M&A支援機関に対する信頼感醸成
補足資料③
中小企業における
M&A支援機関に対する信頼感醸成
令和3年3月15日中小企業庁
⚫ 「利益相反」とは、一般的に、委任契約における委任者と受任者(※1)等、一定の信頼関係が成立する当事者間において、利害関係が対立する状況や行為をいう。
⚫ 例えば、委任関係における「利益相反」には一般的に次のような形がみられる。
①委任者と受任者の利害関係が対立している場合
(例:取締役が会社と直接取引を行う場合)
②受任者が同一である複数の委任者間において利害関係が対立している場合
(例:弁護士が遺産分割協議の複数当事者に助言する場合)
⚫ 中小M&Aガイドラインでは、主に②の観点(※2)から、譲渡側・譲受側の両方の依頼を受ける仲介者における利益相反リスクが指摘されている。
※1 準委任等、他の法形式にも該当しうる。
※2 一方の委任者の利益のみを目指すことで受任者が利益を得るという場合、他方の委任者と受任者の利害関係が対立する①と構成することもあり得る。
利益相反の概念図
①委任者と受任者
委任者
利益相反
受任者
委任
委任者
委任者
利益相反
受任者
委任
の利害関係が対立している場合
②受任者が同一である複数の委任者間において利害関係が対立している場合
⚫ 私法の基本法とも言える民法は、利益相反行為の典型例とされる自己契約・双方代理等について、原則として無権代理行為とするが、本人があらかじめ許諾した行為等、本人の利益を害するおそれがないと解される場合には有効な代理行為として扱う。一方、親権者である父母と子の間の利益相反行為(なお、後見監督人のない後見人についても準用)については、子の利益の保護のため特別代理人の選任を求めている。
○民法
(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。た
だし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とxxxとの利益が相反する行為については、親権を行う者は、xxxのために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者がxxの子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為について
は、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
(利益相反行為)
第xxx十条 第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
⚫ 仲介者においては、譲渡側・譲受側間の利益相反リスクがあるとされるが、「何をもって利益相反に該当すると評価するか」という点については、具体的に検討する必要がある。
⚫ 中小M&Aフローの各段階において、利益相反リスクは異なるのではないか。例えば、各段階における利益相反リスクは以下のように理解できるのではないか。
※ 仲介者における利益相反リスクに起因する問題と、未習熟な支援内容に起因する問題は別であり、両者を区別して整理する必要がある。
クロージング(決済)
当事者の権利義務が確定する工程であり、譲渡側・譲受側の利害が最も対立する。交渉等を不可避的に含む場合は、利益相反リスクの観点から、必要に応じて各当事者が弁護士選任等を行うべきではないか。
最終契約の締結
当事者の権利義務の発生に直接影響するため、文言の交渉等を不可避的に含む場合があり得る。
⇒利益相反リスクの観点から、必要に応じて各当事者が弁護士選任等を行うべきではないか。
デュー・ディリジェンス(DD)
譲渡額の決定に大きく影響する工程であり、一方当事者の意向が反映され得る。
⇒利益相反リスクの観点から、必要に応じて士業等専門家等に委ねるべきではないか。
M&Aのフローと利益相反リスクの具体的な内容
相談
一般的に、交渉開始前の時点では、譲渡側・譲受側の接触の機会を提供するに留まる。
(ただし、複数の譲受側候補先がある場合の選定等に関して利益相反リスクへの配慮を要することはある。)
純粋に合意事項を文章化することに留まらず、文言の交渉等を不可避的に含む場合があり得る。
⇒利益相反リスクの観点から、必要に応じて各当事者が弁護士選任等を行うべきではないか。
取引条件は当事者の利害に直結しやすく、特に譲渡額は譲渡側・譲受側の利害が対立し得る。
⇒利益相反リスクの観点から、中立性・xx性をもって両当事者の利益の実現を図るべきではないか。
譲渡額の決定に大きく影響する工程であり、一方当事者の意向が反映され得る。
⇒利益相反リスクの観点から、簡易評価に留めるべきではないか(必要に応じて士業等専門家等に委ねる)。
基本合意の締結
交渉
マッチング
企業価値評価
意思決定
ポストM&A
第3回資料抜粋
支援機関に係る制度的な仕組みのあり方
⚫ ある業務について適切な体制や取組等を促す制度的な仕組みとしては、例えば以下のようなもの
が存在(※複数の枠組みを組み合わせることもあり得る)。
⚫ 中小M&Aガイドラインの更なる徹底にとどめることも含め、どのような措置を講じることが適当か。 なお、制度的な仕組みの検討に当たっては、①取引当事者である中小企業側のニーズ(事
業承継促進等)、②生じている問題の程度、③問題を回避する民間の取組の状況等を勘案
した上で、民間の自律的な活動を必要以上に阻害しないよう慎重な検討が必要ではないか。
制度的な枠組みの種類
仕組み | 内容 | 類例 |
①許可制(※) | ある業務を一般的に禁止した上で、一定の要件に該当する場合には当該禁止を個別具体的に解除する仕組み。 | 宅地建物取引業の免許(宅地建物取引業法)、薬局開設の許可(薬機法)、旅行業の登録(旅行業法)、警備業の認定(警備業法) 等 |
②届出制 | ある業務の開始等の前後に、行政機関への届出を義務づける仕組み。届出違反の場合における罰則の有無・内容等により、規制としての強度は変化する。 | 個人事業の開業届出(所得税法)、土地取引の届出(国土利用計画法)、電気通信事業の届出(電気通信事業法)等 |
③インセンティブ | 一定のインセンティブ(顕彰、財政支援等)を与えることにより、ある業務を一定の方向に誘導する仕組み。 | おもてなし規格認証、健康経営、省エネ基準適合認定表示制度(建築物省エネ法)、JISマーク(産業標準化法)、地域xx牽引企業 等 |
➃民間の自主的な取組 | ある業務を行う複数業者が業界団体を設立するなどして、業界内における各業者による自主的な規律を働かせる仕組み。 | 一般社団法人不動産協会、一般社団法人日本冷凍食品協会、一般社団法人日本民間放送連盟 等 |
⚫ なお、許可制、届出制、インセンティブ、民間の自主的な取組についても、それぞれの中で仕組みの強度に大きな幅があることに留意。
⚫ 例えば、予算措置に絡めて参画する事業者を制限する仕組みを構築するものもあれば(例.補助対象となるサービス等を提供できる事業者を予め登録した上で、登録事業者が提供するサービス等のみを補助対象とする)、予算措置にも絡めずに仕組みを構築するものもある。
登録事業者が提供するサービス等のみを補助対象とする一例
IT導入支援事業者
(IT導入補助金)
ZEHビルダー/プランナー制度
(住宅・建築物需給一体型等省エネルギー投資促進事業)
◆ ハウスメーカー等
✓ ZEH化目標の宣言、普及計画の策定
<共同事業体>
ツール導入
補助事業相談
ツール導入・申請サポート補助事業支援
業務支援・アフターサポート
中小企業・小規模事業者
(申請者/補助事業者)
IT導入支援事業者
IT導入補助金事務局
◆ZEHビルダー制度の運用
✓ 建築主の依頼を受けて補助金を活用したZEHを建築。ZEHの設計性能は第三者認証(BELS)によって確認
✓ 毎年度のZEH普及計画実施状況、
建築実績等を報告、公表
<ZEHビルダーマーク>
✓ 登録事業者数は7578事業者(R2.9.29時点)
ZEHビルダー登録申請
各種指示指導
補助金申請
補助金交付
※ IT導入補助金では、IT導入支援事業者に対して財政支援するものではない。
⚫ 米国では、M&A仲介は禁止されていないが、M&Aを含む株式取引の「助言・仲介事業者
(broker)」又は「取引事業者(dealer)」になろうとする者は、①SEC(証券取引委員会)に登録し、②FINRA(金融業自主規制機構)に加入しなければならない。※1
⚫ ただし、その例外として、株式未公開企業の支配権の譲渡取引を成立させるBrokerについては、一定の条件を満たす場合には、SECへ登録をしないことも許容される場合がある。※2
⚫ なお、仲介事業者については、仲介である事実を書面で譲渡側・譲受側の双方に開示し、両当事者から書面による同意を得なければならないとされている。※2
※1 Securities Exchange Act of 1934(1934年証券取引法)第15条(b)
※2 SEC No-Action Letter, January 31, 2014[Revised: February 4, 2014]
SECの登録しないことが許容される対象となるBrokerの主な要件
⚫ M&Aトランザクションの対象となる企業は株式未公開企業(※対象となる企業の規模については、
特に要件は定められていない)
⚫ 公募を伴わないM&A取引のみに適用
⚫ M&A取引へ資金の供給は行わない
⚫ 買手企業は、売手企業の資産を使用して行われる事業を管理し、積極的に運営する(※買手企業は経営管理の権限を獲得し、議決権の25%以上を所有する)
⚫ Brokerが買手企業と売手企業の仲介である場合、その事実を書面で両当事者に開示する必要があり、 両当事者から書面による同意を得る必要がある
⚫ SECへの登録を行わずにM&A業務を行うBrokerは、ビジネスブローカーまたはM&Aブローカーと総称されることが多く、比較的小規模のM&A案件に従事している。
⚫ そういったブローカーの取扱いは、州によって大きく異なる。例えば、州独自のライセンスが必要な場合と必要でない場合がある。
各州におけるビジネスブローカー・M&Aブローカーの取扱い
ニューヨーク州 | ⚫ ビジネスブローカーのライセンスはない。ただし、アセットベースでの不動産取引を含む場合には同州の不動産ブローカ―ライセンスの取得が、証券の売買を伴う場合には同州のブローカー(及び個人については販売員)の登録が、それぞれ必要となる。(不動産取引や証券の売買が伴わない事業譲渡の場合は、これらのライセンスやブローカー登録の必要はない) ⚫ dual agencyとなる場合は、両当事者に対してdual agencyについての開示を行い、同意を取得する必要がある。 |
イリノイ州 | ⚫ 売却対象事業が同州に所在する場合又はビジネスブローカーの依頼者が同州に本店を有する場合、イリノイ州ビジネスブローカー法(「IL BB法」)に従って、多くのdisclosure documentを含む厳格な登録様式に従った法人登録をする必要がある。 |
フロリダ州 | ⚫ 事業売却の仲介については不動産取引のライセンスが必要。 ⚫ dual agency(不動産取引において売主買主双方のfiduciary※として代理するbroker)は禁止されているが、transaction broker(agentやfiduciaryとしてではなく、両当事者のmiddlemanとして案件成立のため従事する者)については、両当事者に対して義務を負っていることを開示して同 意を得れば可能。 ※fiduciary: 信任義務、受託者。顧客の利益を最優先すること。 |
カリフォルニア州 | ⚫ business opportunityの売買又は賃貸の代理業務には不動産のブローカーライセンスが必要(※カリフォルニアの不動産法は、事業の売却までをカバーしている)。business opportunityの取引では、当事者双方の代理人(仲介)として機能していることが多い。以上に加えて、全ての発行済み株式の譲渡による企業の売却の場合には、カリフォルニア州企業局又は米国SECによる証券取引についてのbroker-dealerライセンスも必要とされる場合がある。 ⚫ dual agencyについては、dual agencyであることを含むagentのcapacityについての一定の開示及び当事者からの書面による確認を得ることで可能。 |