中小企業退職金共済事業本部(TEL 03-6907-1234)
Ⅹ 仕事を辞めるとき、辞めさせられるとき
1 仕事を辞めるとき
■無期労働契約の場合(退職)
・合意退職
労働者(会社)が退職の意思表示をし,会社(労働者)が受理することで労働契約が解除されます。
・自己都合退職
労働者が会社に退職を申し出て14日を経過すれば、労働契約が解除されます。ただし、就業規則で「何日前」という規定があれば、規定に従うことが望ましいでしょう。
また、やむを得ない理由があるときは、直ちに辞めることができます。
・定年退職
労働者が一定の年齢に達した時に労働契約が終了します。
■有期労働契約の場合(契約期間満了)
契約期間が満了することに伴い労働契約が終了します。
やむを得ない理由がない限り、契約期間の途中で辞めることはできません(59ページ参照)。
ただし、1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、当該労働契約の初日から1年を経過した日以降、使用者に申し出ることにより、いつでも辞めることができます。
■無期労働契約および有期労働契約の場合に共通して
明示された労働条件と実際が違う場合は直ちに退職できます(6ページ参照)。使用者から借りている金品は、速やかに返却しましょう。
また、健康保険には、退職後も一定期間適用を受けることができる制度があります。
■使用者の義務
・賃金及び積立金、貯蓄金などについて
労働者から請求があれば、7日以内に、賃金を支払い、また、積立金、貯蓄金などの労働者の金品を返還しなければなりません。
・退職金について
退職金は、就業規則などに規定があれば支払わなければなりません。その規定に支給日の定めがない場合、労働者から請求があれば7日以内に支払わなければなりません。
・雇用保険について
雇用保険資格喪失の手続を10日以内に行い、離職票を交付しなければなりません。
■労働者が証明を請求できる事項
労働者が以下の内容について証明書を請求した場合は、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。
① 使用期間
② 業務の種類
③ その事業における地位
④ 賃金
⑤ 退職の事由(解雇の場合はその理由)
⑥ 解雇予告された場合は(予告日から解雇日までの間)その理由
なお、退職時等の証明書に労働者が請求しない事項について記入することは禁じられています。また、その他、労働者の就職の妨げになる行為は禁じられています。
■退職に伴う主な社会保険の手続
退職後、社会保険の手続期限に遅れると、不利益が生じるおそれがあります。
種 類 | x x | 手続場所 | 手続期間 | その他注意事項 |
雇用保険 | 失業給付の 受給 | ハローワーク | 離職後できる だけ早く | 離職票と雇用保険被保 険者証を会社から受領 |
健康保険 | 在職中の健康保険への 継続加入 | 健保組合 又は協会け んぽ※ | 退職日の翌日から20日 以内 | 原則として退職後2年間に限られ、保険料は 自己負担 |
国民健康保険への新規 加入 | 市区役所又は町村役場 | 退職日の翌日から14日 以内 | 健康保険の被保険者資格の喪失届の写など を会社から受領 | |
公的年金 | 国民年金への新規加入 | 市区役所又は町村役場 | 退職日の翌日から14日 以内 | 国保加入者である被扶養者の被保険者種別 の変更も行う |
※ 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の加入者は、協会けんぽ福岡支部(郵送可)で手続を行う必要があります。年金事務所(東福岡年金事務所を除く)でも受け付けます。
◆主な関係条文:民法第627~第628条、労働基準法第22~第23条雇用保険法第37~第38条、同法施行規則第7条 国民健康保険法第7条、56条、同法施行規則第3条国民年金法施行規則第1条の2
2 中小企業退職金共済制度
この制度は、中小・零細企業では単独で退職金制度を持つことが困難である実情を考慮し、国の中小企業対策の一環として制定された「中小企業退職金共済法」に基づき設けられた制度です。制度の運営は同法に基づき設立された、独立行政法人勤労者退職金共済機構(機構)中小企業退職金共済事業本部(中退共本部)が行っています。
■加入できる企業
業 種 | 常用従業員数 | 又は | 資本金・出資金 |
一 般 業 種 | 300人以下 | 3億円以下 | |
卸 売 業 | 100人以下 | 1億円以下 | |
サービス業 | 100人以下 | 5千万円以下 | |
小 売 業 | 50人以下 | 5千万円以下 |
■加入の手続
加入申込みは、企業が所定の新規申込書を金融機関又は委託事業主団体
(商工会・商工会議所など)の窓口に提出します。なお、既に加入している企業が、新たに従業員を採用した場合などは、追加加入の手続をしてください(追加用の申込書を金融機関等の窓口に提出します)。
パートタイム労働者が加入する場合は、パートタイム労働者であることの証明書(「労働条件通知書(雇入通知書)」又は「労働契約書」のいずれかの写し)を添えてください。
また、同居の親族のみを雇用する事業に雇用される者であっても、使用従属関係が認められる者については、従業員として取り扱うことができます。
■毎月の掛金
事業主は、企業規模や事業内容、従業員の年齢、仕事の経験度等に応じ、
5,000円から30,000円までの16種類から掛金月額を選択できます。 掛金は全額事業主が負担し、従業員に負担させることはできません。
新しく中退共制度に加入する事業主に対しては、掛金の1/2(従業員ごとに上限5,000円)を加入後4か月目から1年間、国が助成します。
パートタイム労働者には、一般の従業員の掛金より安い掛金も用意されており、国の助成もあります。
また、18,000円以下の掛金月額を増額変更する事業主に対しては、増額分の1/3を、増額する月から1年間、国が助成します。
■通算制度
この制度に新規に加入する際は、すでに1年以上勤務している従業員について、10年を限度として加入前の勤務期間を通算することができます。
■退職金の支払
事業主は、退職した従業員に「退職金共済手帳(請求書)」を渡し、中退共本部へ「退職届」を提出します。退職者が請求手続き(「請求書」を中退共本部へ送付)をすることで、退職者の預金口座へ振り込まれます。
退職金は「一時金払い(一括払い)」で支払われます。なお、退職日に60歳以上で一定の要件を満たせば、5年間又は10年間で支払う「全額分割払い」
「一部分割払い(併用払い)」を選択することもできます。
加入後の掛金納付が1年未満の場合は、退職金が支給されません。
★★問い合わせ先★★
中小企業退職金共済事業本部(TEL 03-6907-1234)
3 仕事を辞めさせられるとき
会社からの申し出による一方的な労働契約の終了を解雇といいます。
労働者は、労働の対価として使用者から受け取る賃金によって生活しています。使用者から突然解雇されると、労働者やその家族の生活は成り立ちません。そこで解雇については労働基準法などにより、労働者を保護する立場から一定の制限がされています。
また、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」ことが、労働契約法第16条に明記されています。
■解雇の種類
・普通解雇
使用者側の理由であれ、労働者側の理由であれ、これ以上継続的な契約の履行はできないとして、使用者が一方的に労働契約を解消するものです。
・懲戒解雇
労働者に非違行為があるときに、懲戒(制裁)処分として行うもので、通常の懲戒処分の中では最も重いものとなります。
・整理解雇
整理解雇も普通解雇の一つですが、人員整理の目的で労働者を解雇するもので、次の要件を備えていれば解雇権濫用ではないと判断されます(整理解雇の要件(要素))。
① 整理解雇を行うべき客観的必要性が存在すること
② 使用者が整理解雇を回避する努力を尽くしたこと
③ 対象者選定の基準及びその運用が客観的に合理的であること
④ 労働者や労働組合に対する説明や協議を十分行っていること
■法律上禁止される解雇
使用者は、次のような解雇をしてはなりません(主なもの)。
・ 国籍・xxxx社会的身分を理由とするもの
・ 仕事でケガや病気をして、療養のために休業している期間と、その後30日間を過ぎていないもの
・ 労働者が事業場の法律違反を労働基準監督署に申告したことを理由とするもの
・ 労働組合を結成しようとしたことや、正当な労働組合活動などを理由とするもの
・女性が産前・産後に休業している期間とその後30日間を過ぎていないもの
・女性労働者が結婚、妊娠、出産又は産前・産後に休業したことを理由とするもの
・育児休業や介護休業を申し出たことや、取得したことを理由とするもの
・労働者が福岡労働局(厚生労働省の地方労働局)に紛争解決援助を求めたこと及び紛争調停委員会による調停の申請をしたことを理由とするもの
・労働者が「公益通報」(117ページ参照)したことを理由とするもの
・労働者が「労働者派遣法」違反を申告したことを理由とするもの
■解雇の手続き
使用者は労働者を解雇しようとする場合は、労働協約や就業規則に定めている解雇の事由と手続に従って解雇しなければなりません。
また、使用者は、解雇予告した労働者が請求すれば、解雇理由について証明書を遅滞なく交付しなければなりません(即日解雇の場合でも同様です)。
■解雇の予告および予告手当について
使用者は労働者を解雇しようとするときは、少なくとも30日前にその予告をするか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金。22ページ参照)を支払わなければなりません。解雇予告と解雇予告手当を併用する場合は、双方を合算して少なくとも30日分以上としなくてはなりません。ただし、解雇を予告する日は日数に算入されません。
例)7月31日に解雇される場合の解雇予告及び解雇予告手当
↓ | 解雇予告手当の支払いは不要 | |||
7/11 | 最低10日分 | |||
7/21 | 最低20日分 | |||
即日解雇 | ||||
解雇予告日 7/31
7/1
最低30日分
○解雇予告の適用除外
① 天災事変などで事業場が焼失したり、倒壊したりして、事業が継続できない場合で労働基準監督署長の認定を受けた場合
② 労働者の責めに帰すべき事由がある場合で労働基準監督署長の認定を受けた場合
③ 解雇しようとする労働者が以下のいずれかに当たる場合
・日々雇い入れられる者
(1 か月を超えて引き続き使用される場合を除く)
・契約期間が2か月以内の者
(所定契約期間を超えて引き続き使用される場合を除く)
・4か月以内の季節的業務に使用される者
(所定契約期間を超えて引き続き使用される場合を除く)
・試用期間中の者
(14 日を超えて引き続き使用される場合を除く)
■解雇通告を受けたら
使用者から「解雇通告」を受けたら、まず以下の3点をチェックして、納得がいかない場合は「受け入れられない」旨の意思表示をしましょう。
① 解雇の権限を有している人の明確な通知であるか
② 解雇理由が事実かどうか
③ 解雇理由が解雇に値すると考えられるか
また、解雇なのに「退職願」を提出するように言われる事があります。提出してしまうと、雇用保険の受給で不利益を受けることがありますので、提出せずに労働者支援事務所等に御相談下さい。
■採用内定取消しについて
採用内定は、企業が内定通知を出し、求職者から入社誓約書や身元保証書などを受領した時点で、労働契約が成立したと見られる場合が多いようです。
労働契約が成立していれば、採用内定取り消しは、解雇と判断され、使用者に30日前の予告か解雇予告手当の支払い義務が生じます。
内定の取り消しは、恣意的にできるものではなく、契約書等で定められた解約事由が生じた場合に限られていると判断されます。
◆主な関係条文:労働基準法第3条、第19条、第20条、第21条、第22条、第89条、第104条
労働契約法第16条、労働組合法第7条
男女雇用機会均等法第9条、育児・介護休業法第10条個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条公益通報者保護法第3条、労働者派遣法第49条の3
4 会社が倒産したら(賃金・退職金の確保)
会社が倒産し、賃金や退職金を受給できないケースが見受けられます。 本来、賃金や退職金は、一般先取特権として民法で特別に保護されてい
るので、優先的に支払ってもらえるはずなのですが、会社倒産の場合、請求した頃には会社財産が既になく、支払ってもらえないことが多いようです。
労働者の力では、倒産そのものを防止することは大変難しいので、せめて賃金や退職金だけでも確保したいものです。
■倒産前の賃金、退職金、社内預金の確保
「賃金の支払いの確保等に関する法律」により、経営者は、どんな場合でも賃金や退職金を確実に支払える手立てを講じなければなりません。
例)・経営者が倒産などで社内預金や退職金を支払えなくなったとき、「金融機関が経営者に代わって支払う」という保証契約を経営者と金融機関との間で結ぶ
・中小企業退職金共済制度(96ページ参照)のように社外積立型の退職金制度に加入する など
また、倒産直前になると、賃金の支払いが遅れがちになりますので、未払い賃金の総額に匹敵する会社財産を労働者に譲渡する協定を、経営者との間で結んでおくことが必要です。経営者との交渉は、労働者個人では大変難しいので、労働組合を結成して行うことが効果的です。
■倒産後の賃金や退職金の確保
倒産後に賃金や退職金などの労働債権を確保するためには、早急な対応が重要であり、早ければ早いほど確保できる可能性が高まります。本来、労働債権は、抵当権などを除き税金・社会保険料などに次いで優先的に確保されますが、他の債権者との関係もあり、事実上早い者勝ちと考えた方がよいです。弁護士や労働組合と相談の上、会社側に支払要求や確保依頼を行い、困難な場合は一般先取特権に基づく差押(または仮差押)を行いましょう。
■未払い賃金の立替払制度
企業倒産により賃金や退職金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払の賃金や退職金の一部を立替払いする制度で、独立行政法人労働者健康安全機構が事業を実施し、最寄りの労働基準監督署が窓口です。
立替払いをした場合には、独立行政法人労働者健康安全機構がその分の賃金債権を代位取得し、求償権を行使することになります。
○要件
事業主(会社)の要件 | ①労災保険の適用事業の事業主、かつ、1年以上事業を実施 | ||
②倒産したこと | 法律上の倒産 | ・ 破産手続開始決定(破産法) ・ 特別清算手続開始命令(会社法) ・ 再生手続開始決定(民事再生法) ・ 更生手続開始決定(会社更生法) | |
事実上の倒産 ( 中小企業事 業主(※)のみ) | 事業活動停止し、再開見込みがなく、賃金支払能力がないこと(労働基準監督署長の認定) (※ 96ページ 「■加入できる企業」に同じ) | ||
労働者の要件 | ①破産の申立て等(事実上の倒産の認定申請)の日の6か月前から2年間の間に退職 | ||
②未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が 証明(事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長が確認) | |||
③破産宣告等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から起算して2年以内 に立替払請求 |
○立替払の対象となる賃金
退職日の6か月前の日から立替払請求日の前日までの間に支払期日が到来している未払給与と退職金(ボーナス、その他臨時的に支払われる賃金、解雇予告手当等を除く)が対象です。ただし、総額2万円未満のときは対象外です。
○立替払の額 未払賃金(上限あり)の8割
退職日の年齢 | 未払賃金の上限 | 立替払の上限 |
45歳以上 | 370万円 | 370万円×0.8 296万円 |
30歳以上 45歳未満 | 220万円 | 220万円×0.8 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 110万円×0.8 88万円 |
例)退職日に35歳で未払賃金が200万円の場合は、立替払額160万円
〃 300万円 〃 176万円
(上限が220万円のため)
★★問い合わせ先★★
管轄の労働基準監督署(124ページ参照)