Contract
東京、平4不81、平11.10.5
命 令 書
申立人 xx証券労働組合
申立人 X1
被申立人 xx証券株式会社
主 文
1 被申立人xx証券株式会社は、申立人X1に対し、次の措置を含め、平成
4年5月28日および同年6月12日に行った契約更新拒否の意思表示がなかったものとして取り扱わなければならない。
⑴ 原職に復帰させること。
⑵ 平成4年7月1日以降も婦人証券貯蓄係にあるものとして取扱い、同人に対して平成4年7月1日以降原職復帰までの間の月例賃金および一時金相当額を支払うこと。
⑶ 平成4年7月1日以降原職復帰までの期間を退職餞別金およびxx勤続表彰における勤続年数に算入すること。
⑷ 平成4年7月1日以降も厚生年金および厚生年金基金加入資格が継続するよう所要の措置を講ずること。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、55センチメートル
×80センチメートル( 新聞紙2頁大) の大きさの白紙に下記の内容を楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の本社正面玄関および同社xx支店の従業員に見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
野村証券労働組合
執行委員長 X2 殿
年 月 日
野村証券株式会社 代表取締役 Y1
当社が、貴組合員X1氏に対し、平成4年6月30日をもって婦人証券貯蓄係契約を更新しなかったことは、不当労働行為であるとxxx地方労働委員会において認定されました。今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
( 注: 年月日は文書を掲示した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前各項を履行したときは、すみやかに当委員会に文書で報告しなければならない。
理 由
第1 認定した事実
1 当事者等
⑴ 被申立人xx証券株式会社( 以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、本件申立時、全国に約140支店を、また海外にも64の支社・支店を置いて、証券業を営む株式会社で、xx社員数は約11,000名である。なお、会社は、婦人証券貯蓄係( 以下当事者の略称にならい「ミディ」という。) 約2,800名を擁している。
⑵ 申立人xx証券労働組合( 以下「組合」という。)は、会社の従業員をもって組織する労働組合で、本件申立時の組合員数は35名である。
⑶ 申立人X 1( 以下「X1」という。)は、昭和60年4月15日に会社に入社し、研修期間を経た後に投信債券外務員資格を取得して同年7月1日からミディとしての雇用契約を結んだ。同人は、後記経緯によって平成
4年6月末をもって契約更新を拒否されるまでの間、1年ごとに6回契約を更新し、xx支店のミディとして勤務していた。なお、X1の入社当時、同支店のミディは18名であった。
同人は、平成2年9月3日に組合に加入し、同日、会社に組合加入を通知した。
⑷ 会社には、組合のほかにxx証券従業員組合( 以下「従組」という。)があり、本件申立時の組合員数は約12,000名である。
2 請求する救済の内容の要旨
⑴ X1の原職復帰と賃金相当額の支払い( 年6分の金員を付加) ならびに下記の措置を含め、契約更新拒否がなかったものとして取り扱うこと。
① 月例賃金、一時金は雇用が継続していたものとして算定した額とすること( 実績手当については解雇前3か月の平均額)。
② 退職餞別金、xx勤続表彰の勤続年数の算定について雇用が継続していたものとして扱うこと。
③ 厚生年金及び厚生年金基金の加入期間が継続するために必要な措置を講ずること。
⑵ 謝罪文の手交・掲示と社内報への掲載。
3 ミディの職務内容、雇用契約等について
⑴ xxxの職務内容
xxxは、投信債券外務員資格( 投信信託と債券についてのみ営業活動を行える資格で、一般外務員資格のように株式の売買などを行うことはできない。)を取得して、① 投資信託・債券の売買その他の取引、②会社の指示する金銭、有価証券、帳簿類の顧客との間の受け入れまたは交付、③保護預り、名義書換えなどの代行業務を行う。
⑵ xxxの雇用契約
ミディは、当初は3年単位で会社から業務委託を受けていたが、昭和 60年からは会社と雇用契約を締結することとなった。雇用契約は1年単
位で、勤務状況、業務成績、その他を勘案して会社が契約更新に支障がないと判断し、本人もそれを希望した場合に契約を更新する。
会社は、契約更新に支障がないと判断するに当たっての一律の基準はないとしているが、「支障」となる具体的な事例として、① 法令諸規則の違反の程度が重大である場合、違反の程度は比較的軽微であってもその回数が累積した場合、②業務成績が著しく劣る場合、③勤怠が極めて劣悪な場合、④個人的借財が異常に多額にのぼる場合などを挙げており、これらに類似したことのない限り、会社が契約更新を拒否することはないとしている。
契約は、各支店で行うが、採用の可否、更新の可否の決定は、本社の証貯業務部( 2年11月に証券貯蓄部から分離されて独立の部となったが、便宜上、これ以前の期間も含めて「証貯業務部」と呼称する。) が行う。
⑶ ミディの賃金
① 月例賃金
勤続年数に応じて一定額が支払われる「業務手当」と新規契約件数等の業務実績に応じて支払われる「実績手当」の2種類がある。
業務手当は、勤続10年までが15万円、10年を越えると17万円となる。
② 一時金
夏期と冬期に一時金を支給している。一時金の額は、勤続年数により一律であり、勤続2年目までは12万円、その後勤続1年につき1万円が加算される( 特別に、勤続10年を越えた年には2万円が加算される。)。
③ 退職餞別金
会社都合退職と自己都合退職の場合で金額が異なるが、それぞれ、勤続年数ごとに定額となっており、勤続年数が増すに従って金額も増加する。
⑷ xxxに対する懲戒
① ミディの就業規則では懲戒処分の事由として以下の8項目が揚げられており、懲戒の種類としては、譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇の5種類が規定されている。
(ア) 会社の体面を損じ、信用を損なうような行為があったとき (イ) 社内の秩序風紀をみだすような行為があったとき
(ウ) 故意怠慢または重大な過失により、会社に損害をおよぼしたとき (エ) 業務上の秘密を漏洩する行為があったとき
(オ) 職務上不正または不当な行為があったとき
(カ) 無断で欠勤するなど、勤務状態が著しく不良なとき (キ) この規則そのほか会社の諸規則に違反したとき
(ク) その他前各号に準ずる不都合行為があったとき
なお、就業規則には定められていないが、懲戒処分に至らない処分として厳重注意処分がある。
② xxxの懲戒は、本社検査部が事務局となって、副社長以下12~ 13名の役員で構成する審査委員会が決定する。
禁止行為違反に関する懲戒処分の基準は一律ではないが、判断要素は、i禁止行為違反の内容およびその回数、ⅱ禁止行為違反の動機、
ⅲ損害の有無およびその程度、ⅳ過去の懲戒歴の有無などである。
4 ミディの禁止行為とX1の61年および元年の懲戒処分について
⑴ 法令、協会規則、社内規則における禁止行為について
証券取引法、大蔵省令、日本証券業協会が自主規制のために定めている諸規則( 以下「協会規則」という。)および社内規則が禁じている取引行為のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。
① 「地場出し」
証券会社の従業員が、他の証券会社に有価証券の売買等の注文を出すこと。
証券会社の従業員が顧客の金銭または有価証券を着服、横領する手段に利用されたり、職務上の地位を利用し、もしくは知りえた情報に基づく不正な売買に利用されたりする危険があることから禁止されている。
② 「名義貸し」
顧客との取引において、従業員自身やその家族の氏名を使用させること。
インサイダー取引に利用されたり、脱税に利用されたりする危険があることから禁止されている。
③ 「無断売買」
顧客の同意を得ずに、当該顧客の計算により有価証券の売買その他の取引等を行うこと。
当初は省令や協会規則にxxの規定はなかったが、3年12月26日の大蔵省令の改正により「顧客の同意を得ずに、当該顧客の計算により有価証券の売買その他の取引等を行うことで顧客に損失を及ぼした場合」が「( 証券) 事故」と定められ、また、3年12月18日の協会規則の改正により、証券会社の従業員が、「顧客の同意を得ずに、当該顧客の計算により有価証券の売買その他の取引等を行うこと」のないようにすべきことが規定された。
また、上記省令、協会規則の改正前から、会社が定めている「ミディ必携」では「あらかじめ顧客の意思を確認することなく頻繁に顧客の計算において受益証券等の売買をおこなうこと」が禁止行為として掲げられており、同じく会社が定めている「xxxxxべからず集」でも「あらかじめお客様の意思を確認することなく、頻繁に、お客様の計算において受益証券等の売買を行うこと」が禁止行為として掲げられている。
④ 「取引一任勘定」
無断売買の定義に関連して、顧客からどの程度の委任を受けることが許されるかが問題となるが、顧客から売買の別、銘柄、数、価格の決定を一任されて取引を行う、いわゆる取引一任勘定は現在では原則として禁止されている。
従前は、大蔵省理財局長の通達( 昭和39年2月7日付) により、取引一任勘定の自粛を求めるに止まっていたが、取引一任勘定を利用した損失補塡などの一連の証券不祥事が発生したことなどから、3年7月8日大蔵省理財局長の新通達により、取引一任勘定は、投資者の自己責任原則に反しないと考えられる限定的な場合を除いて禁止された。
⑵ X1の61年および元年の懲戒処分と契約更新について
① 61年の懲戒処分について
ア X1は、入社以前からxx証券京都支店に累積投資口座を保有していたため、会社を通して株式を買うと資金の出し入れに手数がかかると考えて、60年10月から61年6月までの間に3銘柄5件5200株の地場出しを行った。
この事実は、61年7月8日の検査部による臨店検査により発見され、X1は事実を認めて「今後、このようなことは一切しません。」などと記載した顚末書を提出した。
会社は、上記の地場出しを理由として、61年8月27日付でX1を譴責処分とした。
イ X1は、上記地場出しが発見された後、xx支店の同僚のxxxから「X1さんはどんくさい( から発見されたのだ)。」、「私もしているけれど、X1さんは運が悪い。」、「私たちもみつからないといいのだけれども。」などと言われており、xx支店でも相当数の地場出しが行われていたことが推認できる。また、退職したxxxのうちの一人は、地場出しを行っていたことを明らかにしている。
ウ 上記地場出しはX1にとって初めての禁止行為違反であったこと、反省の態度を示していることから、62年7月の契約更新は格別問題なく行われた。
② 元年の懲戒処分について
ア X1は、母親のためのマンション購入資金にあてるために株式投資で利益を得たいと考え、会社を通して取引をすると他の社員に財産の内容が知られてしまうし、会社の内部手続きも煩わしいこと、また、会社には株式を購入した場合、名義書換えをして6か月間は売買できないというルールがあることから、株式売買が思うにまかせないと考えて、61年8月から元年4月までの間に、国際証券xx支店に開設した長男名義の口座を使用し、株式のべ67回6万株、転換社債のべ10回1000万円の地場出しを行った。
また、X1は、顧客Tから、家族に知られない方法で株式を購入する依頼を受けたため、上記長男名義の口座を利用して、61年8月
に1000株と62年4月に2000株の合計3000株を購入し、名義貸しを行った。
これらの事実は、元年4月25日にX1が会社に長男名義の売買報告書などの入った紙袋を置き忘れたことから発見され、X1は事実を認めて、上記地場出しおよび名義貸しについてそれぞれ顛末書を提出した。
会社は、上記の地場出しおよび名義貸しを理由として、元年9月 18日付でX1を5日間の出勤停止処分とした。
また、会社は、X1が上記の地場出しおよび名義貸しを行っていた当時の上司2 名( xx支店長ら)を同日付で厳重注意処分とした。 イ 上記の顧客Tに対する名義貸しの調査に当たっては、Y2総務課長は、X1 に事情聴取を行い、本社宛の事情聴取の報告書を作った。 同課長はそのあとで、X1にあらかじめ電話を入れさせたうえT宅
を訪問し、事実関係を確認した。
顧客との取引のうえで生じた事故の処理や顧客からxxxxがあった場合の対応については、必ずしも一律ではないが、まず、当該支店の管理職が担当者に事情を聞き、担当者を通じて事故やクレームの事実関係を調査するのが通常である。
ウ 元年7月の契約更新に当たっては、地場出しが2回目であり、しかも今回の禁止行為違反は回数も多く期間も長かったこと、併せて名義貸しも行っていたことから、契約更新の可否が問題となったが、このような場合には、X1の他の顧客との取引内容を全部チェックする必要があるところ、契約を更新しないと、その調査が不可能になるため、会社は、とりあえず契約を更新した。その後の調査では新たな禁止行為違反は発見されなかった。
エ 上記のとおり元年7月には、主としてX1の取引内容についての調査の必要から契約を更新したが、調査を終えたことから、2年7月の契約更新に当たって改めて契約更新の可否が問題となった。会社は、X1の反省の姿勢が顕著であり、出退勤の状況も良好であることから、禁止行為違反を二度と行わないよう注意したうえで、契約を更新した。
5 組合のミディの組織化と会社の対応等について
⑴ 組合は、38年6月9日に結成され、61年3月に総評・全国一般労働組合熊本地方本部xx証券分会( 後記のとおり、熊本支店に勤務するxxxによって、53年に結成された。) と組織統合して今日に至っている。
⑵ 熊本支店では、40年にxxxによる労働組合が結成されたが、組合員の退職や脱退により、52年6月に組合員が皆無となって同労働組合は消滅した。
53年2月9日、熊本支店のミディの大半である10名によって、再び総評・全国一般労働組合熊本地方本部xx証券分会が結成された。この組
合の結成後、会社は、熊本支店のミディの採用を行わなくなり、組合との組織統合の約1年後には、同支店のミディは組合員X3のみとなっていた。
組合は、元年12月、熊本県地方労働委員会に、「最低限必要な20名程度のミディを採用すること」などを求めた不当労働行為救済申立てを行った。
同事件は、3年7月、会社が解決金を支払い、X3が退職することなどを内容とする和解により終結した。
⑶ 元年7月、それまで、xxxの組合員は熊本支店のX3のみであったが、福岡支店のミディ2名が組合に加入し、同年8月には名古屋支店のミディX4( 以下「X4」という。) が組合に加入した。
元年7月に福岡支店のミディ2名が組合に加入した後の7月26日、名古屋支店のY3次長は、朝礼の席で、「ミディで2 人組合に加入したものがいるが、それはとんでもないことだ。」、「組合は非常に過激な思想の集団である。」「、ミディの誰か1 人でも入れば、とんでもないことになる。」、
「娘や息子の結婚だとか就職だとかに影響する。ご主人にもなんらかの被害がある。」などと述べた。また、同次長は、夕方にミディを5 つの班に分けて食事会を実施し、各班に参加した役職者らが上記と同様の話をして、組合加入を思い止まるように説得した。
福岡支店のミディ2名は組合加入とともに会社に加入通知を行ったが、 X4は8月の組合加入の後、当面は非公然とした。
12月6日、Y3次長がX4に対し、「( 内部の聞き取り調査で) いつもあなたの名前が出てくるので、組合に加入しているのか実際のところを聞きたい。」と尋ねてきたので、X4 は8月から組合に加入している旨を告げた。
Y3次長は、同日午後10すぎにX4の自宅を訪れ、1時間30分ほどの間「、組合は非常に過激な思想の集団だから入ると取り返しがつかない。」、
「脱退はできないし、ブラックリストに載る。」、「60人の仲間( 他のミディを指している) からつまはじきになる。」などとして脱退を迫った。
同次長は、翌7日の夜に再びX4の自宅を訪れて同様の話をしたが、 X4が脱退を拒んだため、8日の朝礼後にもX4を呼んで「組合に入ったことは問わないから公然化はするな。」と言った。
⑷ 2年5月19日、仙台支店のミディ5名が組合に加入した。
同月31日、本社営業企画部部長Y4(以下「Y4部長」という。) が仙台支店を訪れ、勤務中のミディ組合員4名をホテルのティールームに呼び、約3時間にわたって「会社は仙台ミディ部隊を絶対につぶす。ミディを採用しなくなる。」、「君たち組合員の給料は、寄付・カンパで共産党に巻き上げられる。」、「xx証券労組はxx商事と同じでみんなだまされている。」などと話した。
また、同部長は、同日夕方、同部長が仙台支店に在職していた当時に
採用したxxxらと飲食した際、ミディ組合員に対して「共産党と踊るのは嫌だ。」と言ったり、ミディ組合員のX5 に対して「S課長( 前仙台支店証券貯蓄課長) との噂は知っているよ。会いに行ってこいよ。色っぽくなったなあ。」などと言って、体に触れたりした。
また6月6日、Y5仙台支店長( 以下「Y5支店長」という。) は、
5人のミディ組合員との話会いの際、「xx証券労組は会社が認めていない組合だ。」、「組合員とわかったら、お客様が( 会社に預けている資産を)全部引き上げる。」などと発言した。
組合は、上記のような会社管理職らの言動に対して、6月28日付で抗議文を発した。
7月12日、本社のY6 証券貯蓄部部付部長( 以下「Y6 部長」という。)が仙台支店を訪れ、ミディ全員の前で上記抗議文を読み上げて、「今回のやり方には行き過ぎがあった。」などと述べた。また、同月26日にはY6 部長とY4部長の2人が仙台支店を訪れ、ミディ組合員4名に対して同様の話をした。さらに、8月15日の団体交渉で、会社は、組合に対しても釈明を行った。
⑸ 2年8月28日、会社は、東京高輪の研修センターで、全国の各支店から2名ずつのミディを集めて投資環境等についての研修を行った。
研修は、取締役の「お話」に引き続いて、株式部長による国内の投資環境に関する講演が午前中1時間、投資調査部次長による外国株式に関する講演が午後1時から3時まで2時間予定されていたが午後の講演は約1時間で終了し、2時10分ごろから約1時間、従組幹部らによる従組の説明会が行われた。従組は、会社との便宜供与の協定に基づき、研修所の使用許可を受けていた。
この説明会で、従組のN委員長は、現在xxxは従組に加入できないが、従組の執行部がミディに聞き取り調査をしたところでは従組に入りたいと思っているxxxが相当数いることがわかったこと、このためxxxに従組の加入資格を与えるよう求める要望書( 以下単に「要望書」という。)をxxxから集めて従組の機関会議で討議し、xxxに加入資格を与えたいと思っていることを説明し「、会社には労働組合が二つある。労組( 申立人組合)は会社が認めていない。」、「労組は考え方が違う。全証労協「全国証券労働組合協議会) に加入している。」などと述べ、「xxxが従組に加入できるように、支店に帰ったら一人残らず要望書をもらってください。」などと述べた。
後記のとおり、この研修の後、xx支店では上記要望書に署名を求める従組の説明会が、会社会議室を利用し、勤務時間に食い込んで行われた。また、名古屋支店では、次長の朝礼の際の指示でxxxが集められ、従組による要望書への署名勧誘が行われた。
この時期に、全国の各支店で従組の同様の活動が行われたことが窺われ、組合もこうした動きに対抗し、組合の説明会を開くため、組合員が
在籍する支店ないしその近隣の会社施設の貸与を求めたが、会社は、組合との間には会社施設貸与の協約がないことを理由にこれを拒否した。
6 X1の組合加入の経緯と管理職らの対応について
⑴ X1は、かねてから会社の厳しい業績管理体制に不安を抱いていたが、元年4月、組合の配布したビラによってミディの労働組合があることを知り、組合に電話をした。
これをきっかけとして、同年8月ごろからxx支店のAら5名のxxxと月1回ぐらいのペースで勉強会を行うようになった。
⑵ 同年10月、X1が誤って同僚の机上に組合ニュースを置いておいたところ、Y7証貯営業課長( 以下「Y7課長」という。) がこれを発見し、 X1に対して「一人でも組合に入ったら、xx支店はつぶれる。熊本支店のようになる。」などと言った。X1 はその組合ニュースをY7課長と一緒に食堂の灰皿のなかで燃やした。Y7課長は、その後も組合から送られてきた封筒を提出するように何度も求め、X1は11月上旬に封筒を提出した。
⑶ 同年12月、Y7課長は前記の勉強会のメンバーであるAから組合の忘年会があることを聞き、夜の10時すぎにX1 の自宅に電話し、「組合の忘年会が広島であるだろう。行くな。」と言った。
同じころ、同課長は勤務時間中にX1を呼び出し「Aさんが会社をやめるというのだ。一度話を聞いてくれないか。」と言って、草津駅に行くよう頼んだ。X1が同駅に行くと、勉強会のメンバーであるAとGの2人のxxxがおり、X1のマンションで話をすることになった。その話のなかでAは「X1さん、組合に入らないで。」、「組合に入るとY7 課長がクビになる。」と強く求めたため、X1 は組合に入らないことを約束した。
⑷ 2年5月、xx支店のミディX 6( 以下「X6」という。)が組合に加入した。
2年6月、Y7課長はX1を外交に誘い、その帰りの午後10時ごろX
1の自宅に立ち寄って「組合に入るな。X6さんの子供さんもご主人もかわいそうだ。」、「X6 さんは間違っている。」、「組合はアカだ。」などと 12時過ぎまで話していった。
⑸ 前記のとおり、8月28日、東京高輪の研修センターで、全国の各支店から2名ずつのミディを集めて研修が行われ、xx支店からはX1とI の2名が派遣された。
研修終了後、X1は東京の姉宅を訪れその日は姉宅に宿泊することとして、Y7課長に電話で翌29日の有給休暇を申請したところ、同課長から強く叱責され、29日は出社して研修の復命を行うよう指示された。
29日にX1とIは、従組の説明会の件も含めてY8支店長( 以下「Y
8支店長」という。)に復命し、さらにY7 課長の指示で、xx支店の他のxxxらに対して、従組の説明会の状況も含めて研修会の報告を行っ
た。
⑹ その後午前11時15分ごろから午後1時30分ごろまでの間( xxxの昼休みは正午から午後1時まで)、組合員であったX6 を除くxx支店のミディ全員が会議室に呼ばれ、一人一人出席をとった後、支店における従組の責任者であるXが、全員が「要望書」に署名するよう求めた。X1 を含む4名のxxxが要望書への署名には納得がいかないとして途中で退席した。
従組の会議は、翌30日にもおこなわれた。同日の会議では、出席した全ミディが白紙に署名させられ、Oから、ユニオンショップ協定が締結されるから、組合に入るか従組に入るかを選択しないと解雇されるとの説明がなされた。
また、要望書への署名に同意しないxxxを、A( X1と勉強会を行ったメンバー)が勤務時間中に内線電話で呼び出して、「労組( 申立人組合) に入ると警察に名前が残る。家族が職を失う。」などと言った。
⑺ X1は、組合に入る従組に入るかを選択しないと解雇されるとの説明を受けたことを契機として、9月3日に組合加入し、その旨を支店に通知した。
3日は出張で不在であったY7課長は、翌4日にX1の組合加入を知って、X1 に対し、「てめえはうそつきや。」、「大嫌いや。」などと繰り返し言った。
同日、X1の退職後に従組の会議が開かれ、その後、Y8支店長、Y
7課長とAの3名が、会員制のクラブで酒食を共にしているところをxxxの一人が目撃し、その事実が同夜のうちに電話でxx支店のミディに次々と伝えられた。
⑻ 翌5日は、全員がざわついて仕事が手につかない状況であった。この日は朝礼も行われなかった。
同日11時30分からミディ全員が会議室に集められ、会議が行われた。会議の席上Aが「X1さんは組合に入らないと約束していたのに裏切った。」と発言したところ、別のミデイから「じゃあ、A さんはスパイだったのか。」との発言があったりして険悪な雰囲気になった。
Y7課長は「すまん。すまん。俺が悪かった。」と何度も言った。Y
8支店長も謝罪すべきであるとのxxxの意見により、1時近くになって同支店長も「悪かった。」と言った。
⑼ X1は、組合加入後、組合から資料をもらって、自分の顧客の元本割れのおそれのある商品を安全性の高い商品に移し替えたため、xx支店では顧客のクレームがもっとも少ないミディとなった。
このため、同僚のxxxらも組合の資料を借りに来るようになった。同僚のxxxらは当初はこっそりX1から資料を借りていたが、次第に課長が見ている前でもX1の席の周りに集まって資料を見るようになった。また、X1は、ミディの組合加入を促進するために、組合の機関紙
「xxのなかま」を配ったり、ミディにアンケート調査を行ったりした。同僚のxxxらは、xxxの育児休業や退職後の健康保険の取扱いなど労働条件の問題について、X1を通じて組合に相談をするようになった。
⑽ 2年10月のxx支店の慰安旅行の際、Y9総務課長( 以下「Y9課長」という。)がX1 に「組合に入るというのは大変なことだ。まだ分からないのじゃないか。」と言った。X1 が「別に大変ではありません。」と答えると、同課長は「あんたはまだ分かっていないからそう言うんだ。」と言った。
⑾ xx支店のミディ組合員X6は2年10月にバイク事故で怪我をし休職していたが、結局3年6月に退職した。この時点でxx支店のミディ組合員はX1一人となった。
⑿ 3年7月23日、参与( 退職金外交のためのスタッフ) のNから早朝7 時ごろにX1の自宅に電話があり、「組合はやめとき。あんたのためにならんから。はよやめんと、あんたはまだ意味が分からんやろうけど大変なことになる。」などと言った。
⒀ 4年4月25日、組合は、京都でミディ向けの学習交流会を行った。 X1は、会社の食堂で食事の際に同僚のxxxを誘い、1名が学習交
流会に参加した。翌週月曜日、やはり食堂で食事の際に同僚のミディに学習交流会の内容を報告した。
7 2年9月のニューライフファンド売却について
⑴ 顧客Yは、退職金や年金を中心にX1を通して取引を行っていた。Yは、会社の「年金友の会」に加入し、年金によって一旦中期国債ファンドを購入し、そこから毎月生活費相当額を引き出す扱いをしており、他の債券の売却額も原則として中期国債ファンドを購入する扱いとしていた。ちなみに、中期国債ファンドは、証券会社の商品としては、銀行における普通預金に相当するものと認識されている。
62年4月ごろ、X1は、ニューライフファンド( 会社の投資信託の一つで、高利回りをセールスポイントとしていた。)をY に勧め、会社から説明があったとおり8% の利回りをつける商品だと説明して、500万円を販売した。Yは、以前転換社債を購入した際に、X1の判断に従って売却し、利益をあげていたので、この商品の売却時期についてもX1の判断に任せ、最も有利な運用をしてほしいとの意向を示した。
Yの購入したニューライフファンドは、2年間のクローズ期間( 売却できない期間) が元年に明けたが、利回りが8% に達せず、2年初めごろになってペルシャ湾岸情勢の悪化等による相場の低迷に伴い、価格が下落しはじめた。同年8月には、イラクのクウェート侵攻で金融情勢がより不安定になり、ニューライフファンドの価格の見通しも一層不安定になった。
X1は、このまま売却しないでいるとYに損失を与えるおそれがあると考え、9月4日にYのニューライフファンドを売却した。
⑵ X1は、売却にあたり、9月3日、4日にYに電話をし、売却後も5 日に電話をしたが、Yには連絡がつかなかった。また、X1は、6日、 Yのニューライフファンドの売却代金でYに中期国債ファンドを購入した。
Yは、6日タ刻に、「ニューライフファンドの売却についての説明を聞きたい。」との電話を支店にした。この際X1 は不在であったので、同僚がYからの伝言のメモをX1の机上に貼った。Y7課長は、このメモを剝してコピーをとり、再びX1の机上に貼り直した。
Y7課長は、翌7日の朝、X1の出勤前にY8支店長、Y9課長と相談し、8時30分ごろYに電話をしてクレーム内容を確認した。
X1が9時ごろ出社すると、Y7課長は「ちょっとこい。これはどういうこっちゃ。」と語気荒く問い質した。X1 がYに事情の確認をしようとして同課長の前で電話をしようとすると、同課長は「俺がやるから電話はするな。」とこれを遮ったので、X1 は4階( X1の執務室は支店の
3階にある。)でY に電話をし「以前先生( Yは退職教員であったのでX
1はこのように呼んでいた。)に買っていただいた投信ですが、当初の利回りが追求できないので売却しておきました。会社には了解したと伝えてください。」と話したところ、Y は「わかりました。」と返答した。
⑶ 上記のX1の電話を耳にしたY9課長が、Y7課長とともにY8支店長に報告して指示を仰いだところ、同支店長は、Y7課長に、すぐにYから事情を聞くよう指示した。
同日昼頃、Y7課長がY宅を訪れ事情を聞いたところ、Yは、xxを依頼した覚えはない旨を述べた。Y7課長は、無断売買であったことを文書にしてほしいと依頼したが、Yは断った。
⑷ 同日4時30分ごろ、Y8支店長、Y7課長、Y9課長の3人がX1を支店長室に呼び、「無断売買」を行った旨の文書を書くように繰り返し求めた。X1は気分が悪いのでトイレに行きたいと言ったが最初は聞き入れてもらえず、トイレに行くことを許された後も、Y9課長がX1の後をずっとついてきた。X1 はトイレには行かず、X1 の執務室を通って、支店の外に出た。Y9課長が「( 帰るのなら)支店長に会ってから( にしてください)。」と言って追いかけてきたが、そのまま帰宅した。
X1は、帰宅後に病院で診察を受けたところ、「頻脈、神経症で1 週間の加療を要する。」との診断がなされた。X1 は、10日と11日は休暇をとり( 8日、9日は土日であった。)、この診断書を9月11日に会社に郵送した。
⑸ X1は、9月7日の夜にY宅を訪問し、売却について確認をしてもらった。この際、Yは、「私と貴社X1 ミディとの取引については全面的に何んでも委しているわけではありませんが、ニューライフファンド( ’87)については当初より適用条件等について充分理解し担当のX1ミディのとりはからいは委任し、了解している事柄であります。」とのメモを書き、
X1に渡した。
Yは、本件審査の過程でも5年4月24日付で同趣旨の陳述書を提出している。
⑹ 12日、X1は出勤し、上記のYのメモをY9課長に渡した。
同日午前中、Y8支店長、Y7課長、Y9課長らが2度にわたりX1 に事情聴取を試みたが、X1は、「Y 先生の件でしたら、事前に了解をいただいております。」、「どう判断してくださっても、そちらの判断で結構です。」などと述べ、詳しい経過は述べなかった。
午後2時ごろ、X1はY9課長にY8支店長と話がしたいと申し出た。 X1は、Y9課長立ち会いのもとにY8支店長と話をし、禁止行為に違反したことを認める趣旨の発言をして、会社を騷がせたことを詫びた。 Y8支店長は、顚末書を提出するよう求め、X1は後日提出する旨を述べた。
⑺ 組合は、9月26日付で、X1に対して「無断売買」を行った旨の文書を書くように求めた際のY8支店長らの前記の行為が管理監督者の業務の域を逸脱した脅迫的な行為であり、X1の組合加入と組合活動を嫌悪しての不当労働行為であるとの抗議文を、社長とY8支店長宛に送付した。
⑻ 9月28日と29日にY7課長は、Y宅を訪れ、ニューライフファンドの売却と中期国債ファンドの購入について、最終的な了解をとった。
この際、Y7課長は、X1の無断売買の事実についてYに再確認し、会話の内容をYに無断で録音した。
Yは売買を依頼していないことを確認し、結果的に有利な時期に売却してもらってよかったと感謝したうえ、この件の調査は終わりにしてほしいこと、今後はもっと株価の状況などについて連絡を密にしてほしいことなどと述べた。これに対してY7課長は、結果がよくても無断売買を行ったことは社内的に大きな問題であること、今後はもっと連絡を密にすることなどを述べた。
⑼ 10月5日、本社のY 10本部付次長( 以下「Y 10次長」という。)がxx支店を訪れ、X1と支店の管理職から事情聴取を行った。
ちなみに、本部付次長は、本社証貯業務部にあって、支店のミディの採用、更新に関する業務を行っているが、支店に事情聴取に赴くことは極めて稀である。
Y 10次長は、約1時間X1に事情聴取を行ったが、話の大半は、組合の抗議文に関することであり、同次長はX1に「普通ならば支店長にだけ( 顚末書を)書いて済むことだけれども、( 組合が)社長宛に抗議文を出しているのだから、( 顚末書を)社長宛に書いてください。書いてもらわないと僕はxx支店に何をしにきたか分からない。」などと言った。
⑽ 10月19日、Y8支店長がX1を支店長室に呼び、顚末書の内容を指示して「このように顚末書を書くように、そうしたならば、ともに伏しま
す。」と言った。X1 は、顚末書の内容には不満があったが、これを出せばすべてが終わりになるものと判断して「、9 月4日……… 事後連絡で了解をいただくつもりでニューライフファンド500口を売却いたしました。その後も顧客Y様とは連絡がとれず、やっと9月7日になり電話で取引内容を説明し御了解をいただきました。顧客の立場を考えた売買でしたが、結果的に事後承諾売買になり、会社に大変ご迷惑をおかけしましたことを深く反省致しております。今後は商内手続きについて、諸規則、諸規定を十分守りかかる行為は二度と致しません。」などと記載した顚末書を提出した。
⑾ 本社検査部は、X1の無断売買は初めてでもあるし、顧客に損害も発生していないことから、懲戒処分は行わず、厳重注意処分とするようxx支店に指示した。
12月26日、Y8支店長は、X1に対して口頭で厳重注意を行った。なお、会社は、本件申立後、中期国債ファンドの買入れも無断売買に該当する旨を主張しているが、会社はこの時点でこの件についての事実関係を把握していながら、格別問題としていない。
⑿ 3年7月のX1の契約更新に当たっては、過去2回懲戒処分を受け、
2年12月にも無断売買で厳重注意処分を受けていることから証貯業務部内で問題となったが、最終的に反省の態度を示し、懲戒処分とならない厳重注意処分に止まったこと、出退勤の状況も良好であったことから、契約を更新した。
⒀ この間の3年6月ごろから、会社が特定の顧客にいわゆる損失補塡を行ったことなど一連の証券不詳事が明らかにされ、同年10月15日から11月14日までの1か月間株式売買にかかる受託業務の一部停止処分を受けた。このため、会社は、上記の業務の一部停止期間中に、全社的に不詳事の再発防止のための研修を行った。xx支店においても、10月23日にサテライトビデオを用いて、法令規則の遵守等についての研修を行った。
8 3年12月の中期国債の募集申込みの件
⑴ 顧客のW( 実際の手続きは同人の妻が行っていた。)は、12月20日に300万円分の国債の満期が到来することになっており、「乗換え」( 新しい国債の募集期間内に前に購入した国債の満期が到来し、新しい国債を購入しなおすこと。間を置かずに次々と国債を乗り換えていくことにより、特別マル優の枠を最も有利に運用できる。) の必要が予想されていた。
また、証券不詳事の関係で、3年10月、11月は会社が国債の入札ができなかったこともあって商品が確保できない事態が生じ、12月の中期国債について顧客に商品の確保ができるかどうかについてミディも不安視していた。
⑵ 12月4日に12月募集の中期国債の募集条件をY 11証貯営業課長が発表した。同課長は、「乗換えの客は朝の15分で伝票を出せ。」と指示をした。 X1は、Wに対して、朝の15分間も、その後も電話をしたが、連絡がつ
かず、商品がなくなると迷惑をかけると思い、とりあえず午後になってから募集中し込みの伝票を書いて提出した。
この中期国債は、4日から20日までが募集期間であり、社内的に一旦申し込みを行っても、募集期間内であればいつでも取り消しができ、代金の払い込みがあった時点で約定年月日を確定する扱いとなっていた。このような場合には、満期乗換えの可能性がある顧客の枠の確保のため、購入が期待できる顧客の名前で本人に確認がとれる前に伝票を出し、後に実際に購入した顧客の名前で申込みをしなおす場合もあり、実際、本件で証言したY 12は、課長として、取消しができるものについては早く伝票を出しておけと指導しており、それが会社ではごく普通の扱いであった旨を証言している。募集期間内の訂正も頻繁に行われており、取消しの場合にもとくに課長への相談・報告などは求められていなかった。 X1は、とりあえず、満期を迎える国債の売却金額、乗り換える国債 の購入金額、差引金額と乗りかえる国債の募集条件のメモをW宛に郵送した。このため、X1の送ったメモと会社から送付された「国債購入の
ご案内」が12月5日と6日に相次いでW宅に届くこととなった。
⑶ 12月5日にX1のメモを受け取ったW夫人から「購入を依頼していない国債の書類が来たがどういうことか。」と電話があった。この電話は、総務課のS課長代理が受け、翌6日の朝にX1に伝えた。X1は、同課長代理に対して、Wに連絡がとれないので、Wからの電話があったら連絡先を聞いてほしい、訪問もすると伝えた。
X1は、12月4日から9日までの間、1日2回くらいはWに電話を入れていたが、平日の日中はWもW夫人も在宅していないのが常であったため( Wは退職者からX1が引き継いだ顧客であったため、この事実を X1は後になって知った。)、連絡がつかなかった。
⑷ 6日に会社から送付された「国債購入のご案内」を受け取ったW夫人から、「再び国債購入の通知がきたがどういうことか、担当者の連絡が欲しい。」という電話があった。この電話は、S 課長代理が受けたが、同課長代理は、W( 夫人) の連絡先を聞くこともなく、また、電話があった事実をX1にも伝えなかった。
⑸ 6日夜にY 11課長がW宅を訪問し、「X1 が出した手紙、会社からいった手紙を全部ください。」と依頼し、折から外出していたW 夫人の出先に連絡をとって、X1のメモと会社からの報告書類を借り出した。また、
9日にはY9課長もW宅を訪問し、事情を聴いた。W夫人は「( 国債は)買つてもいないし、連絡も受けていない。」と述べた。
⑹ 10日、午後1時30分から1時間程度、Y9課長がX1と面談し、W夫人から2度にわたって電話があったこと、6日にはY 11課長が、9日にはY9課長がW宅を訪問し、事情を確認した旨を告げ、「これは無断売買ですね。」と質したところ、X1 は「Y9 課長がそうおっしゃるのならそうでしょう。」と答えた。
⑺ X1は10日にようやくWと連絡がつき、11日朝にW宅を訪問した。W夫人は、担当者に連絡を取りたいと思って電話しても「ちょっと待ってください。」というだけで、担当者が在席しているのかどうかも分からないような対応であったので、全額乗り換えてもよかったのだが、満期がきた国債のうち200万円は別の用途に使い、新しい中期国債は100万円分を購入することにしたなどと述べた。
なお、この件では、Wにはまったく損害は発生しておらず、また、会社にも損害は発生していない。
⑻ X1は、12月13日、一旦顚末書を提出したが、「無断約定」という文言を入れるようにY9課長に強く迫られ「12月の新規国債へ乗換える場合は予約を早めに行わなければならないと考え………12月4日300万買付の予約を申込みました。それは10月、11月の国債が早く売り切れてしまい、お客さまにご迷惑をおかけした経験からそのようにいたしました。……
…私は無断で行う意図は全くありませんでした。私はあくまでもお客様の立場を考え買付けの予約を致しましたが、結果的に無断約定になりました。……… お客様と会社に大変ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫びいたします。今後このようなことをしないように、お客様の了解を得た上で取引の執行を行うように十分注意いたします。」などと記載した顚末書を提出した。
⑼ 4年3月18日、会社はX1を譴責処分に付した。
9 本件契約更新拒否について
⑴ 会社は、X1に対し、4年5月6日から25日までの間4回にわたり退職勧奨を行ったが、X1は自主退職を拒んだ。
⑵ 会社は、X1に対し、5月28日、契約更新拒否の通知書を交付した。また、6月12日には内容証明郵便で契約更新拒否の通知書を送った。
⑶ 会社は、契約更新拒否の理由として概略次のような点を挙げている。
① X1は、本契約した60年に禁止行為に着手し、以降毎年禁止行為を行っている。
② X1は、同種の禁止行為を2回ずつ繰り返し、懲戒処分3回、厳重注意処分1回を受けている。
③ それぞれの禁止行為について、少なくとも2回目の禁止行為を行った時点では、それが禁止行為であることを十分認識して行っている。
特に、2回目の地場出しのときには、1回目の地場出しに対する顚末書提出から1か月もたたないうちに着手しており、2回目の無断売買の際には、無断売買などの禁止行為についての特別研修を受けた直後に行っている
④ 過去3回の禁止行為について、今後禁止行為を行わない旨の顚末書を提出しているにもかかわらず、4回目の禁止行為を行った。
⑤ これまで、ミディとして禁止行為を2回以上犯し、もしくは禁止行為違反により懲戒処分に処せられて在職したものはいない。
⑥ 60年以降12人のxxxが禁止行為違反を理由として退職勧奨され、任意退職しているが、これらはもし退職しなければ、当然契約を更新しなかったものである。
⑷ 会社は、X1の契約更新拒否の問題について、5月12日から7月27日までの間、組合との間で10回にわたって団体交渉や事務折衝などを行った。
⑸ 5月28日の契約更新拒否の通知の後、xx支店のミディ8名がX1の契約を更新するよう求める社長宛の嘆願書を会社に提出した。
6月16日、支店の会議室で従組の会議が行われ、Y8支店長が出席して、X1の契約更新拒否の理由を説明した。その後、嘆願書を出したxxxが一人一人従組役員のOのところに呼ばれ、嘆願書を白紙撤回する旨の文書に署名した。署名の後、何人かのxxxが、X1 に「ごめんね」と謝罪した。
⑹ 会社は、7月1日以降X1との契約を更新しなかった。
7月1日、X1が朝早く出社するとすでにX1の机はなく、私物も片付けられていた。仕方なくX1 が食堂にいたところ、「X1 が来ている。」と騒ぎになり、Y8支店長、Y9課長、Y 11課長らが集まり、退去を求めた後、4人でX1の手足を持って支店の外へ引きずり出した
⑺ 4年秋ごろ、xx支店のミディ組合員X7に対し、同支店のY 13次長が「xx支店のこと( X1の契約更新拒否を指している。)はいろいろあるだろうけれども、あれはX7さん、組合に入っているのだ。組合員だぞ。だから辞めさせられたのだ。」と言った。
X7は、3年7月2日の組合加入後、管理職に何度も呼び出されて、何故組合に入ったのか、組合は危険な思想をもっているなどと言われたりしていた。
10 他のミディの禁止行為違反について
⑴ xx支店における事例
xx支店において、X1が確認した禁止行為違反の事例は、以下のとおりである。
① 3年4月、Y 11課長( 当時)はxxxのBに対して顧客Iの300万円の中期国債ファンドをオープン投資信託に乗り換えさせるよう指示した。Bは顧客Iに電話連絡をし、乗換えについて考えておくとの返事をもらった。
顧客Iは、Bの前任者( すでに退職していた) に相談し、乗換えはしないほうがいいとのアドバイスをもらったので、直接Y 11課長に電話をして、乗換えはしない旨を伝えたが、Y 11課長は、すでに注文を出してしまったと答えた。そして、同課長はBを呼んで「客が断りの電話をしてきたんや。はよ伝票を出すように。」と指示し、B は顧客 Iの承諾を得ないまま伝票を出した。この件ではBもY 11課長も何の処分も受けていない。
②ア 3年12月、担当ミディCの出勤前に、顧客から、投資信託の売却について、自分の分だけの売買を頼んだのに、家族の分も売却されているとの電話があった。これは、元本割れで売却したものなので顧客に損失が発生するが、ミディCに対して課長が注意しただけで処分はなかった。
イ 4年に、担当ミディCの誤記により、顧客の清算代金が不足した事実があった。この件については、xxxXが顚末書を提出し、同人対して厳重注意がなされた。
ウ 4年6月30日、抵当証券の募集条件発表があり、Y 11課長は早く伝票を出すようxxxに督促した。この商品は7月15日まで取消し可能なものであった。ミディCは、満期が到来して乗り換えてもらう予定の顧客に連絡がつかないまま伝票を提出した。この件でミディCは何の処分も受けていない。
③ 4年に、担当ミディDが、株券を引き渡さず、印鑑と通帳についても預かったままにしていたところ、顧客から返してほしいと電話があった。この件については、ミディD にたいして厳重注意がなされた。
⑵ 他の支店における事例
対象者 | 禁止行為の内容 | 行為期間 | 処分 |
S1支店 ミディM1 | 転換社債の無断売買 5回中期国債の無断売買 1回中国ファンドの無断売買 6回顧客の名を借りた自己投資 受領書代筆 | 58年1月 ~ 59年1月 | 60年10月論旨解雇 |
S2支店 ミディM2 | 無断売買 1回 知人の名を借りた自己投資受領書代筆 | 58年10月 ~ 62年6月 | 63年1月 (依願 退職) |
S3支店 ミディM3 | 転換社債の無断売買 2回 中国ファンドの無断売買 1回地場出し 13回 | 63年2月 ~2年9月 | 2年12x x x 停 止 8日 |
S4支店 ミディM4 | 転換社債の無断売買 7回投資信託の無断売買 7回 | 2年11月 ~3年1月 | 3年4x x x 停 止 5日 |
ミディとの契約が雇用契約とされるようになった60年以降の10年間で、禁止行為違反で処分を受けた事例( 処分に該当する事例であったが、処分以前に依願退職したために処分に至らなかった事例を含む。) は約100件ほどであるが、そのうち、無断売買に関連する事例は、以下のとおりである。これらのミディは、いずれも、申立人組合員ではないものとみられる。
S5支店 ミディM5 | 顧客資金の不当所持 公社債投信・金貯書の無断売買 5回 | 2年4月 ~2年10月 | 3年6月 (依願 退職) |
S6支店 ミディM6 | 転換社債の無断売買 1回 | 5年5月 | 5年10x x x 停 止 2日 |
S7支店 ミディM7 | MMF・公社債投信の無断売買 2回 | 5年10月 | 5年11月 (依願 退職) |
S8支店 ミディM8 | 公社債投信の無断売買 1回 | 6年4月 | 60年4x x x 停 止 2日 |
S9支店 ミディM9 | 転換社債の無断売買 2回 | 5年3月 | 60年12x x x 停 止 2日 |
上記については、いずれも会社に損害が発生( 顧客の損害分を会社が負担した場合を含む。) している。
なお、上記のうち、ミディM3、M4、M5に関する事例の詳細については、次のとおりである。
① S3支店のミディM3は、顧客に無断で転換社債を買い付け、その代金を、その顧客の別の転換社債を無断売却して支払ったが、買い付けた転換社債が値下がりしたため、この転換社債を売却する際に生じた損失約200万円を、その顧客の中期国際ファンドを無断売却して穴埋めし、損失が発生しなかったかのように粉飾した。また、ミディM
3は、13回にわたり地場出しを行った。ミディM3は、これらの禁止行為違反により、2年12月に出勤停止8日間の処分を受け、間もなく依願退職した。
② S4支店のミディM4は、顧客に無断で転換社債の売買を7回、投資信託の売買を7回行い、その結果、その顧客に損失を与えた。ミディM4は、これらの禁止行為違反により、3年4月に出勤停止5日間の処分を受けた。ミディM4は、その後、契約更新されている。
③ S5支店のミディM5は、顧客に無断で金貯蓄の売買を4回、公社債投信の買付けを1回行い、その結果、その顧客に公社債投信の買付手数料相当の数万円の損失を与えた。また、ミディM5は、この顧客から預かった約100万円を、会社の預かり金とせずに自宅に保管( 宙預かり) しておいた。ミディM5は、処分以前の3年6月に依願退職した。
第2 判断
1 当事者の主張
⑴ 申立人の主張
① 会社は、一貫して組合を嫌悪し、xxxが組合加入することを極端に嫌っていた。このため、組合に加入しようとした者には露骨な引き止めを行う一方で、組合加入者に対してあからさまな嫌がらせを行った。
それにもかかわらず、組合に加入するミディが増加していくため、会社は、2年8月、研修会に名を借りて従組への加入工作を組織的に行った。
② 申立人X1に対しても、Y7課長が再三加入引き止めを行っているにもかかわらず、X1は組合加入したものであり、同課長が「おまえはうそつきや。」と繰り返し述べていることからも、X1 の組合加入に対する嫌悪感が表れている。
2年9月4日のニューライフファンド売却については、X1の9月
3日の組合加入直後の出来事であり、会社の事情聴取の異常さからも、処分理由を作り上げて、X1を会社から排除しようとしたものであることは明らかである。また、本件契約更新拒否( 解雇) の直接の理由とされている3年12月の中期国債の募集申込みの件については、そもそも無断売買の要件に該当しない事実を強引に処分に繫げたものである。
しかも、会社が契約更新拒否の意思表示を行ったのは、X1が、組合主催のミディ向け学習交流会にxx支店のミディを勧誘したり、xx支店のミディに学習交流会の報告を行ったりした直後の出来事である。
③ 2年9月4日のニューライフファンド売却については、顧客Yの了解のもとに行った売買であって「無断売買」ではなく、3年12月の中期国債の募集申込みの件については、枠を確保するための伝票の提出は「約定」には当たらないから、「売買」を行ったことにはならないものである。したがって、これを理由に契約更新拒否を行うことは許されない。
xxxの雇用契約は1年契約といっても運用の実態は期限の定めのない雇用契約に等しいものであり、本件契約更新拒否は、事実上解雇と同視すべきものであるから、契約更新拒否の不当性は一層顕著である。
しかも、本件契約更新拒否は、他のミディの禁止事項該当例に対する対応とも著しく均衡を欠き、xx支店で唯一の組合員となったX1 を会社から放逐するために行った処分であることが明らかである。
⑵ 被申立人の主張
① 会社は、申立人の主張するような組合加入の引き止めや加入者に対する嫌がらせは行っていない。また、従組への加入勧誘は従組が自発的に行ったもので会社は関知していない。
② xxxの雇用契約は1年であり、雇用期間内に禁止行為違反があっ
た場合には、慎重に検討して更新の可否を判断している。
申立人X1は、すでに非違行為により2度の懲戒処分を受けているところ、2年9月に無断売買を行ったものであり、契約すべきでないとの意見も強かったが、これに対する措置が懲戒処分に至らぬ厳重注意に止まったこと、本人も二度とこのような行為をしない旨誓約したことから、万一再度違反を犯したときは、契約更新は行わない旨警告して、3年度の契約更新をしたものである。しかるに同人は、3年12月に再び無断売買を行ったのであるから、契約更新を行わなかったことは当然の措置であり、不当労働行為と非難される余地はない。
③ なお、申立人は、X1の組合活動と契約更新拒否の時期を結びつけて主張を展開しているが、会社は、X1の組合活動については関知していない。また、X1の組合加入直後に起こったニューライフファンド売却の件では、会社はX1を厳重注意処分に止め、契約更新もしているのであって、このことからも会社に不当労働行為意思がないことは明らかである。
2 当委員会の判断
⑴ 組合のミディの組織化に対する会社の対応
① 61年の組織統合以前は、組合に加入しているミディは熊本支店にいるのみであったが、組織統合を機会に組合がミディの組織化に積極的に取り組むようになり、元年ごろから、各支店でミディが組合加入するようになった。
これに対して会社は、次のような対応をした。
ア 元年7月福岡支店においてミディ2名が組合に加入した後の7月 26日、名古屋支店のY3次長は、朝礼の席で、「ミディで2組合に加入したものがいるが、それはとんでもないことだ。」、「組合は非常に過激な思想の集団である。」、「ミディの誰か1 人でも入れば、とんでもないことになる。」、「娘や息子の結婚だとか就職だとかに影響する。ご主人にも何らかの被害がある。」などと述べた。また、同次長は、夕方にミディを5つの班に分けて食事会を実施し、各班に参加した役職者らが上記と同様の話をして、組合加入を思い止まるように説得した( 第1、5⑶ )。
イ また、同支店でX4が12月にY3次長に組合加入を告げた後、同次長は、2度にわたって、夜にX4の自宅を訪れ、「組合は非常に過激な思想の集団だから入ると取り返しがつかない。」、「脱退はできないし、ブラックリストに載る。」、「60人の仲間( 他のミディを指している)からつまはじきになる。」などとして脱退を迫り、また、X0が脱退を拒否する意向を明確にした後も「組合に入ったことは問わないから公然化はするな。」などと述べた( 第1 、5 ⑶ )。
ウ 2年5月19日、仙台支店のミディ5名が組合に加入すると、同月 31日、本社のY4 部長が、勤務中のミディ組合員4 をホテルに呼び、
約3時間にわたって「会社は仙台ミディ部隊を絶対につぶす。ミディを採用しなくなる。」、「君たち組合員の給料は、寄付・カンパで共産党に巻き上げられる。」、「xx証券労組はxx商事と同じでみんなだまされている。」などと話した。
また6月6日、Y5支店長は、5人のミディ組合員との話合いの際、「xx証券労組は会社が認めていない組合だ。」、「組合員とわかったら、お客様が(会社に預けている資産を)全部引き上げる。」などと発言した。
これらについては、7 月12日、本社のY6 部長が仙台支店を訪れ、全ミディの前でやり方に行き過ぎがあったことを認めている( 第1、
5⑷ )。
② 会社は、8月28日、東京高輪の研修センターで、全国の各支店から
2名ずつのミディを集めて研修を行ったが、2時間を予定していた午後の講演は約1時間で終わり、終了後、研修会場において、従組の説明会が行われた。このように、全国の支店からxxxが一堂に会する機会は稀であり、その会場において研修に引き続いて従組の説明会を許すことは破格の便宜供与であるといわざるを得ない。
しかも、xx支店では、研修の翌日に、Y7課長の指示で、X1らから、xx支店の他のミディらに対して、従組の説明会も含めて研修会の報告が行われ、その後、組合員であったX6を除くミディ全員が会議室に呼ばれ、勤務時間に食い込んで、従組幹部から、xxxが従組に加入できるようにするための要望書に署名するよう説得がなされた。
また、名古屋支店では、朝礼時の次長の指示で同様の従組の会議が行われており、全国的に同様の会議が行われたことが窺われる( 第1、
5⑸、6⑸⑹ )。
③ 以上の一連の対応からみれば、会社は、ミディの組合加入を著しく嫌って、xxxの組合加入を阻止するような発言を行ったり、組合加入したxxxに対して組合脱退を勧めるような発言をする一方で、別組合である従組には、進んで加入勧誘に対する便宜を図っていることが認められる。
⑵ X1の組合加入および組合活動に対する会社の対応について
① 上記のとおり、会社はxxxの組合加入を著しく嫌っていたものと認められるが、組合加入前のX1に対しては、Y7課長がX1と組合との接触を察知してしばしば組合加入を引き止める発言を行った( 第
1、6⑵⑶⑷ )。
そして、上記の従組への加入勧誘に呼応して、要望書への署名に同意しないxxxに対して、Y8支店長やY7課長の意を受けたAが、
「労組( 申立人組合) に入ると警察に名前が残る。家族が職を失う。」などといった働きかけを行った( 同⑹ )。
それにもかかわらず組合加入したX1に対し、Y7課長は「てめえはうそつきや。」、「大嫌いや。」などと繰り返し言って不快感を露わにした(同⑺ )。
一方、X1は、組合加入後、組合の資料を活用して顧客のクレームを減らし、同僚xxxらも組合の資料を借りに来るようになった。また、X1は、ミディの組合加入を促進するために、組合の機関紙「野村のなかま」を配ったり、ミディにアンケート調査を行ったりした。こうしたことから、同僚xxxらは、xxxの育児休業や退職後の健康保険の取扱いなど労働条件の問題について、X1を通じて組合に相談をするようになった( 同⑼ )。
さらにX1は、4年4月25日の組合の学習交流会に他のミディを誘い、1名が学習交流会に参加している( 同⒀ )。
上記のようなX1の活動やそれに対する他のミディの動きについて、会社は知らなかった旨を主張しているが、同僚xxxらが課長が見ている前でもX1の席の周りに集まって組合の資料を見ていたり、X1 が組合の学習交流会への誘いや学習交流会の報告を食堂で食事の際に行っているなどこうした活動が密かに行われたものではないこととX
1の組合加入前の会社の執拗な詮索の仕方を併せ考えれば、会社がこうした事実を知らなかったとは認め難い。
② 組合加入後のX1に対しては、2年10月のxx支店の慰安旅行の際にY9課長が、「組合に入るというのは大変なことだ。まだ分からないのじゃないか。」と言ったり、3年7月に参与のNが「組合はやめとき。あんたのためにならんから。はよやめんと、あんたはまだ意味が分からんやろうけど大変なことになる。」などと言って脱退を勧めている( 第1、6⑽⑿ )。
さらに、4年秋には、xx支店のY 13次長が同支店のミディ組合員に対し、「xx支店のこと( X1の契約更新拒否を指している。) はいろいろあるだろうけれども。あれは・・・、組合に入っているのだ。組合員だぞ。だから辞めさせられたのだ。」と言った( 同9⑺ )。
③ こうした事実をみれば、会社は、xxxの組合加入を著しく嫌っていたところ、管理職による再三の引き止めにもかかわらず組合に加入したX1を嫌悪していたこと、さらにX1が組合加入後xx支店のミディを組合に勧誘したため、xxxらが組合の活動に関心を示し始めていたことに危機感を募らせていたことが認められる。
⑶ 本件契約更新拒否の理由について
① 2年9月のニューライフファンド売却については、次の事実が認められる。
ア X1と顧客Yとの関係をみれば、Yはニューライフファンドの売却時期について、X1のアドバイスをほぼ全面的に受け入れる意向であり、9月4日に売却することについても、事前に承諾を求めら
れれば承諾したであろうと推測されるものの、9月4日に売却することについて事前の同意を得ていなかったことは否めない(第1、
7⑴⑵ )。
しかしながら、3年4月にY 11課長が顧客の意向を無視して、ミディBに指示して中期国債ファンドからオープン投資信託に乗り換えさせた事例があることを考えれば、本件のようなケースは、形式的には無断売買に該当しても、果して禁止行為違反としてことさらに問題にするケースであったのかどうかは疑問があるといわざるを得ない。しかもこの件では、Yは、事後に売却を承諾し、売却の結果については満足できるものであったとしてX1に感謝しているのである(同10⑴①、同7⑻ )。
そして、懲戒処分を決定する要素としては、過去の懲戒処分の回数や態様も考慮されるところ、過去2回の懲戒処分を受けているX
1に対する本件についての処分内容は、懲戒処分に至らない厳重注意に止まっているのであるから、本件は、極めて軽微な形式的違反に止まるものとみられる。
イ ところが、この件に関する会社の対応は、X1宛の電話メモをY
7課長がコピーをしたり、X1の説明も聞かないうちにY7課長が Yに直接電話してクレーム内容を確認したり、Y7課長がY宅を訪ねて無断売買であった事実を文書にしてほしいと依頼したり、残高確認に赴いたY7課長が無断売買の事実を再確認し、その会話をYに無断で録音したりするなど、通常のクレームに対する対応とは著しく異なるものであり、顧客のクレームに対応するというよりも、むしろ、X1の無断売買の事実の証拠固めを優先させているとみられる(第1、7⑵⑶⑻ )。
しかも、9月7日に行われたX1に対する事情聴取も、Y8支店長とY7、Y9の両課長が、無断売買を認める文書を書くよう執拗に求め、トイレに立ったX1をY9課長が監視するなど極めて異常な態様であった( 同⑷ )。
② また、3年12月の中期国債の募集申込みの件については、次のような事実が認められる。
ア 証券不祥事のために、3年10、11月は会社が国債の入札ができなかったこともあって、商品が確保できない事態が生じ、12月の中期国債について顧客に商品の確保ができるかどうかはミディが不安視していたところ、顧客Wは乗換えの必要が予想される顧客であった
(第1、8⑴ )。
イ 12月4日の中期国債の募集条件が発表された際、Y 11課長は、「乗換えの客は朝の15分で伝票を出せ。」と指示をした。しかし、平日はWもW夫人も在宅していないのが常であったため、12月4日の15分間も含め、数日間連絡がつかなかった。
このため、X1は商品がなくなると迷惑をかけると思い、とりあえず午後になってから300万円分の募集申込みの伝票を書して提出した。なお、この商品は、募集期間内であれば取消しには何ら制約がなく、最終的にWは100万円分を乗り換えたが、Wにはまったく損害が発生しなかった。また、会社にも損害は発生しなかった( 第
1、8⑵⑶⑺ )。
ウ 会社においては、募集商品の場合、とくに売り切れる可能性がある場合は、顧客の資金ニーズに応じて、乗換えになる可能性がある顧客のため確認がとれる前に伝票を出す場合もあり、実際、管理職の中にも、取消しができるので早く伝票を流しておけと指導する者もいる。募集期間内の訂正も頻繁に行われており、取消しの場合にもとくに課長への相談・報告などは求められていない( 第1 、8 ⑵ )。
また、4年6月30日、抵当証券の募集条件発表の際、Y 11課長は早く伝票を出すようxxxに督促し、xxxの一人は、満期が到来して乗り換えてもらう予定の顧客に連絡がつかないまま伝票を提出したが、この件でこのミディは何の処分も受けていないという事例もある( 第1、10⑴②ウ)。
エ このような事情を考慮すれば、X1の行為に非がないとはいえないが、社内慣行等に照らして、ことさら処分されるような行為ではないとみざるを得ない。
オ ところが、この件についての会社の対応をみると、W夫人から最初のクレームの電話があった後、X1がW夫人と連絡がつかなくて困っている状況を知っていながら、W夫人から2度目のクレームの電話があった際に連絡先を聞くこともなく、電話があったことさえ X1にすぐには伝えなかったこと、そして、6日夜にY 11課長がW 宅を訪問し、折から外出していた夫人の出先にまで電話をさせて文書の所在を確認してもらいX1が送ったメモや会社からの報告文書を借り出していること、9日にはY9課長もW宅を訪問し、重ねて事実を確認していることなど別記のニューライフファンドの売却の件よりもさらに周到に、X1とWとの接触がないうちにX1の「無断売買」の事実の証拠固めを行っているとみられる( 第1、8 ⑶⑷
⑸ )。
③ 以上の事実から考えれば、2年9月のニューライフファンドの売却の件および3年12月の中期国債の募集申込みの件については、会社が、極めて軽微な形式的違反に止まる行為ないしは処分に値しない程度の禁止行為違反について、通常と著しく異なる事実調査を行って、「無断売買」を裏付ける事実をことさらに集め、厳重注意ないし譴責処分を行ったものとみざるを得ない。
④ ところで、無断売買を理由として処分を受けた事例( 処分に該当する事例であったが、処分以前に依願退職したために処分に至らなかっ
た事例を含む。) は、いずれも会社に損害( 顧客の損害分を会社が負担した場合を含む。) が発生しており、事実関係が明らかになっている3例は、X1の「無断売買」の事例とは比較にならないほど回数が多く、違反の程度も重いものと認められる( 第1、10⑵ )。
さらに、X1が確認できた限りでも、顧客の意向確認の誤りや伝票記入ミスなどで事実上の注意や厳重注意をうけているミディCが、Y 11課長の指示により、X1と同様に、満期が到来して乗り換えてもらう予定の顧客に連絡がつかないまま伝票を提出したが、何の処分も受けていないという事実もある( 同⑴② )。
⑤ 会社は、61年および元年の2回の懲戒処分ともあわせてX1の契約更新拒否の理由を主張しているが( 第1、9 ⑶ )、ニューライフファンド売却の件および中期国債の募集申込みの件について上記のとおり判断される以上、会社の挙げる契約更新拒否の理由もまた、根拠が乏しいものといわざるを得ない。
なお、ニューライフファンド売却の件および中期国債の募集申込みの件については、上記のとおり、ことさら処分を行うべき行為ではないと考えられるが、X1としても、自分にも非があった点を自覚し、真摯に反省すべきであることはいうまでもない。
⑷ 結論
以上⑴ないし⑶を総合すれば、会社は、X1の組合加入を嫌悪し、さらにX1の加入勧誘のためにxx支店のミディらが組合の活動に関心を示し始めていたことに危機感を募らせ、X1を会社から排除することによって同人の影響力を排除するとともに、組合加入を検討しているミディへの抑止効果を狙って本件契約更新拒否を行ったものとみざるを得ない。
会社は、X1の組合加入直後に発生したニューライフファンド売却の件については厳重注意処分に止め、契約も更新しているのであるから、 X1の組合加入と契約更新拒否との間には何の関連もないと主張する。しかしながら、組合加入直後に契約更新拒否をしなかったからといって、上記判断が左右されるものではない。
よって、本件契約更新拒否は、X1の組合加入および組合活動を理由としてなされた不利益取扱いに当たるとともに組合の組織運営に対する支配介入にも当たる。
⑸ 救済の方法について
上記判断のとおり、本件契約更新拒否は不当労働行為に当たるのであるから、原職復帰と賃金相当額の遡及払いを含めて、契約更新拒否がなかったものとして取り扱うことを命ずることとする。
ただし、賃金相当額の算定に当たっては、実績により額の異なる実績手当については、本件契約更新拒否直前の3か月の平均額により算出するものとし、勤続年数により額の異なる業務手当、一時金については平
成4年7月1日以降原職復帰までの期間を勤続年数に算入して計算した額とする。
また、退職餞別金およびxx勤続表彰の取扱いについて、平成4年7月1日以降原職復帰までの期間を勤続年数に算入することを命ずることとし、厚生年金および厚生年金基金の加入期間が継続するよう所要の措置を講ずることを命ずることとする。
なお、申立人らは、賃金相当額に年6 分の金員を付加して支払うこと、組合とX1宛の謝罪文を掲示し、社内報に掲載することをも求めているが、救済は主文の程度で足りるものと思料する。
第3 法律上の根拠
以上の次第であるから、会社が、X1に対し、平成4年6月30日をもって婦人証券貯蓄係契約を更新しなかったことは、労働組合法第7条第1号および第3号に該当する。
よって、労働組合法第27条および労働委員会規則第43条を適用して主文のとおり命令する。
平成11年10月5日
xxx地方労働委員会 会長 xx x ㊞