JBIC 円借款事業 中間レビュー報告書
JBIC 円借款事業 中間レビュー報告書
案件名： スリランカ「キャンディ上水道整備事業」
[借款概要]
承諾額/契約同意額/実行額 ： 5,151 百万円/4,873 百万円/2,588 百万円（2006 年 5 月現在）借款契約調印 ： 2001 年 3 月締結（L/A 締結後 5 年目）
貸付実行期限 ： 2008 年 6 月
キャンディ圏キャンディ市及び北部において、給水施設を整備することにより、上水道の安定供給及び供給拡大を図り、もって公衆衛生の向上及び生活環境の改善に寄与する。
実施機関 ： 国家上水・排水庁（NWSDB） [事業目的]
評価者：xxxx(OPMAC 株式会社)
中間レビュー現地調査時期：2006 年 5 月
項目 | 事前評価結果 | 中間レビュー時に想定される事後評価内容 |
[妥当性] (1) 国家政策レベル | (1) スリランカ政府は「2010 年までに全ての国民に安全な水を」を国家目標に掲げ、上水道の普及に取組んでいた。6 ヵ年開発計画(1999～2004 年)は、上水道施設の整備及び安全な飲み水の供給に関し、以下の具体的な目標を定めていた。 ⮚ 社会的に妥当な料金体系の下での安全な飲み水の供給 ⮚ 24 時間供給可能な上水道施設の整備 ⮚ 民間資本の活用 ⮚ 地方自治体への事業移管 ⮚ 水資源の効率的活用 ⮚ 持続可能な維持管理体制の確立 | (1) 2005 年に誕生したマヒンダ・ラジャパクスナ政権が掲げる開発政策は、政策綱領「xxxx・xxxx」及び綱領の政策化である「Creating Our Future. Building Our Nation.: The Economic Framework of the Government of Sri Lanka」に示されている。同政策では国家が進めるインフラ整備は、所得の地域間格差の是正、富の不均衡の是正を目指すとともに、各地方の成長拠点となる地域への重点的な投資を目指している。投資の対象としては、道路網の整備、電力供給能力の拡充、港湾整備、上下水道、地方におけるインフラ不足を解消するための投資等に重点をおいている。 |
(2) 施策レベル | (2) NWSDB が策定した事業計画（Corporate Plan 1999-2005）の中において、1998 年の上水道普及率(安全な水へのアクセス)は 65%(水道管による給水 28%、井戸による給水 37%)と低いレベルにあるとして、2005 年までに上水道普及率を 79%とすることを目標としていた。 | (2) NWSDB が策定した全国上下水道整備計画（2004 年）の中において、上水道整備の目標が以下の如く定められている。 |
⮚ 安全な水を供給する比率(普及率)を 2015 年までに 85％、2025 年までに 100％とする。 ⮚ 2015 年までに水道管による飲料水供給の比率を都市部 100％、非都市部 75％とする。 | ||
キャンディは中部山岳・丘陵地に立地するスリランカ第 2 の都市であり、行政、文化、観光のハブセンターとして機能する重要都市である。大キャンディ圏の人口は近年急速に増加し | ||
ており、水需要は逼迫している。特にキャンディ市及び大キャンディ圏北部での渇水は深刻 | ||
な状況にある。大キャンディ圏の水道普及率は 2005 年現在 35％であり、スリランカ第 2 の 都市でありながら 2015 年の普及率目標 85％に大きく遅れている。(農村部を含めた全国の普 |
コンサルタント：エヌジェーエス・コンサルタンツ（日本）・日水コン（日本）(JV) コントラクター：日立製作所（日本）・xx建設（日本）(JV) [結果概要]
及率は 28％とこちらも低水準にある) | ||
(3) 事業レベル | (3) 大キャンディ圏における 1997 年の給水可能量は約 6 万㎥/日に対し、最大需要水量は約 13 万㎥/日と大きな不足が認められていた。特にキャンディ市域及びキャンディ圏北部での渇水は深刻であった。給水設備が設置されている地域にあっても給水容量の制約から、給水日及び給水時間が地区ごとに制限されるといった状況にあった。審査時点においては、最大需要水量が 2015 年には約 17 万㎥/日に達することが予測されており、給水容量を拡大することが急務とされていた。大キャンディ圏における人口増加の実態は 2001 年国勢調査によって確認されており、さらに詳細設計調査(2002 年)によっても水需給の逼迫が指摘されていた。本事業は給水の需給ギャップを段階的に緩和することを企図したものであり、その優先度は非常に高かった。 | (3) 2005 年にNWSDB が行った「大キャンディ圏上水道整備マスター・プラン計画(1992)([JICA]レビュー調査」では、2005 年現在の大キャンディ圏における給水能力は 6 万 m³/日であるのに対し、最大需要水量は 13 万 m³/日となっている。最大需要水量は 2015 年には 18m³/日に達することが予測されている。引き続き深刻な供給不足状態にあり、給水容量の拡大による、安全な水を供給することが急務となっている。本事業は給水の需給ギャップを段階的に緩和することを企図したものであり、その重要度は引き続き高い。 |
[有効性] | (1)運用効果指標 給水量：審査後、2001 年審査合意文書(Project Memorandum)の段階で規模が拡大 給水人口：2003 年 8 月、事業範囲縮退に関する JBIC 宛同意申請書に示されている当初計画における給水人口であり、本事業が計画した19 配水池の給水対象人口に加えて、既存配水池を経由して給水する人口を含む。 | (1)運用効果指標 給水人口：事業範囲縮退により、当初計画された給水人口（事業完成時）は 147,130 人に変更されている(2003 年事業範囲変更に関する JBIC 宛申請書)。2005 年現在の上記人口は19 配水池建設地域において既存給水施設から給水を受けている人口を示す(19 配水池地域以外の給水人口を含まない)。 給水時間：キャンディ市外における事業完成時の給水時間計画値（事業完成時）は中間レビュー時に 24 時間/日に変更されている。 (2)有効性及びインパクトに影響を与える要素の分析 ①特定地域における埋め立て工事等の実施に係る環境庁の許可は支障をきたすことなく取得した。効果発現時期の遅延、環境に対するネガティブな負荷は確認されていない。 ②マハベリ河水質のモニタリングは指定された数箇所について既に継続的に実施されており、水質に関する重大な問題は確認されていない。プロジェクトが給水する水の水質モニタリングはプロジェクト運営体制のもとで実施される。 ③事前評価時に工事対象地域内に住民 13 農家があり、工事のための用地取得が必要とされて いたが、実際は住宅 2 世帯の一時的移転と農地・xxxの買収を伴った。農地・xxxの |
2001 年[ 審 査時] 実態 | 2006 年[ 完成予定年]計画値 | |
給水量（新規分） | － | 33,000 ㎥/日 →36,670 ㎥/日 |
給水人口 | － | 232,500 人 |
給水時間①キャンディ市内 ②キャンディ市外 | 20 時間/日 | 24 時間/日 |
7 時間/日 | 20 時間/日 |
2005 年[中間レビュー時]における実績値 | |
給水量（新規分） | 29,500 ㎥/日 |
給水人口 | 106,040 人 |
給水時間①キャンディ市内 ②キャンディ市外 | 20 時間/日 |
4-10 時間/日 | |
無収水率①キャンディ市内 ②キャンディ市外 | 46％(2004 年) |
28％ | |
上水道普及率 | 57％ |
一人当り給水量(平均) | 159 リットル |
用地取得は本体工事着工前に完了し、当該用地を利用した工事が進められている。用地取得は Land Acquisition Act (1950)に基づいて行われた。取得対象となった農地・xxは 17件あり、最も早い物件は 2000 年 10 月に取得、最も遅い物件の取得は 2003 年 12 月に完了している。用地取得価格は、事業実施機関が内閣に申請し、市場価格を基準とする価格を使用することが認められており、内閣宛申請手続きが終了、本年 4 月閣議が正式に承認した。同承認に基づき、政府による正式な通達が発出され、支払が実施されることとなっている。工事中の騒音、交通障害、振動等に関するクレームが確認されているが、NWSDBが個別対応により、影響緩和、救済措置、修理、補償を行っている。訴訟に発展したケースはない。 (3)持続性に影響を与える事項 ① 対象地域では下水道の整備が遅れている。上水道の整備は環境に対する負荷を増加させることとなる。上水道の整備に併せて下水処理のための施策を並行してすすめることが肝要である。 ② NWSDB の財務能力強化に向け、経営改善の具体策 6 項目(経費の削減；適正な水道料金政策の策定；財務部門及び在庫管理の強化；無収水の削減；料金徴収システムの強化；新規投資計画の適正化) を講じる予定となっていた。NWSDB はこれら具体策を事業計画としてまとめ、実践に移している。毎年のアクションプラン(Corporate Action Plan)によりレビューが行われているが、JICA マスタープランにおいて想定されていた無収水対策の事業が借款対象から割愛される等、実施のための投入が不十分な状態で実施されている。 | |||||||||
参考情報 | |||||||||
[効率性] (1) アウトプット | (1) アウトプット ・ 取水施設及び導水施設の建設 ・ 浄水施設の建設 ・ 送水施設の建設 ・ 配水施設及び塩素処理施設の建設 ・ 維持管理用機器の調達 ・ コンサルティング・サービス（計 184M/M、内外国人:66M/M、xxx:118M/M） | (1) アウトプット 本体工事の入札において事業費増加が発生、借款予算限度内に収めるための対策として事業内容の一部を削減し、事業のアウトプットが変更された。 | |||||||
当初計画(審査時) | 詳細設計による変更(2002 年 5 月) | 中間レビュー時に確認された目標値 | |||||||
取水施設 | 115,000 m³/日 | 115,000 m³/日 | 取水施設 | 115,000 m³/日 | |||||
導水施設 | 2,200 m | 1,433 m | 導水施設 | 969 m | |||||
浄水施設 | 33,000 m³/日 | 36,670 m³/日 | 浄水施設 | 36,670 m³日 | |||||
送水管 | 39,290 m | 41,585 m | 送水管 | 27,111 m | |||||
配水施設(箇所) | 18 ヵ所 | 19 ヵ所 | 配水施設(箇所) | 4 ヵ所 | |||||
配水施設貯水容量 | 9,358 m³ | 12,710 m³ | 配水施設貯水容量 | 5,900 m³ | |||||
配水管 | 17,366 m | ||||||||
配水管 | 約 30,000 m | 27,687 m | 維持管理機器 | 削除 | |||||
維持管理機器 | 水質検査機器、漏水検査機器、クレ ーン付トラック等 | 当初計画と同一 | コンサルティングサービス（注） | 外国人: 48.75 M/M xxx: 549 M/M | |||||
(注) 事業実施段階において工期の遅延が発生しており、遅延に伴いコンサルタント業務を追加する必要が発生している。 ① 借款契約調印後の詳細設計は予定工期内に実施されたが、工事実施段階に至り、詳細設計の成果物と工事現場実態の間にギャップがあったことが指摘されている。設計の精度及び工事量の見積もり等が現地実態から乖離していたため、工事の実施段階において設計の修正作業が発生している。 ② 実施機関は 2 つの運営委員会(ステアリング・コミティー)(注)及びその他委員会等を通した調整を積極的に進めており、許認可取得等の面で調整不足が大きな問題に発展した事例はない。他方、工事の進捗管理においてはこれら組織は有効な機能を果たさず、遅延防止あるいは回復するための有効な手段を講じることができなかった。 ③ 予算の制約から送水・配水施設の一部事業範囲の縮退を余儀なくされている。縮退の結果、事業の効率性において一部効果の減衰が認められる。財務的妥当性に影響が及んでいる。 (注) 2 つの運営委員会は日本 ODA 運営委員会と地域運営委員会である。日本 ODA 運営委員会のメンバーは、財務省、中央銀行、道路開発庁、都市開発水道省、NWSDB、JBIC、日本大使館である。地域(Province)運営委員会のメンバーは、地域コミッショナー、地域内各県助役、郡助役、道路開発庁、測量事務所長、その他政府関係部局幹部、NWSDB である。 | |||||||||
コンサルティングサービス | 外国人: 66 M/M xxx: 118 M/M | ||||||||
(2) 期間 | (2) 2001 年 3 月 – 2006 年 5 月 （63 ヶ月） | (2) 2001 年 3 月－2007 年 1 月（予定） （70 ヶ月） 本体工事の入札は当初計画より早期に開始された。応札価格が借款予算を上回り、その対策に時間を要したが、契約調印は当初計画から遅延することなく、2003 年 11 月に完了した。現在の完了予定時期は、支払いを含め、2007 年 1 月である。 | |||||||
(3) 特別円借款の満足度調査結果 （＊） | 本事業は特別円借款の適用により実施中。NWSDB は、論拠は必ずしも明らかでないが、特別借款の下での調達条件が日本タイド(注)であることが事業費増加の原因であると指摘している。コントラクターからは、事業費や品質に関しての直接の指摘はなされなかったが、NWSDB の事業準備不足による工事遅延について指摘があった。コンサルタントからは、特別円借款を通じて日本の優れた技術･ノウハウを受け入れることに対する双方の認識や対応が現段階までは十分ではなかったとの指摘があった。 (注) 特別円借款の下における調達条件として、円借款の融資対象となる資機材・サービスの調達は、50％以上を日本原産とすることが定められている | ||||||||
[教訓及び提言] | 教訓 予算超過が発生したため事業範囲の縮退が検討された時点において、プロジェクトの有効性が減衰することを担保するための方策としてSAPI 等による具体的な方策の検討と対処を行うことが望ましい。 提言 | ||||||||
L/A ではNWSDB によって経営改善、組織強化に関するコミットメントが行われている。経営改善は NWSDB の事業計画の実践に委ねられているが、「大キャンディ圏上下水道整備マスタープラン計画」において想定されていた無収水対策のコンポーネントが借款対象から割愛されたため、経営改善のための事業計画は投入が不足する状態で進められている。NWSDB 及びスリランカ政府は長期計画の充足に必要な投入を確保し、実施することを提言する。 | ||
[事後評価時用設定指標] | 事業完成操業開始後の運用・効果指標を以下の通り設定することで NWSDB と協議、先方の内諾を得ている。 【運用指標】 【効果指標】 ① 給水人口 ① 水道普及率 ② 給水量(最大・平均) ② 一人当たり給水量（最大・平均） ③ 施設利用率 ③ 給水量 ④ 無収率 ⑤ 水質 | |
（＊）特別円借款については、事後評価（事業完成 2 年後に実施）の枠組みにおいて満足度調査を実施する予定であったが、本年度は事後評価段階に至った事業がないため中間レビューの枠組 みで暫定的に調査を実施したもの。事業完成後の品質面を踏まえた費用対効果という観点をはじめ、適切に被援助国側の満足度を調査するには、プロジェクトが完成しその機能を発揮し 始めた後の評価を待つ必要があり、その際には、当行として可能な限り早急かつ適切に調査を行うこととしている。その中で、今回関係者から指摘された点を含め評価を行う予定である。すでに特別円借款から本邦技術活用条件(STEP)への移行に際し、制度改善を行ってきているが、事後評価等によりさらに課題が明らかになるようであれば、円借款案件の実施の方法に
必要な改善を検討する。