Contract
第3章 働く前・雇う前に
労
働
契
約
に
つ
い
て
1 労働契約とは
労働者が就業する場合には、賃金、労働時間その他の労働条件について使用者と契約を結びますが、この契約のことを労働契約といいます。
労働契約に関する基本的事項については、労働契約法に定められています。
2 労働契約の基本ルール
① 労働契約は、労使対等の立場における合意に基づき締結・変更することが原則です。またその際には、就業の実態に応じた「均衡」を考慮し、「仕事と生活の調和」に
配慮しなければなりません(労xx第3条第1項~第3項)。
② 使用者は、労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするとともに、出来る限り書面により確認してください(労xx第4条)。
③ 使用者は、労働契約に伴い、労働者の生命や身体などの安全が確保されるように配慮する必要があります(労xx第5条)。
3 労働契約と就業規則との関係
① 労働契約に詳細な労働条件が定められていない場合で、使用者が合理的な労働条件を定めている就業規則を労働者に周知させていた場合には、その労働条件は就業規則に定められた内容となります。一方、就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた場合には、合意の内容が就業規則で定める基準に達していない場合を除き、その 合意が優先します(労xx第7条、第12条)。
② 就業規則の規定が法令や労働協約に反する場合は、当該規定は労働者の労働条件にはなりません(労xx第13条)。
③ 使用者が一方的に就業規則を変更することにより、労働者に不利益となる労働
条件に変更することはできません(労xx第9条)。使用者が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次のことが必要です(労xx第10条)。
ア 労働者に変更後の就業規則を周知させること
イ 就業規則の変更が、以下の事情などに照らして合理的であること
(a) 労働者の受ける不利益の程度 (b) 労働条件の変更の必要性
(c) 変更後の就業規則の内容の相当性 (d) 労働組合等との交渉の状況
4 労働契約の継続及び終了
権利の濫用と認められる出向命令、懲戒、解雇は無効となります(労xx第14条 ~第16条)。
5 期間の定めのある労働契約と無期転換ルール
① 使用者は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまで、労働者を解雇することができません。(労xx第17条第1項)
② 使用者は、有期労働契約によって労働者を雇い入れる場合、その目的に照らして、必要以上に契約期間を短くし、その契約を反復更新することのないよう配慮しなければなりません。(労xx第17条第2項)
③ 無期転換ルール<期間の定めのない労働契約(無期労働契約)への転換>
同一の使用者との間で、有期労働契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合は、労働者の申込みにより、申込み時の有期労働契約の終了日の翌日から無期労働 契約に転換します。(労xx第18条)
無期労働契約へ転換後の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定め(労働協約、就業規則、個々の労働契約)がない限り、申込み時の有期労働契約と同一となります。
なお、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に契約がない期間が6か月以上あるときは、原則として、その無契約期間より前の有期労働契約は通算しません。これをクーリングといいます。
<無期転換申込ができる場合(例)>
<無期転換申込ができない場合(例)>
クーリング
ただし、無契約期間以前の通算契約期間が1年未満の場合は、次の表の左欄の通算契約期間の区分に応じて、右欄の無契約期間がある場合に、当該無契約期間以前の契約期間は通算されないこととなります。
通算の対象となる有期労働契約の契約期間 | 契約がない期間 |
2か月以下 | 1か月以上 |
2か月超~4か月以下 | 2か月以上 |
4か月超~6か月以下 | 3か月以上 |
6か月超~8か月以下 | 4か月以上 |
8か月超~10か月以下 | 5か月以上 |
10か月超~ | 6か月以上 |
※ 無期転換のルールの特例
1 研究者、教員等
一定の大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの通算契約期間が10年超となります。
2 専門的知識等を有する有期雇用労働者等
以下の労働者は、事業主が「雇用管理に関する措置についての計画」を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた場合、認定を受けた日以降、無期転換申込権は発生しません。ア 高度専門職
1年間当たりの賃金の額に換算した額が、1,075万円以上で、高度な専門的知識等を有し、5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務に従事する有期雇用労働者(無期転換申込権が発生しない期間の上限は10年です)。
イ 継続雇用の高齢者
定年後に有期労働契約で継続雇用される高齢者
制度の詳細は、厚生労働省のホームページ「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」をご覧ください。 xxxxx://xxxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxx/xxxxxxx.xxx
④ 有期労働契約の更新等(「雇止め法理」の法定化)
次のいずれかの有期労働契約について、労働者が契約の更新を申し込んだ場合又は期間満了後に遅滞なく有期労働契約の締結を申し込んだ場合に、使用者がこれを拒絶することが、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、使用者は従前の有期労働契約と同一の労働条件でその申込を承諾したものとみなされます。
ア 有期労働契約が過去に反復更新され、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる場合
イ 労働者が有期労働契約の契約期間満了時に、契約が更新されると期待することに合理
的な理由が認められる場合
なお、雇止めをする際には、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に基づき、使用者は次の措置を講じなければなりません。
ア 雇止めの予告
当該契約期間の満了する日の30日前までに雇止めの予告をすること
※ 雇止めの予告が必要な有期労働契約とは、1年を超えて継続雇用している場合又は3回以上契約が更新された場合です。契約を更新しないことがあらかじめ明示されている場合は対象になりません。
イ 雇止めの理由の明示
使用者は、雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく交付すること
※ 雇止め後に労働者から請求された場合も同様です。
6 労働契約の期間
契約期間に定めのある労働契約(有期労働契約)の期間は、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、原則として上限は3年です。なお、専門的な知識等を有する労働者や、満60歳以上の労働者との労働契約の期間は上限が5年とされています(労基法第14条)。
7 労働条件の明示
使用者は、労働者と労働契約を結ぶ際には、賃金、労働時間などの労働条件を労働者に明示しなければなりません(労基法第15条第1項)。
これは、労働者が予期に反して低い労働条件で労働を強いられることのないようにするためや、就職後のトラブルを防ぐためのものです。
明示しなければならない事項は次のとおりです(労基法施行規則第5条)。
① 労働契約の期間に関する事項
② 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
③ 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
④ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制勤務をさせる場合における就業時転換に関する事項
⑤ 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払方法、締切り及び支払時期並びに昇給に関する事項
⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
上記以外にも、退職手当や賞与に関する規定、安全衛生に関する規定、表彰や制裁、休職に関する規定などがある場合には、明示しなければなりません。明示の方法としては、①~⑥の事項(昇給に関する事項を除く。)は、これまで書面の交
付に限られていましたが、2019(平成31)年4月1日から、労働者が希望した場合は、以下の方法で明示することができるようになりました。
ア FAX
イ Eメール、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービスウ LINE、メッセンジャー等のSNSメッセージ機能 等
※ 出力して書面を作成できるものに限られます。なお、労働者の個人的な事情によらず、一般的に出力可能な状態であれば、出力して書面を作成できると認められます。
①~⑥の事項(昇給に関する事項を除く。)以外は、口頭によることもできますが、後日のトラブルを未然に防止するためには、書面を交付する方法で行うことが望ましいです。 パートタイム・有期雇用労働者においては、上記の①~⑥に加えて、⑦ 昇給の有無、⑧退職手当の有無、⑨ 賞与の有無、⑩ パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口についても、書面にて明示しなければなりません。
(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項、施行規則第2条)
厚生労働省では、『使用者は、最小限必要と考えられる事項及び内容を記載した「労働条件通知書」を作成するように努めること』としています。
詳細は、厚生労働省のホームページをご覧ください。 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxx00/
使用者が「労働条件通知書」を作成し、労働者に交付すれば、労働条件を明示したことになり、労基法を遵守したことになります。
なお、明示された労働条件と事実が相違している場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます。また、就業のため住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、使用者は、必要な旅費を負担しなければなりません。
(労基法第15条第2項、第3項)
8 禁止事項
使用者は労働契約を結ぶに当たり、次の事項を条件としてはいけません。
① 賠償予定の禁止
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしてはいけません(労基法第16条)。
② 前借金相殺の禁止
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺することはできません(労基法第17条)。
③ 強制貯金の禁止
使用者は、強制的に貯金をさせるような契約をすることはできません。 (労基法第18条第1項)
④ 黄犬契約の禁止
使用者は、労働組合に加入しないことや労働組合を脱退することを雇用の条件としてはいけません(労組法第7条第1項)。