▼過去問 平成 16 年 問 2-D
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第 31 回目 労働契約&就業規則
▼傾向と対策
それでは第 31 回目の講義「労働基準法 労働契約&就業規則&労働契約法」の解説を進めていきます。
・労働契約は、個人と会社との雇用に関する契約。
・就業規則は、会社が作成する労働者に対するルールブック。
平成 20 年に創設された労働契約法は、労働契約や就業規則をより具体的にした法律です。関連する事項は、横断的に学習をしていく必要があります。
それでは、過去 10 年間の労働契約、就業規則に関する出題実積を確認していきます。
○平成 25 年
⇒契約違反(法 13 条)、契約期間の上限(法 14 条)
⇒就業規則の作成・届出(法 89 条)、就業規則の絶対的必要記載事項(法 89 条)
○平成 24 年
⇒契約期間途中での退職(法附 137)、有期労働契約(法 14 条)、労働条件の明示(法 15 条)
⇒就業規則の作成手続(法 90 条)
○平成 23 年
⇒契約期間の上限(法 14 条)、帰郷旅費(法 15 条)
⇒就業規則の作成・届出(法 89 条)、就業規則の絶対的必要記載事項(法 89 条)
●平成 22 年
⇒未出題
○平成 21 年
⇒契約違反(法 13 条)、労働条件の明示方法(法 15 条)
⇒就業規則の作成手続(法 90 条)、就業規則の必要記載事項(法 89)
○平成 20 年
⇒就業規則の作成・届出(法 89 条)、就業規則の作成手続(法 90 条)、
就業規則の相対的必要記載事項(法 89 条)
○平成 19 年
⇒選択式、有期労働契約(法 14 条)
○平成 18 年 ⇒契約期間途中での退職(法附 137)、有期労働契約(法 14 条)、 | 2 | |
労働条件の明示方法(法 15 条)、選択式 ○平成 17 年 ⇒就業規則に関する判例 ○平成 16 年 ⇒契約期間の上限(法 14 条)、契約期間途中での退職(法附 137)、有期労働契約(法 14 条) 労働条件の明示(法 15 条) ⇒就業規則の作成、届出(法 89 条)選択式 労働契約法の出題傾向は、平成 21 年に択一で 1 肢が出題され、平成 22 年~平成 25 年まで、1 問(5 肢)での出題になっています。(平成 24 年、25 年は、問 1 で出題) 本年度も出題の可能性が極めて高い科目です。 (平成 20 年施行なので、平成 21 年からの出題になります。)労働契約法に関しては、次回の労一で改めて解説します。 また、労務管理その他の一般常識の選択式は、労働契約法からの出題はないので、十分に注 意してください。 |
▼過去 10 年間の労働基準法と労務管理その他の一般常識の選択式実積
労働基準法 | 労務管理その他の一般常識 | |
平成 25 年 | 管理監督者 | 障害者雇用促進法 |
平成 24 年 | 管理監督者 派遣労働者 | 最低賃金法 |
平成 23 年 | 年次有給休暇 賃金 | 日本企業の賃金の沿革 |
平成 22 年 | 年次有給休暇 判例 | 男女雇用機会均等法 |
平成 21 年 | 使用者の定義賃金 休業手当 | 労働組合法 労働関係調整法 |
平成 20 年 | 労働者派遣公民権行使 就業規則 | 労働経済(最低賃金) |
平成 19 年 | 労働条件 | 社会保険労務士法 (本来ならば、社一の範疇) |
平成 18 年 | 解雇 裁量労働制 労働契約(期間) | 労働者派遣法 |
平成 17 年 | 裁量労働制 派遣 | 労働経済(女性の労働力) |
平成 16 年 | 就業規則 | 労働経済(労働力人口) |
平成 15 年 | 労働者派遣 | 男女雇用機会均等法 |
平成 14 年 | 36 協定 | 労働組合法 |
平成 13 年 | 36 協定 | 労務管理(テーラー等) |
平成 12 年 | 事業外労働 | 労働経済(賃金) 労務管理(X・Y理論) |
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☑平成 12 年以降、記述式から選択式に変更になっています。
同時に「労働に関する一般常識」から「労務管理その他の一般常識」に変更になったので、平成 12 年、13 年は労務管理に関する問題が出題せれています。
▼銭形社長と総務部にいる社労士を目指すxxxxxとの会話
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「xxxxx、就業規則を変更しようと思うんだが、段どりしてくれないか。」
「社長、わかりました。就業規則の変更を社長が言いだすなんて珍しいですね。」
「前から考えていたんだが、食事手当を半分にしようと思うんだ。どうかな?」
「半分に減らす?」
「そうだ。以前は外に飯を食べに行ったり、弁当を買ってきたりしていたけど、最近はみんな弁当を持って来ているからな。」
「確かにそうですけど・・・」
「そうか。分かってくれたか。来月からでも、実行だ。善は急げ。」
「社長が言うと、銭は急げに聞こえますけど(笑)。
今回の就業規則の変更は、従業員にすれば、不利益変更注①になるので、会社が一方的に変更することは出来ません。」
「不利益変更って、会社にしてみれば、利益変更だ。」
「社長、それは・・・。」
「今のは冗談だけど、変更できないなんて余りに窮屈だな。」
「確かに会社から見ればそうですけど、労働基準法は労働者を守る法律ですから。」
「xxxxx、どうすればいい。xxxxはないのか?」
「就業規則や賃金規定を不利益に変更することは、原則出来ません。ただし、
・ 労働者が被る不利益の程度
・ 使用者側の変更の必要性の内容・程度
・ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
等々を考慮して、従業員にしっかり説明をし納得してもらえれば、可能性はありますけど。」
「そうか、食事手当を半分にするだけでも面倒だな。」
「そうですよ。会社の業績が悪いわけでもないですし、社長の単なる思い付きなら、中止です。」
「そうだな。ただ、もし実行しようとすればどうすればいい?」
「食事手当を減らした分を他の手当等に上乗せして、給料の全体では従来と同じにすれば、問題ないです。ただし、合意が必要ですけど。」
「と言うことは、今までと経費は同じだな。」
「ただ、時代とともに手当の中身も変わるので、社長の提案通り食事手当は減らして、新たに他の手当を作成したりすれば、前向きな改善になりますよ。」
「そうだな、よし、善は急げだ。」
「わかりました。」
☑ [注① 不利益変更]
●労働基準法には、就業規則に関する不利益変更の条文はない。 5
●労働基準法を補完する労働契約法 9 条には、「就業規則による労働契約の不利益変更」に関する条文なり。
⇒労働契約法 9 条
(原則)「労働者と合意なしに、労働者に不利益な労働条件とする就業規則の変更は、原則としてできない。」(労働者の合意を得られれば、変更可能)
(例外)…労働者との合意なしに変更が可能な場合
・変更後の就業規則を労働者に周知 かつ
・下記の事情により就業規則の変更に合理性が認められる場合
具体的事情 | |
① | 労働者の受ける不利益の程度 |
② | 労働条件の変更の必要性 |
③ | 変更後の就業規則の内容の相当性 |
④ | 労働組合等との交渉の状況 |
☑不利益変更に関する判例
⇒秋北バス事件 最高裁判決
新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない。(⇒合理性があれば、同意なしの変更も可能)
⇒xx市農業協同組合事件 最高裁判決
賃金のような重要な労働条件の変更について、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合には、その効力を生ずる。
⇒第四銀行事件 最高裁判決
定年を延長する代わりに給与が減額された場合において、その合理性の有無の判断に当たっては、
①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
⑤労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合又は他の従業員の対応
⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
⇒みちのく銀行事件 最高裁判決
賃金体系の変更により大幅な不利益を生じさせる場合には、一方的に不利益を受ける労働 6
者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに一部の労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。
一部の労働者が被る不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労働組合の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。(労働組合の同意は、大きな考慮要素でない。)
▲過去問 平成 25 年
【問題】使用者が社内の多数労働組合の同意を得て就業規則を変更し、55 歳以降の賃金を 54 歳時よりも引き下げつつ、定年年齢を引き上げた事案について、本件就業規則の変更は、多数労働組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから、変更後の就業規則の内容は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性等にかかわ らず、労使間の利益調整がされた結果として合理的なものとみなすことができるとするのが
最高裁判所の判例である。
【解答】誤り
⇒「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性等にかかわらず」の箇所が誤り。一般的状況等を総合考慮して判断すべきと言うのが判例(第四銀行事件)の趣旨です。
▼労働基準法と労働契約法の相違点まずは、目的条文から確認します。
【労働基準法 法1条(原則)】
①労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
めなければならない。
②この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努
【労働契約法 法 1 条(目的)】
合理的
この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、
護
な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
▼労働基準法と労働契約の相違点まとめ
労働基準法 | 労働契約法 | ||
制定年月日 | 昭和 22 年 | 平成 20 年 3 月 | |
強行性 | あり ⇒強行法規として罰則により取り締まる性質 | なし ⇒任意法規であり、罰則はない。 | |
労働者の定義 | (法 9 条) 労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者をいう。 | (法 2 条) この法律において労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。 ⇒請負や委任で労務提供する者も、労働基準法では労働者に含まれませんが、労働契約法では労働者として扱う こととなっています。 | |
使用者の定義 | (法 10 条) 使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他の事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者 ⇒労働基準法では、人事部長など一定の管理監督者も使用者に含ま れる。 | (法 2 条) この法律において使用者とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。 ⇒労働契約法では、労働者と労働契約を締結する者を使用者と称します。 |
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▼労働契約法が制定された背景及び趣旨(厚生労働省参照)
(1) 背景及び趣旨
労働関係を取り巻く状況をみると、就業形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定され、又は変更される場合が増加するとともに、個別労働関係紛争が増加しています。
しかしながら、我が国においては、最低の労働基準については労働基準法に規定されているが、個別労働関係紛争を解決するための労働契約に関する民事的なルールについては、民法及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法は存在していませんでした。
このため、個別労働関係紛争が生じた場合には、それぞれの事案の判例が蓄積されて形成された判例法理を当てはめて判断することが一般的となっていましたが、このような判例法 理による解決は、必ずしも予測可能性が高いとは言えず、また、判例法理は労働者及び使用者の多くにとって十分には知られていないものでした。
一方、個別労働関係紛争の解決のための手段としては、裁判制度に加え、平成13年10
月から個別労働関係紛争解決制度が、平成18年4月から労働審判制度が施行されるなど、
手続面における整備が進んできたところです。
このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの 8
必要性が一層高まり、今般、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例 法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、労働契約法が制定されました。
▼それでは、労働基準法 13 条の労働基準法違反の労働契約を確認していきます。
労働基準法違反の労働契約(法 13 条)
『労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
この場合において、無効となった部分は、労働基準法で定める基準による。』
☑上記の条文は、「部分無効自動引き上げ」と言う考えになります。
⇒労働基準法は、労働条件の最低基準を定めている。
⇒労働基準法の基準を下回る場合、その下回る部分だけ労働基準法に引き上げられる。
▼次に、契約期間等(法 14 条 1 項)を確認します。
『労働契約は、期間の定めのないもの注①を除き、一定の事業の完了に必要な期間注②を定めるもののほかは、3 年(次のいずれかに該当する労働契約については 5 年)を超える期間について契約をしてはならない。
①専門的な知識、技術又は経験(「専門的知識等」という)であって、高度のものとして、厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る注③。)との間に締結される労働契約
②満 60 歳以上注④の労働者との間に締結される労働契約(①に掲げる労働契約を除く。)』
☑[注① 期間の定めのないもの]
⇒サラリーマンなど。サラリーマンには、定年制はあるけど、労基法上は、「期間の定めのないもの」として扱います。
☑[注② 一定の事業の完了に必要な期間]
⇒具体的には、ダム工事や有期的な建設の事業。事業が行われる期間であれば 10 年でも 20年でも契約可能。
☑[注③ 当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る]
①高度の専門的知識
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当該専門的知識を必要とする業務に就く
①、②の要件が揃って、初めて 5 年の契約が可能
①だけでは、3 年に
⇒例えば、社会保険労務士の資格を持ちながら、営業の仕事であれば、契約期間は上限の 3年間になります。(高度の専門的知識を必要とする業務に就いていない)
☑[注④ 満 60 歳以上]
業務の内容を問わず 5 年
満 60 歳以上の労働者
⇒例えば、58 歳の時には、3 年契約しか出来ないが、契約更新時の 61 歳の時には、5 年契約が可能
▼契約期間のまとめ
契約期間 | ||
期間の定めなし | なし | |
期間の定めあり | 一定の事業の完了に必要な期間 | 事業が行われる期間 |
上記以外 | (原則)…3 年 | |
(例外)…5 年 |
▼専門的知識等で高度なものとは
①博士の学位を有する者
②公認会計士、医師、歯科医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士、弁理士
③システムアナリスト試験合格者、アクチャリー試験合格者
④登録意匠創作者
⑤「農林水産業、鉱工業、機械・電気、土木・建築」の技術者、システムエンジニアリング、デザイナー、システムコンサルタントで支払われることが確実に見込まれる賃金額を 1 年あ
たりの額に換算した額が 1,075 万円を下回らないもの
⑥国、地方公共団体等により、その有する知識が優れたものと認定されている者 10
▼次に、法附則 137 条の「有期契約の場合の契約の途中解除」に関して解説します。まず、民法(628 条)から、
『当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由注①があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一 方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。』
⇒裏返せば、民法では、「やむを得ない事由がなければ、有期雇用契約を途中で解約すること(退職、解雇)はできない。」と言うことになります。
☑[注① やむを得ない事由]
(労働者側…退職)
・会社が労働者の生命・身体に危害を及ぼす労働
・法令違反の業務を命じたとき
・賃金の不払いなどの重大な契約違反があったとき
・労働条件が当初の契約と違ったとき
・家族の介護、配偶者の転勤、長期療養が必要な傷病に罹ったとき等々
(会社側…解雇)
・天災事変等で操業が出来ない場合
⇒上記のような、「やむを得ない事由」が無いのに中途解約する場合は、双方ともに、損害賠償を請求することが可能です。また、やむを得ない事由があっても、一方の過失によって生じたものであるときは損害賠償の請求ができます。
☑上記の民法 628 条を修正したのが、労働基準法 法附則 137 条
『期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定める者を除き、その期間が 1 年を超えるものに限る。)を締結した労働者(法 14 条 1 項①、②に規定する労働者を除 く)は、民法 628 条の規定に係らず、当該労働契約の期間の初日から 1 年を経過した日以後においては、使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
⇒労働基準法法附則 137 条は、民法で対応すると労働者に過度の負担を強いるので、民法を修正した規定になります。
つまり、1 年を経過すれば、「やむを得ない事由」がなくても、任意退職は可能になります。 1 年を経過せずに「やむを得ない事由」もなく、退職した場合には、会社は損害賠償を労働者に請求することは可能ですが、あくまで法律の話です。(現実は、話し合いです。)
●上限が 3 年の者
期間の定めのある労働契約(3 年間) 11
1 年間
民法の適用あり 民法 628 条が適用されない
↓ ↓
やむを得ない事由がないと 契約解除可能損害賠償請求あり
●5 年契約の締結が可能な場合(①高度の専門的知識 ②満 60 歳以上の労働者) 5 年契約
この期間、法附則 137 条の適用はない
⇒つまり、5 年で契約可能な場合の中途での契約解除は、民法 628 条での処理になります。
☑上記に関連する労働契約法(法 17 条)の条文です。
(契約期間中の解雇等)…使用者側の規定
『①使用者は、期間の定めのある労働契約(「有期労働契約」)について、やむを得ない事由 がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
②使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。』
▼過去問 平成 16 年 問 2-D
【問題】
一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、1 年を超える期間の定めのある労働契約を締結した労働者(労働基準法第 14 条第 1 項各号に規定する労働者を除く。)は、民法第 628 条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から 6 か月を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
【解答】誤り
⇒「6 か月を経過した日以後」を「1 年を経過した日以後」にすれば正しい。
▼過去問 平成 18 年 問 7-D
【問題】 12
平成 16 年 5 月に満 60 歳の誕生日を迎えたある労働者が、同年 8 月に 3 年の期間を定めた労働契約を締結した場合において、本年(平成 18 年)8 月に他の有利な条件の転職先をみつけて退職することを決意した。この場合、当該労働者は、労働基準法第 137 条の規定により、当該使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
【解説】誤り
⇒満 60 歳以上の場合、法附則 137 条は適用しない。
▼過去問 平成 24 年 問 2-C
【問題】
満 60 歳以上で薬剤師の資格を有する者が、ある事業場で 3 年の期間を定めた労働契約を締結して薬剤師以外の業務に就いていた場合、その者は、民法第 628 条の規定にかかわらず、
労働基準法 法附則 137 条の規定に基づき、当該労働契約の期間の初日から 1 年を経過した
日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
【解答】誤り
⇒満 60 歳以上の場合、法附則 137 条は適用しない。
⇒設問の場合、3 年の期間とありますが、満 60 歳以上の契約は、上限が 5 年なので、3 年もその範囲に含まれます。
▼つぎに、労働基準法 14 条 2 項 3 項の契約期間等に係る基準等を確認していきます。
『②厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべ
基準
き労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についてのめることができる。
注①を定
③行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
☑[注① 基準]⇒【有期労働契約の基準(平 24.10.26 厚生労働省告示第 551 号)】
①雇止めの予告
使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を 3 回以上更新注①し、又は雇入れの日
から起算して 1 年を超えて継続勤務している者注②に限り、あらかじめ当該契約を更新しな
い旨、明示している場合を除く。)を更新しない場合には少なくとも契約期間の満了する 30日前までに、その予告をしなければならない。
☑[注① 3 回以上更新]⇒予告必要
雇入れ 更新 更新しない←予告不要(2 回目なので)
▼ 1 回目 ▼ 2 回目 ▼
雇入れ 更新 更新 更新しない←予告必要
▼ 1 回目 ▼ 2 回目 ▼ 3 回目 ▼
☑[注② 雇入れの日から起算して 1 年を超えて継続勤務している者]雇入れ 1 年
▼ ▼
⇒更新しない場合予告必要
②雇止めの理由の明示
(1)前記①において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請 求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
(2)期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合に、使用者は、労働者が更新しな かった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
③契約期間についての配慮
使用者は、期間のある労働契約(当該契約を 1 回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算 して 1 年を超えて継続勤務している者に限る。)を更新する場合、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じ、契約期間をできるだけ長くするように努めなければならない。
▼過去問 平成 16 年 問 20-E
【問題】
有期労働契約基準において、使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を 3 回以上 更新し、又は雇入れの日から起算して 1 年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の 30 日前までに、その予告をしなければならないとされている。
【解答】正解
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▼過去問 平成 19 年 問 4-D
【問題】
ある使用者が、その期間が 3 か月の労働契約を 2 回更新し、3 回目を更新しないこととし た。その場合には、労働基準法第 14 条第 2 項の規定に基づく「有期労働契約の締結、更新
及び雇止めに関する基準」によれば、少なくとも当該契約の期間の満了する日の 30 日前ま
でに、その予告をしなければならない。
【解答】誤り
⇒設問は、更新が 2 回、期間が 6 月のため、予告は不要です。
▼過去問 平成 24 年 問 2-A
【問題】
労働基準法第 14 条第 2 項の規定に基づく「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関す
る基準(平成 15 年厚生労働省告示第 35 号)」によると、期間が 2 か月の労働契約(あらか じめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。)を 3 回更新し、4 回目に更新しないこととしようとする使用者は、少なくとも当該契約の期間の満了する日の 30 日前までに、その予告をしなければならない。
【解答】正解
▼それでは、次に労働条件の明示に進みます。法 15 条(労働条件の明示)
『使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。』
【労働条件の絶対的明示事項】
①労働契約の期間に関する事項
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間・休日・休暇、労働者を2組以上の分けて交替に就業させる場合における就業時転換に関する事項
⑤賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切・支払の時期、昇給に関する事項
⑥退職に関する事項 (解雇の事由を含む)
※②に関しては、平成 25 年 4 月 1 日施行
※⑤の「昇給に関する事項」以外の事項は、必ず書面による交付が必要になります。
※「賃金」に関する事項は、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規
定されている賃金等級が表示されたもので明示しても構わない。(通達) 15
【相対的必要記載事項】
⑦退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法、退職手当の支払いの時期に関する事項
⑧臨時の賃金等(退職手当を除く)、賞与及ぶ賞与に準じる賃金並びに最低賃金額に関する事項
⑨労働者に負担させる食費、作業用品等に関する事項
⑩安全及び衛生に関する事項
➃職業訓練に関する事項
⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑬表彰及び制裁(種類及び程度)に関する事項
⑭休職に関する事項
※⑦~⑭は口頭でも構わない。
▼労働基準法の労働契約の即時解除と帰郷旅費に進みます。
『②「労働条件の明示の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から 14 日以内に帰郷 する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。』
☑上記の帰郷旅費と関連するのが、法 64 条の年少者の帰郷旅費ただし、14 日以内が共通で内容は異なります。
『満 18 歳に満たない者が解雇の日から 14 日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。』
▼それでは、法 89 条の就業規則を確認していきます。
『常時 10 人以上注①の労働者を使用する使用者は、所定の事項について就業規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。
所定の事項を変更した場合においても、同様とする。』
☑[注① 常時 10 人以上]
⇒企業単位ではなく、事業単位で作成する必要がある。
⇒一時的に 10 人未満でも、10 人以上使用することが
【就業規則の絶対的必要記載事項】
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を 2 組以上に分けて交替に就業 16
させる場合においては就業時転換に関する事項
②賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
【相対的必要記載事項】
④退職手当を定める場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
⑤臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
⑥労働者の食費、作業用品等に関する事項
⑦安全及び衛生に関する事項
⑧職業訓練に関する事項
⑨災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑩表彰及び制裁(種類及び程度)に関する事項
➃そのほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される事項
☑法 15 条の労働条件の明示との相違点
下記の項目は、就業規則の絶対的必要記載事項には含まれません。
(法 15 条 労働契約の明示では、必要記載事項)
①労働契約の期間に関する事項
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
④所定労働時間を超える労働の有無
⇒上記①~④は、すべて労働者個人に関する内容なので、xx的に作成する就業規則には馴染みません。
▼法 90 条の(作成の手続)に進みます。
『使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
▼第 91 条(制裁規定の制限)
『就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額 17
が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が 1 賃金支払期における賃金の総額の 10 分の1を超えてはならない。』
▼法 92 条(法令及び労働協約との関係)
『①就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。』
②行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。』
▼法 93 条(労働契約との関係)
『労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第 12 条の定めるところによる。』
▼労働契約法 法 12 条(就業規則違反の労働契約)
『就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。』
⇒無効となるのは、就業規則に達しない部分だけです。
▼労働契約法 法 13 条(法令及び労働協約と就業規則との関係)
『就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、
⇒当該反する部分については、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。』
▼最後に、平成 19 年と平成 16 年の選択式の問題です。
【問題】平成 19 年
労働基準法第 13 条においては、「この法律で定める基準
労働条件を定める労働契約
は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で
定める基準による。」と規定されている。
C
【解答】
C:に達しない
【問題】
労働基準法第 92 条においては、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される
に反してはならないとされており、また、同法第 93 条においては、就業規則に定める基準 労働条件を定める は、その部分については、無効とされ、この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準によるとされている。
C
B
A
【解答】 A:労働協約 B:達しない
C:労働契約
☑「法令(労働基準法、民法等)」⇒「労働協約」⇒「就業規則⇒「労働契約」。 18
まとめ
今回は、労働基準法と労働契約法に関して、共通する箇所を横断的に確認していきました。労働契約法に関しては、最近頻出科目なので、改めて、次回の労一の時に解説していきます。
それでは、次回は労働者災害補償保険法です。
(労働安全衛生法は、選択式対策としての条文及び数字をしっかり押さえてください。)