっぱら利得の実現にある場合には,この価値の損失を,確実性をもって金銭の単位で表現することは可能であろう。しかし,他の状況では,これは不可能となることがあり,価値の損失に対する賠償は確実性の要件によって排除されることになる。532 条参照。」。
64) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 765.また,Wyatt v. School Dist. No. 104, 417 P.2d 221 (Mont. 1966)も参照。
65) 例えば,前注(62)のケースでは,原則として,その所有者の価値を基礎とするほかなく,普通の趣味を持つ他者にとっての価値に基づくものではないが,実際上は,土地所有者はこの価値を証明するのは難しい。これと対比して,「市場価格のフォーミュラ」の議論(本稿Ⅲ,5 )を参照。 Mieske v. Bartell drug Co., 593 P.2d 1308 (Wash. 1979).この判決は,自己の映画フィルムを毀損された者は,それに対する「現実の内在的な価値」の賠償を求めることはできるが,「固有の特別な理由によって」そのフィルムに対して込めていた「独特の心情的な価値」あるいは「空想の価格」については賠償請求することができないとした。さらに,Restatement (Second) of Contracts §344 ill. 3(前掲注 61)参照。
66) 例えば,Xxxxxx and Xxxxxxxxx, supra note 31, at 1432 は,算定要素として,「代替的履行の価格」,
「余剰分の損失」,「機会費用」,「差額損失」,「価値の低下」を論じる。Xxxxxx Xxxxxx, Damages for Breach of Contract, 73 Cal. L. Rev. 1432 (1985) も参照。
67) Xxxxx, supra note 31, at 30, 35.
68) 本稿Ⅱ,4 ,〔1〕,⑵参照。
69) Xxxxxxx X. XxXxxxxxx, Handbook on the Law of Damages §44 (1935). 70) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 784.
71) Airight Sales v. Xxxxxx Truck Lines, 207 Kan. 753, 486 P.2d 835 (1971).
72) Xxxxxx Xxxxxx Pope Foundation v. New York, N.H. & H. Ry., 106 Conn. 423, 138 A. 000 (0000).
00) Xxxxxxx, xxxxx xxxx 00, at 504.目的物の市場価値を確定しがたい場合(例えば,取引の目的物が株式であるケースとして,Boyce v. Soundview Technology, 464 F.3d 376 (2d Cir. 2006))のみならず,それが複数の市場価値を有していることもある(卸売市場と小売市場もある)。また,当該目的物の利用方法によっても市場価値は異なることになる。(例えば,取引の目的物が木材であるケースについて,Xxxxx X. Shirley & Xxxx X. Xxxxxx, Forest Ownership for Pleasure and Profit 32 (1967))。さらに,契約違反をされた当事者がその損失を回避できたはずであるという証明責任は,原則的には契約違反をした当事者にあるが,十分に確立された市場がある場合には市場価値の証明責任は,契約違反をされた当事者にあるとされることも多い(Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 784 n.39)。例えば,Xxxxx x. Nine Mile Mines, 886 P.2d 912 (Mont. 1994).
74) Xxxxx, supra note 31, at 47.
75) 本稿Ⅱ,5 参照。
76) 286 N.W. 235 (Minn. 1939).
77) Id. at 235.
78) Id. at 236.
79) Id. at 238–39.
80) 328 P.2d 109 (Okla. 1962).
81) Xxxxx Xxxxxx, On the Amorality of Contract Remedies — Efficiency, Equity, and the Second Restatement, 81 Colum. L.Rev. 111 (1981); Xxxxxxxx Xxxxxxxxx, Willfullness: A Crucial Factor in Choosing Remedies for Breach of Contract,. 24 Ariz. L. Rev. 733 (1982); Xxxxxx Xxxxx, In Defense of Money Damages for Breach of Contract, 82 Colum. L. Rev. 1365, 1388–1424 (1982).
82) Perillo, supra note 22, at 527.
83) 本稿Ⅱ,4 〔,2〕,⑵,⒜参照。
84) Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. c.「350 条から 353 条の制限には服するが,契約違反をされた当事者は,実際にこうむったすべての損失の回復を求める権利がある。他方当事者による履行の価値の損失以外の損失は,付随的あるいは結果的なものとしての性質を持つことが多い。付随的損失は,合理的な努力の中で生じるコストを含む。これは,代替的取引を手配する,あるいは手配しようとする仲介手数料を支払う場合のように,その成否は別にして,損失を回避しようとする努力のことを指す。…結果的損失としては,瑕疵ある履行によって生じた身体または財産に対する加害のような例である。…しかし,この損失の類型を記述するために用いられた言葉は制御的なものではなく,一般原則からいえば,あらゆる損失は回復されうるものである。」。 UCC§2–715 も参照。
85) Xxxxx, supra note 31, at 39.
86) この趣旨を述べるものとして,Arcor v. Textron, 960 F.2d 710 (7th Cir. 1992).
87) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 766; Fortin v. Ox-Bow Marina, 557 N.E.2d 1157 (Mass. 1990).また, UCC 2-715 条 1 項は,「売主の違反から生じる附随的損害賠償には,正当に拒絶された物品の検査,受領,移送および注意と保管に要した合理的出捐,代物調達を行ったことに伴う取引上合理的な料金,出捐または手数料,ならびに履行遅滞その他の違反に附随する他の合理的出捐が含まれる。」と規定する。
88) UCC 2-715 条 2 項に基づいて,買主は,売主の違反から生じる結果的損害賠償を請求することができ,これには「何らかのワランティ違反から近接的に生じた身体または財産に対する侵害」が含まれる。
89) Xxxxx, supra note 31, at 50.
90) Id., at 50.
91) 例えば,Allen, Xxxxxx & McDonald v. Castle Farm Amusement Co., 86 N.W.2d 782 (Ohio 1949).これは, 1 年間広告を行うという契約をしながら被告が 5 か月経ったところでそれを拒んだケースである。原告の損害は,契約が履行されたならば原告が得たであろう価値に及ぶものであり,それから 7 か月間の履行がなくなったことによる原告の免れた出捐を控除したものとなる,とした。
Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. d.「場合によっては,契約違反それ自体によって,契約違反をされた当事者がもし自己の履行を行ったならば負担しなければならなかったはずのコストのいくらかを免れることもありうる。…さらに,契約違反をされた当事者は,それ以外の損失をも回避するために合理的なステップを取ることが期待される。350 条参照。そのために,この当事者が,自己の履行を停止する場合には,それによって,それ以上の履行コストを負担することを回避することになる。…この免れたコストは,契約違反によって引き起こされた価値の損失から控除される。契約違反をされた当事者が,もはや契約の履行に必要なくなったリソースを利用するために代替的な取引を結び,それによってそれ以上の損失を回避する場合には,そのよ
うな取引から生じる純益もまた控除される。…契約違反をされた当事者が履行のために調達したが,回復することが可能な物についても,その価値は控除される。…免れた損失が控除されるのは,出捐の回避が契約違反をされた当事者が履行を免れたことによる場合に限られる。…以上に対し,免れたコストがなく,あるいは免れたその他の損失もない場合には,契約違反をされた当事者の損害は,控除のない,価値の損失の全額を含むことになり,350 条から 353 条の制限に服することになる。」。
92) 本稿Ⅱ,3 〔,2〕,⑵,⒝参照。
93) Sutherland v. Wyer, 67 Me. 64 (1877).
94) Coast Trading Co. v. Cudahy Co., 592 F.2d 1074.転売が UCC 2-706 条 1 項にいうような商業上合理的なものではなかった場合において,それが市場価格に基づく損害よりも低額であるならば, UCC2-708 条 1 項に基づき,売主は actual loss に制限される,とした。
95) Model Vending v. Stanisci, 180 A.2d 393 (N.J.Super. 1962).契約違反の後で生じた火災によって残りの履行が不能となった場合には,損害賠償額は火災の前の収益の損失に制限されるとした。
96) California & Hawaiian Sugar Co. v. Sun Ship, 794 F2d 1433 (9th Cir. 1986).
97) 本稿Ⅱ,5 参照。
98) UCC は,このような区別を採用している。2-703 条以下および 2-711 条以下。
99) 供給者が対価のみならず,経験,評判,信用を得ることを期待するような取引もある。例えば,駆出しの肖像画家と著名人の契約である。そのような場合の契約違反による価値の損失は,実務では確実性の要件によって制限され救済されないのが一般的である。Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 769 n. 1.
100) 売主の免れた損失については,本稿Ⅱ,3 ,〔2〕,⑴,⒝参照。請負人の免れたコストについては,
Ⅱ,3 ,〔2〕,⑵,⒝参照。
101) UCC 2-708 条 1 項は,「買主による受領拒絶または履行拒絶に対する売主の損害賠償の算定は,提供がなされるべきであった時と場所における市場価格と未払契約価格および本編に定める付随的損害額を合算したものとの差額とし,売主の違反の結果として節約できた経費は控除する。ただし,本条第 2 項の場合および市場価格の証明に関する本編の規定(2-723 条)の場合はこのかぎりでない。」と規定する。
102) 買主からの損害賠償請求における基準時の問題については,本稿Ⅱ,4 〔,2〕,⑴,⒜参照。
103) なお,履行期よりも早くトライアルが行われる場合には,損害賠償額は,「契約違反をされた当事者が履行拒絶を知った時」を基準に算定される。市場価格の証明に関する UCC§2–723 (1).なお,基準時・基準地の問題は,買主の救済においてより大きな問題となる。本稿Ⅱ,4 ,〔2〕,⑴,⒜参照。
104) Xxxxxx X. Xxxxxxx, “Anticipatory Repudiation” and the Temporal Element of Contract Law: An Economic Inquiry into Contract Damages in Cases of Prospective Nonperformance, 31 Stan.L.Rev. 69, 104 (1978); Xxxxxxx, supra note 22, at 521.
105) UCC §1–305.
106) Perillo, supra note 22, at 521.
107) Kehm Corp. v. United States, 93 X.Xxxx. 620 (Ct. Cl. 1950).
108) UCC §2–703 (f).
109) UCC §2–311.
110) UCC §2–701.
111) UCC §2–708 (2).この規定に関しては,Xxxxx X. Xxxxx and Xxxxxx X. Summers, Uniform Commercial Code 359, 363 (6th ed. 2010); Xxxxxx Xxxxxxxx and Xxxxxx X. Xxxxxxx, “Sellers Remedies: The Primacy of UCC 2–708 (2), 48 N.Y.U.L.Rev. 833 (1973); Xxxxxxx X. Xxxxxxx and Xxxxxxx X. Xxxx, “Sellers Recovery of Overhead Under UCC Section 2–708 (2), 57 Cornell L.Rev. 681 (1972); Xxxxxxx X. Construing UCC Section 2–708 (2) to Apply to the Lost-Volume Seller, 24 Case
W.L.Rev. 686 (1973).この規定における期待利益の賠償に対する懐疑として,Morris X. Xxxxxxx, The Case for a Literal Reading of UCC Section 2–708 (2) (One Profit for the Reseller), 24 Case W.L.Rev. 697 (1973).
112) 本稿Ⅱ,3 〔,2〕,⑶参照。Jetz Service v. Salina Properties, 19 Kan. App. 2d 144, 865 P.2d 1051
(1993).
113) 本稿Ⅱ,4 〔,2〕,⑴,⒞参照。
114) Famous Knitwear Corp. v. Drug Fair, 493 F.2d 251 (4th Cir. 1974).
115) Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. e.「契約違反をされた当事者は,契約違反から生じる現実の損失の損害賠償に制限される。もしこの当事者が,特に望ましい代替的取引を行い,その結果予想されていたよりも損失を小さく抑えることができる場合には,その当事者の損害額は,その取引の結果として免れた損失によって,減額される。設例 12 参照。契約違反をされた当事者が,回避可能性のルール(350 条)の下では期待されていなかったであろう,代替的な取引を行う場合には,その当事者の損害額は,同様に,その回避された損失により制限される。…回復は,契約違反がなかったならば生じなかったであろう損失についてのみ認められる。契約違反の後に,実行困難あるいはフラストレーションに基づいて,契約違反をした当事者が免責されるような出来事が生じた場合には,損害賠償額は,その出来事の前に生じた損失に制限される。… 254 条 2 項と比較せよ。」
同条の設例 12 は,次のような例をあげる。「A は B との間で,10 万ドルで家を建てる契約をしたが,仕事に着手し報酬の一部 4 万ドルが支払われた後になって履行を拒絶した。他の請負人に残りの仕事を完成させると 8 万ドルは要するであろうと思われたが,B はたまたま 7 万ドルで引き受ける請負人を見つけた。B の損害は,実際に支払った 7 万ドルから A に対する支払いを免れたコスト 6 万ドルを控除し,遅延による損があればそれを加算したものに限られる。」。
116) UCC 2-706 条 1 項「売主の救済方法に関する第 2-703 条に規定する状況のもとで,売主は引渡しをしていない物品の全部または一部を再売却することができる。再売却がxxxxにかつ商業上合理的な方法で行われた場合には,売主は,本編の規定(2-710 条)により認められる付随的損害賠償額につき,再売却代金と解約代金との間の差額を加算し,買主の違反の結果として節約できた経費を控除した額を回復することができる。」UCC 同条のコメント 3 は,「市場価格または現状価格の証拠は,…売主が再売却をするについて商業上合理的な方法で行ったかという問題との関係でのみ意味を持つ。」とする。
なお,同条 2 項は,「当該再売却は,違反された契約と関連するものと合理的に明確にされなければならない。」とする。
117) UCC §2–706 (1).
118) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 771.
119) 本稿Ⅱ,5 参照。
120) Coast Trading Co. v. Cudahy Co., 592 F.2d 1074 (9th Cir. 1979).売主は,実際の損失よりも大きな額を 2-708 条の損害賠償において得るべきではない,とする。
121) 本稿Ⅱ,5 参照。
122) Perillo, supra note 39, at 524.
123) McCormick, supra note 68, §164; Williston, supra note 29, §66:14–66:18. 124) W.G. Cornell Co. v. Ceramic Coating, 626 F.2d 990 (D.C.Cir.1980).
125) Xxxxxx Xxxxx Const. v. State. 37 Conn. Supp. 50, 434 A.2d 962 (1981).
126) Downey, Inc. v. Bradley Center, 188 Wis.2d 435, 524 N.W.2d 915 (App. 1994).
127) この考え方を採用した先例として,Warner v. McLay, 92 Conn. 427, 103 A. 113 (1981).
128) McCormik, supra note 69, §641.
129) McCormic, supra note 69, §642 が示す適例。
130) Perillo, supra note 39, at 525; Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 825.古典的先例として,Xxxx v.
Canfield, 2 Conn. 485 (1818).
131)〔A〕のフォーミュラで計算。
132) Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 770; Blaine Econ. Dev. Auth. v. Royal Elec. Co., 520 N.W.2d 473 (Minn.
App. 1994).
133) 完全な履行に要すると見積もられる費用は,請負人が当初価格を設定する際に行った計算に基づくのが一般的である。これは,楽観的に低く見積もられている(それほど費用をかけなくても完成できると見積もられている)ことが多いため免れたコストの額は圧縮されたものとなり,結局,賠償額は請負人に有利となりがちである。Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 770; Xxxxx Xxxxxx Sons’ Co. v. Summit Constr. Co., 422 F.2d 242 (8th Cir. 1969).完成のための費用の新たな見積もりは,一般的に請負人による最初の楽観的な見積もりよりも信頼できる,という。
134) このように定式化するものとして,Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 770.
135) Warner v. McLay, 103 A. 113 (Conn. 1918).
136) Erler v. Five Points Motors, 57 Cal. Rptr. 516 (Ct. App. 1967).
137) Restatement (Second) of Contracts §347 cmt. f.「後に結ばれた契約が違反された契約の代替物であるかは,しばしば困難な事実問題を発生させる。契約違反をされた当事者が,たとえその契約違反がなかったとしても後に続く契約を結ぶことができ,またそれを結んだであろう場合において,両方の取引から利益をあげることができたはずであるというときは,その当事者は『取引高減少』があったと主張することができ,後に行われた契約が代替的な契約ではなかったと主張することができる。しかし,企業家は最適の規模で経営しようとするから,追加的な取引が儲けにならなかったであろうということもありうるし,また,契約違反がなかった場合には契約違反をされた当事者はビジネスの拡張を選択しなかったであろうということもある。契約違反をされた当事者がそのようにしたであろうという場合もあるが,それ〔契約違反をされた当事者がどのようにしたであろうかという問題〕は,事実に関する問題であり,当該ケースの状況に即して判断されるべきものである。…UCC 2-708 条 2 項も参照。」。
138) 第 2 の契約から生じる請負人の出捐は,その他の損失たる付随的な損害として回復することができる。ただし,収益の計算においてすでに考慮に入れられている場合は別である。Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 770.
139) 取引高減少について, 3 要件の充足が必要とされている。すなわち,第 1 に,契約違反の時点で,契約違反をされた当事者が自己の取引高を最大化する意図を有していたこと,第 2 に,契約違反をされた当事者が,もともとの契約と他の同様の契約を両方とも履行する能力を有していたこと,第 3 に,契約違反をされた当事者が何らかの調整によって取引高減少を取り返すことがなかったこと,である。Xxxxxx X. Xxxxxx, A General Theory for Measuring Seller’s Damages for Total Breach of Contract, 60 Mich. L. Rev. 577, 600–01 (1962).
140) 売主が失った収益に制限される可能性が生じるのは,売主が下落した市場価格に基づいてより大きな損害額を請求した場合である。これが過剰賠償の問題を生じさせることになる。 Xxxxxxxxxx, supra note 30, at 773 n. 19.
141) M & R Contractors & Builders v. Xxxxxxx, 138 A.2d 350 (Md. 1958).建設会社は,通常複数のプロジェクトを同時に進めているものであると指摘する。
142) R.E. Davis Chemical Corp. v. Diasonics, Inc., 924 F.2d 709 (7th Cir. 1991).先例の中には,契約違反をされた当事者に取引高減少の立証責任を課すことにより,この主張を可能にしてきたものもある。Famous Knitwear Corp. v. Drug Fair, 493 F.2d 251 (4th Cir. 1974).
●Summary
As a general rule, the purpose of an award of damages for breach of contract is to place the injured party in the same position as if the contract had been performed. The most important aspect of contract litigation is the determination of damages.
This article analyses the rules and methods of damage measurement in Japan and the United States. It identifies the differing ways in which money damages could be calculated by reference to several concepts of interests.