雇用契約修正への従業員の同意の要否 雇用契約を変更するにあたり、当該変更事項が「単なる労働条件の変更」なのか、あるいは、「契約の重要事項の変更」なのかを見極めることが必要です。 「単なる労働条件 の変更」とは、例えば、週単位(又は月単位)の労働時間に影響を及ぼすことなく、かつ、賃金に何ら変更が生じない範囲で、勤務時間を変更する場合がこれにあたります。従 業員のプライバシーを過度に侵害する...
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雇用契約修正への従業員の同意の要否 雇用契約を変更するにあたり、当該変更事項が「単なる労働条件の変更」なのか、あるいは、 「契約の重要事項の変更」なのかを見極めることが必要です。 「単なる労働条件の変更」とは、例えば、週単位(又は月単位)の労働時間に影響を及ぼすことなく、かつ、賃金に何ら変更が生じない範囲で、勤務時間を変更する場合がこれにあたります。従業員のプライバシーを過度に侵害する ような、特段の事情がある場合を除き、使用者は、自らの業務命令権に基づき、従業員にかかる変更を命じることができ、従業員はこれに応じる義務があります。 一方、「契約の重要事項の変更」は、使用者の業務命令権の範疇を超える変更であることから、従業員の明確な同意を得ることが必要となります。契約の重要事項はリスト化されていませんが、賃金(金額及び賃金構造)をはじめ、労働時間や職務・資格がこれに該当します。いくら労働協約又は集団協定の内容を反映させるためであったとしても、従業員の明らかな同意を得ることなく変更を加えることはできません。 一例として、2021 年 9 月 15 日付判決をご紹介します。フランステレビジョンに勤務する正社員 A は、これまで、(インセンティブなどを除き)定額制賃金の適用を受けてきました。しかし、新たに集団協定が採択されたことをうけ、基本賃金と勤続手当からなる賃金構造に移行されました。本人の同意を得ずに賃金構造を変更することは不当だとし、労働審判をおこしまし | 代理商契約の紹介および注意事項 フランス法のもと、仲介業者と位置付けられるものとして、コミッショナー(commissionnaire)、ブローカー(courtier)、斡旋・紹介(apporteur d’affaires)そしてコマーシャル・エージェント(agent commercial「代理商」)が存在します。実際、現地に営業所又は販売代理店を持たない企業が自社商品・サービスの販売に代理商を利用するのが一般的であることから、最新の判例も交えつつ、特別に法的保護の対象となっている代理商について紹介します。 1. コマーシャル・エージェント契約の特徴 コマーシャル・エージェント、つまり「代理商」の業務は、「雇用契約によらず、独立した立場で、生産者・製造者・承認・他の代理商の名義で、恒常的に交渉し、時には、売買契約または賃貸借契約または業務委託契約を締結すること」です1。つまり、代理商は、委任者と従属関係になく、独立した立場で、委任者の提供する商品・サービスの販売促進を行う自然人または法人であり2、交渉・契約は、委任者の名義で行われます。 代理商は、特定分野の市場を熟知していることから、効率よく、ターゲッ |
1 フランス商業法典第 L.134-1 条以降
2 代理商は、代理商台帳に登録することが義務付けられています(商業法典第 R.134-6 条)
た。一方、使用者は、雇用契約により年間基本賃金についての定めはあるものの、賃金構造については何ら規定しておらず、従業員の同意は不要だと主張しました。これに対し、破毀院 労働部は、「法令により別段の定めがある場合を除き、使用者は、集団協定を理由に、従業員の同意を得ずに、雇用契約を変更することは許されない」としました。なお、「法令により別段の定め」とは、集団的生産性協定(accord de performance collective, APC)を意味するものと思われます。こちらについては、 TMI ニューズレターVol.46 (xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000 0/10/TMI_vol46.pdf)に詳しく記述がございますのでご参照ください。 Covid-19 衛生パス(pass sanitaire) の有効利用 日本では、ワクチン接種証明書の積極利用について、積極的な議論が行われています。日本と同レベルのコロナワクチン接種率のフランスにおける「衛生パス」の利用状況をお伝えします。 レストラン及びバー(テイクアウトやサービスエリア・駅の食事処、ホテルのルームサービスなどを 除く)、見本市、セミナー、スポーツイベント、医療機関(救急患者を除く)及び福祉施設、公共交通機関による長距離移動(国内線、 TGV、長距離バスなど)、大型商業施設(人口 10 万人に対し感染者が 200 人未満かつ 7 日以上連続して感染者が減少している県は対象外)などの利用には衛生パスの提示が求められます。これら施設に勤務する従業員もワクチン接種が義務となりました。また、2021 年 9 月 30 日以降、12 歳から 17 歳の未xx者についても衛生パスの所持が義務付けられました。 | トとなる顧客を絞り込み、委託者の商品・サービスの販売を行い、その対価として、売上高に応じたコミッションを受け取ります。委任契約にもとづくことから、委任者からの指示があれば、独立性を損なわない範囲で、誠意ある態度で任務を全うしなければなりません3。 代理商を保護するため、法は、契約終了に関して、いくつかの強行規定を設けています。1つ目は、解約予告期間です4。代理商の重過失や不可抗力事態という特段の事情がない限り、代理商契約の期間により、下記の通り、解約予告期間が決まっており、これを下回ることはできません。 - 1年継続した場合は1か月 - 2年継続した場合は2か月 - 3年以上継続した場合は3か月 2 つ目は、解約時の補償金です5。代理商契約による顧客は、代理商の顧客ではなく、委任者の顧客であり、契約終了に伴い、代理権を失うことになる代理商の損害を補償することを目的として、委任者は、代理商に対して補償金を支払うことになります。判例および商慣習により、代理商が 2年間受け取るコミッション相当額が、妥当な金額と認識されています。代理商は、契約終了から 1 年以内に、補償金の支払を請求しなければならず、代理商のイニシアティブまたは重過失により解約された場合、補償金は不要です。 3 つ目は、競業避止義務に関するものです6。代理商に対して、契約終了後も競業避止義務を課すのが一般的です。書面による合意が必要で、代理商契約の対象地域および特定の顧客層、並びに、取扱い商品・サービスに限定され、契約終了から 2 年を超えて競業行為を禁じることはできません。なお、雇用契約にもとづく競業避止義務とは異なり、金銭補償は不要です。 1986 年 12 月 18 日付 EU 指令(86/653/CEE)により、加盟各国において、代理商にかかる法規制の調和が図られてきました。その意味で、当該指令の解釈について欧州司法裁判所が示した見解は、フランスをはじめとする EU 各国の判例の動向を左右する重要なカギを握ります。フランスの破毀院が判例変更を余儀なくされた事案をご紹介します。 |
3 商業法典第 L.134-4 条 4 商業法典第 L.134-11 条 5 商業法典第 L.134-12 条 6 商業法典第 L.134-14 条
2. 代理商認定基準についての欧州司法裁判所の判決
代理商契約か否かを判断するうえで一番重要な要件は、「(委任者の名義で)交渉すること」です。交渉における代理商の権限の範囲について、破毀院は、「(委託者の提供する)商品・サービスの価格を変更できる権限」が不可欠だという立場を貫いてきました。つまり、代理商は、顧客との交渉において、臨機応変に、自らの裁量で、委託者の当初示した価格とは異なる価格を相手方に提案できる権限を有するものとされ、価格変更権が認められていない者に対して、代理商の身分を否定していました。これは、「交渉権」の内容に制限を設ける解釈であることから、パリ商業裁判所は、先決裁定手続により、前述指令の解釈を欧州司法裁判所に仰ぎました。
欧州司法裁判所は、2020 年 6 月 4 日付判決7において、「代理商の主要任務は、委託者の新規顧客を開拓すること、そして、既存顧客との関係では、取引をより一層活発化させること」であり、的確な情報・アドバイスを顧客に提供し、根気よく交渉を続けることにより契約の締結は可能であり、「販売商品の価格を変更できる権限を有していることは必ずしも必要ではない」との見解を示しました。つまり、代理商の要件は、①独立した立場で、②(一時的ではなく)恒常的に委託者の名義で、③委託者の商品販売・サービス提供について交渉し契約の締結に努めるが、価格変更権の有無は問わない、となります。
3.フランス破毀院による判例変更及び再度の判例変更をうかがわせる2つの判決
破毀院は、約半年後の 2020 年 12 月 2 日、欧州司法裁判所による法律解釈を文字通り引用し、「上告人は、価格を変更する権限を持たず、よって、委託人の名義・利益のために交渉する立場にはなかったなどと判断した控訴審は、商業法典第 L.134-1 条の解釈を誤った」とし、差し戻しました8。代理商であったことが認定されれば、委託者は、解約に伴う法定補償として、2 年間のコミッション相当額を支給する義務があります。価格変更権を持たないことのみを理由に代理商とみなされなかった仲介業者にとって、今回の判例変更は大きな意味を持ちます。
しかし 2021 年早々、破毀院は上記判例と矛盾するかのような 2 つの判決を下しました9。まず、2021 年 1 月 27 日付判決において、「委託者の販売規約や料金体制について決断を下せない仲介業者は(中略)交渉権を有しているとは言えず、ブローカーとして行為しているだけである」と判断を示しました。また、同年 2 月 10 日付判決では「ただ単に、潜在的顧客の要望・情報を委託者に伝達する行為は斡旋・紹介にしかすぎず、『交渉』ではない」と述べました。欧州司法裁判所の定義する「交渉」と破毀院の定める「交渉」の中身には大きな隔たりがあることが再認識され、今後の判決を注視する必要があります。
4. 代理商契約が雇用契約とみなされるリスク
代理商台帳に登録されている自然人は、委託人とは雇用関係にないことが法律上、推定されます10。しかし、労働審判を起こし、使用従属性および指揮管理権の存在を証明することにより、雇用関係にある(あった)ことを主張することは可能です。
7 欧州司法裁判所 2020 年 6 月 4 日(C-828/18)「Trendsetteuse SARL 対 DCA SARL 事件」
8 破毀院商事部 2020 年 12 月 2 日付判決(18-20.231)
9 破毀院商事部 2021 年 1 月 27 日(18-10.835)及び 2021 年 2 月 10 日付(19-13.604)判決
10 労働法典第 L.8221-6 条。代理商のほか、自営業だと URSSAF(社会保障・家族手当保険料徴収連合)に届け出のある者や手工業者名簿に登録されている者も同様です。
裁判官は、様々な客観的事実を総合的に分析し、当事者らの意図を探るプロセスを踏み、雇用関係の存否について個別具体的に判断します。雇用関係を裏付ける事実として、独立性の欠如、委託者の定める勤務時間・方針の順守、報告義務の有無、チームへの統合、パソコンなどのツールの供与、会社メールアドレス・名刺の使用、休暇申請制などが、総合的に考慮されることになります。最終的に、雇用関係にあったと評価された場合、代理商契約の解約ではなく、不当解雇事件として処理され、未払賃金、退職金、損害賠償請求の対象となりますので、注意が必要です
外国人労働者の就労許可:EU ブルーカードの要件緩和を欧州議会が承認しました
2009 年 EU 指令により、高資格外国人労働者に対して「EU ブルーカード」が導入されました。しかし、2019 年に行われた統計によると、EU ブルーカードの発行総数は 36,806 件にとどまり、そのほとんどがドイツ政府によるものでした。更なる活用を目指し、欧州議会は、EU ブルーカードの要件緩和を目的とする改定案を 2021 年 9 月 15 日付で承認しました。
具体的には、これまでは 12 か月の雇用期間をともなう雇用契約(又は雇用の申込)が必要でしたが、半分の 6 か月の雇
用期間に短縮されます。賃金についても、これまでであれは、対象となる加盟国の年間平均賃金(グロス)の 150 パーセ
ント相当が必要でしたが(上限無し)、改定後は、当該加盟国の年間平均賃金であればよく(年間平均賃金の 160 パーセントを超えない)、賃金要件が引き下げられました。さらに、EU ブルーカード保有者は、発給国において当初 12 か月間滞在すれば、他の加盟国への移動が認められ、また、家族呼び寄せ(regroupement familial)手続きも迅速に処理される見込みです。
この後、欧州理事会で正式に承認を受けた後、EU 官報に掲載され発効することになります。加盟各国は、公布日から 2 年以内に自国の法律を整備することが義務付けられています。
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ル ドゥサール・デヴィ (パリ弁護士会所属/東京弁護士会登録) xxブデン xx (パリ弁護士会所属) TMI 総合法律事務所 x000-0000 xxxxxxxx 0-00-0 xxxxxxxxxx00 x Email : xxxxxxxxx@xxx.xx.xx Tel : 00-0000-0000 | xx xx (パリ弁護士会所属) c/o Altana 45 Rue de Tocqueville, 75017 Paris, France Email : xxxxxxxxx@xxx.xx.xx Tel : x00(0)0 0000 0000 |
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