Contract
6 雇用に係るコンプライアンス
1)雇用契約時のコンプライアンス
介護職員の定着・👉成を進めるうえで、労働基準法、労働安全衛生法などの労働関係法令を遵守し、適切な雇用管理を行うことが大切です。ここでは、新入職員を雇い入れる際の雇用契約時の法令遵守(コンプライアンス)項目について示します。
(1)労働基準法、労働安全衛生法の規定によるもの
①国籍、信条、社会的身分による差別の禁止(労働基準法(以下労基法と記す)第3条)使用者は労働者の国籍、信条、又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間、解雇その他の労働条件についての差別的取扱いは禁止されている。
②男女同一賃金の原則(労基法第4条)
女性であることを理由に賃金の差別は禁止される。ただし従事する職務、雇用形態
(正社員、パート、契約社員など)、責任と権限、資格、勤務実態等が異なれば違反とはされない。
③労働基準法で定める基準に満たない労働条件を定める労働契約は無効(労基法第 13条)。
無効となった部分については労基法に定める基準が適用される。なお、個別契約に対する規制の法的効力の順位は法律上以下のとおりと定められている。
第1位 法令
第2位 労働協約第3位 就業規則第4位 労働契約
④労働契約の期間(労基法第14条)
労働契約の期間は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは3年(特定の業務に就く者を雇い入れる場合や、満60歳以上の者を雇い入れる場合は5年)を超えないこととされている。
労働契約
・期間の定めのない契約
・期間の定めのある契約
原則:3年を超えてはならない
例外:3年を超えて契約することが認められるもの 1.一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの
{例}土木工事等の有期的事業で、その事業の終期までの期間を定める契約 2.第70条による職業訓練のため長期の訓練期間を要するもの
{特例}
例外:5年まで可能なケース
次のうちいずれかに該当する場合に限られます。
1.厚生労働大臣が定める基準に該当する高度の専門的知識、技術、経験を有する労働者をそのような高度の専門的知識等を必要とする業務に就かせる場合
2.満60歳以上の労働者を雇い入れる場合
5年までの契約が認められる高度の専門的知識等を有する者として厚生労働大臣が定める基準
ア 農林水産業の技術者イ 鉱工業の技術者
ウ 機械・電気技術者
エ 土木・建築技術者 オ システムエンジニア
カ デザイナー
①博士の学位(外国において授与されたこれに該当する学位を含む)を有する者
②次のいずれかの資格を有する者
ア 公認会計士イ 医師
ウ 歯科医師エ 獣医師
オ 弁護士
カ 一級建築士
キ 税理士
ク 薬剤師
ケ 社会保険労務士コ 不動産鑑定士 サ 技術士
シ 弁理士
③次のいずれかの能力評価試験の合格者
ア システムアナリスト資格試験合格者
イ アクチュアリーに関する資格試験合格者
④次のいずれかに該当する者
ア 特許法上の特許発明の発明者イ 意匠法上の登録意匠の創作者ウ 種苗法上の登録品種の👉成者
⑤ (1)一定の学歴及び実務経験(注)を有する次の者で年収が 1,075 万円以上の者
(注)学歴及び実務経験の要件
学歴 | 実務経験 |
大学卒 | 5年以上 |
短大・高専卒 | 6年以上 |
高卒 | 7年以上 |
※学歴の要件については、就こうとする業務に関する学科を修めて卒業することが必要
(2)システムエンジニアとして5年以上の実務経験を有するシステムコンサルタントで、年収が 1,075 万円以上の者
⑥国等によりその有する知識、技術、経験が優れたものであると認定されている者
2)有期労働契約のコンプライアンス
{参考}
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(根拠、労基法第14条の2、平成 15年厚生労働省告示第357号、改正平成20年厚生労働省告示第12号)
有期労働契約を締結、更新、あるいは雇止めをする場合の留意点は以下のとおりです。
(1)契約締結時の明示事項等
(1)使用者は、有期契約労働者に対して、契約時にその契約の更新の有無を明示しなければなりません。
【更新の有無の明示例(できるだけ書面で明示してください)】
・自動的に更新する
・更新する場合がある
・契約の更新はしない 等
(2)使用者が、有期労働契約を更新する場合があると明示したときは、労働者に対して、契約を更新する場合またはしない場合の判断の基準を明示しなければなりません。
【判断の基準の明示例(できるだけ書面で明示してください)】
・契約期間満了時の業務量により判断する
・労働者の勤務成績、態度により判断する
・労働者の能力により判断する
・会社の経営状況により判断する
・従事している業務の進捗状況により判断する 等
※契約を締結した後に、(1)(2)について変更した場合も同様です。
(2)雇止めの予告
使用者は、有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに雇止めの予告をしなければなりません。
※雇止めの予告が必要な有期労働契約とは、契約を3回以上更新している場合および 1年を超えて継続雇用している場合です。また、契約を更新しないことがあらかじめ明示されている場合は対象になりません。
(3)雇止めの理由の明示
使用者は、雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく交付しなければなりません。
【雇止めの理由の明示例】
・前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
・契約締結当時から更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため
・担当していた業務が終了・中止したため
・事業縮小のため
・業務遂行能力が十分でないと認められるため
・職務命令に違反する行為をしたこと、無断欠勤をしたこと等勤務不良のため等
※雇止め後に労働者から請求された場合も同様です。
(4)契約期間についての配慮
使用者は、契約を1回以上更新し、1年以上継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態およびその労働者の希望に応じて、契約期間をできるだけ長くするように努めなければなりません。
(5)労働条件の明示(労基法第15条)
使用者が労働者を採用するときは、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。労働条件のうち特に賃金に関する事項等5項目については書面で明示しなければなりません。
【書面の交付による明示事項】
①労働契約の期間
②就業の場所・従事する業務の内容
③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
➃賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
【口頭の明示でもよい事項】
①昇給に関する事項
②退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項
③臨時に支払われる賃金・賞与などに関する事項
➃労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
⑤安全衛生に関する事項
⑥職業訓練に関する事項
⑦災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑧表彰、制裁に関する事項
⑨休職に関する事項
(注)就業規則に当該労働者に適用される条件が具体的に規定されている限り、契約締結時に労働者一人一人に対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。
[参考]
労働条件通知書について(平成11年2月19日基発81号) 37ページのように労働条件の明示は、法では書面によるもの5項目と口頭の明示でも
よい9項目とに分かれていますが、この双方をあわせて41・42ページのような「労働条件通知書」を作成し、雇い入れの際、労働者に交付するよう強く行政指導が行われています。
なお、常時10名以上の従業員を使用している事業場は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられていますが、従業員との雇用契約の際は労働条件通知書の交付にあわせて就業規則で呈示または配付して就業規則の内容の周知を図ることも必要です。
また雇用契約書を交わす事業場もありますが、雇用契約書の内容に上記の労働条件通知書の内容も盛り込む方法もあります。(一つですむため)
(6)賠償予定の禁止(労基法第16条)
従業員の労働契約の不履行を防止するため、不履行の場合の違約金を定めたり損害賠償を予定する契約を結んではなりません。
(例)ア 途中でやめたら違約金を払え
イ 会社に損害を与えたら○○円を支払え
ただしあらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することは禁止されていません。
(7)前借金相殺の禁止
使用者は、前借金その他の、労働をすることを条件とする前借りの債権と賃金を相殺することは禁止されています。
ただし従業員が使用者から人的信用に基づいて受ける金融・生活資金など明らかに身分的拘束を受けないものは本条の債権に該当せず、賃金から控除できますが、労使の協定書作成は必要です。
(8)強制貯金の禁止(労基法第18条)
使用者は労働契約を結ぶ際、貯金の契約(社内預金)をさせたり、または貯蓄金を管理する(例、貯金通帳を預かる等)契約をしてはなりません。
使用者は従業員の貯蓄金をその委託(自由意思)を受けて管理しようとする場合は、従業員の過半数を代表する者と社内預金の管理に関する書面協定を結び、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
(9)採用時の健康診断の実施(労働安全衛生法第66条)
使用者は、常時使用する従業員を雇い入れるときは、次の項目について医師による健康診断を行うことが義務づけられています。
(1)既往歴及び業務歴の調査 (6)貧血の検査
(2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査 (7)肝臓の検査
(3)身長・体重・視力・聴力の検査 (8)コレステロールの検査
(4)胸部エックス線検査 (9)血糖検査
(5)血圧の測定 (10)尿中の糖及び蛋白の検査
これらの検査結果は健康診断個人票に記録しておく必要があります。
3)その他、雇用契約時の留意事項
(1)労働者名簿等人事関係書類の取扱いについて(昭和50年労働省労働基準局長、同婦人少年局長連盟通達、昭和54年労働省労働基準局監督課長通達)
ア 満18歳未満の年少者は年齢証明書の備え付けが必要とされているが、「住民票記載事項証明書」を備えれば足りること
イ 労働者名簿の記載事項のうち履歴については、労働者の提出した履歴書その他労働者本人の申告による履歴を記入すれば足りること
ウ 戸籍謄(抄)本及び住民票の写しは、画一的に提出又は提示を求めないようにし、それが必要になった時点(たとえば冠婚葬祭等に際して慶弔金等が支給されるような場合で、その事実の確認を要する等)でその具体的必要に応じ、本人に対し、その使用目的を十分説明したうえで提出を求め、確認後速やかに本人に返却すること
エ 就業規則等において、一般的に採用時、慶弔見舞金支給時等に戸籍謄(抄)本、住民票の写し等の提出を求め、確認後速やかに本人に返却すること
オ 採用決定・入社後において、家族の職業、収入、家族状況等家族に関する状況を画一的に報告、提出させる例があるが、本人の配置、給与等の面において必要がある場合のほかは報告・提出を求めないこと
・なお家族手当その他の給付金の支給、勤務場所の決定、緊急時の連絡等のため必要がある場合には、その使用目的を十分説明のうえ、その必要事項について報告を求めること。なおその記録の保管に適正を期すること。
(2)身元保証、身元引受契約
従業員と使用者は労働の提供と賃金の支払という相関関係であり、使用者は従業員に対し誠実に勤務することを要求します。そのことから従業員を採用する際に身元保証書の提出を求める事業場が多く、就業規則にその旨規定しています。根拠は「身元保証ニ関スル法律」です。同法第1条は「被用者ノ行為ニヨリ使用者ノ受ケタル損害ノ賠償ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ三年間ソノ効力ヲ有ス…」を規定しています。期間を定めていないときは3年、期間を定めたときは5年間が最長期間です。
なお、すべての事業場が従業員の採用時に身元保証契約を結ぶ必要はなく、各事業場の独自の方針に基づいて自由に判断すればよい、としています。
(3)試用期間の設定と本人への告知
従業員を採用するにあたって、はじめから正社員とせずに、3ヵ月とか6ヵ月とかの期間を試用期間とし、その間本人の能力、性格等を見定めようとする事業場が多い。試用期間の長さについては特に法律では定めてはいませんが、試用期間中の解雇について入社後14日を超えて解雇する場合は、労基法第20条による解雇手当の支払を要する。
試用期間制度を運用する場合、就業規則に規定するのは当然ですが、従業員の採用時には説明、周知しておくことが必要です。
4)雇用後のコンプライアンス
施設の本来的機能を発揮するためには、施設職員が健康で高い意識を持って労働することが最も重要となります。そのためには、労働基準法、労働安全衛生法等に定める法定労働条件を確保し、合法的・効率的な人事管理を実践しなければなりません。ここでは、従業員雇い入れ後の法令遵守(コンプライアンス)項目について、主なものを以下に示します。
(1)賃金
賃金は、定期賃金に関しては通貨払・直接払・全額払・毎月払・一定期日払の支払方法5原則を定めています。使用者が支払を義務づけられるのは、就業規則等に定めた労働基準法上の賃金に限られますので、賃金の定義をまず理解することが重要といえます。
(労働基準法第24条)
①賃金の支払に関して特に注意を要する項目は、支払5原則のうち、全額支払の例外が認められていることです。その例外とは、a法令による控除(賃金から所得税、健康保険料、厚生年金保険料等を控除すること)、b労使協定による控除の2点です。 bについては、寮費・給食費、社内預金、親睦旅行積立金及び親睦会費、社内売店の購入費等の控除に関して、事業場の労働者の過半数を組織する労働組合(労働組合がない場合は事業場の過半数の労働者を代表とする者)との間に書面での「賃金控除協定」がある場合に控除することができます。
②最低賃金の支払に関しては、平成20年7月1日から最低賃金法が改正となっていますので、特段の注意が必要です。
ア)地域別最低賃金額を下回る賃金を支払った場合の罰金の上限額が2万円から50万円に引き上げられました。(最低賃金法第4条第1項、第40条)
イ)産業別最低賃金額を下回る賃金を支払った場合については、最低賃金法の罰則が適用されなくなり、労働基準法第24条の賃金の全額払違反の罰則(労働基準法第120条。罰金の上限3万円)が適用されます。
ウ)適用除外規定が見直され、障害により著しく労働能力が低い者、試の使用期間中の者、認定職業訓練を受けている者等に関する適用除外許可規定が廃止され、最低賃金の減額特例許可規定が新設されました。(最低賃金法第7条)
エ)派遣労働者の適用最低賃金は、派遣先の地域(産業)に適用される最低賃金が適用されることとなりました。(最低賃金法第13条、第18条)
オ)最低賃金額の表示が、時間額のみとなります。(最低賃金法第3条)
③割増賃金制度とは、使用者が労働者に時間外労働・休日労働・深夜業のいずれかを行わせた場合において、通常の賃金の25%または35%以上割増をした賃金(平成22年 4月1日から1ヵ月60時間を超える時間外労働については50%の割増賃金の支払が必要。ただし当分の間(3年間)中小企業については猶予されます。(医療、福祉業は資本金5000万円以下、または従業員100人以下))を支払うべきことが法的に義務づけられていることをいいます(労働基準法第37条)。使用者が法定の割増賃金を支払わない場合には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金の適用を受けることとなりますので、詳細について十分な理解と対応が求められます(労働基準法第119条)。
(2)労働時間
使用者は、1日に8時間、1週間に40時間又は44時間を超えて労働者に労働させてはならないと規定されています。これを法定労働時間といいます(労働基準法第32条、第40条)。介護老人保健施設は、保健衛生業に該当することから、常時10人以上の労働者を使用する施設は、1日8時間・1週間40時間が法定労働時間となります(常時9人以下の労働者を使用する施設は1日8時間、週44時間)。ここでは、時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)、年次有給休暇の付与について概説します。
①時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)は、使用者が労働者に時間外労働・休日労働を行わせようとする場合において、労働者側との協定を書面により行い、その協定内容を法定様式により時間外労働又は休日労働を行う所轄労働基準監督署長に届け出るべきものと規定されています(労働基準法第36条)。当然この36協定が有効に成立・届出されていれば、時間外労働又は休日労働を行わせた場合の罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の適用はありません、しかし、その協定の内容を超えた時間外労働又は休日労働を行わせた場合は罰則の適用を受けることになります。
また、協定の効力が及ぶ範囲として、年少者(18歳未満の男女)、妊産婦で使用者に請求した者については、時間外労働及び休日労働が禁じられているので十分に配慮する必要があります(労働基準法第60条、第66条)。
②年次有給休暇とは、使用者が法律の規定に基づいて労働者に与えなければならない有給の(賃金の支払を伴うべき)休暇のことをいいます。この休暇制度は、労働者に週休日以外に継続的な休暇を与えることによって、心身の休養を与え、労働力の保全を期することを目的としている点を認識しておくべきです(労働基準法第39条)。労働者の年次有給休暇を取得することができる法定の要件は「最初は6か月・その後は1年間継続勤務して、全労働日の80%以上出勤すること」となっており、それぞれ取得できる年次有給休暇の日数が定められています。詳細については、各労働局ホームページを参照して適切な運用が求められます。
(参照:http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/kijunhou/index.html)
(3)女性労働者の保護
女性労働者は、生理的・体力的に男性労働者と異なる特性を有し、女性労働者には主に次のような保護規定が定められています。女性労働者が他の業種と比べてその比重が高い老健施設においては、特に十分な配慮が求められています。
i募集、採用、配置、昇進、教👉訓練、福利厚生、定年、退職、解雇に関する男女雇用機会均等。ii 男女同一賃金、iii 重量物取扱業務・有害物質取扱等の就業制限。iv生理日の休暇。v セクシャルハラスメントへの配慮。vi 妊産婦に対する保護規定。
(4)育児・介護休業
①👉児休業の内容に関する主なポイントは下記のとおりです。
○1歳までの子を養👉する場合に取得できる。
○日雇労働者・期間雇用者等は休業を取得できない。
(1年以上雇用された期間がある等一定の要件があれば取得できる。)
○事業主は、👉児休業の申出を拒むことはできない。
○休業期間の最長は、原則として連続した1年である。
○休業の回数は、子1人につき1回である。
○休業の申出は、書面で1か月前までに行う。
○事業主は、休業の申出又は取得に対して不利益な取扱いをしてはならない。
○小学校就学の始期に達するまでの子を養👉する労働者が請求した場合は、原則として時間外労働・深夜業に従事させてはならない。
②介護休業の内容に関する主なポイントは下記のとおりです。
○要介護状態にある対象家族を介護する場合に取得できる。
○日雇労働者・期間雇用者等は休業を取得できない。
(1年以上雇用された期間がある等一定の要件があれば取得できる。)
○事業主は、介護休業の申出を拒むことはできない。
○介護休業は、対象家族1人につき通算93日までである。
○休業の回数は、家族1人につき1回である。
○休業の申出は、書面で2週間前までに行う。
○事業主は、休業の申出又は取得に対して不利益な取扱いをしてはならない。
○介護をする労働者が請求した場合は、原則として時間外労働・深夜業に従事させてはならない。
詳細について十分に検討し、適切な運用が求められています。
(5)就業規則
就業規則とは、常時10人以上の労働者を使用する事業場の使用者が労働基準法によって作成することを義務づけられているその事業場における賃金、労働時間、退職等の労働条件および職場規律等に関する成文の事業場内の規則です(労働基準法第89条)。作成義務、届出義務、周知義務に違反した場合には、罰則規定があるので、使用者としては、注意が必要です。
①就業規則の作成義務は、前述のとおり事業の種類のいかんを問わず、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対してあり、就業規則を作成しない使用者には、 30万円以下の罰金が適用されます(労働基準法第120条)。あわせて、労働者からの意見聴取、内容に関しても十分詳細を確認しておくべきといえます。
②就業規則の届出義務は、作成した就業規則を行政官庁(所轄労働基準監督署長をいう)に届け出なければならないと規定されています(就業規則を変更した場合も同様です)。届出を行わない使用者には、30万円以下の罰金が適用されます(労働基準法第120条)。
③就業規則の周知義務は、次のいずれかの方法で労働者に周知させなければならない
と規定されています。周知を行わない使用者には、30万円以下の罰金が適用されます(労働基準法第120条)。
○常時各作業場の見やすい場所に掲示する。
○常時各作業場の見やすい場所に備え付ける。
○書面を労働者に交付する。
○磁気テープ、磁気デスクその他これらに準じるものに記録し、内容を確認できる機器を設置する。
(6)労働災害の防止
労働災害とは、業務に起因して発生する労働者の負傷・疾病・死亡をいいます。健康障害も含まれます。
事業主は、労働災害を防止するために労働安全衛生法に基づいて、安全衛生教👉の実施・健康診断の実施・危険有害業務への有資格者の就労、設備的対策・安全衛生管理者の選任・安全衛生委員会の設置等の措置を講じる法的義務を負っています。
①法定健康診断については、事業主が労働安全衛生法によって実施することを義務づけられています。老健施設における主要な健康診断は、i 雇入れ時の一般健康診断、 ii 定期一般健康診断、iii 結核健康診断、iv 給食従業員の検便、v 深夜業に従事する者の特定健康診断(年2回)、vi 歯科医師による健康診断、vii 有害業務の特殊健康診断、viii 寄宿舎における健康診断となります。この健康診断等を実施しなかった場合には、50万円以下の罰金が適用されます(労働安全衛生法第120条)。
事業主は、健康診断の記録を作成して5年間保存しなければならないと規定されています(労働安全衛生法第66条の3)。
②行政指導基準(腰痛の防止)
腰痛の発生数は、現在の全業種における業務上疾病の発生数の中で最も多く、老健施設においても可能性は高いものといえます。腰痛防止のための行政指導基準(平成6年9月6日)も定められていますので、特段の配慮が必要となります。
(参照:http://www.rikusai.or.jp/public/horei/yotsu_shisin.pdf#search=「職場における腰痛予防対策指針」)
(7)労働契約の終了
労働契約は、当事者の死亡、契約期間の満了等の労働契約における修了に関する約定・解雇・自己都合退職・合意解約等の理由によって終了します。各理由によって労働基準法、民法等の法規則の適用が異なり、各理由に関する用語の定義が法令上・実務上確定していないために、解雇等を行う場合就業規則に記載する場合等においては注意が必要になります。ここでは特に解雇権に関する要点を示します。
①解雇権
解雇権とは、使用者が労働契約を解約して労働者との労働契約を解消することができる権利をいいます。ただし、無制限に認められているものではなく、労使間の経済的優劣を考慮して労働者を保護するために、解雇権の制限が存在します。
解雇権の制限のうち、最低限理解しておくべきポイントは、労働契約法の制限だと
いえます。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(労働契約法第16条)。この規定により、使用者は適法な解雇権を行使する限り、労働者を解雇することができますが、解雇が有効であるためには、法令・判例上の解雇制限に違反しないことおよび労使間の約定(労働契約、就業規則、労働協約等)に定める自主規制に反しないことが必要になります。
(8)雇用保険・社会保険への加入について
労働者を雇用する場合、加入要件を満たせば社会保険(健康保険・厚生年金保険)や 労働保険(労災保険(労働者災害補償保険))・雇用保険)に加入させる必要があります。社会保険や労働保険は、国等が労働者のために運営する強制加入の保険です。保険へ の加入の有無は、各保険の適用の要件に照らして判断します。雇用される人の希望や社内的な身分(臨時社員・パート等)、国籍、性別、給料の多寡等で加入の有無を決める
わけではありません。また、加入の手続き等は、労働者を雇用する事業所が行います。なお、加入の有無の判断は、雇用契約書に定めた契約の内容や仕事を始めた時の条件 だけではなく、その後の就労の実態で判断します。従って、勤務している途中でも各保
険の加入(資格取得)や脱退(資格喪失)をさせることになります。
■ 表1:各保険の給付事由と注意点等
保険の名称 | 給付事由 | 備考 | |
社会保険 | 健康保険 (注1) | 業務や通勤途上以外の事由による病気・ケガ・出産・死亡に対して給付される。 | 加入は75歳まで。75歳以上は在職中でも長寿医療制度(後期高齢者医療制度)に加入 する。 |
介護保険 (注2) | 介護が必要になった被保険者に対して、自立した日常生活をおくるための給付が行われ る。 | 事業所での加入は40~65歳まで。65歳以上は在職中でも、保険料は本人の年金より 徴収される。 | |
厚生年金保険 (注1) | 老齢・障害・死亡に対して被保険者や被保険 者の遺族に対して給付される。 | 加入は、70歳まで。ただし、受給資格がない 場合は、任意加入することも可能。 | |
労働保険 | 雇用保険 (注3) | 失業の際の生活の保障・雇用の安定や継続等に対して給付される。 | 新規加入や保険料徴収は、64歳まで。ただし、加入中に65歳以上になった場合は給付 対象になる。 |
労災保険 | 業務上や通勤途上の病気やケガによる休業・障害・死亡に対して給付される。 | 年齢制限や雇用期間等による加入制限はない。雇用する労働者個々について加入・脱退 の手続きは必要ない。 |
■ 表2:保険加入の目安表 (○=加入、×=加入できない)
正社員 | 非正社員(派遣・パート等) (注3) | 適用除 外 | |||||
就労の見込(①と②は2カ月以上、③は6カ月以上) | |||||||
あり | なし | ||||||
3/4以上 | 3/4未満 | 3/4以上 | 3/4未満 | ||||
① | 健康保険(注1) | ○ | ○ | × | × | × | あり |
② | 厚生年金保険(注1) | ○ | ○ | × | × | × | あり |
③ | 雇用保険(注3) | ○ | ○ | ○(注3) | × | × | あり |
➃ | 労災保険 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | なし |
注1:健康保険や厚生年金保険は、社内的な身分(臨時社員・パート等)に関係なく①勤務時間と②勤務日数が、それぞれ一般の社員の3/4以上あれば加入させるのが妥当とされています。
2:介護保険は、健康保険とセットで加入手続きや保険料の徴収を行います。
3:パートや派遣の雇用保険は、6ヵ月以上就労の見込みがあり、週20時間以上就労することが加入の要件です。また、派遣社員は派遣元で加入します。
以上、雇用後のコンプライアンスの要点を記してきましたが、いずれにしても施設で働く職員の労働条件と勤労意欲も、老健施設の運営にあたり重要な要素であることを理解し、人事管理を考えるべきだと思われます。
(参考文献)
「新版 改正労働基準法の実務知識」(清文社発行)
「介護老人保健施設リスクマネジメント法律顧問シリーズ1 人事・労務」(ぎょうせい発行)