Contract
主 文
1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有することを確認する。
2 被告は,原告に対し,平成13年4月から本判決確定まで,毎月16日限り6
9万4563円,並びに,毎年6月30日限り142万3853円,12月20日限り149万3309円,及び,3月20日限り38万2009円を各支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由
第1 請求主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告に懲戒解雇された原告が,懲戒解雇の無効を主張し,雇用契約上の権利を有することの確認並びに毎月の賃金,毎年の期末手当及び勤勉手当の各支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実は,括弧内に証拠番号を付した。また,参照の便宜のため証拠番号を付したものもある。)
(1) 被告の概要 ア 被告の目的と事業
被告は,昭和44年に設立された財団法人であり,その目的は,道路における交通事故が原因で死亡した者又は著しい後遺障害が存する者の子女等のうち,経済的理由によって修学が困難な者等に対し奨学金の貸与等を行い,社会有用の人材を育成することである。被告の寄付行為には,被告は,奨学金の貸与,生徒及び学生の補導,学生寮の設置及び維持経営等を事業として行う旨定められている(乙5
3)。平成13年4月10日現在,職員数は約21名である。イ 被告の役員,機関(乙53)
被告の寄付行為には,「この法人には次の役員をおく。(1)理事 15名以上
25名以内・・・(2)監事 2名または3名」(14条),「理事および監事 は,評議員会でこれを選任し,理事は,互選で会長1名,理事長1名,専務理事1名および常任理事5名以上10名以内を定める。」(15条1項),「会長は,この法人を代表し,この法人の業務を総理する。」(16条1項),「理事長は,この法人を代表し,理事会の議決にもとづき,会長を補佐し,この法人の業務を統轄し,会長に事故あるとき,または欠けたときは,その職務を代行する。」(同条2項),「専務理事は,会長および理事長を補佐し,理事会の議決にもとづき,日常の事務を掌理し,会長及び理事長に事故あるとき,または欠けたときは,その職務を代行する。」(同条3項),「理事は,理事会を組織し,この法人の業務を議決し,執行する。」(同条4項),「常任理事は,常任理事会を組織し,この法人の日常の業務を議決し,執行する。」(同条5項),「この法人には,この法人の事務を処理するため事務局を設け,所要の職員をおく。」(22条1項本文)との定めがある。
また,被告の寄付行為は,「この法人には,評議員100名以上150名以内をおく。」(19条1項),「評議員は,理事会で選出し,会長が任命する。」(同条2項),「評議員は,評議員会を組織し,この寄付行為に定める事項のほか,理事会の諮問に応じ,会長に対し必要と認める事項について助言する。」(20条)とし,理事会に対し,「事業計画及び収支予算に関する事項」など一定の事項については,評議員会の意見を聞かなければならない旨定めている(29条)。
ウ 被告設立時の役員
被告は,関係省庁のOB,自動車又は交通安全関係の企業または団体の役員,ボランティア団体「交通遺児を励ます会」(以下「励ます会」という。)の役員,学識経験者等が設立発起人となってxxの理事に就任し,設立時の会長は,元新日本製鉄会長で元日商会頭のP1,理事長は元警察庁のP2,専務理事は励ます会のP
3(以下「P3」)が選ばれた。エ 現在の役員
平成6年1月,P2理事長が亡くなったため,平成6年3月30日の理事会で,元総理府総務副長官のP4(以下「P4理事長」という。)が理事長に選任され,現在までその職にある。なお,被告の現会長は元東京大学長,元日本育英会会長の P5である。
P3は,P4理事長の選任に伴い,同日専務理事を辞任した。平成6年4月26日の理事会で,常任理事であったP6が専務理事事務取扱兼事務局長に選任され
た。その後,専務理事には,平成8年5月31日の理事会でP7(以下「P7専務理事」という。)が選任され,現在に至っている。
なお,P6は平成11年1月5日付けで事務局長を解かれ,同年5月24日の理事会で常勤を解かれ,平成12年3月にP3とともに理事を解任された。
P6の後任の事務局長は,指導課長であったX0が就任し,現在に至っている。
(甲18,乙14,37,弁論の全趣旨)
(2) 原被告間の労働契約と原告の職位,表彰
原告は,昭和50年3月帯広畜産大学を卒業し,同年4月被告に雇用され,被告において,以下のとおりの役職を務め,平成12年5月2日にはxx勤続表彰を受けた(甲6の(1))。
昭和52年10月 業務第2課(現指導課)係長昭和55年4月 業務第3課(現返還課)課長 昭和57年4月 指導課長
xxx年4月 奨学課長
平成2年4月 事務局次長xxx課長
平成4年4月 事務局次長兼募金課長兼返還課長平成5年 事務局次長兼総務課長兼募金課長
平成6年5月 事務局次長兼総務課長(免募金課長)平成11年1月 事務局次長兼総務課長兼指導課長
平成11年4月 事務局次長兼指導課長(免総務課長)
(3) 労働組合の結成
平成6年6月12日,原告は,被告の職員とともに,交通遺児育英会職員組合
(以下「職員組合」という。)を結成し,執行副委員長に就任し,同年10月,職員組合の組合員は,全国一般東京一般労働組合(以下「上部団体」という。)へ加入して連合全国一般東京一般労働組合交通遺児育英会分会(以下「分会」とい
う。)を結成し,職員組合は解消した。原告は,分会の副会長となった。
(甲7の(1)ないし(2))
(4) 不当労働行為救済命令申立てと和解等
ア 都労委第1次事件,第2次事件と平成8年和解
上部団体は,平成7年2月24日,xxx地方労働委員会(以下「都労委」という。)に対し,被告に,誠実に団交すること,分会員の勤勉手当減額分を支払うこと,原告からの公印保管業務等の職務の取り上げをやめること等を命じる救済命令を求める不当労働行為救済申立てをした(都労委平成7年(不)第12号。以下
「都労委第1次事件」という。甲7の(4))。
また,上部団体は,平成8年7月24日付けで,都労委に対し,被告に,分会員らの時間外労働手当の支払を命じる救済命令を求める不当労働行為救済申立てをした(都労委平成8年(不)第54号。以下「都労委第2次事件」という。甲7の
(5))。上部団体は,平成8年8月7日付けで,都労委に対し,上部団体組合員が労働委員会において証人として出席,発言をしたことを理由に仕事を取り上げたり,嫌がらせを行うなど不利益取扱いをしてはならない旨被告に命じる救済命令を求める追加申立てを行った(甲7の(6))。
平成8年12月27日,都労委第1次事件及び第2次事件について,被告と上部団体は和解した。その内容には,「被告と上部団体は,労働条件の変更については誠意をもって団体交渉に臨むこととする。被告は,上部団体に対し,会議xxの使用について便宜を供与する。被告は,上部団体に対し,解決金の支払を行う。原告は,平成9年3月まで事務局次長総務課長のままとし,同年4月以降は別途課長の職を設け,これに任ずる。」等というものであった(甲7の(10)。以下「平成
8年和解」という。)。
イ 都労委第3次事件,第4次事件及び平成12年和解協定
上部団体は,平成11年4月23日付けで,都労委に対し,「被告は,原告が有印私文書偽造行使をしたとし,総務課長職を解く等の不利益取り扱いをしてはならない」等との救済命令を求める不当労働行為救済命令申立て(都労委平成11年
(不)第36号。以下「都労委第3次事件」という。)を行った。これに対し,被告は,被告職員のP9の健康保険被保険者資格喪失届(以下「本件資格喪失届」という。)が理事長印(以下「公印」という。)を押捺され公務所に提出されたの は,原告が保管責任を負っている理事長印を押捺せしめたためであり,有印私文書偽造公使に当たる等と主張した。さらに,上部団体は,平成12年6月12日,被告が分会会員で身体障害者(2級)であるP10に対し,学生寮の寮費150万円
の紛失事件について全額弁済するよう通告したとして,都労委に対し,不当労働行為救済命令申立て(都労委平成12年(不)第68号。以下「都労委第4次事件」という。)を行った。
一方,被告は,P10に対する150万円の損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起した(平成12年(ワ)第12162号。「P10損害賠償事件」とい
う。)。
平成12年11月16日,被告と上部団体は,都労委のあっせんにより,「原告は,被告理事長の意思に反して,理事長印が押捺された事実経過について,被告に対し遺憾の意を表する。P7専務理事は,前記事実に関する原告への発言中に誤解を招く言動があったことについて,原告及び上部団体に対し,遺憾の意を表する。 P10は,寮費紛失について寮費管理が十全ではなかったことを認め,被告に対 し,謝罪の意を表する。被告は,P10損害賠償事件を取り下げる。上部団体は,都労委第3次事件及び第4次事件を取り下げる。」等を協定した(以下「平成12年和解協定」という。)。
(甲7の(7)ないし(9),(11))ウ P10配転仮処分事件と和解
被告は,平成12年11月1日付けで,P10に対し,被告の学生寮「心塾」
(以下「心塾」という。)勤務から,本部総務課(xxx区α町所在)の勤務を命じる等の配転命令を行った。
P10は,平成12年和解協定の成立後,同月,東京地方裁判所に対し,配転命令効力停止仮処分(以下「P10配転仮処分事件」という。)を申し立て,平成1
3年3月5日,同庁において,被告との間で,「P10と被告は,同月末に雇用契約を合意解約し,被告は,P10に対し,退職金1522万円余を支払う。P10は,被告に対し,学生寮付属職員宿舎を明け渡す。」等との内容で和解した。
(甲7の(12),(13))エ 原告の地位
原告は,アないしウの各事件について,救済対象者として,または,分会の副会長として関与した。
(5) 懲戒及び服務についての就業規則の定め(乙1)
被告の就業規則である財団法人交通遺児育英会就業規程(以下「就業規程」という。)には,「職員を懲戒に処する事項は,つぎの各号にかかげる場合とする。ただし,情状により訓戒に止めることがある。・・・(2)勤務怠慢で業務に対する誠意のないことが認められたとき(3)会の名誉を汚し,または職員としての体面を汚したとき・・・(6)業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき・・・(8)不正に会の金品を持出し,または私用したとき・・・
(12)その他,本規程第5章に規程する服務事項に違反するのほか前各号の事項に準ずる行為をしたとき」(54条),「懲戒はつぎの各号にかかげる区分に従って行なうものとする。(1)譴責・・・(2)謹慎・・・(3)諭旨退職・・・
(3)免職 労働基準監督署長の認定を受けて予告期間を設けないで,かつ,予告手当を支給することなく解雇する。この場合は退職金の全部を支給しないことができる。2懲戒処分は処分の根拠となる事由について確証にもとづいて行ない,か つ,処分決定前に本人に弁明の機会を与えなければならない。」(55条),「職員はこの規程を遵守するとともに,職制により定められた所属の長の指示に従い,職場の秩序を保持し,たがいに協力して誠実に職責をはたさなければならない。」
(18条),「職員は事務能率を維持するため,次の各号に掲げる事項を守らなければならない。(1)勤務時間を守り,勤務時間中みだりに職場をはなれてはならない。(2)用度品等を合理的に使用し,節約につとめなければならない。(3)職場を整理整頓し,清潔に心がけなければならない。」(19条),「職員は業務に関し,他から金品を私に受領し,また事情のいかんにかかわらず会の物品を他に融通貸与し,または私用してはならない。」(20条),「職員は会長の承認をえないで,他の職業に従事してはならない。」(23条)との定めがある。
(6) 職制規程の定め(乙2)
被告の職制規程は,「本会の職制及び事務分掌は,別に定めるものを除き,この規程の定めるところによる。」(1条),「本会寄付行為第22条に定める事務局に次の課を置く。(1)総務課 (2)募金課 (3)会計課 (4)奨学課
(5)返還課 (6)指導課 (7)心塾課」(2条),「事務局に局長,課に課長を置き,職員中より会長これを任命する。」(3条1項),「必要がある場合 は,事務局に参事役,次長および調査役を置き,職員中より会長これを任命す
る。」(3条2項),「局長,参事役,次長,調査役および課長は,上司の命を受けて所管事務を掌理し,所属職員を指揮監督する。」(3条3項)とし,「各課においては,次の事務を所掌する。」(5条本文),「総務課 (1)公印のxxに関すること (2)文書類の接受,発送,編集及び保存に関すること・・・(5)職員の人事に関すること・・・」(5条1項),「会計課・・・(3)職員の給与に関すること」(5条3項),「指導課 奨学生の指導教育に関すること」(5条
6項),「会長が必要ありと認めるときは,前条の規定にかかわらず臨時に所掌事項を命ずることができる。」(6条)旨定めている。
(7) 原告に対する懲戒解雇
平成13年3月8日,被告は,原告に対し,「別紙1の懲戒解雇理由により懲戒解雇する予定であるから,同月15日までに弁解を書面で提出するよう求める。」旨の懲戒解雇の予告を書面で行った。
同月15日,原告は,被告に対し,原告の主張を記載した書面を提出した。
被告は,同月21日,原告に対し,「就業規程18条ないし20条及び23条に違反し,54条2号,3号,6号,8号及び12号の各懲戒事由に違反するとして懲戒解雇する。」旨の通知をした(以下「本件解雇」という。)。その際,解雇予告手当として,同月22日から同月末日までの賃金相当額及び1か月分の賃金相当額を原告に支払った。
(甲1ないし3,乙3の(2)ないし(5),弁論の全趣旨)
(8) 原告の賃金額
原告が被告から労働契約に基づいて支給される月ごとの俸給等の合計は69万4
563円であり,毎月末日までの分を当月16日に支払うことになっている。ま た,被告の給与規程によれば,原告には,毎年6月30日に期末手当として前記月ごとの俸給等の合計額の100分の145に当たる100万7116円,勤勉手当として同100分の60に当たる41万6737円,毎年12月10日に期末手当として同100分の160に当たる111万1300円,勤勉手当として同100分の55に当たる38万2009円,毎年3月20日に期末手当として同100分の55に当たる38万2009円が支給されることとなっていた。
2 争点
(1) 原告に懲戒事由があるか。本件解雇は懲戒権の濫用として無効か
(2) 本件解雇は不当労働行為であり無効か
3 争点についての当事者の主張の要旨
(1) 原告に懲戒事由があるか。本件解雇は懲戒権の濫用として無効か
(被告の主張)
ア 解雇理由の総論
(ア) 本件解雇の理由(懲戒事由)は,原告が,別紙2解雇理由一覧表(以下
「解雇理由一覧表」という。)記載の1ないし26の「年月日」「時間」欄記載の日時に「事実」欄記載の各行為(以下,解雇理由一覧表記載の解雇理由をその対応する番号により「解雇理由1」等という。)を行ったことである。
(イ) 解雇理由1ないし15の各行為は,就業規程18条に違反し,54条6号に該当し,解雇理由16の行為は,就業規程18条に違反し,54条3号,6号に該当し,解雇理由17ないし24の各行為は,就業規程18条に違反し,54条2号,6号に該当し,解雇理由25の行為は,就業規程19条1号に違反し,54条
2号に該当し,解雇理由26の行為は,就業規程19条2号,20条に違反し,5
4条8号,12号に該当する。
(ウ) 原告の解雇理由1ないし26の各行為は,事務局長で理事であったP6と組むなどして,P4理事長,P7専務理事を始めとする被告執行部に反抗するために行われたもので,組合活動とは無縁である。
原告は,当初,被告の専務理事を退任したP3に被告の内部情報を提供していたため,P3の追い落としに積極的であったP6から「P3の残置諜者」といわれていじめ抜かれていた。しかし,P6は,P7専務理事の専務理事就任に伴って,自身の専務理事への就任がかなわないとみるや,原告に接近し,原告と手を組んでP
7専務理事及びP4理事長に反抗したのである。以下,おおむね時系列に従って説明する。
イ 解雇理由1,5,10-再雇用職員らに対する辞令作成拒否
(ア) 原告は,P7専務理事から,理事長が決裁した人事異動指示書に基づい て,解雇理由1のとおり平成10年3月26日に下記①の,解雇理由5のとおり同年8月3日に下記②の,解雇理由10のとおり同月31日に下記③の各人事異動
(以下「人事異動①」等という。)について辞令(人事異動通知書)の作成を指示されたにもかかわらず,解雇理由1,5,10のとおり,辞令の作成を行わなかった。
記
①平成10年4月1日付け嘱託のP11を職員に採用
②同年8月1日付け
嘱託のP12を職員(機関紙担当)として採用参事役のP9を嘱託特命事項担当として再雇用 P11を募金課長に任命
③同年9月1日付け 嘱託のP13の再雇用
(イ) 被告の人事権は,寄付行為上,会長又は理事長にあり,理事長が決裁した人事異動指示書がある以上,総務課長である原告は辞令を作成すべきであり,事務局長のP6が反対している人事だからといって作成しなくていいということはな い。P7専務理事が,原告から「P6に人事異動指示書を委ねる。」旨いわれて同意するはずがなく,原告の主張は虚偽である。原告は,人事異動①ないし③に反対であったため,X0とともに理事長及びP7専務理事の命に反抗して辞令を作成しなかったのである。
ウ 解雇理由2,3,8,12,14-再雇用職員らの勤務・休暇の会計課への報告怠り
(ア) 原告は,総務課長であったから,「職員の人事に関すること」を所掌すべきであり(職制規程5条1項5号),採用された職員について就業規程8条1項1号ないし8号に定める戸籍謄本,住所届,身元保証書,家族手当申請書,写真,通勤経路届等の書類(以下「身上書類」という。)のとりまとめを行い,会計課に報告すべき義務があった。
また,原告は,総務課長であったから,採用された職員について,出勤簿の整備及び休暇届の受理などの勤怠管理を行い,会計課に報告すべき義務があった。
(イ) しかるに,原告は,P11,P12,P9及びP13(以下,4名を「再雇用職員ら」という。)について,身上書類のとりまとめ及び勤怠管理(出勤簿の作成,休暇届の受理等)を怠り,会計課への報告を行わなかった。勤怠管理や身上書類に基づいて家族手当,住宅手当,通勤手当等が決定されるから,これらがなければ会計課は賃金の支払ができない。原告の前記行為により,前記人事異動①ないし③が発令されてからP11は2か月間,P12及びP9は3か月間,P13は2か月間,それぞれ賃金が支払われず,再雇用職員らが,労働基準監督署に対し,被告の賃金の未払を訴える事態に至った。
エ 解雇理由5,6,7-再雇用職員の机の準備拒否
(ア) 原告は,人事異動②の発令にもかかわらず,解雇理由5のとおり,平成1
0年8月3日,P9及びP12が使用していた机を搬出させ,心塾へ運搬させた。解雇理由6のとおり,平成10年8月5日,原告は,P7専務理事から,P1
2,P9の机を用意するよう指示されたが,「人事異動②に反対である。P6から指示がない限り動かない。」旨答えて拒否した。
原告は,解雇理由7のとおり,同月6日以降も,P7専務理事から,毎日のようにP9の机を用意するよう再三指示されたが,これを拒否した。
(イ) 原告は,再雇用職員らの採用に反対であったため,P6に同調して机を搬出させたのである。原告は,P9及びP12が使用していた机を搬出しても,まだ
2つ机が余っていたというが,1つは直前に死亡したばかりの職員の机であって不適切なものであり,もう1つは原告が自分で使っていたのであって,原告の主張は虚偽である。
オ 解雇理由4,13-公印返還拒否
(ア) P7専務理事は,平成10年7月3日,原告に対し,保管していた公印を原告に渡した。P7専務理事は,同日,用がすんでも公印を原告が返還しないの で,解雇理由4のとおり,公印の返還を命じたところ,原告は,「P6から命令されている。」「寄付行為を守ってください。」「P6とP7専務理事から命令があればお返しする。」等と言って,これを拒否した。
解雇理由13のとおり,同年9月28日,P7専務理事は,原告に対し,重ねて公印の返還を要求したが,原告はこれを拒否した。
(イ) たしかに,職制規程5条1項1号は,公印の管守責任を総務課長に委ねて
いる。他方,原告は,組合の実質的代表者であるから,原告が総務課長の職責を行うのは,労働組合法2条1号に抵触するおそれがあるし,被告執行部にとっては,公印の管守に不安がある。実際,原告は,P7専務理事を追い落とそうとしている P6と組んで,再雇用職員らの辞令の作成を拒否するなど業務命令に違反してい た。平成10年7月6日,原告は,総務庁交通安全対策室で,「公印はこちらにあり,これで理事長や専務理事は私の承認なく勝手な人事はできなくなった。」旨発言していた。このことからも,原告が公印を保管することで業務命令に違反しようとしていたことは明らかである。
したがって,P7専務理事が,原告に対し,公印の返還を請求したのは,必要性があり,常識にかなったことであり,これを拒否した原告の行為は上長の命令に従わない行為である。
カ 解雇理由9-本件資格喪失届への公印の押印許す
(ア) 被告の会計課は,平成10年8月20日,β町社会保険事務所へ本件資格喪失届を提出した。これには,被告が管守していた公印が理事長の決裁を経ることなく押印されていた。
(イ) 原告が,P9が嘱託として採用されることを会計課に報告しなかったため,会計課が本件資格喪失届を作成したのである。
また,原告は,公印を管守する総務課長として,総務課職員に対し,人事異動②の辞令に従い,会計課が本件資格喪失届を持参しても,これに公印を押印しないよう指示すべきであった。しかるに,原告は,かかる指示をしないまま,休暇をと り,本件資格喪失届への公印押印を許した。これは,原告が人事異動②の人事に反対であったために起こったことである。
キ 解雇理由11-P12に対する機関紙編集委託費名目での金銭の支払
人事異動②のとおり,P12は被告の職員として採用され,被告と機関紙編集委託契約を締結してはいない。しかし,原告は,解雇理由11のとおり,平成10年
9月11日,機関紙編集委託費としてP12に対する18万円の仮払申請手続をした。これは,原告が,人事異動②に反対するためその意思の表明として行ったものである。
ク 解雇理由15-包括白紙委任状
(ア) 被告の平成6年3月30日の第50回評議員会において,評議員会の開催前に評議員に送付する委任状の形式は個別の案件ごとに委任する個別委任形式とする旨確認され,また,その後平成10年5月28日開催の第59回評議員会まではほぼ毎回個別委任形式を採用してきた。また,平成10年9月29日,総務庁から議決の方法について指導を受けていた。しかし,原告は,平成10年11月25日開催の平成10年度第1回臨時評議員会(以下「本件評議員会」という。)において,被告が評議員に事前に送付する委任状を包括委任形式で送付した。
その結果,本件評議員会における議決に関し紛議を生じて,決議に関し,訴訟が提起される結果となった。
(イ) 原告は,総務課長として,評議員会の準備を行う責務があるところ,P6との間で,本件評議員会の委任状に包括委任形式を採用することを謀り,解雇理由
15のとおり,平成10年11月11日,包括委任形式の委任状を開催通知とともに評議員らに発送したものである。原告は,被告が,同年9月29日,総務庁から議決の方法について指導を受けていたことを知っており,包括委任形式を採用してはいけないことを知っていたはずである。原告は,P6と共謀の上,被告の評議員会を混乱させるため,包括委任状形式とすることを謀り,P7専務理事やP4理事長に知られないように委任状の書式を添付しないで稟議決裁をとったのである。
本件評議員会の開催通知の決裁を行うための平成10年11月10日付け文書
(以下「本件稟議書」という。)は,P6が起案したものであるところ,本件稟議書には,委任状の書式は添付されておらず,P4理事長及びP7専務理事は委任状形式の変更に気づかなかった。
ケ 解雇理由16-テレビ出演についての指揮命令違背
(ア) 原告は,被告が非難を受ける可能性があるメディア対応において,P4理事長及びP7専務理事の許可を得るべきなのに,解雇理由16のとおり,何ら許可を得ることなく,平成10年8月9日放映のTBSの「噂の東京マガジン」とのテレビ番組(以下「本件番組」という。)に出演し,被告について以下の発言をし た。
a 心塾に空き部屋が多いとの報道の後に,原告が,「現在,交通遺児以外から入寮申込みがあるが,門前払いしている。総務庁が許可しないと,これはできな
い。」と発言した。
b 「γ高級官僚の天下りの3種の神器として,ハイヤー,個室,秘書ということが一般的にいわれている。」と発言しつつ,理事長室を紹介した。
(イ) aの発言は,被告が怠慢であると指摘するに等しく,被告が寄付行為によりその目的の制限を受けていることの弁明になっていない。
bの発言は,会議室にも使用されている理事長室について,理事長が個室や秘書を要求して,被告の資金を浪費している印象を与えるもので,被告に対する中傷である。
(ウ) 原告がテレビに出演することは,P6以外誰も知らず,報道機関出身の職員ら報道対応に習熟した管理職職員にも何ら相談はされていなかった。原告の発言は,不用意に行ったものではなく,意図的に被告の理事長ら最高幹部を誹謗中傷すべくなされたものである。原告は,テレビに向かって笑顔を浮かべており,被告を傷つけて楽しげである。
コ 解雇理由17ないし24-「つどい」についての業務懈怠
(ア) 「つどい」とは,被告理事,職員,奨学生,保護者を構成員として,奨学生相互の連帯等を目的に,一堂に会して奨学生の実態把握及び相談に応じる機会をもつために開催される被告主催の会合である。
原告は,平成11年1月5日付けでP8に代わり「つどい」開催の担当課長である指導課長を命じられた。
(イ) 原告は,P7専務理事から,平成11年度の「つどい」再開について,担当課長として再三の指示命令を受けながら,まったく意欲を見せることなく,責任を回避し,妨害に終始した。
原告の怠業ぶりは,以下に述べるとおりである。
(ウ) 同年2月1日,P7専務理事は,課長会議において,平成11年度の「つどい」の5年ぶりの再開についてとりまとめをやるよう原告に指示したが,原告 は,解雇理由17のとおり,P7専務理事に対し,平成11年度の「つどい」開催中止を求める伺書を提出した。
P7専務理事は,P8に平成11年度「つどい」計画案の作成を命じ,同年3月
30日の臨時理事会及び評議員会でP8が作成した「つどい」計画案(以下「P8案」という。)を報告したが,原告は解雇理由18のとおり,課長会議において,
「つどいの開催に,指導課として今後対応しない。」旨の発言をした。
また,P7専務理事は,同年5月31日,文部省へP8案を提出し,同年6月7日の課長会議で,解雇理由19のとおり,平成11年度の「つどい」の実施を原告が中心となってやるよう指示したところ,原告は,「私はやらない。自分が旗をふればいい。」旨言って反対した。
P7専務理事は,同年8月2日の課長会議で,「つどい」の推進を原告に求めたところ,原告は,解雇理由20のとおり,「P7専務理事にはP8案を検討すると答えている。事業計画そのものが主務官庁から許可されていないのに,実施はできない。」旨の発言をし,同月26日,解雇理由21のとおり,P7専務理事に対 し,P8案に関する質問書を提出した。また,原告は,同年9月6日の課長会議において,「事前協議との関係はどうするのか。主務官庁の承認がないと難しい。文部省と総務庁の承認が必要であり,文書を得る必要がある。」旨述べ,P7専務理事が,「許可書はないが,文部省からは何が何でも実施してくださいといわれている。」旨言うと,原告は,解雇理由22のとおり,「主務官庁から文書が出るならもらってほしい。実施可能か検討する。」旨の発言をした。
同月28日の課長会議において,原告は,解雇理由23のとおり,「つどい」の開催に批判的な文書を作成し,資料として提出した。
平成12年3月13日,原告は,解雇理由24のとおり,ようやく完成した開催案内の発送作業について,指導課職員に何ら指示せず休暇をとったため,指導課以外の職員の協力で発送作業を行うことになった。
(エ) 原告の怠業により,年度末である平成12年3月6日の課長会議の時点でも「つどい」の具体的計画ができておらず,同月9日の会議でようやく具体的実行計画が最終確認され,同月25日,26日の年度末ぎりぎりで「つどい」が開催されることになった。
原告は,「つどい」開催後の反省会において,「つどいの計画は1週間ででき る。」旨発言しており,原告自身1週間でできる作業を1年間かけてやったことを自認しており,意図的に怠業していたことは争えないところである。
原告は,事前許可がないことを理由に反対していたが,被告の寄付行為によれ
ば,内閣総理大臣及び文部大臣に対する事業計画の届出で足り,許可は不要であるから,反対の理由にはならない。
サ 解雇理由25-勤務態度
(ア) 原告は,解雇理由25のとおり,就業時間中,無断外出したり,文庫本を読んだり,新聞を読んだり,居眠りしたり,英会話の勉強をしたりし,事務局次長兼指導課長の職務を怠業した。
(イ) 原告は,事務局次長でもあり,被告業務全般について企画立案,監督をすべき立場にあり,自ら課題を設定すべきである。原告の年収は1157万円であ り,原告の勤務態度は,他の職員に,「あんなことで高給が得られるなら,我々のやっていることは何なんだろう。」との不快の念を抱かせた。
シ 解雇理由26-チラシのコピー
(ア) 原告は,解雇理由26のとおり,平成12年6月14日,被告の事務機器を無断で利用して,「エコ・トンの会」という豚肉販売のためのチラシを作成し た。
(イ) 原告は,「エコ・トンの会」は,ボランティアであるというが,参加者の共益になるものであるからボランティアとはいえず,かつ,原告の事務機器不正使用は,少なくとも平成8年の暮れ(お歳暮用)についても行われており,毎年お中元お歳暮のチラシを被告の印刷機を使用して作成していたものと思われる。
(ウ) 原告は,P4理事長は年賀状を被告の機器で印刷し,P7専務理事は裁判資料を被告の機器でコピーしたから,原告の行為も許されるとするが,P4理事長の年賀状は被告のあいさつとして行うものであり,P7専務理事の裁判は,P4理事長を始め多くの理事が,被告が本来行うべき裁判であったと認識しており,不正な利用には当たらない。
(原告の主張)
ア 解雇理由の総論についての反論
以下に認否するとおり,原告には懲戒事由となるべき行為はない。本件解雇は,理由らしい理由もないのにされたもので,社会的に相当として是認できず,懲戒権の濫用として無効である。
原告は,分会の実質的代表者として,事務局長であったP6から,分会嫌悪による陰湿かつ子供じみた「いじめ」を受け続けてきたのであり,原告にとって,P6は容認できる人物ではなく,P6と組むことなどあり得ない。
P7専務理事らは,まずP3を追い落とすためP6を利用し,P3が専務理事を退任し,追い落としに成功するや,P6を追い落としたものである。そして,P6の追い落としに成功すると,被告から労働組合を排除するため,原告を解雇したものである。被告の主張する派閥抗争の経過は,原告には無関係であり,被告本来の職務に精勤してきた原告の立場からすれば,P4理事長,P7専務理事,P3及び P6は,いずれも同じ穴の狢というべきものである。
イ 解雇理由1,5,10-再雇用職員らに対する辞令作成拒否
(ア) 原告は,解雇理由1の日(平成10年3月26日)には,P7専務理事から,人事異動①の人事異動指示書を交付されたこともないし辞令の作成を命令されたこともない。同日,P7専務理事がP6に人事異動指示書らしき文書を交付しているところを見たことはある。翌27日,原告は,P7専務理事から,人事異動指示書を交付されたが,P7専務理事に対し「総務課長には人事権はないし,辞令の原案作成もできないので,P6に手渡すことでいいか。」旨確認し,了承を得た。原告が,P6に辞令の原案をつくるよう依頼したところ,P6から,「何もしてはいけない。」と指示されたので,原告はこれに従ったのである。
原告は,解雇理由5の日(同年8月3日),P7専務理事から人事異動②の人事異動指示書を交付されたことは認める。原告が,P7専務理事に対し,「自分には人事権がないのでP6に交付するのでいいか。」旨聞くと,承知したのでP6に預けた。
原告は,解雇理由10の日(同月31日),P7専務理事から人事異動指示書を交付されたことも,辞令の作成を指示されたこともない。
(イ) 被告の人事権は,寄付行為上,会長又は理事長にあるが,実際は,会長及び理事長が非常勤であることから,常勤の役員である専務理事及び理事兼事務局長が話合いで合意した案を,会長及び理事長の決裁を得て実行されていた。事務局長は,辞令の原案の作成権限をもち,総務課長は事務局長から辞令の原案の交付を受け,稟議書を作成し,稟議の後,ワープロで清書するのみである。原告は,事務局長であったP6に人事異動指示書を交付し辞令の原案作成を依頼しているのである
から,何ら命令違反はない。
当時,被告において,P7専務理事と事務局長のP6とで,正反対の指示がされることがあったため,職員が両名の板挟みになって,事務局が混乱していた。このことは,管理職組合結成報告書(甲60)にも記載されている。人事異動①ないし
③をめぐる解雇理由1ないし14の問題も,この対立の一場面であり,原告を始めとする職員の責任によって生じた問題ではない。
ウ 解雇理由2,3,8,12,14-再雇用職員らの勤務,休暇の会計課への報告怠り
(ア) 被告主張のとおり,再雇用職員らに賃金が支払われなかったことは認める。
(イ) 原告が,再雇用職員らの身上書類のとりまとめや勤怠管理はしていないことは認める。従前提出された身上書類があったこと,とりまとめをすることなく再雇用職員らに対する賃金支払がされたことからしても,原告がとりまとめをしなかったことと再雇用職員らに対する賃金未払とは関係がない。
また,被告では,月ごとの賃金に欠勤控除はされないから,月ごとの賃金の支払に勤怠報告は不要であり,総務課が再雇用職員らについて出勤簿を作成していなかったことや再雇用職員らの勤怠を会計課に報告しなかったことは,再雇用職員らの賃金未払とは何の関係もない。
エ 解雇理由5,6,7-再雇用職員の机の準備拒否
(ア) 解雇理由5のとおり,原告が平成10年8月3日,P9及びP12の使用していた机を搬出させ心塾へ運搬させたことは認める。P6の命令に従ったもの で,2つ机を搬出しても机はまだ2つ残っていた。
原告は,その後の机の搬入命令を拒否したことはなく,解雇理由6は否認する。原告は,同月6日,P12から机の要求があったので机を提供し,P9にも机を
用意しており,解雇理由7は否認する。P9は「P6が頭を下げないと座れな
い。」といっていたが,翌日には原告が用意した机に着いている。その後,P7専務理事から,P9の机を用意するよう再三指示されたなどということはない。
(イ) 原告が再雇用職員らの採用に反対であったためP6に同調したということはない。前記イ(イ)のとおり,P7専務理事とP6とで机の搬入に関し指示が食い違っていたために,新しい机は搬入されず,原告は残っていた机で対処したものであり,何ら責められるべきいわれはない。
オ 解雇理由4,13-公印返還拒否
(ア) 平成10年7月3日,P7専務理事が公印の返還を原告に求め,原告が拒んだことは認めるが,「P6から命令されている。」等と言ったことはない。「職制規程に反する上,平成8年和解の趣旨やその後の労使合意に反する不当労働行為である。」旨訴え,返還を拒んだのである。解雇理由13についても同じである。
(イ) 原告は,同年10月28日,公印をP7専務理事に返還したが,これは,本件資格喪失届の問題が起きた際,P4理事長が業務命令書(乙8)により公印を P7専務理事に返還するよう原告に求め,職制規程6条に基づく臨時的措置として所掌事務の変更を求めたものと解されたためである。
カ 解雇理由9-本件資格喪失届への公印の押印許す
(ア) 被告の会計課は,平成10年8月20日,β町社会保険事務所へ本件資格喪失届を提出し,これに,被告が管守していた公印が押印されていたことは認め る。
(イ) 会計課がP9の嘱託採用を知らずに本件資格喪失届を作成したことは否認する。原告は,本件資格喪失届が作成された同月19日は有給休暇を取得してお り,会計課が持参した本件資格喪失届に公印を押印したのは,原告が公印を預けた総務課の職員であった。健康保険の被保険者資格の得喪手続は会計課の所掌事務であり,本件資格喪失届が提出された責任は会計課にある。
(ウ) 公印返還拒否(解雇理由4)と本件資格喪失届への押印(解雇理由9)については,平成12年和解協定で解決ずみであり,これをむしかえすことは,信義則違反,解雇権の濫用であり,一事不再理の原則に反している。
キ 解雇理由11-P12に対する機関紙編集委託費名目での金銭の支払
人事異動②のとおりP12は被告の職員として採用されていたこと,被告と機関紙編集委託契約を締結したものではないこと,原告は,解雇理由11のとおり,平成10年9月11日,機関紙編集委託費としてP12に対する18万円の仮払申請手続をし,仮払出金申請を起案したことは認める。
原告は,人事異動②をめぐってP7専務理事とP6が対立して事務局が混乱し,
P12に賃金が全く支払われていない現状を考慮し,P6の指示に従って,P12への支払名目は委託費とするが,賃金に後日訂正されることを予期して仮払とする上記処理を行ったのであり,P12の立場に最大限配慮している。原告は,人事異動②についての個人的意見によってこのような処理を行ったのではない。
この出金申請には,P7専務理事も決裁し,P12に送金がされている。ク 解雇理由15-包括白紙委任状
(ア) 原告が,解雇理由15のとおり,本件評議員会において,評議員に事前に送付する委任状を包括委任形式で送付したこと,本件評議員会における議決に関し紛議を生じて,訴訟が提起される結果となったことは認める。
(イ) 原告は,総務課長として評議員会の準備を行う責務があったことも認め る。しかし,委任状の形式を決めたのは,P6と参事役であったP14であり,原告は発送業務を行っただけである。なお,本件稟議書には,委任状の書式も添付されていた。
(ウ) 本件評議員会が紛糾し,前記訴訟で決議が無効とされたのは,委任状が包括委任になっていたからではなく,委任状の名宛人が評議員でなく理事長になっており,これが寄付行為に違反するとされたからである。そして,委任状の名宛人については,総務庁からP7専務理事に対し,従前から改善するよう指導されてい た。P7専務理事は,前記指導が間違いであるとして,理事長を名宛人とする委任状を発送したのであって,P7専務理事の寄付行為違反によって本件評議員会の紛糾を招き,裁判にまで発展したのである。
ケ 解雇理由16-テレビ出演についての指揮命令違背
(ア) 原告が,解雇理由16のとおり,本件番組に出演し,被告主張の趣旨の発言をしたことは認める
(イ) 本件番組の取材は,P6が,原告に受けるように命じたため,同年7月3
1日に受けたものであり,独断でしたものではない。 TBSの周辺取材は相当詳しいもので,原告は対応に苦慮していた。被告主張の
ケ(ア)aの発言は,被告として入寮申込みがあっても規定上入れられないし,規定を変更するには監督官庁の許可の手続があるので被告の判断だけでは動けないことを述べたものであり,被告を責める発言ではない。同bは,理事長室,理事長の日当及びハイヤーのことを具体的にきかれたが,直接答えずに,一般論としての3種の神器について曖昧に答弁したのである。本件番組の制作方針は,TBSにあ り,原告が被告を意図的に傷つけようとしたことはない。
(ウ) P4理事長のハイヤー,日当,天下り問題は,当時,衆議院行政監視委員会等でとりあげられており周知の事実であった。本件番組の放送当時,原告は被告の誰からも本件番組での発言について注意を受けたことはない。
コ 解雇理由17ないし24-「つどい」についての業務懈怠
(ア) 原告が,平成11年1月5日付けでP8に代わり「つどい」開催の担当課である指導課長を命じられたことは認める。
(イ) 解雇理由17のうち,「つどい」開催中止の伺書を出したこと,解雇理由
18のうち,「指導課は対応できない。」旨発言したこと,解雇理由20のうち,
「事業計画の許可がないまま『つどい』を実施するわけにはいかない。」旨発言したこと,解雇理由22及び23は認め,その余は否認する。
P8案は,指導課長である原告を始めとする「つどい」のプロジェクトメンバーを排除し,かつ,経験のないP7専務理事が対役所用に作成したものであり,同年
10月14日の最終検討会議では,全員一致で「砂上の楼閣」と結論付けられたものである。原告は,解雇理由17ないし23の各発言の趣旨のとおり,P8案での
「つどい」の開催に疑問を呈してきたことはあるが,それは,実務経験から実現可能性に疑問があるとの意見を述べたものであり,最終的に原告の問題提起が正しかったことは,前記最終検討会議で明らかになっている。
その後,原告は,「つどい」の再開に向けて再開計画の作成,アンケートの実 施,予算作成と精力的に働いた。解雇理由24の日は,原告は感冒がひどく,会議で「つどい」再開の具体案が決定した後,指導課員に案内状の発送作業を指示し,早退したのであり,怠業は不当ないいがかりである。
サ 解雇理由25-勤務態度
(ア) 解雇理由25のうち,就業時間中,文庫本を読んだり,新聞を読んだり,居眠りしたり,英会話の勉強をしたことがあることは認めるが,その余は否認す る。
(イ) 指導課は,職員2名で仕事量は0.7人分しかない閑職である。原告は,
平成12年8月7日及び同年9月3日の課長会議において,仕事がないことを訴えたが無視された。
前指導課長であった事務局長のP8は,指導課が1月から3月頃までは一番暇であることを知っていたのでこの時期を選んで原告の勤務状況記録を分単位で記録していたものである。P8自身,原告の勤務態度を四六時中監視し,記録に留めるのが仕事であったということになり,怠業とすべきである。また,職場の上司が,部下の行動を分単位で3か月間も監視し続け,至近距離から隠し撮りをし,確定日付をとるという異常な行動は,原告に対する人権侵害で,不法行為を構成し,これにより得られた証拠は違法収集証拠として排除すべきである。
(ウ) 原告は,仕事がないので,パソコンの独習のための解説書読み,遺児の指導に関連のある本読み,奨学生の就職アドバイスのための日本経済新聞読み,英語の勉強をしていたことがある。また,3,40分に及ぶものではないが居眠りをしたこともある。しかし,他の職員も新聞読みや居眠りや離席を常習的にやってお り,原告の行動が突出していることはない。
シ 解雇理由26-チラシのコピー
(ア) 原告は,解雇理由26のとおり,平成12年6月14日,被告の事務機器を無断で利用して,「エコ・トンの会」のためチラシを作成したことは認める。
「エコ・トンの会」は,豚肉を共同購入する会であり,原告の妻が世話役をやっているボランティアの会であり,兼職には当たらない。
(イ) 被告の事務機器を私的に使用することについては,被告は寛大であり,全職員が利用しているといっても過言ではない。
たとえば,P4理事長は年賀状(P4理事長の妻の名入り,自宅住所のもの)を被告の印刷機で印刷し,P7専務理事はP7専務理事個人が被告となった週刊誌記事についての名誉毀損裁判の和解調書,その裁判の100枚を超える証拠書類,P
6がP7専務理事を訴えた裁判の証拠書類等を被告のコピー機を利用してコピーしている。
ス 相当性がないこと
被告の主張する解雇理由は,その事実がないか,事実があるとしても,いずれも軽微な行為であって,他の職員が何ら責められていないことと対比して,原告のみ解雇に処するのは相当性がない。
(2) 本件解雇は不当労働行為として無効か
(原告の主張)
前記のとおり,被告は,組合を嫌悪して,都労委第1次事件からP10配転仮処分事件まで,不当労働行為を行ってきたものである。
そして,原告は,組合の実質的代表者として,前記各事件において戦ってきた。団体交渉に必ず出席し被告を厳しく追及し,分会が提案した被告事務局のリストラ案を策定して被告執行部を批判し,P10配転仮処分事件でもP10を補佐し被告と対立した。被告は,原告のこの組合活動ゆえに,原告を被告から排除する目的 で,本件解雇を行ったものであり,本件解雇は労働組合法7条1号に違反する不当労働行為として無効である。
(被告の主張)
被告が不当労働行為を行ったことはない。
被告は,原告が労働組合の組合員だから本件解雇をしたのではなく,原告がP6と組んで目に余る業務命令違反,職務怠慢を行ったから,本件解雇をしたのであ る。
第3 当裁判所の判断
1 前提とした事実
第2の1の事実及び証拠(後掲のほか,甲46の(1)ないし(3),61の
(1)ないし(10),62,乙82,証人P7,原告本人)によれば,次の事実が認められる。前記証拠中,この認定に反する部分は採用しない。
(1) 再雇用職員の辞令等
ア 被告の理事は,寄付行為により,原則無給と定められ,例外として,評議員会及び理事会の決議により,常勤の役員を有給とすることができるとされていた。平成10年当時,被告の理事のうち,常勤として有給とする旨前記各決議をされていたのは,P7専務理事とP6の2名のみであった。
P7専務理事は,専務理事として,寄付行為に基づき,会長及び理事長を補佐 し,日常の事務を補佐する権限があったが,平成8年に専務理事に就任した後に初めて被告事務局に常勤するようになったため,その前からP3専務理事の下で被告
事務局に勤務していた事務局長のP6に,被告事務局の実務を頼らざるを得なかった。ところが,平成9年ころから,P6は,P7専務理事の命に従わないことが多く,P7専務理事とP6は,被告の業務に関して意見交換もできないほど激しく対立し,そのため,被告の管理職であったP14,P9,P11らが,平成9年8 月,「P7専務理事とP6の関係により業務上迷惑を被っているので改善を求め る。」旨声明して管理職組合を結成したことがあった。
(甲9の(35),60,乙53)
イ 平成10年3月末,P7専務理事は,当時事務局長であったP6に対し,平成
10年4月1日付けで嘱託職員であったP11を職員に採用する旨の理事長作成の人事異動指示書を交付し(人事異動①),その旨の辞令を作成するよう指示した が,P6は,P7専務理事に対し,この人事には反対であると述べて辞令を作成しなかった。
そこで,P7専務理事は,総務課長であった原告に対し,人事異動①の辞令を作成するよう指示した。原告は,辞令の原案を作成する事務局長のP6に指示を仰 ぎ,P6から辞令を作成しないよう指示されたため,辞令を作成しなかった。
また,P7専務理事は,原告に対し,同年8月3日,同年8月1日付けで嘱託職員であったP12を職員機関紙担当として採用し,参事役のP9を嘱託特命事項担当として再雇用し,P11を募金課長に任命する旨の人事異動指示書を交付して
(人事異動②),その旨の辞令の作成を命じたが,この人事にP6が反対し,原告に何もしてはいけない旨命じたため,原告は,辞令を作成しなかった。
P7専務理事は,同月31日,P6に対し,同年9月1日付けで嘱託職員であったP13を再雇用する旨の人事異動指示書を交付し,その旨の辞令の作成を求めたが,P6は作成しなかった。
P7専務理事は,他の職員に命じ,又は,自ら,人事異動①ないし③の辞令を作成した。
(甲11の(3),乙6,8,11,26,34,37,55)
ウ 寄付行為によれば,被告の職員の任免は会長が行い,会長が欠けたときは理事長が会長の職務を代行するとされており,平成10年当時,会長が欠けていたた め,P4理事長が被告職員の人事権を有していた。そして,被告の理事長は非常勤であったため,常勤である専務理事及び事務局長と協議し,この協議に基づいて人事を決定していた。決定された人事異動について,辞令を作成する手順は,辞令の原案を事務局長が作成し,これを参事役,事務局長,専務理事,理事長が決裁した後,総務課長が決裁された辞令の原案に公印と割印を押し,辞令を完成させることとなっていた。
(甲11の(1),45,乙53,)
エ 被告においては,奨学生の新規採用人数が減少し,平成9年ころには,平成元年の新規採用人数の半数となるなど,事業の縮小傾向が顕著であった。
分会は,平成9年10月6日,被告の事業の合理化,効率化のため,被告の事業縮小に対応して事務局人員を削減すること,60歳以上の職員の昇給の見直しを含む給与体系の見直しを行うこと,役員給与の削減を行うことなどを提案する文書
(組合リストラ案)を被告及び被告の監督官庁であった総務庁に提出した(甲8の
(1),9の(22),(23))。また,分会は,被告との間で,平成9年から平成10年にかけて,被告の事業の合理化,効率化のための施策について,団体交渉を重ねていた(甲12の(1)ないし(4),37,38の(1)(2))。
P4理事長は,平成10年ころ,P14,P15,P9,原告に対し,被告の事業合理化について検討するよう命じ,これを受けて,前記4名は,同年8月27 日,「交通遺児育英会のリストラに関する提言」と題する答申をした(以下「リストラ答申」という。)。その内容は,職員事務局の人員削減と若返りの必要性を指摘し,嘱託職員の採用期間を1年間とし更新は原則1回とする取決めを実施していく等というものであった(甲9の(31),(32))。
オ 原告は,同年7月28日,P12に対し,P6とともに,「人事異動②のP1
2の雇用継続は事務局として聞いていないので問題である。」旨いい,同年8月6日にも,P6,P15,P14とともに,P7専務理事に対し,人事異動②について,「事務局の意見を聞かないで人事を決めるのはやめてもらいたい。」旨苦情をいった。
また,原告は,人事異動②のみならず,P11の採用(人事異動①)やP13の採用(人事異動③)についても,リストラ答申に直接反するものではないが,被告事務局の人員削減と若返りの必要性に逆行するものと考え,賛成ではなかった。
(甲11の(1),12の(4),乙71,76の(1))
(2) 再雇用職員らの勤務・休暇の会計課への報告等
ア 総務課長は,職制規程上,「職員の人事に関すること」を管掌し,採用された職員について身上書類のとりまとめを行うこととされている。
総務課長は,採用された職員について,出勤簿の整備及び休暇届の受理などの勤怠管理を行うべきこととされている。
原告は,平成10年当時総務課長であったが,再雇用職員らについて,人事異動
①ないし③の後,身上書類のとりまとめをしなかった。また,人事異動①ないし③が発令された後ころ,勤怠管理(出勤簿の作成,休暇届の受理等)をせず,会計課への報告も行わなかった。
(乙1,2,13,27ないし29の(1)(2),33の(1)ないし(9),
35の(1)ないし(11),一部争いがない。)
イ P7専務理事は,平成10年8月5日,人事異動②を被告の全職員の前で行ったところ,会計課長のP15は,「事務局長の賛成しない人事異動は認めない。」旨発言した。
前記人事異動①ないし③が発令されてからP11は2か月間,P12及びP9は
3か月間,P13は2か月間,それぞれ被告から賃金が支払われなかった。P11は,同年4月24日,P4理事長に対し,「P6事務局長に対し賃金支払事務を執行するよう指示してほしい。」と伝え,同年9月9日,P12及びP9も同様の要請をし,その後,再雇用職員らは,労働基準監督署に対し,被告の賃金の未払を訴えた。
P4理事長は,同年10月15日,P6に対し,被告理事長名で,人事異動①ないし③に伴う事務処理と再雇用職員らの賃金未払問題の処理を行うよう書面で命じ
(以下「10月15日付業務命令書」という。),P6がこれに従わなかったた め,再度,同月23日付の内容証明郵便(以下「10月23日付業務命令書」という。)でさらにこれを命じた。
被告の職制規程には,職員の給与に関することは,会計課の所掌とする旨定められているが,この賃金未払問題について,P15を含め,会計課職員で被告から何らかの注意を受けたり懲戒処分を受けた者はいなかった。
(甲9の(35),乙2,8,36の(1)(2),57,62の(1)(2),
67の(1)ないし(5),71,74,77の(1)(2),一部争いがない。)
ウ 再雇用職員の身上書類は従前の雇用の際に提出されていたため,会計課は,前記イの未払の後,再提出を要求することなく再雇用職員らの賃金支払手続を開始した。また,被告職員に対しては,月ごとの賃金について欠勤控除は行われないた め,総務課が毎月の賃金のため会計課に勤怠を報告することはされていなかった。
(甲5,乙29の(1)(2))
(3) 再雇用職員の机の準備について
原告は,人事異動②の発令後,平成10年8月3日,P6の命を受けて,P9及びP12が使用していた机を搬出させ,心塾へ運搬させた。
P7専務理事は,机の搬出についてP6や原告に苦情を述べ,元へ戻すよう指示したが,戻されなかった。
原告は,同月6日,P9及びP12から机を要求され,事務局に残っていた机を用意した。P9は,当初,P6に対する憤懣を述べて応接セットの椅子に座って執務していたが,その後は原告が用意した机で執務するようになった。
(甲11の(3),乙31,32の(1)(2),一部争いがない。)
(4) 公印返還拒否について
ア 被告の職制規程によれば,公印は総務課が保管することとされている。分会結成後,原告が総務課長として保管していた公印をP6らが保管するようになったため,前記第2の1(4)アのとおり,上部団体は,平成7年2月,都労委第1次事件の不当労働行為救済申立てを行った。(甲7の(4),乙2)
イ 平成8年和解の後も,公印は原告に返還されず,平成9年9月10日原告が作成した総務課の仕事分担表には,公印管守に関することはP7専務理事が担当するとされ,P7専務理事が保管していた。
原告は,平成10年7月2日,理事,評議員合同懇談会開催案内状の作成のため必要であるとして,公印をP7専務理事から借り受けたが,同月3日になってもこれを返還せず,P7専務理事は,原告に返還を要求したが,原告はこれを拒んだ。
(乙13,59,73,一部争いがない。)
ウ P4理事長は,10月15日付業務命令書及び10月23日付業務命令書によって,P6に対し,原告が保管している公印をP7専務理事に渡すよう指示した。原告は,これを受けて,同月27日ころ,P7専務理事に公印を交付した。
(乙8)
(5) 本件資格喪失届について
ア 人事異動②が発令された後,被告の会計課は,平成10年8月20日,β町社会保険事務所に対し,P9が被保険者資格を喪失した旨の本件資格喪失届を提出した。本件資格喪失届への公印の押印は,原告が有給休暇を取得したとき,会計課職員のP16から依頼があり,これに応じて総務課職員がしたものであった。
原告は,総務課職員に対し,会計課が本件資格喪失届を持参しても公印を押印しないよう指示してはいなかった。
(甲9の(11)ないし(14),(19),乙7,60,一部争いがない。) イ 被告職員の社会保険の被保険者資格の得喪の届出事務は,会計課が行うこととなっており,P9に対し,本件資格喪失届の手続のため健康保険証の返還を求めたり,社会保険料の徴収事務の連絡を行っていたのは会計課であった。
(甲9の(8)ないし(10),11の(2),乙60)
ウ 前記第2の1(4)イのとおり,分会は,被告理事長が10月23日付業務命令書等において,「原告が有印私文書偽造をした。」旨記載したことは,不当労働行為であるとしてその救済を求める都労委第3次事件を申し立てた。都労委第3次事件の審問において,P7専務理事は,本件資格喪失届を作成したのは会計課の職員である旨供述した。
都労委第3次事件の審問において,原告が,本件資格喪失届が作成された際は休暇中であった等と供述したため,被告は,平成12年7月末ころ,平成10年8月当時の会計課長であったP15,P16及び総務課職員1名からそれぞれ事情聴取をした。その際,P16は,「P9が平成10年8月初めから出勤せず,前月分の社会保険料を送付してきたので,P9は嘱託期間満了で被告を退職したと思い,本件資格喪失届を作成した。」等と弁解した。
本件資格喪失届が提出された件で,被告の会計課職員で懲戒処分を受けた者はいなかった。
(甲10の(1)ないし(4),11の(2),乙60)
(6) P12に対する機関紙編集委託費名目での金銭の支払 P12は,人事異動②の前にも被告の機関紙の編集を業務として行っており,人
事異動②の後,引き続き被告の職員として前記業務を行っていた。 P12は,平成10年9月9日,P4理事長に対し,同年8月16日支払の賃金
が未払であるから支払をされたい旨書面で伝えた。
同年9月11日,原告は,P6の命により,被告に対し,P12に対する機関紙
240号編集委託費金18万円を振り込むための仮払出金要請を行い,その後,被告からP12に対する前記金員の振込み手続を行った。
P12は,その直後ころ,原告と面談して,この振込みの趣旨を尋ねた。このとき,原告は,P12に対し,P12の8月の勤務について何らかの対価を支払うべきであるが,人事異動②についてP4理事長,P7専務理事及びP6との間で話合いがついておらず,賃金が支払えないので,P6の指示で,生活費として必要なものを前記名目で支払ったものである旨説明した。
(乙12,76の(2),77の(1),一部争いがない。)
(7) 包括白紙委任状について
ア 被告は,平成10年11月11日付け書面により,同日ころ,被告の全評議員に対し,同月25日に平成10年度第1回臨時評議員会(本件評議員会)を開催する旨通知した。開催通知には,本件評議員会の議事事項を「理事の補充選任について」とし,出欠の回答,委任状を兼ねる葉書が同封されていた。同封されていた委任状の書式は,「議決事項の表決を理事長に委任する。」旨の不動文字に,委任者の氏名押印の欄が設けられたものであった(以下「本件委任状書式」という。)。 P6は,担当参事役のP14と協議して,前記開催通知及び本件委任状書式を作成し,「臨時評議員会の開催について」と題する伺書(本件稟議書)を作成し,本件稟議書に理事長,P7専務理事,P6,P15,P14,原告が決裁した。職制規程上,総務課長は評議員会の準備を行う責務があり,当時総務課長の原告は,前記決裁を経た開催通知及び本件委任状書式の発送手続を行った。
本件委任状書式に署名等して被告に提出し(以下,本件委任状書式の委任者欄に記入して完成された委任状を「本件委任状」という。),当日欠席した評議員は6
4名であった。被告は,補充選任する理事の候補者3名の氏名等を記載した議案資料を同月20日付けの書面により同日ころ発送したが,前記64名の中で,同日後に本件委任状を提出したのは7名のみであった。
(甲21,24,25,39,乙2,17,一部争いがない。)
イ 本件評議員会において理事の補充選任について議論がされ,議長により,理事会提案の3名に2名を追加した5名案と,理事会提案の3名に5名を追加した8名案とがある旨整理が行われた後,挙手による決がとられ,その時点で出席していた評議員17名のうち9名が8名案に賛成した。その後,理事長が「理事会提案どおりとしたい。」旨発言する等し,本件委任状64通の取扱いをめぐって意見が分かれた。
本件評議員会後,前記追加の5名の理事候補者が,被告に対し,本件評議員会で被告の理事に選任されたとして,理事の地位確認と理事会決議無効確認を請求する訴えを東京地方裁判所に提起した。
この訴訟においては,第1,2審とも,被告の寄付行為は,欠席した評議員を定足数や議事の評決において出席した者とみなすには,議事についてあらかじめ書面をもって意思を表示し,または他の評議員に表決を委任する旨定めているところ,本件委任状は,議事についてあらかじめ書面をもって意思を表示したものでもな く,かつ,評議員ではない理事長に表決権の行使を委任したものであるから,無効であり,本件評議員会は寄付行為に定める定足数を満たしておらず,評議員会として成立していない旨判断した。
(甲24,25)
ウ 被告の寄付行為は,欠席した評議員を定足数や議事の表決において出席した者とみなすには,議事についてあらかじめ書面をもって意思を表示し,または他の評議員に表決を委任することとする旨定めている。
被告において,評議委員に送付する委任状の形式は,平成6年7月開催された第
51回評議員会から平成10年5月28日開催の第59回評議委員会までは,個別の案件ごとに委任する個別委任形式をほぼ毎回採用してきたが,受任者を評議員に限定する取扱いは採用されておらず,評議員ではない理事長を受任者とする委任状を有効とし,評議員の資格をもたない部外者の代理人を評議員会に出席させ表決権の行使を認めてきた。
総務庁交通安全対策室の参事官は,本件評議員会後の同年12月1日,P7専務理事及びP6に対し,「被告の歴史の中で出席評議員の多数決を理事長を名宛人とする委任状で覆した前例はなく,8名案で議決されたとして処理するしかない。本件評議員会開催前に,P7専務理事及びP6に対し,理事長を名宛人とする委任状を改善するよう指導したが,これを無視したために紛議を生じた。」等と指導し た。
また,内閣総理大臣臨時代理は,衆議院議員の質問に対し,平成11年2月9日付け答弁書において,「評議員の表決の委任状の書式については,具体的な議案内容をあらかじめ評議員に示した上で委任者の賛否の意思を表示する方式に改めるよう従来から被告に指導してきた。」旨答弁した。
(甲22,23,乙15,16の(1)ないし(11),53)
(8) テレビ出演
ア 原告は,平成10年8月9日放映されたTBSの「噂の東京マガジン」とのテレビ番組(本件番組)に出演した。本件番組は,社会的に問題となっている話題について,取材者役の芸能人が関係者等に取材した様子を報告し,これにスタジオの司会者及び芸能人が意見を述べるという形式の報道番組である。本件番組は,被告について,主に,「(ア)12億円の費用をかけて作られた収容人数212人の心塾は,そのほとんどが空室であり,他方,病気,災害遺児の学生が入寮を希望しても被告の規則のため入寮できないでいる。これらの学生が所属する『あしなが育英会』は民間団体で,被告と比較して資産が少ない。親の亡くなった理由如何によ り,遺児に対する援助がされないのは不合理であり,被告と『あしなが育英会』は合併するべきだ。」,「(イ)被告において非常勤の理事長は無給との決まりがあるにもかかわらず,総務庁からのいわゆる天下りである理事長(=P4理事長)には,旅費,ハイヤー代の名目で報酬が年間800万円支払われていた。また,総務庁の天下りに関する内部文書が見つかり,被告の理事会を牛耳ろうとした形跡があることが判明した。被告の寄付者がこの問題で怒っている。」旨を報道するものであった。
本件番組では,原告が,被告の運営する学生寮である心塾について,取材者に対
し,「現在,交通遺児以外から入寮申込みがあるが今は門前払いしている。」「総務庁とか文部省とか監督官庁がいいよという決定をしない限りは動けない。」「規則としてだめということで今はお引き取り願っている。」旨発言する様子が放映された。
また,本件番組において,原告が,被告の理事長室で取材者に対し,「前の理事長はたいへん,前の理事長も偉い方で。」「ボランティアだったというふうに私たちは聞いております。」と話した場面に引き続き,「α町,γかいわいでは,いわゆる高級官僚の方が財団なり公益法人に理事とか,そういう形で常勤するケースでこの3つを用意しなさいというのがありましてね。」「これは非常に常識ですけれども,一つは先ほど言ったハイヤーの送り迎えなんですね。それから,理事長室というか,個室を用意しなさい。それから秘書をつけなさいという,この3つを非常に望まれるというのは,ここは理事長室兼会議室ということで。」と発言する場面があり,「これは理事長室だったんですか。」との取材者の質問に答え,「はい。ここで会議をしたりもしますけど。」と話す様子が放映された。
(甲26,乙18,19の(1)(2))
イ 平成10年3月26日,産経新聞は,「前任者は無報酬であったのに,P4理事長には,年間800万円の報酬とハイヤー代が支払われていたことが,同月25日の衆議院決算行政監視委員会における質問で判明した。」旨報道した。
また,同月26日,毎日新聞は,「前記決算行政監視委員会において,総務庁の天下りや寄付金の使途の不明瞭さが指摘された。」等と報道した。
同年5月13日,朝日新聞は,「監督官庁の総務庁が天下り官僚を被告理事に送り込む計画をまとめた内部文書が明らかになったこと,総務庁出身のP4理事長は前任者が無報酬であったのに日当3万円とハイヤー代で年間800万円を受け取るようになった。」旨報道した。
また,同月14日,産経新聞は,「被告の理事改選に合わせて天下りを計画していたことを示す文書が同月13日明らかになった。」旨報道した。
これらの理事長報酬問題等に関し,同月ころ,寄付者から,被告に対し,苦情や寄付の取りやめを告げる文書が送られ,朝日新聞の読者投書欄にも,寄付者からの苦情や,奨学生からの天下り批判の声が掲載された。
被告は,平成6年4月1日から,P4理事長に対し,日当及びハイヤー代として報酬を支払っていた。この報酬については,被告の監査を請け負った中央監査法人から,平成9年2月3日,「理事長に支払われる旅費は報酬に相当するため,理事長の勤務が寄付行為の常勤役員に準ずるものといえるか検討が必要である。」旨の指摘を受けていた。また,同年12月16日の臨時理事会においても,出席した常任理事から,理事長の報酬について質問がされていた。
(甲27ないし32,53)
ウ 被告と「あしなが育英会」との合併の問題は,平成5年11月19日ころから被告の理事会でも議論され,平成6年3月30日の理事会においては,P17会長が理事全員に宛てた同年2月18日付け文書の,「病気,災害遺児に対しても進学の機会を与えるという考え方自体には個人的に賛同する。しかし,財団法人として公的な存在である被告は,寄付行為に従い,理事会の承認を得て,監督官庁の認可を得なければ事業目的の変更は法的に認められない。特に,基金の運用変更を伴うことから出損者の了承が必要であり,奨学金支給の対象範囲等の実務的な問題や,日本育英会との関係についても整理する必要がある。今後,理事各位は,このような問題について検討し,多くの関係者が納得できる結論を導いて欲しい。」旨の見解が伝えられるなどしていた。また,同年6月6日には,被告の理事会において,
「いわゆる『合併問題』に関する審議の進め方について(案)」が策定され,同年
9月には「あしなが育英会」に対し,同案に基づく意見照会の文書が送付された。
(乙14,63の(1)(2))
エ 原告が本件番組に出演したのは,TBSから,被告に対し,前記イで報道されていた理事長報酬や天下り問題について取材したい旨申入れがあり,P6が対応するよう原告に指示したためであった。被告において,マスコミの取材に関して,理事長及び専務理事の許可を得ることとした内規等はなく,原告は,P4理事長及び P7専務理事の許可は得ていなかった。
本件番組放映後,原告は,上司から本件番組での発言について注意を受けたことはなかった。
(9) 「つどい」について
ア 「つどい」とは,被告理事,職員,奨学生,保護者を構成員として,奨学生相
互の連帯等を目的に,一堂に会して奨学生の実態把握及び相談に応じる機会をもつために開催される被告主催の会合である。
平成5年度の「つどい」は,高校奨学生対象が全国10会場で3泊4日,大学等奨学生対象が1会場で5泊6日の規模で開催され,被告指導課の中心事業であっ た。「つどい」は,平成5年までは当時専務理事であったP3を中心として毎年開催されてきたが,平成6年3月30日の理事会でP3が専務理事を辞めると,主導するP3がいなくなったことや職員の人材不足等により平成6年度から開催できなくなった。また,同年6月開催の被告理事会で,理事から,奨学生に対する「つどい」や学生募金への参加等の強制があったのではないか等と懸念する発言がされ,
「つどい」を含めた奨学生に対する指導が強制にわたらないようにすべきであるとの議論がなされていた。
その後,被告の指導課に関する事業計画として,平成8年度には「つどい」の再開,平成9年度から平成10年度までは,奨学生及び保護者の直接面談の相談事業を行うことがそれぞれ計画されたが,いずれも実施されなかった。
(甲9の(15),34の(1)ないし(6),乙80,81)
イ 平成10年10月22日,「つどい」開催の担当課であった指導課長のP8 は,「つどい」の開催の基本案(以下「P8第1次案」という。)を策定した。P
8第1案は,高校奨学生を対象に,夏休みに2泊3日で行い(北海道は正月休み),全国7ブロックに分け公共の宿で行うとしたものであった。
原告は,平成11年1月5日付けでP8に代わり「つどい」開催の担当課である指導課長を命じられ,P8はP6に代わり事務局長となった。
(乙21,一部争いがない。)
ウ 同年2月1日,P7専務理事は,課長会議において,平成11年度の「つど い」の5年ぶりの再開についてとりまとめを原告に命じ,これにP8らが加わって被告職員を挙げて一致協力してやるよう指示した。
原告は,同月12日,「つどい」実施案作成にあたっての検討事項として,「中止になった理由とその対策。対象者の区分と開催方法。実施する人材の供給。対象者は高校奨学生のみでいいのか。実施時期と寒さ,開催頻度,7ブロック分けでは大きすぎないか等の実施方法。プログラム実施の能力。参加の強制と義務づけの問題。出席率確保の目標数値」等の項目についてそれぞれ問題点を指摘する文書を作成し,提出した。
同年3月11日,被告理事会において,被告の平成11年度事業計画及び収支予算案(以下,「本件事業計画」という。)が示され可決された。本件事業計画は,
「『つどい』を平成11年度実施をめどに,具体的実施案を検討中である。」旨定め,そのための予算を2000万円とするとされていた。この理事会では,「つどい」の平成11年度中の開催について,出席理事から,計画策定が日程的に遅すぎるのではないか,年齢的に対応できる人材がいるのか等との質問がされた。
原告は,同月16日,P7専務理事に対し,「執行部の対応ではP8案はおろ か,一部委託の実施も不可能であり,本件事業計画を,『職員構成等,育英会の現状を検討した結果,具体的な「つどい」実施案を得ることはできなかったため,平成11年度は引き続き検討することとする。』と変更し,予算を削除する。」ことを文書で上申した。
同月30日開催の評議員会において,本件事業計画が説明されたところ,評議員から,「つどい」の開催について,被告の熟年職員が交通遺児や保護者と心を通わせるのは無理ではないかとの意見が出された。
(甲9の(36),34の(7),48,乙38の(1)(2),39,40,一部争いがない。)
エ 原告は,同年4月5日,課長会議において,「P7専務理事が,指導課を無視して『つどい』の方針を決めているが,これでは指導課は不要であり,つどいの開催に,指導課として対応しない。」旨の発言をした。(乙41の(1),(2),一部争いがない。)
原告は,同年4月,総務課長を免ぜられ,事務局次長兼指導課長のみとなったが,この人事を再考願いたい旨の意見を具申した。(乙42)
P7専務理事は,同年5月31日,文部省に対し,P8が作成した,「関東地区は平成12年1月5日から国立オリンピック記念青少年総合センターで,北海道地区は同月12日から国立大雪青年の家で行う。」等の「つどい」実施案(P8案)を提出した。(乙20)
平成11年6月7日の課長会議で,P7専務理事は,「8月中につどい実施は時
間的に余裕がない。1月上旬でやりたい。」「原告が中心となってやってほし
い。」と指示したところ,原告は,「それはおかしい。『これだけ決めた,ここから先はおまえやれ』は,おかしい。」旨反対した。会議に参加していた3名の幹部職員からも同旨の意見が出されたため,P7専務理事は,「現在,文部省と話合いをしている。」「具体的なことは私が中心となって考えていきたい」等と答えた。
(乙43)
同年7月5日の課長会議において,原告は,「つどいは指導課の原告がやるべきであるが,前回の課長会議でP7専務理事が中心でやることになった。原告は,文部省との話合いを聞いていない。」「安全の確認,教育的部分に責任がもてない。文部省と打ち合わせをして実施案の大枠を決めた者が実施すればいい。実施案に は,安全に危惧を抱いている。」旨述べた。これに対し,総務課長が,「P7専務理事がトップをやるとしても全部やるわけにもいかない。原告も委員会に入るべきである。」旨提案したところ,原告は,「決めた者が全部やればいい。」「6か月もの間,何も関与していない。仕事が大変になったからやれというのは無視しすぎである。」旨発言した。
(乙44の(1)(2))
同年8月2日の課長会議で,P7専務理事は,「つどい」の推進を原告に求めたところ,原告は,「P7専務理事にはP8案を検討すると答えている。本件事業計画そのものが主務官庁から許可されていないのに,実施はできない。」旨の発言をした。(乙45,一部争いがない。)
同月26日,原告は,P7専務理事に対し,P8案に関し,対象者,北海道地区の範囲,過去の「つどい」の問題点,過去の「つどい」の問題点の検討資料,常設の相談窓口との関係,強制の意味,人材不足の内容等について質問する質問書を提出した。(乙46,一部争いがない。)
原告は,同年9月6日の課長会議において,「質問書を提出した後,P7専務理事及びP8事務局長から,『つどい』をP8案でやることが文部省の決定だからやるようにといわれたが,課長会議での話と違う。事前協議との関係は,どうとらえたらいいのか。やっていいとは思えない。仮走りではなく,『やってくれ。』という文書をもらいたい。また,P8案では安全性の問題もある。」旨発言した。P7専務理事が,「いわゆる事前協議の対象となったのは,事務局の合理化問題と『つどい』である。総務庁は,『やってくれ』という文書を出すといっているから近々もらえると思う。」旨発言すると,参加した他の幹部らから,早期に監督官庁の連名で許可証をもらいたいとの意見が出された。
また,同じ会議で,原告が,P8案について,冬の寒さと日没,学校の始業式との関係,日没と活動時間等の関係等の問題点を指摘すると,他の幹部職員から,実施時期,場所,対象者を検討することが必要であるとの意見が出された。(乙4
7,一部争いがない。)
同年9月28日の課長会議において,原告は,「事前協議の許可がないのに,
『つどい』が実施できるのか。P8案は,会場,開催時期等による安全性の問題と出席率の問題から,実施困難であると考える。」とする文書を提出した。課長会議では,ほどんどの幹部職員から,P8案は安全面から実施が難しいとの意見が述べられた。その結果,場所を一か所にする等計画を変更して実施できるかを検討することになった。(甲55の(1),(2),乙48の(1),(2),一部争いがない。)
同年10月6日の課長会議では,再度,原告以外の幹部職員とP7との間で,前回の課長会議の決定内容について意見が分かれ,P7専務理事は場所を一か所にしてでもやることが既定方針であると主張した。(甲56の(1)(2))
オ 同月14日の課長会議において,「P8案は現場の議論に基づかない砂上楼閣というべきものである。P7専務理事もP8案の変更を容認している。被告は,
『つどい』開催のため必要な奨学生の実態を把握できていない。その基礎知識を得るため,奨学生家庭に被告職員が訪問したり,被告事務局に奨学生家庭を呼び出したりし実状を把握する活動を同月25日ころをめどに行う。」ことが確認され,この確認内容についてP4理事長の決裁がされた。(甲9の(29))
原告は,同月29日から同年12月2日まで,「つどい」再開計画案を4回提案し,最終的に,同日付けで「つどい」再開計画案(以下「再開計画最終案」とい う。)をまとめた。再開計画最終案は,平成11年度及び平成12年度を「新つどい」の助走期間として,平成11年度には首都圏の奨学生家庭を対象にアンケートや家庭訪問で実状を把握し,首都圏在住の訪問家庭を集めて「ミニつどい」を実施
する等というものであった。再開計画最終案は,被告から文部省に提出された。 原告の立案した再開計画最終案に従って,被告は,奨学生家庭にアンケートを実
施し,その結果を平成12年1月10日集計した。
(甲9の(30),35の(1)ないし(5))
カ 被告の寄付行為によれば,事業計画及びこれに伴う収支予算は,会計年度開始前に会長が編成し,理事会の議決を経て内閣総理大臣及び文部大臣に届け出なければならないとされており,許可は法的な条件とされていない。他方,被告設立以 来,毎年の事業計画及び収支予算について,「差し支えない。」旨の内閣総理大臣及び文部大臣から理事長宛ての行政指導を文書で受けることとなっており,この行政指導が文書で出されないうちは,当該事業計画及び収支予算に改善すべき点があるとされ,改善点を総務庁及び文部省と被告執行部とで協議することとなってい た。被告事務局では,この協議を「事前協議」と呼び,前記「差し支えない。」旨の行政指導の文書を「許可証」「事前協議許可証」と呼んだりしていた。
平成11年6月14日,被告に対し,総務庁長官官房交通安全対策室長から,本件事業計画について,「貴会の運営の適正確保については,『公益法人の設立許可及び指導監督基準』・・・にのっとり,従前より,各般にわたり再三指導していきたところであるが,いまだ十分とはいえず,今後速やかな改善が必要である。」との文書がP4理事長宛てに交付され,具体的には,寄付行為に定められた理事数や経費削減案について改善を行うよう指導がされ,本件事業計画については,前記
「差し支えない。」旨の文書が交付されていなかった。
(甲49,51,乙53)
キ 平成12年3月上旬,課長会議において,本件事業計画に対する「差し支えない。」旨の文書は交付されていないが,理事長決裁で「つどい」を行うと確認された。同月9日の課長会議で,「高校奨学生と保護者のつどい」を同月25日,26日に静岡県御殿場市で行う旨決定された。
同月13日,原告は,会議に出席した後,前々日からの感冒のため,早退し,同日の開催案内の発送作業には,指導課以外の職員らが手伝った。
(甲58,乙49)
ク 平成11年度の「つどい」の参加者は,16名であった。原告は,同年5月の
「つどい」の反省会の席で,「このように小さい規模であれば,1週間あれば準備できる。20人から30人なら1週間で計画はできる。100人から200人になれば,ありとあらゆることを考えねばならない。海外研修で50人になったことがあったが,とんでもないことになった。少し規模が大きくなるとまったく変わ
る。」等と発言した。
(甲34の(8),乙50)
(10) 勤務態度について
ア 原告は,平成12年7月ころから平成13年3月15日ころまで,しばしば,就業時間中に居眠り,新聞読み,読書,英会話の勉強を行っていた。(乙22,2
3の(1)(2),一部争いがない。原告の外出が無断であったことを認めるに足りる証拠はなく,乙22の記載は採用できない。なお,原告は,乙22,23の
(1)(2)は,違法収集証拠であるから排除すべきである旨主張するが,使用者が労働者の勤務管理の一方法としてその勤務状況を観察し記録するのは正当であるといえるし,乙22,23の(1)(2)の観察及び記録の態様として労働者の受忍限度を超えるとまではいえないから,採用できない。)
イ 「つどい」を再開する前の指導課については,平成9年,原告が行った調査によれば,機関紙作成,発送関係の仕事を除くと0.5~0.8人分の仕事量であると報告されており,当時の業務分担では,指導課の業務のほとんどを指導課の職員
1名で行っていた。また,リストラ答申では,2名が配置されているが,0.7人の仕事量であるとされていた。
(甲9の(31),34の(13),37)
ウ 原告は,総務課長であったP11から,平成12年6月ころ,「英会話の勉強は仕事ですか。」等と英会話の勉強について注意を受けた際,「仕事がない。」と弁解した。P11は,原告に対し,「事務局長や専務理事と相談してはどうか。」と勧めた。
原告は,平成12年8月7日の課長会議において,「指導課及び事務局次長としての仕事がない。『つどい』の開催も大した仕事量ではない。自分は新聞を発行することもできる。仕事配分の適正化をお願いしたい。」旨発言した。しかし,P7専務理事及び事務局長のP8は,原告に新たな仕事を命じることはなかった。
P7専務理事は,P8らに命じて,平成13年1月18日から同年3月15日まで,原告の執務の様子についてノートに記載させ,公証役場で確定日付をとらせていたが,ノートに記載された居眠り,読書,新聞読み,無断外出等について,原告に対し,執務態度を直接注意したり,新たな仕事を与えたりしたことはなかった。
(甲40,乙22,23の(1)(2))
エ 前記(9)クの「つどい」の反省会において,「つどい」の出席率を上げるための家庭訪問が提案されたが,平成12年度事業計画には,「奨学生及び保護者との相談事業」として,直接面談,電話あるいは文書等による指導,相談を行うと記載されており,家庭訪問そのものについては記載されていなかった。被告の幹部職員の中には,「つどい」のための家庭訪問について,前記(9)アで問題視された強制の問題を懸念する意見もあった。
(甲34の(9))
オ 被告指導課は,平成12年度,東北地区と中部地区の2か所での「つどい」を計画したが,東北地区の参加者が少なかったため中部地区のみの実施となり,参加者は11名であった。他方,平成11年度及び平成12年度には,平成10年度までは行われていなかった奨学生及び保護者の直接相談を実施し,平成13年1月3
1日,平成13年度の事業計画として,数県の県庁所在地での奨学生及び保護者との相談会の開催を提案した。原告は,指導課長としてこれらの立案,実施にあたっていた。
(甲34の(6)ないし(12))
(11) チラシのコピーについて
平成12年6月14日,原告は,被告の事務機器を無断で利用して,「エコ・トンの会」の会員に送付するチラシを作成した。「エコ・トンの会」は,畜産農家が抗生物質等を与えず育てた豚の肉を共同購入する会であり,原告の知人が始め,原告の妻が世話役をしており,約50名の会員がいた。
(甲43の(1),乙24,一部争いがない。)
2 懲戒事由の有無
(1) 再雇用職員らの辞令について-解雇理由1,5,10
ア 前記1(1)イ,ウのとおり,原告が,P7専務理事から,被告職員の人事権を有していたP4理事長が作成した人事異動指示書を交付され,人事異動①及び②の辞令の作成を指示されたが,事務局長のP6が辞令を作成しないよう指示したため,作成しなかったこと,事務局長には人事権がなかったことは認めることができる。しかし,当時,決定された人事異動について辞令を作成するには,辞令の原案を事務局長が作成し,これを参事役,事務局長,専務理事,理事長が決裁した後,総務課長が辞令原案に公印と割印を押し,辞令を完成させることとなっていたこと
(1(1)ウ),職制規程上,事務局長が課長の上位とされていたこと(第2の1
(6))からすれば,事務局長のP6から辞令を作成しないよう指示された原告 が,人事異動①及び②の辞令を作成しなかったことは,やむを得ないところであって,「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号)とはいえないというべきである。
また,人事異動③について原告が辞令作成を命じられたことについては,これを認めるに足りる証拠はない。P7専務理事は,原告に辞令作成を命じた旨の供述をするが(乙82,証人P7),これを否定する証拠(甲46の(2),(3),原告本人)と対比し採用できない。
イ 被告は,「原告は,人事異動①ないし③に反対であったため,P6と共謀して理事長及びP7専務理事の命に反抗して辞令をしなかった。」旨主張する。原告 が,人事異動②を事務局に相談なく決定したことについてP6や他の幹部職員らとともにP7専務理事に対する抗議を行ったこと,人事異動①ないし③について,被告事務局の人員削減と若返りの必要性に反するとして賛成ではなかったことは,前記1(1)オで認定したとおりである。しかし,前記アで判示した辞令の作成手順や職制規程に照らせば,原告が人事異動①及び②の辞令を作成しなかったことが,人事異動についての原告の個人的意見に基づくものであったとまでいうことはできず,これを裏付けるに足りる証拠もない。被告の主張は採用できない。
(2) 再雇用職員らの勤務・休暇の会計課への報告等について-解雇理由2,
3,8,12,14
ア 前記1(2)アのとおり,原告が,再雇用職員らの身上書類の取りまとめや勤怠管理をせず,会計課への勤怠の報告をしていなかったことは認められるが,再雇用職員らの身上書類は既に提出ずみのものがあり,再提出の必要があるとはされて
いなかったこと,被告職員の賃金に月ごとの欠勤控除はなく,月ごとの勤怠を会計課に報告することは必要とされていなかったことから(1(2)ウ),原告のこれらの行為が「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたと き」(就業規程54条6号)であるとはいえないというべきである。
イ 被告は,「再雇用職員に対する賃金が人事異動発令後数か月未払であった(1
(2)イ)のは,原告が身上書類の取りまとめ等を怠ったためである。」と主張する。しかし,職制規程上,会計課が職員の給与に関することを所掌するとされていること(第2の1(6)),事務局長のP6が人事異動①ないし③に反対であるから辞令を作成しないとP7専務理事に発言し(1(1)イ),会計課長が人事異動
②は認めない旨公然と発言していた(1(2)イ)ことからすれば,事務局長及び会計課長の判断により,前記賃金未払が起きたものというべきであって,原告の前記不作為により賃金未払が起きたとは認めがたく,被告の主張は採用できない。
仮に,原告が再雇用職員らの勤怠管理を行わなかったことを責めるとしても,再雇用職員らに対する賃金未払問題で,会計課長を始め,会計課職員で注意を受けた者も懲戒処分を受けた者もいないことからすれば(1(2)イ),この件で原告を懲戒処分にするのは,相当性がないというべきである。
(3) 再雇用職員の机の準備について-解雇理由5,6,7
前記1(3)のとおり,原告が,P6の命を受けて,P9及びP12が使用していた机を搬出させたこと,P7専務理事がこれらの机を戻すよう原告に指示したが戻さなかったことは認められるが,原告が直ちに別の机を再雇用職員らに用意し,再雇用職員らもその後これを受け入れたことからすれば,原告が搬出された机を戻さなかったことが,「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号)であるとはいえないというべきである。
被告は,原告が再雇用職員らの採用に反対であったため,P6に同調して机を搬出させたと主張するが,職制規程上,事務局長が総務課長の上位に置かれていること(第2の1(6)),机の搬出がP6の指示に基づくものであることからすれ ば,原告が再雇用職員の採用についての個人的見解に基づいて,机の搬出を行ったということはできない。被告の主張は採用できない。
(4) 公印返還拒否について-解雇理由4,13について
ア 前記1(4)イ,ウのとおり,原告は,平成10年7月3日から同年10月まで,P7専務理事の公印の返還請求を拒んでいたと認められるが,職制規程上,公印の保管は総務課長にあるとされている以上,総務課長であった原告が公印の返還を拒んだことが,「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号)であるとはいえない。
P7専務理事は,平成9年1月14日,理事長決裁により,公印の管守を専務理事にする旨決定したと供述するが(乙73),これを裏付けるに足りる証拠はな く,採用できない。また,乙13は原告が当時の現状について作成した文書であって(弁論の全趣旨),公印の管守が専務理事の職務であるとする根拠とはならな い。むしろ,原告が,10月15日付業務命令書及び10月23日付業務命令書に従って,直ちに公印をP7専務理事に交付していること(1(4)ウ)からすれ ば,前記理事長決裁はなかったものと認めることができる。
イ 被告は,「原告は,組合の実質的代表者であるから,原告が総務課長の職責を行うのは,労働組合法2条1号に抵触するおそれがあるし,被告執行部にとって は,公印の管守に不安がある。」と主張するが,いかなる者をその構成員とするかは当該労働組合の自由というべきものであって,原告が総務課長である以上,原告が公印の管守を職責とすることに何ら問題はないというべきである。また,被告 は,原告が,平成10年7月6日,総務庁交通安全対策室で,「公印はこちらにあり,これで理事長や専務理事は私の承認なく勝手な人事はできなくなった。」旨発言し,P6と組み,公印を保管することで業務命令に違反しようとしていたと主張するが,原告がかかる発言をしたと認めるに足りる的確な証拠はない。被告の主張は採用できない。
(5) 本件資格喪失届について-解雇理由9
ア 前記1(5)アのとおり,原告は,総務課職員に対し,会計課が本件資格喪失届を持参しても押印しないよう指示しなかったことは,これを認めることができ る。しかし,前記1(2)イのとおり,P9が職員に採用されたこと(人事異動
②)は,被告の全職員の前で発表され,被告の職員全員が知り得たことからすれ ば,原告がこのような指示を行う必要はなかったものというべきである。そして,本件資格喪失届に公印が押印されたのは,会計課の職員が原告が不在のときに持参
し公印を押印するよう依頼したためであったこと(1(5)ア),持参した会計課職員が,P9が退職したものと誤解していた旨弁解していたこと(Ⅰ(5)ウ)からすれば,本件資格喪失届の提出に関し,原告の公印管守に落ち度があったとはいえないというべきであり,「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号)に当たるということはできない。
イ 仮に,本件資格喪失届の作成に関し,原告に公印の管守についての結果責任があるとしても,社会保険の被保険者資格の得喪の届出が,会計課の職務であること
(1(5)イ),会計課職員が本件資格喪失届の提出に関し一切処分されていないこと(1(5)ウ),平成12年和解協定で原告が本件資格喪失届に公印が押捺された事実経過について遺憾の意を表明していること(第2の1(4)イ)からすれば,これを懲戒の対象とすることは,相当性がないというべきである。
(6) P12に対する機関紙編集委託費名目での金銭の支払-解雇理由11
前記1(6)のとおり,原告が,P12に対し,機関紙編集委託費名目で18万円を仮払出金要請し,同名目でP12に支払ったことが認められるところ,かかる支払は人事異動②と抵触する行為であるということができる。しかし,原告がP1
2に対し,P6の指示で,P12の当面の生活費として支払ったものである旨説明したこと(1(6))からすれば,原告が人事異動②に反対の意を表明するためにした行為であるとは認められないというべきである。被告の主張は採用できない。
(7) 包括白紙委任状について-解雇理由15
ア 原告が本件評議員会の委任状の書式の発送手続を行ったこと,その委任状の書式が理事長に包括的に議決事項の表決権を委任する形式であったこと,これが寄付行為に反する委任状の形式であったことは,前記1(7)ア,ウで認定したとおりである。しかし,前記1(7)アのとおり,委任状が前記のような形式であったことについては,本件稟議書により理事長の決裁を得ているのであるから,これが
「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号)に当たるということはできないというべきである。
被告は,理事長が決裁した本件稟議書には本件委任状書式が添付されていなかった旨主張する。しかし,本件稟議書には,議案は「理事の補充選任について」とのみ記載され,理事会提案の理事候補者名が記載された議案資料は開催通知に遅れて発送されたのであるから(1(7)ア),本件稟議書に本件委任状書式が添付されていたか否かにかかわらず,本件稟議書の決裁者には,開催通知に添付された委任状の書式が議決事項についての意思表示ができないものであることを知り得たというべきであり,前記結論を左右しない。
また,被告は,原告とP6と謀り,本件評議員会を混乱させるため,本件委任状書式を作成したと主張するが,原告が本件稟議書の作成や本件委任状書式の内容の決定に関与していたと認めるに足りる証拠はなく,被告の主張は採用できない。 イ また,前記1(7)イで認定したとおり,本件評議員会で紛議を生じた発端 は,本件委任状が議決事項について意思表示をしていない包括委任状であったからであるが,本件評議員会の決議の効力を争う民事訴訟において,本件評議員会は成立していないと裁判所が判断したのは,本件委任状が評議員でない理事長を受任者としていた点が寄付行為に反し無効であったからであり,総務庁から,P7専務理事らに対し,理事長を受任者とする委任状は改善を要するとの指導が本件評議員会の前になされていたか否かはともかく,P7専務理事らにおいて,寄付行為に反する委任状の形式を採用し続けたことに問題があり,寄付行為に反する委任状形式を採用したP7専務理事や,本件委任状書式を起案したP6及びP14にも責任があるというべきであり,本件委任状書式を発送した原告のみを懲戒に付するのは相当とはいえない。
(8) テレビ出演について-解雇理由16
ア 原告は,本件番組の出演について,理事長及び専務理事の許可を得ていなかったが(1(8)エ),このような許可を得ることを定めた内規はなかったこと,事務局長であったP6の指示によるものであること(1(8)エ)からすれば,P4理事長及びP7専務理事の許可を得ず出演したことが,「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号)に該当するとはいえない。
イ(ア) 原告は,本件番組において,心塾について,「現在,交通遺児以外から入寮申込みがあるが今は門前払いしている。」「総務庁とか文部省とか監督官庁がいいよという決定をしない限りは動けない。」「規則としてだめということで今はお引き取り願っている。」旨発言したが(1(8)ア),交通遺児以外の者の入寮
を被告が許すためには,総務庁や文部省の許可を得て寄付行為を変更することが法的に必要であることは事実であり,前記1(8)ウで認定したいわゆる合併問題についての被告の見解や検討経過に照らし,被告の立場の説明として格別不穏当な発言であるということはできない。
(イ) 原告が,前の理事長を誉めた場面に引き続いて,「α町,γかいわいで は,いわゆる高級官僚の方が財団なり公益法人に理事とか,そういう形で常勤するケースでこの3つを用意しなさいというのがありましてね。」「これは非常に常識ですけれども,一つは先ほど言ったハイヤーの送り迎えなんですね。それから,理事長室というか,個室を用意しなさい。それから秘書をつけなさいという,この3つを非常に望まれるというのは,ここは理事長室兼会議室ということで。」と発言する場面は,視聴者に,被告の現理事長であるP4理事長が,被告に対し,ハイヤーのみならず,個室や秘書を用意させているとの印象を与えるものである。しか し,当時,P4理事長がハイヤー代として数百万円の報酬を受けていたこと,このことが新聞紙上で報道され問題視されていたこと,被告の寄付者らからの批判が新聞に投書されていたこと(1(8)イ),原告が直後の発言で理事長室は会議室であることを告げていること(1(8)ア),原告の前記発言の前後がカットされどのような質問に答えた発言か不明であること(乙19の(1)),前の理事長を誉めた場面の直後に原告の前記天下り官僚についての発言が挿入されたのは,番組制作者の編集によるものであること,前の理事長を誉めた場面の発言で「前の理事長は」との発言を「前の理事長も」と言い直し発言していること(1(8)ア)を総合すると,原告が意図的に誤解を与え被告を中傷しようと前記発言をしたとまでは認めるには足りないというべきである。
(ウ) 以上から,原告が,本件番組において,解雇理由16の発言をしたこと は,「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」(就業規程54条6号),「会の名誉を汚し,または職員としての体面を汚したとき」
(同条3号)には該当しない。
(9) 「つどい」について-解雇理由17ないし24
ア 前記1(9)ウのとおり,原告が,指導課長に就任した後,「つどい」の開催について実施案は得られないとして本件事業計画の変更を求める意見を具申したこと(解雇理由17)はこれを認めることができる。しかし,1(9)アないしウのとおり,「つどい」が被告の事業として大規模な催しであったこと,「つどい」に関し5年の空白があり,被告職員の年齢層や日程の遅れについて評議員や理事からも懸念が表明されていたことからすれば,原告がこれらの懸念を指摘して事業計画の変更を求めたことが,業務懈怠であるとはいえないというべきである。
イ 前記1(9)エのとおり,原告が,課長会議において,「『つどい』を指導課として実施できない。」とか,「原告が中心となってやれというのはおかしく,P
7専務理事が中心となるべきである。」旨発言したこと(解雇理由18,19)も認められる。しかし,前記1(9)イないしオで認定した経過に照らせば,原告がこのような発言をしたのは,P8第1次案やP8案の策定に関与しておらず,これらの実現可能性について疑問を感じていたからと認められるし,平成11年6月7日の課長会議では,原告以外の幹部職員らからも,原告が関与せずに決められたP
8案について,「P7専務理事が中心となってやるべきである。」との意見が出され,P7専務理事自身,「自分が中心となって考えたい。」旨発言していることから(1(9)エ),原告の前記発言が,業務懈怠であるとはいえない。
ウ 原告が,課長会議において,本件事業計画に許可がないのでできないと発言したこと(解雇理由20)も認められる。従来,被告の事業計画を実行するには,被告事務局において「許可証」「事前協議許可証」等と呼ばれていた事業計画に対する監督官庁の「差し支えない。」旨の行政指導文書が,法的な要件ではないが事実上必要とされていたこと,P8案や「つどい」に関し,事前協議といわれる行政指導が継続中であり,前記「許可証」が出されていなかったこと,この「許可証」を得ることがその後の課長会議において幹部職員からもP7専務理事に要望されていたことが認められるから(1(9)エ,カ),前記「許可証」を求める原告の発言は,「つどい」を実施した場合にその結果について責任を負う指導課長の立場にある者として格別不合理なものではなく,業務懈怠には当たらないというべきであ る。
エ 原告がP8案について批判的な質問状を提出し,P8案を実施するのではな く,実施可能か検討する旨発言し,実施に批判的な文書を提出したこと(解雇理由
21ないし23)は,前記1(9)エのとおり,認められる。しかし,原告がした
P8案に対する批判は,開催時期と場所に関し安全面で問題があること等を内容とするものであるところ,この批判については,平成11年9月6日,9月28日,
10月14日の各課長会議において幹部職員の多数が賛成し,P8案を変更することを,P4理事長も同意して決裁していたことが認められる(1(9)エ,オ)。したがって,原告の前記各発言や行為が業務懈怠であるということはできないというべきである。
オ 前記1(9)キのとおり,原告は,平成12年3月13日,「つどい」の開催通知の発送作業をしなかったが,感冒により休暇を取得したものと認められるか ら,業務を懈怠したとはいえない。
カ 被告は,原告が「つどい」の反省会において,「1週間あれば準備できる。」旨発言したことをもって,原告が意図的に「つどい」実施を怠業したことの根拠とするが,前記1(9)クのとおり,この発言は,平成11年度の「つどい」の参加者が16名であったことを受けて,この規模であれば短時間で準備できる旨発言したものであるから,原告が意図的に怠業したことの根拠とはならないというべきである。
キ 以上から,解雇理由17ないし24に挙げられた原告の各行為については,
「勤務怠慢で業務に対する誠意のないことが認められたとき」(就業規定54条2号),「業務上,上長の指示命令に従わず,かつ,越権専断の行為をしたとき」
(同条6号)に該当するとはいえない。
(10) 勤務態度について-解雇理由25
前記1(10)アのとおり,原告は,平成12年7月ころから平成13年3月1
5日ころまで,しばしば,就業時間中に居眠り,新聞読み,読書,英会話の勉強を行っていたことが認められる。
他方,指導課の仕事が「0.7人分」とされていたこと(1(10)イ),原告が,英会話の勉強について注意を受けた際や課長会議において,仕事がないことを訴えたが,仕事を与えられなかったこと,被告の専務理事及び事務局長が,原告の読書等を知りつつ,新たな仕事を与えなかったこと(1(10)ウ)からすれば,仕事の適正配分をすべき専務理事及び事務局長が,原告に適正に仕事が配分していたか疑問といわざるを得ず,他方,原告が指導課長に就任した平成11年度から,それ以前の指導課が行えなかった「つどい」並びに奨学生及び保護者との直接相談がいずれも実施され,原告の手によって奨学生及び保護者との相談会が被告の事業として新たに企画されるなどしていたこと(1(10)オ)に照らせば,前記原告の勤務態度があるとしても,原告が,「勤務怠慢で業務に対する誠意のないことが認められたとき」(就業規程54条2号)に当たるとまではいえないというべきである。
(11) チラシのコピーについて-解雇理由26
ア 原告が,被告の事務機器を利用して,被告の業務外の文書を作成したことは前記1(11)のとおりであり,このことは,「不正に会の金品を・・・私用したとき」(就業規程54条8号,12号,20条)に該当する。
他方,「エコ・トンの会」が営利団体であると認めるに足りる証拠はないから,原告が兼職禁止(就業規程54条12号,23条)に違反していたとは認めるには足りない。
イ 原告がした被告事務機器の使用は,被告に損失を与えるものであるが,その態様からすれば,その額は多額であるとはいえず,むしろ軽微であることに照らす と,解雇とするには相当性がないというべきである。
3 処分の相当性
原告が再雇用職員らの勤怠管理を行わなかったこと(2(2)イ-解雇理由2,
3,8,12,14),本件資格喪失届に公印を押印された結果責任(2(5)イ
-解雇理由9),寄付行為に違反する評議員会の表決を理事長に委任する本件委任状書式を送付したこと(2(7)イ-解雇理由15),被告の事務機器を利用して被告の業務外の文書を作成したこと(2(11)イ-解雇理由26)については,括弧内の各項でそれぞれ記載したとおり,仮に懲戒事由に該当するとしても,このことを理由に解雇するのは重きに失して相当性がないというべきである。
4 適正手続違反
被告の就業規程は,「懲戒処分は処分の根拠となる事由について・・・処分決定前に本人に弁明の機会を与えなければならない。」としているが(第2の1
(5)),前記第2の1(7)のとおり,解雇理由1ないし8,10ないし14については,被告は処分決定前に弁明の機会を与えておらず,これらを懲戒事由とす
ることは,手続違反となるというべきである。
5 まとめ
以上から,本件解雇は,懲戒事由となる事実がないか(解雇理由1ないし2
5),仮に,懲戒事由となる事実があるとしても他の者の過失に比較すれば軽微なものか(解雇理由2,3,8,9,12,14,15),被告に与えた損失が軽微であるものであって(解雇理由26),就業規則に定めた懲戒手続を遵守していないものもある(解雇理由1ないし8,10ないし14)から,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認し得ないというべきであって,懲戒権の濫用として無効というべきである。
したがって,その余の点(争点(2)-不当労働行為の成否)について判断するまでもなく,雇用契約上の権利を有することの確認,及び,前記第2の1(8)のとおりと定められた賃金を請求する原告の請求は,いずれも理由がある。
よって,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第19部
裁判官 伊藤由紀子