正社員、パートタイマー、登録ヘルパーなど雇用形態や呼び名に関係なく、労働者と雇用契約を結ぶ際には、労働条件の明示を書面(FAX・電子メール、SNS 等)で行いましょう。明示する労働条件は事実と異なる内容としてはなりません。
第 2章
介護事業所が 守らなければならない
法定事項
7
労働契約法と契約期間・更新
(労働契約法)
労働契約を結ぶときは、就業規則や法律の基準に反する労働条件で締結してはなりません。5 年を超えて契約を更新している有期労働契約の労働者から無期労働契約への転換を申し込まれたときは、法律xxx申し込みを承諾したものとみなされ、拒否できません。
1 労働契約法
(1)労働契約の原則
労働契約法は、労働契約の基本的な事項(労働契約の原則、労働契約の変更、有期労働契約など)について定めた法律で、2008 年(平成 20 年)3 月 1 日に施行されました。
労働契約の原則
①労使対等の原則 ④xxxxの原則
②均衡考慮の原則 ⑤権利濫用の禁止
③仕事と生活の調和への配慮の原則
(2)就業規則を下回る労働条件を定めた労働契約
就業規則で定める基準に満たない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、就業規則で定めた労働条件が当事者間の労働条件になります。
(3)法違反の労働契約
法律で決められた基準に反する労働条件は無効で、無効となった部分は法律で定められた基準が適用されます。
2 労働契約
労働契約には「期間の定めのない契約」(無期労働契約)と「期間の定めのある契約」(有期労働契約)の 2 種類があります。「期間の定めのある契約」は原則として 3 年を超えて契約を結ぶことはできませんが、次の例外があります。
有期労働契約の契約期間
原則:3 年まで
例外:① 3 年を超えて契約できる場合
・一定の事業の完了に必要な期間を定める場合
・労働基準法第 70 条による職業訓練のために長期の訓練期間が必要な場合
②最長 5 年の契約ができる場合
・高度で専門的な知識等を有する者
・満 60 歳以上の者
18
※「高度で専門的な知識を有する者」については厚生労働省告示で定められています。
3 有期労働契約から無期労働契約への転換
有期労働契約が繰り返し更新されて通算 5 年を超えたときは、労働者の申し込みにより期間の定めのない契約(無期労働契約)に転換することができます。無期労働契約への転換の申し込みは労働者の自由ですが、申込まれたときは法律xxx申込を承諾したものとみなされ、使用者は拒否できません。
(1)申込権が発生する時期と転換
契約期間が 1 年の場合、無期転換申込の権利の発生時期は「有期労働契約の期間を通算した期間が 5 年」に達した労働者がその次の「6 年目」に入る労働契約をしたときに発生します。無期労働契約への転換は、
「7 年目」の契約からとなります。
契約期間が 1 年の場合
1年
有期労働契約の締結
1年 1年 1年 1年 1年
雇入れから 5年
無期労働契約 7 年目に転換
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
6 年目に無期転換の申込権が発生します。更新の際に明示する事項
・無期転換申込に関する事項
・無期転換後の労働条件
(2)無期転換申込権のクーリング期間(空白期間)
通算契約期間が 1 年以上の場合、契約と契約の間(契約のない期間)が 6 か月以上空けて契約をしたときは、前後の契約期間は通算しません。
(3)無期転換申込機会、無期転換後の労働条件の明示
はじめて無期転換申込権が発生する有期労働契約更新の際、無期転換申し込みに関する事項と無期転換後の労働条件を明示する必要があります。しかし、無期転換申し込みをしない場合は、契約を満了した後も有期労働契約の更新のたびに無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)と無期転換後の労働条件の明示が必要になります。
(4)有期労働契約から無期労働契約に転換した後の労働条件
原則として労働者が無期転換の申し込みをしたときの有期労働契約と同じ労働条件になりますが、他の通常の労働者(正社員等のいわゆるxx型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項について有期契約労働者に説明するように努めなければならないこととなります。
無期雇用フルタイム労働者とは、事業主と期間の定めのない労働契約をしているフルタイムで働く労働者のことです。
(5)定年(60 歳以上)に達した後、再雇用されている有期雇用労働者について
「有期雇用労働者等に関する特別措置法」に基づいて計画届を労働局に届け出て認定を受けた事業所は、再雇用の有期雇用労働者が、その事業主に定年後引き続いて雇用されている期間は、無期転換申込権が発生しません。
無期契約転換については、就業規則の内容確認と整備が必要です。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
19
有期労働契約から無期労働契約に転換した労働者に適用する就業規則がない場合は、就業規則の修正が必要になります。例えば、有期労働契約のときには定年の定めがなかったが、無期労働契約への転換に際し、新たに定年を設ける場合は、定年の定めを規定する必要があります。
労働契約を結ぶときは就業規則や法令を遵守している
有期労働契約から無期労働契約へ転換する労働者に適用する就業規則がある
□
□
8 労働条件の明示
(労働基準法、職業安定法)
正社員、パートタイマー、登録ヘルパーなど雇用形態や呼び名に関係なく、労働者と雇用契約を結ぶ際には、労働条件の明示を書面(FAX・電子メール、SNS 等)で行いましょう。明示する労働条件は事実と異なる内容としてはなりません。
1 労働条件の明示
使用者が労働者を雇い入れるときは、必ず労働条件を明示しなければなりません。労働条件の明示には「必ず明示しなければならない事項」と「定めをした場合に明示しなければならない事項」があります。
(1)必ず明示しなければならない事項
①労働契約の期間
②有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または有期労働契約の更新の回数の上限を含む)
③就業の場所・従事すべき業務(就業場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
労働契約の締結時と有期労働契約の契約更新時に「雇い入れ直後の就業場所・業務の内容」に加え「変更の範囲」についても明示が必要になります。
「変更の範囲」とは、将来の配置転換など今後の見込みも含めた就業場所や業務の変更の範囲のことをいいます。
④始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を 2 組以上に分けて就業させる場合の就業時転換に関する事項
⑤賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期
⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)
①から⑥は書面で明示しなければならない事項です。
⑦昇給に関する事項
(2)定めをした場合に明示しなければならない事項
①退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法及び支払いの時期
②臨時に支払われる賃金、賞与等及び最低賃金額に関する事項
③労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
④安全・衛生 ⑤職業訓練 ⑥災害補償、業務外の傷病扶助 ⑦表彰、制裁 ⑧休職
(3)パートタイマーに労働条件を明示するとき
上記の「必ず明示しなければならない事項」①から⑥の他に、次の事項も書面等で明示しなければなりません。
①昇給の有無 ②退職手当の有無 ③賞与の有無 ④相談窓口(担当者の部署、役職、氏名)
(4)労働条件の明示方法
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労働条件の明示は、書面の交付による明示の他、労働者が希望した場合は、FAX や電子メール、SNS等で行うことができます。電子メールや SNS 等で明示するときは、出力して書面が作成できる形式に限られます。印刷や保存がしやすいよう添付ファイルで送りましょう。
2 労働条件明示のタイミング
ハローワーク等への求人申込みや自社ホームページでの募集の際に、職業安定法に定める労働条件を明示する必要があります。
2024 年(令和6年)4月1日から、従業員の募集や求人申込みの際に、①従事すべき業務の変更の範囲、
②就業場所の変更の範囲、③有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)について明示することとなりました。
募集のとき 求人票や募集要項などで労働条件を明示する必要があります。
※自事業所ホームページでの募集の際も労働条件の明示は必要です。
労働条件に変更があった場合
労働契約締結時
当初明示した労働条件が変更になる場合は、変更内容を明示しなければなりません。
※面接等の過程で変更があった場合は、求職者に速やかに通知します。
労働基準法に基づき、労働条件通知書等で労働条件を通知する必要があります。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
労働者の募集時に明示しなければならない労働条件等
①契約期間 ②有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間又は契約更新回数に上限がある場合は上限を含む)③業務内容および就業場所(変更の範囲を含む)④就業時間(始業・終業の時刻)、休憩、休日、時間外労働の有無 ⑤賃金 ⑥試用期間 ⑦労働保険・社会保険の適用 ⑧募集者(事業主)の氏名又は名称 ⑨受動喫煙防止措置の状況 等
「固定残業代」(時間外労働の有無にかかわらず定額で一定の割増賃金を支給する制度)を採用する場合は、募集要項や求人票に次の内容を明示する必要があります。
①固定残業代を除いた基本給の額
②固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③固定残業時間を超える時間外労働については割増賃金を追加で支払う旨
3 有期契約労働者の労働条件の明示
有期労働契約の締結と契約更新時に、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要になります。
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有期契約労働者に対し労働条件を明示する時は、①契約の更新の有無 ②契約の更新の判断基準 ③契約更新の上限の有無について明らかにしましょう。
労働条件通知書をすべての労働者に渡している
有期契約労働者には、契約の締結時と更新時に、更新上限の有無と内容の明示を行っている
□
□
9 就業規則
(労働基準法)
就業規則は、労働時間や賃金などの労働条件や、職場内の規律を定めた職場の規則です。常時 10 人以上の労働者を使用している事業場では、就業規則を作成し、労働者代表の意見書を添付して労働基準監督署に届出をしなければなりません。
1 就業規則の作成義務
常時 10 人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成しなければなりません。常時 10 人以上の労働者には、パートタイマーやアルバイトなどを含みます。
労働者の人数が時として 9 人以下になることがあっても、常態として 10 人以上である場合は、作成しなければなりません。
常時使用する労働者の人数が 9 人以下の事業場では、就業規則の作成義務はありませんが、働きやすさ向上のために就業規則を作成するようにしましょう。
2 就業規則の記載事項
就業規則には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、定めをする場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。
作成する際は、就業規則は労働基準法などの法令や労働協約に反してはなりません。また、就業規則で定める基準に達しない労働契約は、その部分については無効となります。
(1)必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)
①始業及び終業の時刻
②休憩時間
③休日
④休暇
⑤労働者を 2 組以上に分けて交替で就業させる場合の就業時転換に関する事項
⑥賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定の方法
⑦賃金(臨時の賃金等を除く。)の計算及び支払の方法
⑧賃金(臨時の賃金を除く。)の締切り及び支払時期
⑨昇給に関する事項
⑩退職に関する事項
⑪解雇の事由に関する事項
育児休業・介護休業について
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育児・介護休業法に基づく育児休業・介護休業は、「休暇」に該当し絶対的必要記載事項になるため、必ず就業規則に規定しましょう。
(2)定めをする場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)
①退職手当に関する事項
・適用される労働者の範囲 ・退職手当の決定 ・計算及び支払の方法
・退職手当の支払の時期
②臨時の賃金等(退職手当を除く。)に関する事項
③最低賃金に関する事項
④労働者に食費、作業用品、その他の負担に関する事項
⑤安全及び衛生に関する事項
⑥職業訓練に関する事項
⑦災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑧表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
⑨以上のほか、事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項
3 就業規則の作成・変更手続き
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
(1)意見聴取
就業規則を作成・変更する際には、労働者代表の意見を聴かなければなりません。意見を聴く労働者代表とは、事業場の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、そのような労働組合がなければ全労働者(パートタイマー、アルバイトを含む。)の過半数を代表する者のことです。
(2)届出
就業規則を作成・変更したときは、事業場を管轄する労働基準監督署に労働者代表の意見書を添付して届出をします。
就業規則は事業場単位で作成し届出をします。複数の事業場がある場合は、それぞれの事業場を管轄する労働基準監督署に届出をします。
(3)周知
届出をした就業規則は労働者に周知をして、労働者がいつでも見られる状態にしておく必要があります。
就業規則の周知方法
①常時各作業場の見やすい場所に掲示または備え付ける。
②労働者に書面で交付する。
③社内LANなどで常時閲覧できるようにする。
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「意見聴取」とは、あらかじめ就業規則の内容を知らせて意見を聴くということで、同意を取り付けることや、その意見に拘束されることではありませんが、労働者には規則の内容をよく説明して理解を得られるようにしましょう。
就業規則を作成する際に、労働者代表の意見を聴取している
就業規則を労働者に周知している
□
□
就業規則(パートタイマー、
10 有期契約労働者等)
(パートタイム・ 有期雇用労働法)
パートタイマーや登録ヘルパーを含め常時 10 人以上の労働者を使用する使用者は、パートタイマー等に適用される就業規則を作成する義務があります。トラブルを未然に防ぐためにも就業ルールをしっかりと定めましょう。
1 就業規則の対象労働者
就業規則は、事業所で雇用されているすべての労働者について作成しなければなりません。xx職員のほかに、「契約職員」「パートタイマー」「登録ヘルパー」など雇用形態が異なる労働者がいる場合には、それぞれに応じた就業規則を作成することが必要となります。
職員(xx職員)就業規則
契約職員(有期労働契約職員)就業規則
就業規則 パートタイマー(短時間職員)就業規則
非常勤職員(嘱託職員)就業規則
登録ヘルパー就業規則
「パートタイマー等の休職に関して、別に定めるところによる。」としながら、別規程が見当たらない事業所も見受けられます。このような場合、パートタイマーに対しても長期雇用を前提とするxx職員と同じような労働条件(休職)を適用しなければならなくなってしまう場合もあります。
2 パートタイマーからの意見聴取
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)ではパートタイマーの就業規則を作成・変更しようとするときは、パートタイマーの過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めなければなりません。
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この意見聴取については、書面を労働基準監督署に届け出るなどの手続きは不要ですが、事業所内では何らかの形で書面に残すようにするとよいでしょう。
就業規則作成・変更にあたっての意見聴取の違い
労働基準法 パートタイム・有期雇用労働法
事業場の全労働者の過半数代表の意見を聴かなくてはならない。
労働基準監督署に意見書を添付して届け出なければならない。
事業場のパートタイマーの過半数代表の意見を聴くように努めなければならない。
意見書の添付は不要
3 パートタイマー等の就業規則を作成する際のポイント
パートタイマー等の就業規則を作成する場合、xx職員就業規則と労働条件や待遇について、労務トラブルを防ぐ観点から考慮するポイントについて確認しておきましょう。
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
職務内容の限定、配置転換
正社員への転換を推進するための措置
特別休暇
育児・介護休業等休職制度
賞与・退職金健康診断
相談窓口
xx職員と業務内容や配置の変更の範囲などが同じであれば基本給や賞与などの待遇で差別することは禁止されているため、パートタイマー等の職務内容や配置転換について、xx職員とは異なることを明らかにする必要があります。
xx職員への転換を推進するための措置について、会社は必ず講じておかなければなりません。
法律で定める有給休暇のほか、特別休暇を設ける必要性があるのかを検討しましょう。
育児・介護休業法に則って、対象者の要件をしっかり定めておく必要があります。パートタイマー等に休職制度を適用するかどうかを検討しましょう。
パートタイマー等に賞与・退職金を支給するかどうかを検討しましょう。
要件を満たすパートタイマーに対しては、一般健康診断(雇入れ時の健康診断、定期健康診断等)を行う必要があります。
事業所は、パートタイマーからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する必要があります。
xx職員とパートタイマー等の労働条件を検討するにあたっては、パートタイム・有期雇用労働法でも規定されていますが、xx職員との均衡待遇・均等待遇を考慮にいれなければなりません。『18. 賃金の基本』でも触れていますが、同一労働同一賃金の実現に向けて「短時間・
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有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」が発表されています。この指針で示されている待遇差の合理性・不合理性をしっかり確認した上で、規定を設けるようにしましょう。
雇用区分に応じた就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ている
パートタイマー等をめぐる法的なポイントを押さえている
□
□
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パートタイマーの雇用管理
(パートタイム・有期雇用労働法)
パートタイマーや登録ヘルパーは、人によって休日や労働時間などの労働条件が異なることが多いため、トラブルを防止するためにも労働条件を明確にしておきましょう。
1 労働条件の明示
労働契約を締結するときは、その締結の際に、使用者は労働者に対して賃金や労働時間その他必要な労働 条件を書面で明示しなければならないことになっていますが、この規定は、パートタイマーにも適用されます。パートタイマーには、さらに 4 つ、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口を書面で明示すべき事項に加
える必要があります。
パートタイマーも労働基準法上の労働者なので、労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの労働関連法規が原則としてそのまま適用されます。また、パートタイマーのための法律として「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」があります。
2 パートタイマーへの待遇に関する説明義務
パートタイマーを雇い入れたときは、実施する雇用管理の改善措置の内容(賃金や教育訓練、福利厚生、正社員転換推進措置など)について説明することが義務づけられています。
また、パートタイマーの待遇について、パートタイマーから求めがあったときは、事業所は通常の労働者との待遇差の内容、理由などについて説明しなければなりません。パートタイマーが説明を求めたことにより、不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
説明が課される事項
【雇入れ時(第 14 条第 1 項)】 【説明を求められたとき(第 14 条第 2 項)】
⃝不合理な待遇の禁止に関する事由
⃝待遇の差別的取扱い禁止に関する事由
⃝賃金の決定方法
⃝教育訓練の実施
⃝福利厚生施設の利用
⃝通常の労働者への転換を推進するための措置
⃝待遇内容及び待遇決定に際しての考慮事項
⃝通常の労働者との間の待遇差の内容や理由
⃝労働条件の文書交付等
⃝就業規則の作成手続
⃝待遇の差別的取扱い禁止に関する事由
⃝賃金の決定方法
⃝教育訓練の実施
⃝福利厚生施設の利用
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⃝通常の労働者への転換を推進するための措置
3 不合理な待遇差の禁止
同じ事業所内で、同じ職種に従事するxx職員とパートタイマーとの間で、不合理な待遇差を設けることは禁止されており、「均衡待遇」と「均等待遇」が義務づけられています。
xx職員・パートタイマーそれぞれ、①職務内容(業務内容、責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲(配置転換、転勤、異動の有無や範囲)、③その他の事情(職務の成果、能力、経験など)に応じた待遇が求められます。
図表 均衡待遇と均等待遇
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
(出所)『東商新聞 News&Opinions 第 2119 号』東京商工会議所 一部改
4 パートタイマーの相談に対応するための体制整備
パートタイマーからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければなりません。相談に対応するための体制整備の例としては、以下のようなものがあります。
⃝雇用する職員の中から相談担当者を決め、相談に対応させる。
⃝短時間雇用管理者を相談担当者として定め、相談に対応させる。
⃝事業主自身が相談担当者となり、相談対応を行う。
⃝外部専門機関に委託し、相談対応を行う。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
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+α パートタイム・有期雇用労働法では、パートタイマーから正規職員への転換を推進するための措置を講ずるよう義務が課されています。
パートタイマー、登録ヘルパーと雇用契約書を締結している
パートタイマー、登録ヘルパーを不利益に取り扱っていない
□
□
12 労働時間の管理
(労働基準法)
使用者は、労働者の労働時間を適正に管理しなければなりません。タイムカードや出勤簿には始業・終業時刻を正しく記録しましょう。
参加を義務づけている教育・研修は労働時間に該当します。
1 労働時間とは
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。
(1)労働時間にあたるもの
①業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)
②業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内で行った時間
③手待ち時間
④参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講
⑤使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
※「③手待ち時間」とは、使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機している時間をいいます。
(2)労働時間にあたるかどうかの判断
労働契約や就業規則の定めによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか客観的にみて判断されます。労働者の行為が使用者から義務づけられ、またはこれを余儀なくされていた等の状況の有無から、個別具体的に判断されます。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省)より
(3)研修に参加する時間
⃝参加が義務づけられている研修
研修に参加しないと就業規則の制裁や人事評価でマイナス評価される場合
労働時間になる
⃝自由参加の研修
研修に参加しなくても就業規則の制裁や人事評価に影響しない場合
労働時間にならない
(4)健康診断の受診時間
一般健康診断の受診時間は、労働時間としなくても労働基準法上問題はありませんが、厚生労働省の通達では「労働時間とすることが望ましい」とされています。
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なお、特殊健康診断の受診時間は労働時間として取り扱わなければなりません。
2 労働時間の原則
(1)法定労働時間
使用者は労働者に休憩時間を除いて、1 日に 8 時間、1週間に 40 時間を超えて労働させることはできません。
(2)特例措置事業場
事業場の規模が 10 人未満の「特例事業場」は、1 日 8時間、1 週間 44 時間まで労働させることが認められています。
介護事業は保健衛生業にあたります。
法定労働時間と所定労働時間のちがい
特例措置事業場
(10 人未満の下記の事業)商業
映画演劇業(映画の製作の事業を除く。)保健衛生業
接客娯楽業
法定労働時間:労働基準法 32 条または 40 条で定められている労働時間(1 日 8 時間、1 週 40 時間または 44 時間)をいいます。
所定労働時間:事業所において、就業規則、労働契約などによって決められた 1 日または 1 週間などの労働時間をいいます。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
3 労働時間の管理
使用者は、労働時間を適正に管理しなければなりません。労働時間の管理については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省)に詳しく定められています。
また、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から労働安全衛生法、同施行規則において「労働時間の状況の把握」の方法についても規定しています。
使用者が講ずべき措置
1.始業・終業時刻を確認し、記録すること
2.記録方法
①使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
※自己申告制の場合の措置についてもガイドラインに細かく規定されています。
管理監督者には労働基準法で定める労働時間、休憩、休日の規定が適用されません(深夜業、年次有給休暇の規定の適用はあります。)。
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管理監督者にあたるかどうかの判断は、「経営者と一体的な立場と呼ぶにふさわしい重要な職務内容、責任となっており、それに見合う権限の付与が行われている」「重要な職務と責任を有していることから、現実の勤務が実労働時間の規制になじまない」等、一定の基準があります。管理職=管理監督者ではありませんので注意が必要です。
参加を義務付けている研修時間は労働時間として扱っている
タイムカードや出勤簿には始業・終業時刻の記録を行っている
□
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13
時間外労働・休日労働・深夜労働
(労働基準法)
労働者に時間外労働や休日労働を行わせる場合は、36 協定を労働者代表と締結し、労働基準監督署に届出をする必要があります。なお、36協定を締結していても時間外労働には上限があります。
1 時間外労働・休日労働・深夜労働
(1)時間外労働とは
1 週間および 1 日の法定労働時間(1 日 8 時間、1 週 40 時間または 44 時間)を超えて労働させることをいいます。
(2)休日労働とは
法定休日(1 週 1 日または 4 週 4 日の休日)に労働させることをいいます。
法定休日と所定休日のちがい
法定休日:労働基準法 35 条で定められている休日(1 週 1 日または 4 週 4 日)をいいます。所定休日:事業所において、就業規則、労働契約などによって決められた休日をいいます。
(3)深夜労働とは
22:00 から 5:00 までの時間に労働させることをいいます。
2 36 協定
時間外労働や休日労働をさせる場合は、あらかじめ「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(36 協定)を締結し、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません。この協定を届け出ることによって、法定労働時間を超えて時間外労働をさせ、法定休日に休日労働をさせることができます。
労使協定(36 協定新様式)で協定する事項
①労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
②労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる労働者の範囲
③対象期間(1 年間に限る)
④ 1 年の起算日
⑤有効期間
⑥対象期間における 1 日・1 か月・1 年について労働時間を延長させることができる時間又は労働させることができる休日
30
⑦時間外労働と法定休日労働の合計が、月 100 時間未満、2 ~ 6 か月平均 80 時間以内を満たすこと
ただし、労使協定(36 協定)を締結すれば、何時間でも時間外労働をさせることが認められるわけではありません。法律により、下記のような時間外労働の上限が定められています。
時間外労働時間の限度時間
期間
限度時間
一般労働者の場合 1 年単位の変形労働時間制
が適用される労働者の場合
1 か月
45 時間
42 時間
1 年間
360 時間
320 時間
※医師の時間外労働・休日労働の上限規制については「医師の働き方改革」(厚生労働省)で確認してください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi- hatarakikata_34355.html
特別条項付き 36 協定
限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別な事情がある場合は、「特別条項付き 36 協定」を届け出ることで限度時間を超えて労働させることができます。ここでいう「特別な事情」とは、「臨時的なもの」に限られていて「業務上の都合」「業務多忙なとき」「使用者が必要と認めるとき」といった理由を限定していないものや、年間を通じて適用されることがあきらかなものは特別な事情にはあたりませんので注意が必要です。特別条項付き協定を締結した場合の時間外労働の限度時間は次の通りです。
1.特別条項付き協定の限度時間
①時間外労働時間+休日労働時間:1 か月 100 時間未満(2 か月~ 6 か月平均 80 時間以内)
②時間外労働時間:1 年 720 時間以内(休日労働は含まない) 2.限度時間を超えることができる月数
① 1 か月 45 時間の限度時間を超える月数:1 年間で 6 か月以内
② 1 年単位の変形労働時間制適用者の場合
1 か月 42 時間の限度時間を超える月数:1 年間で 6 か月以内
※上記に違反した場合には、罰則(6 か月以下の懲役または 30 万円以下の罰金)が科されることがあります。
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
3 災害など臨時の必要がある場合の時間外労働・休日労働
震災のような「災害その他避けることができない事由」によって、臨時に時間外や休日に労働させることが必要となった場合は、その必要な限度内で労働させることができます。
この場合、「非常災害等の理由による労働時間延長休日労働許可申請書」であらかじめ管轄の労働基準監督署の許可を受けるか、事前に許可を受ける時間的余裕がないときは、事後に遅滞なく届け出を行います。
36 協定は事業場単位で締結します。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
31
36 協定は、労働基準監督署に届出をしてはじめて有効になります。有効期間が過ぎた協定は無効になりますので、有効期間が 1 年間の場合、毎年協定を更新して届出をする必要があります。
36 協定を労働者代表と締結している
36 協定を労働基準監督署に届出をしている
□
□
14 変形労働時間制
(労働基準法)
介護事業では、サービス形態の違いにより、複雑な労働時間管理が求められます。
1 か月単位の変形労働時間制を有効に活用して効率的な労働時間管理を行いましょう。
1 変形労働時間制
介護事業所では、日勤の他に早出・遅番・夜勤とさまざまな勤務時間があり、1 日または 1 週間の所定労働時間を法定労働時間どおりにシフトを組むことは困難です。労働基準法では、一定の要件のもとで 1 日または 1 週間の法定労働時間を超えて労働することを認めています。それが変形労働時間制です。
2 1 か月単位の変形労働時間制
1 か月以内の一定の期間を平均し、1 週間の労働時間が 40 時間(特例措置事業場は 44 時間)以下の範囲で、特定の日や週について 1 日及び 1 週間の法定労働時間を超えて働かせることができる制度です。
1 か月単位の変形労働時間制は、平均して 1 週あたりの労働時間が 40 時間以内であればよいので、1日または 1 週間の労働時間について上限があるわけではありません。
(1)1 か月単位の変形労働時間制の導入方法
①「労使協定または就業規則等」により、1 か月単位の変形労働時間制をとることを定めます。
②「1 か月を平均し、1 週間の労働時間が法定労働時間(40 時間または44 時間)を超えない」定めをします。
③「1 週間の労働時間が法定労働時間を超える特定の週」や「1 日 8 時間を超える特定の日」を定めます。
④「就業規則その他これに準ずるもの」により、変形労働時間制をとる場合の起算日を明らかにします。
(2)シフトを組むときの注意点
1 か月の勤務時間が「1 か月の変形期間の所定労働時間の総枠」を超えないようにシフトを組みます。
1 か月の暦日数 1 か月の変形期間の所定労働時間の総枠
(法定労働時間が 40 時間の場合)
31 日の場合 177.1 時間
30 日の場合 171.4 時間
29 日の場合 165.7 時間
28 日の場合 160.0 時間
32
所定労働時間の総枠= 40 時間×変形期間の暦日数÷ 7
1 か月の変形労働時間を導入する場合の勤務時間の例
日 月 火 水 木 金 土
1 2 3 4
8 時間 8 時間 8 時間 休み
5 6 7 8 9 10 11
休み 9 時間 9 時間 9 時間 休み 8 時間 8 時間 12 13 14 15 16 17 18
休み 休み 8 時間 8 時間 9 時間 8 時間 8 時間 19 20 21 22 23 24 25
休み 7 時間 7 時間 6 時間 6 時間 6 時間 6 時間 26 27 28 29 30 31
休み 8 時間 8 時間 8 時間 7 時間 休み
第 1 週 24 時間第 2 週 43 時間
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
第 3 週 41 時間第 4 週 38 時間第 5 週 31 時間
合計 177 時間(1 か月の所定労働時間の総枠範囲内)第 2 週と第 3 週は週法定労働時間を超えていますが、平均すると週 40 時間以内となっています。
3 1 か月単位の変形労働時間制の割増賃金の算定方法
「1 日」→「1 週間」→「変形期間(1 か月)」の順で時間外労働を算出し、その合計時間数が時間外労働時間数となります。
(1)1 日の法定労働時間外労働
1 日 8 時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は 8 時間を超えて労働した時間
(2)1 週の法定労働時間外労働
1 週 40 時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は 1 週 40 時間を超えて労働した時間
((1)で時間外労働となる時間を除く。)
(3)変形期間の法定労働時間外労働
変形期間における法定労働時間総枠(40 時間×変形期間の暦日数÷ 7 日)を超えて労働した時間((1)または(2)で時間外労働となる時間を除く。)
1 か月単位の変形労働時間制の「導入方法」の要件を満たさないときは、労働時間の計算は
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〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
33
原則(1 日 8 時間、週 40 時間)に戻ってしまいます。導入の要件は、就業規則または労使協定に必ず定める必要があります。
変形労働時間制について就業規則または労使協定に定めている
シフトを組むときは 1 か月の所定労働時間の総枠を超えないように組んでいる
□
□
15
訪問介護労働者の移動時間の取扱い
(労働基準法)
訪問介護職員の労働時間の管理・把握を適正に行う必要があります。特に、移動時間等が労働時間に当たる場合は、これを労働時間として把握しましょう。
1 移動時間と通勤時間の違い
「労働時間」は、使用者の指揮監督の下にある時間をいい、介護サービスを提供している時間に限るものではありません。「労働時間」に該当するかどうかは、指揮監督の実態により判断されます。
「移動時間の考え方」
介護サービス利用者
「Aさん宅」
②移動時間
介護サービス利用者
「Bさん宅」
①通勤時間
①通勤時間
③移動時間
③移動時間
労働者の自宅
①通勤時間
事 業 場
⃝移動時間・・・使用者が、業務に従事するために必要な移動時間を労働者に命じ、この移動時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる時間
⃝通勤時間・・・労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を往復する時間
2 移動時間の具体例
移動時間が、業務に従事するために必要な移動のための時間であるかどうかは、使用者の指揮監督の実態によって判断されます。例えば、就業の場所A地点から就業の場所B地点への移動に要した時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には労働時間に該当するものと考えられます。なお、移動時間の賃金を介護サービス提供時の時給と別に定めることはできますが、訪問介護労働者への丁寧な説明が求められます。
34
また、移動時間の賃金が最低賃金を下回らないよう注意しましょう。
ケース1
労働時間(休憩時間を除く)
自宅から Aさん宅へ直行
Aさん宅で 事務介護サービス 所へ
事務所
休憩
事務所
Bさん宅へ移動
Bさん宅で介護サービス
自宅へ直帰
移動
このケースでは、Aさん宅での介護サービス開始時刻から、Bさん宅での介護サービス終了時刻までの時間のうち、休憩時間を除いたものが労働時間となります。
ケース2
労働時間
労働時間
自宅から Aさん宅へ直行
Aさん宅で介護 サービス
Bさん宅へ移動
Bさん宅で介護サービス
自宅へ直行
第2章
休憩
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
このケースでは、Aさん宅での介護サービス提供時間、Bさん宅への移動時間およびBさん宅での介護サービス提供時間が労働時間となります。移動時間はBさん宅への移動に要した時間であり、それ以外の「空き時間」については、その時間には労務に服する必要がなく、労働者に自由利用が保障されている限り、労働時間として取り扱う必要はありません(Aさん宅での介護サービス終了時刻からBさん宅での介護サービス開始時刻までの時間すべてを労働時間として取り扱う必要はありません)。
ケース3
労働時間
自宅から Aさん宅へ直行
Aさん宅で介護サービス
自宅へ直帰
このケースでは、Aさん宅での介護サービス提供時間のみが労働時間となります。
「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」(厚生労働省)より一部抜粋
~待機時間の管理と把握~
利用者宅から直接次の利用者宅に移動する場合、次のサービスまでの間に「移動時間」とは別に「待機時間」が発生することがあります。
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35
「待機時間」については、使用者が急な業務等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められている場合には、労働時間に該当します。
移動時間と通勤時間の違いを正しく理解している訪問介護労働者ごとに移動時間を管理している
労働時間に該当する移動時間分の賃金を支払っている
□
□
□
16 休憩時間・休日
(労働基準法)
休憩時間は、労働者が自由に利用できる、労働から離れることが保障された時間です。
休日は、原則として暦日(午前 0 時から午後 12 時までの 24 時間)で与えなければなりません。夜勤者の法定休日の確保に注意しましょう。
1 休憩時間の原則
労働時間が 6 時間を超える場合は少なくとも 45 分、8 時間を超える場合は少なくとも 1 時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません。
一部の業種を除いて、休憩時間は一斉に与え、自由に利用できるようにする必要があります。ただし、介護事業は業務の性質上、一斉休憩の適用は除外されています。
(1)労働時間が 6 時間を超える場合
(例) 9:00 ~ 17:00 (休憩 45 分)
休憩
9:00 12:00 12:45
所定労働時間 7 時間 15 分
(例) 時間外労働によって 1 日 8 時間を超える場合は 15 分の休憩を追加します。
17:00
休憩
休憩
9:00 12:00 12:45
所定労働時間 8 時間 30 分
(2)労働時間が 8 時間を超える場合
(例) 9:00 ~ 18:00 (休憩 1 時間)
休憩
9:00 12:00 13:00
所定労働時間 8 時間
17:00 18:30
18:00
2 休日・休日の振替と代休
休日とは、労働義務のない日のことです。休日は、原則として暦日(午前0 時から午後12 時まで)で与えます。
(1)原則と例外
原則:1 週間に 1 日の休日(法定休日)
例外:4 週間を通じて 4 日以上の休日(変形休日制)
36
4 週 4 日制は、就業規則等により「4 週間の起算日」を明らかにする必要があります。
(2)夜勤者の休日
シフト表を作成する際には、下図を参考に暦日(午前 0 時から午後 12 時まで)で休日を確保しましょう。
シフト表の例と法定休日の考え方
例)早出 6:00 ~ 15:00 遅出 14:00 ~ 23:00 夜勤 22:00 ~翌 7:00(休憩各 1 時間)
氏名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
Aさん 早 早 早 早 遅 遅 遅 遅 早 早 早 夜 早 早 早 早 遅 遅 遅 遅
Bさん 早 遅 夜
早 遅 夜
早 遅 夜
早 遅 夜
早 遅 夜
早 遅 夜 早 遅
緑色の日については、暦日(午前 0 時から午後 12 時まで)としての休日が確保され、
「法定休日」と評価することができます。
黒色の日については、午前 7 時まで勤務しているため暦日としての休日が確保されておらず、「法定休日」と評価することができません。
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
A さんと B さんのシフトは、月 28 日に対してどちらも 20 日出勤であり、週 40 時間はクリアしていますが・・・
→ A さんのシフトは、法定休日も 4 週に 4 日以上あり、労働基準法上の問題はありません。
→ B さんのシフトは、法定休日と評価できる日が 4 週に 2 日しかなく、法定の日数を下回っています。
→ B さんのシフトについては、改善が必要です。
「休日」とは連続24 時間の休業ではなく暦日の休業をいいます。夜勤明けの日は法定休日には該当しません。
(3)休日の振替とは
休日を勤務日にする代わりに、勤務日を休日とするように休日と他の勤務日をあらかじめ振り替えることをいいます。
(4)代休とは
休日の振替手続きをとらず、本来の休日に労働を行わせた後に、その代わりの休日を与えることをいいます。
第2章
3 勤務間インターバル制度
働き方改革に伴う労働時間法制の見直しにより「勤務間インターバル」制度が努力義務となりました。
◯勤務間インターバルとは
1 日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。たとえば、11 時間の勤務間インターバル制度を導入した場合、23 時まで勤務した翌日は、 11 時間を空けた 10 時からの勤務となる制度です。休息時間を確保することで、労働者の十分な生活時間や睡眠時間を確保することを目的としています。勤務シフトを作成する際に、勤務間インターバルを意識して作成し、介護スタッフの休息時間が十分確保できるように心がけましょう。
⃝休日の振替:あらかじめ振替休日を使用者が指定する必要があります。
振替休日が同一週の場合は、休日出勤日は割増賃金は発生しません。
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37
⃝代休:休日出勤日については割増賃金が発生します。
休憩は確実に取得できるようにしている
法定休日を確保している
□
□
17 年次有給休暇
(労働基準法)
心身ともにリフレッシュした状態で仕事に取り組めるように、職員が年次有給休暇を取得できるようにしましょう。
1 年次有給休暇の付与日数
年次有給休暇とは、休日とは別に一定の日数の賃金を保障された休暇のことで、無条件で与えられるものです。よって、職員に休みたい理由があれば、「病気」、「子供の世話」、「病人の付き添い」、「旅行」など利用目的は自由です。
職員が入職後、6 か月以上勤務しており、この間 8 割以上出勤していれば年次有給休暇を与えなければなりません。
○ 1 週間の所定労働時間が 30 時間以上、または、1 週間の所定労働日数が 5 日以上の職員
勤続期間
付与日数
6 か月
10 日
1年
6 か月
11 日
2年
6 か月
12 日
3年
6 か月
14 日
4年
6 か月
16 日
5年
6 か月
18 日
6年
6 か月以上
20 日
○ 1 週間の所定労働時間が 30 時間未満で、1 週間の所定労働日数が 4 日以下(または、1 年間の所定労働日数が 216 日以下)の職員
労働日数
週所定
4 日
3 日
2 日
1 日
1 年間の所定
169 日~ 216 日
121 日~ 168 日
73 日~ 120 日
48 日~ 72 日
勤 続 年 数
労働日数
6 か月 1年6 か月 2年6 か月 3年6 か月 4年6 か月 5年6 か月 6年6 か月
7 日 8 日 9 日 10 日 12 日 13 日 15 日
5 日 6 日 6 日 8 日 9 日 10 日 11 日
3 日 4 日 4 日 5 日 6 日 6 日 7 日
1 日 2 日 2 日 2 日 3 日 3 日 3 日
パートタイマーであっても要件を満たした場合、年次有給休暇を与える必要があります。ただ、労働時間・労働日数が少ないパートタイマーには、通常の年次有給休暇よりも少ない年次有給休暇が労働日数により与えられることになります。
38
+α
登録ヘルパーなど不定期な勤務シフトで勤務するパートタイマーについて、年次有給休暇が比例付与される日数は、原則として基準日において予定されている今後 1 年間の所定労働日数に応じた日数となります。ただ、これが難しい場合は、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出します。 例えば、入社後半年が経過した時点で、勤務実績が 80 日だとすると、年換算した 160 日が 1 年間の所定労働日数となります。
2 年次有給休暇の与え方
年次有給休暇は、原則として午前 0 時から午後 12 時までの暦日単位で与えなければなりません。つまり、午後 9 時から翌日の午後 9 時までの 24 時間という与え方はできません。
年次有給休暇は 1 労働日を単位として与えるものですが、職員から「半日単位」の請求があった場合、使用者がそれを認めることは許されています。
また、職員の過半数で組織する労働組合、もしくは職員の過半数を代表する者との間で書面による協定(労使協定)を締結し、年次有給休暇を「時間単位」で与えると定めた場合においては、「時間単位」で与えるこ
とも可能です。
時間単位の年次有給休暇の仕組み
5 日以内
職員の年次有給休暇の付与日数 1 時間× 8 などに分割
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
時間単位で年次有給休暇を与える場合は、労働者代表等との労使協定の締結が必要で、時間単位の付与は 5 日以内となります。
3 年次有給休暇の賃金
年次有給休暇を取得した場合の賃金の支払いについては、次の 3 つの方法があります。
①平均賃金を支給する
②通常の賃金で支給する
③健康保険の標準報酬月額で支給する
①の方法はその都度計算しなければなりません。③の方法を採用するには、労使協定の締結が必要となります。そのため、実務的には②の方法をとるのが一般的です。
4 使用者による年次有給休暇の時季指定
年次有給休暇が 10 日以上付与される職員に対して、使用者は毎年 5 日以上時季を指定して付与する義務が課せられています。ただし、職員の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はないとされています。つまり、年 10 日以上の休暇が発生している職員が自主的に 5 日以上を消化しない場合、使用者としては職員の希望を聞いて休暇を指定して最低 5 日は消化させなければなりません。
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なお、違反した使用者については、労働者 1 人当たり 30 万円以下の罰金が科され、また、年次有給休暇の取得状況を把握するために、年次有給休暇の管理簿作成義務(3 年間保存)が設けられています。
年次有給休暇を取得した職員に対して、不利益な取扱いをしていない
パートタイマーにも年次有給休暇を付与している
□
□
18 賃金の基本
(労働基準法)
毎月の賃金は、職員の 1 か月の生活を支える大切な原資となります。賃金についてトラブルが発生しないように、ルールをしっかり守りましょう。
1 賃金支払いのルール
賃金は職員の生活の糧となる大変重要なものです。労働基準法では確実に職員の手に渡るように、賃金の支払いについて賃金支払いの 5 原則を定めています。
①通貨で
使用者は
②全額を
③毎月 1 回以上
④一定の期日に
⑤直接労働者に に支払う
賃金支払いの 5 原則と例外
原則 例外
労働協約:通勤定期乗車券などの現物支給
①通貨で支払う
②全額を支払う
③毎月 1 回以上支払う
④一定期日に支払う
⑤直接労働者に支払う
厚生労働省令:銀行口座などへの振込み(職員の同意が必要)
労使協定:資金移動業者の口座への振込み(賃金のデジタル払い)
法令:源泉所得税や社会保険料の徴収等
労使協定:労働組合費の徴収等
臨時に支払われる賃金や賞与、査定期間が 1 か月を超える場合の精勤手当・能率手当など
使者なら可能
時給制などの場合、交替制勤務における引継ぎ時間、業務報告書の作成時間等、介護サービスに直接従事した時間以外の労働時間も通算した時間数に応じた賃金を支払わなければなりません。
2 最低賃金
40
賃金は、地域別最低賃金以上の金額を支払わなければなりません。最低賃金はその事業所の本社がある都道府県ではなく、本社や支店などの事業場(派遣労働者の場合は派遣先)がある都道府県ごとに定められた金額が適用されます。
支払う賃金と最低賃金額との比較方法
◯支払う賃金と最低賃金額との比較方法
当該期間における
れぞれ1週間、4週間、1年間
た賃金
(時間給)
(時間額)
時間数が異なる場合には、そ
よって定められ
定められた賃金
最低賃金額
(日、週、月によって所定労働
日、週、月等に
時間によって
+ ÷ 所定労働時間数 ≧
の平均所定労働時間数)
3 同一労働同一賃金
(出所)「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」(厚生労働省)
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
同じ仕事をしていれば正規職員かパートタイマー等かの雇用形態に関係なく、同じ賃金を支払うべきだという考え方です。「働き方改革」の一環として、パートタイマーや派遣労働者、有期労働契約職員等と正規職員との不合理な賃金格差の解消を目指すものとなっています。
「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)」(厚生労働省告示第 430 号 H30.12.28)で、パートタイマーや有期労働契約職員等の待遇に関して、原則となる考え方や具体例を示しています。
不合理な待遇の禁止等に関する指針の具体例
【○:問題とならない例、×:問題となる例】
第2章
基本給
基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契
○ 約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の雇用契約開始時から通算して勤続年数を評価した上で支給している。
基本給について労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約
× を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の雇用契約開始時から通算して勤続年数を評価せず、その時点の労働契約の期間のみにより勤続年数を評価した上で支給している。
賞 与
賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働
× 者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。
「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(厚生労働省)より一部抜粋
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〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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同一労働同一賃金の観点から、正規職員と正規職員以外の労働者との待遇の相違があるならば、その相違に合理性があるのか、しっかり説明できるようにしておかなければなりません。
賃金支払いの 5 原則を守っている
最低賃金以上の賃金を支払っている
□
□
19 割増賃金
(労働基準法)
時間外労働、深夜労働、休日労働を行わせた場合は、労働時間に応じた割増率を適用して割増賃金を支払わなければなりません。
1 割増賃金の割増率
法定労働時間を超える時間外労働、深夜労働、休日労働を行わせた場合には、通常の賃金額に次の割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
(1)割増賃金の割増率
時間外労働(月 60 時間以内)時間外労働(月 60 時間超) 深夜労働(22:00 ~ 5:00)法定休日労働
(2)1か月 60 時間を超える時間外労働
割増率
25%
50%
25%
35%
1か月に 60 時間を超える時間外労働が行われた場合、60 時間を超える部分の割増率は 50%となります。この「60 時間」の対象となる時間外労働は法定時間外労働であり、所定時間外労働や法定休日労働の時間は対象となりません。
この月 60 時間を超える法定時間外労働を行った場合、引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて代替休暇とすることができます。(代替休暇制度の導入には労使協定の締結が必要です。)
時間外労働のイメージ
60 時間
25%割増
25%割増 25%割増
法定時間外労働60時間までは25%割増
2 割増賃金の算定基礎から除外される賃金
60時間超の時間は50%割増
1 時間あたりの割増賃金(割増賃金単価)の算出には、基本給と諸手当が含まれますが、次の 7 種類の手当については、割増賃金の計算基礎に含まなくてよいこととなっています。
(1)割増賃金の算定基礎から除外される賃金
①家族手当(扶養家族数に応じて支給される手当)
②通勤手当(通勤に要する費用、通勤距離に応じて支給される手当)
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当(住宅に要する費用に応じて支給される手当)
⑥臨時に支払われた賃金
42
⑦ 1 か月を超える期間ごとに支払われる賃金
3 割増賃金の計算方法
(1)時間外労働と深夜労働の計算
(所定労働時間)8 時間
4 時間
1 時間
9:00 18:00
22:00
23:00
(2)休日労働と深夜労働の計算
時間外労働 25%以上
時間外+深夜労働 50%以上
(休日労働)8 時間
4 時間
1 時間
9:00 18:00
22:00
23:00
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
休日労働 35%以上 休日+深夜労働 60%以上
※休日労働の場合は、すべてが休日労働時間となるため休日労働が 8 時間以上に及んだ時も 35%以上の割増賃金を払えばよいことになります。
(3)1 時間当たりの割増賃金(割増賃金単価)の計算式
①時給制
割増賃金単価=時間給×割増率(時間外 1.25、休日 1.35、深夜 0.25)
②月給制
割増賃金単価=
基本給+手当 1 か月平均所定労働時間
×割増率(時間外 1.25、休日 1.35、深夜 0.25)
③ 1 か月平均所定労働時間の算出方法
(365 日または 366 日-年間所定休日日数)× 1 日の所定労働時間÷ 12 か月
+α ダブルワークなど複数の事業所で雇用される場合の労働時間と割増賃金
1 日に複数の事業所で働く労働者の労働時間は通算して計算します。たとえば、A 事業所で
4 時間、B 事業所で 5 時間働いた場合の 1 日の労働時間は 9 時間となります。この場合、法定労働時間 8 時間を超える 1 時間は時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。通常は、労働者と後から契約した事業所が割増賃金を支払うこととなります。
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ただし、先に契約した事業所が、その労働者が他の事業所で労働することを知りながら、労働時間を延長して時間外労働を発生させた場合は、先に契約した事業所が割増賃金を支払うこととなります。
割増賃金は法定の割増率もしくはそれ以上で計算している
割増賃金の計算単価に手当を含めて計算している
□
□
20
休業手当
(訪問介護サービスのキャンセル時の扱い)
(労働基準法)
訪問介護サービスにおいて、利用者からキャンセルや利用時間帯の変更を理由に労働者を休業させる場合、休業手当の支払いが必要かどうか、具体的事例で確認しましょう。
1 勤務日確定後のキャンセル
労働基準法では、使用者(会社)の責に帰すべき事由による休業の場合、休業期間中の労働者に休業手当を支払わなければならないと定められています。
「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、勤務表が出来上がり、ヘルパーに示され、勤務日(勤務時間)が特定され、ヘルパーはその勤務日(勤務時間)に働くべく、労働の用意をし、労働の意思を持っているにもかかわらず、次に掲げる理由などによって働くことができなくなり、休業を余儀なくされることをいいます。
⃝利用者からの利用申込みの撤回(キャンセル) ⃝その他使用者の責に帰すべき事由
⃝利用者からの利用時間帯の変更
「使用者の責に帰すべき事由」は、他の利用者宅での勤務等、その労働者に代替業務を行わせる可能性も含めて判断し、使用者として行うべき最善の努力を尽くしたとかどうかが問題となります。
ただし、以下に該当する場合は「休業」に当たらないため休業手当を支払う必要がありません。
就業規則の規定に基づき、事前に休日の振替による労働日の変更を行った場合
その勤務日(勤務時間)に、他の利用者宅で勤務させる等代替業務の提供を行った場合
就業規則の規定に基づき、事前に始業・終業時刻の繰上げ、繰下げによる勤務時間帯の変更を行った場合
代替業務を行わせる可能性等を含めて判断し、使用者が行うべき最善の努力を尽くしたと認められる場合
2 休業手当の計算方法
【賃金に含めないもの】
・臨時に支払われるもの
・3か月を超える期間ごとに支払われるもの
・通貨以外のもの
(1)月給者の休業手当の計算方法
44
× 60%
休業手当を支払うべき日以前3か月間の総賃金休業手当を支払うべき日以前3か月間の暦日数
暦日数に含めないもの
・業務災害休業期間 ・産前産後休業期間
・育児休業期間 ・試用期間
・使用者帰責事由休業期間
【休業手当を支払うべき日以前3か月間】賃金締切日:当月末日の場合
休業手当を支払うべき日(4月 20 日)
▽
1月(31 日)
1か月目
300,000 円
(計算式)
2月(28 日)
2か月目
300,000 円
3月(31 日)
4月
3か月目
300,000 円
(300,000 円+ 300,000 円+ 300,000 円)÷(31 日+ 28 日+ 31 日)= 10,000 円(平均賃金) 10,000 円 × 60% = 6,000 円(休業手当)
(2)時給者の休業手当の計算方法(※4)
休業手当を支払うべき日以前3か月間の総賃金 × 60% × 60%休業手当を支払うべき日以前3か月間の労働日数
【休業手当を支払うべき日以前3か月間】 休業手当を支払うべき日(4月 20 日)賃金締切日:当月末日の場合 ▽
第2章
1月(31 日) 2月(28 日) 3月(31 日)
1か月目 2か月目 3か月目
4月
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ならない決定事項
賃金締切日:当月末日の場合
99,000 円(※1)66,000 円(※2)88,000 円(※3)
※1 99,000 円= 1,100 円×5時間× 18 日
※2 66,000 円= 1,100 円×5時間× 12 日
※3 88,000 円= 1,100 円×5時間× 16 日
1日5時間 時給 1,100 円
(計算式)
(99,000 円+ 66,000 円+ 88,000 円)÷(18 日+ 12 日+ 16 日)× 60%= 3,300 円(平均賃金) 3,300 円 × 60% = 1,980 円(休業手当)
※4 時給者であっても、月給者の休業手当の計算方法で算出した額が、時給者の休業手当の計算方法で算出した額を上回る場合は、月給者の休業手当の計算方法で算出した額を用います。
~具体的事例から休業手当を計算してみましょう~
上記2の時給者が、他の利用者宅でサービスを提供したときその日、他の利用者宅でサービスを2時間提供した場合…
時給 1,100 円×2時間= 2,200 円> 1,980 円(休業手当)であるため
…休業手当を支払う義務はありません。
その日、他の利用者宅でサービスを 1 時間提供した場合…
時給 1,100 円×1時間= 1,100 円< 1,980 円(休業手当)であるため
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45
…差額(880 円)を休業手当として支払う必要があります。
突然のキャンセルに対応できる人員体制を整えている
職員に対して利用者のキャンセル時の賃金について適切な説明を行っている休業手当の計算方法を正しく理解し、適切に対応している
□
□
□
21 退職管理
(労働基準法、高年齢者雇用安定法)
退職時の証明は労働者から請求があった場合、遅滞なく交付する必要があります。その際、請求されていない事項は記入してはなりません。 労働者が退職する際は、退職届を提出してもらいましょう。
1 退職
退職とは、労働者の一方的な意思表示または労使の合意による労働関係の終了をいいます。労働者が自らの意思で退職することについて、民法では、退職はその意思表示から 2 週間で効力が生じますが、労働基準法に規定はありません。
口頭による退職の意思表示も有効ですが、トラブルを防ぐため、退職届を提出してもらいましょう。また退職の手続に関することを就業規則に明記しておきましょう。
(1)就業規則に定めておくこと
①自己都合退職の場合の申し出時期 ②退職日までに引継ぎを完了させること
③退職届の提出 ④退職日までに会社から貸与されているものを返還することなど
2 定年
定年制は、労働者がその年齢に達したときに自動的に労働契約が終了する制度です。高年齢者雇用安定法では、定年の定めをする場合には 60 歳を下回ることはできないとしています。2021 年(令和3年)4月1日の法改正により、従来の 65 歳までの雇用確保措置(義務)に加え、65 歳から 70 歳までの就業機会を確保するための措置(努力義務)を講じることが定められました。
(1)60 歳未満の定年禁止(高年齢者雇用安定法第8条)
(2)65 歳までの雇用確保措置(義務)
定年を 65 歳未満に定めている事業主は、次のいずれかの措置を講じる必要があります。
① 65 歳までの定年引上げ
②定年制の廃止
③ 65 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入
(希望者全員を定年後も 65 歳まで継続雇用する制度を導入する。)
(3)70 歳までの就業機会の確保(努力義務)
46
65 歳までの雇用確保(義務)に加え、65 歳から 70 歳までの就業機会を確保するため、次のいずれかの措置を講じるよう努力する必要があります。
① 70 歳までの定年引上げ
②定年制の廃止
③ 70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入
④高年齢者が希望するときは、70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
・事業主が自ら実施する社会貢献事業
・事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
3 退職時の手続
(1)退職時の証明
退職した労働者から、退職に関する証明を請求されたときは、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。
退職時に証明する事項
①労働者の使用期間 ②業務の種類 ③その事業場における地位
④退職の事由(解雇の場合はその理由を含みます。)
※労働者が請求しない事項は記入しません。解雇の時も同様です。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
(2)賃金の支払いと金品の返還
労働者の死亡または退職の場合に、権利者から請求があったときには、7 日以内に賃金を支払い、積立金等労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。
権利者とは
労働者が退職した場合:退職した労働者本人 労働者が死亡した場合:労働者の相続人
(3)記録の保存
労働契約が終了した場合は、「労働者名簿」に必要な事項を記入しなければなりません。労働者名簿は 3 年間保存する必要があります。
労働者名簿に記載する事項
労働者が退職(解雇)したとき:①退職(解雇)年月日 ②退職(解雇)事由労働者が死亡したとき :①死亡年月日 ②死亡の原因
退職にはいろいろなかたちがあります。
⃝自己都合による退職 ⃝雇用契約期間満了による退職
⃝休職期間満了による退職 ⃝死亡による退職 ⃝定年退職
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退職理由によって手続きが異なることがありますので適切に対応するように注意が必要です。
退職に関する事項を就業規則に定めている
退職者には退職の意思表示を文書(退職届)で提出させている
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22 解雇・雇止め
(労働基準法、労働契約法)
解雇・雇い止めについては、労働基準法、労働契約法等で定められたルールを遵守することはもちろん、解雇・雇い止め等に関する裁判例も参考にして適切な労務管理を行い、労使間でトラブルにならないようにしましょう。
1 解雇
解雇とは、労働契約を将来に向けて解約する使用者側の一方的な意思表示のことです。労使の合意による労働契約の解約や労働契約期間の満了は、解雇には該当しません。
(1)解雇の種類
①普通解雇:労働契約の継続が困難な事情があり、やむを得ず行う解雇で整理解雇、懲戒解雇に該当しないもの
・勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがないとき
・著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき など
②整理解雇:企業経営の悪化により、人員整理のために行う解雇
③懲戒解雇:悪質な規律違反や著しい非行があった場合に懲戒処分として行われる解雇
(2)解雇の法律上の禁止
一定の場合には、解雇が法律上禁止されています。
①業務上傷病により休業する期間及びその後 30 日間の解雇
②産前産後の休業期間及びその後 30 日間の解雇
③国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
④労働者が労働基準監督署へ申告したことを理由とする解雇
⑤労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇
⑥性別を理由とした解雇
⑦女性労働者が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後休業をしたことを理由とする解雇
⑧育児・介護休業等の申出をしたこと、または育児・介護休業等をしたことを理由とする解雇
(3)解雇の効力
①期間の定めのない労働契約の場合
解雇権濫用法理
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効になります。
②有期労働契約の場合
やむを得ない事由がある場合でなければ、期間中の解雇はできません。
(4)解雇の手続き
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解雇を行う場合には、解雇しようとする労働者に対して次の手続が必要です。
①少なくとも 30 日前に予告
②予告を行わない場合には、平均賃金の 30 日分以上の解雇予告手当の支払い
※解雇予告期間が 30 日未満の場合は不足日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。
(5)就業規則等に明記
労働者と労働契約を結ぶとき、労働条件を明示する際には、解雇について明示する必要があります。また就業規則などで解雇の事由を明確に定めておく必要があります。
2 有期労働契約の雇止め
使用者は、有期労働契約を更新しない場合には、あらかじめ更新しないことが明示されている場合でない限り、少なくとも契約期間が満了する 30 日前までに更新しない(雇止めをする)ことを予告しなければなりません(労働基準法第 14 条第 2 項)。
有期労働契約の終了時のトラブル防止のための、使用者が講ずべき措置について「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/ dl/14.pdf が定められています。
雇い止めの予告が必要な場合
①契約を 3 回以上更新している場合
② 1 年以下の契約期間の労働契約が更新されて、最初の契約から連続して通算して 1 年を超える場合
③ 1 年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
使用者は、雇止めの予告後に労働者が雇い止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく交付しなければなりません。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
3 雇止めの法理
有期労働契約であっても、①有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態であるもの、または②有期労働契約の期間満了後の雇用継続について、合理的期待が認められるものについては、雇止めが客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は、雇止めが認められず「同一労働条件で労働契約が更新・締結されたもの」とみなされます。(労働契約法第 19 条)
合理的理由の判断要素
①業務の客観的内容 : 従事する仕事の種類・内容・勤務の形態
②契約上の地位の性格 : 地位の基幹性・臨時性(嘱託・非常勤等)
③当事者の主観的態様 : 継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等
④更新の手続き・実態 : 契約更新の状況、更新時の手続の厳格性の程度
⑤他の労働者の更新状況 : 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等
⑥その他 : 有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢等の上限の設定等
解雇や雇止めをめぐるトラブルは事業所にとって大きな問題です。トラブルを防止するためには、法令のルールの遵守はもちろん、労使間で充分な話合いを行うことや信頼関係を損なうような方法を避けることが重要です。裁判例では解雇が「権利濫用の法理」により、また雇止めが「雇止めの法理」等により認められなかった事案もあります。解雇や雇止めを検討しなければならない場合には、ぜひ、労働基準監督者や労務管理の専門家に相談しましょう。
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解雇の規定を就業規則に定めている
雇止めの予告が必要な場合は 30 日前までに予告をしている
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23
女性労働者の保護
(産前産後休業、生理休暇、母性健康管理等)
(労働基準法、育児・介護休業法)
女性労働者の母性を保護するために、女性労働者の就労にあたって、さまざまな法規制があります。また、妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています。
1 女性労働者の保護
(1)産前産後休業
原則として産前 6 週間(多胎妊娠の場合は 14 週間)の間にある女性労働者から請求があった場合と、産後 8 週間の間にある女性労働者は就業させることはできません。ただし、産後 6 週間を経過した女性労働者が請求した場合には、医師が支障がないと認めた業務に就かせることができます。
産前産後休業の期間
産前 6 週間
出産日
産後 8 週間
本人から休業の請求があった場合は就業させることはできない。
※出産日(出産予定日)は産前に含めます。
本人からの請求の有無に関係なく就業させることはできない。
(2)生理休暇
生理日の就業が著しく困難な女性労働者が休暇を請求したときは、その女性労働者を生理日に就業させることはできません。生理日の休暇の日数は、その女性労働者に必要な日数であって、就業規則などで休暇日数を限定することはできません。
※生理日の休暇を有給休暇として取り扱う必要はありませんが、有給にするか無給にするかは、就業規則などで明確に定めておきましょう。
(3)育児時間
生後満 1 年未満の子を育てている女性労働者は、通常の休憩時間のほかに、1 日 2 回、それぞれ少なくとも 30 分の育児時間(授乳などのための時間)を請求することができます。使用者は請求があれば、育児時間中、その女性労働者を就業させることはできません。
(4)妊娠中と出産後の母性健康管理に関する措置
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妊娠中または産後 1 年を経過しない女性労働者については、母子保健法の規定による保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保できるようにしなければなりません。また、女性労働者が保健指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるように、勤務時間の変更、勤務の軽減など、必要な措置をとる必要があります。
2 妊娠・出産等による不利益取り扱い (育児・介護休業法)
妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています。
(例) ①解雇すること
②期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
③あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に回数を引き下げること
④退職または労働契約内容の変更の強要を行うこと
⑤降格させることなど
3 産前産後休業期間の社会保険料
産前産後休業期間中の社会保険料免除
産前42 日(多胎妊娠の場合は98 日)、産後56 日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間について、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)が被保険者分及び事業主分ともに免除になります。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
4 健康保険の給付制度
健康保険に加入している女性が出産した場合、出産手当金や出産育児一時金などの給付金を受けることができます。
(1)出産手当金
健康保険においては、産前産後の休業期間中 1 日につき平均標準報酬日額の 3 分の 2 の金額が出産手当金として支給されます。
出産手当金が支給される期間
産休開始 出産予定日 出産日
産後 8 週間
○支給期間
出産予定日以前 42 日分 α
出産の翌日以後 56 日分
出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日以前 42 日(多胎妊娠の場合 98 日))から出産の翌日以後
56 日目までの範囲内で会社を休んだ期間。
出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間(α日分)についても出産手当金が支給されます。
(2)出産育児一時金
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〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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出産したときに胎児 1 人につき一時金が支給されます。
女性労働者の保護について就業規則に規定している
妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱いはしていない
□
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24 育児・介護休業
(育児・介護休業法)
育児休業、介護休業は、男性・女性労働者ともに取得できる制度です。育児・介護と仕事の両立を支援するために、取得しやすい環境を整備しましょう
1 育児休業制度
育児休業とは労働者が1歳に満たない子を養育するためにする休業です。
子が1歳の時点で保育所に入所できない等事情がある場合は、1歳6か月まで延長ができます。子が1歳
6か月の時点で保育所に入所できない等事情がある場合は、2歳まで延長することができます。また、1歳に満たない子について育児休業をするときは、分割して2回取得する事ができます。
育児休業の取得イメージ(出典:厚生労働省リーフレット)
例1
出生後
出生 8週 1歳
保育所に入所できない等の場合
1 歳半 2歳
母
産休
育休
育休
育休
育休
父
休
休
育休
育休
育休
出生時 退院時等
例2
さらに もう1回
+
出生後
夫婦が育休を交代できる回数が増える
開始時点を柔軟化することで、夫婦が育休を途中交代できる
保育所に入所できない等の場合
出生 8週 1歳 1 歳半 2歳
母
産休
育休
育休
育休
父
休
休
育休
育休
育休
育休
+
出生時 退院時等
さらに もう1回
妻の職場復帰等のタイミング
開始時点を柔軟化することで、夫婦が育休を途中交代できる
産後パパ育休
育児休業
1歳以降の育児休業
➡新設(分割して2回取得可能)
➡夫婦ともに分割して2回取得可能
➡途中交代可能
出生時育児休業(通称:産後パパ育休)
2022 年(令和4年)10 月1日から、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業制度として出生時育児休業(産後パパ育休)が創設されました。子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができ、この4週間を2回に分割して取得することができます。
2 介護休業制度
介護休業とは、労働者が要介護状態にある対象家族の介護のためにする休業です。対象家族 1 人につき、通算して 93 日を限度に 1 ~ 3 回に分散して取得することができます。
(1)要介護状態とは
「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2 週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」をいいます。
(2)対象家族とは
52
配偶者(内縁関係を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫をいいます。
3 そのほかの制度
(1)育児に関する制度
子の♛護休暇 対象:小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者
1 年に 5 日まで(子が 2 人以上の場合は 10 日まで)病気・けがをした子の♛護または子に予防接種・健康診断を受けさせるために休暇を取得できる。
所定外労働を制限
対象:3 歳に満たない子を養育する労働者
する制度
時間外労働を制限する制度
深夜業を制限する制度
所定労働時間の短縮措置
その子を養育するために請求した場合、所定労働時間を超えて労働させてはならない。
対象:小学校の始期に達するまでの子を養育する労働者
その子を養育するために請求した場合、1 月 24 時間、1 年 150 時間を超えて労働時間を延長してはならない。
対象:小学校の始期に達するまでの子を養育する労働者
その子を養育するために請求した場合、午後 10 時から午前 5 時において労働させてはならない。
対象:3 歳に満たない子を養育する労働者
1 日の所定労働時間を短縮する制度(原則 6 時間とする。)
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
(2)介護に関する制度
介護休暇 対象:要介護状態にある対象家族の介護その他の世話を行う労働者
1 年に 5 日まで(対象家族が 2 人以上の場合は 10 日まで)介護その他の世話を行うために休暇が取得できる。
所定外労働を制限
対象:要介護状態にある対象家族を介護する労働者
する制度
時間外労働を制限する制度
深夜業を制限する制度
所定労働時間の短縮措置
その対象家族を介護するために請求した場合、所定労働時間を超えて労働させてはならない。
対象:要介護状態にある家族を介護する労働者
その対象家族を介護するために請求した場合、1 月 24 時間、1 年 150 時間を超えて労働時間を延長してはならない。
対象:要介護状態にある対象家族を介護する労働者
その対象家族を介護するために請求した場合、午後 10 時から午前 5 時において労働させてはならない。
対象:常時介護を要する対象家族を介護する労働者
対象家族 1 人につき、利用開始から 3 年以上の間で利用を可能とする制度
2021 年(令和3年)1月1日から子の♛護休暇、介護休暇は時間単位で取得できるようになりました。
育児休業・介護休業は就業規則の絶対的必要記載事項に該当するため、就業規則に定める必要があります。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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育児休業・介護休業の申出をしたことを理由に労働者に不利益な取扱いは禁止されています。
育児休業・介護休業について就業規則に定めている
育児休業・介護休業の申出をした労働者に不利益な取り扱いをしていない
□
□
子育てサポート企業、女性
25 活躍推進企業
(次世代育成支援対策推進法、
女性活躍推進法)
仕事と子育て両立や女性が活躍できる職場は、魅力ある職場です。
子育てサポート企業(くるみん認定)や女性活躍推進企業(えるぼしの認定)を受けることを目指し、雇用管理改善に取り組みましょう。
1 次世代育成支援対策推進法と一般事業主行動計画
次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」)では、次代の社会を担う子どもの健全な育成を支援するため、企業は、労働者の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定することとなっています。
そのうち、常時雇用する労働者が 101 人以上の事業主は、次世代法に基づき、仕事と子育て両立を図るため、一般事業主行動計画の策定・届出、公表・周知が義務づけられています。この計画は都道府県労働局に届出なければなりません。
また、100 人以下の事業主についても一般事業主行動計画の策定のうえ届出ができます。
一般事業主行動計画に定める事項
①計画期間
②次世代育成支援対策の実施により達成しようとしている目標
③目標達成のための支援対策の内容及び実施時期
事業主に求められる次世代育成支援対策としては、育児休業の取得推進や所定外労働の削減、年次有給休暇の取得促進や子どもの健やかな育成のための地域貢献活動などが挙げられます。具体的には下記のような例があります。
⃝職員に対する雇用環境の整備(例)
・育児休業及び育児短時間勤務制度等を周知し、取得促進を働きかける。
・平均所定外労働時間を 1 人 1 か月当たり 10 時間未満とする。
・働く親の姿を子どもに見せる「子ども参観日」を実施する。
⃝地域貢献活動(例)
・子どもの健やかな育成のための活動を行うNPO 法人への参加を支援する。
一般事業主行動計画を作成するメリット
「くるみんマーク」は、子育て支援に積極的な事業所の証であり、また、雇用管理が適切に行われていることの証としてホームページや名刺等に付けることができます。
最近では、合同就職説明会で「くるみん認定企業」が優先的に参加できるようになってきているほか、求職者にも「くるみんマーク」の有無が大きな注目ポイントになっています。
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また、税制優遇措置や公共調達で有利になることがあります。
2 トライくるみん認定・くるみん認定・プラチナくるみん認定・プラス認定
行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の要件を満たした場合、「子育てサポート企業」として認定(くるみん認定)を受けることができます。マークの上部に最新の認定年が記載され、☆の数で、これまで認定を受けた回数を表しています。
くるみん認定企業のうち、より高い水準の取組を行った企業が一定の要件を満たした場合、優良な「子育てサポート企業」として特例認定(プラチナくるみん認定)を受けることができます。
新たな認定制度「トライくるみん」がスタート!認定基準は、改正前のくるみん認定と同じです。
※トライくるみん認定を受けていれば、くるみん認定を受けていなくても直接プラチナくるみん認定を申請できます。
新たに不妊治療と仕事との両立に関する認定制度「プラス」がスタート!
くるみん、プラチナくるみん、トライくるみんの認定基準に加えて、不妊治療と仕事との両立に関する「プラス認定基準」を満たすことが必要です。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
「くるみん認定」と「トライくるみん認定」は、それぞれの認定を受けるために必要な 10 項目の認定基準を、
「プラチナくるみん認定」は 12 項目の特例認定基準を満たす必要があります。また、「プラス認定」はくるみん等の認定基準を満たした上で、4項目のプラス認定基準を満たす必要があります。
3 女性活躍推進法による「えるぼし」認定
常時雇用する労働者が 301 人以上の事業主は、女性の活躍に向けた行動計画の策定等が義務付けられています。また、2022 年(令和 4 年)4 月 1 日からは常時雇用する労働者が 101 人以上の事業主へも女性の活躍に向けた行動計画の策定等が義務となります。
また、行動計画の策定、届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進の取組実施状況等が優良な企業には、都道府県労働局への申請により「えるぼし」マークの認定を受けることができます。①採用、②継続就業、
③労働時間等の働き方、④管理職比率、⑤多様なキャリアコースの 5 つの評価項目を満たす項目数に応じて取得できる認定段階が決まります。さらに、えるぼし認定企業のうち、一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取組の実施状況が特に優良である等の一定の要件を満たした場合は、「プラチナえるぼし」マークの認定を受けることができます。
認定企業等は公共調達で有利になる場合があります。
*認定基準の詳細については、以下の厚生労働省のURL を参照して下さい。
(厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
えるぼし認定段階
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認定の区分は、次の4つになります。
常時雇用する労働者 101 人以上の事業主として一般事業主行動計画を届け出ている □一般事業主行動計画の目標達成とともに「くるみん認定」を目指している □女性活躍推進に取組み、「えるぼし」認定を目指している □
26 派遣労働者の受入れ
(労働者派遣法)
派遣労働者は自事業所の労働者ではありませんので、職員と同様に管理してはなりません。派遣契約に基づき管理を行いましょう。
1 派遣労働者の管理
派遣労働者は自事業所の職員ではありません。派遣労働者は雇用関係と指揮命令が別のため、自事業所の職員とは明確に区別する必要があります。
派遣労働者、派遣元、派遣先の関係
雇用関係
派遣元
派遣労働者
派遣契約
指揮命令・労務の提供
派遣先
派遣労働者は、派遣契約に基づき派遣されているので、この契約に基づき業務を依頼し、派遣契約内容以外の業務を依頼してはなりません。
2 派遣労働者の派遣受け入れ期間
派遣契約ではすべての業務に対して、①派遣先事業所単位と、②派遣労働者個人単位の 2 種類の期間制限が適用されます。
①派遣先事業所単位の期間制限
派遣先の同一の事業所で派遣労働者を受け入れできる期間は、原則、3 年が限度となります。3 年を超えて受け入れるためには、派遣先企業での過半数労働組合等への意見聴取が必要です。
②派遣労働者個人単位の期間制限
同一の派遣労働者が、派遣先の同一組織で働ける期間は、3 年が限度となります。この組織とはいわゆる「課」や「グループ」などが該当します。途中で業務内容が変更になった場合も組織が変わらなければ最長 3 年に変更はありません。
56
+α
例外として、「派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者」や「60 歳以上の派遣労働者」、「産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の代替としての派遣労働者」などの派遣の受入れは期間制限の対象外とされています。
3 労働契約申込みみなし制度
派遣先が違法派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合、派遣労働者に対し、その時点における同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。
違法派遣とされるものは、以下のとおりです。ただ、違法派遣と知らず、また、違法派遣であることを知らなかったことに過失がない場合には、この制度の適用は除外されます。
違法派遣とされるもの
①禁止業務への派遣受け入れ
②無許可・無届の派遣元からの派遣受け入れ
③期間制限を超えての派遣受入れ
④偽装派遣
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
4 派遣先の責任と派遣労働者の労務管理
派遣労働者との間に雇用関係は成立していませんが、就業場所である派遣先にも、下の図表のように労働基準法上の責任を負担することになります。介護職員として派遣労働者を活用する際には、派遣先としての労務管理を確実に行いましょう。
派遣元・派遣先の労働基準法上の責任
派遣元が責任負担 派遣先が責任負担
労働契約
公民権行使の保障
賃金
産前産後の時間外・休日労働、深夜業に係るもの
有給休暇の付与
36 協定の締結
労働時間、休憩、休日育児時間
時間外・休日及び深夜の割増賃金産前産後休業に関するもの
就業規則 労働者名簿
生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置
「派遣労働者の労働基準法の適用について」(静岡労働局)より一部作成。詳しくは https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_ seido/kantoku54.html
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
57
『11.パートタイマーの雇用管理』で記載されている不合理な待遇差の禁止ついて、派遣労働者にも適用されます。派遣労働者に対しては、①派遣先の労働者と派遣労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件を満たす労使協定による待遇、のいずれかを確保しなければなりません。
派遣労働者に対して、派遣契約内容以外の業務を依頼していない
派遣労働者に関する労働基準法等の責任を確実に実施している
□
□
27 外国人労働者
(出入国管理法)
外国人労働者は安価な労働力の確保を目的として利用してはならず、一般の職員と同じように労働関連法規が適用されます。
1 在留資格
日本で活動しようとする外国人は、出入国管理法に定める「在留資格」が与えられて日本に在留することになります。介護の分野で就労ができる在留資格は、以下のとおりとなっています。
在留資格 制度趣旨
介護 専門的・技術的分野の外国人の受入れ
経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士・候補者
特定技能
技能実習
二国間の経済連携の強化
人手不足対応のための一定の専門性・技能を有する外国人の受入れ
本国への技能移転( 人材育成による国際貢献)
(注)技能実習については、人材確保と人材育成を目的とする転籍要件を緩和した新しい制度(育成就労制度)へ切り替わる予定です。
2 外国人労働者を雇用する際の注意点
外国人を雇用する場合は、就労させようとする仕事の内容が在留資格の範囲内の活動か、在留期間を過ぎていないかを在留カードや旅券(パスポート)などで、確認する必要があります。
在留カードの表面には、在留カード番号、氏名、生年月日、性別、国籍・地域、住居地、在留資格、就労制限の有無、在留期間、許可の種類、許可年月日、交付年月日、在留期限等が記載されています。
在留カード
表面 裏面
58
(出所)法務省ホームページ
不法入国者・不法残留者等の違法在留者および在留資格に認められない就労活動を許可なく行う不法就労者を雇用した場合、事業主は出入国管理法により「不法就労助長罪」により罰せられることになります。
3 外国人労働者の労務管理
(1)外国人労働者雇用労務責任者の選任
外国人労働者を常時 10 人以上雇用するときは、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」により、外国人労働者雇用労務責任者を選任することが定められています。
(2)外国人雇用状況報告
すべての事業主は、外国人労働者(特別永住者を除く)の雇用または離職の際に、その外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等をハローワークへ届け出ることが義務づけられています。
なお、雇用保険被保険者資格取得届または雇用保険被保険者資格喪失届を提出することで、外国人雇用状況の届出を行ったこととなります。
(3)適正な労働条件の確保
外国人労働者が日本人と同等の労働を行う場合には、同等の処遇をする必要があります。最低賃金法の遵守は当然のこととして、日本人が従事する場合の報酬と同等額以上の報酬水準とします。
また、外国人労働者が信仰している宗教によっては、食事に制限があったり、お祈りの時間が必要な場合もあります。日本人にはなじみのない文化や習慣を持っている場合もあります。それぞれの職員の宗教や文化等をきちんと確認し、尊重するのが重要です。
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
日本国内において合法的に就労する外国人労働者については、労働関連法規が属地主義に基づいているため、労働関連法規が日本人労働者と同様に適用されます。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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+α 雇用保険や健康保険、厚生年金保険は、外国人労働者であっても原則として加入要件を満たしているのであれば、日本人の労働者と同様に加入することになります。
外国人労働者に労働関連法規がしっかり適用されている
外国人労働者に対して、生活面も含めた幅広い支援をしている
□
□
28
健康診断・安全衛生管理
(労働安全衛生法)
ケガや病気を未然に防ぐ安全衛生管理体制の整備は、働きやすい職場環境の基本です。また、職員の健康管理のために定期に健康診断を実施しましょう。
1 健康診断
事業所は、常時使用する労働者に対して、医師による健康診断の実施が義務づけられています。また労働者も、事業所が行う健康診断の受診義務があります。
健康診断の種類
健康診断の種類 対象となる労働者 実施時期
雇入時の健康診断
一般健康診断
定期健康診断
特定業務従事者(夜勤)の健康診断
給食従事者の検便
常時使用する労働者(常時使用する短時間労働者含む)
常時使用する労働者(常時使用する短時間労働者含む)
対象となる労働者
(夜勤従事者等)
事業に付属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者
雇入れの際
1年以内ごとに1回
左記業務への配置替えの際、6月以内ごとに1回
雇入れの際、配置換えの際
以下のいずれの要件を満たす場合、健康診断を行わなければなりません
①期間の定めのないパートタイマー(期間の定めのある契約により使用される者の場合は、
1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者)
②1週間の労働時間数がその事業場で同種の業務に従事している通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であるパートタイマー
+α 法的に健診義務のない職員への健康診断
60
「常用労働者ではなく、安衛法上の健診義務のない者」については、健診の義務はないものの、介護労働という業務の性質から考えると、「雇入時健康診断」及び「定期健康診断」は受診させることが望ましいでしょう。
2 安全衛生管理体制の整備
快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じた事業場における職員の健康障害の防止、健康の保持増進、労働災害の防止は、組織が一丸となって取り組むべき課題です。労働安全衛生法では、下記のような衛生管理者や産業医の選任、衛生委員会の設置が義務づけられています。
(1)常時使用する労働者が 50 人以上
①産業医
職場巡視などの業務を担う産業医を選任しましょう。※
産業医を選任した事業者は、産業医に対し以下の情報を提供しなければなりません。
(イ)健康診断・面接指導・ストレスチェック後の就業上の措置の内容
(ロ)月 80 時間を超えた職員の氏名、労働時間に関する情報
(ハ)職員の作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜業等の回数、時間数などのうち、産業医が職員の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの。
②衛生管理者
第1種衛生管理者または第2種衛生管理者を選任しましょう。※
③衛生委員会の設置・開催
毎月1回以上開催し、議事内容を職員へ周知する。なお、委員会開催の都度、委員会の意見や当該意見を踏まえて講じた措置の内容、委員会における議事で重要なものを記録し、3 年間保存しなければなりません。
・労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
・労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
・労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
・前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項。
※選任したときは、遅滞なく、選任報告を所轄の労働基準監督署長に提出しましょう。
(2)常時使用する労働者が 10 人以上 50 人未満
衛生推進者
衛生推進者は衛生業務について権限と責任を有する者の指揮を受け、衛生に係る業務を担当します。
(3)9人以下の事業所においても、安全衛生管理体制を整備することが望ましいでしょう。
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
介護事業所では「感染症対策」や「腰痛予防対策」についても予防や事後対策が求められます。
○「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版」(厚生労働省)2019 年(平成 31 年)
3月 https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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○「職場における腰痛予防対策指針」(厚生労働省)2013 年(平成 25 年)6月 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/youtsuushishin.html
対象者ごとに必要な健康診断を実施している
安全衛生管理体制を整備し、職員の安全衛生を確保するための措置を講じている
□
□
29
メンタルヘルスとストレスチェック制度
(労働安全衛生法)
労働者の心の健康の保持増進のために介護事業所が取り組まなければならない措置を計画的に実行し、メンタル不調の未然防止と早期発見・早期対応の体制づくりをしましょう。
1 メンタルヘルスケア
メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の4つのケアが継続的かつ計画的に行われることが重要です。
事業者は、①心の健康計画の策定、②関係者への事業場の方針の明示、③労働者の相談に応ずる体制の整備、
➃関係者に対する教育研修の機会の提供等、⑤事業場外資源とのネットワーク形成などを行いましょう。
心の健康づくり計画の策定
①セルフケア 全労働者
4つのケア
①ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
②ラインによるケア
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
➃事業場外資源によるケア
(管理監督者も含む)
管理者監督者(上司)
産業医、人事管理部門等
事業場外の機関、専門家
②ストレスへの気づきと対処
①職場環境の把握と改善
②部下の相談対応
③職場復帰支援など
①具体的なメンタルヘルス対策の企画立案
②個人情報の取り扱い
③事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
④職場復帰支援など
①情報提供や助言を受ける等のサービスの活用
②ネットワークの形成
③職場復帰支援など
○メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供(管理監督者を含む全ての労働者が対応)
○職場環境等の把握と改善(メンタルヘルス不調の未然防止)
○メンタルヘルス不調への気づきと対応(メンタルヘルス不調に陥る労働者の早期発見と適切な対応)
○職場復帰における支援
62
介護職員は奉仕の精神が旺盛な方が多く仕事を抱えてしまうことや夜勤など生活のバランスが崩れやすいことなどから複層的なストレス対策が求められます。予防策としては個人と組織の両面からストレス管理に取り組むことが大切です。
2 職員の休職・復職
休職制度の導入は法律で義務付けられたものではありませんが、職員がどのような状態になった場合に休職として取り扱うか、休職期間をどの程度とするかを就業規則に定め、職員に周知しなければなりません。
また、職員が復職を希望する場合、最終的に誰が復職を決定するか、主治医からの意見聴取をどのような手順で進めていくかなど復職までのプロセスの明確化が求められます。加えて、休職をする職員に対して休職制度の内容と、休職期間満了後の取り扱いについては、適切な説明を行っておく必要があります。
職場復帰支援プログラム
第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア 第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場
復帰支援プランの作成 第4ステップ 最終的な職場復帰の決定
職場復帰
第5ステップ 職場復帰後のフォローアップ
50 人以下の事業所は、「各都道府県の産業保険総合支援センター」へ相談
上司+メンタルヘルス推進担当者
職場復帰支援プラン作成
(試し出勤等)
第3ステップ
主治医の復職可能との診断書(必須)
産業医との復職面談
復職判定委員会(仮称)との面談
復職可否の判断
(産業医の意見書、復職判定委員会により)
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
+α 復職後の一定期間内に同一傷病または類似傷病で再度休職したときの取得日数の取り扱いは、すでに取得した休職期間を再び開始した休職期間に加えることが一般的です。
3 ストレスチェック制度
職場におけるメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的に、常時 50 人以上の労働者を使用する事業場に対して、医師、保健師などによる年1回のストレスチェックとその結果に基づく面接指導などの実施が義務づけられています。
ストレスチェックをきっかけに働く職員一人ひとりが自らのストレスの状況に気づき、セルフケアなどの対処をするとともに、事業所は長時間労働の改善や職場内のコミュニケーションのあり方などを含めた職場環境の見直しを行い、働きやすい職場づくりを進めることが重要です。
ストレスチェック結果の集団ごとの分析結果の活用の有無(%)
事業場規模 50~99人 100~299人 300~499人 500~999人 1,000人以上 計
ストレスチェック結果の集団ご
との分析を実施した事業所計内、分析結果を活用した事業所割合
74.8%
87.6%
91.7%
92.6%
93.7%
80.2%
厚生労働省令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況から作成
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
63
職場ごとのストレスの状況を把握などすることを集団分析といいます。集団分析の結果を、業務内容や労働時間など他の情報と併せて評価し、職場環境改善に取り組むよう努めましょう。
メンタルヘルスケアの取組「心の健康づくり計画」「4つのケア」を実施している
(労働者 50 人以上の事業場)ストレスチェック制度を実施している
□
□
30
職場のハラスメント対策
(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法)
職場でのあらゆるハラスメントは許されません。事業所は、雇用管理の問題として職場のセクシュアルハラスメント対策やパワーハラスメント対策等の防止措置等を講じて、快適な職場づくりに取組みましょう。
1 セクシュアルハラスメント(いわゆる「セクハラ」)
「セクハラ」とは、職場において性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、身体への不必要な接触など意に反する性的な言動が行われ、拒否したことで不利益を受けたり、職場の環境が不快なものとなることをいいます。事業主は、次のような措置を講ずる義務があります。
事業主が雇用管理上講ずべき措置 (男女雇用機会均等法第 11 条、いわゆる「セクハラ指針」)
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
④相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置とその周知
⑤相談したこと・事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、職員に周知すること
2 パワーハラスメント(いわゆる「パワハラ」)
「パワハラ」とは、職場において行われる次の①~③までの要素を全て満たすものをいいます。
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
2020 年(令和2年)6月1日からは労働施策総合推進法によって、パワハラがないよう、職員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることが義務となりました。
パワハラ対策の基本的枠組み
≪予防するために≫
①トップのメッセージの発信 ⇒ 「職場のパワハラをなくす!」という意思表明
②ルールを決める ⇒ 就業規則の整備・労使協定の締結など
③実態を把握する ⇒ 職員アンケートを実施する
④教育する ⇒ パワーハラスメント研修を実施する
⑤周知する ⇒ 事業所の方針や取組を周知・啓発する
≪解決するために≫
⑥相談や解決の場を設置する ⇒ 対応責任者を決め、相談窓口を設置する
⑦再発防止のための取組 ⇒ 行為者に対する再発防止研修等を行う
64
(厚生労働省「パワーハラスメント対策導入マニュアル」より)
~セクハラとパワハラの違い~
セクハラもパワハラも目的と手段の適切さが認められなければなりません。その上で、セクハラについては、受け手が意に反することを明確に示しているにも関わらず、その行為が繰り返される場合は、職場におけるセクハラと解されます。
一方でパワハラ(身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)は受け手の感じ方によってのみ判断されるものではありません。業務指導の許容範囲である可能性が高いという特性もあります。そのため、各事業所で「何が業務の適正な範囲で、何がそうでないかを明確にする取組」が求められます。
3 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント
妊娠・出産したこと、育児や介護休業等を理由とする解雇等の不利益取り扱いは法律で禁止されています。また、妊娠・出産したこと、育児や介護のための制度利用をしたこと等に関して、上司・同僚が就業環境
を害する言動を行うことを「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」といいます。2017 年(平成 29 年)1月から事業主に防止措置を講じることが義務づけられました。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
ハラスメントの内容 (男女雇用機会均等法第 11 条の2、育児・介護休業法第 25 条)
①制度等の利用への嫌がらせ型
妊娠・出産に関する制度・措置の利用に関する言動により就業環境が害されること
②状態への嫌がらせ型
妊娠したこと・出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるもの
具体例
①制度等の利用への嫌がらせ型:男性労働者が育児休業を申し出たところ、上司から「男のくせに育児休業をとるなんてありえない」と言われ、休業を断念した。
②状態への嫌がらせ型:先輩から「就職したばかりなのに妊娠して、産休・育休とるなんて図々しい」と何度も言われ、就業意欲が低下した。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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+α 職場のハラスメントには、上記の他に、モラルハラスメント等様々なものがありますが、ハラスメント防止策を講じて、労働者が働きやすい環境整備をすることが求められています。
セクシュアルハラスメント防止措置を講じているパワーハラスメント防止措置を講じている
妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント防止措置を講じている
□
□
□
31
労働保険・社会保険
(労働保険徴収法、労災保険法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法)
労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用・加入は、組織の秩序を維持するための前提条件です。各制度の適用範囲・給付内容等を正しく理解し適正に手続きをしましょう。
1 労働保険・社会保険の適用範囲
労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用範囲を確認しましょう。
(1)労災保険
職員(パートを含む)を1人以上雇用したとき、加入しなければなりません。
加入するためには、労働保険の保険関係成立届を原則として所轄の労働基準監督署に提出します。
(2)雇用保険
次の労働条件のいずれにも該当する職員(パートを含む)を雇用したときは加入手続きが必要です。
①1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること ② 31 日以上の雇用見込みがあること
(3)健康保険、厚生年金保険
法人(会社)で常時職員(事業主のみの場合を含む)を使用するときは、加入手続が必要です。2022年 10 月からは段階的に社会保険の適用範囲が拡大され、一部のパートタイマーも社会保険の加入が義務化されました。
⃝厚生年金の被保険者数が常時 100 人以下の事業所の場合
1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事する正規職員の4分の3以上であるパートタイマーは、加入しなければなりません。
⃝厚生年金保険の被保険者数が常時 101 人以上の事業所の場合
下記の①~④全てを満たすパートタイマーは、加入しなければなりません。
①週の所定労働時間が 20 時間以上であること ②雇用期間が1年以上見込まれること
③賃金の月額が 8.8 万円以上であること ④学生でないこと
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大
▶︎
2016年10月〜従業員数
501人以上
の企業
2022年10月〜従業員数
▶︎
101人以上
の企業
2024年10月〜従業員数
51人以上
の企業
check
check
週の所定労働時間が 20時間以上
2ヶ月を超える雇用の見込みがある
check
check
月額賃金が 8.8万円以上
学生ではない
66
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」
2 労働保険・社会保険の給付内容
(1)労働保険(労災保険・雇用保険)
「労働保険」とは労災保険と雇用保険とを総称した呼称です。保険給付は、両保険制度で別個に行われていますが、保険料の納付等については一体のものとして取り扱われています。
労災保険の給付内容
業務災害(労働者が業務を原因として被った負傷、疾病または死亡(以下「傷病等」)と通勤災害(通勤によって労働者が被った傷病等)に対して必要な保険給付等が行われます。
<代表的な給付の種類>
○療養(補償)給付・・・労災指定医療機関等で療養を受けるとき
○休業(補償)給付・・・傷病の療養のため労働できず、賃金を受けられないとき上記以外にも、「障害(補償)給付」や「遺族(補償)給付」などがあります。
第2章
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
雇用保険の給付内容
労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由などが生じた場合に必要な給付等が行われます(この他にもさまざまな就業促進のための給付や労働者の福祉の増進のための施策があります。)。
<代表的な給付の種類>
○基本手当・・・・・失業中の期間について最短 90 日~最長 360 日の範囲で支給する。
○育児休業給付・・・育児休業期間中(子が1歳になるまで、最長2歳まで)に支給
○介護休業給付・・・介護休業期間中(同一の対象家族に通算 93 日を限度)に支給
(2)健康保険の給付内容
労働者またはその被扶養者の業務災害または通勤災害以外の疾病、負傷もしくは死亡または出産に関して保険給付を行う。「療養の給付」や「傷病手当金」、「出産手当金」など生活の安定と福祉の向上に大きく寄与するためのものです。
+α 労働保険や社会保険に加えて、民間の傷害補償(総合生活保険)や損害賠償保険もあります。これらに加入することで、介護業務中の急激かつ偶然な外来の事故によるケガ(一部例外あり)
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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や対象となる感染症が発生した場合の補償や介護業務中に他人の身体を傷つけたり、物を壊したりした場合などの賠償金の補償を受けることができます。
労働保険の適用範囲を理解し、必要な加入等の手続きを行っている社会保険の適用範囲を理解し、必要な加入等の手続きを行っている
ケガや病気が発生した場合、速やかに請求手続を行っている
□
□
□
32 個人情報保護
(個人情報保護法、マイナンバー法)
介護関係事業者は、多数の利用者やその家族について他人が容易には知り得ないような個人情報を知りうる立場にあるので、個人情報の適正な取扱いが求められます。
1 個人情報保護法とマイナンバー(番号)法
個人情報保護法は、民間事業者における「個人情報」の取扱いルール等を定めている法律です。従来は、取扱う個人情報の数が 5,000 人分以下の事業者には適用されていませんでしたが、現在は、すべての事業者に適用されています。
一方、マイナンバー(番号)法は、マイナンバー(個人番号)や特定個人情報(マイナンバーを含む個人情報)の取扱いについて、個人情報保護法の特例を定めた法律です。
個人情報と特定個人情報
個人情報
(生存する方の情報であることが前提)
特定個人情報生存する方の
マイナンバー(個人番号)
亡くなられた方の
マイナンバー(個人番号)
亡くなられた方の個人の情報は、「個人情報」に該当しませんが、医療・介護関係事業者においては、保存している場合、個人情報と同等の安全管理措置を講ずる必要があります。
(出所)「『個人情報』と『特定個人情報』の主な違い」個人情報保護委員会事務局より一部修正
個人情報とは、氏名、生年月日など特定の個人を識別できるものをいいます。そのため、介護関係事業者における個人情報は、ケアプラン、介護サービス提供にかかる計画、提供したサービス内容等の記録、事故の状況等の記録なども該当します。
個人情報保護法とマイナンバー(番号)法
項目 個人情報保護法 マイナンバー法
対象事業者 1人でも個人情報を取扱うすべて事業者 特定個人情報を取扱うすべての事業者
利用範囲
第三者への提供
利用目的の範囲に制限がない(事業者が自由に決められる)
同意があれば可
マイナンバー法で定められた税、社会保障、災害対策に限定
不可(法令に掲げる場合のみ可)
68
医療・介護関係事業者は、個人情報を取得するにあたって、あらかじめその利用目的を公表しておくか、個人情報を取得した場合、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、または公表しなければなりません。
2 安全管理措置
個人情報保護法が求める安全管理措置と、マイナンバー法が求める安全管理措置とでは、その基本的な要素(漏えい、滅失またはき損等の防止その他安全管理のために必要かつ適切な措置)はおおむね共通するため、基本的な内容は同じです。
ただ、マイナンバーの安全管理措置には、一部マイナンバー法固有の観点から講ずることとされている措置もあります。
組織的安全管理措置
人的安全管理措置
物理的安全管理措置
技術的安全管理措置
医療・介護関係事業者における安全管理措置
⃝職員の責任体制の明確化を図り、具体的な取組みを進めるため、医療における個人情報保護に関し十分な知識を有する管理者、監督者等(例えば、役員などの組織横断的な監督が可能な者)を定める。
⃝個人情報保護の推進を図るための部署、もしくは委員会等を設置する。
⃝医療・介護関係事業所で行っている個人データの安全管理措置について定期的に自己評価を行い、見直しや改善を行うべき事項について適切な改善を行う。
⃝雇用契約や就業規則において、就業期間中はもとより離職後も含めた守秘義務を課すなど職員の個人情報保護に関する規程を整備し、徹底を図る。
⃝取扱う個人データの適切な保護が確保されるよう、職員に対する教育研修の実施等により、個人データを実際の業務で取り扱うこととなる職員の啓発を図り、職員の個人情報保護意識を徹底する。
⃝個人データの盗難・紛失等を防止するため、以下のような物理的安全管理措置を行う。
-入退館(室)管理の実施
-盗難等に対する予防対策の実施
-機器、装置等の固定など物理的な保護
⃝不正な操作を防ぐため、業務上の必要性に基づき、個人データを取り扱う端末に付与する機能を限定する。
-スマートフォン、パソコン等の記録機能を有する機器の接続の制限および機器の更新への対応
⃝個人データの盗難・紛失等を防止するため、個人データを取扱う情報システムについて以下のような技術的安全管理措置を行う。
-個人データに対するアクセス管理
-個人データに対するアクセス記録の保存
-不正が疑われる異常な記録の存否の定期的な確認
-個人データに対するファイアウォールの設置
-情報システムへの外部からのアクセス状況の監視及び当該監視システムの動作の定期的な確認
-ソフトウェアに関する脆弱性対策
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
第2章
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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(出所)『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』個人情報保護委員会/厚生労働省より一部修正して作成
個人情報や特定個人情報の取扱いにルールや責任者を決めている
外部からの不正アクセスなどから保護するしくみを導入している
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雇用管理上の
リスクマネジメント
法律や規則はもちろんのこと、社会的な規範や倫理を誠実に遵守すること(コンプライアンス)を徹底して、リスクを回避しましょう。
1 労働条件に関する誤解が生じないために
優秀な人材に安心して働き続けてもらうために、労働条件に関する疑問や不安に起因するストレスは積み重ならないようにすることは重要です。
そのためにも「事業主が雇用管理を正しく把握すること」が大変重要です。職員が誤った情報をもとに事業所の雇用管理の不備を指摘したとして、事業主や管理者は法律と就業規則を根拠にこの誤った指摘を正さなければなりません。
事業主や管理者が雇用管理を学ぶ機会としては、介護労働者雇用管理責任者講習(本書の「第 1 章 1.雇用管理の重要性」を参照)がありますが、職員がこれらの知識を得る機会はそれほど多くないと言わざるを得ないでしょう。そこで、事業所内で行う各種研修(新人研修や階層別研修など)で労働条件に関する周知を行ったり、契約更新面談や人事面談の際に適宜説明を行ったりすることが求められます。
こうした問題が顕在化する前のリスクマネジメントとして、専門家を利用したり、下記のような様々なインターネットのポータルサイトを活用することも効果的です。
働き方・休み方改善ポータルサイト https://work-holiday.mhlw.go.jp/
両立支援のひろば https://ryouritsu.mhlw.go.jp/index.html労働条件に関する総合情報サイト https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/あかるい職場応援団 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
こころの耳 https://kokoro.mhlw.go.jp/
治療と仕事の両立支援ナビ https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/
2 社会保険に入っていなかったことによるリスク
社会保険の被保険者としての資格があるにもかかわらず、必要な手続きを怠った場合、事業所は将来に向かって大きなリスクを背負うことになります。例えば、手続きを行っていれば得られたはずの年金額を事業所が賠償することを求められたり、国民年金や国民健康保険の保険料と本来納めるべきであった社会保険の保険料との差額を要求されたりといったことが考えられます。
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⇒本書の第 2 章「31.労働保険・社会保険」にてご確認下さい。
3 過重労働による健康障害のリスク
人材不足が年々深刻の度合を増していく中で、長時間労働や業務過多などの過重労働が大きな問題となっています。長時間労働は、職員の慢性的な睡眠不足の原因となるリスクが高いため、細心の注意を払う必要があります。長時間労働による人件費の高騰や業務効率の低下も見逃せませんが、慢性的な睡眠不足は、生体の回復機能を低下させ、それが結果としてストレスに対する抵抗力・適応力を弱めることとして知られています。これが原因となって離職につながったり、利用者に影響を与えてしまったりする場合があり、解決すべきリスクであるといえます。
法定労働時間を超える時間外労働の時間数に応じて発生する義務またはリスク
1 か月当たりの 時間外労働の時間数
45 時間
60 時間
当該時間数の意味または発生するリスク
○ 36 協定において定めることのできる 1 か月当たりの労働時間の延長の限度時間
○法定割増賃金率が 25%から 50%に引上げ
(中小企業についても、2023 年 4 月から適用)
第2章
80 時間
介護事業所が守らなければ
ならない決定事項
○本人からの申出により医師による面接指導(努力義務)
○【発症前 2 ~ 6 か月平均で 80 時間以上】脳・心臓疾患発症との関連性が強い
※本人からの申出により医師による面接指導を行わなければならないとされる時間外労働の時間数が 100 時間以上から 80 時間以上へと改正されました。
使用者は、職員がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。
安全配慮義務の具体的な内容は、(1)労働者の職種(2)労務内容(3)労務提供場所等の具体的な状況によって異なるため、事業所ごとに危険性や有害性等の調査を行い、その結果に基づき必要な措置を講ずることが重要です。
雇用管理改善のための業務推進マニュアル
〜介護事業所のための働きやすい、働きがいのある職場づくりのために〜
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労働法規等を遵守し、労使トラブル等がおきないように配慮している □過重労働が発生していないか点検し、確認された場合には必要な措置を講じている □社会保険の資格取得手続を滞りなく行っている □
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Memo