Contract
労働契約解除(解約)の実務対応
Ⅰ.はじめに
年々増加する個別労働紛争(あっせん等)において、解雇関係が半数以上を占めていることから、今回は労働契約の終了に関する法的知識を整理し、実務上のポイントをご説明します。
特に以前はあまり大きな問題とならなかった「内定取消し」「本採用拒否」「中途解除」「雇止め」に関して触れていきます。
解約・・・財産上の継続的契約を将来に向かって失効すること。
解除・・・契約が締結されたのちに、その一方の当事者の意思表示によって、その契約がはじめから存在しなかったのと同様の状態に戻す効果を生じさせること。
【東京労働調整委員会のあっせん受理件数】
紛争内容 | 1840件 |
普通解雇 | 603件 |
いじめ・嫌がらせ | 238件 |
労働条件の引下げ | 214件 |
退職勧奨 | 147件 |
雇止め | 138件 |
整理解雇 | 127件 |
採用内定取消し | 89件 |
出向・転籍 | 30件 |
その他の労働条件 | 21件 |
懲戒解雇 | 16件 |
その他 | 217件 |
(平成20年4月~平成21年3月)
① 退職 ・・・ 解雇以外の事由によって労働契約を終了させるもの。
② 解雇 ・・・ 使用者からの意思表示によって一方的に労働契約を終了させるもの。
退職
雇用契約
終了
期間満了退職辞職
合意退職定年退職
人員整理退職諭旨退職
雇用期間満了休職期間満了
本人xx (自己都合退職)会社申出 (勧奨退職)
希望退職勧奨退職
普通解雇
解雇 懲戒解雇
整理解雇
⮚ 辞職
労働者からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させるものである。
≪民法627条第1項 (期間の定めのない雇用の解約の申入れ)≫
「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
⮚ 合意退職
一般的には、労働者が退職を申し込み使用者が承諾する形で双方の合意により労働契約を終了させるもの。就業規則において“30日前(1ヶ月前)に申し出ること”と規定しているのは、合意退職を前提としたものである。
⮚ 退職願と退職届
厳密に区別しないで用いることが多いが、理屈付けをすれば、「願い」は合意解約の申し入れであり、「届け」は労働者からの一方的意思表示(解約告知)といえる。前者は会社の承諾や合意を前提としているが、後者は承諾等の行為は不要である。
使用者の採用の自由が原則(私企業の活動、契約の自由)⇒ 行き過ぎを職業安定法等で規制
⮚ 2つの区分
① 採用予定者
いわゆる“内々定”のこと。後日書類提出など何らかの正式手続を予定するもので、労働契約は未成立とされるのが一般的である。
② 採用決定者
正式な意思表示等の書類の提出などで、民事上の解約権留保の労働契約が成立したものとされる のが一般的である。労基法の労働者の要件を充たしていないため、労基法の直接的な適用はないが、労働契約の解約として合理的な理由が必要である。
⮚ 始期付解約権留保付労働契約
「始期付」+「解約権留保付」+「労働契約」
*労基法の適用される労働者は、「事業に使用される者」で「賃金を支払われる者」 をいう。
⮚ 試用期間の解雇
試用期間とは、労働者の能力や適正を見極めるための期間とされており、法律上は解約権が留保された「解約権留保付労働契約」とされており、会社毎に相応の期間を就業規則に定めている。
*判例では、試用期間は最長で1年としている
留保解約権に基づく解雇(本採用拒否等)は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇が認められてしかるべきとしているが、社会通念上是認されうる場合にのみ許される。
⮚ 本採用拒否が認められる事情の程度
① 能力不足の程度
② 協調性不足の程度
③ 勤怠不良の程度
期 間 身 分 雇 用 形 態
期活就
間動職
学生
内
定期間
学生
(採用決定者)
(採用予定者)
期試
間用
本
採用
本採用
入社
内定通知
正社員
試用社員
採用募集開始
応募・採用試験実施
始期付 + 解約権留保付 + 労働契約
解約権留保付 + 労働契約
労働契約
⮚ 解雇制限 (労基法19条)
① 労災による休業期間とその後30日間
② 産前産後の休業期間とその後30日間
*定年、有期雇用の期間満了には、解雇制限を適用しない。なお、通勤災害にも適用なし。
⮚ 解雇予告と解雇予告手当 (労基法20条)
使用者が解雇する場合は、「30日前の予告」もしくは「30日分の解雇予告手当」を支払う必要がある。
*懲戒解雇により、労働基準監督署の「解雇予告除外認定」を受けた場合には、即日解雇も可能である。
【労基法の特徴】
手続法と言われるほど、解雇に関しても手続き的な内容を規定するに留まっており、解雇の有効性については一切言及していない。
【労基法の特徴】
手続法と言われるほど、解雇に関しても手続き的な内容を規定するに留まっており、解雇の有効性については一切言及していない。
⮚ 解雇予告の適用除外 (労基法21条)
① 日々雇入れられる者
② 2箇月以内の期間雇用者
③ 試用期間中(14日以内)の者
④ 4箇月以内の季節労働者
*解雇予告は必要ないが、原則として当該契約期間の補償は必要となる。
「解雇」とは、使用者の一方的な意思表示によって、労働契約を終了させるものをいう。
① 普通解雇 ・・・ 労働者の責めに帰すべき事由により労働契約の債務不履行状態にある者に対して行うもの
② 整理解雇 ・・・ 経営上の必要性に基づき実施するもの
③ 懲戒解雇 ・・・ 重大な企業秩序違反行為をした労働者に対して、罰として労働契約を終了するもの
労働者側の事由
普通解雇
諭旨解雇
懲戒解雇 懲戒解雇
解雇
普通解雇
使用者側の事由
整理解雇
⮚ “解約自由の原則” と “権利濫用の無効”
民法、労基法では、“期間の定めなき労働契約”については、解約の自由を前提としているが、労働契約法(判例法理)にて、「権利の濫用は無効」としている。
⮚ “客観的に合理的な理由” と “社会通念上の相当性”
≪労働契約法16条 (解雇)≫
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」
⮚ 育介法、均等法等における解雇の禁止・制限
① 女性であることを理由とする解雇の禁止
② 婚姻、妊娠、出産、産前産後休業の取得・請求、妊娠・出産に起因する能率低下・労働不能等を理由とする解雇の禁止
③ 育児・介護休業等の申出・取得を理由とする解雇の禁止
⮚ 債務不履行の存在
成果、能力、健康、勤務状態(意欲、協調性)が契約内容になっているかを検討し、債務不履行となっていないかを判断する必要がある。
⮚ 就業規則の規定事由の該当性
懲戒解雇と同様、就業規則に根拠規定があることが普通解雇を実施するうえでの要件と考えるべきである。中小企業においては、緩やかな規定内容にしておくべき。
≪就業規則規定例≫
・当社の社員としての適格性がないとき
・その他、前各号に掲げる事由に準ずる重大な事由があるとき
⮚ 社会的相当性の存在
① 改善の機会を与えたか(注意、懲戒処分など)
② 業務上の支障の程度(配転や降格などで回避できないか)
③ 使用者の態度(労働者の反発を招くような言動をとっていないか)
⮚ 解雇手続きの遵守
⮚ 能力不足を理由とする解雇
・多くの企業では「能力不足」のみを理由とする解雇は困難 (能力定義が不明瞭、立証の困難性)
・成果主義の下での能力不足を理由とする解雇は困難 (評価のxxさ)
⮚ 協調性不足を理由とする解雇
・数度の配置転換を行ったうえでの解雇は可能
⮚ 勤態不良を理由とする解雇
・再三の注意を行っても改善の見込みがない場合にはじめて解雇が可能 (解雇に至るプロセス重視)
⮚ 私傷病を理由とする解雇
・身体の著しい故障によって長期間にわたり業務に耐えられないときにはじめて解雇事由該当性が生じる
⮚ 整理解雇の4要件(4要素)
① 経営上の人員削減の必要性が存在すること 『 極度(倒産必至) ・高度(連続赤字) ・通常(体質改善) 』
② 解雇回避努力を尽くしたこと 『 役員報酬減額、新卒採用凍結、他経費削減、配転出向、一時帰休 』
③ 人選に合理性があること 『 契約形態、所属部署、貢献度(勤続年数、人事考課、資格)、生活影響度 』
④ 労働者(代表)と事前に説明・協議を誠実に実施したこと
⮚ 希望退職、退職勧奨
① 希望退職の必要性・不可欠性
② 退職勧奨が退職強要とならないために
③ 退職勧奨に応じない者を指名解雇することができるか
⮚ 判例の動向
整理解雇に関する裁判例は数多いが、整理解雇が有効と判断されたものは少なく、特に企業が倒産の危機に瀕しているというような極度の必要性が認められないようなケースでは、企業側の整理解雇に対し、厳しい判断をくだしていると言える。
⮚ 懲戒処分の法的根拠と権利濫用
労働契約法第15条は「使用者が労働者を懲戒することができる場合」とし、また労基法第89条も、
「制裁の種類と程度」を就業規則に記載することを求めている。権利濫用性の判断では、懲戒の必要性と労働者の被る不利益とのバランスが重要となる。
≪労働契約法15条(懲戒)≫
「使用者が労働者に対する懲戒は、本人がした行為の性質・態様などの事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効とする。」
⮚ 解雇予告除外認定とは
懲戒解雇といえども即日解雇するためには、労基署の「解雇予告除外認定」が必要となる。
事案にもよるが、認定されるまでには、申請から最短で10日、最長で1箇月を要するため、実務上は懲戒解雇と同時に申請手続きを行う。なお、認定に際し、労使双方から事実確認を行うこととなる。
ただし、認定されなかった場合には、解雇予告手当を支払う必要が生じることになるため、予め解雇予告をしたうえで懲戒解雇とすることも実務上は有効である。
⮚ 二重就業と懲戒解雇
①兼業禁止義務、②競業禁止義務、③秘密保持義務 の三つの視点がポイントとなる。
兼業を当然に非違行為とみるべきではなく、法解釈上は懲戒処分の有効性に疑問が残る。
⮚ 横領・背任と懲戒解雇
期間、回数、会社の損害額、自己又は他人の利益を意図したか等が判断基準となる。
⮚ xxxx・xxxxと懲戒解雇
①刑法レベル(犯罪行為論)、②民法レベル(不法行為論)、③行政指導レベル、④規程違反レベル
⮚ 企業外非行と懲戒解雇
企業の円滑な運営に支障を来たしたり、社会的評価を毀損したりする場合に限り懲戒できる。 “飲酒運転による事故、痴漢行為、暴行脅迫等”
⮚ 契約期間の意味合い
① 契約期間の定めなし・・・当事者間で自由に契約を解約できる (民法第627条)
② 契約期間の定めあり・・・契約期間中は債権債務の履行義務(損害賠償等)が生じる
⮚ 期間満了による終了が原則
① 契約更新に対する期待権
a) 更新が前提となる場合 ・・・ 契約関係の終了に制約が生じる
b) 原則として1回または数回の場合 ・・・ 期間満了とともに当然に契約関係が終了する
② 雇止め理由の合理性
単なる“契約期間満了”とは別に、雇止めをする「合理的な理由」が求められる
⮚ 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準 (厚生労働省告示)
⮚ 期間雇用者の分類 (4つのタイプ)
⮚ 期間途中での契約解除
期間の途中で雇用契約を解除する場合には、原則として「相手方の同意」が必要である。
≪労働契約法第4章 (期間の定めのある労働契約) 第17条 ≫
「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」
*たとえ「やむを得ない事由」がある場合でも、残期間に対する損害賠償請求の余地がある。
⮚ 雇用契約書での中途解約の記載が実務上のポイントとなる
民事上の効力を消滅させる根拠として、中途解除の文言を記載することが有効と考えられている。
⮚ 解雇権の濫用法理の類推適用 (更新拒絶の正当性の判断基準)
① 当該雇用の臨時性・常用性
基幹業務に従事する者は原則として、類推適用の問題が発生する
② 更新回数
更新が重ねられるほど類推適用される可能性は高くなるといえる (労働者の期待権保護の考え)
③ 雇用期間
裁判例では、“1年”を超えると類推適用の方向に働くようである
④ 更新手続の実施状況
更新の都度、個別面談のうえ更新の有無を決定し、改めて雇用契約書を作成すること
⑤ 雇用継続の期待を持たせる言動・制度
採用時の説明、過去の更新拒否の実績や就業規則の規定(原則更新、休職、配転命令)が仇になる
⑥ 契約内容の合理性
正社員と同一労働でありながら、不当に低い賃金(処遇)となっていないか
『労働法』 | 著者 | xx | xx |
『労働契約解消の法律実務』 | 著者 | xx | xx |
『採用から退職までの法律実務』 | 著者 | xx | x |
裁判外紛争解決手続(ADR) ・・・ あっせん、調停、仲裁
本訴
裁判所 仮処分
労働審判(平成18年4月1日開始)
労働組合との団体交渉
⮚ 裁判外紛争解決手続促進法 (ADR)
紛争当事者の自主的で迅速な解決を図ることを目的として制定された。
⮚ 個別労働紛争解決促進法
都道府県労働局による個別労働紛争解決制度(労働相談、労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせん)が開始され、当事者間での合意形成を手助けする制度として、紛争調整委員会による「あっせん」制度が用意されている。
⮚ 労働組合法における団体交渉
職種別・産業別・地域別の合同労組などは、加入労働者の使用者に対し団体交渉(労組法第7条)を求めることができる。
⮚ トラブルマニア、組合ジプシーの増加
紛争当事者の自主的で迅速な解決を図ることを目的として制定された。
⮚ 団体交渉時における逃げの姿勢は組合側の思うつぼ
組合側も初回の団体交渉は緊張するものである。
⮚ 退職トラブルでは残業代の未払い請求の可能性が高い
⮚ 団体交渉におけるポイントとなる労務問題
① 36協定
② 従業員代表の選出方法
③ 未払い賃金