消費者支援機構関西(KC’s)は特定適格消費者団体でもあり、情報が提供された際には差止めと被害回復の両方の検討委員会で検討しているので、情報の共有をスムーズに 行うことができると有難い。
第5回 消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会議事要旨
1.日 時:令和元年6月27日(木)13:00~15:00
2.場 所:中央合同庁舎第4号館共用第3特別会議室
3.議題
1)五條操弁護士へのヒアリング
2)「平均的な損害の額」について
3)意見交換
4.出席者
(委員)
山本委員(座長)、沖野委員(座長代理)、垣内委員、黒沼委員、角田委員、髙橋委員、西内委員、室岡委員
(事務局)
高田政策立案総括審議官、加納消費者制度課長
(オブザーバー)
国民生活センター、法務省、最高裁判所
(ヒアリング対象者)五條操弁護士
5.議事概要
五條操弁護士からの説明及びこれに対する質疑応答を実施、続いて事務局から各資料について説明を行った後、委員間で意見交換を実施した。概要は以下のとおり。
【五條操弁護士の説明・質疑応答】
○ 五條操弁護士から、資料1に基づき説明。
○ 資料1の2頁に「消費者契約においては、消費者の脆弱性も相まって、取消事由に至らないものも含め不当な勧誘が行われやすく、少額大量契約であること等の特質から、その是正(とりわけ悪質事業者がそれを躊躇する程度まで行われること)が容易でない。それが行き着くところまで行った例が、
定期購入の問題」と書かれているが、「定期購入の問題」は具体的にどのような例なのか。
○ 消費者契約において、事業者は、いろいろな手段を使って、とにかく契約させようとする。定期購入に関しては、事業者は、消費者が誤認するであろうことを織り込み済みのような形で広告を使って、とにかく契約をさせてしまう。そして、例えば5回の定期購入であれば、5回は必ず対価を支払わなければいけないということで契約の拘束力を利用し、あるいは解約の制限等を誤認させて契約の拘束力を強めることによって、消費者から不当な利益を得ることが横行している。適格消費者団体や消費者センターが受けている相談には、定期購入の問題が非常に多い。適格消費者団体も事業者に対し表示をやめるよう求める等しているが、イタチごっこになって解決が難しい状態になっており、紹介させていただいた。
○ 資料1の10頁に記載されている裁判例について、どのような類型が多いのか。また、問題が大きく、今後訴訟になる可能性があるものとして想定している類型があれば教えていただきたい。
○ 資料に記載の裁判例は、消費者庁のホームページに掲載されているものを機械的にピックアップしたものであり、選別したものではないが、冠婚葬祭、挙式、在学契約などのように契約から実際の役務提供まで一定の期間がある役務提供契約が多い。
その理由は、在学契約については最高裁判決があるからであり、他の契約についても、先行事例があると、ある程度それを手本にして訴訟をしているからだと思われる。事業者がどのような収益構造であるか、どのような商売の仕方をしているのかというのは、一回訴訟をやってみないと、消費者団体にはなかなか分からない。そのため、消費者団体が一つの契約類型について訴訟をして経験を得たり、あるいは成果が上がったりすると、それを手本にして同業他社に対しても訴訟を提起するという傾向があり、その結果、裁判になる事例は、ある程度、契約類型が固まっているのではないか。
○ 立証責任の転換が最適解であるという意見だったが、これは、消費者側から一定の事項が示されれば転換するということなのか、それとも、端的に立証責任を転換するということなのか。後者だとすると、「損害賠償額の予定は無効である。ただし、一定の場合には、一定限度で損害賠償を請求することができる」という趣旨の規定になるように思われるが、どのようにお考え
か。
○ 端的に立証責任を転換する場合、具体的な条文を考えるとドラスティックに過ぎるという指摘は、分からないではない。しかし、消費者契約法第9条第1号が「平均的な損害の額」を違法性の基準としている中で、実際に「平均的な損害の額」を計算できるのは、事業者しかいないはずである。それにもかかわらず消費者に立証させていることが問題の所在であり、「平均的な損害の額」の立証責任を事業者に負わせることがおかしいのだとすると、そもそも「平均的な損害の額」を違法性の基準としていること自体に問題があるのではないか。
資料の提出責任や推定規定を設けること自体に積極的に反対しているわけではないが、消費者契約法第9条関係の訴訟が必ずしも多くない現段階では、推定規定を適切に設けることができない可能性がある。そして、専門調査会の結論から平成30年改正に至る過程では、推定規定を設けることができないのであれば現状で良いということになってしまったわけで、それでは困ると考えている。
○ 適格消費者団体が差止請求との関係で事業者から得た情報を、被害回復との関係でも用いることは想定されているのか。営業秘密等は第三者に公表しない等のローカルルールを設けているとのことだが、例えば、差止めとの関係で得た情報を、違約金として既に支払った消費者が多数存在するときの被害回復に利用するというときに、当該ルールがうまく機能するのかどうかという点に関心を持っている。
○ 差止請求訴訟の資料を被害回復に流用できるかは、規定ぶりの問題だと思うが、適格消費者団体としては、資料を流用できる方がスムーズであることは間違いないだろう。
例えば、パイオ・ネットの情報については、差止請求との関係で取得したものを被害回復との関係では用いることができないという制度設計になっている。差止めと被害回復では目的が異なるのでやむを得ないとも思うが、いずれも実際に運営している人たちは同じであり、流用できる方が便利であるし、そうあるべきではないかと思う。
消費者支援機構関西(KC’s)は特定適格消費者団体でもあり、情報が提供された際には差止めと被害回復の両方の検討委員会で検討しているので、情報の共有をスムーズに行うことができると有難い。
【事務局からの説明】
〇 事務局から、資料2について説明を行った。
【意見交換】
資料2.第1及び第2 について
○ 毎月自動延長されるような契約の場合、キャンセル料の金額を上げることにより、契約の目的物そのものの価格もつり上げたり長期間支払いをさせることが可能である(なお、契約時に消費者が契約の目的物そのものの価値や将来のキャンセルの確率を正しく想定できていない場合は、1回限りの契約であっても、契約の目的物そのものの価格をつり上げることは可能である)。事務局提案の整理に異論はないが、1回限りの契約か、自動延長される契約かという視点も追加しても良いのではないか。
○ Ⅰ型に挙げられる旅館やホテル業等は、無断不泊の場合のように、契約の履行期が極めて近くなった時期にキャンセルがされるようなものについては、履行利益の一部をキャンセル料として設定することが許容されるという考え もあるかもしれない。
一方で、90日程度以前から購入できるチケットについて、購入後間もない時期から極めて高額のキャンセル料を設定する例のように、履行期の相当以前からキャンセル料を設定する例は問題があるのではないか。
また、フィットネスやインターネットプロバイダのように、ある程度債務が履行されていたり、継続的な役務が提供されている途中で解約されるタイプでは、実費に近いキャンセル料しか許容されないという認識が業界にもあると考えられる。
このように、履行期が到来した、あるいはキャンセル時点で履行期が迫っているタイプと、継続的な役務が提供された途中で解約されるというタイプは、ある程度区別して考えてもよいのではないか。
○ 損害型等を類型化するときには、平均的な損害を理論的なレベルで考えて事業の内容等に応じて一定の類型化ができるという議論があり得る一方で、事業者が違約金を設定する際に実際に考慮することが多い事項や損害をもとに類型化できるという議論もあり得る。
資料では裁判例を基にした分析が行われているが、消費者に平均的な損害を超えることの立証責任があるため、消費者の争い方が類型に反映されてい
る可能性がある。その意味では、事業者内部の情報がわからない中で、どのような資料の入手や計算方法が消費者にとって容易であったのかが反映された分類といい得るが、この分類はどのような性格のものとして受けとめるべきか。
2点目として、Ⅰ型からⅣ型は相互に排他的なのか、それとも相互に排他的ではなく、例えば逸失利益と機会損失、粗利益と機会損失が両方認められることがあり得るのか。
○ 御指摘のようにⅠ型からⅣ型は必ずしも明確に分離できるものではなく、複数の型に重複する場合があり得る。実際に、ヒアリングの表でも、業界によってはⅠ型とⅣ型が重複するものや、Ⅰ型からⅢ型が重複するものもある。
○ 資料2表1の「損害類型」は、9条1号に関する裁判例を収集した中で、損害として何が認定されたかを整理できるのではないかと考え、整理を試みたものである。
概ね、Ⅰ型・Ⅱ型が逸失利益の類型、Ⅲ型・Ⅳ型が積極損害の類型である。
Ⅲ型・Ⅳ型は、先ほどのヒアリングで言及された足し算型に近く、キャン
セルされるに至るまでに、人件費や募集・広告宣伝費などを積算した支出をしたと事業者が主張したものである。
Ⅰ型は、先ほどのヒアリングで言及された引き算型に近く、得べかりし利益ないし逸失利益を事業者が主張するものである。この場合、消費者側はキャンセルによって免れた支出は事業者の主張する額から減額されるという主張をすることがある。
適格団体の差止請求の訴訟では、当該損害賠償額の予定が平均的な損害の額は超えるという結論が得られれば差止めは認められるが、個別の消費者の訴訟では、消費者への支払いが認められるためには、平均的な損害の額を超える具体的な金額を明らかにしなければならず、消費者にとって厳しいという御指摘だった。
Ⅰ型の裁判例には、大手携帯電話会社に適格消費者団体が差止請求訴訟を提起した事件がある。この中には、2年間の定期契約により、本来消費者が支払うべき料金よりも減額(割引)がされたため、携帯電話会社には逸失利益があるとの主張がされた裁判例がある。
一方で、契約がキャンセルされたことにより、本来はその後も契約が継続 することによって携帯電話会社は当該消費者から利益を得られたはずなのに、それが得られなかったことによって逸失利益が生じたとの主張がされ、この 主張を前提に、携帯電話のキャンセル料は平均的な損害の額を超えるもので
はないとした裁判例もある。
こうした違いが生じたことについて、我々が裁判例をみても、その判断の理由はよく分からない。推測ではあるが、損害の算定のシステムの内容はその会社にしか分からず、恐らく裁判所も分からないのではないか。
実際の訴訟では、裁判所も当事者の主張を基に認定するほかないため、当事者が主張していない損害の有無について、裁判所が訴訟指揮をして明らかにすることは難しいだろう。携帯電話の裁判例のように逸失利益について判断が異なった理由も、当事者の主張によるということではないか。
〇 キャンセル料の積算の方法がここでいう4つの損害類型のどれに該当すかについて、契約条項や約款には明示されていないため、原告となる適格消費者団体や消費者の側で損害類型を主張して、その枠組みで議論されているかというと、そのような印象はない。むしろ、消費者側が、キャンセル料が不当に高いことを何かしら主張したことに対して事業者側が反論する際に、一定の積算根拠が示されることで損害類型が明らかになるというのが実態ではないか。
事業者に、算定根拠の全ての開示義務ではなく、一種の入り口として、例えば問題となるキャンセル料は逸失利益に基づくことを開示させることによって、議論の足掛かりを作り、議論を集中させる効果が考えられるのではないか。
資料2.第4の1 について
○ 今回の提案で唯一、推定規定については、賛成しかねる。こうした規定を設けると、事業者が価格や解約料を横並びに設定することを結果として助長してしまうおそれがある。他社と比較して特定の一社のみの解約料水準が高い場合に、その事業者の解約料条項は「平均的な損害の額」を超えているという主張、立証は現行法下でも既に行われているだろうため、明文化することによる価格横並びの助長をむしろ危惧する。
〇 標準的な解約料水準を設定している業界で、そこから外れた場合に不当性が高いと考えられるような場面では、推定規定が有効に機能しうることもある。また、同様の事業者についての判決をもって立証困難を回避できるということも考えられるので、評価できる面はある。
提案されている方策は、排他的ではなくて、組み合わせで考えるべきである。推定規定のみを設けるとすると、指摘されたような懸念は当たるかもし
れないが、業界標準にしたがっていること自体が適正なのかということ等について、「第2」以下の別の方策も併せて用いることにより検証するとすれば、働き得る余地もあるのではないか。
ただ、同種性や類似の条件の捉え方についてこれを厳しく当てはめると、推定規定は機能しない。ある程度幅を持っての同種であることを前提に、事業者の側から「平均的な損害の額」が異なることを反証で出してもらう形も考えられる。
〇 推定規定を設けることは非常に有効な手段であるので基本的には賛成する。一つ伺いたいが、この仕組みでは他社の違約金の金額を示せば、それが当該 事業者の平均的な損害の額であると推定されることになるのか。
〇 この規定が予定しているのは、他社(B社)の「平均的な損害の額」を立証した場合にそれを当該事業者(A社)の「平均的な損害の額」と推定するというものである。単に条項を示せば良いのではなくて、B社の具体的な「平均的な損害の額」を立証する必要がある。B社の具体的な金額を立証するためには、事実上の推定などを利用する方法が考えられる。
〇 そうすると、同じような取引を行っている業者の中でも平均的な損害の額の立証しやすいものと難しいものがあるということが前提となる。仮にB社の平均的な損害の額が立証できるようであれば、いきなりA社の額を立証することもできるであろうから、推定規定は不要ということになるのではないか。その点はどう考えているのか。
〇 その点はご指摘のとおりであるが、一つの活用としては、例えば、業界標準のようなものが設定されている場合は、それをもって前提事実(他社の「平均的な損害の額」)を立証して、その金額によりA社の損害額を推定するという方法が考えられる。
〇 同種の事業者でも違約金の基礎となる考え方がⅠからⅣ類型に分かれていて、類型が違えば同種性の要件を満たさないとなると使い道がない。この点をどのように考えるか。
〇 現時点で、型が違ったら同種性要件を満たさないなどは考えていない。どういう場合に同種性や、類似の目的物、取引条件といえるかについては、損害型のみならず、様々な事情を考慮して判断されると考えられる。
〇 消費者側が、B社の「平均的な損害の額」でもってA社の「平均的な損害の額」を推定したいと考えて主張立証したときに、A社としては、自社は類似・同種の事業者ではないとして推定の要件を争うか、「平均的な損害の額」がいかなる金額かについて推定を覆す反証をする必要があると考えられる。
〇 Ⅰ~Ⅳの損害型は、どの企業でもⅠ~Ⅳの全てのタイプの損害を被り得るという意味において、型というよりは要素・要因に近いのではないか。
推定規定を創設するメリットがあることは理解するが、慎重にならなければならない。他の規定の提案と異なり、この案では、同業者を基準とした各事業者が解約料や価格を設定してしまうおそれがあり、価格横並び行動を通じて消費者に直接的な不利益が生じてしまう可能性がある。
〇 推定規定が目指すのは、消費者の側で比較的簡単なことを立証すれば、「平均的な損害の額」の詳細についての証明責任が事業者側に転換されるということであろう。しかし、今の規定案では、事業者の同種性のところに議論が集中する可能性が高く、ただ事業者がキャンセル料を横並びに設定する結果となるのではないかと危惧する。
前提として、事業者の側でどのようなキャンセル料なり違約金を設定するかについては、事業者に広範な裁量がある。ドラスティックな考え方かもしれないが、消費者側が、例えばⅢ型やⅣ型の積み上げ型に関しては、通常、損害としてはこの程度の金額しか存在しないはず、とあり得るべき損害の額を示し、当該事業者がそれ以上の水準を設定しているというように、説明することとしてはどうか。
他方、事業者の側でこのような考え方に立って平均的な損害の額を考えているのだということを説明させることを重視するのであれば、Ⅰ~Ⅳ型に挙げられた要素、損害の費目等をあらかじめ消費者の側で指定すれば、立証責任の転換が行われるとする方が良いのではないかと思う。
資料2.第4の2、3 について
〇 さきほど出ていた「とにかく資料を出させることが重要なのではないか」という意見に同意。極端な話、適格消費者団体への提出について合意形成が得られなかったとしても、裁判所側だけに開示するという形であったとしても最低限進めていくべきだと思う。
その理由は2つある。第一に、資料の提出を求められるかもしれないと言うことで、現在キャンセル料について合理的な根拠なく設定していた企業であっても、キャンセル料の根拠についての準備を促すことになる。準備をするとキャンセル料の価格設定について考えるようになるため、適切な額を設定し始める事業者も増えるのではないか。
第二に、正に先ほど述べられていたことだが、とりあえず何らかの資料を開示してもらえば、それを取っ掛かりにして、「この部分は不合理に高すぎるように考えられるため、もう少し具体的・詳細な資料を出すべきである。」といった議論を始めることができる。
したがって、とにかく事業者に資料を出させることが重要だと思う。
〇 ②-1から②-3の位置づけについて、②-1と②-2は訴訟の場合のみで、②-3は訴訟外でも使えるものであり、かつ、②-1と②-2は今のままでもできることはできるけれども、運用に影響を与えたり、より明確にこういうことができると定めることによって、あらかじめ準備しておかないと訴訟になったときに困るというメッセージを事業者に与えたりすることができる施策と理解している。
②-3については、訴訟になる以前に資料を出させることができればより望ましいし、そもそもこれが適正なものであると事業者が定めている以上は、訴訟外でも根拠などをしっかり出してくださいと言える点でも重要ではないか。あとは、主体の信頼性の問題だが、適格消費者団体に寄せる信頼については、かなりのところを法的なところも含め手当していると思うので、このような規定も十分可能ではないか。
多少気になるのは差止に関して、差止の場合は平均的な損害の額を超えることさえ言うことができれば、使うなとまでは言えるため、出してもらえるデータは限られるかもしれない。つまり、この条項は使えないという限りでは、完全に平均的な損害の額として幾らと決めなくても、それより高いことを示すことができれば、この帰結をもたらすことができる。もっとも、その後に改定した場合にやはりおかしいとなれば、同じことを何度も繰り返さなければいけない面があるのでどうかと思われる。極力、初めからきちんと具体的な「平均的な損害の額」を出すのが望ましいとは思う。
また、被害回復については更に消費者団体のハードルが上がるので、差止の際に提出を受けた資料を被害回復に使用できるように考えてもいいのではないか。
〇 ヒアリングの際に、今まで裁判になっている類型が狭すぎるという問題意
識があった。これをなるべく広げるためにも、実体法上の資料提出権を適格消費者団体に認める案を支持したいが、その根拠づけについてはまだ不安が払しょくしきれない印象がある。ここでの調査対象の業界は、これまで度々調査研究がされてきた業界のように思われ、今まで調査してきていない業界を調査したり何か補助的な材料がないと、この規定案にジャンプするのは大丈夫かという感じがする。
更に言えば、これまでの裁判例に対する疑問という視点もないように思われる。例えば、携帯電話の市場などは、今までの市場に対する問題提起がかなり強い形で出てきているため、従来の裁判例ではこうでしたということを前提とした上で、何を言うかというところに工夫の余地があっても良いと思う。メッセージの込め方という点で、従来の裁判例を分析するとこういう規範も析出できるという以上のものが必要ではないか。
〇 実体法上の権利というのはやろうとしていることは訴訟上の制度とそこまで変わらない。議論でも出てきたが、何らかの形で資料を出してくださいということである。
すなわち、消費者側からすると、どうしてそのキャンセル料が設定されたかわからないので、事業者が自らキャンセル料を設定するのであれば、何らかの形で根拠づけるものを出してもらう、それが合理的なものかどうかは裁判所の判断に委ねるということである。
文書提出命令とか、求釈明は既存の制度があるが、それを更に促す方向で考えたときに、こういった考え方もあるのではないかということで策をお示しした。
さらに、適格消費者団体については裁判外の差止を行うところ、差止はできるだけ早く結論を出さないといけない制度でもある。したがって、審理期間が長期化している現状では、訴えを提起する前も含めてだが、紛争が生じた早期の段階で解決に向けた手順を促進していく観点から、こういうアイデアもあろうと考えたもの。
裁判例については、3頁の表1に書いてあるように、ある程度類型化はできるものの、更にその類型化の中でも仔細に見るとばらつきが見られる。約款については、例えば6頁をご覧いただくと、業者に対してアンケートを採った上で色々と検討してこういう標準約款を作ったということで、それなりに一生懸命にやっていると思われるところがどの程度やっているかということを調べたもの。
ヒアリングについても、色々と業者について話を聞くと、千差万別ではあるが、それなりに考えているところもある一方で、「よくわかりません」と
回答する業者や、根拠資料の有無を尋ねると「コストがかかる」とか「インセンティブがない」と回答する業者もいる。ヒアリングでも説明があったが、事業者にそもそもインセンティブがないのではないかという指摘は、この実態調査にも沿うものであると感じる。
事業者としては、根拠なりを持っておかないといけないとか、説明できるようにしなければいけないという何かがないとやらないということが、結構多いのではないかという気がするが、それは良くないのではないかと思う。キャンセル料についての議論も、平均的にキャンセルされた損害を填補するという発想があるが、契約の拘束力を強化する側面もある。要するに、最初に取ったお金とキャンセル料で取ったお金をトータルで見て、事業者としては全体で回していて、キャンセル料である程度カバーするとか、又はキャンセル料を高めに設定しておいて、それで継続的に契約を締結させることによって回収するとか、色々な要素が絡んでいると思われる。そういったトータルで回せれば良いという発想からすると、トータルで設定しているのでキャンセルで個別に損害が生じるわけではないという可能性もある。
問題は、それで良いのかという話であるが、消費者契約法第9条が平均的 な損害の額を超えた部分を取ってはいけないという規律を設けている以上は、そこに合わせていただくのが良いのではないか、というところかと思う。
〇 一点補足だが、裁判例を鵜呑みにするのではなく批判的な目も向けてはどうかという指摘について、本日御欠席の委員からもコメントをいただいているため、紹介する。
3頁目から5頁目の損害の類型に関してだが、「現在の裁判例の判決内容の分析として異論はないのですが、粗利益・利潤につきましては、消費者取引において消費者解約時に解約がなかった場合に得られた粗利益・利潤を全て違約金として徴収している業者は現実には少なく、(参考として民法改正時の期限前弁済などに関する銀行の議論を紹介)民法学者の議論においても、継続的契約においては、たとえ期間などを約定しても、契約を締結しただけで約定の報酬全額の利益補償がなされると考えないという見解も有力化しています。」とコメントいただいている。そして、「幾つかの下級審の発想が、約定の報酬額が取れることを出発点とし、消費者取引や継続的契約の特徴を勘案していない可能性がありますので、平均的な損害が高額化している懸念もあり、留意が必要。」とのコメントもいただいているところ。
〇 同様の問題意識を持っていて、従来の裁判例の中には検証の必要があるものもあると認識している。今までこうだったからということで1つの類型と
して消費者庁が承認した形でⅠ型という名称を与えるべきかどうかは考える必要がある。
〇 法律上の推定規定については、現時点ではどちらがいいのか悩ましく感じている。すなわち、提案されている規定では、法律上の推定があることを前提にして行われる反証活動と法律上の推定規定の適用を争う部分、つまり、同種・類似というところに結局は問題が集中してきて、同じことを違う位置づけでやっていることになりはしないか。そうすると、規定を設けた意味が良くわからないことになる気もするが、そこは悩ましいと感じる。
また、②-1から②-3については、基本的には積極的に引き続き検討していって良い提案だと感じる。②-1は積極否認の特則ということで、現在、既に一般の民事訴訟において否認の場合には理由を述べるべきであるということは、規則上は義務化されているわけだが、このような規定を設けることで、理由として金額の算定根拠を示すべきことが明らかになる。また、確かに制裁はないとしても、法律上でこのような規定が設けられれば、少なくとも訴訟法上の義務となることで関係者に一定のインパクトを与えることが期待できると思う。
文書提出命令についても、秘密保持命令のようなものとの組合せで、民事訴訟法220条よりも若干柔軟に範囲を拡張して提出を命じることができるという拡張的な規律は考えられても良いと思う。ただ、提案されている規定の後段のところで、事業者の申し立てがあったときには第三者に開示してはならない旨を命ずるということは、これは簡略かつ迅速な審査で秘密保持義務を課すという意味で、その趣旨は理解できるが、営業秘密として保護する必要がないと思われる場合についても申し立てがあれば当然に秘密保持義務を課していいのかという疑問はあり得ると思う。
また、訴訟記録の閲覧の規律との関係で、もし営業秘密性が認められないにもかかわらず、当事者だけは秘密保持義務が課されるとすると整合性があるのかという部分ももう少し詰めて考える必要があると思う。
最後の、実体法上の請求権について、必ずしも訴訟法上の問題ではないと思うが、現在の規定案で「差止請求権を行使する場合には」という文言がついていることが何か実質的に機能するような限定になるのか、あるいは、権利が行使される文脈を特定しているだけで別段要件を限定しているわけではなく、消費者団体が行使したいと思えば足りるのかということは色々な考え方があり得ると思う。
それから、実体法上の請求権だとすると、訴訟外でも主張はできるというところが一つの特徴だと思うが、実際に主張ができるとしてもそれに円滑に
応じてくれるとは限らないので、訴訟が必要だという場合もあるかもしれない。ただ、この資料提出を正面から求める訴訟だと、その後に資料が実際に提出されたとして、もう一回差止訴訟を行うということになるとすると負担としてかなり重いものになると思う。他方で、仮にこうした実体法上の請求権があることになると、議論はあり得るが、民事訴訟法上の提出義務文書(同法第220条第2号)の中で当事者が閲覧等を求めることができるものに効いてくる可能性もあると思うので、訴訟法上も一定のインパクトを持ちうる規定案と理解している。
〇 ②-3について、ある種の財産法上の法定の債権として実体法上の請求権 を創るということであれば、法定の請求権・債権の発生原因や内容が明確に なっていないといけない。提案されている規定案では、差止請求権を行使す る場合にはとあるが差止請求権を行使する意思が表示された場合と見るのか、その辺の成立要件をきちんと整理しておく必要がある。
また、実体法上の請求権であるとすると、その資料を提出せよという訴訟を提起することが想定されるが、その際、どういう資料があるのかということ自体が適格消費者団体にはわからないはずなので、請求の立て方が問題。平均的な損害の額の算定根拠として必要な情報を開示せよという抽象的な請求を立てるのか、また、そういう主文が認容されたときに本当に執行できるのかも問題になってくる。
さらに、実体法上の請求権がどういう場合に消滅するのか、例えば差止請求が訴訟になって訴訟が終了したときには、実体法上の成立要件がなくなったことを一つの消滅事由と考えて消滅するのか。そのような全体的な制度設計の整理が必要になってくるのではないかと思う。
〇 ②-1は裁判官に向けた規律だと思っていて、訴訟指揮が裁判官ごとにかなり違うという話を以前に伺ったことがあるので、こういう規定があれば裁判官が釈明をする背中を押すことができ得るのではないか。今の規定案では制裁は特にないが、規定を置くだけでそれなりの意味はあると思う。
文書提出命令については、これは恐らくフィージビリティから言えば、適格消費者団体に限定しないと規律は難しい。いかに秘密保持命令をかけても、一般消費者が申し立てられるということでは恐らくなかなか受け入れられがたいだろうという印象。
②-3については、今までの議論にあったとおり、ほぼ何の要件もなく、適格消費者団体が言えば出させることができるように読める現在の規定では恐らく難しい。プロバイダ責任制限法のように厳しく規定する必要があるか
どうかという問題はあるが、もう少し何らかの実体要件等を工夫していかなければなかなか難しいだろう。
〇 ②-1から②-3について、特に過去の事案に係る被害回復の訴訟等において、過去の事案に関する資料が存在しなくなってしまった場合にどうするのか考える必要があるのではないか。
また、キャンセル料を一部の消費者から回収できない場合、これを「平均的な損害」として他の消費者が払うキャンセル料に転嫁して回収することもあり得ると思われる。転嫁を認めるかどうか、認めるとした場合「転嫁分については詳細な資料を提出することを必須とする」等の条件について、考える必要があるのではないか。
〇 現行法の解釈としては、当該契約の解除に伴う平均的な損害ということで、キャンセル料をとることができなかった分は転嫁できないという理解が前提ではないか。
〇 そのような理解でよいのではないか。資料2.第4の4 について
〇 情報提供努力義務を置く本意として、例えばこれを3条に加える場合、どのような事項を説明させることを考えているのか。
〇 22頁の(1)規律のあり方において事例を挙げているが、一つの典型場面としては、解約可能期間中に消費者にリマインドが行われる場面を想定している。契約前だけでなく契約後を含め、実質的に消費者が解約に関する選択肢を確保している場合に、キャンセル料に関する情報を提供することを促すということを狙っている。
〇 自動更新の問題と一回的な契約を分けるべきではないか。例えば、ロールオーバーという、気がつかない間に契約がどんどん自動更新されていく仕組みにおいて、これに対する消費者の意識が薄れていくという問題があるが、英国では競争法の観点からその違法性について議論がある。
消費者契約法がそうした視点も加味し、ロールオーバーをさせないルールが望ましいという観点から、こうしたルールを設けることもあり得るのではないか。
〇 ③案に関して、適切な方法の例示として挙がっているのは「他の情報と区別して識別できる」ようにするなど適切な方法のみだが、行動経済学の文献などで指摘されているように、数量的な表示ではなくて料率、利率などで表示されている場合などに計算が難しいとか、あるいは計算した結果がすぐにはわかりづらいとかいう問題もあり得るのではないか。
契約上表示する段階では、利率の何%をとるという形でも構わないと思うが、リマインドすることになった場合には、よりわかりやすい形で額として示す等、情報の開示のあり方などについての研究状況などを踏まえつつ、リマインドとしてより意味がある形になるようなものを掲げることもあり得るのではないか。
〇 上記の意見に強く賛成する。特にこれは努力義務であるので、「消費者にとってわかりやすい形で示す」等の文言を入れてはどうか。単に情報提供というだけであれば、約款をそのまま送付すればよいということになるが、キャンセルを実際に検討している場合でも約款を端から端まで読む消費者はまず存在しない。日本で現在行われている施策という意味では携帯電話利用契約のプッシュ型通知などを参考にしつつ、消費者にとってわかりやすい形で情報を提供する仕組みを促すのが良いのではないか。
また、情報提供について、ロールオーバー(契約の自動更新)のケースと、
1回限りの契約を分けて考えるべきとの指摘があったが、この提案は、両方について努力義務としているのではないか。例えば、毎月支払いがあって年
1回更新する場合において自動更新の直前にリマインドをする場合もあれば、
1回限りの契約において最初にキャンセル料が発生するタイミング又はキャンセル料が大幅に上がる直前にリマインドするような場合も含め考えているのではないか。
1回限りの契約の場合、契約当日にキャンセル料について適切に説明するのはもちろん大前提だが、挙式などの場合では本人は契約時に一種の興奮状態にある可能性があり、当日どれだけ丁寧に説明しても正しく理解していない場合もある。契約現場から一旦離れた状況で冷静に、かつ、キャンセルが間に合うタイミングで、再度情報を伝えることによって防げるトラブルもあるのではないか。
〇 推定規定との関係で、事業者団体による標準約款をどのように位置づけ評価するのかという点が、大きな論点になるのではないか。
オープンな形で作成された標準約款については、各条項に関する説明文書
や作成過程等もセットで開示される可能性がある。その作成過程が消費者(団体)等も加わるなどオープンであれば、業界共通の考え方が示されることになるのではないか。うまくいかないと、事実上のカルテルのようなものになるかもしれないが、なるべくオープンな形で作成することを促進すれば、紛争自体が少なくなるとともに、アウトサイダーが不当な条項を使った場合に、推定規定を利用して、消費者(団体)が効果的に主張できるのではないか。つまり、従うか説明せよ(comply or explain)という形が成り立つのではないか。
このようにキャンセル料の算定の方法とか考え方が示されることが一般的に非常に重要となっていく中で、個社ごとの一定の差について、説明できる限りにおいて許容するということになればよいのではないか。
この点については、法律をどうするかということとは別に、標準約款、業界団体の自主的な取組を促進するということもぜひ考えていただきたい。
〇 この平均的損害の問題に係る最終的な目標は、立証の困難にいかに対応するかということだけではなく、消費者契約における契約条件や条項の公正さをいかに確保していくかという点にある。これにつながるようなものを準備できれば、より良いのではないか。
単に業界標準ができているというだけでは競争法上の問題も生じうるかと思うが、消費者団体や第三者の関与等を含めた作成過程の適正化のための試みがなされているという事実が、透明性や「説明せよ」の観点からの評価に適切に反映され、これによってそうした試みが促進されるよう、正面からそういう法制度を用意するかどうかはともかくとして、いろいろなルールを設けていくという観点も非常に重要である。それができれば、平均的な損害以外の契約条項についても、さらに副次的な効果をもたらせるのではないか。
最後に事務局から次回の研究会について、7月9日(火)16時半から、いわゆる「つけ込み型」勧誘と「平均的な損害の額」についての第2回目の議論を予定している旨の説明がなされた。