IAS第37号の
研究ノート
不利な契約に関する
IAS第37号の
部分改訂プロジェクト
契約と直接関連する原価の明確化、経過措置その他に関する
成案に至る最終検討
xxxx
Xxxxxxx Xxxxxxxx
滋賀大学 経済学部 / 准教授
I はじめに
2020年5月14日、IASBは、IAS第37号「引当金、偶発負債、および偶発資産」の不利な契約に関す る規定を部分的に改訂する成案「不利な契約─ 契約の履行に要する原価」(2022年1月1日発効)を公表した。
成案に至るまでには、IFRS-ICによる検討を引き継ぐかたちでIASBがIAS第37号の「部分改訂プロジェクト」1)として検討を行い、2018年12月に公開草案「不利な契約─契約の履行に要する原価」を公表した後、次頁の表1のとおり検討が行われた2)。
本稿は、2019年9月の検討に焦点を当てたxx
(2020)の続編として、2019年10月の検討に焦点を当てている。2019年10月の検討は、次の諸論点に関する成案に至る最終検討である(具体的な検討事項については5.4における整理を参照)。
・「直接関連原価アプローチ」の適用を前提と
して、不利な契約の判定に用いる「契約と直接関連する原価」の明確化
・経過措置・減損処理(IAS第37号パラグラフ69)との
関係
・検討対象としなかった諸論点の取扱い
なお、本誌をつうじた不利な契約に関するIAS第37号の部分改訂プロジェクト(IFRS-ICによる検討を含む)の整理は、本稿をもって完了する3)。
1)プロジェクトの正式名称は、「不利な契約─契約の履行に要する原価(IAS第37号の修正)」である。
2)公開草案の公表に至るIFRS-ICおよびIASBによる検討の詳細についてはxx(2018)を、公開草案の提案とコメントレターの整理・分析の詳細についてはxx(2019)をそれぞれ参照。
3)不利な契約に関する残された会計問題については、別稿
において取り上げる。
II 契約と直接関連する原価の明確化
2.1 公開草案の提案
2.1.1 直接関連原価アプローチの適用
IAS第37号パラグラフ68は、「本基準は、不利な契約(onerous contract)を、契約に基づく義務の履行に際して不可避的に生じる原価が、契約に基づき獲得することが期待できる経済的便益を超過する契約と定義している。契約に基づき不可避的に生じる原価は、契約から解放されるために要する正味原価の最小額を反映するものであり、
『契約の履行に要する原価(cost of fulfilling a contract)』と契約不履行によって生じる補償金・違約金のいずれか小さいほうの額である。」(IAS 37, par. 68)としている。
(IASB 2018b, par. BC16)。
そして、公開草案は、IFRS第15号「顧客との契約によって生じる収益」を参照し5)、IAS第37号パラグラフ68の末尾に、「契約の履行に要する原価は、『契約と直接関連する原価(costs that relate directly to the contract)』から構成される。」という文言を追加することを提案している(IASB
表1 公開草案公表以降の部分改訂プロジェクト
フェーズ | 年月 | 会議 | 検討内容等 |
Exposure Draft Feedback | 2019年3月 | GPF | ・公開草案に対する意見の聴取 |
2019年4月 | ASAF | ||
2019年5月 | IASB | ・公開草案に対するコメントレターの整理・分析 | |
Decide Project Direction | 2019年9月 | IASB | ・「直接関連原価アプローチ」の適用についての検討 |
IFRS Amendment | 2019年10月 | IASB | ・「契約と直接関連する原価」の明確化についての検討 ・経過措置についての検討 ・減損処理との関係についての検討 ・検討対象としなかった諸論点の取扱いについての検討 |
2019年12月 | IASB | ・発効日およびデュープロセスについての検討 | |
2020年5月 | IASB | ・成案の公表 |
( 筆者作成。フェーズ区分は、プロジェクトページ(xxxxx://xxx.xxxx.xxx/xxxxxxxx/xxxx-xxxx/xxxxxxx-xxxxxxxxx-xxxx-xx- fulfilling-a-contract/#project-history)を参照。)
4)「直接関連原価アプローチ」の適用に関する公開草案の提案(結論の基礎を含む)の詳細については、xx(2020, pp. 79-82)を参照。
5)公開草案がIFRS第15号を参照するのは、IFRS第15号の用法が関連を有する最も直近の用法だからである(IASB 2018b, par. BC28)。
2018b, pars. 68, BC17, and BC28)。当該提案は、 IFRS第15号はもちろん、IAS第2号「棚卸資産」、
IAS第16号「有形固定資産」、IAS第38号「無形資産」、IAS第40号「投資不動産」6)、さらにはIFRS第17号「 保険契約」7)と整合的である(IASB 2018b, pars. BC25 and BC27)。
2.1.2「契約と直接関連する原価」の明確化
4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4
公開草案は、IFRS第15号を基礎として8)、次のとおり、財または用役を提供する「契約と直接関連する原価」に該当する項目を列挙するパラグラフ 68Aを新設することを提案している(IASB 2018b, par. 68A)。
(a)直接労務費(例えば、財を製造して提供するかまたは用役を相手方に直接提供する従③員の賃金給料)
(c)契約に基づく活動と直接関連する原価の配賦額(例えば、契約管理および監理料、保険料、契約の履行に要する器具・備品・使用権資産の減価償却費)
(d)契約に基づき、相手方に明示的に請求できる費用
(e)企③が契約を締結したことのみをもって生じたその他の費用(例えば、請負③者への支払額)
また、公開草案は、一般管理費の取扱いについて、IFRS第15号を基礎として9)、「一般管理費は、契約に基づき相手方に明示的に請求できる場合を除き、契約と直接関連しない。」(IASB 2018b, par. 68B)とするパラグラフ68Bを新設することを提案している。
公開草案は、「契約と直接関連する原価」を明確にすべく、IFRS第15号を基礎として「契約と直接関連する原価」に該当する項目を列挙することについて、根拠を明示していない10)。
ちなみに、IFRS-ICによる検討にまで遡れば、 IFRS第15号が多様な産③に適用される基準であることから、IFRS第15号を加筆修正することによって「契約と直接関連する原価」に該当するより一般的な項目を提示できることが、IFRS第15号を参照する根拠とされていた(IFRS-IC 2018, pars. 53, 55-58)。
III 経過措置
3.1 公開草案の提案
公開草案は、すでにIFRS基準を適用している企③に対して、次の経過措置を定めるパラグラフ 94Aを新設することを提案している(IASB 2018b, par. y4A)。
6)具体的には、次のとおりである。
・IFRS第15号は、契約を履行することによって生じた原価が契約と「直接関連する」場合、当該原価を資産として認識することとしている(IFRS 15, par. y5)。
・IAS第2号は、棚卸資産の取得原価として、製品、材料、お
よび用役の取得に「直接起因する」原価(購入原価)に加えて、生産単位に「直接関連する」原価(加工費)を含めることとしている(IAS 2, pars. y-13)。
・IAS第16号、IAS第38号、およびIAS第40号は、「直接起
因する」原価を、対象資産の取得原価に含めることとしている(IAS 16, pars. 16 and 17;IAS 38, pars. 27, 28, and 66;IAS 40, par. 21)。
7)具体的な文言(IFRS 17, par. B6(5 l )については、5.1.3を
参照。
8)IFRS第15号パラグラフ97は、契約(または特定の予想される契約)と直接関連する原価として、次の諸項目を列挙している(IFRS 15, par. y7)。
(a)直接労務費(例えば、契約に基づき用役を顧客に直接提
供する従③員の賃金給料)
(b)直接材料費(例えば、契約に基づき用役を顧客に提供するために要する消耗品)
(c)契約または契約に基づく活動と直接関連する原価の配賦額(例えば、契約管理および監理料、保険料、契約の履行に要する器具・備品・使用権資産の減価償却費)
(d)契約に基づき、顧客に明示的に請求できる費用
(e)企③が契約を締結したことのみをもって生じたその他の費用(例えば、請負③者への支払額)
・修正されたパラグラフ68ならびに新設されたパラグラフ68Aおよび68Bは、企③がそれらを最初に適用する年次報告期間の開始日、つ x x、 当初適用日(the date of initial application)に「存在する契約」に適用しなければならない。
・比較情報を修正再表示しない代わりに、修正されたパラグラフ68ならびに新設されたパラグラフ68Aおよび68Bを当初適用することの累積的影響を、当初適用日における利益剰余金(または状況に応じてその他の資本の内訳項目)の開始残高に対する修正として、認識しなければならない。
なお、公開草案は、初度適用企③12)のIFRS基準への移行に際し、上記の経過措置を適用しないこととした。したがって、初度適用企③は、IFRS基準移行日13)に遡って、不利な契約に関する新規定(「最初のIFRS報告期間の末日において有効な基準」に該当する)を適用(遡及適用)する(IFRS 1, pars. 7 and y)。
3.2.1 すでにIFRS基準を適用している企業
公開草案は、次の理由により、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更、および誤謬」に基づ
く遡及適用14)を行わないこととした(IASB 2018b, pars. BC33 and BC 34)。
・新規定の当初適用に伴い、「契約の履行に要
する原価」の範囲を拡大する必要が生じる企
③は、新たに「契約の履行に要する原価」に該当する諸項目に関する情報を入手しなければならない。これについて、IAS第8号は、新たに情報を入手することが「実務上不可能」15)であれば、情報を入手しなくともよいとしている。しかし、最も古い表示期間の期首時点において必要となる情報を入手することが、困難かつ高コストではあるものの、実務上不可能であるとまではいえない場合がある。
・通常、契約が不利な契約に該当することは、契約の存続期間中に1度しかない。したがって、新規定を遡及適用しても、トレンド情報
(trend information)は提供されない。また、情報利用者にとって、トレンド情報よりも、不利な契約に該当する時点に関する情報のほうが有用である。そこで、IAS第8号に基づく遡及適用によって契約が反復的に不利な契約に該当する時点が明確にされるのであれば、遡及適用が情報利用者にとって有用な情報を提供しうる経過措置となる。しかし、そのような状況が一般的であるという証拠を得られていない。
9)IFRS第15号は、契約に基づき相手方に明示的に請求できる場合、一般管理費を契約と直接関連する原価として取り扱うこととしている(IFRS 15, par. y(8 a )。
10)2019年10月の検討における説明(IASB 201yf, par. 23)
については、6.2.2.1を参照。
11)企③は、当期の財務諸表において報告されるすべての金額について、前期との比較情報(comparative information)を開示しなければならない(IAS 1, par. 38)。
12)「初度適用企③(first-tome adopter)」とは、最初の IFRS財務諸表を表示する企③をいう。また、「最初のIFRS財務諸表(first IFRS financial statements)」とは、企③が IFRS基準の準拠に関する明示的かつ無限定の記述により IFRS基準を適用する最初の年次財務諸表をいう(IFRS 1,
Appendix A)。
13)「IFRS基準移行日(date of transition to IFRSs)」とは、最初のIFRS財務諸表において、企③がIFRS基準に基づく 完全な比較情報を表示する最初の期間の期首をいう(IFRS
1, Appendix A)。
14)「遡及適用(retrospective application)」とは、新たな会計方針を、それが以前から適用されていたかのごとく、取引その他の事象および状況に適用することをいう(IAS 8, par. 5)。
15)企③がある規定を適用すべくあらゆる合理的な努力を払っても適用することができない場合、当該規定の適用は「実務上不可能(impracticable)」である(IAS 8, par. 5)。
そこで、公開草案は、①新規定の発効日に「存在 する契約」を新規定の適用対象とし、②遡及適用 に際し比較情報の修正再表示を求めない代わりに、利益剰余金(または状況に応じてその他の資本の 内訳項目)に対する影響額の認識を求める「修正 遡及適用(modified retrospective application)」とよばれる経過措置を設けることとした16)。
なお、それと同時に、IAS第8号に基づく遡及適用を容認するオプションを追加すべきか検討も行われたものの、遡及適用を容認することによってもたらされるベネフィットは限定的であり、基準の複雑化を招くことや企③間の比較可能性を喪失することにより生じるデメリットが大きいことを根拠として、却下された(IASB 2018b, par. BC36)。
3.2.2 初度適用企業
IFRS第1号「IFRS基準の初度適用」は、IAS第 37号の不利な契約に関する規定の例外または免除を規定していない(IFRS 1, Appendix B, C, D, and E)。かかる状況において、「不利な契約の判定」というひとつの局面について免除を規定することのベネフィットは乏しい。そこで、公開草案は、初度適用企③に対する経過措置を設けないこととした(IASB 2018b, par. BC37)。
4.1 測定
次の理由により、不利な契約に関する測定規定
を新設することについては、プロジェクトの検討対
象としないこととした(IASB 2018b, pars. BC13 and BC14)。
・プロジェクトの長期化を招くこととなる。「契約の履行に要する原価」の範囲を明確化することが「喫緊の」課題とされてプロジェクトが発足したという経緯をふまえれば17)、検討対象を追加することによってプロジェクトに遅延が生じることは好ましくない。
・不利な契約にかかる引当金は、不利な契約 の判定に用いる原価をもって測定すればよい。したがって、必ずしも不利な契約にかかる引 当金の測定を明確にする必要があるとはいえ ない。
4.2 経済的便益
次の理由により、不利な契約の判定に用いる経済的便益の範囲を明確化することについては、プロジェクトの検討対象としないこととした(IASB 2018b, par. BC15)。
・「喫緊の」課題とされているわけではない。
・プロジェクトに遅延が生じる。
4.3 開示規定
次の理由により、不利な契約に固有の開示規定を新設することについては、プロジェクトの検討対象としないこととした(IASB 2018b, par. BC30)。
・公開草案は、IAS第37号を部分的に改訂す
ることを提案するものである。したがって、公開草案の提案は、不利な契約に関する基礎となる原則および一般的な規定に影響を及ぼ
16)「修正遡及適用」が有する利点は、IFRS-ICによる検討において、次のとおり整理されている(IFRS-IC 2018, pars. 28-30)。
・他のIFRS基準(IFRS第9号「金融商品」、IFRS第15号、 IFRS第16号「リース」、およびIFRIC第23号「法人所得税の処理に関する不確実性」)が定める経過措置と整合的である。
・IAS第8号に基づく遡及適用と比べて、企③(財務諸表作成者)の負担を軽減することに資する。
・IAS第8号に基づく「将来に向かっての適用(prospective
application)」と比べて、新規定の発効日を境として「契約の履行に要する原価」の範囲が異なる契約が混在するおそれがない。
・企③(財務諸表作成者)が新規定を適用するコストと、財務諸表利用者にもたらされるベネフィットとのバランスに優れている。
17)IAS第37号は、不利な契約の判定に用いる「契約の履行
に要する原価」の範囲(種類)を明示していない。これにより、
「契約の履行に要する原価」の算定実務が多様化し、特定の種類の契約を締結する企③の財務諸表に重要な差異が生
さない。
・公開草案の提案によって、開示情報の喪失
は生じない。
・IAS第11号は、不利な工事契約に固有の開示規定を設けていなかった。
・たしかに、「契約の履行に要する原価」は、時として見積りを要する。しかし、見積りは、 IAS第37号の改訂を問わず必要となる。IAS第37号(パラグラフ85(b))およびIAS第1号
「財務諸表の表示」(パラグラフ125)は、不確
実性に関する開示を規定している。
V コメントレターの整理・分析と
論点整理
公開草案は、以上の提案に関して次の2つの質問事項を用意した。
・公開草案パラグラフ68Aおよび68Bが列挙した諸項目について、コメントはないか?また、その他列挙すべき項目があれば、提示してほしい。
・公開草案の提案について、その他コメントはないか?
コメントレターの総数は、67件(2019年4月15日 の締切りを過ぎてから受理された1件も含めれば 68件)であった。そして、2019年6月にコメントレ ターの整理・分析が行われた後、2019年10月には、検討すべき論点の整理が行われた。
5.1「契約と直接関連する原価」の明確化
「契約と直接関連する原価」を明確化すべく、それに該当する項目を列挙すること自体については賛成意見が多数であったものの、列挙する項目の詳細についての疑問や懸念が多数表明されている(IASB 201yc, par. 25;IASB 201yf, par. 7)。
5.1.1 パラグラフ68A
パラグラフ68Aについては、次の意見が表明されている(IASB 201yc, pars. 27 and 28;IASB 201yf, pars. y and 10)。
・パラグラフ68Aの(a)は、「従③員の賃金給料
(salaries and wages of employees)」を挙げている。IAS第16号パラグラフ17(a)は、同種の項目(「直接起因する原価」)として、有形固定資産の建設または取得に伴い直接生じる
「従③員給付費用」(IAS第19号「従③員給付」により定義18))を挙げている(IAS 16, par. 17(a))。公開草案とIAS第16号の文言の相違が意図的なものであれば、「結論の基礎 」において、その旨言及すべきである
(SAICA(CL17)19))。
・製造間接費の配賦額を含めるべきか、明確
にすべきである。
(abnormal amounts of wasted material)」の取扱いを明確にしておらず20)、不利な契約の判定における取扱いが定かではない。
・IAS第11号は、借入費用を工事契約原価(「請負③務全般に起因し、かつ、特定の契約に配
じる可能性がある。また、IFRS第15号の発効(2018年1月1日)に伴いIAS第11号「工事契約」が失効したことにより、工事契約については、IAS第37号を適用して不利な契約に該当するか判定を行う(IAS 37, par. (5 g )。これについて、IAS第11号が工事契約原価の範囲(種類)を明示していたところ(IAS 11, pars. 16-21)、IAS第37号は、不利な契約の判定に用いる「契約の履行に要する原価」の範囲を明示していない。そこで、 IASBは、不利な契約の判定に用いる「契約の履行に要する原価」の範囲を明確化することを「喫緊の」課題と位置づけた
(IASB 2018b, pars. BC1-BC8)。
18)「従③員給付(employee benefits)」とは、従③員が用役を提供することまたは雇用を終了することと引換えに、企③が給付するすべての形態の対価をいう(IAS 1y, par. 8)。
19)以下、IASBがコメントレターに付した整理番号を示しておく。
20)IFRS第15号、IAS第2号、およびIAS第16号は、仕損にかかる材料費の異常額を資産の原価に算入することを禁じている(IFRS 15, par. y8(b);IAS 2, par. 16(a);IAS 16, par. 22)。
賦可能な原価」)とする一方、販売費を工事契約原価から除外している(IAS 11, pars. 18 and 20)。そこで、新規定を適用することにより変化が生じるか、定かではない。
5.1.2 パラグラフ68B
パラグラフ68Bについては、次の意見が表明されて い る(IASB 201yc, pars. 32 and 33;IASB 201yf, pars. 14 and 15)。
・一般管理費の取扱いを明確にすべきである。
例えば、パラグラフ68Aの(e)「企③が契約を締結したことのみをもって生じたその他の費用」と一般管理費との関係が明確ではない。具体的には、契約を履行するために設立した子会社の運営費は、契約を締結したことのみをもって生じるものであるが、それには一般管理費も含まれる21)。
・「相手方への請求可能性」を個々に判定することとすると、実務が多様化するおそれがある。そこで、基準上、一般管理費は、相手方への請求可能性を問わず、一律に契約に直接関連しないこととすべきである(Volkswagen
(CL27))。
・経営者報酬、支払家賃、光熱費、および通信費と同様の共有原価とみなすことにより、一般管理費がパラグラフ68Aの(c)「契約に基づく活動と直接関連する原価の配賦額」に該当する可能性がある。そこで、契約と直接関連しない原価についても列挙すべきである
(ICPAK(CL50))。
5.1.3 その他
その他、次の意見が表明されている(IASB 201yc, pars. 26, 27, 31, 34-38;IASB 201yf, pars.
8, y, 13, 16-1y)。
・「契約と直接関連する原価」に該当する項目を列挙するための基礎となる原則を策定すべきである。
・「契約と直接関連する原価」に該当する項目は、IFRS第15号ではなく、固定および変動製造間接費について言及しているIAS第2号を基礎として列挙すべきである。
・IFRS第17号は、保険契約の境界内のキャッ シュフローとして、保険契約の履行に直接起 因する固定および変動間接費の配賦額(会計、人事、ITサポート、建物の減価償却費、支払 家賃、管理費、光熱費等)を挙げている(IFRS 17, par. B65(l))。他方、公開草案パラグラフ
68Bは、契約に基づき相手方に明示的に請求できる場合を除き、一般管理費は契約と直接関連しないとしている。そこで、「直接関連原価アプローチ」を適用する根拠としてIFRS第 17号との整合性に言及すると、混乱を招く可能性がある(SAICA(CL17))。
・購入契約に直接関連する原価も列挙すべきである22)。
・複数の契約と直接関連する原価の配賦方法
を明確にすべきである。
・パラグラフ68Aおよび68Bは「限定列挙」かそれとも「例示列挙」か、明確にすべきである。
・「原価(cost)」を表現する用語の基準間の差異の解消を目的とするプロジェクトを、別途発足させるべきである。
21)Business Europe(CL31)は、パラグラフ68Bに「一般x x費は、契約と直接関連することが明確に説明できなければ、通常、契約と直接関連しない。」という但書を追加することを 提案している。
22)それとは逆に、Mazars(CL57)は、IFRS第15号の適用対象とならない契約と直接関連する原価を列挙することが、基準の明確化に資するか定かではないとしている。
5.2 経過措置
5.2.1 すでにIFRS基準を適用している企業
すでにIFRS基準を適用している企③に対する経過措置(修正遡及適用)について、賛否が分かれているが、反対意見のほうがわずかに多い。反対意見は、次の理由により、IAS第8号に基づく遡及適用を認めるべきとしている(IASB 201yc, par. 55;IASB 201yg, par. 2y)。
・財務諸表利用者に対して独自にアウトリーチを行ったところ、財務諸表の年次の比較可能性は、企③間の比較可能性よりも有用であるとの意見を得た。
・IFRS第15号およびIFRS第16号(借手)は、遡及適用を禁じていない(IFRS 15, par. C3; IFRS 16, par. C5)。そこで、改訂後のIAS第 37号においてIAS第8号に基づく遡及適用を認めないことが、将来の基準設定における先例となる可能性がある。
その他、次の意見も表明されている(IASB 201yc, pars. 56 and 57;IASB 201yg, pars. 30 and 31)。
・新規定の適用は、「会計方針の変更」ではなく、「会計上の見積りの変更」として取り扱うべき23)であ る(CINIF(CL24);GLASS
(CL26))。
・公開草案の文言にある「 存在する契約
(contracts existing)」という用語は、IFRS第15号にいう「 完了した契約(completed contracts)」を意味するのか24)、それとも「完了した契約」以外の契約を意味するのか、明確にすべきである(KPMG(CL38))。
5.2.2 初度適用企業
公開草案は、初度適用企③に対する経過措置
を設けないこととした。これについて、初度適用企
③に対しても経過措置を設けるべきとする意見がみら れ た(IASB 201yc, par. 58;IASB 201yg, par. 32)。
具体的には、初度適用企③は、IFRS第15号パ ラグラフC5の経過措置(実務上の簡便法)を適 用することができる(IFRS 1, par. D34)。初度適 用企③が当該規定を適用することにより、「収益を 認識する基礎」と「不利な契約を判定する基礎」が相違する可能性がある。そこで、ASB(J CL1y)は、初度適用企③に対する次の経過措置を提案して いる。
・IFRS第1号パラグラフD34に基づきIFRS第 15号パラグラフC5(b)を適用し、変動対価を有する「完了した契約」について、比較期間における変動対価を見積もらず、「契約完了日における取引価格」を用いて遡及適用を行った場合、過去の報告期間における不利な契約の判定に際し、「契約完了日における取引価格」を用いてよいこととする。
・IFRS第1号パラグラフD34に基づきIFRS第 15号パラグラフC5(c)を適用し、最も古い表示期間の期首以前に条件変更された契約について、最も古い表示期間の期首以前に行われたすべての条件変更の「合計の影響」を反映して過去の報告期間に遡及適用を行った場合、過去の報告期間における不利な契約の判定に際し、最も古い表示期間の期首以前に行われたすべての条件変更の「合計の影響」を反映してよいこととする。
23)公開草案は、「会計方針の変更」として取り扱うことを前提としている。
24)「完了した契約」とは、IAS第11号、IAS第18号「収益」、および関連する解釈指針に基づき識別した財または用役のすべてを移転した契約をいう(IFRS 15, par. C(2 b )。
5.3.1 測定
測定に関連して、次の意見がみられた(IASB 201yc, pars. 4y and 50;IASB 201yg, pars. y and 10)。
・不利な契約にかかる引当金について、不利な 契約の判定に用いた原価によって測定するか、明確にすべきである。
・公開草案の提案が、不利な契約に該当しない項目の測定に影響を及ぼすか、明確にすべきである。
5.3.2 経済的便益
不利な契約の判定に用いる経済的便益の範囲に関連して、次の意見がみられた(IASB 201yc, pars. 18, 44-46;IASB 201yg, par. 6)。
・経済的便益の範囲について検討せずに、「契約の履行に要する原価」の範囲を検討することは、有益であるとはいえない25)。
・経済的便益の範囲について検討せずに、「契約の履行に要する原価」の範囲を明確化しても、不利な契約の判定における実務の多様性の問題の焦点が経済的便益の側に移るにすぎない(ICPAU(CL48))。
また、不利な契約の判定に用いる経済的便益の範囲を検討対象とする場合には、次の事項を検討すべきという意見がみられた(IASB 201yc, par. 46;IASB 201yg, par. 7)。
・経済的便益は、契約に基づく収益に限定す
べきか、それとも新規市場および(または)新規契約に対するアクセス、顧客との良好な関係の維持、さらには従③員の技術的熟練・
技術経験といった、広義の便益も含めるべきか26)。
・権利を有する変動対価を、経済的便益として
勘案すべきか(DASB(CL12))。
・企③が有する他の資産から独立してキャッシュインフローを生成しない契約にかかる経済的便益 の 算定方法(Singapore Accounting Standards Counci(l CL62))。
・「契約の履行に要する原価」ではなく、「契約
不履行によって生じる補償金・違約金」を不利な契約の判定に用いる「不可避的に生じる原価」とする場合における経済的便益の算定方法(ゼロとすべきか)(ICAI(CL16))。
その他、不利な契約の判定に用いる経済的便益の範囲については、引当金プロジェクトにおいて検討すべきという意見もみられた(IASB 201yc, par. 47;IASB 201yg, par. 8)。
5.3.3 契約の定義(契約の結合または分離)
不利な契約に関する規定を適用するに際し、
「契約(contract)」の定義を明確にすべきという意見 がみられ た(IASB 201yc, par. 51;IASB 201yg, par. 11)。
これに関して、IFRS第15号は、所定の要件を充足する場合、同一の顧客または顧客の関連当事者と同時またはほぼ同時に締結した複数の契約を結合し、単一の契約として会計処理を行うこととしている(IFRS 15, par. 17)。そこで、Israel Accounting Standards Board(CL5)は、不利な契約の判定を行う単位(IFRS第15号に基づき契約を結合して判定すべきか、それとも法的に独立した契約ごとに判定すべきか)を明確にすべきとしている。
25)これは、「直接関連原価アプローチ」の適用に賛成したうえでの意見である。
26)これに関連して、AcSB(CL55)は、遊休能力を活用する契約について言及している。遊休能力を活用する契約は、間接費の回収に貢献することから、企③にとって有益である。しかし、不利な契約の判定に際し、間接費の回収に貢献するこ
とを経済的便益として識別し勘案しなければ、当該契約に追加配賦される原価との比較により、当該契約は不利な契約と判定されることであろう。かかる判定結果は、財務諸表利用者に有用な情報を提供しない。
5.3.4 減損処理との関係
IAS第37号パラグラフ69は、「専ら契約に用いる資産(assets dedicated to that contract)」に減損が生じている場合には、例えばIAS第36号「資産の減損」に基づきそれを認識したうえで、引当金を別個に認識することとしている(IAS 37, par. 6y)。
これに関して、次の意見がみられた(IASB 201yc, par. 53;IASB 201yg, pars. 17-1y)。
・パラグラフ69は、IAS第36号に基づく減損処理を適用しない資産(9.1を参照)にも適用すべきか、明確にすべきである。
・「直接関連原価アプローチ」を適用すれば、複数の契約の履行に用いる資産の減価償却費の配賦額は、「契約の履行に要する原価」に含まれる。しかし、当該資産は、他の契約にも用いられることから、「専ら契約に用いる資産」に該当しない27)。
5.4 論点整理
以上の整理・分析をふまえ、2019年10月、次の諸論点を検討することとされた。
(a)「契約と直接関連する原価」の明確化(Ⅵ節)
(ⅰ「)原価」を表現する用語の差異の解消
(ⅱ)「契約と直接関連する原価」を明確化する方策
(b)すでにIFRS基準を適用している企③に対
する経過措置(Ⅶ節)
(ⅰ)IAS第8号に基づく遡及適用の可能性
(ⅱ)「存在する契約」という用語の意味(新規定の適用対象となる契約)
(ⅲ)「会計上の見積りの変更」としての取扱い
(c)初度適用企③に対する経過措置(Ⅷ節)
(d)減損処理との関係(Ⅸ節)
(ⅰ)IAS第36号に基づく減損処理を適用しない資産の取扱い
(ⅱ「)専ら」という用語の意味
(e)検討対象としなかった諸論点(Ⅹ節)
VI 契約と直接関連する原価の明確化
6.1「原価」を表現する用語の差異の解消
IFRS基準間の「原価」を表現する用語を統一することを目的とするプロジェクトは、不利な契約に関する部分改訂プロジェクトの範疇を超えるものである。したがって、この問題については、検討対象としないこととされた(IASB 201yf, par. 21)。
6.2「契約と直接関連する原価」を明確化する
方策
6.2.1 2つの方策
「契約と直接関連する原価」を明確化することについては、コメントレターの回答者から支持を得られたところである。問題となるのは、具体的な方策である。これについて、次の2つの方策が識別された(IASB 201yf, par. 22)。
方策1:公開草案の提案どおり、「契約と直接関
連する原価」に該当する項目を列挙する。方策2:「契約と直接関連する原価」に該当する
原価(2種類)を、より一般的に記述する。
27)ASB(J CL1y)は、「専ら契約に用いる資産」を「契約と直接関連する資産(assets that relate directly to a contract)」に差し替えることを提案している。
6.2.2 スタッフ分析と結論
6.2.2.1 方策1
4 4
4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4
方策1は、コメントレターをつうじて、利害関係 者からひろく支持されることが明らかとなっている。また、「契約の履行に要する原価」の範囲の解釈を めぐる問題は、財または用役を提供する契約に生 じる。したがって、IFRS第15号を基礎として、財ま たは用役を提供する契約に直接関連する原価に 該当する項目を列挙することは、利害関係者にとっ て有用(helpful)であると認 められる(IASB 201yf, par. 23)。
もっとも、コメントレターをふまえ、方策1を採る
場合には、次の点を検討する必要がある(IASB 201yf, par. 24)。
・IAS第2号を基礎として、「契約と直接関連する原価」に該当する項目を列挙する可能性。また、特定のIFRS基準を基礎として「契約と直接関連する原価」に該当する項目を列挙する場合、特定のIFRS基準がよりよい基礎となる根拠を明確にする必要がある。
・財または用役を提供する契約以外の契約(端的にいえば購入契約)に関する原価についても、例示すべきか。
・相手方に直接請求可能な一般管理費を、「契約と直接関連する原価」とすべきか。
6.2.2.2 方策2
般的に記述するものである(IASB 201yf, par. 25)。なお、方策2を採る場合であっても、具体的な項目を併記することができる(IASB 201yf, par. 26)。
方策2は、次の利点を有する(IASB 201yf, par. 27)。
・あらゆる種類の契約を対象とすることができる。契約の種類ごとに項目を列挙する必要がなく、財または用役を提供する契約にのみ焦点を当てる公開草案に対する懸念を解消することができる。
・IFRS基準間において用いられる用語が相違することによる混乱を回避することに資する。また、ひろくIFRS基準の基礎となる原則を明確にすることができる。
・「契約と直接関連する原価」に該当するか判定するための準拠枠を提示することにより、単に基準上列挙されているかに基づき「契約と直接関連する原価」に該当するか判定が行われることを回避することに資する。
6.2.3 結論
再検討の結果、方策2の利点を重視して公開草案の方針を撤回し、方策2を採ることとされた
(IASB 201yf, par. 28)。つまり、改訂後のIAS第 37号は、「契約と直接関連する原価」が次の2つの項目から構成されることを明確にする(IASB 201yf, par. 28)。
・契約の履行に要する増分原価(the incremental costs of fulfilling that contract)
・契約および他の契約の履行と直接関連する原価の配賦額(an allocation of costs that relate directly to fulfilling that and other contracts)
28)Ernst & Young(CL44)は、公開草案パラグラフBC16
(b)(The directly related cost approach–includes all the costs an entity cannot avoid because it has the contract. Such costs include both the incremental costs of the con- tract and an allocation of other costs incurred on activities
required to fulfil the contract.)を参照するよう提案している。
29)具体的には、次のとおりである。
・公開草案「金利指標改革(IFRS第9号およびIAS第39号の修正)」(2019年5月):IAS第8号に基づく遡及適用を義務づける。・公開草案「概念フレームワークの参照(IFRS第3号の修正)」(2019年5月):IAS第8号に基づく将来に向かっての
なお、パラグラフ68Aの文案については、上記2種類の原価に該当する項目を併記することが提案された(IASB 201yf, par. 26)。再検討により提示されたパラグラフ68A案と公開草案パラグラフ 68Aを対照表示すれば、表2のとおりである。再検討による文案については、原文も合わせて提示しておく(公開草案の原文については表3を参照)。
VII すでにIFRS基準を適用している
企業に対する経過措置
7.1 IAS第8号に基づく遡及適用の可能性
再検討の結果、次の理由により、公開草案の提案どおり、IAS第8号に基づく遡及適用を認めないこととされた(IASB 201yg, pars. 33-35, 44)。
・公開草案が言及したとおり、契約が不利な契約に該当することは、契約の存続期間中に1度しかない(3.2.1を参照)。そこで、IAS第8号に基づく遡及適用を認めると、比較報告期間に存在していたものの、新規定を最初に適用する報告期間の開始日には存在しない契約
(いいかえれば、比較報告期間中に企③が義務を履行した契約)に関する情報を提供することとなる。企③が契約に基づくすべての義務を履行したのであれば、修正再表示をつうじて提供される情報は、有用なトレンド情報を提供しない。
・不利な契約に関する公開草案の公表以降に 公表された公開草案が提案する経過措置は、一様ではない29)。したがって、不利な契約に
表2 再検討による文案と公開草案(パラグラフ68A)の比較
契約と直接関連する原価は、次の2つの要素から構 財または用役を提供する契約と直接関連する原価成される。 は、例えば、次の要素から構成される。
(a)契約の履行に要する増分原価―例えば、直接労務(a)直接労務費(例えば、財を製造して提供するかまた費および直接材料費 は用役を相手方に直接提供する従③員の賃金給
(b)契約および他の契約の履行と直接関連する原価の 料)
配賦額― 例えば、契約の履行に用いる固定資産の(b)直接材料費(例えば、契約の履行に要する消耗品)減価償却費の配賦額 (c)契約に基づく活動と直接関連する原価の配賦額(例えば、契約管理および監理料、保険料、契約の履行
The costs that relate directly to a contract consist に要する器具・備品・使用権資産の減価償却費)
of both: (d)契約に基づき、相手方に明示的に請求できる費用
( a) the incrementa l costs of f u l f i l l ing tha t(e)企③が契約を締結したことのみをもって生じたその contra c t̶for exa mple d i rec t l abour a nd 他の費用(例えば、請負③者への支払額) materials; and
(b) an allocation of costs that relate directly to fulfilling that and other contracts̶for example an a l location of depreciation on an item of property, plant and equipment used in fulfilling the contract.
再検討による文案
(IASB 2018b, par. 68AおよびIASB 2019f, par. 26をもとに筆者作成)
適用を義務づける。
・公開草案「IFRS第17号の修正」(2019年6月):IAS第8号に基づく遡及適用を原則とし、修正遡及適用アプローチまたは公正価値アプローチの適用を容認する。
・公開草案「単一の取引によって生じた資産および負債にかかる繰延税金」(2019年7月):IAS第8号に基づく遡及適
用を義務づける(救済措置あり)。
・公開草案「会計方針の開示(IAS第1号およびIFRS実務記述書第2号の修正)」(2019年8月):IAS第8号に基づく将来に向かっての適用を義務づける。
関する公開草案が提案する経過措置は、将来の基準設定における先例とはならない。
・IAS第8号に基づく遡及適用を認めるべきとする意見は、それほど多くない(10件未満)。
7.2「存在する契約」という用語の意味
公開草案パラグラフ94Aにおける「存在する契 約」という用語は、企③が契約に基づくひとつまた は複数の義務を履行していない状況にある契約 を意味するものである。そこで、当初適用日におい て契約に基づくすべての義務を履行していない契 約を新規定の適用対象とすることを明確にすべく、文言を差し替えることとされた(IASB 201yg, pars. 38, 3y, and 44)。
7.3「会計上の見積りの変更」としての取扱い
公開草案によって、IAS第8号に基づく遡及適用を認めないことを含め、移行措置の詳細が明確にされている。したがって、企③は、新規定の適用が「会計方針の変更」または「会計上の見積りの変更」のいずれに該当するか判定する必要はない
(IASB 201yg, par. 40)。
つまり、新規定の適用については、会計方針の変更として取り扱うということである。
VIII 初度適用企業に対する経過措置
ASB(J CL1y)の提案(5.2.2を参照)は、収益の決定方法と関連を有する。公開草案は、不利な契約の判定に用いる経済的便益の範囲を明確化することを目的とはしていない。したがって、当該提案は、プロジェクトの範疇を超えるものである
(IASB 201yg, par. 42)。
また、初度適用企③を対象とした経済的便益に関連する移行措置を追加すると、経済的便益に特定の解釈を付与することとなる。それは、プロジェクトの趣旨と異なる(IASB 201yg, par. 43)。
以上より、初度適用企③を対象としたいかなる例外または免除規定も追加しないこととされた
(IASB 201yg, par. 44)。
IX 減損処理との関係
9.1 IAS第36号に基づく減損処理を
適用しない資産の取扱い
IAS第36号は、次を除くすべての資産に適用する(IAS 36, par. 2)。
(a)棚卸資産(IAS第2号)
(b)①契約資産、②契約を獲得するかまたは履行するために要する原価によって生じる資産
(IFRS第15号に基づき認識される資産)
(c)繰延税金資産(IAS第12号「法人所得税」)
(d)従③員給付によって生じる資産(IAS第19
号)
(e)IFRS第9号の適用対象となる金融資産
(f)公正価値によって測定される投資不動産
(IAS第40号「投資不動産」)
(g)IAS第41号「農③」の適用対象となる農③活動に関連した生物資産のうち、売却費用控除後の公正価値によって測定されるもの
(h)IFRS第17号の適用対象となる契約のうち、資産に該当するもの
(i)IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産および非継続事③」に基づき、売却目的保有に分類された非流動資産( または処分グループ)
30)(a)については取得原価と正味実現可能価額のいずれか小さいほうの額、(e)および(g)については(売却費用控除後の)公正価値によって測定する。
31)IAS第37号パラグラフ69(原文)は、次のとおりである。 Before a separate provision for an onerous contract is established, an entity recognises any impairment loss that has occurred on assets dedicated to that contract (see IAS 36).
これらのうち、(a)棚卸資産、(e)金融資産、およ び(g)生物資産は、契約の履行に用いられる可能性がある。そして、これら資産の測定額は、資産の回収可能価額の減少をすでに反映している30)。また、資産の減損処理を規定する基準の典型例としてIAS第37号パラグラフ69 にIAS第36号が明記されていると解すれば、パラグラフ69の文言は31)、 IAS第36号以外の基準による減損処理規定を適用することにより、「専ら契約に用いる資産」について減損損失を認識すべきである(IASB 201yg, pars. 20-22)。
以上より、パラグラフ69については、特段の明確化を要しないこととされた(IASB 201yg, par. 23)。
9.2「専ら」という用語の意味
「専ら契約に用いる資産」を「契約と直接関連する資産」に差し替えるという提案(注27を参照)は、たしかに、パラグラフ69と公開草案パラグラフ 68が適用対象とする資産が同一であることを明確にし、パラグラフ間の整合性を担保することに資する(IASB 201yg, par. 25)。
なお、「専ら契約に用いる資産」について、「特定の資産を用いることを求める契約条項または特定の資産以外の資産を使用することを禁じる契約条項が存在する場合、当該特定の資産は、専ら契約に用いられる。」と解すれば32)、文言の差替えに伴
いパラグラフ69の適用対象となる資産が拡大することにより、たしかに実務に変化が生じる可能性があるといえる。もっとも、不利な契約の判定に際し、契約と直接関連するすべての原価を勘案することを明確にするようIAS第37号の部分改訂を行うという趣旨に照らせば、ひろく契約と直接関連す
る資産について減損の兆候を判定すべきである
(IASB 201yg, pars. 25 and 26)。
以上より、IAS第37号パラグラフ69にある「専ら契約に用いる資産」という用語を、「契約と直接関連する資産」に差し替えることとされた(IASB 201yg, par. 27)。
X 検討対象としなかった諸論点
再検討の結果、次の理由により、測定、経済的便益、および契約の定義については、いずれも検討対象としないこととされた(IASB 201yg, pars. 14 and 15)。
・プロジェクトの範囲について、ほとんどの回答
者が特段コメントしなかった。また、測定および経済的便益を検討対象としない理由を提示する公開草案パラグラフBC12ないしBC15
(4.1および4.2を参照)について、ほとんどの
回答者が賛成を表明した。
・反対意見を表明した回答者による問題提起
は、想定の範囲内にとどまる。
・公開草案パラグラフBC12ないしBC15は、契約の定義をはじめとする不利な契約に関する諸論点を検討対象としない理由としても、ひろく当てはまる。
・引当金プロジェクトにおいて、別途検討される可能性がある33)。
32)これは、PwC(Manual of Accounting)の解釈である
(PwC 2018, FAQ 16.73.1)。
33)引当金プロジェクトは、不利な契約に関する諸論点のうち、
①不利な契約の判定に用いる経済的便益の範囲、②売却費用控除後の公正価値によって測定する保有資産を用いて
履行する契約に関する指針の策定、および③不利な契約の判定を行う単位の3つを検討対象となりうる論点に分類していたものの、2020年1月、これらすべてを検討対象としないこととした(IASB 2020b, Table 2;IASB 2020c, par. 4.8)。
スタッフレベルの最終的な結論は、次のとおりである。
(a)「契約と直接関連する原価」の明確化
(ⅰ)IFRS基準間の「原価」を表現する用語を統一することを目的とするプロジェクトは、検討対象としない。
(ⅱ)公開草案パラグラフ68Aを、より一般的な記述に差し替える(「契約と直接関連する原価」に該当する項目を併記する)。
(b)経過措置
(ⅰ)すでにIFRS基準を適用している企③に対して、IAS第8号に基づく遡及適用を認めない。
(ⅱ)新規定の適用対象となる契約について、
「存在する契約」という文言を、「契約に基づくすべての義務を履行していない契約」に差し替える。
(ⅲ)新規定の適用は、「会計方針の変更」に該当する。
(ⅳ)初度適用企③を対象としたいかなる例外または免除規定も設けない。
(c)減損処理との関係
(ⅰ)パラグラフ69の適用対象となる資産について、特段の明確化を要しない。
(ⅱ)「専ら契約に用いる資産」という文言を、
「契約と直接関連する資産」に差し替える。
(d)測定、経済的便益、および契約の定義については、いずれも検討対象としない。
2019年10月開催のIASB会議において、(a)および(b)については、(当時の)審議会メンバー14
名のうち、13名が賛成した(1名は欠席)。また、(c)および(d)については、審議会メンバー14名のうち、 12名が賛成し、1名が反対した(1名は欠席)(IASB
201yh)。
その後、IASBは、2019年12月、成案の発効日
を2022年1月1日以降に開始する年次報告期間
(早期適用あり)とすること、および「再公開」34)を要しないことを決定した(IASB 201yj)。
XII 成案
12.1 成案と公開草案の比較
成案は、IAS第37号に次のパラグラフを新設する35)。
・不利な契約の判定に用いる「契約の履行に要する原価」の範囲について、「直接関連原価アプローチ」を適用することおよび「契約と直接関連する原価」を明確にするパラグラフ 68A36)
・すでにIFRS基準を適用している企③に対す
る経過措置を定めるパラグラフ94A
以上について、成案( パラグラフ68Aおよび
94A)と公開草案(パラグラフ68A、68B、および
94A)を原文で比較すれば37)、次頁の表3のとおりである(表中の傍線は筆者による)。
また、成案は、IAS第37号パラグラフ69の文言を修正する。そこで、成案と現行IAS第37号パラグラフ69を原文で比較すれば38)、次頁の表4のとおりである(表中の傍線は筆者による)。34)「再公開(re-exposure)」とは、公開草案の改訂版に対するコメントの公式招請をいう(Due Process Handbook, Glossary of Terms)。なお、デュープロセスハンドブックは 2020年8月に改訂されたが、「再公開」の定義は変更されていない。
35)その他、成案は、発効日を定めるパラグラフ105を新設
する。
36)成案のパラグラフ68Aと、2019年10月の再検討により提示されたパラグラフ68A案は、文言が若干相違している。
37)成案は、IAS第37号パラグラフ68の末尾に文言を追加
しない。また、成案は、パラグラフ68Bを新設しない。
表3 成案と公開草案の比較
成案 | 公開草案 | |
68A | The cost of f u l f i l l ing a contra c t comprises the costs that relate directly to the contract. Costs that relate directly to a contract consist of both: (a) the incremental costs of fulfilling that contract̶for example, direct labour and materials; and (b) an allocation of other costs that relate directly to fulfilling contracts̶for e x a mp l e , a n a l l o c a t i o n o f t h e depreciation charge for an item of property, plant and equipment used in fulfilling that contract among others. | Examples of costs that relate directly to a contract to provide goods or services include: (a) direct labour (for example, salaries and wages of employees who manufacture and deliver the goods or provide the services directly to the counterparty); (b) direct materials (for example, supplies used in fulfilling the contract); (c) allocations of costs that relate directly to contract activities (for example, costs of contract management and supervision; insurance; and depreciation of tools, equipment and right-of-use assets used in fulfilling the contract); (d) costs explicitly chargeable to the counterparty under the contract; and (e) other costs incurred only because an entity entered i nto t h e c o nt r a c t (f o r e x a m p l e , p a y m e nt s to subcontractors). |
68B | パラグラフの新設なし。 | General and administrative costs do not relate directly to a contract unless they are explicitly chargeable to the counterparty under the contract. |
y4A | Onerous Contracts ̶ Cost of Fulfilling a Contract, issued in May 2020, added paragraph 68A and amended paragraph 6y . A n e n t i t y s h a l l a p p l y t h o s e amendments to contracts for which it has not yet fulfilled all its obligations at the beginning of the annual reporting period in which it first applies the amendments (the date of initial application). The entity sha l l not restate comparative information. Instead, the entity shall re cog n i s e the c u mu l a t ive e f f e c t of initially applying the amendments as an adjustment to the opening balance of retained earnings or other component of equity, as appropriate, at the date of initial application. | [Draft] Onerous Contracts — Cost of Fulfilling a Con- tract (Amendments to IAS 37), issued in [date], amended paragraph 68 and added paragraphs 68A–68B. An entity shall apply those amendments to contracts existing at the beginning of the annual reporting period in which the entity first applies the amendments (the date of initial application). The entity shall not restate comparative information. Instead, the entity shall recognise the cumulative effect of initially applying the amendments as an adjustment to the opening ba lance of retained earnings (or other component of equity, as appropriate) at the date of initial application. |
(公開草案(IASB 2018b)および成案(IASB 2020d)をもとに筆者作成)
表4 成案と現行IAS第37号(パラグラフ69)の比較
成案 | 現行IAS第37号 | |
6y | Before a separate provision for an onerous contract is established, an entity recognises any impairment loss that has occurred on assets used in fulfilling the contract (see IAS 36). | Before a separate provision for an onerous contract is established, an entity recognises any impairment loss that has occurred on a s sets dedicated to that contract (see IAS 36). |
(IAS第37号および成案(IASB 2020d)をもとに筆者作成)
12.2.1「契約と直接関連する原価」の明確化
成案は、公開草案の方針を撤回し、パラグラフ 68Aをより一般的な記述に差し替える根拠として、次の3つを挙げている(IASB 2020d, par. BC16)。
・財または用役を提供する契約を含む、あらゆる種類の契約に適用することができる。
・IFRS基準間において用いられる用語が相違 することによる意図しない結果が生じることを、回避することができる。
・特定の原価が「契約と直接関連する原価」に該当するか判定するための準拠枠を提供する。
12.2.2 減損処理との関係
成案は、用語の差替えについて、次のとおり言及している(IASB 2020d, par. BC17)。
・「専ら」という用語を用いると、パラグラフ69
の適用対象が特定の契約の履行にのみ用いられる資産に限定される(いいかえれば、他の契約の履行にも用いられる資産は適用対象とはならない)と解される可能性がある。
・パラグラフ69は、不利な契約の判定に際し、その原価が勘案されるすべての資産を適用対象とすることを明確にする必要がある。
12.2.3 経過措置
成案は、修正再表示を認めない根拠として、次
の2点を挙げている(IASB 2020d, par. BC20)。
・比較金額の修正再表示に要する情報を入手
することは、困難かつ高コストである。
・比較金額を修正再表示することによって提供される情報は、企③(財務諸表作成者)に生じるコストを正当化するに十分な有用性を有しない。
なお、IAS第8号に基づく遡及適用を容認するオプションを追加しない根拠については、公開草案と同様である(3.2.1を参照)。また、初度適用企
③の取扱いについては、特段言及されていない。
12.2.4 プロジェクトの検討対象としなかった諸論点の取扱い
成案は、不利な契約の判定に用いる「契約の履
行に要する原価」の範囲の明確化という喫緊の課題にのみ対処する(IASB 2020d, par. BC1y)。
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⦿IFRS-IC. 2018. Items on the Current Agenda. Staff Paper 5.
⦿PwC. 2018. Manual of Accounting IFRS 2019. Tolley.
⦿赤塚尚之. 2018.「不利な契約に関するIAS第37号の部分改訂プロジェクト─不可避的に生じる原価(契約の履行に要する原価)の解釈─『」彦根論叢』(418): pp. 126-145.
⦿─. 2019.「不利な契約に関するIAS第37号の部分改訂プロジェクト─公開草案とコメントレターの分析─」『彦根論叢』(421): pp. 80-100.
⦿─. 2020.「不利な契約に関するIAS第37号の部分改訂プロジェクト─直接関連原価アプローチを適用する成案に至る最終検討─『」彦根論叢』(425): pp. 78-95.
Review of IASB’s Targeted Amendment to IAS 37 on Onerous Contracts
Final Discussion on the Clarification of “Costs that Relate Directly to the Contract”, Transition Requirements, Etc.
Naoyuki Akatsuka
In May 2020, the IASB issued “Onerous Contracts–Cost of Fulfilling a Contract” to amend IAS 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets. This document pre- scribes the following:
(a) Add paragraph 68A in IAS 37 to clarify that the “cost of fulfilling a contract” com- prises the costs that relate directly to the contract (i.e. “the directly related cost ap- proach”), and that the “costs that relate directly to the contract” include both the in- cremental costs of fulfilling that contract and the allocation of other costs that relate di- rectly to fulfilling contracts.
(b) Amend paragraph 6y in IAS 37 to replace the terminology “assets dedicated to that contract” with “assets used in fulfilling the contract”.
(c) Add paragraph y4A in IAS 37 to clarify the transitional provisions (“the modified retro- spective approach”).
(d) Add paragraph 105 in IAS 37 to clarify the effective date.
Focusing on (a), (b), and (c), the purpose of this paper is to review the final discussion in October 201y when the following issues were discussed in light of comments on the exposure draft issued in December 2018:
(a) Expedient to clarify the “costs that relate directly to the contract”:
(i) whether to launch a new project to align the wording “costs” across IFRS Standards; and
(ii) how to clarify the “costs that relate di- rectly to the contract”.
(b) Transition requirements for entities already using IFRS Standards:
(i) whether to require or permit “retrospec- tive application” applying IAS 8 Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors;
(ii) meaning of the term “contracts existing” in paragraph y4A; and
(iii) whether the change resulting from the application of the new requirements is “a change in the accounting estimate”.
(c) Whether to add transition requirements for entities presenting their first IFRS financial statements.
(d) Interaction with impairment requirements:
(i) treatment of assets not within the scope of IAS 36 Impairment of Assets; and
(ii) meaning of the term “dedicated” in para- graph 6y.
(e) Whether to expand the scope to address:
(i) meaning of the term “economic benefits” in the definition of onerous contracts;
(ii) whether and when an entity should com- bine or segment contracts; and
(iii) measurement of the provisions for oner- ous contracts.
This paper introduces a detailed analysis of these issues conducted by the project staff in the Japanese language.
Keywords: onerous contracts, cost of fulfilling a contract, costs that relate directly to the con- tract, modified retrospective approach, contracts existing, assets dedicated to that con- tract
JEL Classification Codes: M41
Review of IASB’s Targeted Amendment to IAS 37 on Onerous Contracts
Naoyuki Akatsuka
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