Contract
主 文
1 原告Aが,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告Aに対し,47万8800円及びこれに対する平成1
9年12月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告Aに対し,平成20年1月から本判決確定の日まで,毎月25日限り5万3200円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 原告Bが,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
5 被告は,原告Bに対し,76万6080円及びこれに対する平成1
9年12月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 被告は,原告Bに対し,平成20年1月から本判決確定の日まで,毎月25日限り8万5120円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は被告の負担とする。
8 この判決は,第2項及び第5項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 原告Aの請求
主文第1項ないし第3項と同旨
2 原告Bの請求
主文第4項ないし第6項と同旨
第2 事案の概要
本件は,被告との間で期間を定める雇用契約を締結し,被告が経営する高校に非常勤講師として勤務していた原告らが,いわゆる雇止めにより,雇用
が継続されなかったのは不当であると主張して,被告に対し,いずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認,未払賃金及びこれに対する平成
19年12月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,将来の賃金及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠又は弁論の全趣旨により,容易に認定することができる事実)
(1) 被告は,昭和26年3月8日に設立された学校法人であり,C高等学校(以下「被告高校」という。),D大学,E短期大学,F専門学校(ただし,平成
20年度をもって廃止された。)を経営している(乙1の1ないし1の3)。被告高校には,雇用期間の定めのない常時勤務する専任の教育職員(以下
「専任教員」という。)と雇用期間の定めのある非常勤講師(ただし,他にも教員以外の職員等がいる。)が勤務している。非常勤講師とは,一週間18単位時間以内の授業を担当するために採用された有資格者をいう(甲1,乙1
4,15の1)。
(2) 原告Aは,昭和57年4月から平成19年3月まで(ただし,昭和58年
4月から同年8月まで,昭和60年11月から昭和61年1月まで,昭和6
3年1月から同年3月までの間は勤務していない。),被告高校の非常勤講師として被告に採用されて勤務していた(乙10の1ないし10の14,10の16,10の17)。
(3) 原告Bは,xxx年4月から平成7年3月まで及び平成8年4月から平成
19年3月まで,被告高校の非常勤講師として被告に採用されて勤務していた(乙11の1ないし11の13,11の15,11の16)。
(4) 平成16年 4 月から平成21年3月までの被告高校の校長はG(以下「G校長」という。)であり,平成17年 4 月から平成20年12月までの被告高校の副校長はHであった。
(5) 原告Aの平成18年4月1日からの雇用契約は,以下のとおりであった
(甲8)。
雇用期間 平成18年4月1日から平成19年3月25日まで勤務場所 被告高校
勤務内容 非常勤講師
担当教科 理科 週5単位時間
給 与 月額5万3200円,賞与あり給与支給日 毎月25日
契約更新に関する事項
契約更新の有無は,期間満了1か月前までに通知する。
更新する場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数が発生した場合で,余人がなく,健康状態が良好で上記雇用期間勤務できる者
更新しない場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数がない場合または勤務成績が良好でない場合
(6) 原告Bの平成18年4月1日からの雇用契約は,以下のとおりであった
(甲9)。
雇用期間 平成18年4月1日から平成19年3月25日まで勤務場所 被告高校
勤務内容 非常勤講師
担当教科 数学 週8時間
給 与 月額8万5120円,賞与あり給与支給日 毎月25日
契約の更新に関する事項
契約更新の有無は,期間満了1か月前までに通知する。
更新する場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数が発生した場合
で,余人がなく,健康状態が良好で上記雇用期間勤務できる者
更新しない場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数がない場合または勤務成績が良好でない場合
(7) 被告は,平成19年2月23日,G校長を通じて,原告Bに対し,カリキュラム変更により,来年度の数学科では,非常勤講師の持ち時数がなくなるので,雇用期間は平成19年3月25日までとする旨予告し,雇止めを行った(以下「B雇止め」という。)(甲14)。
(8) 被告は,平成19年2月26日,原告Aに対し,学級減等により理科の非常勤講師時数が0となるので,雇用期間は平成19年3月25日までとすると旨文書で予告し(原告Aには同月27日に送達),雇止めを行った(以下「A雇止め」という。)(甲12,13,乙10の19)。
(9) 原告らは,平成19年4月以降,被告高校に勤務していない。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) A雇止め及びB雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるか。
(原告らの主張)
ア 期間の定めのある労働契約であっても,実質において期間の定めのない労働契約と異ならない状態が存在する場合,又は,雇用契約の継続が期待され実際に更新が重ねられてきたような場合には,解雇権濫用法理が類推適用されるところ,下記①ないし⑤からすれば,原告らと被告との間の雇用契約はいずれも,実質において専任教員と同じく期間の定めのない雇用契約と異ならないというべきであり,仮にそこまでいえなかったとしても,非常勤講師としての雇用関係継続が期待されていたというべきであり,解雇権濫用法理が類推適用される。よって,A雇止め及びB雇止めが有効といえるためには合理的な理由が必要である。
① 原告らの仕事の種類・内容は専任教員と実質的に差異がないこと
(ア) 高校教員は,専任教員であろうが非常勤講師であろうが,授業を通して生徒に対し,中学校における教育の基礎の上に高度な普通教育・専門教育を施そうと,一般的な教養を高め,専門的な知識・技術・技能を習得させようとxxxを積み重ねるのであり,高校教員の仕事の中心は授業活動である。
被告高校において,担当授業の決定は前年度末に開催される担当教科決定会議で行うところ,平成17年度より前は,原告ら非常勤講師も同会議に出席し,専任教員と一緒になって授業の担当・分配を決めていた。原告らも専任教員と同じく,担当する授業時間は一人で授業を行っており,授業スタイルは,専任教員・非常勤講師の区別はなく各自に任せられ,その中で原告らは,自分自身で創意・工夫し授業を実践していた。授業に使用する教材の研究と選定,生徒に配付する小テストやプリントの作成,課題・レポートの点検,授業や実験の準備・後片付け,テストの作成・採点,成績の評価,生徒に対する評価,補習についても,原告らは専任教員と変わらない職務を果たしていた。このように,授業活動において,原告らの仕事の種類・内容は専任教員と実質的に同じであった。非常勤講師は,専任教員の時数を補完するためのスポット的職務ではない。
(イ) 専任教員の1週当たりの授業持ち時数がxx最大15時間であったのに対し,原告Aは,昭和57年度から平成14年度まで(昭和5
9年度を除き)10ないし16時間,原告Bも,xxx年度から平成
14年度まで(平成7年度及び平成12年度を除き)10ないし15時間であり,専任教員にほぼ匹敵する授業持ち時数であった。また,原告らは,授業をしていない空き時間についても,学外に出るのではなく,学校内において,授業準備等を行っていた。
(ウ) 被告高校の教員室の席の配置は,専任教員と非常勤講師とで区別
はなく,原告らも,専任教員と同じく教員室で生徒指導等を行っていた。さらに,原告らは,空き時間や休み時間にも,生徒の質問に答えたり,気になった生徒に事情を聴いたり,生徒からの悩み相談に乗ったりしていた。生徒の側からしても,自ら受ける授業につき専任教員と非常勤講師を区別する意識はなかったといえる。
(エ) 確かに,原告らは,クラス担任や部活指導はせず,校務分掌にも入っていない。また,原告らは,兼職が禁止されておらず,給与体系や適用される就業規則も異なり,さらに,専任教員につき基本的に労働時間が週40時間と決まっているのに対し,そのような労働時間の決まりはないという点で専任教員と違いがある。
しかし,兼職は事実上自由にできるわけではなく,上記のとおり,仕事の中核である授業活動に差異はなかったし,生徒の人間的・人格的成長のための教師の仕事という部分でも原告らの果たしてきた仕事は専任教員に匹敵するものであり,部活指導や校務分掌については,職務内容・種類の差異を考えるに当たり大きく考慮すべき点ではない。また,給与体系や適用される就業規則が異なる点についても考慮すべき必要性は低いというべきである。
(オ) 以上からすれば,原告らの職務内容・種類は,ほぼ専任教員と同様であったということができ,実質的には「常勤」と呼ぶに相応しい職務であったといえる。特に,被告高校においては,非常勤講師の数・割合は多く,xxにわたり業務遂行の中で非常勤講師への依存度は高かった。
② 被告に長期の雇用継続を期待させる言動や対応があったこと
(ア) 原告ら非常勤講師の契約更新手続は,非常に簡単かつ形式的なものであった。
被告は,平成17年度末から,「来年度の雇用に関して(通知)」と
題する書面を原告らに交付し,雇用の確約ができないことを伝えるようになったが,それ以前は,このような書類の送付はなく,書面上の雇用期間経過後に雇用更新できる保証がないことを伝えられたことはなかった。また,確かに平成17年度からは,更新希望者は校長等に更新希望を申し出ることとされたが,同年度以前は,毎年秋ころ,同じ教科の専任教員から電話ないし口頭で来年度も教科を担当する意思があるか聞かれ,それに答える程度の簡単な意思確認しかされていなかった。さらに,更新した後に交付される書面も,平成17年度より前は辞令書のみであり,同辞令書も更新後すぐに交付されていたわけではなかった。平成17年度より前はもちろん,平成17年度以降も,契約更新に当たり,更新の可否を判断するための面談が行われることはなかった。このように,少なくとも平成17年度より前は,非常に簡単な意思確認手続しかとられておらず,雇用保証がないことも伝えられていなかったのであり,その結果,原告らは,自ら雇止めを望まない限り,更新を続けられると考えていたのであり,上記のような更新手続が幾度も重ねられていたことからすれば,原告らがそのように考えることは当然であり,合理的であったといえる。
なお,被告は,原告らに対する契約更新手続について,毎年度末に契約希望を事前に打診した上,希望した者に対して辞令書を交付している旨主張する。しかしながら,更新時期が近づく時期に,被告から文書ないし口頭で契約更新の意思確認を受けたことはないし,上記のとおり,被告から面談を受けることもなかった。
(イ) 非常勤講師が出産する際には,専任教員と同じく「産休」が認められていた。
原告Aは,昭和58年3月,昭和60年11月,昭和63年2月と
3度出産し,その都度「産休」をとったが,その間も雇用契約は途切
れることなく継続していた。被告は,出産期間の契約を締結しないという対応ではなく,契約が続いたまま「産休」の取得を非常勤講師に認めていたので,原告らは,よほどのことがない限り契約は終了とならないという期待を抱いていた。
(ウ) 年度末の3月中旬ころに開催される担当教科決定会議で,専任教員と非常勤講師が協議して翌年度の授業の担当の割り振りを決めていた。
原告らは,平成17年度より前は,辞令書の交付を受ける前から次年度も勤務することを前提に,次年度の授業分担を決める会議に参加していた。これに対し,被告が特に異議を述べた形跡はなかった。
(エ) 担当授業について生徒に仮進級が出た場合,原告ら非常勤講師は,
3月下旬から4月上旬にかけての春休み期間に課題を出し,当該生徒に休み明けに提出させていた。
(オ) 非常勤講師に対して勤続年数の長さが反映された金額の一時金
(賞与)が支給され,雇用が継続されxx在職した非常勤講師に対しては退職手当代わりの旅行券が支給されていた。
(カ) 非常勤講師にも私学共済の継続加入が認められていた。
原告らは,切断されることなく,専任教員と同じく私学共済への加入が継続されていた。
(キ) 以上の事情から,原告らは,契約が当然更新されるであろうという雇用継続に対する強い期待を抱いていたのであって,上記のとおりの被告の対応からすれば,原告らがかかる期待を抱いたことはやむを得ない合理的なものであったといえる。
③ 契約期間満了の都度,直ちに新契約締結の手続がとられていたわけではないこと
平成17年度より前は,契約期間のスタートに合わせて辞令書が交付
されていたわけではなく,その方式も4月ないし6月の給料支給の際に給料明細書と一緒に渡すという簡易であって,契約終了を意識した契約締結の手続がとられていなかった。
④ 従来,被告高校において,非常勤講師が意に反して雇止めされた事例は見当たらないこと
この点,被告は,過去に雇止めが行われていた旨の主張をするが,証拠によっても,雇止めがあったか否かは不明というべきである。原告らの経験によれば,更新を希望しながらその意に反して雇止めされた非常勤講師はいない。
⑤ 原告らが長期間にわたって継続雇用されていること
原告Aは,25年間被告高校に勤務し,24回契約更新されていた。被告は,原告Aが途中勤務を中断した期間があることから,連続更新は
18回である旨主張するが,勤務の中断は産休のためであり,契約上はその期間も雇用関係は続いていたのであり,契約が中断していたわけではない。
原告Bは,途中1年の期間を空けて計17年間被告高校に勤務し,1
5回契約更新されていた。
イ 非xx労働者の契約終了に関する制限についての法的規制は,その職種がどうであれ,労働の実態がxx労働者と同質かどうか,契約更新の期間の長さ,契約更新に対する労働者側の期待の合理性の有無,契約更新にかかる使用者の言動などを総合考慮して事実認定し,法的規制を加えるべきかどうかを判断すべきである。
確かに,非常勤講師の担当時間数は,年度によって変動するが,更新が長期にわたれば,担当時間数がないとの理由で更新拒否されることはないであろうとの期待が生じるのは当然のことである。また,被告から原告らに対し,将来の雇用を保障するような発言が明確にされたことはなかった
が,長期間雇用を更新し続けていたし,更新の都度,原告らは更新希望の意思を被告に伝えており,被告は反対したことはなかった。このような状況では,原告らが雇用更新の期待を抱くことは当然であり,現に,原告らは雇用更新の期待を抱いていた。このように,更新回数が極めて多いこと,過去に雇止めの例がないこと,更新手続が形式的であること,原告らは有期契約であることを明確に認識していなかったこと,職務内容が専任教員とは異なるとはいえ,臨時性は希薄であり,その職務内容において専任教員に近いものがあることを考慮すると,原告A及び原告Bの各雇用契約には,解雇権濫用法理が類推適用され,その雇止めには合理的な理由が必要と解するべきである。
(被告の主張)
ア 争う。A雇止め及びB雇止めについて,解雇権濫用法理は類推適用されない。
(ア) 被告は,原告A及び原告Bとの間で,これまでいずれも1年間の有期雇用契約を更新してきた。更新は,毎年,原告らから来年度の希望を聞いて2月末までに新年度の非常勤講師の採用及び担当時数(見込み)を伝えて,有期雇用契約を更新し,毎年,4月1日付の辞令書を交付していた。なお,平成16年度からの新規契約及び更新時には辞令書以外に「雇入通知書」を交付している。さらに,平成18年度以降の更新については,前年の12月に更新の見通しを通知し,更新した際に,雇入通知書に厚生労働省の告示に則って「契約更新に関する事項」を記載している。
そして,被告は,原告A及び原告Bに対し,平成18年12月27日付の「来年度の雇用に関して(通知)」なる書面を交付して,来年度の更新の見通し(確約不能)を通知した。
(イ) 原告Aに対して
被告は,平成19年2月中旬,暫定的に平成19年度の授業時数を出したところ,原告Aの担当する理科の授業時数は88時数となり,平成
18年度の97時数よりも9時数減少するため,この結果,専任教員6人の担当で足りることが判明した。そこで,被告は,平成19年2月2
6日,原告Aに対し,「平成19年度の雇用に関しては学級減等のため,理科の非常勤講師時数は0時間となります。」「あなたの雇用は平成19年3月25日迄となりますのでお知らせ致します。」旨の内容を記載した内容証明郵便を郵送した。
(ウ) 原告Bに対して
被告は,平成19年2月中旬,暫定的に平成19年度の授業時数を出したところ,原告Bの担当する数学の授業時数は100時数となり,平成18年度よりも6時数減少するため,この結果,専任教員6人の担当で足りることが判明した。そこで,G校長は,平成19年2月23日,原告Bを校長室に呼んで,平成19年度は非常勤講師契約の更新はなく,平成19年3月25日をもって終了しますと伝えた。原告Bから異議の申出はなかった。
(エ) 以上のとおり,被告から原告らに対し,雇止めの1か月前には,非常勤講師契約を平成19年3月25日限りとすること,平成19年度は契約更新しない旨を通知しているのであって,有期雇用契約は平成19年3月25日をもって終了した。
イ 雇止めが権利濫用かどうか又はxxx違反かどうかは,有期雇用契約が締結された経緯,雇用の形態・内容から,被用者の雇用継続に対する期待の合理性,雇用者の有期雇用契約締結の目的・合理性を検討の上,双方の利益を比較考量して判断されるべきである。
(ア) 業務の客観的内容(仕事の種類,内容,形態)について
非常勤講師は,担当する授業の内容は専任教員と異ならない専門職で
あるが,授業持ち時数的にこれを補完するスポット的な専門職である。すなわち,非常勤講師は補助労働ではなく,専門職であるところ,その補充性は,担当時間にある。高校生に定められた履修時間の専任教員1人分に満たない時間の補助を目的とする職種であり,教育には欠かせない古くから存在する勤務形態である。非常勤講師は,クラス担任や校務分掌(教務,生徒指導等)等を担うこともなく,時間割に従って担当時間の授業のみを行うことを命じられているに過ぎない。教材選定や教材作り等は,教科を教える授業に含まれる当然の職務であって,特別のものではない。専任教員は,授業はもちろん,週40時間の勤務時間内で進路指導,生活指導についても責任を持って行い,学校行事,各種会議等に当たり出席が義務付けられ,また,職務専念義務も負っているが,非常勤講師にはかかる義務はなく,授業時間以外に何ら責任もなく,拘束を受けることもない。勤務形態は,専任教員とxx的に異なることは明白である。
(イ) 契約上の地位の性格(基幹性,臨時性)について
専任教員の1週間の最低勤務時間は40時間であるのに対し,原告らの勤務時間は,平成18年度は5時間(原告A)又は8時間(原告B)に過ぎない。1週間の出勤日数も少なく,専任教員の1日8時間勤務も適用されない。勤務時間以外は,他の学校の本務及び非常勤講師の兼務,その他の職との兼務も自由で一切の制約がない。現に,原告Aは,I予備校講師,県立J高校,平成17年度には県立K高校,平成18年度は県立L高校の非常勤講師を兼務している。原告Bは,県立M高校の非常勤講師を兼務している。
非常勤講師には,授業持ち時数が保証されていない雇用形態であるがゆえに,雇用保険法上,週20時間未満勤務には雇用保険の適用もない。勤務時数は,各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によっ
て変動する。各年度の各学科のクラス編成,担当教員は,入学応募状況等の動向を見て2月中旬に暫定的に定め,非常勤講師の採否,授業持ち時数が決められる。非常勤講師の契約期間を約1年とする有期雇用契約の更新も,更新後の授業持ち時数もそれによって左右される。確かに,平成9年度までは非常勤講師の授業持ち時数は安定していたが,平成1
0年度以降は減少の一途をたどり,平成19年度はゼロとなったのである。このように,非常勤講師の雇用は,専任教員のように継続の保障はなく,クラス数や教育課程に基づく授業持ち時数が変動する教育職の特殊な性格に基づくものである。
非常勤講師の報酬は,契約更新の都度,週当たりの授業持ち時数に基づいて被告の判断で定められる。専任教員のような年齢,勤務年数等による客観的な定めは存在しない。非常勤講師は他の職業との兼務の制限は一切ない。また,他の学校の本務教員,非常勤講師との本務・兼務も禁じられておらず,他にも収入を得ることは十分可能である。
(ウ) 当事者の主観的態様(更新の見込みについての雇用主の言動)について
非常勤講師の毎年度の授業持ち時数は変動し,年度によってゼロとなりうるということは,専門職の有資格者である原告らには周知の事実である。被告は,原告らに対し,将来継続して採用するとか,そのような期待を抱かせるような言動をとったことは一切ない。
生徒数が減少しているのに,従来の専任教員及び非常勤講師数を維持したまま学校経営を継続することは財政破綻を招くことになる。被告の場合も,生徒不足で赤字続きであり,生徒数の年々の減少により,平成
18年度に改訂された教育課程に基づく平成19年度の編成の結果,原告らを含む10名の非常勤講師の雇止めに至ったのである。被告は,平成16年度から「雇入通知書」の交付,平成17年度から「来年度の雇
用に関して(通知)」の文書通知によって,原告らに有期雇用性の喚起を図り,平成18年度以後の雇入通知書から厚生労働省の告示に基づいた
「契約の更新に関する事項」を記載して,期間終了30日以上前に雇止めを予告し,一層原告らに対して契約更新の期待を安易に抱かせないように配慮してきている。原告らは,近年の少子化による定員割れや学級減少,教育課程の改訂,最近の非常勤講師の契約更新手続の厳格化により,雇止めのあることは十分に認識していたといわなければならない。非常勤講師にとっては,契約更新の有無以上に,授業持ち時数が重要 性を持っているといわなければならない。原告らは,最高授業持ち時数
16時間(原告A),15時間(原告B)から平成18年度はそれぞれ5時間(原告A),8時間(原告B)に減少しているが,その間の勤務時間の減少に対していずれも異議を申し出たことはない。これは,原告らが,非常勤講師が勤務形態の特殊な職種であることを承認し,これに同意して契約更新してきたことを物語っている。授業持ち時数の変動の同意は,期間不更新の同意も包含されていると見なければならない。
(エ) 更新手続(更新の回数,勤続年数,手続の厳格性)について
更新手続は形式的ではない。被告は,毎年原告らに対し,来年度の非常勤講師採用の希望を聴取し,学級数が決まる2月下旬ころまでに新年度の各学科のクラス編成数を暫定的に定めて,非常勤講師の担当授業科目と持ち時数を決めて更新の通知をし,新年度当初の4月1日付で,採用期間を4月1日から翌年3月25日,報酬月額を記載した非常勤講師辞令書を交付してきた。平成17年度からは,非常勤講師全員を対象に一堂に集めて辞令交付式を行っている。
また,前記のとおり,被告は,原告らに対し,有期雇用性の喚起を図り,契約更新の期待を安易に抱かせないように配慮してきている。
さらに,非常勤講師は,雇用形態のみでなく,授業持ち時数が重要で
あり,更新回数のみが注目されるべきではない。給与も授業持ち時数に比例する。原告Aは,10時間以上が多かったが,平成15年度以降の
4年間は1桁台になり,平成18年度は5時間に減少している。原告Bも,平成18年度は8時間に減少している。被告高校においては,平成
18年度の生徒数は平成10年度の2分の1に激減している。
なお,非常勤講師の中には,勤務の特殊性や他の学校の非常勤講師の授業時間と符合しないことから辞退する者もいる。
(オ) 他の労働者の更新状況
被告は,平成19年2月中旬に,暫定的に生徒数を予測してクラス編成と在校生徒の希望科目の選択・変更から,平成19年度の非常勤講師
10名について更新する必要性を欠いたので,原告らを含む10名に同年2月25日までに口頭又は文書で雇止めする旨の予告をした。
なお,被告は,過去に他の非常勤講師を雇止めにしても,原告B及び原告Aとの契約を更新してきたものであり,過去に非常勤講師の雇止めはなかった旨の原告らの主張は誤りである。なお,雇止めは,あらかじめ該当する非常勤講師の同意を得てなされたものではない。被告は,被告高校が決めた教育課程上,必要がなくなった非常勤講師と契約更新はしていなかった。
(カ) 以上のとおり,非常勤講師の約1年を期限とする有期雇用契約の更新及び授業持ち時数は,各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目の選択教科によって大きく変動する教育労働の特殊雇用に基づくものである。最近の少子化に伴い,生徒数が定員を大きく割り,生徒実態に対応した教育課程の改訂が要請されていたところ,平成18年度に改訂された教育課程が平成19年度より学年進行で移行実施された。その結果,平成19年度の各科目の授業持ち時数は大きく変動し,原告らを含む1
0名の非常勤講師は平成18年度限りで雇止めが必要となった。教育の
現場において,原告らも非常勤講師の雇用の特殊性を十分熟知していたものである。原告らを含む10名の非常勤講師との間で長年にわたり有期雇用契約の更新が繰り返されてきたことは否定できないが,長期の更新の一事で非常勤講師の雇用の内容,性格が変わるものではなく,更新によって雇止めが制約されるならば,クラス編成や教育課程の改訂さえ不可能となる。
原告らが有期雇用契約の認識を有していない旨の主張は否認する。非常勤である理由,毎年1年契約を更新する理由,毎年授業持ち時数が変更される理由,非常勤講師という職種がなぜ教育職務に存在するのか,長年非常勤講師を経験してきた原告らが知らないわけがない。
(2) A雇止め及びB雇止めの有効性
(原告らの主張)
ア 原告らの雇止めは,専任教員の授業持ち時数を増加し,その分非常勤講師の人数を減らし,全体として人件費を切り下げることにあった,すなわち,被告の経営上の必要から人員を削減することを目的とするものであるから,雇止めに合理的理由があるか否かの判断基準については,いわゆる整理解雇の法理に基づき,判断すべきである。なお,被告は,人件費の削減は結果にしか過ぎず,原告らの雇止めは,生徒数の減少及び授業カリキュラムの変更,定年再雇用制度の実施の結果,原告らが担当する授業時数がなくなったためである旨主張するが,仮にそうであったとしても,使用者側の経営事情であることには変わりなく,使用者側の経営事情等により生じた従業員数削減の必要性に基づく雇止めであるから,その有効性判断に当たっては,やはり整理解雇の判断枠組みが適用されるべきである。
そうすると,原告らの雇止めについては,整理解雇に準ずる要件,すなわち,①人員削減の必要性,②雇止め回避の努力,③人選の合理性(雇止めされる者の選定基準と選定方法が合理的であること),④手続の相当性
(事前に説明・協議義務を尽くしていること),が必要である。そして,教育基本法9条2項は,教員の「使命と職責の重要性にかんがみ,その身分は尊重され,待遇の適正が期せられるとともに,養成と研修の充実が図られなければならない」と規定しており,安易な教員数の削減は教育の質の低下を来たし,そのしわ寄せを生徒に押し付ける事態を生じさせるおそれがあるから,教員の整理解雇に当たっては,判断基準は一般企業の場合に比してより厳密に適用されるべきである。
イ ①人員削減の必要性について
(ア) 被告は,カリキュラムの改訂や定年再雇用制度の実施がなされたことにより非常勤講師の授業持ち時数がゼロになった旨主張する。しかしながら,そもそも新カリキュラム(平成19年度以降のカリキュラム)にする必要性が不明であるし,仮に必要があったとしても非常勤講師の授業持ち時数がゼロになる理由と必要性が不明である。また,定年再雇用制度の実施によりなぜ非常勤講師の授業持ち時数がゼロになるかも不明である。
(イ) 平成19年度の生徒数減は24名であるが,これは商業科のちにI Tコミュニケーション科の募集停止によるものであり,これによる平成
19年度に削減される授業時数は,数学が3時間,理科は減少なしである。また,授業カリキュラムの変更の必要性があったとしても,減少する授業時数は数学が3時間,理科が6時間である。そうすると,生徒減及びカリキュラム変更により減少する数学と理科の非常勤講師授業持ち時数はいずれも6時間である。専任教員の授業持ち時数が今までどおり
15時間であれば,非常勤講師の授業持ち時数は数学が10時間,理科が13時間となるはずであり,原告らの授業持ち時数は十分確保されたはずである。ところが,被告は,平成19年度から専任教員の授業持ち時数を担任16時間,副任18時間に増加させ,非常勤講師の授業持ち
時数は大幅に減少し,数学が週2時間,理科が週4時間となり,さらに,これらを商業科の専任教員に振り分けたため,原告らの持ち時数はゼロとなった。
さらに,定年後再雇用制度については,被告は,2名の定年退職者を 平成19年度から引き続き専任教員として再雇用していると主張するが,誰を再雇用し,その者に何時間の持ち時数を振り割る必要性があったの か,全く不明である。なお,原告らは,定年再雇用者が社会科と理科の
2名の教員であると推測するが,いずれも平成18年度から継続して平成19年度も勤務している者であるから,それだけでは平成19年度の教員の授業持ち時数が平成18年度より減ることにはならない。
(ウ) そうすると,原告らの授業持ち時数がゼロになったのは,単純に専 任教員の授業持ち時数が増加したことにあるというべきである。被告は,授業は本来専任教員が中心になって当たるべきものである旨主張するが,それまで非常勤講師が担当していた授業を突然専任教員に負担させねば ならなくなったのか,その合理性・必要性を何ら明らかにしていない。 また,被告は,専任教員の授業持ち時数を公立や他の私立高校並みにす るために専任教員の授業持ち時数を増加させたとの主張もするが,なぜ 被告高校の専任教員の授業持ち時数を公立高校や他の私立高校並みにそ ろえる必要があるのかを明らかにしていない。むしろ,それまでの週1
5時間という慣行を無視し,専任教員の負担を加重させ,健康被害や授業レベルの低下の危険を招いており,現場を無視した不合理なものである。現に,専任教員の中には,仕事上の被害,病気等の健康被害が生じている者がいる。
なお,被告は,少子化に対応したカリキュラム変更も雇止めの理由であるなどと主張するが,従前,カリキュラム編成に当たり,生徒実態を踏まえ,基礎基本を確実に定着させることを主眼に選択科目を精選し,
必履修科目の着実な定着を目指すことを目標にした旨主張していたのであって,かかる主張は本件訴訟の弁論終結時において急遽なされた主張に過ぎない。
(エ) 被告は,原告らの雇止めが人件費削減を目的としたものであることを一貫して否定しているのであって,財政的理由は,原告らの雇止めを正当化する合理的理由にならないことは明らかである。
しかしながら,一方で被告は,原告らの雇止めは被告高校の赤字の削減と更には募集停止による被告高校の閉校の回避に寄与しているとも主張するが,以下のとおり,財政的観点からも合理的理由はない。
すなわち,①被告は自己資本比率が極めて高いこと,②負債総額を上回る現金預金や有価証券があり,さらには被告が有する運用資産の総額は負債総額を遥かに超過していること,③教育研究活動キャッシュフローが被告高校に限れば平成15年度から平成19年度まで常にプラスであること,被告全体をみても,平成16年度から平成18年度を除いてプラスであり,平成16年度から平成18年度のマイナスも退職者が増えたことによる一時的なものであること,④被告は必要以上に退職給与引当金を計上していることからすれば,被告の経営状況は,原告らを雇止めしなければならないほどのものではなかった。
被告は,①収支がマイナスであること,②学校の自己資本比率は一般企業のそれと異なること,③実際に被告に計上されている施設設備特定資産の額では,建物の建て替えができない状況にあること,④運用資産余裕比率については,事業団の経営判定指標によれば508法人中29
6番目であること,⑤退職給与引当金は,支払不能にならないよう10
0パーセント積み立てなければならない旨主張する。
しかしながら,確かに収支はマイナスであるが,被告の自己資本比率は高いのであって,かかる比率は経営状態を示す指標になるものである。
また,施設設備特定資産については,被告は現在,建て替えが必要な状態にはなく,長期修繕計画や設備投資計画は存在しない。さらに,経営判定指標による数字は,悪い数字ではないし,そもそも相対評価であり,これをもって運用資産比率がよくないとはいえない。退職給与引当金についても,全教員が一斉に退職することはないのであり,100パーセント積み立てる必要はない。
以上より,被告の財政状況からすれば,被告の目指す教育課程の改訂の内容やそれに伴う担当時数の変更を十分説明し,また対象となる非常勤講師の個別の事情を十分把握するなどの時間的余裕があったはずである。また,仮に非常勤講師の削減が必要であると判断しても,できる限り合意に基づく契約終了を追求し,また,担当時数の削減にとどめたり,あるいは改訂された教育課程の実施状況を見ながら段階的に人員削減を実施したりするなどより緩やかな措置をとる余裕があったはずである。
ウ ②雇止め回避努力について
平成19年度に突然原告らを雇止めにすることは,原告らに対し,収入を途絶えさせ,職歴蓄積の機会を一方的に奪うものであって,長年にわたり契約更新を繰り返してきた原告らに著しい不利益を与えるものである。しかるに,被告は,仮に雇止めの必要性があったとしても,雇止めを避けるために他の手段を検討したり,何らかの努力や配慮をしたりした形跡は皆無である。被告は,数年をかけた穏やかな実行,希望退職の有無,他の学校への紹介などの努力を一切行わなかった。
エ ④手続の相当性について
被告は,原告Bに対し,平成19年2月23日に口頭で,原告Aに対し,同月26日に文書で,同年3月25日をもって雇止めをすると通告した。そこで,原告らは,同月1日,G校長に対し,雇止めの理由を説明するよう求めたが,まともな説明はされず,同月2日の面会要請も拒絶された。
同月12日の労働組合との団体交渉においても,被告側は,誠実な説明を拒否し,さらに,同年4月13日新潟県労働委員会における個別あっせん期日においても,一切説明することがなかった。以上のとおり,被告は,誠実な協議・説明を何ら行っていない。
なお,被告は,G校長が原告らと同年3月2日,会議の途中で面会し,雇止めの理由を説明した旨主張するが,否認する。
原告らは,同月1日,校長と面会しようとしたが,「忙しい」,「話をする時間はない」などと言われて,理由の説明を拒否され,翌2日昼ころ解雇 理由書を渡すという約束をされた。原告らは,同月2日,校長室に出向い たが,会議中という理由で面会を拒否された。その後,原告らは,事務長 から解雇理由書を交付され,改めてG校長との面会を求めたが,拒否され た。原告らは,その約30分後,文書にて再度G校長に面会を求めたが, 事務長は,面会の取り次ぎを拒否し,文書の受取すら拒否した。たまたま 居合わせた被告の常務理事が事務職員に指示して同文書がG校長に届けら れることとなり,その際,原告らは,同常務理事に対し,G校長との面会 を依頼した。しかし,以後,被告からは何の連絡もなかった。そこで,原 告らは,同月5日,新潟県労働委員会に個別あっせんを申請したのである。 オ 原告らの雇止めには,解雇権濫用法理が類推適用されて合理的理由が必
要であるところ,上記イないしエによれば合理的理由は認められないので,いずれの雇止めも無効である。よって,原告らと被告との雇用契約は存続しており,平成19年4月以降も賃金請求権が発生している。
(被告の主張)
ア 仮に,原告らに解雇権濫用法理が類推適用されるとしても,その判断に当たっては,まずは,被告高校の就業規則の解雇規程を適用すべきである。非常勤講師については非常勤講師就業規則があるところ,同規則には雇止めに関する条項はない。そこで,専任教員に適用される「C高等学校就業
規則」1条3項により,非常勤講師の趣旨に反しない限り,同規則を非常勤講師にも適用すべきである。同規則によれば,学校経営上過員が生じたときは免職できる旨規定されている(同規則36条6号)。原告らは,原告らの雇止めには整理解雇の基準を適用すべきであると主張するが,論理の飛躍があるというべきである。
そもそも,原告らの雇止めは,教育課程の改訂の結果によって契約更新の必要性が無くなったことによるものであり,人件費削減を直接の目的としたものではなく,整理解雇の判断枠組みは適用されない。
イ また,仮に,原告らに解雇権濫用法理が類推適用されるとしても,原告らの雇止めは,以下の理由で適法である。
(ア) 被告高校の教育課程の改訂に当たり,普通科のコースは進学コースと普通コースとされ,選択科目も生徒実態に対応した基礎基本の確実な定着を目指して必履修科目を中心に増単され,選択科目も精選された。その結果,これまでの学級減による授業持ち時数の減少に加え,学年進行のITコミュニケーション科の募集停止により,商業科の専任教員が過員となった。そこで,同専任教員に,教員免許や担当能力等を考慮して,社会,数学,理科を担当してもらうこととし,当該教科の非常勤講師の授業持ち時数がゼロとなり,この科目に非常勤講師の雇止めが多く生じることとなった。また,高年齢者雇用安定法の改正により,被告は,本校定年退職者の再雇用の促進の努力をせざるを得なくなった。これにより,社会,理科において,2名の定年退職者を平成19年度から引き続き専任教員として再雇用した。
(イ) G校長は,平成18年4月5日の職員会議で,現行教育課程は生徒の実態にそぐわない面や不備な点もあるので,平成19年度から間に合うように新しい教育課程の編成に向け,カリキュラム編成委員会を設置したいと提案したところ,職員から異議はなかった。これに基づき,同
月18日にカリキュラム編成委員会が設置され,同月25日から同年1
0月30日まで7回委員会が開催され,それと並行して教科主任会議が開催され,改訂方針の説明・確認を経て,同年12月15日の職員会議で新教育課程表が発表され,確定された。
(ウ) このように,原告らに対する雇止めの理由は,平成18年4月18日から検討して進めてきた平成19年度の新教育課程編成の結果,非常勤講師の雇用の必要性が無くなったことによるものである。すなわち,少子化に基づく年々の入学生の減少により定員を大きく割っており,これに対応するために,1年がかりで検討したカリキュラムの変更に基づいて必要のなくなった非常勤講師の契約不更新によるものである。
ただし,平成19年度の非常勤講師の雇止めは,当然に赤字軽減も含まれており,被告高校の赤字の削減とさらには募集停止による閉校の回避に寄与している。すなわち,被告は,平成18年度には約1億円の累積赤字を計上しており,平成19年度以降も赤字が続く見通しであった。このような赤字状況の下では,新潟県の公私立高校の専任教員の平均の
1週間担当時間を削減してまで,あえて非常勤講師との契約更新をする経済的なゆとりはなかった。赤字減少のためにも,1週18時間の平均授業時間を,被告高校の専任教員にも受け持ってもらうことにし,これにより人件費の削減は前年度対比1387万円強となった。しかし,生徒数の減少には歯止めがかからず,平成20年度から更に赤字が増加している。
授業は本来専任教員が中心となって当たるべきものであり,非常勤講師の授業持ち時数を特別に設けたり保証したりしなければならないものではない。被告高校では,非常勤講師は,あくまで専任教員が持ちきれない時間を受けもつ,補完的,臨時的な職であり,その判断は,校長の裁量権の範囲である。
(エ) 以上のとおり,原告らの雇止めは,少子化に対応したカリキュラム変更と財政を理由とする専任教員による授業持ち時数の県内高校平均負担によって非常勤講師が必要なくなったことに基づいた契約不更新であり,適法である。
ウ 原告らは,雇止めの直接の目的が必要性喪失にあったとしても,赤字減らしの目的があれば,整理解雇に関する4条件を充足する必要があると主張し,又は結果的に赤字減らしが生ずる場合にはこれを人員整理目的による雇止めであると主張するが,争う。教育課程の改訂により必要性が無くなり,雇止めした結果,赤字減らしになったとしても,人員整理目的による雇止め(整理解雇)であるということはできない。
エ なお,仮に原告らの主張する整理解雇の要件に当てはめても,①人員削減の必要性は新教育課程によるものであり,②雇止めの回避に関しては,理科及び数学の各2名の非常勤講師とも必要性がなくいずれも雇止めにしており,専門科目毎の免許制から他の教科に勤務させることはできないし,累積赤字の原状から必要性を欠く更新をする余地はない。また,③雇止めの選定基準についても,各2名の非常勤講師ともに雇止めにしており選定の余地はない。専任教員を解雇して非常勤講師の契約を更新することは不可能である。④事前の説明義務については,平成19年度の教育課程編成の結果必要性が無くなった旨の説明をしている。平成19年4月13日の労働委員会における個別あっせん期日において,被告の理事長等が出席し,
2時間あまりにわたって,被告高校側の事情を説明している。また,G校長は,平成19年3月2日,原告らと会議の途中で面会しており,その際,平成19年度カリキュラム編成の結果,数学及び理科の教科時間が前年度より減って,非常勤講師による担当時間がなく,平成18年度の数学の非常勤講師2名,理科の非常勤講師2名とも契約更新の必要性がなくなり,残念ながら辞めてもらうことになった旨説明した。原告らは,これに対し
てその場で特に異議等は申し出なかった。
以上のとおり,A雇止め及びB雇止めは,雇止めの必要性,雇止め回避努力の履行及び被雇止め者選定の合理性があり,事前の説明も存在したのであるから,社会的に相当な理由が認められ,有効である。
オ 被告の財政状況について
被告高校の平成18年度の消費収支計算書によれば約3373万円の支出超過,平成19年度の消費収支計算書によれば約469万円の支出超過であり,平成15年度から平成19年度までの5年間は支出超過であった。原告らは平成18年度及び平成19年度が収入超過である旨主張するが,誤りである。
また,原告らは被告の財政安定性が高い旨主張するが,被告高校の校舎等の固定資産の財源のほとんどは寄付によるものであり,自己資金比率又は自己資金構成比率が株式会社の自己資本比率よりも高くなるのは当然である。被告のような学校法人の場合,自己資金構成比率が100パーセントであってはじめて正常な法人というべきである。被告高校内の諸施設は校舎を含めて老朽化が激しく,将来建て替えや取り替えが必要な資産があるが,その建て替え資金として,毎年度の減価償却の積み立てを減じて,消費支出の不足分に流用しているので,建て替え不能である。また,校舎は耐震設計基準を満たしておらず,少なくとも補強工事が必要であるが,それもできない状況にある。引当率約37パーセントの特定資産の充当のみでは不十分である。退職給与引当金が余剰金であるとか,引当額が多すぎるということはない。これを日常の学校経営の消費支出に使うことは禁止されている。平成15年度から平成19年度までの消費支出超過額の累計額は9億3912万円であることからすれば,この状態のまま推移すればあと,1,2年で支出目的の特定していない資金は食いつぶしてしまって資金繰りが困難になる。
第3 当裁判所の判断
1 まず,前記前提事実に加え,証拠〔甲1ないし16,27ないし30,32ないし35,37ないし40,42,45ないし47,乙1ないし16,19ないし21,27,29ないし37,40,42,44,46ないし50,5
7ないし60,63,64,65(いずれも枝番号を含む。),証人Hの証言,証人Nの証言,原告A本人,原告B本人,被告代表者O本人〕及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 専任教員及び非常勤講師の就業規則等について
ア 専任教員は,「C高等学校就業規則」(平成16年4月1日施行)に則り,勤務時間は1週間につき40時間以内であり,兼職は禁止されており,その報酬は,「C高等学校教職員給与規程」によるものとされる。
また,専任教員は,クラス担当,教務・生活指導・生徒指導・進路指導等の校務,クラブ活動指導等の任務を負担している。
イ 非常勤講師は,「C高等学校非常勤講師就業規則」(ただし,平成17年
4月1日までは非常勤講師の就業規則は存在しなかった。)に則り,1週間
18単位時間以内の授業を担当するために採用された有資格者をいい,兼職は禁止されておらず,採用期間は,12月の範囲内で理事長が必要と認める期間とされ,報酬は,月額により支給するものとされ,「担当単位時間数」に1単位時間当たりの単価を乗じて得た額とされる。
なお,非常勤講師は,専任教員と異なり,クラス担当,教務・生活指導・生徒指導・進路指導等の校務,クラブ活動指導等の任務は負担していない。 ウ 原告Aは,平成17年度に新潟県立K高等学校,平成18年度に新潟県
立L高等学校において非常勤講師として勤務する等していた。
原告Bは,平成13年度まで新潟県立M高等学校においても非常勤講師として勤務していた。
(2) 原告ら非常勤講師の具体的職務内容について
ア 被告高校においては,毎年,年度末の3月中旬ころに,教科毎に,担当教科決定会議が開催され,その中で,各教科の授業の担当・分配が決められていた。
(ア) 理科は,物理,化学,生物,地学の4教科に分かれているところ,理科の教員による上記担当教科決定会議において,受け持つ理科の授業担当教科が決定されていたが,原則として専門教科以外の教科を担当することはなかった。原告Aは,上記原則が適用されていたので,理科の担当教科決定会議にほとんど出席することはなかったが,決定前には必ず担当教科についての意向を聴取されていた。
(イ) 原告Bは,数学科の上記会議に出席し,専任教員と生徒やクラスの様子を話し合い,協議して受け持つクラスを決めていた。また,数学科では,単位を落とした生徒の補習にクラスや担当教員単位ではなく,教科全体で取り組んでいた。
イ 原告ら非常勤講師は,専任教員と同じく,担当する授業時間は一人で授業を行っており,学習指導要領に則り,授業のスタイルは各自に任せられていた。
原告Aは,地学の2クラス同時展開のカリキュラムの際には,専任教員と2名で授業を担当することもあり,専任教員と協力して教材作り等も行っていた。
ウ 原告ら非常勤講師は,授業をする以外にも,授業に使用する教材の研究と選定,生徒に配付する小テストやプリントの作成,課題・レポートの点検,授業や実験の準備・後片付け,テストの作成・採点,試験監督,成績の評価,生徒に対する評価,補習等を行っていた。
(ア) 原告Aは,授業をしていない空き時間には,教室外にいる生徒の相談に乗ったりもしていた。
(イ) 原告Bも,授業をしていない空き時間に校外に出ることなく,校内
において授業準備等を行っていた。
また,原告Bは,専任教員が担当することが基本であった特別進学クラスや,何らかの理由で教室には入れなくなった生徒が登校して勉強する特別教室の指導を担当することもあった。
エ 原告ら非常勤講師は,空き時間や休み時間に,生徒の質問に答えたり,生徒からの悩み相談に乗ったりしていた。
また,原告ら非常勤講師は,担当授業について生徒に仮進級が出た場合,春休み期間に課題を出し,休み明けにこれを提出させていた。
オ 原告Aは,新潟県立教育センターの高等学校理科基礎講座生物及び地学の研修や,高等学校理科教育研究会の研究会等に参加しており,平成16年度までは,参加費,旅費,日当は被告が負担していた。
また,原告Bも,新潟県私立中学高校協会主催の研修会に参加したことがあり,その際の参加費,旅費,日当は被告が負担していた
カ 原告Aは,昭和60年11月から,私立学校共済組合への加入が認められ,その後,加入は平成18年3月31日まで継続されていた(原告Aが子供を産んで仕事を休んでいたときも,私立学校共済組合への加入は中断されることなく継続されていた。)。なお,平成18年度は,原告Aの授業持ち時数が週5時間となったため,被告高校が定める加入要件の授業持ち時数(当時週7時間以上)を満たさず,継続されなかった。
原告Bは,平成2年6月から,私立学校共済組合への加入が認められ,継続されていたが,平成7年度に関しては,原告Bの授業持ち時数が週7時間とされたことから,加入要件の授業持ち時数(当時週8時間以上)を満たさず,平成7年度は被告との間で雇用契約を更新せず,私立学校共済組合の加入も平成7年3月31日までとなった。その後,原告Bは,平成
8年4月に被告との間で雇用契約を再度締結し,私立学校共済組合への加入は同月から平成19年3月31日まで継続された。
キ 原告ら非常勤講師に対する夏と冬の一時金(賞与)は,それまでの勤続年数が反映されて決定されていた。
また,非常勤講師のうち,勤続年数が一定以上の者に対して,退職の際,勤続年数に応じて退職金代わりの旅行券が支給されていた。
(3) 原告らの雇用状況について
ア 原告Aは,被告との間で昭和57年度から平成18年度までの合計25年間,被告高校の非常勤講師として期間を約1年間とする有期雇用契約を毎年更新してきた。原告Aの年度別授業持ち時数及び報酬月額は,別紙1
「年度別持ち時数及び報酬」記載のとおりである。なお,原告Aは,昭和
58年3月,昭和60年11月及び昭和63年2月にそれぞれ子供を産み,昭和58年4月から同年8月まで,昭和60年11月から昭和61年1月まで及び昭和63年1月から同年3月までは勤務しなかった。その期間中は,専任教員が代わりに原告Aの担当授業を受け持ったり,代替の非常勤講師が手配され,原告Aの担当授業を受け持ったりした。
イ 原告Bは,被告との間で平成元年度から平成18年度までの合計17年間(ただし,原告Bは,平成7年度は被告との間で雇用契約を締結しなかった。),被告高校の非常勤講師として期間を約1年間とする有期雇用契約を毎年更新してきた。原告Bの年度別授業持ち時数及び報酬月額は,別紙
2「年度別持ち時数及び報酬」記載のとおりである。
(4) 原告らの契約更新手続について
ア 平成15年度まで(平成16年3月31日まで)の更新手続
原告らは,同じ教科を担当する専任教員から,主として口頭で,来年度も教科を担当する意思があるかどうかを聞かれ,それに答えるだけであった。原告らと被告側との個別面接などによる意思確認手続はなかった。
原告らは,更新にあたり,被告から,4月1日付の辞令書を交付されていたが,同辞令書は,新年度に入った4月から6月ころにかけて,給料明
細書に同封されて郵送されたり,手渡しされたりするという形で交付されていた(原告Aは,11月ころに辞令書を渡されたこともあった。)。なお,平成5年度までは,原告らは,辞令簿に印を押していた。
イ 平成16年度以降(平成16年4月1日以降)の更新手続
原告らは,更新にあたり,被告から,辞令書以外に「雇入通知書」が交付され,さらに,平成18年度以降の更新からは,前年の12月ころに「来年度の雇用に関して(通知)」と題する文書が送付されるようになった。平成18年度からの「雇入通知書」には,「契約更新に関する事項」が記載されるようになった。また,平成16年度から,新年度に非常勤講師を一堂に会した辞令交付式が行われるようにもなった。
原告らは,被告に対して更新希望の有無を返答するだけであって(平成
17年度からは校長又は副校長に希望を申し出ることとされた。),原告らと被告側との個別面接などによる意思確認手続はなかった。
ウ 原告Aは,同人が勤務していた昭和57年度から平成18年度までの間,被告高校において,更新を希望しながらその意に反して雇止めをされた非 常勤講師の存在を聞いたことがなかった。
(5) 平成19年度の教育課程の変更経緯について
ア G校長は,平成18年4月5日,被告高校の職員会議において,「現行教育課程は生徒の実態にそぐわない面や不備な点もあるので,平成19年度から間に合うように新しい教育課程の編成に向け,カリキュラム編成委員会を設置し,今年中に改訂作業に入り,できるだけ早い時期に平成19年度の新教育課程を制定して,平成19年度の実施に間に合わせたい」などと提案した。
イ その後,同月18日,校長,副校長,教務主任,進路指導主任,教務部教科係5名の計9名が選任され,カリキュラム委員会が設置され,同月2
5日から同年10月30日まで7回にわたり開催された。編成に当たって
は,生徒実態を踏まえ,基礎基本を確実に定着させることを主眼に選択科目を精選し,必履修科目の着実な定着を目指すことが目標とされた。
ウ G校長は,同年12月15日,職員会議において,新教育課程表を発表し,質疑・応答を経て平成19年度教育課程が確定された。
(6) A雇止めに至る経緯について
ア G校長は,平成18年2月末ころ,原告Aに対して電話をし,「来年度の授業持ち時数はない,あっても2,3時間である」旨を伝えた。原告Aは,その翌日,専任教員2名とともに,G校長に説明を求めたところ,「計算上このような数字になった」などと説明された。そこで,原告Aは,新潟県労政事務所に相談し,その旨をG校長に伝えたところ,G校長から,授業持ち時数3時間でいいならば雇用してもいい旨を伝えられた。その後,理科の時数が計算間違いであったとして,被告から,5時間担当させる旨の連絡があった。その後,G校長は,同年3月下旬ころ,原告Aに対して電話をし,担当教科が地学と実験中心の科学である旨を伝えた。
イ 被告は,原告Aに対し,平成18年3月24日付「雇入通知書」を交付した。同書面には,前記前提事実のとおりの「契約の更新に関する事項」が記載されていた。その際,被告は,原告Aに対し,非常勤講師就業規則も送付した。原告Aは,これまでこのような規則を見たことはなかったし,その説明を受けたこともなかった。
ウ 被告は,原告Aに対し,平成18年12月27日付「来年度の雇用に関して(通知)」と題する文書を交付して,来年度の更新の見通し(確約不能である旨)を通知した。同書面には,来年度の再雇用希望者は,平成19年1月31日までに副校長へ申し出る旨が記載されていた。
そこで,原告Aは,平成19年1月末ころ,被告高校の教頭及びH副校長に対し,雇用を継続して欲しい旨の意思を伝えた。
エ 被告は,平成19年2月中旬ころ,暫定的に平成19年度の授業持ち時
数を算出したところ,原告Aの担当する理科の授業時数は88時数となり,平成18年度の授業時数97時数から9時数減少すると算出した。
オ 被告は,同月26日,原告Aに対し,「平成19年度の雇用に関しては学級減等のため,理科の非常勤講師時数は0時間となります。」「あなたの雇用は平成19年3月25日迄となりますのでお知らせ致します。」旨の内容を記載した内容証明郵便を郵送し,同年2月27日,原告Aは,同書面を受け取った。
(7) B雇止めに至る経緯について
ア 被告は,原告Bに対し,平成18年3月24日付「雇入通知書」を交付した。同書面には,前記前提事実のとおりの「契約の更新に関する事項」が記載されていた。
イ 被告は,原告Bに対し,平成18年12月27日付「来年度の雇用に関して(通知)」と題する文書を交付して,来年度の更新の見通し(確約不能である旨)を通知した。同書面には,来年度の再雇用希望者は,平成19年1月31日までに副校長へ申し出る旨が記載されていた。
そこで,原告Bは,平成19年1月末ころ,H副校長に対し,雇用を継続して欲しい旨の意思を伝えた。
ウ 被告は,平成19年2月中旬ころ,暫定的に平成19年度の授業持ち時数を算出したところ,原告Bの担当する数学の授業時数は100時数となり,平成18年度の授業時数から6時数減少すると算出した。
エ G校長は,平成19年2月23日,原告Bを校長室に呼んで,「カリキュラムの関係で昨年よりマイナス8時間になるので,数学の来年度の持ち時数はゼロです。よって来年度はありません。」などと説明した。原告Bは,
「それはもう確定したことですか」などと聞くと,「人間はいつ何が起こるか分からない。常勤が交通事故にあうかもしれないし,そんなあなたの専門の数学の確率のように決められません」などと答えた。原告Bが,「他の
教科の先生が数学を持つのでしょうか。」などと質問しても,「それもあなたに関係ない。」などと答えるだけであった。
(8) 原告らに対する雇止め通知後の経緯について
ア 原告らは,平成19年3月1日,G校長に対し,雇止めの理由の説明を求めたが,「忙しい」と言われたので,労働基準法による解雇理由書を交付するよう求めた。
イ 原告らは,翌同月2日,被告高校のP事務長から,同日付解雇理由証明書をそれぞれ交付された。同書面にはいずれも,解雇理由として,「専任教員の持ち時数を超える授業時数がない場合による」旨が記載されていた。そこで,原告らは,G校長から説明を受けるべく面会を求めたが,P事 務長から会議中を理由に断られた。原告らは,納得がいかず,同日,再度面会を求めるとともに,雇用の継続を求めることを文書でP事務長を通じて申し入れようとしたが,P事務長は文書を受け取らなかった。その際,
たまたまそこに居合わせた被告高校のQ常務理事が,事務職員に指示して,上記文書をG校長のところへ届けるように指示した。原告らは,再度,G校長との面会を求めたが,取り合ってもらえなかった。
ウ その後も被告側から連絡が一切なかったので,原告らは,同月5日,新潟県労働委員会で個別あっせんの手続をとった。
(9) 被告高校の生徒数等の状況について
ア 被告高校の昭和50年度から平成22年度までの生徒数及び教職員数は,別紙3「高等学校生徒数及び教職員数(衛生看護科含む)」記載のとおりで ある。また,被告高校の平成17年度から平成22年度までの生徒定員及 び生徒数は,別紙4「生徒定員及び生徒数」記載のとおりである。
イ 被告高校の平成18年度から平成22年度までの数学及び理科の授業時間数,担当教員数,在籍生徒数,クラス数は,別紙5「数学・理科 授業時間数・担当教員数と在籍生徒数・クラス数の推移」記載のとおりである。
ウ 被告高校の看護科を除く平成10年度の非常勤講師の数は24名,平成
18年度は19名,平成19年度は9名であった。
エ 被告高校における「定年規程」及び「C高等学校定年再雇用規程」の施行による再雇用者は,別紙6『平成18年4月1日C高校「定年規程」及び「定年再雇用規程」の施行による再雇用者』記載のとおりである。
(10) 被告の財政状況について
ア 被告高校の平成14年度決算ないし平成21年度予算の消費収支は,別紙7「C高等学校 消費収支計算書」記載のとおりである。
イ 被告の平成14年度決算ないし平成21年度予算の消費収支は,別紙8
「R学園全体 消費収支計算書」記載のとおりである。
2 争点(1)に対する判断
(1) 期間の定めのある雇用契約であっても,期間満了ごとに当然更新され,あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には,期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり,その実質に鑑み,その効力の判断に当たっては,解雇に関する法理を類推適用すべきであり,また,労働者が契約の更新,継続を当然のこととして期待,信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続,維持されてきた場合には,そのような契約当事者間における信義則を媒介として,期間満了後の更新拒絶(雇止め)について,解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される(最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決参照)。
そこで,前記認定事実を前提に,A雇止め及びB雇止めにおいて,これを検討する。
(2) 原告Aについて
ア 前記認定事実のとおり,非常勤講師はクラス担任及び部活指導は行わず,校務分掌にも入っていないこと,非常勤講師は兼職が禁止されておらず,
現に原告Aは新潟県立K高等学校の非常勤講師等を兼務するなどしていたこと,非常勤講師は給与体系や適用される就業規則が専任教員と異なっていること,勤務時間に関しても専任教員は基本的に1週40時間以内と決まっているのに対し,非常勤講師にはそのような労働時間の決まりはないこと,そもそも勤務時数は,各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によって変動することからすれば,原告Aと被告との間の雇用契約が実質において専任教員の場合と同じく期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあるとまでは認められない。
イ しかしながら,前記認定事実によれば,①原告Aと被告との間の雇用契約は24回にわたって更新され続けた結果,原告Aは25年間という極めて長期にわたり被告高校に非常勤講師として勤務し続けていたこと(なお,被告は3度の中断があった旨主張し,確かに原告Aは,昭和58年4月から同年8月まで,昭和60年11月から昭和61年1月まで,昭和63年
1月から同年3月までは勤務していないが,これらはいずれも産休又は育休によるものであり,その後に雇用契約を改めて締結した事実も認められない以上,被告の主張は採用できない。),②原告Aは,上記のとおり勤務していた間,被告高校において,更新を希望しながらその意に反して雇止めをされた非常勤講師がいたことを聞いたことがなく,長期雇用への期待が持てる環境にいたこと,③24回の更新のうち,最後の3回(平成16年度以降)を除き,原告Aの更新手続は,毎年,同じ理科の専任教員から更新の意思を聞かれてそれに答えるというのみで,辞令書の交付も新年度に入ってから給与明細と同封されるなどの態様で行われるという形式的なものであったこと,④平成16年度より前は,原告Aが希望すれば,被告が費用を負担して教師の能力を高める研修に参加することができたことからすれば,被告としても継続的な雇用を見越していたと考えられること,
⑤教員活動の中核を担う授業活動において,原告Aは,授業を担当するこ
とは当然として,それ以外にも,授業に使用する教材の研究と選定,生徒に配付する小テストやプリントの作成,課題・レポートの点検,授業や実験の準備・後片付け,テストの作成・採点,試験監督,成績の評価,生徒に対する評価,補習等専任教員と同様の業務をこなしていたこと,⑥原告 Aは,毎年,雇用契約上は雇用期間とされていない3月26日から同月3
1日の間も私立学校共済組合への加入が継続されており(ただし,平成1
8年度は除く。),専任教員と同様の保護を受けていたこと,⑦非常勤講師であっても,賞与,退職金の交付に当たり,勤続年数が考慮されていることからすれば,被告高校においては非常勤講師の継続的雇用が前提となっていると考えられること,以上を併せ考慮すると,原告Aにおいて,平成
19年3月25日の契約期間満了後も,雇用継続を期待することに合理性があったと認めるのが相当である。
(3) 原告Bについて
ア 原告Bと被告との間の雇用契約についても,前記認定事実のとおり,非 常勤講師はクラス担任及び部活指導は行わず,校務分掌にも入っていない こと,非常勤講師は兼職が禁止されておらず,現に原告Bは平成13年度 まで新潟県立M高等学校の非常勤講師を兼務していたこと,非常勤講師は 給与体系や適用される就業規則が専任教員と異なっていること,勤務時間 に関しても専任教員は基本的に1週40時間以内と決まっているのに対し,非常勤講師にはそのような労働時間の決まりはないこと,そもそも勤務時 数は,各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によって変動する ことからすれば,実質において専任教員の場合と同じく期間の定めのない 雇用契約と異ならない状態にあるとまでは認められない。
イ しかしながら,前記認定事実によれば,①原告Bと被告との間の雇用契約は(平成7年度は締結されていないものの),合計15回にわたって更新され続けた結果,原告Bは合計17年間という長期にわたり被告高校に非
常勤講師として勤務し続けていたこと,②合計15回の更新のうち,最後の3回(平成16年度以降)を除き,原告Bの更新手続は,毎年,同じ数学の専任教員から更新の意思を聞かれてそれに答えるというのみで,辞令書の交付も新年度に入ってから給与明細と同封されるなどの態様で行われるという形式的なものであったこと,③原告Bは,教師としての能力を高める研修に参加したことがあり,その費用は被告が負担していたことからすれば,被告も継続的な雇用を見越していたと考えられること,④教員活動の中核を担う授業活動において,原告Bは,授業を担当するほか授業に使用する教材の研究と選定,生徒に配付する小テストやプリントの作成,課題・レポートの点検,授業の準備,テストの作成・採点,成績の評価,生徒に対する評価,補習等専任教員と同様の業務をこなしていたこと,⑤原告Bは,毎年,雇用契約上は雇用期間とされていない3月26日から同月31日の間も私立学校共済組合への加入が継続されており,専任教員と同様の保護を受けていたこと,⑥非常勤講師であっても,賞与,退職金の交付に当たり,勤続年数が考慮されていることからすれば,被告高校においては非常勤講師の継続的雇用が前提となっていると考えられること,以上を併せ考慮すると,原告Bにおいて,平成19年3月25日の契約期間満了後も,雇用継続を期待することに合理性があったと認めるのが相当である。
(4) この点,確かに,前記認定事実のとおり,被告高校において,平成16年度からは,「雇入通知書」を原告ら非常勤講師に対して交付するようになり,また,新年度に非常勤講師を一堂に会した辞令交付式も行われるようになり,さらに,平成18年度以降の更新手続に関しては,前年の12月に「来年度の雇用に関して(通知)」と題する書面が交付されるようになり,平成18年度の「雇入通知書」には前記前提事実のとおりの「契約更新に関する事項」が記載されるようになっており,これらの事実からすれば,原告らにおいて,
被告との間の雇用契約が,期間の定めのある雇用契約であることを改めて認識する契機になったと思われる。
しかしながら,その後も契約更新に当たり,校長や理事長等との個別面接といった意思確認手続が行われることはなかったことからすれば,更新手続はやはり形式的なものであったというほかなく,上記判断を左右しない。
また,原告らは,直接被告から雇用を継続するという旨を伝えられたことはなかったが(争いのない事実),かかる事実も上記判断を左右するものではない。
(5) したがって,原告A及び原告Bは,いずれも雇用継続を期待することに合理性があったと認められ,A雇止め及びB雇止めにはいずれも解雇権濫用法理が類推適用されると解するのが相当である。
そうすると,同人らに対する雇止めが有効であると認められるには,単に雇用契約の期間が満了したというだけでは足りず,「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在することが必要であると解する(労働契約法1
6条)。
この点,被告は,非常勤講師の業務の客観的内容,非常勤講師の契約上の地位,被告及び原告らの主観的態様,平成16年度以降の更新手続,他の非常勤講師の更新状況(なお,過去に意思に反して雇止めがあったか否かについて被告は立証できていない。)からすれば,原告らの雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されることはない旨の主張をするが,被告が挙げる上記各要素を検討しても,上記判断を左右せず,被告の主張は理由がない。
3 争点(2)に対する判断
(1)ア 被告は,「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在するか否かの判断に当たっては,まずは,非常勤講師にも専任教員に適用される「C高等学校就業規則」を適用すべきであり,学校経営上過員が生じたときは免職できる旨の規定(同規則36条6号)によれば,原告らの雇止めは有
効である旨の主張をする。
イ しかしながら,そもそも「C高等学校非常勤講師就業規則」及び「C高等学校就業規則」には,「C高等学校就業規則」が非常勤講師に準用される旨の規定は存在せず(同規則2条2項は「この規則の主旨を体し,当事者の契約による」旨規定している。),被告の主張は理由がない。なお,仮に
「C高等学校就業規則」が類推適用でき,原告らの雇止めが当該規定に基づくものであったとしても,それが有効であると認められるためには,当然に「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が必要であると解され,同規則の存在から,直ちに原告らの雇止めが有効となるものではない。
(2)ア そこで,「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」の有無をどのように判断すべきかであるが,原告らは,整理解雇の判断枠組みを類推適用すべきであると主張し,被告は,原告らの雇止めは被告の人件費削減が目的ではなく,結果的に人件費が削減されたに過ぎない以上,整理解雇の判断枠組みは適用されないという旨の主張をする。
検討するに,整理解雇とは,使用者が経営不振の打開や経営合理化を進めるために,余剰人員削減を目的として行う解雇をいうところ,原告らの雇止めにおいて,原告らに非違行為等の落ち度は全くないのであって(争いのない事実),被告らも使用者側の経営事情等により生じた非常勤講師数削減の必要性に基づく雇止めであること自体は否定していない以上,原告らの雇止めは使用者が経営合理化を進めるために余剰人員削減を目的として行った雇止めであるとみるのが相当である。
したがって,原告らが主張するとおり,原告らの雇止めには整理解雇の法理を類推適用すべきと解する。すなわち,原告らの雇止めの「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」の有無は,①人員削減の必要性,②雇止め回避努力,③人選の合理性,④手続の相当性の4つの事情の総合考慮によって判断するのが相当であると解する。
イ もっとも,非常勤講師は,専任教員の持ち時数を超える授業時数が発生した場合にその超える授業時数を担当することを目的として,約 1 年間の有期雇用契約によって採用される者であること,非常勤講師は,専任教員と異なり,クラス担任にならず,校務分掌に入らず,クラブ活動の指導もしないこと,非常勤講師は,兼職が禁止されておらず,被告高校への拘束性が希薄であったことなどに照らすと,期間の定めがなく雇用されている専任教員とは,被告との間の契約関係の存続の要否・程度におのずから差異があるといわざるを得ない。
したがって,原告らの雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても,被告に相当の裁量が認められ,整理解雇の判断枠組みを類推適用するとしても,専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきであり,それまで雇用していた原告らを雇止めにする必要がないのに,原告らに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたなどその裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のない限り,「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在するといえ,解雇権の濫用に当たると認めることはできないというべきである。
ウ この点,原告らは,教員の整理解雇に当たっては,判断基準は一般企業の場合に比してより厳密に適用されるべきである旨主張するが,原告ら独自の見解であり,採用できない。
エ そこで,以下,整理解雇の判断枠組みを類推適用して検討する。
(3) 人員削減の必要性について
ア 被告は,原告らの雇止めは,少子化に対応したカリキュラム変更と財政を理由とする専任教員による授業持ち時数の県内高校平均負担によって非常勤講師が必要なくなったことに基づいた契約不更新であるという旨の主張をする。
イ 前記認定事実によれば,以下のとおり認められる。
(ア) 平成18年度の生徒総数は701名,平成19年度の生徒総数は6
77名であることからすれば,平成18年度から平成19年度にかけての生徒数減は24名である。
(イ) 平成19年度の教育課程は,平成18年4月25日からカリキュラム委員会において7回にわたり検討され,同年12月15日,被告高校の職員会議において,G校長により,新教育課程表が発表され,質疑・応答を経た上,平成19年度の教育課程が確定された。
(ウ) 平成19年度の教育課程による授業時数の減少は,理科が97時間から88時間の9時間減であり,数学が106時間から100時間の6時間減である。
(エ) 理科及び数学の専任教員の授業持ち時数について,理科が平成18年度は平均15.8時間から平成19年度は平均16.6時間に,数学が平成18年度は平均15時間から平成19年度は平均約16.3時間に,それぞれ増加している。
(オ) 被告高校においては,定年後再雇用制度が採用されているが,平成
19年度から新たに再雇用された教員の担当教科は社会であり,数学及び理科において新たに再雇用はされていない。
ウ なお,原告らは,平成19年度において教育課程を改訂する必要性自体がなかった,必要性があったとしても今回改訂されたような教育課程にする必要はなかったという旨の主張をするようであるが,教育課程とは,学校の構成員である全教師が法令等の定めに従い,校長の責任と指導性の下に,それぞれが分担,協力して編成されるものであるところ(乙56),前記イ(イ)のとおり,被告高校においてはカリキュラム委員会を経た上で平成19年度の教育課程が確定されている以上,手続的にも何ら問題ないというべきであり,かかる教育課程に基づき,各教科の授業時数が決定される以上,原告らの主張は採用できない。
エ そこで,前記イの事情を前提に人員削減の必要性を検討するに,平成1
9年度の教育課程によっても,専任教員の授業持ち時数が平成18年度と同じ時間数であれば,少なくとも理科は4時間,数学は8時間,それぞれ非常勤講師に担当させる授業時数があったものと認められる。よって,平成19年度の教育課程から,直ちに原告らの授業持ち時数がゼロになるとは認められない(専任教員と非常勤講師のいずれにどの程度の授業時数を担当させるかについては教育課程とは直接関係はないと解される。)。
なお,定年後再雇用制度が実施されていることは前記イ(オ)のとおりであるが,平成19年度の理科及び数学の授業持ち時数には関係はないというべきであり,この点に関する被告の主張は当を得ていない。
オ この点,被告は,カリキュラムの変更だけでなく,財政を理由とする専任教員による授業持ち時数の県内高校平均負担により原告らの授業持ち時数がゼロになった旨の主張をする。
検討するに,確かに,被告は,自己資本比率が高く,負債総額を上回る現金預金及び有価証券があり,教育研究活動キャッシュフローも平成15年度から平成18年度まで常にプラスであることからすれば,人件費を削減しなくても直ちに財政破綻を招くような状態にあったとは認められないが(甲21,31),前記認定事実によれば,被告高校においては,平成1
5年度から平成18年度まで支出超過の状態が続いており(被告全体では平成14年度から支出超過),生徒数も平成9年度までは1400人以上いた生徒数が,平成15年度以降は1000人を切り,さらにその後も年々減少しており,平成19年度において人員削減の必要性がなかったとは認められない。
しかしながら,平成18年度から平成19年度にかけての生徒数減は2
4名に過ぎなかったことからすれば,上記のとおり平成19年度の教育課程によっても確保しうる理科4時間,数学8時間を担当する非常勤講師に
対する報酬を,平成19年度をもって直ちに削らなければならないまでの必要性があったのかについて,被告は立証できていないというべきである。
カ したがって,人員削減の必要性は認められない。
(4) 雇止め回避努力について
ア 前記のとおり,非常勤講師の雇止めの場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が,専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきことからすれば,雇止め回避努力として,被告において希望退職者募集等の具体的な措置をとることまでは必要なかったというべきである。
イ しかしながら,被告が原告らを雇止めするに当たって,本件証拠に照らしても,財政上の理由からして非常勤講師の人件費をどれだけ削る必要があるか等についておよそ検討したとは認められないこと(O証言によれば,教員の人事はG校長に一任しており,被告において全く検討されていなかったことが認められる。)からすれば,被告が,非常勤講師の大量雇止め以外に財政状況改善手段を検討したという事情は認められない。また,その他原告らの雇止めに際し,何らかの回避措置がとられたことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上からすれば,被告において,何らかの雇止め回避の努力をしたとは到底認められない。
(5) 人選の合理性について
前記認定事実のとおり,原告Aの担当教科は理科であり,被告高校において非常勤講師の授業持ち時数が減少した科目が理科であることからすれば,理科の非常勤講師を雇止めの対象とすることは通常といえるから,被雇止め者選定の合理性が認められる。また,前記認定事実のとおり,原告Bの担当教科は数学であり,被告高校において非常勤講師の授業持ち時数の減少した科目が数学であることからすれば,数学の非常勤講師を雇止めの対象とする
ことは通常といえるから,被雇止め者選定の合理性が認められる。なお,原告らもこの点に関して特段主張していない。
(6) 手続の相当性について
前記認定事実のとおり,被告は,原告らから要求されて平成19年3月2日に解雇理由証明書を交付する以前に,原告らに対し,雇止めに関して何らの協議・説明をしなかった。また,その後も,原告らは,G校長に対して,解雇理由の説明を受けるために面会を求めたものの,同月1日はG校長が時間をとれなかったために面会することすらできず,さらに同月2日も解雇理由証明書だけでは不十分であったことから,G校長に説明を求めるために面会を要求したが,取り合ってもらえなかった。なお,解雇理由証明書には,雇入通知書の契約の更新に関する事項の「更新しない場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数がない場合」によるという簡略な記載があるのみであった。
以上からすれば,被告の原告らに対する事前・事後の協議・説明は不十分極まりないものであったといわざるを得ない。
この点,被告は,G校長が平成19年3月2日に会議の途中で原告らと面会し,「平成19年度カリキュラム編成の結果,数学及び理科の教科時間が前年度より減って,非常勤講師各2名とも契約更新の必要がなくなり,残念ながら辞めてもらうことになった」などという説明をした旨の主張をするが,これを認めるに足りる証拠はない。なお,仮にG校長からかかる説明があったとしても,上記判断を左右しない。
(7) 以上のとおり,本件においては,人員削減の必要性は認められず,雇止め回避努力も何らなされておらず,事前・事後の協議・説明も不十分であることからすれば,原告らの雇止めについては,被告に相当程度の裁量があることを最大限考慮しても,それまで雇用していた原告らを雇止めにする必要がないのに,原告らに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたと認める
のが相当である。よって,原告らの雇止めには「社会通念上相当とされる客観的合理的な理由」がなかったと解され,原告らの雇止めはいずれも,解雇権濫用法理の類推適用により,無効というべきである。
(8) 原告らの雇止めはいずれも無効であることからすれば,原告らはいずれも被告との間で従前どおり(平成18年度どおり)の雇用契約を締結しているものと認められ,被告に対して当該雇用契約に基づく賃金請求権及び賃金に対する支払期日の翌日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求権を有することになる。
なお,原告らと被告との間で雇用契約が継続されるとしても,やはり約1年間の有期雇用契約であることに変わりはない以上,平成19年度はともかくとして,平成20年度以降も雇用契約が継続できたかについては,前記認定事実のとおりの生徒数減からすれば極めて不透明といわざるを得ないが,この点に関して被告は特段の主張・立証をしておらず,かつ,原告らが担当する理科及び数学の総授業時数がなくなることは被告高校が閉校するような事態でも起こらない限りおよそ考えられない以上(別紙3,5参照),当裁判所としては,原告らが主張するとおり,平成18年度の雇用契約と同内容の雇用契約が,いずれも平成19年度以降も継続されるものと認めるのが相当であると解する。
4 結論
以上より,原告らの請求は理由があるのでいずれも認容し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。
新潟地方裁判所第二民事部
裁判官 谷 田 好 史