Contract
平成26年11月21日判決言渡
平成24年(ワ)第14721号 配転命令無効等請求事件(本訴)平成25年(ワ)第31130号 損害賠償請求反訴事件(反訴)
主 文
1 本訴原告兼反訴被告(以下「原告」という。)が,本訴被告兼反訴原告(以下「被告」という。)に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 原告が,被告に対し,本部事務局長であり,かつ,月額基本給53万円の支払を受ける地位にあることを確認する。
3 原告が,訴外P1株式会社の事務所(新宿区α-×-11β)に勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。
4 被告は,原告に対し,180万円並びにうち15万円に対する平成23年7月2
6日から,うち15万円に対する同年8月26日から,うち15万円に対する同年9月26日から,うち15万円に対する同年10月26日から,うち15万円に対する同年11月26日から,うち15万円に対する同年12月26日から,うち15万円に対する平成24年1月26日から,うち15万円に対する同年2月26日から,うち15万円に対する同年3月26日から,うち15万円に対する同年4月26日から,うち15万円に対する同年5月26日から及びうち15万円に対する同年6月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告に対し,平成24年7月25日限り14万5000円及び同年8月
25日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額53万円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成23年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求及び被告の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,本訴及び反訴を通してこれを5分し,その1を原告の負担とし,そ
の余を被告の負担とする。
9 この判決は,第4項,第5項及び第6項に限り仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
(本訴)
1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 原告が,被告に対し,本部事務局長であり,かつ,月額基本給53万円の支払を受ける地位にあることを確認する。
3 原告が,訴外P1株式会社の事務所(新宿区α-×-11β)に勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。
4 被告が平成23年6月28日付けで行った原告に対する被告本部事務所(xxx文京区δ-×-61γ)及びボクシングの試合会場への立入りを禁止する旨の業務命令は無効であることを確認する。
5 被告は,原告に対し,210万円並びに内金15万円に対する平成23年7月
26日から,内金15万円に対する同年8月26日から,内金15万円に対する同年9月26日から,内金15万円に対する同年10月26日から,内金15万円に対する同年11月26日から,内金30万円に対する同年12月17日から,内金15万円に対する同年12月26日から,内金15万円に対する平成24年
1月26日から,内金15万円に対する同年2月26日から,内金15万円に対する同年3月26日から,内金15万円に対する同年4月26日から,内金15万円に対する同年5月26日から及び内金15万円に対する同年6月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は,原告に対し,平成24年7月25日限り14万5000円及び平成2
4年8月25日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額53万円並びにこれ らに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は,原告に対し,平成24年6月30日から本判決確定の日まで,毎年6
月30日及び12月31日限り,それぞれ106万円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成23年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴)
原告は,被告に対し,1584万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日で ある平成25年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告の本部事務局長であった原告が,平成23年6月28日に本部事務局長の職を解かれる(以下「本件降格処分」という。)とともに基本給を月額
53万円から月額38万円へと減額され(以下「本件減給処分」という。),さらに勤務場所をP1株式会社(以下「P1」という。)の事務所(xxx新宿区 α-×-11β所在。以下「P2事務所」という。)とする旨の配転命令(以下
「本件配転命令」という。)を受けるなどし,本件提訴後の平成24年6月15日付の懲戒解雇処分(以下「本件懲戒解雇処分」という。)により被告を解雇された上,本件訴訟に係る平成25年4月23日の第7回弁論準備手続期日において,本件懲戒解雇処分の懲戒解雇事由の追加及び当該懲戒解雇事由を理由とする新たな懲戒解雇処分(以下「第二次懲戒解雇処分」という。)を受けたため,これらの処分又は命令の無効等を主張して,被告に対し,前記第1の本訴に係る各請求をし,他方,被告は,本件懲戒解雇処分までの間における原告による職務専念義務,秘密保持義務,競業避止義務等に違反する行為により被告が損害を被った旨主張し,原告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,前記第1の反訴に係る損害賠償請求をした事案である。
1 前提事実(争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨による認定事実)
(1) 当事者等ア 被告
被告は,日本のプロボクシングを統括する機関であり,主にプロボクシングに関する規則の制定,プロボクシングの試合の管理,プロボクシング選手の健康管理,国際ボクシング団体への加盟及び国際交流の推進等の業務を行っている。被告には,xxx文京区所在の本部事務所,大阪市所在のP3事務所,福岡市所在のP4事務所及び札幌市所在のP5事務所の4つの事務所があり,本部事務局又は地区事務局が設けられ,平成23年6月当時,これらの事務局に合計14名の職員が在籍していた。なお,本部事務局には,本部事務局長である原告並びに職員であるP6,P7,X0(戸籍上の姓はP
9)(以下「P8」という。),P10,P11,P12及びP13の合計
8名が在籍していた。(甲1,弁論の全趣旨)イ 原告
原告は,平成2年ころに被告にアルバイト職員として採用された後,平成
6年1月,被告にxx職員として採用された。その後,平成10年2月28日に新設された国際部長に就任し,平成17年2月28日には事務局次長に,平成18年4月1日には本部事務局長にそれぞれ就任した。また,原告は,平成19年2月28日,被告理事に就任した。(争いなし)
原告は,本部事務局長に就任すると同時に,P14の理事及びランキング委員に,P15の理事及び資格委員会委員にそれぞれ就任し,いずれもスーパーバイザーとして諸外国での多数の世界タイトルマッチの立会業務に従事し,また,平成21年11月には,P14の事故調査委員会委員長に,P1
6の共同会長,事務局長及びランキング委員にそれぞれ就任した。(争いなし)
(2) 怪文書の送付等
平成23年4月18日,原告を誹謗中傷する内容の匿名の怪文書(乙4(xxを含む。)。以下「乙4の怪文書」という。)が全国のボクシングジム及び被告の各事務所あてに送付された(争いなし)。
そして,平成23年5月9日,「P17東京試合役員・事務局員合同調査委員会(幹事 P11・P8)」を作成者とし,被告のP18代表理事(以下「P
18代表」という。)を名宛人とする「調査報告書」と題する書面(乙5)が提出された(以下,この書面を「通告書」という。)。通告書では,原告に関して勤務懈怠や不正経理などに当たる行為を含む業務上の問題点があるとの指摘がされていた。(乙5)
(3) 被告による調査委員会の発足
平成23年5月12日,被告の専務理事であるP19は,各地区事務局長,職員及び東京試合役員会会長のP20を本部事務局に集め,通告書の内容について調査するための調査委員会を改めて設置することなどを説明した(乙23
8)。
平成23年5月16日,被告は,被告の組織内弁護士であるxxxx弁護士
(以下「xx弁護士」という。)を事務局長とし,外部の弁護士であるxxx弁護士(以下「堤弁護士」という。),P21弁護士を含む有識者5名で構成された調査委員会(以下「本件調査委員会」という。)を設置して,原告に関する不正経理問題等の調査を実施することを決めた(争いなし)。
(4) 新団体の設立表明等
平成23年5月31日,被告の一部職員が,被告に無断で公益通報と称して原告に関する不正経理問題について記者会見を行った(争いなし)。
平成23年6月23日,被告の理事であるP22は,記者会見を行い,被告に代わって国内試合を統括する新団体を設立する意向を表明した(争いなし)。
(5) 本件調査委員会による調査結果
本件調査委員会は,1か月以上の期間を費やして,経理関係書類の精査及び関係当事者からの事情聴取等の綿密な調査を行った。そして,平成23年6月
28日,本件調査委員会は,調査結果概要として,①不正経理を通じて横領行為や背任行為に及んだとする事実,②情実により権限を濫用して女性職員を不
正に採用した事実,③本部事務局員の女性職員に対し程度を越えて親密に接し事務局長としての体面を汚した事実,④執務上の職務を懈怠し,又は職場を離脱したり職務を放棄したとの事実はいずれも認められないとの調査結果を公表した。同時に,本件調査委員会は,原告には部下に対する接し方に行き過ぎが認められ,①有給休暇を認めてしかるべきところを判断を誤り欠勤扱いとしたこと,②不十分な説明に基づく雇用契約上の不利益変更を行ったことは,不相当であったと認めざるを得ないところとした。(争いなし)
(6) 原告に対する本件降格処分等
被告は,本件調査委員会の調査結果を受けて,原告に対し,管理者として不十分な点があるとして,平成23年6月28日付で本部事務局長の職を解く(本件降格処分)とともに,原告の基本給を月額53万円から38万円へと減額する旨の意思表示(本件減給処分)をした。そして,被告は,平成23年6月末ないし7月初めころ,原告に対し,原告の勤務場所をP1のP2事務所とする旨の本件配転命令をした。(争いなし)
平成23年6月28日,P22が本部事務局長に就任した(争いなし)。
(7) 原告の提訴及び被告による懲戒解雇
原告は,平成24年2月6日,専務理事であるP23(なお,P23は,平成25年7月1日付でP18代表とともに被告の代表理事に就任している。)及びxx弁護士と面談し,同月10日にはP22と面談して,一日も早く本部事務局での勤務に戻り,通常の業務を行わせてほしい旨訴えた(争いなし)。平成24年3月13日付示達により,被告の職員の配置転換が行われたが, 原告は,被告の本部事務局内のいずれの部署にも属さず,ただ一人「特命事項」担当とされ,他方,P20が被告の職員として採用されると同時に本務事務局
の次長となり,また,P8は,xxに昇格した(争いなし)。
平成24年5月24日,原告は,被告に対し,本部事務局長であり,かつ,月額基本給53万円の支払を受ける地位にあることの確認,原告がP2事務所
に勤務する雇用契約上の義務のないことの確認,平成23年6月28日付の業務命令が無効であることの確認,月額基本給の差額の支払等を求める訴えを提起した(請求の趣旨変更前の本件訴訟)。
平成24年6月15日,被告は,原告に対し,解雇通知書(甲17)を郵送し,同日付で本件懲戒解雇処分をした(争いなし)。
そして,被告は,平成25年4月23日の本件訴訟に係る第7回弁論準備手続期日において,被告準備書面(7)を陳述する方法により,原告に対し,同書面で本件懲戒解雇の理由として追加して主張した事由を懲戒解雇事由とする第二次懲戒解雇処分を予備的に行った。
平成25年11月26日,被告は,原告に対し,本件反訴を提起した。
(8) 懲戒解雇処分に関する就業規則の定め
被告の就業規則には,懲戒解雇の事由につき,次の定めがある。
第55条 次の各号の一に該当するときは,懲戒解雇を行う。(後略)
① (略)
② xx不良,勤務怠慢又はしばしばP17の諸規則に違反し,事務所内の風紀秩序を乱したとき
③ 他の職員に対し辞職を強要し,又は他人の業務遂行を妨げたとき
④ 著しく自己の権限を越えて,独断の行為があったとき
⑤ (略)
⑥ 業務上の重大な秘密を他に漏らし,又は漏らそうとしたとき
⑦ 許可を得ずに他に雇用され,又は営業したとき ~⑩ (略)
⑪ 故意又は重大な過失によりP17に損害を与えたとき
⑫・⑬ (略)
⑭ 不正の行為をしてP17の名誉を汚したとき
⑮ 職務上の地位を利用し営利行為もしくは特定の第三者の利益にあたる行為
をしたとき
⑯・➃ (略)
⑱ その他前各号に準ずる程度の行為があったとき
2 争点
(1) 本案前の争点
本部事務局長たる地位の確認及び本件業務命令(本部事務所及びボクシングの試合会場への立入りを平成23年6月28日以降一切禁じるとする業務命令をいう。以下同じ。)が無効であることの確認を求める各利益について
(2) 争点
ア 本件降格処分の有効性(争点1)イ 本件減給処分の有効性(争点2)ウ 本件配転命令の有効性(争点3)エ 本件業務命令の有効性(争点4)
オ 不法行為の成否及び損害の有無(争点5)カ 本件懲戒解雇処分の有効性(争点6)
キ 第二次懲戒解雇処分の有効性(争点7)ク 賞与請求の可否(争点8)
ケ 賃金請求の範囲(争点9)
コ 原告の債務不履行又は不法行為の成否及び被告の損害の有無(争点10)
3 本案前の争点(本部事務局長たる地位の確認及び本件業務命令が無効であることの確認を求める各利益について)に対する当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 本部事務局長たる地位の確認の利益について
原告がこれまで築いてきたプロボクシング渉外業務担当者としてのキャリアを今後も継続し,かつ,国際的な人脈を活かし,再び日本のプロボクシングの国際化に貢献し得る業務に取り組むために,また,原告が事務局長就任
以来特に重点的に取り組んできた暴力団排除等の業務を再び積極的に推進していくために,早期に本部事務局長の職務に復帰する必要がある。
被告において,事務局長という職位は,その職位に基づいて付与される賃金体系,手当,旅費等の待遇上の階級を表す地位というべきものであり,また,その職務内容・権限についても,被告の寄付行為,ルールブック,就業規則上,他の職員にxxxxxの権限が数多く規定された職位であり,被告における単なる一ポストではない。
これらのことからすると,単に降格による賃金減額分の差額を求めるだけでは,本件降格処分により原告が職務内容及び待遇面で被った甚大な不利益は回復されず,紛争の抜本的な解決は図れないから,本部事務局長としての地位にあることを確認すべき利益がある。
イ 本件業務命令が無効であることの確認を求める利益について
原告は,本件業務命令により,試合管理に関わるすべての業務から完全に排除され,そのため,原告は,試合役員手当を受ける権利を剥奪されており,経済上の不利益を被っている。被告において試合会場への出入りを禁じられることは,被告の中枢業務に携われないことを意味し,原告のキャリアを積む機会を失われ,不利益が極めて大きいから,このような甚大な不利益を回復し紛争の抜本的解決を図るために,本件業務命令が無効であることの確認を求める利益がある。
(2) 被告の主張
原告の主張は,否認し,又は争う。
ア 本部事務局長たる地位の確認の利益について
本件降格処分による賃金の差額確認を求めるだけで足りない理由についての合理的な説明はされていない。およそ,労働者の労働義務は義務であっても権利ではなく,使用者に労働受領義務はない。原告の主張する仕事は,職場における組織ないし人格的な受容に依存せざるを得ないところ,原告は被
告の職場から人格的な受容を拒絶されている。事務局長職への就業請求権は認められないから,原告が被告の事務局長としての地位の確認を求める本訴は確認の利益を欠き,却下を免れない。
イ 本件業務命令が無効であることの確認を求める利益について
仮に被告が原告に対し本件業務命令を発したとしても,本件業務命令が原告の権利又は法的地位に影響を与えるということはなく,また,原告が本件において主張する不法行為の成否によって業務命令の適否も評価し尽くされるから,本件業務命令の無効を確認する利益は存しない。さらに,被告は,職員に対し必要に応じて試合会場への臨場を命じるものであり,原告にこれを命じる義務等はないから,本件業務命令の無効確認を求める利益はない。
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件降格処分の有効性)ア 原告の主張
(ア) 本件降格処分の性質が懲戒処分であり無効であること
本件降格処分は,通告書に記載された事実関係を確認し,原告に対する被告としての「処分」につき意見を徴することを目的に設置された本件調査委員会が認定した事実に基づいてされたものであり,既に行われた5%の減給1か月及び停職1か月という2回の懲戒処分と同一の事実及び同一の目的でされた処分であることは明らかである。
就業規則上,降格は懲戒処分の種類として規定されていないから,本件降格処分は,就業規則上の根拠を欠き当然に無効である。また,同一事実について三度にわたり重ねてされた処分であり,手続的に極めて重大な瑕疵があるから,本件降格処分は,違法かつ無効なものである。
(イ) 人事権の濫用として無効であること
仮に本件降格処分が人事権の行使によるものだとしても,本件降格処分は,以下のとおり,極めて不当な動機・目的の下で行われ,また,その処
分理由に比して処分内容も原告に極めて大きな不利益を与えるものであるから,人事権を濫用するものであることは明らかである。
a 不当な動機,目的の存在
本件調査委員会による調査では原告について不正行為はないとの結論に達したにもかかわらず被告が本件降格処分を行ったのは,過度に組織防衛を優先し,P20,P22らによる試合役員の大量離脱を伴う新団体設立を盾とした理不尽な要求を受け入れたためであり,原告を降格させるべき正当な理由は存在しなかった。
乙4の怪文書を端緒として始まった混乱と外部からの被告への不信感の原因は乙4の怪文書及び通告書にあるところ,本件調査委員会の上記認定にもかかわらず原告の行動を「不祥事」とするのは論理矛盾である。本件降格処分は,本件減給処分,本件配転命令及び本件業務命令と一 体となって,原告を退職に追い込むという不当な動機及び目的の下に行
われたものであることは明らかである。
b 認定事実が本件降格処分の正当な理由となり得ないこと
本件調査委員会の調査結果で認定された,①有給休暇を認めてしかるべきところを欠勤扱いとしたこと及び②不十分な説明に基づき雇用契約の不利益変更を行ったことの2点のうち,①については,原告が社労士と相談の上で行ったものであり,②については,本人の了解を得て実質的には従前の雇用契約の継続を前提としつつ雇用期間に一定の期限を設けることとしたものであり,本件調査委員会においても契約の変更に教育的効果を期待するのは行き過ぎと言わざるを得ないと認定されたにすぎないから,いずれも,本件降格処分の正当な理由になり得ない。
c 比例原則違反
本件降格処分は,本件減給処分を伴っていること,渉外業務担当者としてのキャリアや国際的信用を失うという重大な不利益を被ったこと,
本件降格処分後に立て続けに本件業務命令及び本件配転命令がされて物理的にも精神的にも原告が追い込まれたことから,処分理由に比して極めて重い内容の処分であり,比例原則の観点から違法というべきである。
d 小括
本件降格処分は,新団体設立を盾とした理不尽な要求を突きつけられた被告が,原告の事務局長職を解くという結論先にありきで,後の本件減給処分,本件配転命令及び本件業務命令と一体となって原告を退職に追い込むという不当な動機及び目的でされたものである。そして,本件降格処分の理由自体も,重大な不利益が生じる処分の実質的な理由になり得ず,比例原則の観点から社会通念上著しく妥当性を欠く。よって,本件降格処分は,明らかに人事権の濫用にあたり無効である。
(ウ) 手続の違法性
被告は,原告に対し,本件降格処分に先立ち,平成23年4月下旬に5%の減給1か月の処分を下しながら(乙17),後日,これを撤回した上,同年5月9日には停職1か月の処分を行い(甲20),更に,これに重ねて同年6月28日に本件降格処分を行った。このように,本件降格処分は同一の事実に基づいて三度にわたり重ねてされた処分であるから,仮に本件降格処分が人事権の行使によるものであったとしても,一事不再理の原則に反し,手続的にも極めて重大な過誤がある。
イ 被告の主張
(ア) 人事権の適切な行使であること a 原告の不祥事と社会的影響
乙4の怪文書で指摘されている関西事務局の女性職員との懇ろな関係が強く推認される原告の不適切行為は,ボクシング関係者の広く知るところとなり,原告に反発した試合役員会並びに被告職員は事実の究明と原告の解雇を要求し,P24は遅くとも平成23年6月23日には原告
が被告に留まる限り被告の関与のもとではボクシングの試合を行えないとして新団体設立のための理事会決議を行うなど,一つの社会的問題にまで発展した。
b 原告によるパワーハラスメント
原告は,平成18年4月以降平成23年6月にその職を解かれるまで本部事務局長として職員に対して極めて優越的地位にあったところ,P
10,P8及びP13に対し,本部事務局長という立場を背景として,上長としてあるまじき行為を行い,その結果,P10に至っては適応障害を発症するほどのストレスを抱えるに至ったから,原告のこれらの行動は,パワーハラスメントを含むものである。
原告がP10を欠勤扱いとしたことは労働基準法上の権利を侵害するものであり,また,原告が被告とP10との労働契約期間を1年更新としたことは労働者の地位を不安定にするものであるから,いずれもパワーハラスメントに他ならない。
c 原告の事務局長としての資質の喪失
原告は,パワーハラスメント行為や乙4の怪文書で指摘された女性職 員との関係を巡る問題など不適切な行動を通じ,更にはこれに対する社 会的非難を通じて,被告の事務局,試合役員会,ボクシング協会,ボク シングジム等に対するリーダーシップを喪失した。原告が従前からxx xxxxxを喪失していたからこそ乙4の怪文書に至ったと考えられる。そして,被告内部の統制と組織の掌握に失敗し,かつ,被告の信用を毀 損したことに照らすと,原告はもはや事務局長としての資格を備えてい ないものと認められた。
d 降格処分の正当性
原告が事務局職員,試合役員会等の信頼を失った原因は,乙4の怪文書に写っている「不適切な行動」等の不祥事を起こした原告にあり,ボ
クシング界に属する人々の被告に寄せる信用を裏切り,ボクシング界を混乱に陥れたことについて原告には責任がある。
被告は,本件調査委員会の調査結果のほか,事態を一日も早く鎮静化しなければならないという業務上及び組織上の強い必要性,原告の日頃からの言動,自ら招いた不祥事であること等の諸事情を勘案して,原告に対しては降格処分をもって妥当であると判断したものである。
被告は,原告を追放することを目的としたことはなく,原告を解雇せよとの外部からの要求があったが,諸般の事情を斟酌して降格処分にとどめたのであり,原告は,これを理解していたから本件降格処分に従うと明言したのである。降格処分後の原告の処遇にはそれぞれ必要性と正当な理由があり,本件降格処分と一体的なものではない。
(イ) 本件降格処分は,被告における人事権行使の結果である。懲戒処分として行われた旨の原告の主張は,否認する。
(ウ) 手続の違法
被告は,原告に対し,5%の減給1か月の処分も停職1か月の処分も下 していない。もっとも,被告は,原告に対し,平成23年5月9日に1か 月間の休職を命じたが,本件調査委員会の調査を円滑に行うためであって,原告に対する懲戒処分ではない。
(エ) 比例原則違反
減給は事務局長としての職位の解職に伴う当然の結果であり,また,従前担当していた業務から外れることは人事異動に常について回る類のことである。原告は,本件降格人事が調査報告書の内容のみに依拠しているかの如く主張するが,被告は,原告の行為によって被った社会的悪影響を考慮の対象にして本件降格処分をしたのであり,「実質的理由になりえない」旨の原告の主張は理解できない。
(2) 争点2(本件減給処分の有効性)
ア 原告の主張
(ア) 本件降格処分自体が違法である以上,これを前提とする本件減給処分も当然に無効である。
(イ) 被告は,就業規則及び賃金規定のいずれにも役職手当が存在しないこと及び賃金規定3条により本件での事情を勘案してP18代表の裁量により減額したことを認めているが,給与額を就業規則の具体的な定めによらず,かつ,労働者の同意なしに一方的に不利益に変更することは労働契約上許されない。
被告は何ら客観的基準によらず恣意的に約3割もの減給処分を断行し,通常受忍すべき程度を著しく越える不利益を原告に課した。なお,原告の事務局長就任前の月額基本給は49万円である。
(ウ) 原告は,給与額38万円とする雇用契約書(甲18)に署名押印を求められた際に給与額について不服を申し入れた上でこれを拒否しており,原告及び被告間で38万円への減額について合意はされていない。また,平成23年7月以降,原告が毎月38万円の給与を受領し続けたことが黙示の承諾に当たらないことは当然である。
イ 被告の主張
(ア) 賃金規定第3条は,特に基準となる給与テーブル等を定めていない。 就業規則及び賃金規定が制定された当時の事務局長は原告自身であり,
賃金規定第3条に基づいて,事務局長に支給される月額給与を53万円とすること及び被告における職員の月額基本給の最高額を38万円とすることを決定したのは事務局長当時の原告である。
そうすると,53万円と38万円との差額の15万円は,事務局長職に与えられる役職手当と解されるところ,原告は,事務局長から事務局職員に降格したのであるから,役職手当を受給する根拠を失い,月額基本給が
38万円となったのである。
(3) 争点3(本件配転命令の有効性)ア 原告の主張
本件配転命令は,次のとおり,およそ合理的な業務上の必要性はなく,原告を孤立させて自主的な退職に追い込むという不当な動機及び目的をもってされたものであり,裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であり無効である。 (ア) 業務上の必要性がないこと
本件配転命令による配転後の勤務場所は,被告と業務上何ら関係のない P1のP2事務所であり,原告は,平成23年7月以降,一日中誰とも会話することなく,いわば「存在しない人間」として扱われていた。原告には,表面上は一般財団法人又は公益財団法人への移行手続に関する業務が与えられていたが,同業務をP1のP2事務所で行うべき業務上の必要性は全くない。
(イ) 不当な動機及び目的が存在すること
被告は,原告を周囲の者からの好奇の視線に晒して,やがて職場にいたたまれなくさせ,退職に追い込むという不当な目的をもってあえて被告と業務上全く関係のないP1のP2事務所での勤務を命じたものである。
イ 被告の主張
(ア) 業務上の必要性があること
一般財団法人又は公益財団法人への移行手続に関する業務の遂行は,原告に対し,特別な任務として割り当てられたものであり,弁護士に当該業務の推進に関する助言及び指導を委任したからといって原告の任務が解かれるものではない。原告は,当該任務について十分理解し,平成23年9月から平成24年2月28日にかけて,弁護士との打合せ,資料のやり取りを行い,被告の公益法人化に関する情報の共有に努め,その後,理事会決議をもって一般財団法人化の方針をとることになったが,これらの業務は,原告が主張するほど容易な業務ではなく,平成24年3月13日付示
達で原告の担当とされた「特命事項」につき,何をすべきかを原告は十分理解していたはずであり,原告に対して特に指示する必要はなかった。
(イ) 不当な動機及び目的がないこと
本件配転命令は,本件調査委員会の調査により原告が事務局長として部下に対して不適切な言動をとっていたことが明らかになったことに加え,原告を事務局長とする体制に対する業界関係者の不信感を払拭する必要に迫られていたことから行ったものである。事務局職員がリーダーシップを失った原告に対して好感を持たず,共に仕事をすることに不快感を抱くようになっていたこと等に照らせば穏当な処分である。
勤務場所が離れているからといって原告が自由に通信をおこなうことができないわけではないし,被告との行き来を禁じたわけではないから,P
1のP2事務所にただ一人隔離された旨の原告の主張は穏当を欠く。
(4) 争点4(本件業務命令の有効性)ア 原告の主張
原告は,本件業務命令により,平成23年6月28日以降,本部事務所及びボクシングの試合会場への立入りを一切禁じられた。そのほか,原告は,本件降格処分以降,本部事務局で行われるすべてのミーティングからただ一人除外され,さらに,同年8月6日以降,本部事務局の職員全員が参加している業務連絡用のメーリングリストからただ一人除外された。そして,平成
24年3月13日付示達により,原告は,ただ一人いずれの部課からも排除された。このような差別的取扱いからしても,本件業務命令は,原告の名誉権及び人格権を侵害し,職場内外で孤立させ,勤労意欲を失わせ,やがては自主的な退職に追い込む不当な動機及び目的をもってされたものであり,裁量権の範囲を逸脱し無効である。
本件業務命令により,原告は,試合管理に携わる職員に対して支給される試合役員手当を受ける権利を剥奪されており,経済上の不利益を被っている。
また,試合会場への立入りを禁じられることは,原告のボクシング業務に係るキャリアを積む機会を失うことになり,不利益が甚大である。なお,被告は要請にすぎない旨主張するが,使用者から労働者に対して立ち入るなとの指示がされた以上,業務命令であることは明らかである。
x 被告の主張
被告が原告に対して,本部事務所及びボクシングの試合会場への立入りを禁じたことはなく,原告主張に係る業務命令は存在しない。
原告は,P6,P7及びP30らとおびただしい数のメールをやり取りしているから,被告の他の職員らと全く接触ができない孤立した状態に置かれた旨の原告の主張は虚偽である。
また,被告は,P25及びP26から原告の試合会場への立入りを拒否されたが,これは,女性問題により噴出したボクシング業界の原告に対する不信感の現れであり,原告がかかる不信感を払拭する努力を一切しなかったから,被告としては,原告に試合会場への立入りを控えるよう要請するほかなかった。
(5) 争点5(不法行為の成否及び損害の有無)についてア 原告の主張
本件配転命令は,社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の濫用に当たるものであり,原告の人格権(名誉)を侵害し,職場内外で孤立させ,勤労意欲を失わせ,やがて退職に追い込む意図をもってなされたものであり,その結果,原告は,うつ病の精神疾患を罹患するに至っている(甲16)。
このような違法な本件配転命令等が不法行為を構成することは明らかであり,これにより原告が被った精神的損害を金銭に評価すれば,500万円はくだらない。
x 被告の主張
原告がうつ病に罹患していることは不知。その余の原告の主張は,いずれ
も否認し,又は争う。
本件配転命令に違法性はなく,本件業務命令は存在すらしない。また,原告がうつ病に罹患したことの立証はない。したがって,被告による加害行為が存在しない上に損害の発生も存在しないから,原告の被告に対する損害賠償請求が認められないことは明らかである。
原告は,メール等を利用して活発に被告の組織を壊乱する行為を繰り返しており,精神疾患に罹患していたはずがない。また,仮にうつ病に罹患していたとしてもそれは原告自身の行為に起因するものであり,被告に責任転嫁することは許されない。
(6) 争点6(本件懲戒解雇処分の有効性)についてア 被告の主張
原告は,P22を本部事務局長から追い落とし自らが事務局長に復権するために被告内部を壊乱しようと考えて,以下の懲戒解雇事由に該当する行為を繰り返した。これらはそれぞれ独立しても十分に懲戒解雇事由となるが,全体的に評価した場合は,被告組織内部の秩序を壊乱する行為として懲戒解雇事由といえる。
(ア) 別組織の立ち上げ
原告は,元マネージャーであったP27,ボクサーであるP28,元マッチメーカーであったP29,P6及びP7並びに被告P3事務局職員の P30と共謀し,平成23年9月30日から平成24年2月にかけて,職務上の地位を利用して,被告とは別のボクシングタイトル付与の団体(「P
31」なる名称を予定。)を設立し,共謀者のそれぞれがP31の活動を利用して利益を図ることを目的として,将来P31が設立された上は事業において被告と競合し,被告の利益を損なうことを知りながら,①IBF
(国際ボクシング連盟。ボクシングの世界王座認定団体の一つ)の協力,支援を得ようとして接触を保ち,②P31に関係する会社としてプロボク
シングその他競技格闘技等のマネジメント等を営むことを目的とする合同会社(P32)設立のための定款案を作成し,③P31の平成24年1月
1日から同年12月31日までの会計年度の収支予算を試算するなどして,被告とは別組織の設立を具体化しようとした。この行為は,就業規則55 条15号の懲戒解雇事由に該当する。
P24による新団体設立の試みは現実化していなかったことが明らかであり,加えて,平成23年6月ころ,ボクシング業界は,乙4の怪文書に始まる騒動の最中であって,試合役員が試合管理をボイコットするなどの危険が予測できたことから,やむなく試合管理だけを行う暫定的団体を設立せざるを得ないということでP22が記者会見を行ったものであり,被告の試合管理に特段の問題が生じていない状況下で別組織を立ち上げようとした原告らのもくろみとは性質が異なる。
(イ) 情報の漏洩
原告は,P6,P7及びP30と共謀し,平成23年9月26日にP2
9に対して被告が管理しているボクサーのP33選手の個人情報(ライセンス情報及び受診履歴)を開示し,P27からの依頼に応じIBFランキング委員会の情報として提供するため,同年12月27日,平成24年1月16日及び同年2月3日にボクサーの戦績をP27に開示するなど,被告の内部情報を第三者に開示した。これらの行為は,就業規則55条6号の懲戒解雇事由に該当する。
なお,仮にP29がP34の代理人であれば,同ジムの所属選手の個人情報を知らないのは不自然であり,P6が同選手の安全に関わる問題を発見し,その安全を確保する必要があるのであれば,P22に報告するなどした上で被告として必要な処置を行えば足りる。また,当時,被告は,I BFに加盟していなかったから,被告の管理する戦績表をIBFに提供する前提でP27に送付することは,被告の業務上の秘密を他に漏洩したこ
とにほかならない。
P6は原告,P7及びP30に対しても上記メールを送信しているから,上記情報の漏洩は原告らの共同の意思によるものと評価することができる。
(ウ) 独断の行為
原告は,平成23年11月29日から平成24年2月にかけて,P29, P6,P7及びP30と共謀し,平成23年11月29日に独立行政法人国際観光振興機構(以下「日本政府観光局」という。)から,IBFが被告と接触したいと希望している旨の連絡があったことを本部事務局長のP
22に伝達せず,P6をしてあたかも被告の窓口であるかのように装わせ,爾来,同人をしてP31が設立された後はIBFと協調して事業を展開するための準備行為としてIBFと通信及び接触をせしめた。この行為は,就業規則55条4号の懲戒解雇事由に該当する。なお,P22は,平成2
3年12月28日のP6との昼食会では,IBFから日本で会議をしたいとの連絡があった旨を言及されただけで,具体的なやり取りは全く知らされていない。
(エ) 組織,秩序の壊乱
上記各行為は,別団体又は会社を設立することによって被告の組織を弱体化させるとともに被告内部の秩序を壊乱し,ガバナンスを崩壊せしめ,その事業において被告と競合することを意図して行われた一連の行為であり,全体として就業規則55条11号及び18号の懲戒解雇事由に該当する。
(オ) 懲戒解雇事由の追加
被告が懲戒解雇事由として主張した前記各事実は,原告が被告の組織の弱体化,内部秩序の壊乱及びガバナンスの崩壊を意図して行った一連の行為であるところ,以下の各事実は,本件懲戒解雇処分の時点において被告が非違行為と認識せず,少なくとも理由として表示していなかったもので
あるが,これらの事実も上記と同様の意図の下に行われた行為であり,これまでに主張した解雇事由と,動機,時期,原告ら関係者,手段,行為の内容において共通するものであるから,本件懲戒解雇処分の解雇事由として追加することが許されるべきである。
a 第9号公益通報及び第10号公益通報
原告及びP6は,共謀の上,被告のガバナンスの弛緩を吹聴することなどを目的として,①平成23年9月27日,平成5年8月ころにP1
9が詐欺,背任,業務上横領にあたる行為を行ったとする虚偽の事実に基づく公益通報(以下「第9号公益通報」という。)を,内容が虚偽であり,かつ,かかる公益通報がP19及び被告の利益を害することを知りながら行い,また,②平成23年11月7日,P23及びP22が当時関西地区試合役員であったP35に対し,不正な利得を与えていたことが背任罪に当たる旨の虚偽の公益通報(以下「第10号公益通報」という。)を,内容が虚偽であり,かつ,かかる公益通報がP23,P2
2及び被告の利益を害することを知りながら行った。これらの各行為は,就業規則55条2号,11号又は18号の懲戒解雇事由に該当する。
原告は,第9号公益通報の原案を,P6の名で作成し,又はP6が作成した原案を入念にチェックする方法でP6と共同して作成したものであり,第9号公益通報は,原告の意思に基づき,原告が主導的役割を担い,P6,P7及びP30と共謀の下に行われたものである。
また,第10号公益通報の通報者はP6であるが,原告が第10号公益通報の作成と提出に主導的な役割を担っていたことは明らかであり, P6,P7及びP30との共謀の下にP23及びP22を犯罪者とする組織壊乱行為として第10号公益通報を行った。
b 文部科学省への告発等
原告は,P6,P7,P29及びP30と共謀の上,被告の主務官庁
である,文部科学省(以下「文科省」という。)に対し虚偽の事実を含む外部通報をし,文科省が有する指導権限を不当に発動させ,もって被告の信用を毀損せしめ,被告の組織を動揺,壊乱せしめ,あわよくば,被告の経営に携わる者を離職に追い込もうと企図して,①平成23年8月23日,文科省に対し,被告のコーポレートガバナンスが有効に機能していないとする外部通報を行って競技スポーツ課担当官と協議し,②同年9月28日,P30が,あたかも被告の組織が解体しかかり,文科省が解体も視野に入れ,立入調査も辞さないなどの虚偽の内容のスレッドを立て,③同月30日,虚偽の内容を記載した第9号公益通報の書面をP6が文科省に送付し,④平成23年10月23日ころ,文科省の調査,指導を求める旨の虚偽の内容を記載した陳述書を提出した。
原告のこれらの行為は就業規則55条2号,11号及び18号の懲戒解雇事由に該当し,また,P29との共謀を通じ,業務上の重大な機密を外部に漏洩した点につき,就業規則55条6号の懲戒解雇事由に該当する。
上記①につき,原告は,P6,P30,P29及びP7との間でメールにより情報共有や意思の連絡を図り,また,上記③につき,原告は,鑑を自ら作成し,又は文章全体を精読して文章を正しているから,原告の意思に基づくものであることは間違いなく,情報を共有している原告, P6,P7及びP30の意思の連絡(共謀)の下にされたものである。そして,上記④の陳述書は,原告がP6,P7及びP30の名で作成したものを,P6やP7が加筆等したものであり,P6は,原告,P7及びP30との共謀に基づき文科省に提出している。
c P36新聞の記事
原告が事務局長在任中に自らの発案でxx家xxxxらから東日本大震災の被害者に対する見舞いの義捐物資を受領したものの,未処分のま
ま放置して後任のP22に何ら申し送りをしなかった。
平成23年11月23日のP36新聞朝刊に上記義捐物資の未処分についての記事が掲載され,P29がこれを利用して被告内部を混乱させるための被告職員等あてのメールの案を作成して原告に意見を照会したところ,原告はこれに異議を唱えず,P29は,同月24日に上記メールを被告の職員やP37等に送信した。
上記における原告の行為は,就業規則55条2号,11号又は18号の懲戒解雇事由に該当する。
原告は,就業時間中でも業務上の必要があれば自由に外出することができ,原告が勤務していたP2事務所にはパソコンも電話もあったからいつでもP22に業務を引き継ぐことができたのであり,義捐物資の件は原告がP22にその存在を告げれば済むことであるから,P22が原告に引継ぎを求めなかったとする原告の主張は,責任転嫁である。
d P38との接触
平成23年10月27日から平成24年1月12日ころまでの間に,原告は,P38の記者に対し,被告が渉外委員会を設け,ボクシングの試合における判定を不服とした申立ての存在,その内容及び審査手続の進捗状況を漏洩した。これは,被告が公開している情報ではないから,就業規則55条6号に該当する。
原告及びP6がP38に対して通報した目的は,xxxxを通じ,被告の試合管理能力に対する疑義を世間一般に生じさせ,被告への責任追及や組織壊乱を狙ったものであり,共謀の下に行ったと考えるほかない。また,原告は,情報が公知の事実である旨主張しているが,不服申立てについて被告が外部にその情報を開示したことがない以上,被告の業務上の秘密に係る情報の漏洩に当たる。
e 就業時間中の職務外行為
原告は,平成23年8月17日から平成24年3月18日までの間,就業時間中に,別表の「発信者」及び「受信者」の各欄に「P39」と記載したとおりのおびただしい回数の交信を行い,これに要する時間に相当する執務を懈怠した。就業時間中に行われた上記の原告の行為は,職務上必要な行為とは認められず,就業規則55条2号の懲戒解雇事由に該当する。
職務に関係ないメールを送受信することは,送信者のみならず受信者の職務をも疎かにせしめることであるから,原告がP6,P7,P30, P27及びP29らとの間で多数のメールを送信又は受信していることは,原告の職務専念義務違反にほかならない。
(カ) 手続の適法性について
被告においては,平成24年4月下旬又は5月上旬ころ,P6のノートパソコンから,P6が原告,P7,P30等の関係者と就業時間中にメールのやり取りをしていたことが判明し,それらを検討したところ,原告らが重大な就業規則違反行為を繰り返していることが判明したため,平成2
4年6月1日に原告及びP7を自宅待機とし,同月6日にはP7の弁解を,同月12日には原告の弁解をそれぞれ聴取したが,いずれの弁解も肯けいに当たらず,P27及びP28に対する聴き取り調査を実施するまでもなく上記のメールにより原告が懲戒解雇事由に該当することは明らかであった。そこで,P22,P23及びP20が相談して,原告を懲戒解雇としたのであり,本件懲戒解雇の手続になんら瑕疵はない。
(キ) 違法収集証拠について
P6のメールは,①就業時間中に,②被告に直接的又は間接的に関係する事実に関して,③被告のパソコンを使って作成され,④被告職員である原告,P7,P30その他ボクシング関係者との間で被告のパソコンを使って送受信されたものであり,当該メールは,P6の私的な情報ではない。
しかも,P6は,メールボックスにパスワードを設定しておらず,自らの意思で被告の職員であれば誰でもメールボックス内のデータを取り出すことができる状態にしていたから,被告は,メールボックスに何ら不正なアクセスをしておらず,被告が当該メールを利用しても不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条1項に違反しない。
イ 原告の主張
被告が主張する懲戒解雇事由は,以下のとおりいずれも事実無根又は就業 規則の当てはめを誤ったものであって懲戒解雇事由に該当するものではなく,原告に対する懲戒解雇処分は無効である。
(ア) 別組織の立ち上げについて
a 原告は,被告が主張する「P31の設立を具体化するためIBFの協力,支援を得ようとして接触を保った」との就業規則55条15号に該当する行為をしていない。被告が証拠とする各メール(乙25,28,
29)は,いかなる意味においてもP31なる団体の設立と関係しない。 b 原告が作成した定款案(乙31)は,P30から依頼を受け,あくまでP27個人の会社(P32)として作成したものにすぎない。P32の件は,乙30及び31のメールで完結しているから,当該定款が被告
のいうP31なる団体に関するものでないことは明らかである。
c 原告がP6と共謀してP31なる団体の収支予算を試算するなどして別組織の設立を具体化しようとした事実はない。乙32ないし34のメールに添付された収支予算書は,P6がP29の依頼によりキックボクシングのコミッション組織を念頭に作成したものであり,原告は関係していないし,当該メールを読んでもいない。
d P6は,当時の被告における将来的なIBF加盟の可能性を踏まえて当たり障りのない内容のメールをIBF関係者に送信したにすぎず,同メールから,原告がP31設立の暁にはその職員となってIBFのプロ
ボクシング世界タイトルマッチに携わり利益を得ることを目論んでIB Fと接触していたとは到底認められない。
e 平成23年10月ころ,原告が米国滞在中のP27から○で携帯電話に電話を受け,P27と話をしている最中に,IBF関係者を紹介され,同人と数十秒話をしたことはあるが,挨拶を交わした程度であり,原告が新コミッション設立の説明をしたなどという事実は一切ない。そもそも乙209は,被告の質問に対する回答として送付されたものであるところ,被告の質問文書は添付されていないから,不当に誘導されたものであることが明らかであり,その記載内容は全く信用性がない。
(イ) 情報の漏洩について
乙35ないし39のメールによりP6がメールで送った情報は,「○」等により一般に公開されている情報であり,いずれも被告の「業務上の重大な秘密」に該当しない。また,そもそも,原告は,これらのメールの作成及び送信に一切関与しておらず,原告は何らこれらの情報の開示に具体的な行動をとっていない。よって,原告の行為は,就業規則55条6号に該当しない。
(ウ) 独断の行為について
被告は,乙28,29,40ないし42の各メールを根拠に,原告が, P31設立後にIBFと協調して事業を展開する準備行為としてIBFと通信,接触したと断定しているが,P6は,本部事務局長であるP22の了解を得た上で,IBFに対して回答をしたものであり,P6の行為が就業規則55条4号に該当しないことは明らかで,ましてやメールの発信者でない原告についてはなおさらである。なお,被告は,当初「P22に伝達しなかったこと」自体が解雇事由である旨主張していたが,「報告が遅れたこと」や「報告の仕方が不適切であったこと」が解雇事由であるとして,その主張を著しく変遷させており不当である。
(エ) 組織,秩序の壊乱について
被告のいうP31なる団体は,設立すらされておらず,被告の業務には何ら具体的な影響は生じておらず,かつ,被告の業務の運営が阻害されるような事態も全く生じていないから,就業規則55条11号に該当しない。
被告が主張する懲戒解雇事由は,その意味が曖昧かつ不明であり,到底懲戒解雇事由とはなり得ない。
(オ) 違法収集証拠の排除
被告が証拠として提出するメールは,P6が被告在籍時に業務上使用していたメールアドレスではなく,私的に使用していたメールアドレスから受信又は発信されたものであり,被告は,何らかの不正な手段によりP6のパスワードを入手した後,当該パスワードを使用してP6の上記メールアドレスのメールボックスにアクセスして収集したものと考えられる。
(カ) 平等原則違反
一般に労働者につき懲戒事由の存在が肯定される場合でも,懲戒処分が有効とされるためには平等原則に適ったものである必要がある。P22らによる新団体設立の動きは,まさに被告と競合する「P17とは別のコミッション組織」(甲17・1項)の設立を図り,大々的に報道された結果,被告の社会的信用が著しく傷つけられたから,被告の論理によれば当然に懲戒事由に該当するにもかかわらず,被告は,P22らのかかる行為について黙認した。その一方で,単にP27らとメールのやり取りをしたにすぎない原告の行為について,被告と競合する別組織及び会社の設立の具体化を図ったなどと認定して懲戒解雇することは明らかに平等原則に反する。
また,就業規則55条3号で「他の職員に辞職を強要し」た場合を懲戒解雇事由としていることからすれば,P22及びP8によるP30に対する違法な解雇通知は,当然に懲戒解雇に相当する行為といえるが,P22
及びP8に対しては極めて軽い注意があったのみであった。その一方で,被告及び被告の職員に対して何らの損害を生じさせていない原告の行為について懲戒解雇処分とすることは明らかに平等原則に反する。
(キ) 手続的違法
一般に使用者が懲戒解雇をするに当たっては,特に厳格な適性手続の保障が求められる。しかし,被告は,①共謀者として挙げた6名のうち3名につき最低限の事実調査すら行わずに「共謀」があったと断定し,②一方的な聞き取りを行ったのみで事実上原告に弁明の機会を与えず,③初めから懲戒解雇の結論ありきの形式的な協議のみで,かつ,重要な関係資料の検討を行わないなど十分かつ慎重な協議を行わず,④解雇通知書(甲17)に記載されていない事由を解雇事由とした上で懲戒解雇処分を決定しており,その手続に極めて重大な瑕疵がある。
(ク) 被告による懲戒解雇事由の追加について
被告主張に係る本件懲戒解雇処分の各追加事由は,いずれも被告において本件懲戒解雇処分の時点で既に認識していた事柄であり,懲戒解雇事由に該当しないと考えて本件懲戒解雇処分を行ったものであるから,理由を後付けして追加してきたことは明らかである。
なお,仮に被告が認識していなかった事由であるとしても,追加した懲戒解雇事由は当初の懲戒解雇事由とは全く別の行為であり,密接な関連性も特段の事情も認められないから,懲戒解雇事由の追加は許されない。
(7) 争点7(第二次懲戒解雇処分の有効性)ア 被告の主張
第二次懲戒解雇処分に係る解雇事由は,前記(6)ア(オ)aからeまでに記載のとおりである。これらは,本件懲戒解雇処分に係る解雇事由に追加する解雇事由であるが,仮に上記追加が認められない場合に,予備的にこれらを理由に新たな懲戒処分を行ったものである。
被告がP27及びP28に対する聞き取り調査を行っていないことは認めるが,原告には本件訴訟手続において十二分な弁明の機会が与えられたのであり,第二次懲戒解雇の手続に何ら瑕疵はない。
イ 原告の主張
(ア) 手続の違法性について
被告は,本件訴訟において被告準備書面(7)により第二次懲戒解雇処分の意思表示を行ったが,その理由として被告が主張する懲戒解雇事由については,原告に対し一切弁解の機会を与えていない。加えて,被告は,原告が本件懲戒解雇処分に先立ち被告に対して要求した,P27及びP2
8に対する聞き取り調査等を未だに実施していない。
このように,第二次懲戒解雇処分は,懲戒処分の発動に必要不可欠な弁明の機会が与えられず,被解雇者が要求した最低限の事実調査すら行われていないから,手続に重大な瑕疵があり,手続的に違法,無効である。
(イ) 懲戒解雇事由の不当性について
a 第9号公益通報及び第10号公益通報について
P6が行った上記公益通報は,いずれも客観的な資料を添付して行った正当なものであり,公益通報保護法により厚く保護されるものである。また,被告の調査会による調査結果でも,P6本人の懲戒事由には該当しないと判断されているから,通報者でない原告との関係で新たに懲戒解雇事由とすることは許されない。
なお,平成23年5月31日にP8らが公益通報と称してマスコミ向けの記者会見を開いて行った外部告発は,被告の論理からすれば明らかに懲戒解雇に相当する行為といえるものの,被告はこの不当な外部告発について黙認しており,明らかに平等原則に反する。
b 文科省への通報等について
P6が行った文科省への相談及び申し入れは,原告に対する懲戒解雇
事由とはなり得ない。また,P30からP6宛てのメールにインターネ ット掲示板のスレッドに関する記載があるが,P30及びP6は同掲示 板への書き込みを一切していないから,P30及びP6並びに上記メー ルに一切関与していない原告との関係でも懲戒解雇事由にはなり得ない。さらに,第9号公益通報は,客観的資料に基づいた正当なものであり, 原告は,P6が公益通報を行うことにつき積極的な関与をしていないか ら,原告が「虚偽事実の公表」をしたとは到底いえない。
c P36新聞の記事について
被告主張に係る新聞記事に記載されたような事態を招いたのは,平成
23年6月28日に原告が本件降格処分や本件配転命令等によりただ一人隔離された一方で,新たに本部事務局長に就任したP22が週に2,
3日しか出勤しない非常勤で,前任者である原告との間で事務引継も行わず,義捐物資の扱いについて職員らに適切な指示を出していなかったという職務怠慢に最たる原因があり,原告が責任を問われるいわれはなく,被告主張に係るP29のメールによって被告事務所内の風紀秩序が現実に乱れたという事実は一切ない。そもそも,上記メールは,原告が送信させたものではない。したがって,原告との関係において就業規則
55条2号等の懲戒解雇事由に該当しないことは明らかである。 d P38との接触について
原告が裁定手続に関する情報をP38編集部のP40に漏洩したとの事実は一切ない。そもそも,平成24年1月当時,原告は,ただ一人, P1のP2事務所に隔離され,試合会場への立入りを禁じられ,プロボクシングに関わる業務から完全に排除されていたから,このような状況下の原告がP40に対して裁定手続に関する情報を漏洩することはあり得ない。
e 就業中の職務外行為等について
原告は,平成23年7月以降,P1のP2事務所へ配転され,これ以降,被告職員間の業務メールやミーティングからも排除され,ただ一人隔離されていたから,このような状況下で,原告がP6,P7,P30, P29らとメールをやり取りしても,それによって,被告事務所内の風紀秩序は乱れておらず,実際になんら問題は生じていなかったのであるから,懲戒解雇事由たり得ないことは明らかである。
(8) 争点8(賞与請求の可否)ア 原告の主張
被告は,財団法人であり,収支相償の非営利団体であって,営利企業のように収益性を追求する必要はないため,従前より原則として毎年,年2回(6月及び12月),各基本給2か月分の賞与が支給されており,現に,平成2
0年から平成23年までの間に賞与が支給されなかったのは平成21年6月のみであった。被告において賞与支給のための査定は行われていないことからすれば,仮に原告が解雇されなかったならば,年2回,各基本給2か月分の賞与が支給されていたことは明らかである。
したがって,原告は,本件懲戒解雇処分以降,毎年6月末日及び12月末日にそれぞれ106万円の支払を請求する権利を有する。
イ 被告の主張
被告において賞与は支給されないこともあり,必ずしも生活給というべき性格ではない。賃金規定には「賞与は,毎年6月及び12月の賞与支給日に在籍している職員に対し,P17の業績,職員の勤務成績等を勘案して支給する。」と定められているから,必ず基本給4か月分の賞与が年間において支給されるものでも,6月末日及び12月末日に支払われるものでもなく,また,原告は,平成24年6月15日以降被告に在籍していないから,賞与受給資格はない。
(9) 争点9(賃金請求の範囲)
ア 原告の主張
原告は,本件減給処分により,平成23年7月以降,基本給を月額53万円から月額38万円へ不当に減額された。そして,原告は,平成24年6月
15日付で懲戒解雇され,平成24年6月分の給与38万円に加え,解雇予告手当38万5000円の支払を受けたから,上記解雇予告手当に相当する額を平成24年7月分の給与に充当する。また,原告は,平成23年12月
16日に賞与(基本給2か月分)として76万円が支給されているが,これは本件減給処分後の基本給に基づいて支給されたものである。
したがって,原告は,被告に対し,平成23年7月から平成24年6月までの違法な本件減給処分による給与の差額分の請求として月額15万円(月額53万円-月額38万円)及び基本給減額による平成23年12月支給の賞与の差額分30万円の未払賃金請求権を有し,原告が懲戒解雇されたことによる懲戒解雇期間中の給与として,平成24年7月から本判決確定まで月額53万円(ただし,平成24年7月分は月額53万円から解雇予告手当3
8万5000円を控除した14万5000円)の未払賃金請求権を有する。イ 被告の主張
争う。
(10) 争点10(原告の債務不履行又は不法行為の成否及び損害)ア 被告の主張
原告は,本件懲戒解雇処分を受けるまでの間,被告に対し,労働者として職務専念義務,秘密保持義務,競業避止義務,被告の名誉・信用を毀損してはならない義務を負う。また,原告は,平成19年2月28日から平成24年6月28日までの間,理事として,秘密保持義務,競業避止義務,被告の名誉・信用を毀損してはならない義務を負っていた。しかし,原告は,以下のとおり,上記各義務に違反する行為をして被告に損害を与えた。
(ア) 原告の債務不履行と損害
a 競業避止義務違反
原告は,前記(6)ア(ア)に記載のとおり,被告とは別のコミッション及び会社の設立を具体化しようとし,また,同(ウ)に記載のとおり,P6をしてIBFと通信及び接触をせしめる独断の行為を行った。これら原告の各行為は,競業避止義務違反であり,労働義務違反行為でもある。
b 秘密保持義務違反
原告は,前記(6)ア(イ)に記載のとおり情報を漏洩し,また,P6,P
7及びP30とともに被告の職員でないP29及びP27に対して文科省への告発に関する情報を漏洩している。これら原告の各行為は,秘密保持義務に違反する行為である。
c 職務専念義務違反
原告は,別表のとおり,平成23年8月17日から平成25年4月2
3日までの間,P6,P7,P30,P29その他関係者との間で,就業時間中に,前記a及びbの各行為を含め職務とは関係のないメールのやり取りをおびただしく繰り返しているが,これらの行為は,その頻度及び交信の内容に照らし明らかに職務専念義務に違反し,また,労働義務違反行為でもある。
d 被告の損害
被告は,債務不履行を繰り返していた原告に対し労働の対価として賃金を支払う必要はなかったにもかかわらず,原告に対し,平成23年8月から平成24年3月までの賃金並びに賞与の合計384万円を支払ったから,かかる金員が原告の債務不履行に基づく損害である。
(イ) 原告による被告内部秩序壊乱行為と損害
原告は,前記(ア)aの競業避止義務違反行為以外に,次のとおり同様の労働義務違反行為を繰り返しており,これらは労働契約の債務不履行に該当するとともに,故意に基づく不法行為にも該当する。
a 公益通報制度を利用した内部秩序壊乱行為と損害
原告は,X0らと共謀の上,内容が虚偽であることを知りながら,P
19,P23及びP22をその職から追い落とすことを目的に,第9号公益通報及び第10号公益通報を行った。被告は,これらへの対応を余儀なくされたことにより,人件費,交通費,委託費等の諸費用及び本件訴訟への対応費用並びに上記公益通報に関する調査費用等の損害を被った。被告の収支計算書によれば,平成23年及び平成24年の各事業活動支出の合計が予算と比較してそれぞれ621万6569円及び900万5814円の合計1522万2383円の支出増となっているが,両年度とも上記の対応費用等のほか支出増の要因となる事実はないから,被告の損害は1500万円を下らない。上記内部秩序壊乱行為の主たる役割を担ったのは原告及びP6であることは明らかであり,損害に対する両者の寄与度はそれぞれ4割に相当すると認められるから,原告が被告に被らせた損害は600万円を下回ることはない。
b 文科省への不当な告発を利用した内部秩序壊乱行為と損害
原告は,P6,P7及びP30と共同して,平成23年10月23日ころ,被告の社会的評価を低下させることを認識しながら,被告の監督官庁である文科省の担当者に対し,第9号公益通報書とともに別紙1記載の事実及び意見を記載した書面を送付し,文科省から被告に対する指導を求めることにより,被告の社会的評価を低下せしめた。このように被告の名誉を毀損することは,被告の活動の基盤にも影響するから,その損害額は500万円を下らない。そして,文科省への不当告発において主たる役割を担ったのは原告及びP6であることは明らかであり,損害に対する寄与度は各4割に相当すると考えられるから,原告が被告に被らせた損害は,200万円を下回ることはない。
c P41会長あての書面による名誉毀損行為と被告の損害
原告は,P6,P7及びP30と共同して,平成23年10月11日ころ,被告の社会的評価を低下させることを認識しながら,P41会長
(当時)に対し別紙2記載の事実及び意見を記載した書面を送付し,被告の社会的評価を低下せしめた。被告の名誉を毀損することは,被告の活動の基盤にも影響するから,その損害額は500万円を下らない。そして,上記書面の送付において主たる役割を担ったのは原告及びP6であることは明らかであり,損害に対する寄与度は各4割に相当すると考えられるから,原告が被告に被らせた損害は,200万円を下回ることはない。
d 報道を契機とする組織壊乱行為と被告の損害
原告は,被告がxx家xxxxらから寄せられた義捐物資を未処分のままとしている旨の報道を利用して被告の社会的評価を低下させることをP6及びP29と共謀して,虚偽の事実の摘示を含むメールを被告の職員,P37事務局長及びP42氏という不特定又は多数人に送信し,被告の社会的評価を低下せしめた。これは,被告の基盤に影響する名誉毀損行為であるから,その損害額は500万円を下回ることはない。そして,この行為において主たる役割を担ったのは原告及びP6であることは明らかであり,損害に対する寄与度は各4割に相当すると考えられる。したがって,原告が被告に被らせた損害は,200万円を下回ることはない。
(ウ) 小括
以上によれば,被告は,原告の債務不履行及び不法行為により,合計1
584万円の損害を被っているから,被告は,原告に対し,債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償として1584万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成25年11月28日から年5分の割合による金員の支払を求める。
イ 原告の主張
(ア) 原告の債務不履行及び被告の損害について
被告主張に係る競業避止義務違反,秘密保持義務違反及び職務専念義務違反等の事実は存在せず,債務不履行に該当し得る行為も存在しない。
損害に関する被告の主張は,実質的に労働法上の「賃金全額払いの原則」を否定する独自の見解であり,その不合理性は明らかである。原告が平成
23年9月以降,公益法人化に関する必要書類の作成や継続的な打合せ等を行っていたことは被告も認めているから,このような労働提供の対価として被告が原告に対して賃金及び賞与を支払うのは当然であり,損害に該当することはあり得ない。
(イ) 原告による被告内部秩序壊乱行為と損害について
被告主張に係る内部秩序壊乱行為は,すべて否認し,又は争う。
a P6が行った第9号公益通報及び第10号公益通報は,いずれも客観的資料に裏付けられた正当なものであり,かつ,原告は通報者でないから,原告との関係で債務不履行又は不法行為に該当するはずがない。加えて,被告は,P6の公益通報の調査結果報告において「P6がP17のガバナンスを慮って公益通報を行ったものと考える」旨結論づけているにもかかわらず,損害賠償請求をすることは不合理である。
損害に関する被告の主張は,具体的な根拠のない強引なこじつけというほかなく,不合理である。
b 被告主張に係る,文科省への告発行為やP41会長あての書面は,多数又は不特定に対するものでも被告の社会的評価を低下させるものでもなく,実際にもこれらにより現実に被告の社会的評価が低下するような事実は生じておらず,損害は生じていない。
c xx家ボクサーから被告へ寄せられた義捐物資が未処分のままとしている旨の報道に関連する被告指摘のメールは,P29が自らの判断によ
り作成し,送信したものであるから,原告との関係で上記メールの送信が被告に対する名誉毀損行為になることはあり得ず,また,現実に被告の社会的評価が低下した事実は発生しておらず,被告に損害は生じていない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実及び当事者間に争いのない事実に加え,後掲各証拠(ただし,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告の組織概要及び関係者等ア 被告の組織概要
被告は,日本のプロボクシングを統括する機関であり,プロボクシングに 関する規則の制定,プロボクシングの試合管理,プロボクシング選手の健康 管理,国際ボクシング団体への加盟及び国際交流の推進等を主な業務とする。被告には,13名の理事をもって構成される理事会が置かれ,理事会は,代 表理事(会長)を互選し,会長は,副会長1名,専務理事1名及び常務理事
1名を各選任する。会長は,一般にコミッショナーと呼ばれ,被告の管轄下で行われるプロボクシングの試合を管理,統括する権能を有し,コミッショナーの下す裁定,裁決及び制裁は,最終決定となる。専務理事は会長及び副会長を補佐し,常務理事は会長,副会長及び専務理事を補佐する。また,被告には,本部事務局及び4つの地区事務局があり,本部事務局長及び地区事務局長は会長が任命することとされているが,実務上は本部事務局長が地区事務局長及び本部事務局職員の採用(解雇も含む。)を行うことになっており,地区事務局長は地区事務局職員の採用(解雇も含む。)を行う扱いになっている。(甲1,弁論の全趣旨)
イ 関係者
ボクシングの試合を企画し,管理・運営するためには,ボクサー,トレーナー,セコンド(ボクシングジムにおいてトレーナーを補佐し,試合においてはボクサーを補助し,助言を与える。),マネージャー(マネジメント契約をしているボクサーの利益を守るため,契約ボクサーの健康を管理し,その収入確保のために相当数の試合に出場させる等の事務を行う。),プロモーター(プロボクシングの試合興行に関する責任者),クラブオーナー(ボクシングジムの経営者),マッチメーカー(プロボクシング試合の対戦者を選定し,試合を組み立てる役割を担う。),インスペクター(試合がxxに行われるよう管理,監督する役割を担う。),レフェリー(ジャッジを含む。),アナウンサー,ドクター(ボクサー,レフェリー及び試合役員の健康を管理する職責を担う者),タイムキーパー及び進行(インスペクターを補佐し,試合の進行を担当する。)の各関係者が必要であり,被告は,プロボクシングを統括するために,これらの各関係者にはライセンスを要するものと定め,それぞれに適した者に限ってライセンスを付与し,適さない者のライセンスを剥奪することとしている(弁論の全趣旨)。
これらのライセンス保持者のうち,インスペクター,レフェリー,アナウンサー,ドクター,タイムキーパー及び進行は,被告の業務であるプロボクシングの試合管理,プロボクシング選手の健康管理にとって不可欠な存在として「試合役員」と位置づけられ,東京本部及び各地区において,それぞれ
「試合役員会」が組織されており,所属試合役員の互選によって会長が選任される。試合役員会は,通常,月に1回開催され,試合役員のほか,被告各事務局の事務局長及び事務局職員が出席し,試合の裁定などについて協議する(甲46・5頁)。(弁論の全趣旨)
また,クラブオーナーが所属する団体としてP37があり,その傘下に各地区に応じてP24,P43,P41,P44及びP45がある(弁論の全趣旨)。
(2) 原告の経歴
原告は,大学在学中からボクシングジムにてボクシングを始め,プロボクサーライセンスを取得する一方で,試合役員(レフェリー及びジャッジ)ライセンスを取得し,以来,プロボクシング業界に関わってきた。当初,原告は,試合役員やアルバイト職員という形で被告に関わっていたが,平成6年1月にxx職員として被告に採用され,平成18年4月1日に本部事務局長に就任した。
(甲44)
(3) 本件降格処分に至る経緯ア 怪文書の送付
平成23年4月18日,原告がタイでの世界タイトルマッチに立会人として出張中であったところ,原告を誹謗中傷する内容の匿名の怪文書(乙4の怪文書)が全国のボクシングジム及び被告事務所あてに送付された。乙4の怪文書の1枚目には,原告がボクシング関係者すべてに対して背信行為を行っているとして,愛人を被告のP3事務所に入社させた,本部事務所にも愛人がいる,経費を不正に流用しているなどとした上で,「P39がボクシングというスポーツを愛しているわけでもなく,また仕事に情熱を注いでいるわけでもないことはもはや周知の事実なのであえて書く必要もないが,このままボクシングを奴の情欲や私欲を満たすために利用させてはならない。」などと記載されており,P3事務所への愛人の入社の証拠として写真が4枚添付されていた。
被告の本部事務所には,同じ装丁でP8のみを除いた事務局職員6名全員をあて先とする封筒に入った上記怪文書が届き,これらのうちP6及びP7あての各封筒にだけそれぞれ個別に脅迫的又は低俗な文言が記載された文書が同封されていた。
原告が被告において反社会的勢力の根絶を目指した活動を行っていた関係上,同様の文書が送付されてきたことが以前にもあったため,P6やP7は
特に動じずに冷静に過ごしていたが,P8ら本部事務局の他の職員は,乙4の怪文書の送付以降,毎日この件で本来の業務もなおざりになるほど騒いでおり,離席して事務所の応接室で相談等をすることもしばしばあった。
(甲32,33,甲44・5頁,甲45・7頁,甲46・4及び5頁,乙4,弁論の全趣旨)
平成23年4月19日,P19は,被告のP3事務所に行き,乙4の怪文書に添付された写真に写っていた女性職員に会った。当該女性職員は,P1
9に対し,乙4の怪文書について謝罪し,関西事務局の職員を辞めること,原告とは愛人関係などではないことを話した。(証人P19・5,6頁)
イ 平成23年4月22日の試合役員会
平成23年4月22日の午後7時から東京試合役員会が開かれ,東京本部の試合役員の8ないし9割が出席し,被告からはP19,P22及びP8ら本部事務局の職員数名が参加した。同日の試合役員会では,乙4の怪文書の件を議題としていなかったが,東京試合役員会の会長であるP20が主導し, P8らが予め用意しておいた乙4の怪文書のコピーを出席者全員に配付した上で,この件について話し合いが行われた。その際,P20及び試合役員の P46は,他の試合役員に対して,原告は被告を辞めるべきだと繰り返し主張し,また,P8は,これまで原告にされた言動について話をした。(甲4
6・5頁,甲66・2及び3頁,乙17,証人P19・7頁)ウ 通告書及び連判状の提出
平成23年5月9日,「P17東京試合役員・事務局員合同調査委員会」との名義でP18代表あてに通告書が提出された。通告書では,冒頭,「乙
4の怪文書の真偽について,P17東京試合役員会及び事務局は合同調査委員会を立ち上げ,真相究明のための調査を行ったので結果を報告する。」,
「決して個人を陥れるためではなく,意図的な事実の歪曲や誇張は含まれておらず,報告書に記載したすべての事項は,複数の関係者の証言と物的証拠
による裏付けによって証明可能な客観的事実である。」旨が記載され,続けて,原告と関西事務局の女性職員や本部事務局の女性職員との関係のほか,事務局長として不適切な原告の言動として異常な労務管理につき4事例及び職員に対する異常な言動につき4事例,海外関係者に対するボクシング用品売買への関与,オーストラリア人レフェリーに対する1泊2日の京都観光接待,世界戦オフィシャル食事会の欠席並びにP47関連会社から事務局長個人口座への入金を挙げ,乙4の怪文書の内容を上回る業務上の問題点が明らかになったなどと記載した上で,被告に対し,厳正なる調査を早急に行うことを求めるとされていた。なお,通告書の作成者として記載されている「P
17東京試合役員・事務局員合同調査委員会」は,被告が正式に認めた組織ではなく,その構成員やここで採られた調査方法等,通告書が作成された経緯については本件証拠上明らかでない。(乙5,原告本人・4頁)
平成23年5月10日,「P17 東京試合役員会・事務局員一同」を差出人とする「真相究明とP39事務局長の解任を求める連判状」(乙6。以下「連判状」という。)がP18代表あてに提出された。連判状には,乙4の怪文書で指摘された疑惑について徹底した真相解明を行うこと,すべての疑いが晴らされない限り原告を解任することを求めるとされていた。(乙6)
エ P18代表の示達
平成23年4月26日ころ,P18代表は,本件に関し,原告に対して5%の減給処分とすることを考え,P19を介してP8及びP11にその旨伝えたところ,P8及びP11のいずれも上記処分に納得できないとの意向であった。(乙17,乙238・14頁)
平成23年5月12日,P18代表から,原告に1か月の休職を命じ,かつ,その間の事務局長職をP19が代行することとする旨の示達があった
(乙238・15頁)。
オ 平成23年5月12日の被告協議会
平成23年5月12日,P19は,各地区事務局長,職員及びP20を本部事務局に集め,通告書の内容について改めて調査をするための調査委員会を設置することなどを説明し,これらの説明に対して不満等を述べるP8ら職員に対し,原告が1か月休職であることを前提にその1か月の間に調査委員会を開いて結論を出すとの方針だから理解してもらわないと困るなどと話した。そうしたところ,P20が,「ここで原告が辞任すると言えば別の問題になりますね。」と述べた上で,原告に対し,「はっきりしてくれ。これ以上男の出処進退をおまえここまで,どうすんだよ。おまえ。二度と言わないぞ。今ならおまえまだ立ち直れるよ。これが出たら分かんないよ。(中略)お前が決めろ。」などと迫ったため,原告が「上の裁定に従うと決めた。」旨答えると,さらに,P20は,「そうじゃねえよ,自分自身で決めろってんだよ。」,「そうしなかったらコミッション終わるぞ。」,「明日から試合できなかったらどうするんだよ。」,「申し訳ないけれども僕はライセンスを返さなくちゃいけなくなる。」,「そうすると全員がなるよ。」などと大声で言い募り,原告に対し,自主退職を迫った。加えて,P8も,「調査委員会が立ち上がり,経理上特に不正なものは見つからなかった,女性に関してはプライベートなことである,ただ混乱を起こした責任はあるからといってお茶を濁すような裁定が出た場合に,試合役員がそれでは納得しないと言ってライセンス返上となった場合はどう考えるか。」などと述べた。(乙
238)
カ 被告の理事会及び本件調査委員会の設置
平成23年5月16日,被告は,理事会を開き,通告書の記載内容について調査を行うために本件調査委員会を設置し,xx弁護士を本件調査委員会の事務局長として調査を実施すること及び同調査を円滑に行うために原告に1か月の休職を命ずることが決定された。
以後,本件調査委員会では,証拠収集のため,本部事務所から会計伝票や
タイムカード,給与一覧表などを持ち出して調査する一方で,原告を含めた本部事務局職員8名及び関西事務局職員2名の合計10名から事情聴取を行い,合計5回の委員会を開催した。
(甲46・8頁,乙46,証人P19・13頁,原告本人・7頁)キ P20,P8らによる外部告発等
(ア) 平成23年5月19日,P20は,「P17東京試合役員会会長P20」の名でP18代表に対し,「xxなる調査を求める申し入れ」と題する書面を提出し,本件調査委員会が設置された後の被告の対応が中立性を欠くとして,通告書に記載された事実関係の認定に当たっては本部事務局職員全員及び関西事務局職員全員から事情聴取を行うことや証拠保全のため調査終了までの間,関与が疑われるP6及びP7を休職扱いとすること等の対応をとることを申し入れた(乙9)。
(イ) 平成23年5月24日,P8は,「P39事務局長の言動と行動」と題する書面に,原告がP7と併せて有給休暇を取得していること,原告が連日行っていたミーティングでは些細なミスをあげつらった叱責や罵倒が長時間続けられていたこと,会議室に部下を呼びつけ指導の域を遙かに超える罵倒を続けたこと等,原告又はP19に関し17項目に渡る記載をし,また,同月26日,P10は,被告への入職のころ以降,原告から受けたとするパワーハラスメント行為を時系列で書面に記載した(乙10,11)。
(ウ) 平成23年5月31日,P8,P12,P13及び被告P3事務局職員のP48は,報道関係者及びP37会員各位あての「P17に関する公益通報について」と題する書面に,平成21年12月6日の大阪での試合後に原告,P3事務局長のP49,試合役員及び女性の4名で食事をした飲食代1万7180円を被告の経費として処理した行為が背任罪に当たる旨記載し,記者会見を開いて意見表明を行った(乙12,13)。
(エ) 平成23年5月31日,P20は,報道関係者各位あて,「P17東京
試合役員会会長 P20」名義の,「P17試合役員会が,P39事務局長の解任を求め,公益通報職員を支持する意見を表明」と題する書面に,
「本件調査委員会事務局の,被告の公共性やプロボクシング界の現状に対する認識に大きな疑問があると判断して,本部事務局職員による公益通報を支持すること及び本件調査委員会による調査によって経費の使途が全て明らかにされるべきであることを表明する。」旨記載してその旨の表明を行った。また,同日,P20は,東京試合役員会において緊急役員会を開いた上で原告の解任を求める意見書をP18代表及び被告の各理事に提出する方針を固めた旨を報道各社に対して発表した。(乙13,14)
(オ) 平成23年6月2日,「P17東京試合役員会会長 P20」名義で,被告の理事,調査委員及び評議員各位あてに,「P39事務局長問題に関する意見について」と題する書面が提出された。同書面には,東京試合役員会が緊急試合役員会を開催した結果の意見表明として,原告の解任,本件調査委員会が経費の使途を明らかにした上での厳重なる処分の決定等を求め,P8らの公益通報を強く支持すること等が記載されていた。(乙1
5の1)
(カ) 平成23年6月2日,試合役員会会計担当のP50が,本件調査委員会の各調査委員にあてて,今回の解任要求は健康管理のxxであるチームワークを原告とはもう築けないほど不信感が積み重なってしまったためであること,その原因が原告のリーダーシップ及び求心力のなさ,極端に偏った人間性等にあることなどを記載した「『P39事務局長に関する意見について』~事務局長に求められる資質,P17の存在意義について~」と題する書面を提出した(乙16の1)。
(キ) 平成23年6月5日,P13は,xxxx士あてに,乙4の怪文書が送付されて以降の経緯や経理関係その他問題とする原告の行動等を記載した書面を提出した(乙17)。
(ク) 平成23年6月8日,「P17関西試合役員会一同」からP18代表あてに「P39事務局長問題に関する東京試合役員会の意見を全面的に支持し,同問題に関する真相究明を求める連判状」と題する書面が提出された。
(乙18)
(ケ) 平成23年6月12日,P25から,翌日の同ジム主宰の興行当日に原告が試合会場に立ち入ることを拒否する旨記載された書面が被告あてに提出された(乙19)。
ク 原告の休職期間明けの状況
平成23年6月9日,P19が本部事務所で職員らに対し「明日で原告の休職期間が満了となる。」旨話したところ,P8は,原告が出勤するなら自分は出勤しないと言って有給休暇申請書をP19に提出した。
平成23年6月10日,原告は,xxxx士から「原告を専務理事付事務局長代行補佐に降格する。」旨のP18代表の示達を伝えられた。原告及び P19は,上記の示達について本部事務局職員に説明するために本部事務所に向かったところ,P8ら職員の一部から,本部事務所への入室を妨害されるなどした。そして,本部事務所に入室し,P19が職員に対し,P18代表の示達を読み上げたところ,P8らが示達の内容に反発して「納得できない。」などと騒ぎ出したため,P19は,調査結果が出るまで出社を控えるよう原告に指示し,以後,原告は,出勤しなかった。なお,P19は,上記同日,本部事務所で記者会見を開き,P18代表による示達を発表した。
(甲44・9,10頁,甲45・13頁,甲46・10,11頁,甲67の
1ないし3,証人P19・14,38ないし40頁,原告本人・10,11頁)
ケ P20らによる新団体設立の動き
(ア) 平成23年6月13日,P20は,東京試合役員会会長名で,P18代表に対し,本件調査委員会の同月8日付中間答申及びP18代表の同月1
0日付示達が本件調査委員会及び被告の姿勢に大きな疑義を抱かざるを得ない疑問点を含んでいるとして「中間答申及び示達に対する公開質問状」と題する書面を提出し,上記中間答申及び示達に対する質問を行った。これに対し,xxxx士は,上記同日,P20あてに,本件調査委員会が中間答申を発出した事実はない旨回答した。(乙20,21)
(イ) 平成23年6月16日,P26から被告あてに,翌日開催の興行においてP19及び原告の試合会場への立ち入りを禁止する旨記載された書面が提出された。なお,同書面には,手書きで「協会より要望書に返答あるまで」と追記されていた。(乙22)
(ウ) 平成23年6月20日,P19は,同月10日以降も本部事務局長代行を務めることになっていたが,試合の運営・管理について詳しくなかったことから,P22に対し,試合の運営・管理を主管とする事務局長代行を P19と兼任してほしいと打診した。P22は,平成23年6月23日の午前,本部事務所でP19と面談し,事務局長代行への就任を了承した。
(乙234・5頁,証人P22・11,32頁,証人P19・34頁) (エ) 平成23年6月23日,P22は,P20及びP8とともにマスコミ向
けの記者会見を開き,被告に代わって国内試合を統括する新団体を設立する意向を表明し,同月24日にもP18代表に辞表を提出して新団体の事務局長に就任する予定である旨発表する一方で,本当は一つの団体としたいとの意向を示し,被告の理事会で原告を被告から排除する内容の処分が出れば被告に再合流する考えがあることも示唆した。P20は,上記記者会見に同席し,試合役員の大半が新団体に移ると明言し,また,大半の事務局職員も新団体に移る見込みであるとした。このため,新聞各紙では,
「ボクシング界分裂危機」,「P17分裂も」などの見出しを付けた報道がされた。なお,翌24日,P22理事は,再度記者会見を開き,前日に発表した新団体の設立について慎重な考えを示し,27日にもP18代表
に辞表を提出する予定だが,本当は一つの団体でやるのが当然であるとして,28日の理事会で原告が被告から排除される処分が下されれば新団体を設立しないことを改めて示唆した。(甲21,22,乙23の1及び2)平成23年6月23日の上記記者会見での発表前,P22は,本部事務
局の応接室でP8らとともに数時間にわたり記者会見の準備をしていたが, P6及びP7は,何も聞かされていなかった(甲46・12頁)。
また,上記同日,P24の緊急理事会が開かれ,P22の新団体設立を支持する旨決議された。(乙23の2)
(オ) 平成23年6月23日発売の「○」に,「○」との見出しを付けて,乙
4の怪文書に添付されていた写真のうちの一つが見開き2頁の大きさで掲載された。記事には,P20の意見として「(原告の一連の疑惑は)ボクサーや職員を愚弄する行為で許せません。本当にボクシングを愛しているなら自ら身を引くべきです。これは,現場で働く我々の総意なのです。」とのコメントが掲載されていた。(乙229)
コ 本件降格処分
(ア) 平成23年6月27日,原告は,xxxx士同席の下,P18代表から,原告を本部事務局長から平職員に降格し,新たにP22を本部事務局長とすること,給与の減額,国際業務を含む従前の業務からの排除,他の事務所への配転など,翌日の理事会で決議される処分の内容等を告げられた。
原告は,P18代表に対し,乙4の怪文書や通告書に記載されているような不正行為は一切行っていないこと,国際業務や暴力団排除を含む社会貢献活動など原告がこれまで取り組んできた業務の必要性及び重大性を訴えて今一度考えてほしい旨を願い出た。また,特に配転に関しては,過去に例がなく,配転するような事務所もなく,P6やP7に累が及ぶことを心配して強く異議を唱えた。しかし,P18代表は,原告の要請を聞き入れなかったため,原告は,P18代表が結局はP20とP22の要求を受
け入れ,原告を被告から事実上追放することで現状を維持しようとしていると感じ,これ以上逆らうと解雇されることにもなりかねないと考え,最後に,P18代表に対し「乙4の怪文書の件以降,P17がガバナンス機能を失ってきた。今後,この騒動が不必要に拡大していった原因を調査し,その原因を作った職員らに対してしかるべき処置をしてほしい。」と依頼し,退出した。
(甲44・12ないし14頁,甲68・3頁,原告本人・13,15,7
8ないし80頁)
(イ) 平成23年6月28日,被告の理事会が開催され,まず,xxxx士から,本件調査委員会による調査報告書(乙46。以下「本件調査報告書」という。)の内容についての説明があった。本件調査報告書では,通告書に記載された事実のうち,原告が①不正経理を通じて横領行為や背任行為に及んだとする事実,②情実により権限を濫用して不正に女性職員を採用したとする事実,③P7に対し程度を超えて親密に接し事務局長としての体面を汚したとする事実,④執務上の職務を懈怠し,又は職場を離脱し職務を放棄したとする事実はいずれも認められないとし,他方,部下に対する接し方に行き過ぎが認められ,有給休暇を認めてしかるべきところを欠勤扱いとしたこと,不十分な説明に基づく雇用契約の不利益変更を行ったことは不相当と認めざるを得ないとされた。そして,本件調査委員会としては,上記不適切な言動も認められるが,原告が国際化に尽力し,ライセンス等に関する統括管理が可能となるシステムの開発・導入,暴力団排除への積極的な取り組み,就業規則の制定等を行い,被告の発展に貢献してきたことを斟酌し,原告については,今後,被告の国際化等に向け,組織の発展に尽力せしめることが望ましいとの結論とされた。さらに,本件調査報告書の付言として,本件の調査の過程において被告の組織及び内部統制の脆弱性を示す事象がいくつか認められたので今後被告において組織
及び内部統制の改善を図るべきとされた。
被告の理事会では,上記の報告に基づく事後の対応に関する件として,特別利害関係人である原告を退席させた上で,原告の本部事務局長の職を解くことを出席者全員一致で承認し,原告を入室させて上記の決議結果を告知した。さらに,同理事会では,P19から同理事会の終了をもって専務理事を辞したい旨の表明がされ,P18代表がこれを承認するとともにその後任としてP23が専務理事に就任することとなり,また,本部事務局長にはP22が就任することとされた。
被告は,本件調査委員会による調査結果と原告に対する処分の内容が記載された書面をP18代表名義で作成し,報道関係者ほか関係各位に配布した。
(甲6,甲44・14頁,甲45・15頁,乙1,46,47)
(4) 本件降格処分後の原告の勤務環境等
平成23年6月末ないし同年7月初めころ,原告は,同年6月27日にP1
8代表から通告されていた配転及び減給に関し,被告から,P1P2事務所への配転(本件配転命令)及び基本給月額53万円から月額38万円への減給(本件減給処分)を命じられ,また,今後の担当業務として,一般財団法人又は公益財団法人への移行手続に係る業務を命じられた。なお,平成23年7月中旬ないし同年8月ころ,P23及びP22がP2事務所を訪れ,「就業の場所 xxx文京区δ-×-61」,「賃金 基本給38万円」などと記載された雇用契約書に署名するよう原告に求めたが,原告は,P23らが上記雇用契約書の記載内容について説明せず署名を要求するだけであったため,これを拒否した。
(甲18,甲44・15頁,原告本人・18,42頁,被告代表者P23本人・
16頁)
P1のP2事務所は,プロボクシングとは全く関係のないP51ビル4階のスポーツ用品店の裏手にあるビルの管理室で,P1の社員3名が常駐しており,
それら社員の隣に原告の席が設けられていた。来客があった際には原告はただ下を向いている状態であり,また,P1の社員全員がビルの巡回に出る場合には,原告が事務所内に居ても外から鍵をかけられ「巡回中」の札がドアに掛けられた。(甲10,甲44・16頁,甲45・16頁,乙8,原告本人・15頁)
原告は,本件降格処分以降,本部事務所や試合会場へ立ち入らないよう被告から言われており,本部事務局でのミーティングからも除外されていた。また,本部事務局の職員間で情報共有のために送られるメールも原告には送られなかった。(甲12の1,甲14,甲44・20頁,甲45・17頁,甲46・2
5頁,証人P22・60,61頁,証人P9(以下「証人P8」という。)・
41,42頁,原告本人・80頁)
(5) 本部事務局長職の引継ぎ及び本件降格処分後の原告の業務
本件降格処分後,原告と新たに本部事務局長に就任したP22との間で引継ぎは行われなかった。原告は,平成23年12月7日及び同月8日に,P22に対し,業務の引継ぎ及びアドバイスをさせてくれるようメールで懇願したが,これに対し,P22は,何らの反応もしなかった。(甲11ないし14,甲6
8・14頁,証人P22・63,64頁,原告本人・80頁)
原告は,平成23年7月以降の担当業務として命じられた一般財団法人又は公益財団法人への移行手続に関し,公益財団法人及び一般財団法人のメリット・デメリットや移行認可のポイント等を検討し,「公益認定に係る問題点についてのご報告」と題する書面にまとめ,平成23年10月17日,同年11月2日,同月11日及び同月22日の各日に,堤弁護士,xx弁護士,P23らとともに被告の公益認定に関する打合せを行い,また,同月1日には公益法人関係のセミナーに出席するなどし,その間,定款案や各種規則案を作成し,堤弁護士との間でメールで上記定款案等のやり取りをしたり,平成23年10月30日には,被告の公益認定に関する問題点をまとめた書面を堤弁護士あて
にメールで送付し確認依頼をするなどしていた。
原告は,平成23年12月26日には,堤弁護士に対し,「公益認定に関しての方向性について何か動き等があれば連絡をいただきたい。」などとメールで要望し,また,平成24年2月17日には,「移行認定に関し,基本的には一般財団で準備し,移行後改めて公益認定を目指すという方向と聞いたが,その理解でよいか。」などと記載したメールを堤弁護士に送信して被告の確定的な方針について確認をとろうとしたが,これに対する回答は特になかった。そして,平成24年2月28日,被告の理事会では,一般財団法人へ移行する方針が報告されたが,その報告は原告には伝えられなかった。
(乙212ないし226,乙232・8頁,証人P22・62頁,原告本人・
17,45頁)
(6) P30への解雇通知及びこれを理由とする公益通報等
P22は,P8から「被告の財政状況は厳しく,P3事務局を3名体制とする余裕はない。P30は試用期間中であるから,同期間満了前にP30を解雇すれば2名体制にすることができる。」旨の話を聞き,平成23年7月14日, P49に対しP30の解雇を指示したところ,P49は,P30を解雇する理由がないとしてこれを拒否した。そこで,P8は,P22の了解の下,「本部事務局長 P22」名義で,P30に対し,「試用期間満了に際し,貴殿の勤務実績,業務の習熟度,業務遂行能力を慎重に検討した結果,正職員への登用が不適当と判断したためこれを見送るとともに雇用契約を終了することを決定した。」旨記載した解雇通知書を送付した。なお,P8は,P30に対する上記解雇通知についてP23に事後報告をしたところ,P23は,P8に対し,試用期間であっても解雇は重大なことであるから解雇理由がなければ解雇できないと注意するのみであった(甲23,乙232・11,12頁,乙234・
14,15頁)
上記解雇通知に対し,P49及びP30は連名で,P23,P22及びP8
を被通報者とし,P30への上記解雇通知が労働契約法16条違反であるとして公益通報を行った。(甲45・19頁,乙232・13頁)
平成23年7月20日,被告は,P49及びP30による上記公益通報を受けて,P30への解雇通知を撤回することとし,同月21日,P22がP49に対してその旨を電話で伝えた上で,同月25日付解雇撤回の通知書をP30あてに送った(甲24,乙232・12頁,乙234・15頁)。
(7) P6らによる公益通報等
ア 平成23年7月16日から同年8月4日までの間の公益通報
P6は,P7と連名又は単独で,平成23年7月16日から同年8月4日までの間に,P22,P8,P11又はP48を被通報者とするP18代表あての公益通報を6回行った。(甲45・20頁,乙232・13頁)
イ 第9号公益通報,第10号公益通報
平成23年9月29日,P6は,P19を被通報者とし,平成21年2月
24日の被告理事会において処理した損金処理の不当性を指摘する,P18代表あての第9号公益通報を行った。P6は,第9号公益通報に先立ち,原告,P7及びP30との間で公益通報書面の原案等に対する意見をメールでやり取りするなどしていた。(乙50,52,53,116,117)
また,平成23年11月7日,P6は,P23及びP22を被通報者とし,同年10月14日にP22がP6に対して関西地区試合役員のP35に対して月額10万円を給与として振り込むよう指示した業務命令は背任罪に当たるとして,意見具申書を添付してP18代表に対する第10号公益通報を行った。P6は,第10号公益通報に先立ち,これに添付する意見具申書の案を原告に送付して内容の確認を依頼し,これを受けた原告は,P22によるP30の解雇の際に理由とされた事情との矛盾を書き加え,また,外部通報の可能性を示唆する原案の記載を削除し,人事が一部職員や試合役員に左右されること等は組織のガバナンスにおいて極めて憂慮すべき事態であ
るとの指摘を書き加える修正をした。その後も,P6と原告,P7及びP3
0等との間で第10号公益通報及びその添付資料の原案を適宜修正しつつやり取りした。なお,P6は上記のやり取りと並行して,別途,被告の外部の弁護士であるP52弁護士に対し,第10号公益通報の対象事実であるP
35との業務委託契約について契約書の問題点や意見具申書の有効性について問い合わせた。
(乙51,109,112,114,115,123,135)ウ 公益通報調査会による調査結果
平成24年2月3日,堤弁護士,xxxx士及び被告理事2名で構成される公益通報調査会による調査結果の説明が行われた。
第9号公益通報については,P19に金員着服の事実は認められず,通報者であるP6のその他の指摘について確たる証拠はなく,立替金返還請求権の消滅時効期間を満了させたことにつきP19,原告及びP6の責任は免れないとされ,加えて,第9号公益通報は虚偽告訴罪又は名誉毀損罪が成立しかねないものであり極めて軽率であるとして,通報者であるP6に対し強く反省を促すとされた。また,第10号公益通報については,公益通報調査会の場でP6が業務委託契約書を閲覧して第10号公益通報における通報事実を撤回し,公益通報調査会としては,あくまでP6が被告のガバナンスをおもんばかって第10号公益通報を行ったものと考えるとされた。
(甲37の1)
(8) 文科省への通報等
平成23年8月18日ころ,P30は,同年7月14日付で解雇通知を受けたことに関して文科省に相談したところ,文科省の担当者から客観的な資料を揃えて出すよう指示されたため,これをP6に引き継いだ。P6は,上記担当者の指示を受けながら必要な書類を文科省あてに提出し,さらに,平成23年
9月30日,第9号公益通報の資料一式に,「当財団の組織のガバナンスはそ
の機能を喪失していると言っても過言ではありません。」,「当該公益通報の内容を精査していただき,徹底的な内部調査をお願い申し上げます。」などと記載した鑑を付けて文科省へ提出し,その旨を原告,P7及びP30にメールで報告した。なお,平成23年9月22日には,文科省の担当者からP22に対して事情確認等の電話があり,P22らが文科省に出向くことになったが,その旨をP6からメールで報告された原告は,「適当なことを言われるので,後で必ずこちらもしっかり準備して文科省に出向きましょう。」とP6にメールで回答した。(乙55ないし57,原告本人・83頁)。
平成23年10月18日,P6は,文科省から「文科省として法人個別の内部統制問題に対して直接指導するのは困難であり,対応できるとすれば口頭での注意程度である。」と回答された旨を,原告,P7及びP30にメールで連絡した。原告は,文科省から口頭であってもP18代表に話がされれば,P1
8代表が現状を認識することができると考え,「P18代表に対して口頭で注意してもらいましょう。できれば呼び出してもらいましょう。(中略)監督官庁としての責任は内部統制が取れていない以上生じます。あきらめずに巨像を動かしましょう。」などと記載したメールをP6に返信し,併せてP7にCCで送信した。(甲68・32頁,乙66)
そして,原告は,上記文科省の回答に対し,P6,P7及びP30名義で「P
17の組織ガバナンス機能の不全についての陳述書」と題する書面を作成し,これをP6及びP7にメールで送信して加筆を依頼した。上記陳述書には,被告のコーポレートガバナンスが機能を喪失しているため主務官庁である文科省に調査・指導をお願いしている旨記載した上で,被告のコーポレートガバナンスが機能喪失しているとする根拠として,世界タイトルマッチで指定暴力団のリングサイド席での観戦が発覚したこと,被告はこれを確認していたにも関わらず黙認していたこと,警察から厳重注意を受けたにもかかわらずいかなる調査も実施せずに放置していたこと,プロボクサーの覚醒剤不法所持等ボクシン
グ関係者による犯罪行為が発覚しても被告は調査らしい調査を一切行っていないこと,資格審査もせずにライセンスを付与していること,プロボクサーの移籍やレフェリングのミスに関する紛争において裁定機関としての機能を喪失していることなどが挙げられていた。(乙55,124)
(9) プロボクシング選手の戦績等の情報提供
ア 平成23年9月26日,P6は,P34所属のプロボクシング選手が健康上危険な状態になっていることに気づいたため,同選手がプロテスト合格後のデビュー戦直前に左硬膜下水腫と診断されたこと及びその後の経過について,P34の東京地区でのマネジメントの代理人であるP29あてにメールで情報提供し,併せて原告,P7及びP30にも送信した。原告は,上記メールを受けて,被告においてチェック機能が果たせなかった理由等についてP6にメールで確認した。(甲68・27,28頁,乙35,証人P6・
40頁)
イ 平成23年12月9日,P27は,P6,原告らに対し,IBFランキング委員長からの要望で世界ランカーに適する選手を推薦してもらいたい旨 メールし,これを受けたP6は,同月27日,P27に対し,プロボクシン グ選手のP53及びP54に関する情報を提供した。(乙36の1,乙37) ウ 平成24年1月16日,P6は,P27から,プロボクシング選手である
P55及びP56の戦績証明書の発行依頼を受け,これをP27に送付した。また,P6は,P27からプロボクシング選手のP57の戦績証明書の発行 依頼を受け,平成24年2月3日,これをP27に送付した(乙38,90,
98,99,100)。
(10) P32定款案の提供等
ア 原告は,平成23年9月ころ,P30から,ボクシング関係の仕事をしたいというP27の話を聞くとともにP27へのアドバイスを依頼されたことから,P32という法人形態を検討してみてもよいのではないかとP30
に話をし,同年10月4日,P30に対し,「P27さんの関係の会社の設立に関し下記につきご検討下さい。」として,P27の会社について,「株式会社の設立は確かに容易になりましたが,ある種のダミー会社としてはP
27さんや我々に重荷になる可能性が下記のようにあります。」として株式会社設立のデメリットを挙げ,「そこで,新会社法上設立が可能になったP
32(合同会社)の設立を検討してみてはどうでしょうか。」としてP32設立のメリット・デメリット及びP32の特徴をまとめて記載したメールを送信し,CCでP6,P7及びP29にも送信した。さらに,その翌日,原告は,P30に対し,「ざっくり定款作ってみました。あくまで1人会社です。もし複数で考えているようでしたらすぐに修正します。」などと記載した上で「P32定款」のデータを添付したメールを送信し,併せてCCでP
6,P7及びP29にも送信した。もっとも,原告がP30らに送信したこれらのメールに対しては,P30からもP27からも何の反応もなかった。
(甲44・29ないし31頁,甲68・8,9頁,乙30,31,原告本人・
19頁)
イ 平成23年10月中旬ころ,原告は,大阪でP27と初めて顔を合わせ, P30とともに3人でボクシングについて話をする中で,P27は,P32の設立は資金面で難しそうであること,最近のボクシング事情のこと,海外では複数のコミッションや協会が存在するのが当然であり,競争原理の働かない世界はおかしいこと,日本のボクシング業界の閉鎖性に関することなど話し,他方,原告は,日本のボクシング界では「1国1コミッション制」が根付いているから複数の統括団体の設立は現実的でなく日本には馴染まないこと,日本のボクシング界の革新のためには被告が将来的にアメリカのアスレチックコミッションのように発展していくのが望ましいことなど原告の考えを話した(甲44・31,32頁,原告本人・22,23頁)。
ウ その後,P27は,原告に何度か電話をかけて,原告に対し,アメリカの
ボクシング事情などを伝えた上で,日本のボクシング界の閉鎖性を打開するためには将来的に新たなボクシングの統括団体の設立が必要である旨を説いていた(甲44・32,33頁)。
(11) 原告及びP6らのメールでのやり取り等
ア 平成23年10月4日,原告は,P6からメールでインターネット上の記事につき連絡を受けたのに対し,「これからこの流れをどうP17の責任=ガバナンスの崩壊へ結びつけられるかだね。」とP6に返信した(乙43)。
イ P27からのIBF訪問に関するメール
平成23年10月25日,P27からP30,原告及びP6あてに,「2
3日(日)午前,ニュージャージーIBF本部にて会長・P58及び副会長・ P59氏と会見致しました。」とするメールが送信された。同メールには, IBF戦の日本での承認に関して「アスレチックコミッション設立に向けて動いている事を大枠のみ説明しています。」旨,ランキングに関して「世界ランキングはランキング委員長に推薦すれば良い,とのことです。」旨,2
012年のIBF総会に関して「2012IBF総会は,5月にハワイで開催するとのことです。是非参加して下さいとのことです。」旨が記載されていたが,このメールに対しては,誰も返信しなかった。(甲44・33,3
4頁,乙25,原告本人・50頁)
なお,P27が上記のIBF訪問のための米国滞在中に,P27から○を通じて原告の携帯電話に電話があり,P27からIBF関係者を紹介されたため,原告は,当該IBF関係者と数十秒程度話をした(甲44・35頁,原告本人・25頁)。
ウ P27からWBO総会出席に関するメール
平成23年10月26日,P27からP30,原告及びP6あてに,「総会,今日から本格的に始まっています。」としてWBO総会の様子を伝えるメールが送信されたが,同メールに返信したのはP6のみであり,P6とP
27との間で,WBO総会への参加者等に関するメールが2,3度やり取りされた。(乙67ないし73)
エ アスレチックコミッションという名称についてのP6へのメール
原告は,本部事務局長に就任する以前から,個人的に,米国各州のアスレチックコミッションの成り立ちや制度設計等を勉強しており,米国では州法により公的な組織として位置づけられたアスレチックコミッションが競技を統括・管理し,競技ルールや医療管理体制の整備によりスポーツとしての安全性,xx性を担保する仕組みが確立されていたのに対し,日本では中立かつxxに試合管理を行うべき立場の被告とプロボクシングの興行主を兼ねるボクシングジム・オーナーの親睦団体であるボクシング協会とが中心となってプロボクシングを運営しているため,ボクシング協会の声が強くなる傾向があり,ときに「興行の論理」が優先される場面があると原告としては考えていた。そこで,原告は,被告の将来的な発展形態として米国各州のアスレチックコミッションのような統括機関のあり方が望ましいとの考えを持つようになり,この理想論について折りに触れて被告の職員やボクシング関係者にも話をしていたが,実際にこれを実現するためには,法律を制定して法律によってスポーツを規制するという新たな制度を立ち上げる必要があるため,簡単に実現することはできないと考えていた。
原告がアスレチックコミッションに関しネットで検索したところ,「日本版アスレチックコミッション」の創設に関する陳情がxxxにされた旨の記事が見つかった。この陳情に係る「日本版アスレチックコミッション」は原告が想定しているアスレチックコミッションとは全く違う意味で用いられていたものの,「日本版アスレチックコミッション」創設の陳情例があったことから,平成23年11月11日,原告は,P6に対し,上記の陳述例についてメールで伝え,同メールに「やはりアスレチックコミッションという名称は一般的にも通用しそうですね。」と記載した。
(甲44・26,27頁,甲68・11頁,乙26)オ P29及びP60との関係
(ア) 平成23年11月7日,原告は,P29から紹介された,日本陸上競技連盟の事務局で仕事をしているP60と,P29,P6,P7その他数名で会食し,日本陸上競技連盟が同年8月に公益認定を取得した経緯に関する話やキックボクシング界でコミッション設立の話が出ていることなどが話題に上った。(甲44・37,38頁,原告本人・27ないし29頁)
(イ) 平成23年11月18日,P29は,P60に対し,「今のボクシング 界が危機的状況にある。」として被告の問題点を指摘するとともに,「今, キック界もコミッション制度の設立を切実に求め,主要な団体への根回し も始まり,新組織の設立の機運が思ったより早く熟してきている。『キッ クを中心とした格闘技の真剣さ』や私たちが提示する『新組織の収支計画』に納得いただけるようなら,なるべく早く立ち上げができればと願ってい る。」旨のメールを送信した。これに対し,P60から,「事務局長でも 相談役でも協力できることはやってみる。陸連を辞めて専任になることも 私の決断次第だが,生活があるので経済的なバックグラウンドがどうなる かも考慮する必要がある。キックボクシングのコミッショナー立ち上げに 対して腰が引けている訳ではない。」などと記載されたメールがP29あ てに返信され,P29は,このメールのやり取りを原告,P6及びP30 に転送し,この転送を受けたP6は,P29に対し「やはり,経済的な支 柱を可及的速やかに準備していく必要がありますね。財源の確保について,今後重点的にお打合せをさせていただきたいと思います。」とのメールを 返信し,また,原告に対し「P29さんにもメールしましたが,今後のx x確保について,具体策を相談したいと思います。」と記載したメールを 送信した。(乙74,75)
(ウ) 平成23年11月24日,P6は,P29からP60に対する説得材料
として計算書類の作成を依頼されたことから,2012年度収支予算案を作成し,これをP29,原告及びP7にメールで送信したところ,P29から,「お忙しい中,本当にありがとうございます。」と礼を伝える返信があった。その後,P6は,上記予算案の修正版を2回,P29,原告及びP7に送信した。(甲44・38頁,乙32ないし34,証人P6・1
9頁)
カ P10の勤務状況に関するメールのやり取り
平成23年12月7日,P6は,原告に対し,P10の勤務状況(出勤時刻,ネクタイ・上着の着用の有無,昼の離席時刻・戻り時刻,退社時刻等)を記載したメールを送信した。また,翌8日,P6は,原告に対し,P10について,上記と同様の勤務状況のほか,昨日の試合でP10が何らの報告なく帰宅したため健康管理対応に支障が生じたことやスコアの入力を怠ったこと等をメールで報告した。以後も,P6は,P10の勤務状況を継続的に原告にメールで報告した。これらのP6からの報告に対し,原告は,「魂売るようで嫌でしょうが,彼をこちらに引きつけましょう。彼へのパワハラが否定されれば勝てます!」と返信した。
また,原告は,平成23年12月21日,P7に対し,「聞き出して欲しいポイント」として,「1 P10の件 怠慢,不親切,遅刻(手書きカードなど)」,「2 P12のパワハラ,モラハラ 空気清浄機,たばこ,挨拶,経費請求等」,「3 P39の件 戻せないのか,世界戦担当,P23はどう思っているか」などと記載したメールを送信した。
平成24年1月12日から同月23日ころまでの間,P6は,P10が株式会社P47の社員食堂で椅子を並べて横になって仮眠している様子又は机に突っ伏して仮眠している様子を記録した動画又は静止画を,原告に継続的に送信した。
(乙149ないし163,165ないし168)
キ P27から原告へのメール
平成23年12月12日,P27から原告に対し,「そろそろP31設立にご注力いただけないでしょうか。」とするメールが送信され,併せてCCでP30及びP6にも送信された。同メールには,「キックや総合の選手も垣根が低くなるのであれば,ジム,トレーナー含め入りたい関係者は相当数いるのではないか,と感じています。」,「P17部内の綱引きに勝ったところで,何か良くなるとは思いません。」,「P17などなくともボクシングはxxxx。早急にご自身の名誉回復とP31設立へと舵を切って頂ければ幸いです。」などと記載されていたが,原告は,被告を辞めることは全く考えていなかったため,上記メールには一切返信しなかった。
以後,P27から原告に対し,アスレチックコミッション又はP31に関するメールが送信されることはなかった。
(甲44・36頁,乙27,原告本人・26,27頁)ク 放送承認料に関するメール
平成23年12月13日,P7は,本部事務局のP12から同年7月8日に送信された,P61放送承認料を今回に限り5万円で承認する旨のメールについて,「下記含め30万円の件もやらなくては。」と付記して原告に送信したところ,原告は,「やりたい放題だね。これは崩壊始まってるね。放送承認料は,ルール上規定がありP17の経理内規に従って処理してきたにもかかわらず,何の稟議も経ず,経理担当者への相談もなく適当に決定する企業はないでしょう。総攻撃する際の材料にしておきましょう。証拠,証拠」と返信した(乙44)。
(12) P36新聞の記事
平成23年11月23日,P36新聞朝刊に,「東日本大震災の被災地の支援のために,被告が,元ヘビー級王者のP62(米)など世界のスーパースターから預かったサイン入りグラブなど約100点が,段ボール箱に詰められたまま,
都内の倉庫に放置されていることが判明した。被告は,6月末をめどにネット上 でオークションを開き,売上金の全額を被災地に送る方針を示していたが,同月 に被告事務局長が更迭され,グッズが宙に浮いた形となった。」などとする記事 が掲載された。P30は,上記新聞記事を受け,予め原告及びP6らに文面をメ ールで送信して意見を募った上で,平成23年11月24日,被告の職員あてに,上記新聞記事に関し,「全世界から善意の品を集めておいて,そのグッズをたな ざらしにして,しかもオークションをやらない,とはどういうことでしょうか?」,
「P17の連絡体制はどうなっているのでしょうか?なぜ誰もこんな重要なことを引き継ぎもせず,新しい上司にも報告せず,ほったらかしになっていたのでしょうか?」,「追い出したのは,他ならぬ皆さま方ご自身なのですから『P3
9が勝手にやっていた』という理論は通用しません。」,「もし,このままのP
17であるなら,P39氏の復帰運動を始めざるを得ません。」,「即座に行動に移していただくことを望みます。」などと記載したメールを送信した。(乙7
6ないし78,147)
(13) 日本政府観光局とのやり取り
平成23年11月29日,P7は,日本政府観光局から,IBFの会議を日本で開催したいという話があった場合は被告に連絡した方がよいかどうかを尋ねる電話を受けたため,翌日改めてP6あてに連絡をしてもらいたい旨を伝え,上記のような問い合わせがあったことをメールでP6及びCCで原告に連絡した。
その後,P6は,日本政府観光局の担当者から一,二度電話を受け,平成23年12月20日ころ同担当者の訪問を受け,日本政府観光局のパンフレット及び担当者の名刺を受け取った。担当者からは,「日本政府観光局にIBFから日本で会議をしたいとの要望が寄せられたため,それに対する被告の対応方針を聞きたい」旨の申入れを受けたが,被告として対応すべき案件かどうか疑問であったため,回答を保留した。
平成23年12月28日,P6は,P22に対し,日本政府観光局から上記申
入れがあったことを伝え,「被告がIBFに加盟していない以上,対応できない。」と回答することでよい旨の確認をとった上で,日本政府観光局の担当者に対し,
「本案件につき,当財団の本部事務局長と相談したところ,やはり,日本は加盟国ではないため,P17としては対応できない,との判断でした。」,「今後も諸外国からのアプローチがございましたらご連絡いただきたく,心よりお願い申し上げます。」などと記載したメールを送信して回答した。同回答に対し,日本政府観光局の担当者から,IBF側より返答があった場合に改めてご相談させていただくことがあるかもしれない旨の返信があったため,P6は,「改めてアプローチがございましたらご連絡下さい。」と返信した。
平成24年1月5日,日本政府観光局の担当者から,IBF側に伝える被告の 連絡先メールアドレスについて問い合わせがあったため,P6は,原告に確認し た上で,被告でのP6のメールアドレスを連絡先として伝えたところ,翌6日, IBFの大会チェアマンであるP63氏から,被告との強固な業務提携の確立を 模索しているため話し合いをしたい旨のメールがP6あてに送信された。P6は,上記メールに対する返信案として,今後の連絡先をP6個人のメールアドレス
(○)及びCCで原告個人のメールアドレスとし「具体的な要望事項をお聞かせ 願えますか」と記載した文面で返信してよいかを原告にメールで確認したところ,原告は,P6の返信案は適当でないと判断し,別途返信案を作成し直してP6に 返信した。平成24年1月17日,P6は,原告が作成した返信案どおり「P1
7のP22事務局長を代理して,私どもは残念ながら現時点においては貴団体のご要望にお応えすることはできません。一方,P17は近い将来において偉大なる貴団体との協業を検討しております。(中略)私どもはIBFを可能な限り尊重し,感謝の念を込めて貴団体のリーダーシップをお受け致します。」と記載し,
「P17 P6」とのみ付記して,P63氏あてに返信した。
上記のP6の返信に対し,P63氏から「我々はどの時点かにおいてP17と相互に利益のある関係を築きたいと切に願っております。」などと記載された返
信があったため,P6は,再度,対応について原告に指示を仰いだ。原告は,何も返信しないのも失礼だと考え,儀礼的な返信の趣旨で「貴殿の親切かつ迅速な応答をいただきありがとうございます。ご理解いただき感謝申し上げます。今後も私と連絡を保っていただけますでしょうか。敬具 P6」との返信案をP6に送信し,P6は,この返信案でP63氏に返信した。その後,IBFからP6に対してメールが送信されることはなかった。
(甲45・25,26頁,乙28,29,40,41,乙42の1及び2,乙8
7の1及び2,乙96,証人P6・21,22頁,原告本人・30頁)
(14) P38編集部の担当者への連絡
平成24年1月12日,P6は,P64新聞出版P38編集部の担当者に対し,被告が,平成23年6月7日に行われた試合の裁定につき,反則負けとなった選手の所属するボクシングジムから,弁護士を通じて裁定を変えるよう求められていること,被告では,P22,P20,xx弁護士及び堤弁護士らで対応を検討し上記ボクシングジムに回答する予定であること,私見ではこの試合裁定には相当な無理があることなどを試合映像のウェブサイトを付記して連絡した。上記担当者からは,P6に対し,以前に原告から話を聞いており,動画も見ていること,すぐに記事化が可能か不明だが企画書は出してみようと思うことなどが記載された返信があったため,P6は,さらに,「当該選手は3月19日のメインイベントへの出場が決定しているため『旬』となるのはそれまでの間かと思う。」旨の返信をした。(乙86)
(15) P6及びP7の労働組合への加入
P6及びP7は,原告に報告又は相談をしながら,P6については平成24年2月18日に,P7については同年3月1日に,それぞれ労働組合に加入し,労働組合を通じて被告に対し団体交渉の開催を要求するなどした。
P7は,労働組合に提出するために,被告の問題点を書面にまとめ,平成2
4年3月18日に原告及びP6にメールで送信して指導を依頼した。P7が作
成した上記書面には,被告の問題点として,①原告が事務局長のときは毎日のようにミーティングが行われていたが,P22が事務局長に就任した平成23年6月末に一度だけミーティングが行われて以来ミーティングが行われていないこと,そのために,被告内で何が起きて何が問題なのか,誰が何をしているのか全くわからない状況が続いていること,P22に何度懇願しても口ではやると言いつつ未だに行われていないこと,②事務局長が常駐しないことにより業務への支障が生じていること,③P12から嫌がらせや脅迫的なメールを送信されているとP22に相談しても,P22が原因を突き詰めたりP12に注意したりすることはなかったことなどが記載されていた。
(甲44・23頁,甲45・21頁,甲46・26頁,乙170ないし208)
(16) 本部事務局の人事異動及び配置転換
平成24年3月13日,被告の本部事務局の職員の人事異動及び配置転換が実施された。これにより,被告における実務経験を全く有しないP20が本部事務局次長に採用され,P8が無役の職員からxxに昇格した。
他方,原告は,本部事務局のいずれの部にも属さない「特命事項」担当とされたが,原告に対しては,「特命事項」担当となった旨が記載された書面が一枚送付されたのみで,「特命事項」担当としての業務内容や今後の方針についての連絡は一切なかった。また,P6は,これまで一貫して担当してきた経理業務から外され,主としてライセンス管理業務を担当することとされた。そして,P6に代わり,全く経理実務経験のないP8が経理担当とされた。
なお,P13やP12は,P20が事務局次長として採用され,P8がxxに昇格した上記の人事異動に不満を持っており,いずれも平成24年6月15日付けで被告を退職した。
(甲15,甲44・23,24頁,甲45・22頁,甲46・27,28頁,甲66・6頁,原告本人・72頁)
(17) P6に対する懲戒解雇処分
平成24年3月23日,P6は,被告から,就業規則違反の疑いがあるとされ,調査委員会による調査を実施するための調査期間として同年4月12日までの自宅待機を命じられた。そして,平成24年4月9日,被告においてP6に対する聞き取り調査が実施され,同月12日,P6は,懲戒解雇処分とされた。(甲45・24頁)
(18) 本件訴訟提起及び原告に対する懲戒解雇処分
ア 原告は,P6が懲戒解雇されたことにより,もはや被告内部での自浄作用によって組織を変えることは不可能であると考え,平成24年5月24日,本件訴訟を提起した。(甲44・24,25頁)
イ 平成24年6月1日,原告は,P7及びP30と同時に,被告から自宅待機を命じられた。(甲46・29頁)
平成24年6月12日,原告に対する聞き取り調査が実施された。被告側からはP20,P8及びP52弁護士が出席し,主としてP20から質問が発せられて次のようなやり取りが行われた。
(ア) まず,P20は,原告に平成23年6月29日の新聞各紙を示して「真摯に受け止め,理事も辞める。」,「管理者として,未熟さが混乱を生じさせた。」,「陳謝したい」等,原告の発言として記載されている文言について,これらの発言をしたか否か及びこれらの発言をしながら被告を訴えている理由について問い質した(甲68・2ないし5頁)。
(イ) 次に,P20が「この流れをどうP17の責任=ガバナンスの崩壊に結びつけられるかだね」と原告がメールに記載した資料を示してその意味を尋ねたのに対し,原告は,「ガバナンスの,P17の責任を明確にしようという意味であり,P17を貶めようとする考えは一切ない。ガバナンスが崩壊しているという認識をしなければいけないという趣旨であり,ガバナンスの崩壊は,私が画策してできるものではない。」などと説明したところ,P20は「はい,かしこまりました。」と受け流すだけであったた
め,xxxxxの意味が共通理解になっているか否かを原告が確認しようとしたが,被告側は「こちらから質問するものなので」として原告の質問を遮り,次の質問へ移った(甲68・6,7頁)。
(ウ) その後,P20は,P32定款と題する原告のメールを示して,何の会社の定款なのか,なぜP6やP7にまでCCでメールを送信しているのか等質問し,これに対する原告の説明を聞いた上で,「P17の職員であるにもかかわらず,P30,P6,P7,P29,P27とともに,プロボクシング関係の会社の設立を画策していたと理解していいか。」と再度質問したのに対し,原告は,「完全に間違ってます。」,「この会社が登記,登録されているか,又は登録された手続の何か痕跡があるかを調べて下さい。」,「本当にやる気であれば,私が主体的にやるのであれば,その後,この話が出てないと変ですよね。」などと答え,P20が述べた「理解」を全面的に否定したが,P20は,原告の反論に何ら答えることなく,「かしこまりました。じゃ,次の資料お願いします。はい。」と次の質問に移った(甲68・8ないし10頁)
(エ) そして,P20は,「アスレチックコミッションという名は一般的にも通用しそうですね。」と記載した原告のメールの資料を原告に示してその意味を尋ねた。原告は,アスレチックコミッションという共通理念がないと何を話しても違う方向に行く可能性があることを前置きした上で,自分の理念としてP17の発展形態としてアスレチック化が絶対に必要だと考えていたこと,インターネット検索をしたところアスレチックコミッションという表記が見つかり,全く別の種類の団体ではあるものの,その名称での陳情例があった旨を伝えただけであることを説明した。P20が
「情報が遮断されている中で,P30,P6,P7,P29,P27とともに,アスレチックコミッションを,新たに団体として設立を企画したのではないか。」と再度質問したのに対し,原告は,「今の私の説明を全く
聞いてないじゃないですか。全然違うじゃないですか。アスレチックコミッション,誰が設立を画策したんですか。」,「P17の中で,アスレチックコミッションの良いところを持ってきてやらないと。」,「ジム制度とアメリカのマネージャー制度はxx的に違うので,マネージャー制度をそのまま日本のアスレチックコミッションへ持ってきて成功するわけがない。」,「アスレチックコミッションなんて理念の話であって,日本で私が画策してできるような類のものじゃない。」などと理由を説明しながら否定したが,P20は,「かしこまりました。はい。」と述べるのみで次の質問へ移った。(甲68・10ないし12頁)
(オ) 引き続き,P20がIBFに関して「アスレチックコミッション設立に向けて動いている事を大枠のみ説明しています。」と記載されているメールを原告に示して再度「P30,P6,P7,P29,P27に,P28を加えて『P31』という団体の設立を画策したのではないか。」と問い質したのに対し,原告は,「違います。こんなのは設立できません。10
0パーセント無理です。」と答えた(甲68・13頁)。
続けて,P20は,「今後の財源の確保」と記載されたP6から原告あてのメールを示して,「この財源確保は,P31の財源確保か。」と質問したため,原告は,「先ほどから,質問は質問で真摯に受け止めますが,前提として,アスレチックコミッションの設立なんていうのは,全く私が意図しているものでもなく,主体的に動いたものでもなく,全くわかりません。何のための財源確保かは,実態がないから私にはわからない。」と答えた(甲68・14頁)。
(カ) その後も,P20は,「できるだけ引き延ばしてください。」,「できればぐだぐだのままがよいでしょう。」など,原告がメールに記載した文言の意味を問い質したり,P6が原告に送信したメール上の文言や添付資料の意味,P27が原告に送信したメール上の「P65の件」の意味を聞
くなどし,さらに,P27の原告に対するメールに「P31設立へと舵を切っていただければ幸いです。」などと記載されていることに関して,P
20が「あなたはP31の設立を画策しながらP17の弱体化を図っていたと理解してよろしいですか。」と質問したため,原告は,「今の私の説明を聞いて,なぜそういう結論になるんですか。無理ですよ,それは。」などと強く否定した(甲68・14ないし20頁)。
続けてP20から,日本政府観光局からの問い合わせに対する対応,P
10の勤務状況に関するメールでの報告,原告のメールに記載された「総攻撃する」との文言,P6が行った公益通報や文部科学省への通報等について質問がされ,それぞれについて原告は,その記載の意味や自分の考え方を説明した(甲68・21ないし32頁)。
(キ) そして,開始から1時間11分程度経過した時点で,P52弁護士が「はい,じゃあ今日はとりあえず」と述べて聞き取りの終了を告げたのに対し,原告が,「少し自分の弁明もさせてもらっていいですか。」と前置きした上で,「P6のメールについて,自分が言ったことでP6に不都合が生じるのはよくないので,P6にも必ず聞き取りをしていただきたい。社内調査では断片的な事実しか出てこないため,それで重大な処分を受けるのは自分としては承服できないため,関係者にもきちんと聞き取りをし,その上で慎重に判断していただきたい。P31などというのは,自分の頭にはあるが,実体はない。それを,誰かが何かをしようとしたかどうかは,調べていただければわかる。」などと述べ,開始から1時間13分が経過した時点で原告への聞き取りが終了となった(甲68・35,36頁)。
ウ 平成24年6月14日,原告は,P18代表あてに,「平成24年6月1
2日実施された調査委員会・聞き取り調査(以下「本調査」という)に関し,下記の通り,意見具申いたします。」と記載した書面を提出し,概要「本調査におけるP20の質問の仕方がすべてにおいて根拠のない仮説を前提と
して一方的に結論を押し付けるものであり調査手法として著しくxx性を欠くものであった。本調査で質問のあったアスレチックコミッション設立の件等については,すべての関係者から聞き取りを行うなどした上で事実関係を明らかにすべきである。」旨を訴えた(甲26)。
エ 平成24年6月15日,被告は,原告に対し,前記第2の4(6)ア(ア)ない し(エ)記載の事項を懲戒解雇事由とする本件懲戒解雇処分を行った(甲17)。
さらに,被告は,原告に対し,平成25年4月23日の本件訴訟に係る第
7回弁論準備手続期日において,被告準備書面(7)を陳述する方法により,原告に対し,前記第2の4(6)ア(オ)aないしe記載の事項を本件懲戒解雇処分の懲戒解雇事由として追加するとともに,これらの事項を懲戒解雇事由とする第二次懲戒解雇処分を行った。
オ 本件懲戒解雇処分及び第二次懲戒解雇処分を受けて,原告は,これらの懲戒解雇処分が無効である旨主張し,被告に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求等を本件訴訟に追加した。
(19) 被告による反訴提起
平成25年11月26日,被告は,前記第2の4(10)アのとおり主張し,原告に対して反訴を提起した。
2 争点1(本件降格処分の有効性)及び本部事務局長たる地位の確認の利益について
まず,本案前の争点(前記第2の3)のうち本部事務局長たる地位の確認の利益の存否について検討した上で,本件降格処分の違法性について検討する。
(1) 本部事務局長たる地位の確認の利益の存否について
被告は,降格による給与の差額請求に加えて原告が本部事務局長としての地位の確認を求める利益はない旨主張する。
しかし,本部事務局の他の職員が一般職員であるのに対して本部事務局長が管理職であることは当事者間に争いがなく(弁論の全趣旨),本部事務局長の
権限としても,本部事務局職員に対する職制上の役職の任免権限並びに転任,出向,配置転換,職種変更又は応援勤務等の命令権限(就業規則8条,9条。甲9の1)(なお,前記1(1)アのとおり,実務上は,地区事務局長及び本部事務局職員の採用及び解雇の権限をも有する。)及びプロボクシングの試合の指揮監督権限(被告の試合ルール4条。甲55)がある。
また,給与等の額については,基本給は,本部事務局長が月額53万円であるのに対し,被告の主張によれば,一般職員は上限が月額38万円であり月額
15万円の差があるところ,退職金の額は,基本給月額に,勤続期間を一定の区分に応じた割合で乗じて計算されるから(退職金支給規程4条。甲58),基本給月額の差が退職金の額にも当然に影響することになる。また,被告の旅費規程(甲56)によれば,日当及び宿泊料の支給額が,事務局長と一般職員との間で1.5ないし2倍程度の差があり,移転料(赴任に伴う住所又は居所の移転に対して支給されるもの)についても事務局長が一般職員より厚遇されている。
このような権限及び待遇の違いを踏まえれば,被告において本部事務局長と は,月額基本給53万円の支払を受ける地位にあるだけでなく,管理職として, 他の職員等にはない本部事務局長独自の職務上の権限が与えられ,手当や旅費 等の待遇面でも一般職員とは区分して厚遇された地位であるものと認められる。そうすると,本件において原告が求めている本部事務局長たる地位にあること の確認請求は,単に差額賃金の支払のみを根拠付ける地位としてではなく,よ り広く被告における業務遂行上及び待遇上の階級を根拠付ける地位としてその 確認を求めているものと解することができるから,原告において,本件降格処 分に伴う差額賃金の支払請求及びこれを根拠付ける地位の確認に加え,本部事 務局長の地位にあることの確認を求めることは,正当な理由があるというべき である。
よって,本部事務局長たる地位にあることの確認を求める訴えに確認の利益
がないとする被告の主張は,採用することができない。
(2) 本件降格処分の性質について
原告は,本件降格処分は懲戒処分として行われたものである旨主張する。 しかし,本件降格処分が決議された平成23年6月28日の被告理事会の議
事録(乙47)及び同理事会の決議後にP18代表から関係各位にあてた同日付の「ご報告」と題する文書(甲6)には,本件降格処分が懲戒処分としてされたことをうかがわせる記載はなく,その他本件全証拠によってもかかる事情は認められない。また,そもそも被告においては,就業規則上,懲戒処分として降格処分をすることは認められていない(就業規則51条,52条参照)。以上によれば,本件降格処分が懲戒処分として行われたものとは認められな
いというべきであり,原告の上記主張は,採用できない。
(3) 手続の違法性について
原告は,本件降格処分は,同一の事実について,5%の減給1か月の処分及び停職1か月の処分と三度にわたり重ねて処分されている点で一事不再理の原則に反する重大な過誤がある旨主張する。
しかし,前記1(3)エの認定事実,証人P19の証言(証人P19・9,13,
46頁)及び原告本人尋問の結果(原告本人・3,38頁)によれば,5%の減給処分については,P18代表がいったん決断をしながらもP8ら本部事務局職員らの反発を受けて撤回されていること,原告主張に係る停職1か月の処分については,P18代表が本件調査委員会の調査を円滑に行う目的で原告に
1か月の休職を命じたものであって,懲戒処分ではなく,その間の給与も支払われていたことがそれぞれ認められるから,同一事実について三度にわたり重ねて処分がされたものと評価することはできない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
(4) 本件降格処分が人事権の濫用によるものであるか
前記(2)において検討した結果によれば,本件降格処分は人事権の行使による
ものと認められるところ,被告は,本件降格処分の理由につき,原告の予てからの組織運営及び不祥事によって被告の信用を失墜せしめたことが原因である旨主張し,具体的には,予てからの組織運営の問題点としては原告によるパワーハラスメントを,不祥事としては乙4の怪文書の添付写真に写っている「不適切な行動」等及びこれに対する社会的非難をそれぞれ挙げ,これらにより,原告がリーダーシップを喪失し,組織の掌握に失敗して,被告の信用を失墜せしめた旨主張する。そこで,被告の上記主張を踏まえ,本件降格処分が人事権の濫用によるものであるか否かについて検討する。
ア 原告によるパワーハラスメントについて
通告書に記載された「事務局長としての不適切な原告の言動」について, P8,P10らは縷々述べている(乙10,乙11の1,乙103ないし1
05,233,236)が,本件調査委員会は,本部事務局の職員8名全員に対して事情聴取を実施しているところ(前記1(3)カ),P8についても数時間にわたる事情聴取が実施されているから,P8の言い分も本件調査委員会が十分に聴取したものと認めることができる(証人P8・36,37頁)。その上で,本件調査委員会では,P10に対して有給休暇を認めずに欠勤扱いとしたこと及び不十分な説明に基づく雇用契約の不利益変更を行ったことの2点については,行き過ぎであり不相当であると認めざるを得ないと判断されたが(乙46・18,21頁),その余のP8らが主張する「事務局長としての不適切な原告の言動」については,原告のP8らに対する対応や叱責はいずれも理由があり,ことさら問題とするまでもないとの判断がされている(乙46・22ないし24頁)。
このように本件調査委員会でも理由があるとされた叱責等について,P8は,「全く落ち度がないのに繰り返されたもの」,「ちょっとした連絡ミスでも,それをしないと重大な結果になるからと,30分から1時間かけて執拗に責められた。」などとしか認識しておらず(証人P8・35,36頁),
選手の命にも関わる試合管理業務に対する意識の低さもうかがわれるところであり,試合管理業務について厳しい考え方をしていた原告(甲46・2
0頁,甲66・3頁,乙102・15,16頁)からの叱責等の意味を理解しないまま,又は理解しようとせず,原告に対する不満等を募らせていたものと推認することができる。したがって,被告が本件において主張するパワーハラスメントについては,本件調査委員会で不相当と判断された上記2点以外は,理由がないというべきである。なお,P20やP22は,原告がP
8,P10等の職員やアルバイト職員に対して威圧的言動をとっていた旨述べるが(乙230・3ないし6頁,乙234・2頁,証人P22・3,4頁,証人P20・3頁),P20やP22自身がその場面に居合わせたわけではなく,P8やP10等から一方的に話を聞いただけであって,原告には全く事実関係を確認していないのであるから(証人P20・51,52頁,証人 P22・60頁),原告によるパワーハラスメントの存在を裏付ける根拠とはなり得ない。
そして,本件調査委員会で不相当と判断された上記2点についても,原告がP10に対してこのような対応をした背景として,P10の勤務態度には従来から問題があり,他の職員もこれを問題視していたことが認められるのであり(甲38,甲46・17,18頁,乙102・14頁,乙149ないし153,155ないし168),また,雇用契約の不利益変更については,本件調査委員会においても,実質的には雇用継続を前提とした変更であると認められており,かつ,教育的効果を期待して不利益変更を行うのは行き過ぎであると判断しつつ,不利益変更が原因でP10が抑うつ状態に至ったとしてもレフェリーを務められる以上,重篤な状態であるとまでは認められないとも判断されている(乙46・21頁)。これらの事情に照らせば,上記
2点について,原告の対応に行き過ぎがあったと評価せざるを得ないとしても,原告が部下に対し理由もなく不適切な対応をとっていたとまでは認めら
れない。
イ 不祥事及びこれに対する社会的非難について
(ア) 被告は,乙4の怪文書に,「P39はボクシング関係者すべてに対して背信行為を行っている。」,「新たな愛人の入社」などと記載されていること及び添付写真4枚に写っている女性との写真を指して「不適切な行動」,「不祥事」と主張しているものと解されるが,そもそも,乙4の怪文書の記載自体,添付写真に女性と2人で写っていること以外は,何ら客観性のない内容であり,乙4の怪文書のみから,そこに記載された内容がすべて原告の「不適切な行動」であるとも「不祥事」であるともいえないことは当然である。
(イ) P20は,平成23年4月22日の東京試合役員会において,総意として,信頼できない事務局長の下で試合運営をすることはできないとされた旨述べる(乙230・10頁)が,上記試合役員会では特に決議がとられたわけではないから(甲66・3頁,証人P20・53頁,証人P19・
23頁),上記試合役員会の参加者の大半が,P20が述べるような意見であったと直ちに認めることはできない。
仮に上記試合役員会において参加者の大半が「信頼できない事務局長の下で試合運営をすることはできない」との意見に賛成するに至ったとしても,上記試合役員会では,P20の主導により乙4の怪文書が急遽,議題とされ,予め用意された乙4の怪文書のコピーが全員に配付された上で, P20らが原告は被告を辞めるべきだと繰り返し主張していたこと(前記
1(3)イ),P20は東京試合役員会の会長であり,その発言力は大きいと考えられること(原告本人・5頁),原告は当然に辞めるものだと思っていたP8が上記試合役員会で原告のこれまでの言動について参加者に話をしていたこと(証人P8・9頁),他方で,上記試合役員会の当日に突然乙4の怪文書のコピーを渡されて「原告は被告を辞めるべきだ」とのP2
0らの意見を聞いている他の試合役員にとっては客観的な状況の把握が必ずしも容易でなかったと考えられること(甲66・2,3頁)などの事情を総合すれば,他の試合役員らについては,乙4の怪文書の内容の真偽自体が不明であるにもかかわらず必要以上に原告の事務局長としての適格性に問題があると煽られたという可能性も考えられるのであり,参加者の大半が客観的事実を認識した上で原告が事務局長として信頼できないと真摯に判断した結果であるとは断じられないというべきである。
そして,平成23年5月9日に提出された通告書は,その作成名義である「P17東京試合役員・事務局員合同調査委員会」が架空のものであること(原告本人・4頁),通告書の作成経緯について,P20が「中身に異論を挟むことはないので了承した。」旨述べ(証人P20・7頁),P
8が「P29コミッショナーに会わせてもらえなかったので,文書にしてわかってもらおうと思い,本部事務局職員5名で作成した。」旨述べていること(証人P8・10頁)からすれば,その作成名義にかかわらず,主としてP8ら本部事務局職員5名で作成し,P20が上記名称の使用を認めたに過ぎないものであり,必ずしも東京試合役員会の大半の認識を反映したものとは認められないというべきである。また,連判状については,試合役員20名程度の署名がされているが,この連判状は,「告発文で指摘された疑惑について徹底した真相究明を行うこと」,「全ての疑いが晴らされない限り,P39事務局長を解任すること」として,真相の究明と疑いが晴れない場合の原告の解任を求める内容であるから,この連判状に署名したことをもって,直ちに,従前の原告の行状から原告が本部事務局長としてふさわしくないと署名の時点で判断していたと認めることはできない。
(ウ) さらに,P24やボクシングジムに関しては,乙17によれば,平成2
3年4月24日の時点で,P24の理事会では,乙4の怪文書の問題を被
告の内紛と判断し静観の姿勢をとるものとされていたことが認められるのであり,また,前記1(3)ケ(イ)のとおり,P26は,原告の試合会場への立入りを禁ずる旨の書面を提出しているものの,同書面に「協会より要望書に返答あるまで」と手書きで追記していることから,原告を拒否する態度が確定的なものであったとは必ずしもいえないというべきである。
(エ) 以上によれば,平成23年4月22日の東京試合役員会を経て通告書及び連判状が提出されたことをもって,試合役員の大半が,乙4の怪文書及び通告書記載の事実の真偽が明らかになる前の段階で,原告が本部事務局長として不適任であると真摯に判断していたものとは認められないのであり,また,いくつかのボクシングジムから原告の試合会場への立入りを禁ずる書面が提出されていることをもって,ボクシングジムの大半やP2
4が原告に対して強い不信感や拒否感を従前から抱いていたとは認められず,その他本件全証拠によってもこれらの事実を認めるに足りないというべきである。
ウ 本件降格処分に至る実態及び本件降格処分の理由について (ア) 本件降格処分に至るまでの状況について
前記認定事実等によれば,平成23年4月24日の時点ではP24の理事会では静観の姿勢をとっており(前記イ(ウ)),同月26日ころの時点で,P18代表は,乙4の怪文書の問題に関し,原告に対して5%の減給処分とすることを考えていたのであって(前記1(3)エ),平成23年5月16日の被告の理事会においても原告が乙4の怪文書の問題で混乱を起こしたことが就業規則違反に当たるなどといった議論は全く出ていなかった(証人P19・13,14頁)ところ,通告書及び連判状の提出を受けて,P18代表及びP19が協議した結果,調査委員会を設置して真相究明せざるを得ないとの判断に至り(証人P19・10頁),同月12日の被告協議会で,P19が職員らに対し,原告に休職1か月を,P19
に事務局長代行をそれぞれ命ずる旨のP18代表の示達を伝え,調査委員会を立ち上げて調査を行う旨の説明をした(乙238・15,21頁,前記1(3)オ)との経過であったことが認められる。
このように通告書や連判状でも求められていた「真相究明」のための調査が被告において実施されることになったにもかかわらず,P20やP8らは,被告による調査を踏まえた判断には必ずしも従わない態度を示し,試合役員のライセンス返上の可能性を示唆しつつ原告に対して辞任を自ら決めるよう迫り(前記1(3)オ),続いて,被告の対応が中立性を欠くとする書面や原告の従来の言動を批判する書面等を各方面に提出するなどし(前記1(3)キ(ア),(イ),(オ)ないし(ク))さらに,平成23年5月3
1日には,本件調査委員会による調査や原告の不正経理問題についての意見表明をマスコミ等に対して行い(前記1(3)キ(ウ)(エ)),加えて,平成
23年6月10日には,休職期間が明けた原告に対して事務局長代行補佐を命ずる旨の示達がP18代表から出されたにもかかわらず,これにP8らが強く反発し,結局,休職期間が明けても原告が出勤できない状態を継続させている(前記1(3)ク)。以上の事実経過によれば,当時の被告においては,通告書や連判状の要望を受けて手続を踏んで問題の解決を図ろうとしたものの,手続を無視した,P20やP8らの原告排除へ向けた強硬な態度を適切に制することが全くできていない状況に陥っていたものと認められる。
そして,本件調査委員会による調査結果が明らかにされる直前の,平成
23年6月23日には,P22及びP20らがマスコミ向けの記者会見を開き,被告に代わって国内試合を統括する新団体の設立等の意向を表明した結果,分裂の危機との報道がされるに至っている(前記1(3)ケ(エ))。なお,上記の新団体設立について,P20は,あくまで試合運営のための暫定的なものであるなどと縷々述べる(証人P20・10,12,57,
58頁)が,試合役員各位にあてたP20名義の平成23年6月23日付の文書(乙23の1)に「P19及び原告の排除を条件に被告体制堅持の要請があれば,現行の被告体制を維持することについて検討をする。」旨明記されている以上,P19及び原告が被告から排除されない限り,被告とは別の新組織体制を維持していく意向であったことは明らかであるから,P20の上記証言は採用できない。
(イ) 本件降格処分の理由について
上記の経過を経て,平成23年6月28日の被告の理事会において原告の本部事務局長の職を解く旨の決議(本件降格処分)がされたものであるが,通告書で指摘された様々な問題点は本件調査委員会において労務管理に関する2点を除きすべて事実と認められないとして否定されたこと(乙
46),本件調査委員会も評価するとおり原告が被告の発展に貢献してきたこと(乙46・29頁),本件調査委員会の調査結果が出る前の段階から試合役員の大半が原告につき本部事務局長として不適任であると真摯に判断していたとは認め難いこと(前記イ(イ)),当初は,P18代表も減給
5%の処分が相当であると判断し,また,P24も内紛とみて静観の姿勢 をとっていたこと(前記イ(ウ))などの事情に照らせば,原告に対し本部事 務局長の職を解く降格処分までする必要性は見出し難いというべきであり,被告代表者P23本人尋問の結果(被告代表者P23本人・8,9頁), 証人P22の証言(証人P22・17頁),証人P20の証言(証人P2
0・55ないし57頁),証人P19の証言(証人P19・16,17頁)その他本件全証拠によっても合理的な必要性があるものとは認め難い。なお,本件調査委員会において不相当と判断された労務管理に関する2点については,前記アのとおり何らの理由もなく行われたものとまでは認められず,かつ,雇用契約の不利益変更後も被告とP10との雇用契約は継続しているところ,前記1(6)のとおり,P22及びP8が権限を有しないに
もかかわらず正当な理由なくP30に対し解雇を通知した行為については,被告はP22及びP8に対し口頭で注意するのみで終わらせているのであ るから,P22及びP8に対する被告のこのような態度に照らせば,上記 の労務管理に関する2点を主たる理由として本件降格処分をすることは, 著しく不均衡であり,重きに失するというほかない。
そして,被告は,本件降格処分に続けて本件減給処分及び本件配転命令等を行い,原告を被告の中心的業務から実質的に排除したと評価し得る対応をとっているところ,上記のとおり本件降格処分につき合理的な必要性を見出し難いことに加え,本件降格処分に至るまでの状況(前記(ア))を考え併せれば,被告は,P20らによる新団体の設立を阻止して被告の分裂を回避するため,本件降格処分を本件配転命令等と併せて行い,もって,原告の排除を求めるP20らの要求に実質的に応じたものと評価せざるを得ない。
(ウ) 小括
以上に検討したところによれば,本件降格処分は,P20らによる新団体の設立を盾にした要求に対し,被告が分裂を回避するために,P20らの要求を受け入れ,原告を被告から実質的に排除することを主たる目的として行ったものと認めるのが相当であり,人事権の適切な行使によるものとは認められないというべきである。
よって,本件降格処分は,被告の人事権の濫用に当たると認めるのが相当であり,違法,無効である。したがって,原告は,本件降格処分がされた平成23年6月28日以降も,被告の本部事務局長たる地位を有し,かつ,月額基本給53万円の支払を受ける地位を有するものと認められる。
3 争点2(本件減給処分の有効性)
本件減給処分は,本件降格処分により原告が事務局長の職を解かれることに伴い,原告の給与を,事務局長に支給される給与である月額53万円から一般職員
としての月額38万円に減給するものであるが,前記2において認定したとおり本件降格処分自体が無効である以上,本件降格処分に伴い実施された本件減給処分も無効であるというほかない。
なお,被告は,本件減給処分により原告の給与を月額38万円としたのは,被告における一般職員の月額基本給の最高額が38万円であるためと主張するが,本件減給処分における給与額の決定過程に関する被告代表者P23本人尋問の結果(被告代表者P23本人・12,33頁)その他本件全証拠によっても,一般職員の月額基本給の最高額が38万円であると認めるに足りないというべきである。
4 争点3(本件配転命令の有効性)
本件配転命令は,本件降格処分により事務局長の職を解かれた原告の業務について,その勤務場所をP1のP2事務所とし,かつ,従前の担当業務をすべて外して一般財団法人又は公益財団法人への移行手続に係る業務のみを原告の担当業務とするものであるが,被告代表者P23本人尋問の結果(被告代表者P23本人・12,13,30,32,49頁)及び証人P22の証言(証人P22・3
6,37,55,61頁)によれば,被告は,原告と同一の就業をしたくない,原告の顔も見たくないというP8ら職員の意向を,その正当性を何ら検討することなくそのまま受け入れる一方で,原告の意向を確認することなく,P8ら職員との交わりがないことを最優先に原告の勤務場所及び担当業務を決めたものと認められる。以上に加えて本件降格処分に至った経緯及び理由が前記2において検討したとおりであることを考え併せれば,本件配転命令は,P20やP8らの意向に従い原告を被告の中心的業務から実質的に排除することを主たる目的として行ったものというほかなく,正当な業務上の必要性に基づくものと認めることはできない。
よって,本件配転命令は,本件降格処分と同様に,人事権の濫用に当たり,無効であるというほかない。したがって,原告は,P1のP2事務所に勤務する雇
用契約上の義務を負わない。
5 争点4(本件業務命令の有効性)について
原告は,被告から,平成23年6月28日以降,本部事務所及びボクシングの試合会場への立入りを一切禁じる本件業務命令を受けた旨主張し,本件業務命令の無効確認を求めている。
確かに,前記1(3)キ(ケ)及びケ(イ)のとおり,平成23年6月12日及び同月1
6日にボクシングジムから被告あてに原告の試合会場への立入りを禁止する旨の書面が提出されている。また,原告は,平成23年6月27日にP18代表から本部事務所及びボクシングの試合会場への立入禁止を告げられた旨述べ(原告本人・79頁),実際に同月28日以降に原告が本部事務所及びボクシングの試合会場のいずれにも立ち入っていないことについては被告も特に争っていない。
しかし,ボクシングの試合会場への立入りの許否自体は,当該会場の管理者又は当該試合の主催者であるボクシングジムがこれを最終的に決する権限を有するものと解されるのであり(乙19,22,被告代表者P23本人・52頁),被告にはその立入り自体を禁じたり,これを解いたりする権限はないと解される。また,原告が平成23年6月28日以降に担当業務として割り当てられた一般財団法人又は公益財団法人への移行手続に係る業務についても,本部事務所に立ち入る必要がある場合は当然にあり得ることであり,それにもかかわらず原告に本部事務所への立入りを禁ずることをやむを得ないとする合理的な理由は見出し難い。
そもそも被告は,原告主張に係る本件業務命令の存在自体を否定しているのであり,これらの点につき,P23が「原告に,ボクシングの試合会場への立入禁止を命じていないが,心証を悪くするからいない方がいいと助言した。」旨述べ
(被告代表者P23本人・52頁),P22が「本部事務所へ来るなとは言っていないが,来た場合は職員の皆が困ると言ったかもしれない。」旨述べている(証人P22・62頁)ことからすると,被告が原告に対し「本部事務所やボクシン
グの試合会場に立ち入らないように。」などと告げたとしても,それは,被告から原告に対する要請又は事実上の指示にとどまるものであって,これに反した場合に懲戒処分(就業規則53条3項,54条1号,55条2項,12条3項)を行うことが予定された「業務命令」であるとまでは評価できないというべきである。
よって,原告主張に係る本件業務命令は,その存在自体を認めることができないから,確認の利益その他本件に関するその余の主張について検討するまでもなく,本件業務命令に関する原告の請求は理由がないといわざるを得ない。
6 争点5(不法行為の成否及び損害の有無)について
前記2ないし4のとおり,本件降格処分,本件減給処分及び本件配転命令は,いずれも人事権の濫用であり無効であるから不法行為に該当するというべきであるところ,本件降格処分や本件配転命令に至る経緯が前記2(4)ウ及び4のとおりであること,P1のP2事務所における執務環境や本件降格処分後の本部事務局における原告の待遇が前記1(4)のとおりであるところ,これらに対して被告が何らかの対処をしたといった事情は全くうかがわれないこと,本件配転命令後の平成23年7月6日から原告が精神科に継続的に通院して投薬治療を受け(甲43の1及び2),平成24年5月9日にはうつ病と診断されていること(甲16)並びに原告及びP6の各陳述(甲44・16,17頁,甲45・16頁)などを総合考慮すれば,本件降格処分に引き続く本件配転命令等により原告が精神的損害を被ったものと認めることができ,これに対する慰謝料は30万円とするのが相当である。
なお,被告は,原告がメール等を利用して活発に被告の組織を壊乱する行為を繰り返しているから精神疾患に罹患していたはずがない旨主張するが,後記7及び8において検討するとおり,そもそも原告が被告の組織を壊乱する行為を活発に繰り返していたとは認められないから,被告の上記主張は採用できない。
よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として3
0万円及び本件降格処分がされた平成23年6月28日から年5分の割合による遅延損害金の各支払を請求することができる。
7 争点6(本件懲戒解雇処分の有効性)について
(1) 懲戒解雇事由の存否
被告は,原告が事務局長からP22を追い落とし自らが事務局長に復権するために被告組織内部の秩序を壊乱する行為を行ったとし,これらが懲戒解雇事由に当たる旨主張するので,被告主張に係る各行為の有無等について検討する。ア 別組織の立ち上げ
被告は,原告が,P6,P7,P30及びP27らと共謀してP31の設立を企図し,IBFと接触を保ち,P31に関連する合同会社(P32)の定款案の作成やP31の収支予算を試算するなどして,P31設立を具体化しようとした旨主張し,原告の上記行為が就業規則55条11号,15号又は18号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する(前記第2の4(6)ア(ア)及び (エ))ので,被告主張に係る事実関係の存否について検討する。
(ア) P32定款案の作成について
被告は,乙30及び31等を根拠に,原告が定款案の作成等を行った「P
32」は,原告がP27,P30らと共謀して設立を企図していたP31に関係する会社である旨主張する。
原告がP32設立の検討をP27に対して提案する内容のメールを平成
23年10月4日にP30に送信し,定款案を作成して翌5日に再度,P
30に送信した経緯及びその内容については,前記1(10)のとおりである。上記行為に関して,原告は,本件懲戒解雇処分に先立って行われた平成
24年6月12日の聞き取り調査及び本件訴訟における原告本人尋問のいずれにおいても,将来的に被告の経営とP32やP66などをうまく融合できないかを従前から検討していたこと,上記のP30あてのメールを CCでP6やP7にも送信したのは一種の教育的配慮によるものである
ことを述べるところ(前記1(18)イ(ウ),甲68・8,9頁,原告本人・
20,21,57頁),原告がP30に対して送信した上記2つのメール に対してP30,P27,P6及びP7のいずれからも返信はなく,また, 上記メールの後に原告らがP32設立に向けて具体的に動いていたとも うかがわれないから,原告がP27にP32設立の検討を提案してその定 款案を作成したこと及びそれらのメールをCCでP6やP7に送付した ことをもって,原告がP6らと共謀してP31なる別組織の設立を企図し,その一貫としてP27にP32設立の検討を提案していたものと推認す ることはできないというべきである。そして,その他本件全証拠によって も被告主張に係る事実を認めることはできないから,被告の上記主張は,理由がない。
(イ) IBFとの接触
被告は,乙25,28,101及び209等を根拠に,原告が,P31の設立を企図した上で,P27,P6及びP30らと共謀して,独自にI BFと接触し,IBFの協力を得ようと画策していた旨主張する。
確かに,前記1(11)イのとおり,IBF本部を訪問したというP27から訪問結果等を伝えるメールが原告,P6及びP30あてに送信されているが,同メールに対しては誰も返信しておらず,原告自身は同メールに対して「うそくさい話だと思った。」旨述べている(原告本人・24頁)。なお,被告は,原告がP27の上記メールの「2012IBF総会は,ハワイで開催する」旨の記載を受けて,P7あてのメールに「来年はハワイでの開催が決まっています。」(乙28)と,P6あてのメールに「IB Fは来年ハワイです。みんなで行きましょう!」(乙101)とそれぞれ記載していることを根拠に,P27,原告,P6及びP7の間にIBFとの接触に関して意思疎通が図られていた旨も主張するが,原告がP27の上記メールを「うそくさい」として相手にしなかったからといって同メー
ルに記載されているすべての情報を無視しなければならないものではなく,「ハワイで開催する」との情報を利用してP7やP6に上記のようなメールをしたことをもって直ちにP27,原告,P7,P6らの間で被告主張のような意思疎通が図られていると考えることはできない。
そして,前記1(10)イ並びに(11)エ及びキの各認定事実及び原告本人尋問の結果(原告本人・23ないし27頁)によれば,日本のボクシング界における「1国1コミッション制」について原告とP27とでは考え方が異なっており,平成23年12月のP27から原告に対する「そろそろP
31設立にご注力いただけないでしょうか。」とのメールに対し,原告は,一切返信しておらず,以後,原告とP27との間でP31に関するやり取りはされていないことが認められる。
被告は,平成25年4月2日付IBF会長の回答書面(乙209の1及び2)を根拠に,原告がP27と意を通じて新コミッション設立に関与していた旨も主張するが,そもそも,上記回答書面は,原告の求めにもかかわらず,被告が質問書面を提出しないため,いかなる質問に対する回答として記載されたものであるか明らかでないところ,原告は,IBF会長に新コミッション設立を試みていると話したことは絶対にない旨述べている(原告本人・53頁)。前記のとおり,平成23年12月のメールを最後に原告とP27との間でP31(新コミッション)に関するやり取りはされていないのであり,その他本件全証拠によっても原告がP27と意を通じてP31設立の準備を進めていたことを裏付ける実態があったと認めることはできないから,IBF会長による上記回答書面のみで,被告主張に係る事実の存在を認めることはできないというべきである。
よって,IBFとの接触に関する被告の主張は,理由がなく,採用できない。
(ウ)P31の収支予算の試算
被告は,乙32ないし34,74及び75等を根拠に,P6が作成し,原告,P7及びP29との間で情報共有している収支予算案は,P31に関するものである旨主張する。
前記1(11)オ(ウ)のとおり,P6が2012年度収支予算案を作成して,これを原告らにメールで送信した事実は認められるが,同オ(ア)及び(イ)の各認定事実によれば,P6が作成した収支予算案は,P29が検討しているキックボクシングのコミッションに関するものであると認めるのが相当であり,P6の上記メールに対し原告が返信した事実は認められないこと,原告は,上記メールを受信した際に上記の収支予算案まで見ていない旨述べていること(原告本人・58頁),上記の収支予算案について原告が何らかの形で関与していたことをうかがわせる事情も認められないこと,その他上記の収支予算案がP31に関するものであることを裏付ける具体的な事情も認められないことなどに照らせば,被告の上記主張は,理由がないというほかない。
(エ) 原告によるP31の設立の企図について
前記1(10)イ,(11)エ及び(18)イ(エ)の各認定事実及び原告本人尋問の結果(原告本人・23頁)によれば,原告は,従前から,被告の将来的な発展形態として米国各州のアスレチックコミッションのような統括機関のあり方が望ましいとの理想論を持っていたものの,米国と日本との制度のxx的な違いから,1国1コミッション制が根付いている日本のボクシング界に,米国の制度をそのまま持ち込んで複数のコミッションを設立することは現実的でなく,日本に馴染まないとの考えであったと認めることができる。
平成5年以前は試合役員又はアルバイト職員として,平成6年1月からは被告の職員として,そして,平成18年4月からは本部事務局長として,日本のボクシング界に深く関わってきた原告にとって,1国1コミッショ
ン制が根付いている日本のボクシング界の土壌については当然に熟知していたものと推認されるのであり,そのような原告が,有力な支援団体等もなく複数コミッション制を求める一般的な機運等もない中で,安易に別コミッションの設立を企図するとは考え難い。また,被告の主張によれば既に原告がP31の設立を企図して画策をしているとする時期に相当する平成23年12月以降の時点において,原告は,同月7日及び8日には P22に対し,「P17に協力したいのです。」と述べて業務の引継ぎ及びアドバイスをさせてくれるようメールで懇願し(前記1(5)。甲11の
1及び2),同月19日及び27日にはP22に対し,被告の信頼失墜のおそれがある旨指摘して年末の世界戦を担当させてくれるようメールで懇願し(甲12の1及び2),他方,「P17などなくとも」というP2
7から誘いに対しては全く取り合わず(前記1(11)キ),さらに,平成2
4年2月6日及び同月10日にはP23,xxx護士又はP22と面談し,一日も早く本部事務所に戻り通常の業務を行わせてほしい旨訴え(前記第
2の1(7)),同月29日にはP22及びxx弁護士に対し,被告における暴力団排除の業務が実質上停滞していることを指摘して同業務を再度担当させてくれるようメールで懇願する(甲13)などしており,原告が被告を離れる意思を有している様子は全くうかがわれない。
以上のような原告の考え,経歴及び当時の客観的言動等に照らせば,原告がP6らとともにP31等の新コミッションの設立を企図していたとは考え難く,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
(オ) 小括
以上に検討したところを総合すれば,原告がP6らと共謀してP31等の別組織の設立を企図したとの事実を認めることはできないというべきであり,この点に関する被告の主張は,理由がない。
ところで,前記1(3)ケ(エ)において認定したとおり,P22,P20及
びP8らは,平成23年6月23日,マスコミ向けの記者会見を開き,被告に代わって国内試合を統括する新団体設立の意向を表明するとともに,原告を被告から排除する内容の処分が被告の理事会で出れば被告に再合流することを示唆し,その結果,被告の分裂の危機との報道がされるに至っているところ,上記P22,P20及びP8らによる行動は,まさに被告とは別のコミッションの設立を企図したものと評価し得るにもかかわらず,被告は,P22らの上記行動に対して何らの処分もしていないのであるから,原告についてのみ,上記(ア)ないし(ウ)において検討したような断片的な事象を根拠に別組織の設立を企図したものとして原告につき懲戒解雇事由に当たるとするのは,明らかに均衡を欠き,平等原則にも反するというべきである。なお,P22,P20らによる上記新団体の設立に関し,あくまで暫定的なものである旨P20が述べていること(証人P2
0・10,12,57,58頁)に理由がないのは,前記2(4)ウ(ア)において述べたとおりである。
イ 情報の漏洩について
被告は,原告がP6らと共謀して,ボクサーの個人情報や戦績など,被告の内部情報を第三者に開示したとして,これが就業規則55条6号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。
前記1(9)アによれば,P6がP34のボクサーの健康状態に関する情報を P29に提供したのは,P29が同ジムの東京地区におけるマネジメントの代理人であったためと認められるから,無関係な第三者に対する内部情報の漏洩であったとは認められないというべきである。
また,前記1(9)イ及びウによれば,P6がP27に対してボクサーxxの戦績を開示したことが認められるが,P6が開示した情報と同様の情報が,一般公開されている「○」にも記載されていること(甲31)や証人P6の証言(証人P6・43頁)に照らせば,P6が開示した情報が就業規則55
条6号の「業務上の重大な秘密」に該当するとは考えにくい。そもそも,上記の戦績等の開示行為は,あくまでP6が行ったものであり,被告が主張するように当該行為が原告と共謀して行われたものと認めるに足りる証拠はないから,いずれにしても,原告に就業規則55条6号の懲戒解雇事由が存する旨の被告の上記主張は,理由がない。
ウ 独断の行為について
被告は,原告が,P6,P7らと共謀して,日本政府観光局からの連絡についてP22に伝達せず,あたかもP6が被告の窓口であるかのように装わせてIBFとの接触を継続したとし,これらの行為が就業規則55条4号,
11号又は18号に該当する旨主張する。
日本政府観光局とのやり取りについては,前記1(13)において認定したとおりであるところ,被告は,最初に問い合わせを受けたP7がP22に確認をとることなくP6に対応を依頼したこと,P6がP22に対応を確認したのが1か月程度経過してからであったこと等を問題にするようであるが,P
22が本部事務所に出勤するのは週に3日で,かつ,滞在時間は,数十分から長くて2,3時間程度であったこと(証人P6・55頁),P7が連絡を受けた段階では日本政府観光局からの問い合わせの趣旨が明確でなかったこと,P6としては,P22に報告する前に上記問い合わせの趣旨や背景事情を確認し整理する必要があると考えていたこと(証人P6・34,56,
59頁),特に急ぐ案件ではなかったこと(証人P6・59頁),P6は,日本政府観光局の担当者に回答する前に,P22に日本政府観光局からの問い合わせについて報告しその回答内容の確認をしていること(前記1(13))からすれば,P7の対応もP6の対応も特に問題とすべきものとは認められない。
また,被告は,上記の回答後にIBFの担当者から直接P6にメールが送信されたことや,P6が原告に相談した上で上記メールに返信していること
等に関して縷々主張するが,前記1(13)の認定事実によれば,P6は,「P
17のP22事務局長を代理して」あくまで被告として返信しているのであって,被告が主張するようにP6が被告の職員としてではなくP6個人として今後IBFと連絡を取り合いたいとの趣旨の返信をしたとは認められず,実際,その後にP6がIBFの担当者から引き続きメールを受け取ったとの事実も認められないことからすれば,被告の主張は,いずれも理由がないというべきである。
よって,独断の行為に係る被告の主張は,理由がなく採用できない。
(2) 本件懲戒解雇処分における懲戒解雇事由の追加の可否
一般に,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,当該懲戒の理由とすることができないと解されるところ,被告は,本件懲戒解雇処分につき懲戒解雇事由を5項目追加し,当該追加が許されるべき特別の事情として,いずれの懲戒解雇事由も原告が被告の組織の弱体化,内部秩序の壊乱及びガバナンスの崩壊を意図して行った一連の行為である旨主張する(前記第2の4(6)ア(オ))。
しかし,前記(1)において検討したとおり,被告が主張する本件懲戒解雇処分の懲戒解雇事由は,いずれも事実として認められないものである以上,被告が追加する懲戒解雇事由が,本件懲戒解雇処分の懲戒解雇事由とされた行為等と一連の関係にあると評価することができないのは明らかである。
よって,被告主張に係る懲戒解雇事由の追加は,これが許されるべき特段の事情が存しないから,認めることはできない。
(3) 本件懲戒解雇処分の適法性
以上によれば,本件懲戒解雇処分について,懲戒解雇事由として被告が主張する事実はいずれも認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,本件懲戒解雇処分は正当な理由なく行われたものであり無効というほかない。
なお,本件懲戒解雇処分の手続に関し,被告は,「原告及びP7の弁解を聴取したが,いずれも肯けいに当たらず,P27,P28及びP29に対する聞き取り調査を実施する必要がなかった。」旨主張するが,前記1(18)イ及びウの各認定事実等によれば,平成24年6月12日に実施された聞き取り調査において,原告は,P32やP31の設立等,被告が懲戒解雇事由に当たると評価する重要な事項に関し,被告の認識が間違っている旨を具体的に理由を述べて反論していることが認められる一方,被告においては基本的にこれを聞き流す態度であったことがうかがわれるのであり,上記の聞き取り調査につきP2
0が「非常にあいまいなもので,参考にできるものが非常に少なかった。」旨述べ(証人P20・20頁),調査結果の報告を受けたP23が「分からないとか,覚えていないとか,記憶にないとかいうようなことばかりだった」旨述べていること(被告代表者P23本人・22頁)などを考え併せると,上記の聞き取り調査では,P20らは当初から原告の言い分を真摯に受け止める意思を有していなかったものと推認される。以上に加え,原告が被告に対し,関係者からの聞き取り調査の実施を求めたにもかかわらず,被告は,メールがあること,P29,P27及びP28のいずれも被告のライセンスを持っていないことを理由に,同人らの聞き取り調査を実施せず(証人P20・33,34頁,被告代表者P23本人・35ないし37頁),さらに,P23及びP22は,乙4の怪文書に添付された写真が週刊誌に載ったこと(女性問題)も理由の一つとして考慮した上で本件懲戒解雇処分を決定している(被告代表者P23本人・39頁,証人P22・46頁)など,本件に現れた事情を総合考慮すれば,被告は,当初から懲戒解雇相当という結論ありきで原告に対する聞き取り調査を行っていたものと考えられるのであり,懲戒解雇事由について十分かつ慎重な調査を欠いていたといわざるを得ない。
8 争点7(第二次懲戒解雇処分の有効性)
被告は,前記第2の4(6)ア(オ)aないしeを懲戒解雇事由として第二次懲戒解
雇処分を有効にした旨主張するので,その有効性について検討する。
(1) 手続の違法性について
第二次懲戒解雇処分は,本件訴訟に係る第7回弁論準備手続期日において,被告準備書面(7)を陳述する方法により行われたものであるところ,第二次懲戒解雇処分を行う前に,被告が原告に対して別途聞き取り調査等を行っていないことは被告も争わない。
この点につき,被告は,原告には本件訴訟手続において十二分な弁明の機会が与えられた旨主張する。確かに,第4回弁論準備手続期日において被告が陳述した準備書面(4)には,文科省への告発や就業中の職務外行為など,第二次懲戒解雇処分における懲戒解雇事由として被告が主張する事実と同様の事実関係についての主張があることが認められるが,第6回弁論準備手続期日では,被告は,準備書面(6)を陳述して「準備書面(4)において,原告に対する懲戒解雇事由を追加していない。」などと主張しているから,被告が第二次懲戒解雇処分の懲戒解雇事由として何を主張するかは,準備書面(7)において初めて明らかにされたと認めるのが相当である。そうすると,本件訴訟手続においても,原告が第二次懲戒解雇処分を受ける前にその懲戒解雇事由につき予め弁明する(反論する)機会が十分に与えられたものと評価することはできないというべきである。
さらに,就業規則52条2項は,懲戒処分の手続について,「関係協議の上,処分を決定する。」旨定めているところ(甲9の1),第二次懲戒解雇処分の決定手続について,P23及びP22は,「P23,P22及びP20の三者で協議した。」旨述べる一方(被告代表者P23本人・23,52頁,P22・
63頁),P20は,「代理人弁護士に任せていた。内部での協議には,私は入っていない。協議があったかなかったかはわからない。」旨,上記P23及びP22と矛盾する内容の証言をしている(証人P20・64頁)ことからすると,第二次懲戒解雇処分の実施に当たっては,上記就業規則の定めに従いし
かるべき者による関係協議が行われなかった可能性が高いと考えざるを得ない。以上によれば,第二次懲戒解雇処分は,その手続上,予め原告に弁解の機会
を与えることなく,また,就業規則の定めに従った協議を行わずに実施されたという重大な瑕疵が存する蓋然性が高いというべきである。
そうすると,第二次懲戒解雇処分は,違法な手続により行われたものとして無効である蓋然性が高いと解されるが,本件事案の性質等に鑑み,懲戒解雇事由の存否についても後記(2)において検討する。
(2) 懲戒解雇事由の存否について
ア 第9号公益通報及び第10号公益通報が懲戒解雇事由に該当するか
前記1(7)イのとおり,第9号公益通報及び第10号公益通報のいずれも, P6がP18代表あてに行った内部通報であるところ,P6は,いずれの公益通報においても,原告,P7及びP30に対し,公益通報書面の原案を送付して意見を求めるなどしており,原告も適宜に加筆修正等をしている。
被告は,上記のいずれの公益通報も,原告がP6と共謀の上,被告のガバナンスの弛緩を吹聴すること等を目的に,内容が虚偽であり,かつ,被通報者及び被告の利益を害することを知りながら行ったものであるとして,原告がこれらの公益通報を行った行為が就業規則55条2号等の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。
(ア) 第9号公益通報及び第10号公益通報の通報者
P6は,第9号公益通報及び第10号公益通報のいずれも自分の意思と自分の責任において行った旨を述べており(証人P6・46頁等),原告も,公益通報をすること自体には賛同していたとしつつ,これらの公益通報をやろうとしてやったのはP6である旨述べている(原告本人・65,
83頁)。また,P6は,公益通報をする前に書面の原案等を原告に送付して修正等を依頼した理由について,被告の中で相談することができ,間違いを指摘してくれるのは原告しかいないと考えていたためである旨述べ
ており(証人P6・61頁),実際,例えば第10号公益通報の書面では,原告の修正により,外部通報の可能性を示唆する原案の記載が削除され,人事が一部職員等に左右されることは組織のガバナンスにおいて極めて憂慮すべき事態であるとの指摘が書き加えられるなどしている(前記1(7)イ)。さらに,P6は,第9号公益通報を行う以前に,P18代表あての公益通報を6回行っているところ(前記1(7)ア),これら6回の公益通報についてP6が原告と共謀して行ったものとは被告も認識していないことを考慮すれば,あえて第9号公益通報及び第10号公益通報についてP6が原告と共謀して行うべき特段の必要性は認められず,他方,公益通報保護法に基づき正式な手続で公益通報をするにもかかわらず,原告がP6の名を借りて公益通報をしなければならない理由も特段見当たらないというべきである。
以上によれば,第9号公益通報及び第10号公益通報に関し,原告がP
6の依頼を受けて書面の修正等を行う限度で協力したことは認められるが,原告がP6と共謀し,自らも通報者として行ったものとまでは認められな いというべきである。
(イ) 第9号公益通報及び第10号公益通報の懲戒解雇事由該当性
前記1(7)ウのとおり,平成24年2月3日の公益通報調査会においては,第9号公益通報につき軽率でありP6に強く反省を促すとしつつ,虚偽告 訴に相当するとまでは判断されておらず,また,第10号公益通報につい ても軽率のそしりを免れないとしながら,必ずしもP6が故意に被告を混 乱させることを狙ったものとは認められず,あくまで被告のガバナンスを おもんばかって行ったものと考える旨の判断が示されている。
そもそも第9号公益通報及び第10号公益通報のいずれもいわゆる内部通報であるところ,平成23年5月31日にP8らがマスコミ等に対して行った,「原告,P49ら4名の飲食代1万7180円を被告の経費とし
て処理した行為が背任罪に当たる。」旨の外部公益通報(前記1(3)キ(ウ))においてさえ,何ら被告事務所内の風紀の乱れや被告の損害について問題にされていないのであるから,第9号公益通報や第10号公益通報のような内部通報によって被告事務所内の風紀が乱れ,又は被告に損害が生じたとは考え難いのであり,本件全証拠によっても,P6によるこれらの公益通報によって被告に風紀の乱れや損害が生じたことをうかがわせる事情は認められない。
以上によれば,第9号公益通報及び第10号公益通報自体が直ちに被告主張に係る懲戒解雇事由に該当すると判断するのは相当でないというべきである。
(ウ) 小括
よって,そもそも第9号公益通報及び第10号公益通報自体が懲戒解雇事由に該当するとはいえない以上,これらの公益通報に協力したに過ぎない原告につき懲戒解雇事由と認められないことは明らかである。
イ 文科省への通報等が懲戒解雇事由に該当するか
被告は,原告がP6,P7らと共謀の上,文科省の指導権限を不当に発動させて被告の信用を毀損せしめ,被告の組織を動揺,壊乱せしめることを企図して,文科省に第9号公益通報の書面やP6作成名義の陳述書を提出した行為が就業規則55条2号,11号又は18号に該当する旨主張する。
確かに,前記1(8)のとおり,P6が第9号公益通報の資料一式を文科省あてに提出し,それを原告,P7らに報告したり,原告及びP6の間で,被告のガバナンス機能の不全についての実情を記載した文科省あての陳述書を作成したりしていたことが認められる。しかし,上記陳述書の記載内容(前記1(8))及び原告本人尋問の結果(原告本人・82,83頁)によれば,ガバナンスの低下等の被告の問題点を文科省に通報することの最終的な目的は,本件調査報告書においても指摘されていた被告のガバナンスのぜい弱
化につき,その現状をP18代表に認識してもらい,被告のガバナンスの立て直しにつなげるという点にあったと認めるのが相当である。
なお,被告は,P30らが被告に関する虚偽の内容のスレッドを立てた旨主張するが,P30らが実際にインターネットに被告主張に係る書き込みをしたと認めるに足りる証拠はないから,この点に関する被告の主張は,原告の関与の有無を問題とするまでもなく,理由がない。
以上によれば,P6による文科省への通報等に関し,文科省への提出文書 の記載内容の確認や修正等を行い,又はP6からの相談に応じたり,陳述書 の原案を作成したりする方法で原告が協力していた事実は認められるが,x xに,文科省の指導権限を不当に発動させて被告の信用を毀損せしめ,被告 の組織を壊乱させるという目的があったものと認めることはできない。また,本件全証拠によっても,文科省への通報等により被告に損害が発生したとの 事情は認められないから,原告の関与の程度いかんにかかわらず,原告が被 告に損害を与えたものとは認められない。
よって,文科省への通報等に関し,原告に被告主張に係る懲戒解雇事由を認めることはできない。
ウ P36新聞の記事
被告は,原告が事務局長在任中に着手したxx家ボクサーらから贈られた東日本大震災の被害者に対する見舞いの義捐物資の処分について,本件降格処分に際してP22に引き継がず,かつ,P36新聞の関連記事につきP2
9が被告職員らに送信したメールに関し事前に意見照会を受けながら異議を唱えなかった行為が,就業規則55条2号,11号又は18号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。
本件降格処分後に原告とP22との間で本部事務局長職についての引継 ぎが行われなかったこと(前記1(5))については争いがないところ,被告 は,引継ぎが行われなかったのは専ら原告に原因があるかのように主張する。
しかし,そもそも就業規則11条(事務引継)は,「異動を命ぜられた者は,速やかに,前任者よりその業務を引き継がなければならない。」として,基本的に後任者が前任者より業務の引継ぎを受けるべきものと定めているのであり,加えて,本件においては,平成23年6月28日の本件降格処分以降,原告は,本部事務所に事実上立ち入ることができない状況になっていた(前記1(4)及び5)のであるから,本件降格処分に伴う事務局長職の引継ぎについては,基本的にP22が原告から引継ぎを受けるべく対応すべきであると解されるところ,P22は,原告から引継ぎの連絡がない限り引き継がなくてもいいものと考え(証人P22・64頁),自ら引継ぎを求めなかったのみならず,前記1(5)のとおり,原告が平成23年12月7日及び同月8日にP22に対して業務の引継ぎ及びアドバイスをさせてもらいたい旨をメールで懇願したにもかかわらず,P22は,上記メールを読まず(証人P22・37,38頁),又は何ら対応をしなかったことが認められる。
以上によれば,平成23年6月28日の事務局長交代に伴い事務局長職の引継ぎを怠っていたのはむしろP22の方であると評価するのが相当であり,上記の各事情に加え,証人P6の証言(証人P6・51,58頁)及び原告本人尋問の結果(原告本人・85頁)等を考慮すれば,義捐物資の処分を含めた事務局長職の引継ぎに関し,原告に,勤務怠慢,xx不良と評価すべき行為があるとは認められないというべきである。
なお,被告は,P36新聞の記事に関するP29のメールにつき原告が事前に異議を申し出なかったことについても問題とするようであるが,そもそもP29の上記メールにより,被告事務所内の風紀秩序が乱れたり,被告に損害が生じたりした事実は認められないから,P29の上記メールに関して原告に懲戒解雇事由が認められないことは当然である。
エ P38との接触
被告は,P6がP38編集部の担当者に,過去の試合の裁定に関する不服