LM ニュースレター Vol.4 平成25年5月
平成24年8月,期間の定めのある労働契約(以下,「有期労働契約」といいます)に関する労働契約法が改正されました。背景には,いわゆる非xx労働者の増加などがあります。今般の労働契約法の改正では,①一定の要件を満たした有期労働契約に係る労働者に対し,期間の定めのない労働契約(以下,「無期労働契約」といいます)への転換申込権を認めること(有期労働契約の無期労働契約への転換),②雇止めに係る判例法理の条文の創設,③期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止の3点が主要なポイントとなっています。
以下では,これらの改正の中でも実務上影響が大きいと思われ,平成25年4月1日に施行された上記①の有期労働契約の無期労働契約への転換の概要について解説します。
1 有期労働契約の無期労働契約への転換とは
(1)概要
改正労働契約法(以下,「法」といいます)は,同一の使用者との間で締結された2つ以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(以下,「通算契約期間」といいます)が5年を超える場合,労働者は,現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に使用者に対して,無期労働契約締結の申込みができ,使用者はこの申込みを拒絶できず,契約期間満了日の翌日を始期とする無期労働契約が成立すると定めています(法18条1項前段)。すなわち,有期労働契約が同一使用者との間に継続し,通算した期間が5年を超える有期労働契約を更新した時に転換申込権が発生するのであり,これが行使されることで,例えば期間1年の有期労働契約を更新しているとすると,5度目の更新をした段階でその契約期間満了時までに労働者から無期労働契約への転換の申込があった場合は,次期(7年目)の初日を始期とする無期労働契約が成立することになります。また,5度目の更新をした労働者が,その契約期間中(6年目)に転換申込をしない場合,次の更新以降でも転換申込が可能とされています。なお,期間3年の有期労働契約であれば,有期労働契約期間の通算期間が5年満了した時に転換申込権が発生するのではなく,2回目の契約更新時に転換申込権が発生することになりますので注意が必要です。
転換申込により新たに成立した無期労働契約の労働条件は,就業規則や個別の労働契約書において「別段の定め」をしない限り,(契約期間を除いて)従前の有期労働契約のものと同一の労働条件となります(同条同項後段)。正社員と同様の労働条件となったり,従前の有期労働契約の条件を引き上げることまでは要求されているものではありません。
(2)通算契約期間の計算,クーリング期間
通算契約期間が5年を超えることになるか否かが重要なポイントになりますが,同一使用者との間で締結された複数の有期労働契約である限り,これらの有期労働契約が間断なく更新されていなくても(=契約相互の間に空白期間があっても),通算の対象となるのが原則です。もっとも,法18条2項及びこれに関する省令は,この空白期間が一定の期間(クーリング期間)以上である場合,当該クーリング期間以前の有期労働契約は通算契約期間の算定に当たっては算入されないことを定めています。
すなわち,①1年以上の有期労働契約の期間が連続している場合には,6か月以上の空白期間が,②1年未満の契約期間が連続している場合には,当該期間の2分の1以上の空白期間が,それぞれあれば,当該空白期間以前の有期労働契約の期間は通算契約期間に算入されません。
(3)施行日との関係
有期労働契約の無期化の制度は,平成25年4月1日から施行されました(労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令)。施行日より前の日に開始されている有期労働契約の期間は,通算契約期間には算入されません。
2 実務上の留意事項
(1)「同一の使用者」とは
1(1)で述べたように,通算契約期間算入の対象となるのは,「同一の使用者」との間で締結された有期労働契約ですが,「同一の使用者」といえるか否かは,労働契約を締結する法律上の主体が同一であることいい,事業場単位ではなく,労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で,個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されます。なお,労働者派遣の場合,雇用契約は派遣元との間に存在していることから,派遣が継続している間,派遣先にとっては契約期間の通算は問題とならないのが原則です。
また,通達では,労働者に転換申込権が発生することを防止するために形式的に使用者が変更されているに過ぎない場合には,「同一の使用者」との間での労働契約が継続していると解される余地がある旨が指摘されており注意が必要です。例えば,従前と変わらない甲社への就労実態がありながら,使用者の名義のみを乙社とするような場合や,乙社が雇用をしつつ請負等に基づき甲社で従前と同様の業務を行う場合等が考えられます。
(2)使用者として対応すべき事項
有期労働契約の通算契約期間が5年を超え,転換申込権が行使されることで,無期労働契約が成立することになりますが,企業がとるべき対応としては以下のようなものがあります。
ア 就業規則等の整備
1(3)で述べたように,通算契約期間の算入の対象となるのは,平成25年4月1日以降を始期とする有期労働契約からですが,労働協約,就業規則あるいは個別の合意による「別段の定め」をしない限り,転換後の無期労働契約の労働条件は,雇用期間の点を除いて,従前の有期労働契約のそれと同一となると定められており(法18条1項後段),転換前の処遇がパートタイム・時給制であれば,それがそのまま引き継がれることになります。すなわち,これまでの企業にはなかった類型の労働者が多く生じることになるのであり,これらの労務管理をどのように行っていくかを想定しておく必要があります。
そこで,転換後の労働条件に関する「別段の定め」として就業規則により,ある程度画一的な管理・取扱いをするため,転換申込権行使により無期化した労働者用の就業規則を新たに設けることも考えられますが,その場合,勤務地や職種の限定,勤務時間の限定等について異なる定めを行うことなどが考えられます。もっとも,有期労働契約当時よりも賃金形態等に関し低い労働条件を定める場合,労働者から個別の同意を得ずに労働条件を不利益に変更することになり,就業規則の不利益変更に準じて,これを裏付ける合理性が必要であるとする見解もあり,紛争リスクを軽減化させる観点からはこの点にも留意が必要です。
イ 無期転換手続規程の整備
労働者が転換申込を行うための手続規程を就業規則等に定めることが考えられます。
転換申込権の行使方法については,法律上具体的な定めはなく,口頭による申込でもよいと解され,また,有期労働契約期間満了日前であれば申込権を行使できることとなっています。しかし,申込の有無を明確にし,後日の紛争を予防するためには,書面での申込を制度化することが合理的ですし,また,有期労働契約満了直前に申込がなされた場合には,採用や配置についての使用者の計画に支障を生じることが予測されますので,一定の行使期限を定めておくことも同様に理由があると思われます。
このような手続規程に反する申込がなされた場合に,使用者がこれに応ずる義務を負うか否かの判断は,個別の事情によるとともに,今後の事例の集積を待つ必要がありますが,手続規程の内容が合理的であり,労働者に周知されていたならば,これに従わない申込について使用者は応じる義務を負わないと考えられます。
ウ 無期労働契約への転換を望まない場合の対応
使用者としては,労働者の就労態度や実績等を考慮して,無期労働契約への転換を望まない場合がありますが,その場合どのような対応が考えられるでしょうか。
まず,予測していないところで転換申込権が発生してしまうようなことがないよう,有期労働契約の締結又は更新時において,同一使用者下での有期労働契約の過去の雇用の有無及び期間について正確に管理することが重要です。また,クーリング期間の制度を適切に活用して労務管理を行うことも有効です。
次に,転換申込権が発生する前の段階(有期労働契約期間中)で解雇することが考えられますが,これは厳しく制約されており,「やむを得ない事由」がない限り認められず(法17条1項),この「やむを得ない事由」は,無期労働契約の労働者を解雇する場合の要件である客観的合理性及び相当性(法16条)よりも厳格に解されています。
労働者から転換申込権が行使されると,これにより有期労働契約終了日の翌日から開始する無期労働契約が成立していることになるので,その後に,有期労働契約を期間満了日をもって終了させることは,通常の解雇権濫用法理の適用(法16条)の適用があり,これも容易には認められません。
更新時に,転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等,事前に転換申込権を放棄させることも考えられますが,特段の合理性(真意性)がない限り,公序良俗に反し無効と解されています。
では,当該労働者に係る契約期間満了時での通算契約期間が5年を超えない段階で更新を迎えた際,有期労働契約が期間満了により終了する際に更新を行わないこと,すなわち雇止めを行うことはできるでしょうか。今回の法改正により,有期労働契約に関する雇止めについては客観的な合理性及び相当性が必要であるという判例法理(雇止め法理)が明文化されていますので(法19条),雇止めとの関係では,使用者が労働者に対して,最長更新の限度期間を超える可能性があるとの合理的期待を発生させるような対応をしないことが重要です。そこで,例えば,有期労働契約の締結時に,予め更新の上限が通算5年であることを明示し,更新の都度その旨を明確にしている場合には,5年を超える雇用の継続を労働者が期待することは合理的とは言いにくいので,労働状況等個別の事情にはよるものの,雇止めが有効と認められる余地は十分にあると考えられます。
また,個別契約とは別に,有期雇用者に適用される就業規則において,5年を超えることとなる更新は行わない旨を定めておくことも考えられます。なお,かかる定めは就業規則にその旨を盛り込む改訂がなされた後に採用された者との関係では有効ですが,それ以前に採用されている者については就業規則の不利益変更との関係で個別の検討が必要になります。
(執筆者 弁護士 xx xx)
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