Contract
コンソーシアム契約書(大学・事業会社)
想定シーン
1. X 社と Y 大学との共同研究開発の結果、新型xx電池に用いる、変換効率と耐久性を両立する最適な材料の組成に成功した。そのため、X 社は、新型xx電池の事業化を本格的に進めることとした。
2. しかし、新型xx電池を実用化・量産していくためには、①X 社およびY 大学の技術のみでは補えない要素技術が複数存在していた。
3. また、市場として未成熟な新型xx電池を事業化していく上では、②今回の新型xx電池の実用化・量産・販売に関わる事業者を広く巻き込み、市場を大きくしつつ、新型xx電池の利用環境を整えていく必要があるものと考えた。そこで、メンバーを増やした上で、コンソーシアムを組成することを検討し始めた。
4. そこで、追加するメンバーとして、①の観点では、実用化に必要な技術を自社または下請により開発・統括できる事業者を、②の観点からは、市場に一定程度の影響力やリレーションを持った事業者を、と考え、それぞれの観点での要望を満たすA〜C社を加えることとした。
5. その上で、②の観点から、今後もコンソーシアムに参加する企業が増えるよう、コンソーシアムへの参加社のみが、X 社と Y 大学の共同研究開発で得られた新型xx電池に関する特許権のライセンスを受けられることとした。そして、①の観点から、コンソーシアム参加企業間で新型xx電池の技術開発が進んでいくように、コンソーシアム内で定期的に研究会を開催することとし、Y 大学はα教授を講師とした質疑応答の場を設けた勉強会を開催し、コンソーシアム参加企業は、バックグラウンド情報や、事業化に伴う技術的な悩みやユーザーからのフィードバックを同研究会で共有することとした。
6. そして、コンソーシアムを組成するにあたって、X社は、 自社自身で新型xx電池を開発・販売することには注力する予定はなく、以下の点からの収益化を主として想定している。また、新型xx電池が広く普及することで、自らの収益の増加だけではなく、カーボンニュートラルの流れの中で中長期的に電力市場全体が大きくなることも企図している。
(a)新型xx電池の普及を前提に、xxxパネルを用いた売電ビジネスによる利益獲得
(b)コンソーシアム参加企業からのライセンス料の徴収
7. 同様に、自身で新型xx電池を開発・販売することができない Y 大学としては、以下の点からの収益化・メリットを主として想定している。
(a)技術顧問としてコンソーシアム参加企業から徴収する顧問料
(b)コンソーシアム参加企業からのライセンス料の徴収
(c)新型xx電池の事業化・量産化に伴う技術的課題の探索および対応策の検討
8. また、X社は、メンバーを増やすことの懸念として、意思の統一ができないことにより活動が停滞するおそれがあるのではないかと考えている。
以上を踏まえ、概要、以下のような座組を考えた。
コンソーシアムのガバナンスに関するルールを明確に定める
迅速な意思決定が必要な場合等に備え、ある程度の権限を付与したリーダーとなる当事者を定める(既に基盤技術である変換効率と耐久性を両立する最適な材料の組成に成功している X 社がリーダーとなることを想定。)。
9. コンソーシアム組成のための契約交渉においては、各当事者の意向として、以下の点が挙げられた。
【全員に共通する意向】
① 関与する当事者が増えることもあり、成果物に関する知的財産権が共有になると、成果物の活用に大きな支障が生じうることから、基本的には発明者主義としたい。
② ただし、新型xx電池の普及のために必要があるとコンソーシアム内で過半数により合意が取れた場合には、権利者から X 社へサブライセンス権を付与し、X社が全体のライセンスの窓口になれるようにすることとしたい。
【Y 大学の意向】
① X 社が特許権のY大学共有持分を買い取った場合でも、継続的に収入が入る仕組みを設計したい。
② 新型xx電池の事業化に伴って新たに見えてくる技術課題を知る機会を確保したい。
③ 研究成果については、学会や論文等で可能な限り速やかに発表したい。
④ 共同研究における研究開発を担うために必要な研究費用は、大学における知の価値付けも加味して各社に負担してほしい
⑤ 研究施設は貸し出すが、施設利用料は各社に負担してほしい。
⑥ 成果物に関する知的財産権の取得・行使によって、他の大学や研究機関等における教育・研究活動が阻害されることは避けたい。
⑦ 成果物に関して特許出願を行う場合、費用は各社に負担してもらいたい。
目次
前文 6
第 1 章 総則 7
1 条(目的) 7
2 条(定義) 8
3 条(協議会等の設置) 10
4 条(脱退) 12
5 条(新規加入) 14
第 2 章 ライセンス 15
6 条(通常実施権の設定) 16
7 条(コンソーシアム外の第三者への実施許諾の禁止) 17
8 条(禁止事項) 17
9 条(対価) 18
10 条(監査) 19
11 条(対価の不返還) 20
12 条(改良技術) 21
13 条(第三者の権利侵害に関する担保責任) 21
第 3 章 共同研究開発 22
14 条(役割分担) 22
15 条(経費負担) 23
16 条(情報の開示) 24
17 条(知的財産xxの帰属等) 25
18 条(コンソーシアム外の第三者との共同研究) 27
第 4 章 成果物の活用 28
19 条(成果物の利用) 28
20 条(名称使用) 30
21 条(公表) 31
22 条(第三者との間の紛争) 32
第 5 章 一般条項 33
23 条(秘密保持義務) 33
24 条(権利義務譲渡の禁止) 36
25 条(期間) 36
26 条(存続条項) 37
27 条(損害賠償) 37
28 条(通知) 37
29 条(準拠法および紛争解決手続き) 38
30 条(協議解決) 39
前文
X 社(以下「X」という。)、A 社(以下「A」という。)、B 社(以下「B」という。)、 C 社(以下「C」という。)、と Y 大学(以下「Y」という。)は、コンソーシアム(以下「本コンソーシアム」という。)を組成し、第 1 条で定める研究開発を共同で実施し、同成果を活用した規格を普及させることを通じて、各自が利益を獲得していくことについて、以下のとおり合意したので、コンソーシアム契約(以下「本
契約」という。)を締結する。
<ポイント>
本モデル契約は、複数の事業会社および大学がコンソーシアムを組成し、共同研究開発および同成果物の普及・活用を行うにあたって締結する契約である。
<解説>
コンソーシアム契約といっても、その目的及び内容は様々である。本モデル契約においては、以下の背景から締結されたものとなる。
① X 社と Y 大学は、新型xx電池に用いる、変換効率と耐久性を両立する最適な材料の組成に成功したものの、新型xx電池を事業化するにあたって必要となる要素技術が不足していた。そして、かかる技術を X 社およびY 大学のみで補おうとすると、長期間要することが見込まれるが、カーボンニュートラルへの要望が高まる中、世界各国で新型xx光電池に関する開発競争がなされており、これらの競争に勝つため、同技術を補完できる事業会社を巻き込み、早期に事業化の段階に進める必要性が高い状況にあった。
② そのため、コンソーシアムを組むことを検討し始めたが、各要素技術をもつ会社を個別に集めると、その数も大きなものになり、管理コストが増大することが懸念された。また、X 社と Y 大学のみでは各要素技術を持つ優良な会社の目利きとリレーションに不安があった。さらに、新型xx光電池をグローバルに普及させることを念頭に置いていることから、国際展開できる体制をもった企業を参加させる必要があった。これらの観点から、各要素技術を開発・統括でき、海外展開の経験も豊富な大手企業数社をまずメンバーとして集めることとした。
③ X 社および Y 大学は、基本的には自ら新型xx電池の製造・販売は担わないものの、ライセンス料や、X 社は新型xx電池の普及に伴うxxxパネルを用いた売電ビジネスによる利益獲得、Y 大学は定期的に開催する研究会における技術顧問料の徴収および普及に伴って発見される技術的課題の発見という点に本コンソーシアムに取り組む動機がある。そのため、コンソーシアム参加企業各社が新型xx電池事業で成功すると X 社およびY 大学も目的としていた利益を大きくできるという意味で、Win-Win の関係の構築をしやすい関係性があった。
本モデル契約が想定する事案においては、以上の点を踏まえつつ、基本特許のライセンスの条件や、共同研究における各当事者の役割と対価、同研究における成果物に関する権利帰属および利用関係の整理、その他コンソーシアムの運営に関する点等が交渉のポイントとなることが予想される。
第 1 章 総則
1 条(目的)
第 1 条 各当事者は、共同して下記の研究開発(以下「本研究」という。)を行う。
記
【研究の目的】
① 新型xx電池の各製造プロセスの個別要素技術の確立
② 新型xx電池の量産技術の確立
【研究テーマ】
① 電極形成および発電層の塗布技術の研究開発
② 量産技術の研究開発
③ メンテナンス性を含めた施工技術の研究開発、屋外環境での耐久性を含む性能の検証と改善
2 各当事者は、新型xx電池の実用化を進め、同規格の世界各国における普及を
目指すものとする。
<ポイント>
本モデル契約の目的に関する規定である。
<解説>
共同研究開発のテーマ・目的に関する解説は「モデル契約書_共同研究開発契約書
(大学・事業会社)」を参照されたい。
モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx-
portal/index.html
前文の解説で述べたように、コンソーシアム契約は、その目的や内容等が様々であることから、当事者の意識を合わせるという意味においても、このコンソーシアム組成の目的を明記することは重要である。
2 条(定義)
第 2 条 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。
① バックグラウンド情報
本契約締結日に各当事者が所有しており、本契約締結後 30 日以内に、当該当事者が他の当事者に対して書面で、その概要が特定された、本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見、データおよびノウハウ等の技術情報を意味する。
② 本単独発明
特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で各当事者が、他の当事者から提供された情報に依拠せずに独自に創作した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果を意味する。
③ 本発明
特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で開発または取得した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果を意味する(本単独発明を除く。)。
④ 正味販売価格
本件特許発明を実施した製品の販売価格から次号に定義する控除費用を控除した金額をいう。ただし、当該控除は、当該販売価格の 20%を上限とする。
⑤ 控除費用
本契約第 6 条に基づく実施権の設定を受けた当事者が第三者に対し支払った、本件特許発明を実施した製品の販売に要する以下の費用であって、当該支払いにつき証明可能なものをいう。
(1)梱包費、運送費もしくは輸送費、倉庫料、または商社手数料 (2)運送または輸送に係る保険料
(3)消費税、物品税または付加価値税その他本件特許発明を実施した製品の販売に直接課せられる租税公課
(4)関税
<ポイント>
本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。
<解説>
バックグラウンド情報(本条①)
共同開発を始めるにあたり、最も重要な事柄の一つがバックグラウンド情報(共同研究開発契約締結時にすでに保有していた技術情報)の管理である。
この管理を怠ると、契約締結前に保有していた情報と契約締結後に新たに生じた情報が混在することにより、バックグラウンド情報であることの主張立証が困難となり、各情報に関する知的財産権の帰属が曖昧になってしまう。
そうなると、本来単独の特許として出願できたはずのバックグラウンド情報が、共同研究開発上の成果物とされてしまい、共有特許や相手方の単独特許となってしまうリスク(コンタミネーションリスク)が生じる。
このリスクを極小化するため、本モデル契約では、共同研究開発の開始時点において既に各自が保有しているバックグラウンド情報をリストにして開示・交換することの他、以下のような管理を行うことがある。
(i) 特許出願になじむ技術情報(例:ノウハウ・データ・ソースコード以外のもの)については特許出願をしておく。
(ii) (i)以外の技術情報については、公証制度やタイムスタンプサービスの利用により、共同開発契約締結時に既に保有していたという証拠化を図る。
また、相手方による必要以上の技術情報の開示要求リスクを回避するため、本条ではバックグラウンド情報を「自らが必要とみなす」ものとの定義し、開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できることとしている。
このように、(i)開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できるようにしておくこと、(ii)開示したバックグラウンド情報の相手方における扱い(例:秘密保持義務、目的外使用禁止義務、特許出願禁止義務等)を定めておくことが重要である(本モデル契約では第 23 条第 1 項の「秘密情報」の定義にバックグラウンド情報を含めることでこの点に対処している。)。
「本単独発明」および「本発明」(本条②③)
本モデル契約では第 17 条において、「本単独発明」に関する知的財産権は当該発明を創出した者に帰属し、「本発明」については同発明の創出に関与した当事者の共有としているため、「本単独発明」と「本発明」の区別は極めて重要である。
3 条(協議会等の設置)
第 3 条 各当事者は、本契約の目的の達成に向け、本研究の効率化および各当事者間の合意形成を容易にするため、X を主幹事に選任し、また、各当事者から選ばれた委員からなる協議会を設ける。
2 各当事者は、自らが選任した協議会の委員の変更・追加・削減を行う場合は、その変更・追加・削減に関わる委員の名前と共にその旨を他の当事者に連絡する。
3 協議会での決定は、本契約に別段の定めがある場合を除き、全委員の過半数の合意(電磁的な方法による出席および議決権行使によるものを含むものとする。)により行われる。協議会において全委員の過半数の合意が得られず決定ができなかった問題は、主幹事により決定されるものとする。
4 協議会は、次の事項について決議を行う。
(1)本研究の具体的な遂行方法
(2)各当事者への担当業務の進捗状況
(3)本研究の遂行方法またはスケジュールの変更
(4)本研究の内容変更または中止
(5)本条 7 項に基づき支払われる会費の使途の決定
(6)その他協議会が定める事項
5 各当事者は、本契約の目的を達成するために、定期的に(少なくとも 1 ヵ月に 1回)または以下の要件を満たす場合には臨時に、協議会を開催して、各当事者が行う本研究の成果の報告を受けると共に、前項に挙げられた事項について協議決定する。
(1)全委員の●分の 1 が臨時協議会の開催を希望した場合
(2)主幹事が臨時協議会の開催が必要と判断した場合
6 協議会の議事は、その都度、議事録その他の書面により合意する。
7 各当事者は、以下の各号に区分に従い、別途指定する銀行口座への振り込みにより、本コンソーシアムの会費を支払うものとする(振込手数料は支払者の負担とする。)。
(1)アカデミア会員:無償
(2)企業会員:年会費●円
<ポイント>
当事者同士の協業を円滑にするために、情報交換や進捗方法の調整を行うための会議の開催について定める規定である。
<解説>
関与する当事者および研究の種別が多岐にわたる本コンソーシアムにおける共同研究開発では、各当事者間の意思疎通および各研究開発間の調整等を行う必要性が高い。そのため、協議会を定期的に開催し、情報を共有するとともに、各当事者間で進行方法等について意見交換を行うことが望ましい。
また、関与する当事者が多くなることもあり、全当事者の同意が得られない事項が出てくることも予想される。本モデル契約では、コンソーシアムの構成メンバーの数が少なくとも契約締結時点で少数にとどまっていることも踏まえ、全当事者の過半数の合意で意思決定できる内容となっているが(3 条 3 項)、構成メンバーの数によってはコンソーシアムにおいて中心的な役割を担う者(本モデル契約では主幹事)に対して単独での意思決定権限を付与することも考えられる。
コンソーシアムのガバナンスについて、コンソーシアムの組成に伴って一般社団法人を設立する場合もあり(なお本モデル契約は一般社団法人の設立を前提としてい
ない。)、この場合には、株式会社における株主総会に類する組織としての社員総会での決定事項、株式会社における取締役会に類する組織としての理事会での決定事項がそれぞれ定められることとなる(一般社団法人および一般財団法人に関する法律 35 条、同法 90 条等参照。)。他方、本モデル契約においては、多くの場面で参照できるようにという観点から、シンプルな構成を採用し、上記のとおり規定しているが、案件に応じて、一般社団法人の活用や、これに準じた定めを設けることも考えられる。
なお、上述のとおり、協議会は各社の意向をすり合わせる場となるので、実効性のある協議が協議会の中でなされるように、協議会への出席者について、本研究について一定の決裁権をもったメンバーを入れることを義務化することも考えられる。
また、主としてコンソーシアムの運営の原資に充てることを念頭に、Y大学のようなアカデミア会員を除き、各会員は年会費を負担することとしている。
4 条(脱退)
第 4 条 いずれかの当事者(以下「違反当事者」という。)が次の各号のいずれかの事由に該当した場合、他の当事者(以下「非違反当事者」という。)は、違反当事者に対して当該事由の是正を催告したにもかかわらず当該催告後 14 日以内に当該事由が是正されない場合には、他の非違反当事者に対して、違反当事者との関係で本契約を解除することを申し入れることができる。非違反当事者のうち過半数の者が、当該申し入れに同意した場合(なお、非違反当事者は、合理的な理由なくかかる同意を留保しない。)、当該違反当事者との関係で本契約は解除され当該違反当事者は本コンソーシアムから脱退するものとする。
① 本契約の締結または履行に関し、不正または不当の行為をしたとき
② 本契約に違反したとき
2 各当事者は、他のいずれかの当事者(以下「破産等当事者」という。)が次の各号のいずれかに該当したときは、当該破産等当事者に対する何らの催告を要せず、また、当該破産等当事者以外の当事者の同意を得ることなく、直ちに当該破産等当事者との関係で本契約を解除し当該破産等当事者を本コンソーシアムか
ら脱退させることができる。
① 破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続の申立てをしまたは申立てを受けた場合
② 銀行取引停止処分を受けまたは支払い停止に陥った場合
③ 仮差押命令を受けまたは公租公課の滞納処分を受けた場合
3 各当事者は、本契約の有効期間中に本コンソーシアムから脱退することを希望する場合には、協議会にその旨を申し入れることにより、本コンソーシアムから脱退することができる。
4 各当事者は、本コンソーシアムから脱退した当事者が、全当事者の合意に基づく別段の定めがない限り、脱退後、本契約に基づく権利を失い、他方、本契約に
基づく義務は脱退後も引き続き負うことを確認する。
<ポイント>
当事者の脱退について定める規定である。
<解説>
本モデル契約への違反状態を続ける会員をメンバーとして残しておくことは、コンソーシアムの運営・発展を目指していくにあたって、望ましいことではない。そのため、契約違反を是正する旨の催告がなされ、一定期間内に同違反を是正できない場合には、同違反当事者の本コンソーシアムから脱退の申し入れをできることとし、非違反当事者のうち過半数の者が、当該申し入れに同意した場合には当該違反当事者を強制的に脱退させることができるものとした(1 項)。
また、一定の信用不安が発生した場合には、直ちに当該当事者を脱退させることができるものとしている(2 項)。
なお、脱退当事者は、脱退後、ライセンスを含む本モデル契約に基づく権利を消失し、義務は全当事者の合意がない限り引き続き負担することとなるため(4 項)、各当事者が本コンソーシアムに関する事業を継続する限りは、各当事者がむやみに脱退することは想定されないと考えられることもあり、各当事者には、任意に脱退する自由を確保している(3 項)。このように任意脱退の自由を確保することにより、コンソーシアムへの参加のハードルを下げ、多くの者にコンソーシアムへの参加を促しやすくなるというメリットもあるものと考えられる。
5 条(新規加入)
第 5 条 本契約の有効期間中、第三者が本コンソーシアムへの参加を希望し、協議
会の過半数の同意に基づき承認をした場合、当事者は、当該第三者を本契約の当事者として追加する。
<ポイント>
本モデル契約締結後における新メンバーの加入に関して定める規定である。
<解説>
本コンソーシアムに参加すると、本件特許発明のライセンスを受けることができる等のメリットを享受することとなるところ、いかなるメンバーにかかるメリットを享受させることを許すか否かは、既存当事者の重要な関心事と考えられる。他方、コンソーシアムから生まれた知的財産の価値の最大化という観点からは、新規加入について各当事者に拒否権を与えることで「コンソーシアム内のメンバーの短期的利益>コンソーシアムから生まれる知財の価値(およびそこからコンソーシアムメンバーが長期的に得られる利益)の総体の最大化」となることが懸念される。そこで、両者のバランスをとって、新たにコンソーシアムに参加するために、協議会の全委員の過半数の承認が必要であるとしている。なお、本事案ではコンソーシアムのメンバーが比較的少数にとどまることから、過半数の同意としているが、コンソーシアムのメンバーが多数に至る場合には、全委員の 3 分の 2 以上の同意とすることも考えられる。
なお、新たに契約当事者になるためには、契約当事者全員の署名・押印が必要となり、参加者が多いとその手続きに手間と時間が掛かるため、主幹事当事者が他の契約当事者を代理して、主幹事当事者と新規参加者との間での契約書の取り交わしのみで、契約当事者全員と契約を締結したことと同様の効果を得ることを可能とすることも考えられる。
また、独占禁止法との関係で、以下の点に留意する必要がある。
本コンソーシアムでのライセンス対象特許を、新型xx電池の標準規格必須特許として取り扱う場合には、コンソーシアム参加社のみがライセンスを受けられるとし、かつ、コンソーシアムへの参加が全委員の承諾を要するとした場合に、 FRAND(fair, reasonable and non-discriminatory)条件でのライセンスがなされているといえるかを慎重に検討する必要があると考えられる点(詳しくは、xx取
引 委 員 会 「 知 的 財 産 の 利 用 に 関 す る 独 占 禁 止 法 上 の 指 針 」
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxx.xxxx)を参照)。 本コンソーシアムへの追加参加の制限と関連して、xx取引委員会「共同研究開 発 に 関 す る 独 占 禁 止 法 上 の 指 針 」
( xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxx.xxxx ) は、「共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること自体は、原則として問題とはならないが、他の事業者の参加を制限する行為が、例外的に、不xxな取引方法
(独占禁止法第二条第九項第一号または一般指定第一項(共同の取引拒絶)、第二項(その他の取引拒絶)等)、私的独占等の問題となることがある(第一-2
(2)参照)1」と指摘しているため、構成員による対象製品のシェアが大きなものとなった場合には、コンソーシアムへの新規参加の条件を見直す必要が生じうる点。
第 2 章 ライセンス
1 「参加者の市場シェアの合計が相当程度高く、規格の統一または標準化につながる等の当該事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において、ある事業者が参加を制限され、これによってその事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがある場合に、例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある
(私的独占等)。
○ 例えば、参加者の市場シェアの合計が相当程度高く、研究開発の内容等からみて成果が当該事業分野における事実上の標準化につながる可能性が高い共同研究開発については、当該研究開発を単独で実施することが困難であり、これによって生産、流通等の合理化に役立ち、需要者の利益を害さず、かつ、当該技術によらない製品に関する研究開発、生産、販売活動等の制限がない場合には、研究開発の共同化は認められる。
この場合においても、当該共同研究開発について、ある事業者が参加を制限され、成果に関するアクセス(合理的な条件による成果の利用、成果に関する情報の取得等をいう。以下同じ。)も制限され、かつ、他の手段を見いだすことができないため、その事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがあるときには、独占禁止法上問題となる。
しかしながら、参加を制限された事業者に当該共同研究開発の成果に関するアクセスが保証され、その事業活動が困難となるおそれがなければ、独占禁止法上問題とはならない。」
6 条(通常実施権の設定)
第 6 条 X および Y は、他の当事者に対して、下記に定める特許発明(以下
「本件特許発明」という。)について、次条の義務を負うことを前提とした非独占的通常実施権(以下「本件通常実施権」という。)を設定する。
記
(1)登録番号:特許第○○○○○○号
出願日 :○○○○年(令和○○年)○○月○○日登録日 :○○○○年(令和○○年)○○月○○日出願国 :日本
(2)上記(1)に定める出願により生じた優先権の主張に基づく日本または日本以外の国ないしは地域における出願(特許協力条約に基づく国際出願および当該国際出願に基づく指定国移行出願を含む。)
(3)本号(1)または(2)に定める出願の変更出願、分割出願、一部継続出願もしくは継続出願
2 X および Y は、本契約有効期間中、本件通常実施権が設定された特許権について、第三者への譲渡または担保の設定を行わないものとする。
3 本件通常実施権の設定期間は、対象となる特許権の存続期間満了までとする。
4 本条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者は、X およびY に対し、本件特許発明のうち、特許権の登録がなされていないものについて、日本または当該当事者が指定する国において特許権を取得するための手続をとることを求めることができるものとする。当該取得費用は当該手続を求めた当事者が負担するものとする。
<ポイント>
X および Y が保有するいわゆる基本特許のライセンスについて定めたものである。本モデル契約締結後にコンソーシアムに参加する者が出てくる可能性を考慮し、非独占的通常実施権としたが、次条において、X および Y に対し、コンソーシアム外の第三者へのライセンスを禁止することで、コンソーシアムメンバーがコンソーシアム外のメンバーに対して優位性を保てる仕組みを構築し、もってコンソーシアムへの参加促進を図ろうとしている。
7 条(コンソーシアム外の第三者への実施許諾の禁止)
第 7 条 X および Y は、本コンソーシアム外の第三者に対して、本件特許発明
の実施を許諾しないものとする。
<ポイント>
コンソーシアムメンバーがコンソーシアム外のメンバーに対して優位性を保てる仕組みを構築し、もってコンソーシアムへの参加促進を図るべく、事業会社・大学がコンソーシアム外の第三者にライセンスを禁止することを定める条項である。
8 条(禁止事項)
第 8 条 本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者は、X および Yの書面による事前の承諾を得た場合を除き、以下の各号に掲げる行為をしてはならないものとする。
① 第三者(別紙●に規定する自身の子会社または関連会社を除く。ただし、これらの会社が、本契約締結後に各当事者の子会社または関連会社ではなくなった場合には、この限りではない。)に本件通常実施権を再許諾すること。
② 本件通常実施権を一部または全部を問わず第三者に譲渡、移転、担保設定、リ
ース、貸与または共有等すること。
<ポイント>
ライセンシーの禁止事項を定める条項である。
<解説>
本件では、A〜C 社が、各自自社(子会社・関連会社を含む。)または下請業者等を活用して、新型xx電池の事業化を目指していくことから、一定の範囲ではサブライセンスを認める必要がある。
他方で、本件では、コンソーシアム参加のメリットを担保すべく、コンソーシアム外の第三者へのライセンスを禁止している。そのため、xxxxxxが自身の子会社・関連会社と称して、実質的にコンソーシアム外の第三者へライセンスすることを許容してしまうと、今回の座組の前提が喪失することになりかねない。
そこで、サブライセンス先は、子会社または関連会社として別紙●●で特定した者に限ることとした。なお、ここで特定された子会社または関連会社が、本モデル契約締結後にM&A 等により、各当事者の子会社または関連会社ではなくなる場合も想定されるため、かかる場合には、原則に立ち返り、サブライセンス不可としている。
本条 2 号は、許諾された権利の譲渡、移転、担保設定等を禁止する一般的規定である。
9 条(対価)
第 9 条 本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者は、各自それぞれ、X および Y に対し、第 6 条に基づく本件通常実施権の設定への対価、および、第 7 条に基づく本コンソーシアム外への第三者に対する実施許諾の禁止への補償として、以下の支払いをなすものとする。
・ 本契約締結日から 1 ヶ月以内に●円(税別)
・ 本契約の期間中に自身が製造・販売する新型xx電池(本件特許発明を実施する関連製品を含む。)の正味販売価格の●%(税別)(以下「ランニングロイヤルティ」という。)
2 本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者は、各自それぞれ、X およびY に対し、ランニングロイヤルティの計算のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の新型xx電池の販売状況(販売個数・単価、その他ランニングロイヤルティの計算に必要な情報を含む。)を[●から
●日以内に]書面で報告するとともに、当該ランニングロイヤルティを当該期間の末日から●日以内に支払うものとする。
3 本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者は、第 1 項および前項の対価を X が指定する銀行口座振込送金の方法により支払う。これにかかる振込手数料は振込者が負担するものとする。
4 本条の対価の遅延損害金は年 14.6%とする。
<ポイント>
事業会社・大学への対価の支払に関する条項である。
<解説>
ライセンス料設定の考え方
ライセンス料については、①ライセンス契約締結時にまとまった額を支払い(イニシャルフィー)と、②その後は実施量に応じて定期的に支払う(ランニングロイヤルティ)のが一般的である。
交渉においては、イニシャルフィーとランニングロイヤルティの料率がトレードオフの関係になることがある。その際、ランニングロイヤルティに重きをおいてハイリスクハイリターンを狙うか、イニシャルフィーに重きを置いて足元のキャッシュフローを固めるか、という判断が必要になる。
ランニングロイヤルティ:ライセンス対象製品の製造販売量が少なければライセンス料が少なくなるが、製造販売量が多ければライセンス料が多くなる。
イニシャルフィー:ライセンス対象製品の製造販売量に関わらず、契約締結時点で一定のまとまった額が入ることとなる。
本件でのように、実質的な独占的通常実施権を設定する場合においては、他社へライセンスできないことに対する補償として、対象製品の製造販売の数量に関わらず、一定のライセンス料を最低額として(ミニマムギャランティとして)設定した上でランニングロイヤルティを設定することもありうる。
ランニングロイヤルティは、年度ごとや、半期ごとの報告・支払いを義務付けるものが多いといえるが、四半期ごと、毎月というものも存在する。
ランニングロイヤルティを規定する場合、その支払い金額を裏付ける報告義務を課すことが通常である。当該報告義務の対象は、ランニングロイヤルティを計算するに必要最小限の範囲を定めることが原則となる。
逆に言うと、「ライセンス料の計算基準=報告監査可能」という公式を満たすように、ライセンス料の計算基準を決めることがセオリーとなる。
なお、対価の支払先が複数に分かれることによる事務処理の煩雑さを回避するべく、事業会社を回収窓口として、ライセンシーは事業会社に総額を支払えば良いこととした。事業会社と大学間の分配は、事業会社と大学間で既に締結されている共同研究契約に従って行われることになる。
10 条(監査)
第 10 条 X および Y は、本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事
者に対して、報告された対価に関連する製品の売掛台帳、決算書、その他の経理書類・帳簿類を開示すべきことを請求することができる。
2 X および Y は、本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者に対して、報告された対価に関して、公認会計士その他中立な第三者による監査を請求することができる。
3 前項の費用は X および Y が負担する。ただし、監査の結果、報告された対価額が支払うべき対価額よりも 10%以上少なかった場合、X および Y は当該過少申告
をした当事者に対してその費用を求償することができる。
<ポイント>
第 9 条の対価の計算が正しいことを確認するための監査の方法を定めた規定である。
<解説>
監査の費用については、原則はライセンサー(実施許諾者)が負担することを原則としつつも、監査の結果、不正が発生した場合はライセンシー(実施権者)が負担することとしている。ただし、不正の定義で争いが生じることもあるため、ライセンス料の 10%以内の誤差は除くものとしている。
ランニングロイヤリティの支払いが適正でなかった場合には、未払い分につき遅延損害金年利 14.6%が発生することとなり(本モデル契約 9 条 4 項)、これが実質的なペナルティとなっている。
11 条(対価の不返還)
第 11 条 本契約 6 条 1 項に基づく通常実施権の設定を受けた当事者は、本契約に基づき X および Y に対して支払った対価に関し、計算の過誤による過払いを除き、本件通常実施権が設定された特許権の無効審決が確定した場合(出願中のものについては拒絶査定または拒絶審決が確定した場合)を含むいかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後 30 日以内に書面により行うものとし、
その後は理由の如何を問わず請求できない。
<ポイント>
支払われたライセンス料についての不返還を定めた条項である。
<解説>
支払済みの対価の返還については、出願中の特許に拒絶査定が出て特許が成立しない、対象となる特許が無効審判により無効にされてしまった場合などに問題が生じやすい。
12 条(改良技術)
第 12 条 各当事者は、本契約期間中に、本件特許発明の改良技術(特許を受けられるか否かに拘わらず、新型xx電池または新型xx電池の製造もしくは使用方法に関するすべての改良、修正および変更をいう。)を発明した場合、他の当事者に対してその事実を通知し、さらに、他の当事者の書面に
よる要請があるときは、当該改良技術を他の当事者に開示する。
<ポイント>
当事者が、ライセンス対象の発明を基本発明として、応用・改良技術を開発した場合の取り扱いを定めた規定である。
<解説>
本モデル契約においては、改良技術はライセンスの対象とはしていないものの、新型xx電池の普及のために必要な特許にあたる場合、当事者のいずれかが改良技術を独自に開発した場合において他の当事者への通知義務を課さなければ、他の当事者は当該改良技術の存在すら気付くことができないおそれがあり、後述する事業会社へのサブライセンスの要否を議論する機会すら得られないこととなる。
そのため、本条においては、改良技術を発明した場合に他の当事者への通知義務等を課している。
13 条(第三者の権利侵害に関する担保責任)
第 13 条 X および Y は、他の当事者に対し、本契約に基づく本件特許発明の実施が第三者の特許権、実用新案権、意匠xxの権利を侵害しないことを保
証しない。
2 本契約に基づく本件特許発明の実施に関し、本契約の当事者のいずれかが、第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、当該当事者は、他の当事者に対し、当該事実を通知するものとし、各当事者は、当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。
3 各当事者は、本件通常実施権が設定された特許権が第三者に侵害されていることを発見した場合、当該侵害の事実を他の当事者に対して通知するも
のとする。
<ポイント>
ライセンス対象となる特許xxの非保証を定めた規定である。
1 項の特許非保証を前提として、2 項は、xxxxxxが第三者から訴訟提起された場合のライセンサーの協力義務を定めたものである。
<解説>
ライセンスの対象となる特許等については、第三者の権利侵害がないことを保証する(いわゆる「特許保証」)のが当然だという考え方になりがちである。
しかし、製品仕様も固まっていない段階、すなわち、本件特許発明がどのように使用されるかも分からない段階で特許保証を要求することは酷であり、また、特許保証はライセンサーのリスクが非常に高い。各当事者間の適切なリスク分配という観点からは、特許保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、特許保証をするにしても、「X および Y が知る限り権利侵害はない」「X および Yは権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。
第 3 章 共同研究開発
14 条(役割分担)
第 14 条 各当事者は、本契約に規定の諸条件に従い、本研究のテーマについて、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。
① X の担当:変換効率と耐久性を両立する最適な材料に関する課題の探求
② A、B および C の担当:新型xx電池の実用化・量産に関する課題の探求および同課題を解決する手法についての研究開発
③ Y の担当:変換効率と耐久性を両立する最適な材料に関する課題を解決する手法についての研究開発、各当事者から出される新型xx電池の技術に関する質問への回答、研究施設の貸出、各要素技術の組み合わせに関する課題の探求および同課題を解決する手法についての研究開発
④ 本契約締結後に新たに本契約の当事者となる者の担当:協議会において定め
る。
<ポイント>
各当事者の役割分担(担当業務)を定めた規定である。
共同研究開発における役割分担の条項の意義および留意点については、「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)」3 条の解説を参照されたい。
モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx-
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15 条(経費負担)
第 15 条 本研究を行うにあたって生じた経費は、以下の各号に定める当事者が負担するものとし、経費の計算等の経理は X が行うものとする。
① 変換効率と耐久性を両立する最適な材料に関する課題の探求および同課題を解決する手法についての研究開発に要する経費:X
② 新型xx電池の実用化・量産に関する課題の探求および同課題を解決する手法についての研究開発に要する経費:A、B およびC
③ 各要素技術の組み合わせに関する課題の探求および同課題を解決する手法についての研究開発(Y に所属する●の本研究への稼働に対する報酬(●円)を含む。):X、A、B、C
④ 本契約締結後に新たに本契約の当事者となる者による費用負担:協議会において定める。
⑤ 上記各号のいずれにも当てはまらない場合:協議会において定める。
<ポイント>
本研究に必要な経費を誰が負担するかを定める条項である。
直接経費および間接経費のそれぞれの扱いの留意点については、「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)」6 条の解説を参照されたい。
なお、共同研究開発の実施場所、研究・開発担当者、購入した設備の所有xxが契約終了後どの当事者に帰属するかについての規定を定めることも考えられる。
研究開発の経費をめぐる交渉の留意点については、「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)」6 条の解説を参照されたい。
また、大学に所属する教授の稼働に対する報酬の考え方については、知への価値付けを鑑みて、「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)」5 条の解説を参照されたい。
モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx-
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16 条(情報の開示)
第 16 条 各当事者は、本契約締結後 30 日以内に、各自のバックグラウンド情報
(もしくはその概要)を書面で他の当事者に開示し、特定しなければならない。
2 各当事者は、前項に定めるものの他、本契約の有効期間中、自己が担当する業務から得られた技術情報を速やかに他の当事者に開示する。ただし、第三者との契約により当該開示を禁止されているものについては、この限りではない。
<ポイント>
各当事者がバックグラウンド情報と各自の担当業務から得られた技術的情報を他の当事者に開示する規定である。
本コンソーシアムにおいては、多数の当事者の中で共同研究開発が行われるため、技術のコンタミネーションが生じるリスクが高い。そのため、各当事者にバックグラウンド情報の開示を求めることで、技術のコンタミネーションの防止を図っている。
なお、A〜C 社としては、コンソーシアム内に競合他社が存在することから、自社のノウハウは開示しないという判断をすることも考えられるが、この場合、同ノウハウに相当する情報がコンソーシアム内のいずれかの当事者がコンソーシアム内の共同研究開発で発明した場合や、他の当事者が単独で発明した場合に、同発明の権利
が自社以外のメンバーに帰属するリスクを負うこととなる。そのため、ある程度の情報については、バックグラウンド情報として開示されることが期待される。
その他、共同研究開発における情報の開示に関する条項の意義および留意点は、
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx-
「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)」7 条の解説を参照されたい。 モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)
portal/index.html
17 条(知的財産xxの帰属等)
第 17 条 本研究の過程で生じた発明等にかかる知的財産権は、その発明等が単独の当事者によってなされた場合(本単独発明)には当該当事者に単独で帰属するものとし、複数の当事者によってなされた場合(本発明)には、その寄与分に応じて共有とする。
2 各当事者は、Y を含む学術または研究機関による、研究・開発・教育のいずれかの目的による本発明の実施について、本発明にかかる知的財産権を行使しないものとする。
3 各当事者は、本研究の遂行の過程で発明等を取得した場合は、速やかに他の当事者にその旨を通知しなければならない。
4 各当事者は、他の当事者の同意なくして、他の当事者から開示等を受けた技術情報(バックグラウンド情報を含む。)およびxxxx、本研究の遂行の過程で他の当事者が創作した発明、考案またはその他の他の当事者が取得した技術情報もしくはノウハウについて、日本を含めたいかなる国にも特許、実用新案、商標、著作権またはその他のいかなる知的財産権も出願または登録してはならず、いずれかの当事者がこれに違反した場合は、その違反した当事者に当該出願または登録に関する権利またはその持分を無償で譲渡すべき旨を請求することができる。
5 各当事者は、本発明またはバックグラウンド情報に改良、改善等がなされた場合、その旨を協議会へ報告し、かつ、他の当事者に対して速やかに通知した上で、第 19 条の定めを適用して当該改良、改善等に係る成果を取り扱うものとする。
6 本発明について、その内容をコンソーシアム内のノウハウとして秘匿すべきであると協議会の全委員の過半数により決定した場合、各当事者は、同秘匿対
象について、コンソーシアム外の第三者に対して開示しないものとする。
<ポイント>
本研究に関わる知的財産xxの帰属について定めた規定である。
知的財産権の帰属の考え方
知的財産権の帰属の決定方法は、
①誰が発明したかを問わず、いずれかの当事者に単独帰属させる、 ②全て当事者間の共有、
③当該知的財産等を発明した当事者に帰属、 ④当事者間で都度協議、
に大別できるが。
本モデル契約では、コンソーシアムに参加する各当事者の利益の最大化を目指すべく、以下の点に留意した。
① コンソーシアム内に A〜C 社という業界内で競合する企業が参加していることから、共同研究開発で創出された発明について、特定の当事者に単独帰属させるという枠組みには抵抗感が強いと思われる。そのため、発明者主義を採用した。すなわち、単独で発明したものは当該発明者に単独帰属し(本単独発明)、共同で発明したものは当該発明に関与した当事者間の共有とした(本発明)。
② また、特定の本発明について、他の規格等の競争に備え、コンソーシアム外に開示すべきではないと判断される技術情報等が出てくる可能性がある。そのため、協議会の全委員の過半数の決定により、本発明のうち一定の内容についてはノウハウとしてコンソーシアム外の第三者に開示しないものとすることができるようにした。
その他、共同研究開発における成果物に関する知的財産権の帰属の考え方については、「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)」8 条の解説を参照されたい。
モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・事業会社)
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx-
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18 条(コンソーシアム外の第三者との共同研究)
第 18 条 各当事者は、以下の各号に定める事項を遵守することを条件に、第三者との間で本研究と同一または関連するテーマについて共同研究開発をすることを何ら制約されないものとする。
① 第 17 条第 6 項に定めるxxxx秘匿義務等を遵守すること
② 第 23 条に定める秘密保持義務を遵守すること
<ポイント>
コンソーシアム外の第三者との間で、本研究と同一または関連するテーマの共同研究開発を行うことの制約がないことを確認する規定である。
<解説>
本コンソーシアムは、新型xx電池の事業化および普及を目指すものとなっているが、コンソーシアムのメンバーが、新型xx電池と関連する技術(例えば、新型xx電池の建材への施行技術等)の開発をコンソーシアム外のメンバーと取り組むこともあり得るし、そのような活動を過度に制限してしまうと、コンソーシアムへの参加のハードルが高くなると共に、新型xx電池と密接に関連する製品やサービスが生まれづらくなり、ひいては新型xx電池市場の拡大に悪影響を及ぼすおそれがある。
そこで、本モデル契約においては、xxxxの秘匿や守秘義務等を負うことを条件として、第三者との間の共同研究開発を禁止しないこととした。
なお、第三者との間での共同研究開発を自由に認める以上、同共同研究開において、本件特許発明を研究開発目的で実施することは許されるという前提で本条を設けている。そして、同共同研究開発において、事業化しうる成果物が出た場合には、同共同研究開発のパートナー企業に本コンソーシアムへ参加してもらい(参加条件については 5 条参照。)、本特許発明のライセンスを受けられる地位を得てもらった上で、同成果の事業化を図ってもらうことを予定している。事業化しうる成果物が出てからコンソーシアムへの参加を打診した場合、参加条件を満たさないケースも想
定しうるため、実際には、本条にかかる共同研究開発を開始する時点でコンソーシアムへ参加するという運用になるものと思われる。
第 4 章 成果物の活用
19 条(成果物の利用)
第 19 条 本発明、本単独発明またはバックグラウンド情報が新型xx電池の普及のために必要なものであることについて協議会の全委員の過半数の同意が得られた場合、当該発明に関する知的財産権を保有する当事者は、X に対し、再実施許諾権付き(ただし再実施許諾先は当事者に限るものとする。)の実施許諾権を設定するものとする。同許諾条件は協議会の全委員の過半数の同意に基づき決定するものとする。
2 本単独発明または本発明について、同発明にかかる知的財産権を取得するべく、出願等(知的財産権の取得、維持および保全をいう。)を行うときは、当該出願等の費用は当該発明について知的財産権を有する当事者が負担するものとする。
3 各当事者は、Y を含む学術または研究機関による、研究・開発・教育のいずれかの目的による本単独発明または本発明の実施について、同発明にかかる知的財産権を行使しないものとする。
4 各当事者は、本研究の遂行の過程で発明等を取得した場合は、速やかに他の当事者にその旨を通知しなければならない。他の当事者に通知した発明が本単独発明に該当すると考える当事者は、他の当事者に対して、その旨を理由とともに通知するものとする。
5 各当事者は、他の当事者の同意なくして、他の当事者から開示等を受けた技術情報(バックグラウンド情報を含む。)およびサンプル、本研究の遂行の過程で他の当事者が創作した本単独発明、考案またはその他の他の当事者が取得した技術情報もしくはノウハウについて、日本を含めたいかなる国にも特許、実用新案、商標、著作権またはその他のいかなる知的財産権も出願または登録してはならず、いずれかの当事者がこれに違反した場合は、その違反した当事者に当該出願または登録に関する権利またはその持分を無償で譲渡すべき旨を請求することができる。
6 各当事者は、本発明に改良、改善等がなされた場合、その旨を他の当事者に対して速やかに通知した上で、本条の定めを適用して当該改良、改善等に係る成
果を取り扱うものとする。
<ポイント>
本共同研究開発に関わる成果物の利用について定めた規定である。
成果の利用についての考え方
本モデル契約では、各当事者の利益の最大化を目指すべく、以下の点に留意した。
① 第 9 条で示したとおり、知的財産権の帰属について発明主義を採用している。他方で、コンソーシアム内で創出された発明が、新型xx電池の普及にあたって必要なものである場合には、今後増えるかもしれないコンソーシアムの会員に対してライセンスできる体制を構築することが望ましいが、例えば特許発明のライセンスについては、共有者全員の同意が必要となるため(特許法 73 条 3 項)、コンソーシアムの会員が増加し、共有者も多数に至った場合には、共有者全員からライセンスの同意を得ることは容易ではなく、新型xx電池の普及の妨げとなるおそれがある。
② そこで、協議会の全委員の過半数が、特定の本発明および本単独発明について、新型xx電池の普及に必要なものと判断した場合には、同発明の権利者は、事業会社に対して、サブライセンス可能なライセンスをすることとし、コンソーシアム内の会員は、ライセンスの窓口の事業会社からライセンスを受ければ良いという体制を構築することとした。なお、事業会社へのライセンスの条件については、発明の内容等にもよって適正な内容は異なるものと考えられることから、同条件についても協議会の全委員の過半数の同意に基づき決定することとした。
本モデル契約は以上の座組を採用したが、ビジネスモデルや発明の内容等を踏まえ、特定の当事者に特許権を単独帰属させる手法や、合弁会社を設立し、同会社に特許権を単独帰属させる手法も考えられる。
アカデミアへの権利不行使
大学が特定の事業会社に成果物の排他的な利用を許すことへの懸念の 1 つには、そのことにより研究や教育活動に支障が生じることをおそれることが考えられる。
特許法 69 条 1 項においては、「試験又は研究」のためにする実施については特許権の効力が及ばないとしているものの、「試験又は研究」の意義等、解釈の余地が残ることから、契約において上記大学の懸念を払しょくするための条項を設けることも有用といえよう。
具体的には、事業会社からアカデミアによる研究や教育等の目的による本発明①の実施については権利行使をしないこととしている(本条 3 項)。
20 条(名称使用)
第 20 条 Y は、その他の当事者に対し、Y の名称、略称、xxx、エンブレム、ロゴタイプ、標章、Y の本研究担当者等の氏名等(以下「Y 名称等」という。)を新型xx電池の広告の目的その他の営利目的に使用することを許諾する。
2 各当事者は、前項の許諾に基づき Y 名称等を使用する場合、以下の各号に定める事項を遵守するものとする。
① Y の信用・ブランド等を毀損する態様でY 名称等を使用しないこと
② Y 名称等について、Y の事前の書面による承諾なく商標出願を行わないこと
③ 事実関係(新型xx電池についての Y の監修の有無を含むが、これに限られないものとする。)と異なる表記を付さないこと
④ 需要者に誤解、誤認を与えるような内容、態様で使用しないこと
⑤ Y 名称について、著しく同一性を失しまたは変形した態様で使用しないこと
<ポイント>
大学の名称等についての使用許諾について定めた規定である。
<解説>
新規事業に取り組む事業会社としては、新たな事業に優れた技術を使用していることをアピールするために、例えば「●●大学との共同研究開発により創出した技術を採用」等、大学の名称等を使用することによりブランディングを図ることが有益な場合が少なくない。そこで、本モデル契約においては、大学の名称等の使用を許諾する条項を入れている(本条 1 項)。
他方、大学としては、大学の信用等を棄損する態様で大学の名称等を使用されては困るという懸念もあるため、事業会社による大学の名称等の使用にあたっての遵守
事項も併せて定めることとした(本条 2 項)。なお、大学として、大学の名称等の仕様についてのガイドラインを保有している場合においては、当該ガイドラインをリファーして遵守事項を定めることも考えられよう。
21 条(公表)
第 21 条 各当事者は、他の当事者の事前の同意を得ることなく、別紙●●に定める内容を開示、発表または公開することができる。
2 Y は、その学術的使命を果たすため、以下の各号に規定する事項を遵守することを条件に、本研究にかかる成果の公表(以下「本公表」という。)を行うことができるものとする。
① 本公表にあたっては第 23 条(秘密保持義務)を遵守すること
② 他の当事者に対し、本公表の予定日の 30 日前までに、その内容を通知すること
③ 他の当事者が本発表の内容に第 23 条(秘密保持義務)に規定される秘密情報が含まれていると判断したときまたは他の当事者が本研究に関して特許出願を行うに際してその準備期間を要すると判断したときは、他の当事者は、当該通知後 15 日以内に、Y に対し、当該部分につき合理的な範囲で内容修正または本公表の延期を求めることができ、この場合、Y は、他の当事者と協議の上対応すること
④ 本項の規定は、本研究期間中および本研究終了日から 6 ヶ月以内に行われる本公表に適用されること
3 Y を除く各当事者は、Y との間でその内容および時期について事前に協議を行い、第 23 条(秘密保持義務)を遵守した上で、本公表を行うことができるものとする。
<ポイント>
共同研究開発の開始および成果の公表の手続きについて定める規定である。
<解説>
まず、共同研究開発を開始した事実については、契約締結の時点で具体的な公表内容を合意し、それを記載した別紙●●を契約書に添付しておくことが望ましい。
共同研究開発の成果の公表については、大学との共同研究開発特有の事情に留意する必要がある。すなわち、事業会社としては、共同研究開発の成果に関して、当該成果を自社事業の成長に効果的に活用するべく、慎重に出願戦略を検討したいという要望がある。
他方、大学は学術研究のために共同研究開発に取り組んでいるという側面があり、当該研究成果を学会や学術論文等で迅速に発表したいという要望があり、教授が学術発表の準備ばかりに注力している場合や、その発表時期次第では、学術発表用の論文を下書きに出願書類を作成せざるを得ず、十分な出願戦略を検討することができなかったという事案も散見される。
しかし、当然のことながら、学術発表の観点から優れた論文と、出願戦略の観点から優れた特許明細書は異なるものであり、当該論文がいかに学術的に優れていようとも、その内容では事業成長のためのツールたる特許としては価値がないという場合も珍しくない。
そこで、事業会社が出願戦略を検討する時間を確保するべく、学術発表を行うにあたっては、その内容を発表の 30 日以上前に通知することとし、その内容次第では、特許出願の準備のために発表内容の変更や発表時期の延期を求めることができるものとした。
22 条(第三者との間の紛争)
第 22 条 本研究に起因して、第三者との間で権利侵害(知的財産権侵害を含む。)および製造物責任その他の紛争が生じたときは、各当事者は協力して処理解決を図るものとする。
2 各当事者は、第三者との間で前項に定める紛争を認識した場合には速やかに他の当事者に通知するものとする。
3 第 1 項の紛争処理に要する費用の負担は、以下のとおりとする。
① 紛争の原因が、専ら特定の当事者に起因し、他の当事者に過失が認められない場合は当該特定の当事者の負担とする。
② 紛争が全当事者の過失に基づくときは、その程度により各当事者協議のxxx負担割合を定める。
③ 上記各号のいずれにも該当しない場合、各当事者協議のxxx負担割合を定
める。
<ポイント>
研究開発時に起こりうる第三者との主なトラブルは、知的財産xxの権利の侵害または製造物責任に関するものである。本条はこのようなトラブルが発生した場合の両当事者の責任と費用負担について定めた規定である。
<解説>
開発委託の場合には、開発者側に、成果物が第三者の知的財産権を侵害しないことの表明保証を求める場合も少なくないが、本件は両当事者の知見を合わせて成果物の創出に向けて取り組む共同研究開発であるから、第三者の知的財産権の侵害が発覚した場合には、両者協力して処理解決することとし、紛争を認識した場合は他方に速やかに通知することとしている。
責任と費用は、紛争の原因がある当事者の負担とし、当事者双方の過失による場合には過失の度合いにより協議の上負担する旨規定している。
第 5 章 一般条項
23 条(秘密保持義務)
第 23 条 各当事者は、第 1 条に定める目的のため(以下「本目的」という。)、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法および媒体を問わず、また、本契約締結の前後にかかわらず、いずれかの当事者が他の当事者(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータ、素材、機器およびその他有体物、本研究のテーマ、本研究の内容および本研究によって得られた情報(別紙●●に列挙のものおよびバックグラウンド情報を含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または漏えいしてはならない。
2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。
① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの
② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったも
の
③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの
④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの
⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得しまたは創出したもの
3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本目的のために合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。
4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。
5 受領者は、秘密情報等を、本目的のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。
6 本条第 1 項および同条第 3 項ないし第 5 項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができる。
① 法令の定めに基づき開示等すべき場合
② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合
③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合
7 本研究が完了し、もしくは本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(その複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他の有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。
8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者
の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。
9 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案その他の連絡事項の全てに取って代わる。
10 本条の規定は、本契約が終了した日からさらに 5 年間有効に存続するものと
する。
<ポイント>
相手から開示提供等を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。
<解説>
従前に締結した秘密保持条項との関係整理
秘密保持契約やPoC契約に引き続いて共同研究開発契約を締結する場合、共同研究開発契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項と共同研究開発契約における秘密保持条項の関係が問題となる。
共同研究開発契約においては新たな秘密保持条項を設けずに既存の(従前の契約で定めた)秘密保持条項が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては共同研究開発契約で新たに定める秘密保持条項が、既存の秘密保持条項を上書きすることとしている(本条 9 項)。
共同研究開発契約において、既存の秘密保持条項とは異なる内容の秘密保持条項を設ける場合は、特にそれらの優先関係に留意しなければならない。
秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否)
秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、本モデル契約では、様々な情報、データ、素材等がやりとりされることが多い共同研究開発段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクが大きいと考え、秘密である旨の特定を要さない前者を採用している。
他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報
を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、
「秘密を指定」する条文を採用すればよい。
なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、新素材分野のモデル契約書(秘密保持契約)に詳細に解説しているため、そちらも参考にされたい。
秘密情報の定義(秘密情報に有体物を含めるか否か)
共同研究開発では、無体物である情報やデータに加え、有体物である素材それ自体がやり取りされることが多いところ、この素材は、当事者にとっては秘密情報と同様の重要性を持つものである。そこで、本モデル契約では、素材を含む有体物をも保護することとし、有体物を含む保護の対象全体を「秘密情報等」と整理している。 また、本モデル契約では、秘密情報等に「別紙●●に列挙のもの・・・を含む」という文言を入れることで、特に秘密情報等として保護すべきものが(別紙●●に列挙することで)秘密情報等の範囲から漏れることを防止できる立て付けにしている。
さらに、本モデル契約では、「本契約締結の前後にかかわらず」の文言を入れることで、締結前の秘密情報も保護の対象となることを明らかにしている。
24 条(権利義務譲渡の禁止)
第 24 条 各当事者は、互いに他の当事者の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させまたは本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ、もしくは担保に供してはならな
い。
<ポイント>
第 25 条 本契約の有効期間は、本契約締結の日より、別途協議会にて決議する
日までとする。
権利義務の譲渡禁止を定めた一般的条項である。 25 条(期間)
<ポイント>
契約の有効期間を定めた一般的条項である。
本コンソーシアムでは、多種多様な利害関係を有する当事者間において、多種多様な共同研究が実施されることが予定され、また、ライセンス条項を含む契約となっているため、例えば契約期間を 1 年として(更新拒絶の余地を残す)自動更新とする方式には馴染まないものと考えられる。そこで、契約終了日については、別途協議会にて決議することで定めることとした。
26 条(存続条項)
第 26 条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても別途協議
会において指定した定めは有効に存続する。
<ポイント>
契約終了後も効力が存続すべき条項に関する規定である。
本モデル契約が終了する場合、各当事者が独自に事業を継続する場合もあれば、全員撤退する場合も考えられる。それぞれの場合において、例えばライセンスに関する 6 条の効力を残存させる必要性があるか否か等、効力を残存させるべき条項は異なってくると思われることを踏まえ、いかなる条項の効力を残存させるかは、別途協議会において定めることとした。
27 条(損害賠償)
第 27 条 各当事者は、本契約の履行に関し、他の当事者が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、当該当事者に対し、当該違反行為の停止
または予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。
<ポイント>
契約違反が生じた場合に違反行為の停止等および損害賠償請求ができることを規定している条項である。
28 条(通知)
第 28 条 本契約に基づく他の当事者に対する通知は、本契約に別段の規定がない限り、すべて、当該当事者に書面または各種記録媒体(半導体記録媒体、光記録媒体および磁気記録媒体を含むが、これらに限らない。)を直接交付し、郵
便を送付しまたは他方当事者が予め了承する電子メールもしくはメッセージ
ングアプリを利用して電磁的記録を送信することにより行うものとする。
<ポイント>
本モデル契約における通知方法の原則を定めた規定である。書面だけでなく USB メモリなどの媒体によるやり取りも可能とし、また、郵便やファックスに加え、相手方が了承すれば電子メールやメッセージングアプリでの通知も認める規定としている。
29 条(準拠法および紛争解決手続き)
第 29 条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判
所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
<ポイント>
準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。
<解説>
クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。
紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。
【変更オプション 1:知財調停】
第 29 条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。
2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
3 第 1 項に定める紛争を除く本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法
とし、第 1 項に定める地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
<解説>
紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。
「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。
運用面では、原則として、3 回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。
知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。
知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。
【変更オプション 2:仲裁】
本契約に関する一切の紛争については、日本法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁
規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。
<ポイント>
紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。
<解説>
仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。
30 条(協議解決)
第 30 条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、各当事
者誠実に協議の上解決する。
★【コラム】Collaborative Innovation Partnership(CIP)技術研究組合の活用について★長期間を要する研究開発や、大規模な研究開発を行う場合は、技術研究組合(CIP)を企業と大学と共に組成することも 1 つである。
技術研究組合は、産業活動において利用される技術に関して、組合員が自らのため
に共同研究を行う相互扶助組織(非営利共益法人)である。各組合員は、研究者、研究費、設備等を出しあって共同研究を行い、その成果を共同で管理し、組合員相互で活用する。
平成21 年の改正により、研究開発終了後に会社化して研究成果の円滑な事業化が可能になるなど、従来よりも使いやすい制度になった。今後は、大企業、中小ベンチャー企業、大学・公的研究機関等により幅広く活用されることが期待されている。
当該技術の事業化に対して、研究開発型ベンチャーを会社として設立すると、欠損金が累積して資金調達や上場などに支障を来すことがある。これに対し、研究開発段階では技術研究組合(CIP)を活用しつつ、研究開発終了後に会社化すれば、欠損金の累積なく事業を開始することができる。ただし、組織の本来機能の見直し等バランスを十分に検討した上で、産学連携の円滑な推進のツールの 1 つとして活用する。
詳 細 は 、 経 済 産 業 省 CIP ( 技 術 研 究 組 合 ) 制 度 に つ い て
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxx_xxxxxxxxx/xxxxxxx/xxxxxxxxxxxx.xxxx)を参照されたい。