① CDI (無期労働契約)
フランスの労務知識第4回 労働契約
2022年5月更新
ジェトロ・パリ事務所
フランスにおける代表的な雇用契約は①期限を定めない無期労働契約(Contrat de travail à Durée Indeterminée 通称 CDI)、②有期労働契約(Contrat de travail à Durée Déterminée 通称 CDD)である。労働契約は無期限を原則とし、有期労働契約を結ぶた
めの条件が定められている。契約書内の①給与、②労働時間、③勤務地が地理的に異なるセクターに変更するなど、契約の本質的な内容の変更については、従業員の同意がない限り、雇用主は勝手に変更することはできない。勤務地については将来的に事務所を移転する可能性を考慮して、今現在はこの住所であるが場合によっては地理的セクター内で変更すると明記しておくと良い。仕事内容についても限定した書き方にした場合、従業員の同意なしに他の仕事をさせることができないので、細かく書く必要はない。
ただし、配置転換については、当該従業員に対する支援措置や配置転換の地理的条件などを労使協議で事前に合意していれば、契約変更をしなくても可能である。本人が拒否する場合は、個人的理由による解雇の対象となる。
CDI を回避するために個人事業主(Auto Entrepreneur)に業務委託している企業があ
るが、1 社のみのために仕事をしている場合は主従関係があるとみなされるので要注意。労働隠匿となり、社会保険局から社会保障費支払いの追徴金が課せられる。複数のクライアントがいれば問題はない。チェックするのは会社の義務である。
① CDI (無期労働契約)
特別措置、団体協約により規制がない限り、労働契約書を交わすか、労働者の合意があれば単なる口上書き、口頭にて取り交わすことができる。ただし、雇用主は雇用の事前申請内容を従業員に書面で渡す義務がある。一般的には労働契約書を交わすのが望ましい。 CDIのパートタイム従業員の労働契約書は義務である。
契約書内に記載する事項は、①労使の名称、②勤務地、③労働者の肩書きもしくは職務内容、④契約開始日、⑤有給休暇日数、⑥有給休暇の取得方法およびその定義、⑦契約解除予告期間、⑧給与額とその支給日、⑨1日あたり、または1週間あたりの労働時間、⑩適用される産業別団体協約で規定される労働条件など。
上記の他に、試用期間、現物支給、転勤に関する条項、競業避止条項等、ケース・バイ・
ケースで項目を付け加えることができる。労働法で定められる最長試用期間は、非管理職2カ月、準管理職3カ月、管理職4カ月である。試用期間の延長は業種別団体協約の規定がある場合に限り上記の最長期間と同等の期間を最高として延長できる。ただし、延長の可能性については契約書内に明記されている場合に限る。
(転勤に関する条項)
従業員を転勤させるための条項。地理的条件を条項内に明確に定義する。条件は職務内容に則したものとし、転勤は企業として必要なものでなければならない。転勤に関する条項が定められていても、家庭や個人的な事情により断ることもできる。事前通知期間は常識的な範囲とするが、条項内に期間を明記することも可能である。突然の転勤命令を従業員は拒否することができる。
(競業避止条項)
契約終了後、企業と競合する仕事を行う自由を制限するものである。企業利益に基づくもので、適切な期間および地理的な制限を設けること、ならびに金銭対価があることが条件となる。団体協約の中で要項が定められていることが多い。例えば、輸出入の団体協約では、非管理職 6 カ月、管理職 2 年が最高期間と定められている。対価については、期間
が 1 年未満の場合は、過去 12 カ月の平均月額給与の 3 分の 1、1~2 年では 2 分の 1 と定
められている。この対価は毎月支払う。雇用契約には競業避止条項を入れたが、その後必要がなくなった場合は、撤回できる期間が団体協約で定められていることもある。
② CDD (有期労働契約)
有期労働契約を結ぶことができるのは以下の場合に限定される。
1. 代替要員
休暇中の従業員、労働契約が中断中の従業員(労働争議を原因とする場合は除く)、病欠・出産休暇中の従業員、暫定的にフルタイムからパートタイムに移行した従業員の交替要員。この場合、引継ぎ期間を考慮に入れ、代替要員の契約開始日は被代替要員が休む前であっても3日前であれば問題ない。同じ代替要員を産休から育休、異なる従業員の代替要員として続けて雇うことが可能。契約書は別々に作成する。
2. 将来消滅することが確実なポストに空席が発生した場合の補充要員。最長期間は24カ月。
3. 新規に無期限雇用契約を結んだ者が何らかの事情によりすぐに仕事に就けない場合、この者が労働を開始するまでの空き期間の代替要員。最長期間は9ヵ月。
4. 一時的に業務量が増加した場合。
キャンペーン期間中など通常業務が一時的に増加した場合、期間が限定されている突発的な仕事が生じた場合、緊急を要する工事など。ただし、原則として過去6ヵ月間に関連ポストを経済的解雇した場合は使用できない。
5. 季節労働
農業におけるxx期、観光シーズン等、季節的に発生する労働。これは上記の一時的な業務の増加とは違い、事前に業務量が分かっており定期的である。
6. 葡萄収穫期契約
収穫のみならず、収穫前準備および収穫後の後片付けの期間も含まれる。同契約の最長期間は1ヵ月。
7. 慣例的雇用
法律で以下の適用範囲が決められている。
森林、船舶の修理、引越し、ホテル、レストラン、興行、文化的活動、映画製作、教育関係、アンケート調査、録音、肉の倉庫係、プロスポーツ選手、外国における公共土木事業等。
8. 輸出用の特別注文がきた場合。(請負業者、下請業者など)
9. 一部失業者の雇用促進のための国の政策にのっとった雇用契約。
10.シニア失業者
シニアCDDは、57歳以上で①xxxxxプロワ(日本のハローワークに該当)に3ヵ月以上登録して就職活動をしている人、②経済的解雇に伴い職業安定化契約(CSP)を締結した人を対象とし、最長18ヵ月、1回だけ更新でき、最初の契約と合わせて最長で36ヵ月まで締結することができる。
11.プロジェクト遂行のためのエンジニア/管理職の雇用
ある定められたプロジェクト遂行のために一定期間、エンジニアもしくは管理職を有期労働契約で雇用するもの。団体協約、ない場合は企業内合意で定められている場合に限る。契約は最低で18カ月、最高で36ヵ月。プロジェクト完了時点で契約解消となる。
有期労働契約を結べない場合
上記の条件を満たしていたとしても、以下の場合は、有期労働契約を結べない。
⚫ 労働争議の結果、労働契約が中断中の従業員の代替要員雇用。
⚫ 経済解雇をしたポストに有期労働契約により別の労働者を雇用すること。
⚫ 経済解雇後は、最低6ヵ月の猶予期間をおかなければ、一時的な業務の増加を理由に有期労働契約により雇用することができない。ただし、契約が3ヵ月以内でかつ更新をしない場合、もしくは急な外国からの注文に対応する場合は可能。
⚫ 前任者が有期労働契約により雇用されていたポストに続けて別の者を有期労働契約により雇用すること。
⚫ 危険を伴うポストおよび有毒物を取り扱うポスト。
契約期間
代替要員、新規に無期限雇用契約を結んだ者が何らかの事情によりすぐに仕事に就けない場合、季節労働者、慣例的雇用、プロジェクト遂行のためのエンジニア/管理職の雇用については契約終了日を明記する必要がないが、最低契約期間を定める義務がある。
有期労働契約の更新は2回のみ可能であるが、原則として更新期間を含めて合計期間が1
8ヵ月を超えてはならない。ただし、拡張された業種別労働協約または合意により、期限付き労働契約の期間と更新回数上限を定めることができる。病欠等の代替要員、慣例的雇用の場合は、最長契約期間の拘束はない。
外国において有期労働契約が結ばれる場合、輸出用発注による一時的な業務量増加、将来消滅することが確実なポストに空席が発生した場合の補充要員は、特例として24カ月まで認められている。一方で以下の場合は契約が9ヵ月までとされている。
⚫ 新規に無期限雇用契約を結んだ者が何らかの事情によりすぐに仕事に就けない場合、労働を開始するまでの空白期間に有期労働者を雇用した場合
⚫ 安全面から緊急を要する工事
有期労働契約は特定業務の遂行のための労働契約であることから、有期労働契約の満期は業務完了を意味する。従って、恒常的な同一業務のための契約の更新はその理由付けに無理がある。一つの有期労働契約が終了し、さらに同ポストに有期労働契約で人を雇うためには、前契約期間の3分の1の期間を空白期間として設ける必要がある(契約期間が14日未満の場合は2分の1)。具体的には、18ヵ月の有期労働契約後、同ポストに有期労働契約で人を雇うためには6ヵ月の空白期間をおく必要がある。同一人物を代替えとして異なるポストに続けて雇う場合、および同じポストでも異なる従業員の代替えとして雇う場合は期
間を空ける必要はない。
契約書
有期労働契約の場合は必ず書面で契約書を交わさなければならない。契約書がない場合、当該従業員が希望すれば、労働裁判所の判断により無期労働契約とみなされる場合がある。契約書は労働開始日から2日以内に本人に手渡す必要がある。特別な場合のみに認められ る労働契約であるので、その契約書には以下の事項を記載することが義務づけられている。入社から2日以内にサインしなかった場合は、賠償金として1ヵ月分の給与を支払う。
- 有期労働契約の理由(交替要員、業務の増加など)
- 交替要員の場合は、誰の交替で、どのポストであるか。
- 契約期間。契約期間がはっきり決定されていない場合は(病欠の代替要員など)最低期間を明記。
- ポスト、および当該ポストに関して健康、安全について特別なリスクがある場合はその旨。
- 試用期間を設ける場合はその期間
- 適用される産業別団体協約
- 給与、賞与
- 加入する補足年金機関の名称および住所
有期労働契約労働者の身分
無期労働契約労働者と同じ待遇で取り扱わなければならない。給与を含めて一般の労働条件は全く同じであり、差別を行なってはならない。同等のキャリアを持つ無期労働契約者の給与と同じレベルの給与を支払う義務がある。ただし、給与のうち年功により定められている部分がある場合は、これを与える必要はない。労働契約中に社内全体の給与改定が行われた場合は、有期労働契約労働者の給与も労働期間などを考慮に入れ、何らかの修正をしなければならない。有給休暇に関しても、無期労働契約労働者と同様に有給休暇を取得することができる。
契約終了時には契約期間中に受け取ったすべての給与額の 10%(団体協約で 6%を下限として別途定められている場合もある)に相当する不安定雇用手当てを支給しなければならない。ただし、季節労働者および政府の雇用政策に沿った雇用の場合、学校が休みの期間に学生を雇用する場合、有期労働契約から無期労働契約へ移行する場合はこれを支払う義務はない。また、労働者が無期労働契約への移行を断った場合も支払う必要はない。契約終了までに消化しきれなかった有給休暇に対する手当ても支払わなければならない。
雇用契約期間中の契約解除
有期労働契約期間中の契約解除は、労使合意、重大過失、不可抗力、労働者が無期労働契約を別会社と結んだことを証明した場合を除いて、原則的には認められない。労使合意を得られず、解除に至った場合は、相手に対して賠償金を支払わなければならない。
- 雇用主の意向による契約解除
残りの契約期間に相当する給与全額を賠償金として労働者に支払わなければならない。不安定雇用手当て、有給休暇手当ても支給する義務がある。
- 労働者の意向による契約解除
担当裁判官の判決に従うこととなる。したがって、判決内容によっては労働者が雇用主に対して賠償金を支払わなければならないこともある。
無期労働契約の仕事が見つかったために契約を解除する場合は、契約全期間に対して 1 週
間につき 1 日として計算した契約解除予告期間(2 週間を上限とする)を遵守すれば、賠償金を支払う義務はない。
有期労働契約書(雛形)
*ケース・バイ・ケースで必要事項を付け加えること。
CONTRAT A DUREE DETERMINEE POUR REMPLACEMENT
(有期雇用契約、代替要員例)
Sans terme précis (期限限定せず)
Entre les soussignés
- La société ≪≫, No. URSSAF≪≫ 企業名とURSSAF番号 dont le siège social est situé à ≪≫ 本社の住所 Représentée par ≪≫ 代表者名
agissant en qualité de ≪≫ 代表者の肩書
D’une part,
- et Monsieur ≪≫, No. de sécurité sociale ≪≫ 非雇用者名と社会保障番号
demeurant à ≪≫, de nationalité ≪≫ 住所、国籍
X’xxxxx xxxx,
Xx a été convenu et arrêté ce qui suit :
Article 1- Engagement- Emplois 義務、職務内容 (必ず明記すること)
Monsieur ≪≫ est engagé en qualité de ≪≫ au coefficient ≪≫ sous réserve des
résultats de la visite médicale d’embauche.
Monsiuer ≪≫ exercera dans l’entreprises les fonctions suivantes ≪≫, selon l’horaire
suivant ≪≫. La durée du travail sera la suivante ≪≫.
Le présent contrat est soumis aux dispositions de la convention collective ≪≫.
Article 2- Objet du contrat 契約目的 (必ず明記すること)
Monsieur ≪≫ est engagé pour remplacer Monsieur ≪≫ absent pour cause de ≪≫
employé en qualité de ≪≫, au coefficient de ≪≫. Le contrat sera exécuté à ≪≫.
Article 3 –Durée du contrat 契約期間 (必ず明記すること、期間限定でない場合は最低期間を明記)
Ce contrat prend effet à compter du ≪≫, à ≪≫ heures.
Il est conclu pour une durée minimale de ≪≫.
Il se poursuivra jusqu’au retour de ≪≫( nom de titulaire du poste) qui constituera le terme de son contrat ou jusqu’à l’issue du congé maternité de Mme.≪≫.
Le contrat pourrait également prendre fin si celui de ≪≫ (nom de titulaire du poste) venait à être rompu.
Article 4 –Période d’essai 試用期間(できれば試用期間を設けたほうが良い)
Il est prévu une période d’essai de ≪≫ au cours de laquelle chacune des parties pourra mettre fin au contrat sans préavis ni indemnité.
Après expiration de la période d’essai, ce contrat ne pourra être rompu avant l’arrivée du terme qu’en cas de faute grave du salarié ou de force majeure, ou d’un commun accord des deux parties.
Article 5 – Rémunération 給与 (必ず明記すること)
En contrepartie de son travail Monsieur ≪≫ percevra un rémunération mensuelle brute de ≪≫ pour un horaire de ≪≫.
S’ajoutent à cette rémunération des primes de ≪≫.
Article 6- Congés payés 有給休暇 (できれば記入すること)
Monsieur ≪≫ a droit aux congés payés calculés selon la loi ( et la convention collective,
s’il y a lieu).
Monsieur ≪≫ sera soumis pour la prise des congés payés aux mêmes règles que les autres salariés de l’entreprise. S’il n’a pu prendre effectivement ses congés payés, Monsieur ≪≫ bénéficiera d’une indemnité compensatrice de congés payés à la fin de son contrat.
Article 7- Avantages sociaux 社会保障等 (必ず明記すること)
Monsieur≪≫ sera affilié à la caisse de retraite complémentaire ( nom et adresse). Monsieur ≪≫ bénéficiera du régime de prévoyance souscrit par l’entreprise auprès de
≪≫.
Article 8 – Fin du contrat 不安定雇用手当て(できれば記入すること)
Au terme de son contrat, Monsieur ≪≫ percevra une indemnité de fin de contrat en application des dispositions légales en vigueur.
Son montant sera égale à 10% de la rémunération totale brute perçue par Monsieur ≪
≫
Article 9 – Obligations professionnelles 職業的義務 (できれば記入すること) Monsieur ≪≫ s’engage à observer toutes les instructions et consignes particulières de travail qui lui seront données et à respecter une stricte obligation de discrétion sur tout ce qui concerne l’activité de l’entreprise.
Date Signature