Contract
労働契約法について
最近、「労働契約法」が施行されたと聞きましたが、この労働契約法はどのような内容を定めているのでしょうか。
平成19年11月28日、「労働契約法」が成立し、本年3月1日から施行されています。
労働契約法は、労働契約や解雇など個別の労働関係について基本的なルールを定めた法律です。
この労働契約法は、国家公務員、地方公務員、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については適用されず、船員法の適用を受ける船員については一部適用されない部分があります(18条、19条)。
1 労働者、使用者とは
「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいい、「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいいます(2条)。
請負や委任の形式をとる契約を締結した場合であっても、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる」という関係にあると認められる場合には、労働契約法が適用されることになります。
2 労働契約の基本ルール
労働契約の締結や変更に当たっては、労使の対等の立場における合意によるのが原則とされ(3条1項)、「均衡」や、「仕事と生活の調和」に配慮しなければならないものとされ(3条2項、3項)、労働契約の内容の理解の促進のため、できる限り書面で確認すべきものとされています(4条2項)。
労働者と使用者は、xxに従い誠実に行動しなければならず、権利を濫用してはなりません。(3条4項、5項)
使用者の側には、労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすること(4条1項)、労働者の生命や身体などの安全が確保されるように配慮すること(5条)が求められます。
3 労働契約の締結
労働者と使用者が、「労働すること」「賃金を支払うこと」について合意すると、労働契約が成立します(6条)。
労働契約において、労働条件を詳細に定めなかった場合でも、就業規則が定められている場合には、労働条件は原則として就業規則により定められることとなります。
即ち、 労働者と使用者が労働契約を結ぶ場合に、使用者が①合理的な内容の就業規則を②労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が、労働者の労働条件になります(7条本文)。
なお、上記の「労働者に周知させていた」といは、労働者がいつでも見られる状態にしていたことを意味するものであり、使用者が就業規則を机の中にしまっていて、労働者が見たくても見られない場合などは、労働者に周知されていませんので、その就業規
則は労働者の労働条件にはなりません。
労働契約において、労働者と使用者が就業規則とは違う内容の労働条件を個別に合意していた場合には、その合意していた内容が労働者の労働条件になりますが(7条ただし書)、その合意していた労働条件が就業規則を下回っている場合には、労働者の労働条件は、就業規則の内容まで引き上がります(12条)。
4 労働契約の変更
労働契約を変更(その多くは労働条件の変更)する場合、労働者と使用者との間で変更の合意をすることが必要です(8条)。
使用者が、労働者との合意によらず、就業規則を一方的に変更することにより労働条件を不利益に変更することは原則としてできません(9条)。
但し、以下の条件を満たす場合には、例外的に、使用者が就業規則を一方的に変更することにより労働条件を不利益に変更することが可能となります(10条)。
① その変更が、以下の事情などに照らして合理的であること。
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
② 労働者に変更後の就業規則を周知させること。
以上の労働条件の不利益変更に関する規定は、これまでの判例が確立してきた考え方を条文化したものとされていますが、判例上、以上の考え方は、主として強い雇用保障の下にある正社員について適用されてきたものです。
ですから、期間雇用者やパートタイマーなどの非xx社員について、使用者が労働条件を不利益に変更する場合にまで、上記10条の各要件を満たす必要があるかどうかについては疑問が持たれているところであり、今後の実務の運用が着目されています。
就業規則の変更が上記①②の要件を満たす場合であっても、当該労働者との間で、就業規則に変更があっても変更されないものと合意していた部分がある場合には、その部分については、当該労働者との関係で就業規則により労働条件を変更することはできません(10条ただし書)。
5 労働契約の継続及び終了
出向命令、懲戒処分、解雇について、労働契約法では一定の制限を設けています。これらの事項は労働者に与える影響が大きいことからトラブルになることが多いものですので、慎重に判断する必要があるでしょう。
(1) 出向命令の制限
出向命令について、その出向が必要であるか、対象労働者の選定が適切であるかなどの事情を総合的に考慮して、権利濫用と認められる出向命令は、無効とされます(1
4条)。
(2) 懲戒処分の制限
懲戒処分について、懲戒の原因となる労働者の行為の性質や態様などの事情を総合的に考慮して、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権の濫用として無効とされます。(15条)。
(3) 解雇の制限
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用として無効とされます。(16条)
6 有期労働契約
パートタイム労働者等について実務上多く用いられている有期労働契約(一定の契約期間を定めた労働契約)について、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまで、労働者を解雇することができないものとされています(17条1項)。
また、短期間についての契約更新の繰り返しがなされると、有期労働契約者の立場が不安定になるため、使用者は、有期労働契約によって労働者を雇い入れる目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより契約更新を繰り返すようなことにならないよう配慮しなければならないとされています(17条2項)。