本稿では,こうした雇用契約をめぐる評価とインセンティブの問題を,関係的契約に関する契約理論の発展を拠り所として検討していきたい。まず最初に,一対の企業と労働者 との雇用関係を想定して,評価とインセンティブとの関連について Baker,Gibbons and Murphy(1994) の簡便なモデルを用いて説明を行う。 とくに,外部で立証可能な成果指標に基づく明示的契約と主観的査定の情報などによる立証不可能な成果指標に基づく暗黙的契約の相互作用を,長期雇用関係のモデルにおいて...
特集●雇用契約を考える
雇用契約の経済理論
─関係的契約,評価およびインセンティブ
xx xx
(大阪大学教授)
本稿では,雇用契約が労働者の誘因管理として果たす役割を,労働者の成果評価と雇用期間との関係において考察する。労働者の努力誘因を適切に管理するためには,労働者の努力の代理変数である成果指標の活用が重要になる。成果指標には,出来高など客観的で立証可能な情報もあれば,上司による主観的な評価という立証不可能な情報も含まれる。これらの異なる成果指標をどのように労働者の雇用契約に導入すべきか? また,これら成果指標の利用は労働者の雇用期間とどのように関わるのか? 本稿では,「関係的契約の理論」の発展を拠りどころにしながら,こうした問題に対していくつか興味深い既存研究の成果を紹介する。長期雇用の場合,立証可能な成果指標に基づく明示的契約と立証不可能な成果指標に基づく暗黙的契約の両方が利用可能になる。その際,明示的契約と暗黙的契約は,労働者の努力誘因管理として,代替的にも補完的にも機能しうることが示される。また,複数労働者を雇用する場合,短期雇用と異なり,長期雇用は労働者相互の協調を促すチーム型の報酬契約が望ましくなることを指摘する。最後に,部下への権限委譲(組織の分権化)は長期雇用の下でより促進されることが明らかにされる。
目 次
Ⅰ はじめに
Ⅱ 評価とインセンティブ
Ⅲ 長期雇用のもとでの評価とインセンティブ
Ⅳ 相対業績評価かチーム評価か?
Ⅴ 長期雇用と権限委譲
Ⅵ 結 論
Ⅰ は じ め に
「雇用」は,今も昔も重要な経済問題の一つである。それは,失業や転職など日常生活の身近な問題として人々の関心を引くばかりでなく,経済学というアカデミックな領域においても重要な研究対象であり続けている。
教科書的なミクロ経済学の説明では,雇用とは企業と家計とが労働サービスを取引することを意
味し,その取引の場が労働市場と呼ばれる。競争的な労働市場では,企業は労働サービスの取引価格(市場賃金)を所与として労働サービスへの需要を決定し,家計は市場賃金を所与として労働サービスへの供給を決定する。そこでは,労働者の雇用を短期や長期と区別する理由は存在しない。なぜなら,労働者は所与の市場賃金で労働サービスを供給するだけであり,特定の企業に多期間にわたり労働サービスを供給することも,毎期異なる企業に労働サービスを供給することも,無差別な決定となるからである。したがって,競争的労働市場における雇用契約とは,匿名的な相手と各々の労働サービスを所定の市場賃金で取引するスポット契約とみなせる。また,労働者も企業も職探しや労働者探しに費用や時間はかからないと想定される。しかしながら,現実には,このような競争的な労働市場モデルでは説明できない
雇用慣行や賃金のしくみが存在していることに多くの経済学者が同意するはずである。事実,競争的労働市場モデルでは上手く説明できない雇用をめぐる現象や制度への関心は,新しい経済モデルの開発を促した。とりわけ,80 年代後半から 90年代前半にかけて日本経済が高いパフォーマンスを示した時期に,その背景にあったいわゆる日本的雇用慣行─長期雇用,年功賃金,内部昇進など─へ関心が高まり,雇用契約をめぐる様々な新しい理論が登場することになった。
90 年代以降の主な理論的関心は,市場均衡として雇用や賃金を描写するのではなく,労働者の誘因管理の側面から企業組織内部における雇用や賃金体系の決定メカニズムを探ることにシフトしたと言える 1)。企業組織においては,生産活動に携わる労働者の活動が十分観察可能でない場合,あるいは,その活動の成果が企業内部の主観的査定に基づくために外部で立証不可能である場合など,労働者へ努力誘因を与えることを困難にする要因が存在している。雇用契約はこうした問題を解決し,労働者に適切な誘因を与える様々な制度的工夫と解釈できる。本稿の目的は,こうしたインセンティブ問題への対処法としての雇用契約について,「評価」と「関係的契約」という二つのキーワードを軸にして,最近の契約理論の視点より整理することにある。
第一のキーワードである「評価」とは,労働者を雇用して賃金を決定する際,その労働者の働き具合をどのように評価するべきか(あるいは,どのように評価できるか)という問題のことである。労働者の成果を評価する指標として,業績や出来高など客観的に測定可能な変数が利用可能である場合,それらの情報を労働者への報酬にどう取り込むかという問題は,労働者への誘因付けを考える際には極めて重要な問題となる。また,客観的な成果指標ではなく,上司による部下の査定などの主観的な評価が利用可能な場合,そのような情報はどのような雇用契約と組み合わせて用いることが望ましいのかという問題も生じうる。主観的な査定など外部に立証できない情報によって労働者の報酬を決定することは,企業側の事後的な報酬切り下げという機会主義的行動を誘発する
可能性がある。労働者の成果測定が主観的であるために,企業は労働者の成果を過少申告して報酬を切り下げようとする誘因をもってしまうのである。したがって,主観的評価を用いる場合には,企業の機会主義的行動を抑制する雇用の仕組みが必要になってくる。それが次に説明する「関係的契約」という概念と関係してくる。
第二のキーワードである「関係的契約」とは,明示的な契約書の作成を通じた取引のガバナンスではなく,長期取引関係を背景にした暗黙の合意に基づく取引のガバナンスのことを意味している。労働者の成果が完全に市場では評価できないような主観的要素を含む場合,労働者に適切な労働のインセンティブを与えるには,競争的市場が想定するようなスポット的取引ではなく,評判の形成などを通じた長期的な雇用が有効になりうる。企業側は,主観的査定によって労働者への報酬を決定する際,その成果を過少申告して報酬の切り下げを行う誘因がある。しかしながら,そのような行為は労働者側の信頼喪失を招くことで長期的な利益を失ってしまう可能性が出てくるからである。よって,長期雇用の下では,主観的な評価による報酬が労働者への動機付けとして機能しうる可能性が開けることになる。その際,労働者の評価として主観的な要素と客観的な要素をどのようにミックスして活用することが長期雇用の下で望ましいのか? とくに,客観的な評価システムの導入は主観的な査定に基づく長期雇用の在り方にプラスの効果を持ちうるのであろうか?
本稿では,こうした雇用契約をめぐる評価とインセンティブの問題を,関係的契約に関する契約理論の発展を拠り所として検討していきたい。まず最初に,一対の企業と労働者との雇用関係を想定して,評価とインセンティブとの関連について Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx(1994) の簡便なモデルを用いて説明を行う。とくに,外部で立証可能な成果指標に基づく明示的契約と主観的査定の情報などによる立証不可能な成果指標に基づく暗黙的契約の相互作用を,長期雇用関係のモデルにおいて考察する。その結果,明示的契約の導入は,暗黙的契約に基づくインセンティブと代替的にも補完的にも作用しうることが示される。
次に,労働者を複数に拡張したモデルにおいて,労働者相互の評価をどのように行うかという問題を考察する。Che and Xxx(2001)によるモデルを紹介して,労働者相互を相対業績によって評価すべきかチーム型の報酬方式によって評価すべきか,という問題を短期雇用と長期雇用との違いによって検討する。それによれば,短期雇用では相対業績評価が有効となるような経済環境においても,長期雇用のもとではチーム型の成果方式が有効になることが示される。また,最近の研究を参照しながら,長期雇用におけるチーム評価方式の機能と問題点について検討を行う。とりわけ,チーム評価の下では,相対業績評価と比べてより高い報酬支払いに企業がコミットする必要があるため,企業が労働者グループへの報酬に自発的に応じる条件がより厳しくなるという指摘を紹介する。
最後に,長期雇用のもとで,報酬などの金銭的インセンティブ以外の動機付けに関する研究を行った Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx(1999) のモデルを紹介する。職務権限の付与は,権限保有者に一定の裁量を与えることで,彼らの努力誘因に影響を与える。とくに,短期雇用と長期雇用という雇用期間の違いが,権限付与の機能に与える効果を明らかにする。それによると,長期雇用関係は,組織ヒエラルヒーの下位層に対する権限委譲へのコミットメントをより促すことが示される。これより,長期雇用は短期的な雇用契約と比べて,部下への権限委譲─分権化─を促進することが示される。
Ⅱ 評価とインセンティブ
一対の企業と労働者との雇用関係を考えてみよう 2)。労働者は努力水準 e ∈[0,1]を投入して仕事の成果 Y を生み出す。この労働者の努力は企業には観察できない。また,成果には 2 種類の可能性があり,それが高い場合には Y =1 となるが,低い場合には Y = 0 になるとしよう。成果の高低は,労働者の努力と外的な確率的な要因によって決定されるとし,Y = 1 となる確率が p(e)
∈[0,1]で与えられているものとしよう。ここで,
話を簡単にするために p(e)=e とし,労働者の努力そのものが高い成果が実現する確率であるとしよう。労働者は,努力投入によって個人的な費用 C(e)=(1/2c)e2 を負担する。ここで c >0 は努力の限界費用を規定する定数である。また,労働者も企業もリスク中立的であり,労働者の外部利得はゼロであるとする。
労働者の仕事の成果 Y を企業は観察できるが,それを外部の第三者に立証するには困難な複雑な要素が含まれているとしよう。これを主観的な成果指標と呼ぶ。その代わり,企業は労働者の努力に関する立証可能なシグナル X ∈{ 0,1 }が観察できるものとする。これを客観的な成果指標と呼ぶ。ここで,指標 X が X = 1 となる確率はηe で与えられ,ηは客観的な成果指標 X が主観的な成果指標 Y からどれほど乖離しているかを表す確率変数であり,平均 E[η]= 1,分散 Va[r η]=σ2 の確率分布を持つとする。この想定の背後には,次のような状況が念頭に置かれている。企業は身近なところで労働者の働きぶりを観察できるので,労働者の仕事の成果をより正確に把握できる。しかしながら,労働者の仕事内容や働きぶりには外部の第三者には理解することが困難な複雑な要素が含まれているため,それを外部で立証することは難しい。これによって,外部の第三者にとって客観的に把握できる成果指標とは,企業が直接観察した成果の情報に何らかの評価誤差ηを追加したものと考えることができる。
短期雇用のもとでは,労働者への賃金は,立証可能な成果指標 X のみに依存する。なぜなら,主観的な成果指標 Y は立証不可能であり,これに応じた賃金払いは履行できないからである。X
= 1 のときのボーナスをβとしよう。これを歩合給と呼ぶ。固定給をαとしたとき,労働者への賃金契約は
w(X)=α+βX (1)
とかける。
ゲームのタイミングは以下のとおりである。最初に,ηが実現する前に企業が労働者に賃金契約 w(X)を提示する。労働者は,この契約を受け入れるかどうか決定する。受け入れたならば,労働
者は客観的な成果指標 X に影響を与える確率項 ηの実現値を観察した後で,自分の努力水準 e ∈
[0,1]を決定する。最後に客観的な成果指標 X が実現して,労働者への賃金が支払われる。
この問題は以下のように解かれる。まず,労働者の努力決定問題を考えてみよう。労働者は,評価誤差ηの実現値を観察した後で努力を決定するので,次の問題を解くことになる。
max α+ηeβ−C(e) (2)
e∈[0,1]
ここで,C(e)=(1/2c)e2 より,最適な努力水準は
e *(β)= cβη (3)
となる。これを労働者の利得に代入して,ηに関する期待値を計算すると
U=Eη[α+βηe*(β)−(1/2c)(e*(β))2]
=Eη[α+(1/2c)(e*(β))2]
=α+(1/2)cβ2E[η2]
=α+(1/2)cβ(2 1+σ2)
となる。企業は労働者の参加制約式
U ≥ 0 (IR)
のもとで,利潤の期待値E [Y−w(X)]=Eη
[e*−α−e*(β)βη]を最大化する。これに U=0を代入してβについて最適化すると,最適な歩合給は
を増大させることになる。この費用増分を労働者に補償しなければ,労働者は賃金契約には応じないので,企業には賃金払いの費用がかさむことになってしまう。この効果を減ずるためには,歩合給部分βを減少させなければならない。そうすることで,労働者が選択する努力は低下し,努力費用のばらつきを小さく出来るからである。
とくに,評価誤差が極端に大きい場合(σ2 →
∞),最適な歩合給β*はゼロに近づく。よって,労働者の成果を客観的に測ることが極めて困難な場合,労働者への最適賃金は固定給に近くなることが分かる。このように,労働者の働きぶりを客観的に評価できるかどうかは,労働者のインセンティブおよび組織の効率性に影響を与えることが分かる。
以下の分析のため,企業が得る最大余剰の期待値を
V*≡Eη[e*(β*)−(1/2c)(e*(β*))2] (5)
−F
と書くことにする。ここで F > 0 は企業の外部利得(留保利得)である。σ2 →∞のとき e *(β*)
→ 0 となるので,V * < 0 となることに注意したい。
Ⅲ 長期雇用のもとでの評価とインセンティブ
本節では,前節のモデルを用いて,長期雇用がインセンティブの問題に与える効果を分析し
β =
* 1
1+σ2
(4)
よう 3)。前節とは異なり,企業と労働者は長期的な雇用関係にあるものと想定しよう。時間は離
と求まる。ここで,評価誤差のばらつきが大きくなると(σ2 が大きくなると),最適な歩合給は低下することに注意したい。その理由は以下のように説明できる。労働者は評価誤差ηの実現値を観察した後で努力水準を決定する。したがって,評価誤差が大きいときには,事後的に選択される労働者の努力水準のばらつきも大きくなる。労働者は,実現した評価誤差に反応して努力を選ぶからである。そのとき,労働者の努力費用が凸の形状を持つことより,努力水準のばらつきの増加は,評価誤差が実現する事前で見た労働者の努力費用
散的で,t = 1,2,……と無限期にわたっているとする。毎期,企業と労働者の雇用関係は外生的なショックで消滅する可能性がある。その確率を 1 −δとする。ここでδ∈[0,1]である。よって,雇用関係は確率δで次期に継続されることになる。δ= 0 とすると,雇用期間は前節の短期雇用のモデルになり,δ→ 1 のとき雇用期間は十分長いものと想定できる。また,企業の留保利得は F > 0,労働者の留保利得はゼロと仮定する。
長期雇用の下では,客観的な成果指標 X に加
えて主観的な成果指標 Y も労働者への誘因付け
に利用することが可能になる。なぜなら,主観的な成果指標はそれ自体は立証不可能であるが,長期的な協調関係を構築することで,企業が主観的な成果に応じた賃金払いを自発的に履行する誘因を持つ可能性が出てくるからである。
以下では,この客観的な成果指標 X を利用することに価値がある場合(σ2 < ∞)と誤差が大きすぎて利用価値がない場合(σ2 →∞)に分けて,労働者のインセンティブにどのような影響があるかを分析する。
場合1.客観的な成果指標 X に利用価値がない
(σ2 →∞)
このとき,客観的な成果指標には価値がないので,もし雇用期間が 1 期間しかない短期雇用の下では(δ= 0),客観的な成果指標 X を用いた契約によって労働者から正の努力水準を引き出すことは出来ない(前節の結果β*→ 0 を思い出してほしい)。また,主観的な成果指標 Y に依存した契約に企業はコミットできないので,労働者が努力を選択した後で,企業は常に賃金支払いの誘因を失ってしまう。よって,これを予想している労働者は決して正の努力を選択しないことになる 4)。しかしながら,長期雇用を考えることで労働者 から正の努力水準を引き出すことが可能な場合が
存在する。労働者への賃金契約を
w(Y)=α+ bY
としよう。ここで,主観的な成果指標 Y のみが契約に利用されている。b は主観的成果指標 Y が Y = 1 となるときのボーナスを表している。しかし,Y は立証不可能であるので,企業が労働者への「暗黙的なボーナス払い」b を自発的に実行する条件─これを「自己拘束条件」と呼ぶ─が必要になってくる。以下それを検討しよう。
仮に,企業が毎期暗黙のボーナス支払い b に応じると労働者が予想しているものとしよう。このとき,労働者は自分の利得α+eb−(1/2c)e2 を最大化する努力 e = (e b)≡ cb を選択する。これと労働者の参加制約 U=α+b(e b)−(1/2c)(e b)2= 0 を企業の利得に代入すると,企業がえる余剰は
V(b)≡(e b)−α−(e b)b−F
=(e b)−(1/2c)(e b)2−F
=cb−(c/2)b2−F
となる。これを最大にする b は b = 1 である。以下では,労働者の参加制約 U = 0 を等号で満たす契約 w(Y)=α+bY を考える。
次に,企業が自発的に暗黙のボーナス支払い bを履行するための条件を考えよう。そのために,次のような「トリガー戦略」を考える。
⃝労働者の戦略:初期には,努力水準 (e b)を選択する。それ以降の期では,過去すべての期で契約 w(Y)が履行されていれば,今期は努力 (e b)を選択する。そうでなければ,雇用関係を解消する。
⃝企業の戦略:初期では,w(Y)を提示して,その契約を履行する。それ以降の期では,過去すべての期で w(Y)が履行されていれば,今期も w(Y)を履行する。さもなくば,雇用関係を解消する。
この戦略の意味は,企業が毎期において契約 w(Y)にしたがって報酬を支払う限り,労働者もそれに応じた最適な努力 (e b)を選択するが,一度でも企業がその報酬支払いから逸脱すると,企業と労働者は雇用関係を解消してそれぞれの留保利得を手にするというものである。もし,ある期に企業がトリガー戦略から逸脱して,Y =1 が実現したにもかかわらずボーナス b を支払わなかったとすると,企業はその期に b だけの利得増加が見込める。しかし,他方で,将来手に入れることが出来た余剰の割引現在価値δV(b)/(1−δ)を失うことになる。よって,δV(b)/(1−δ)≥ b のとき,企業はトリガー戦略から逸脱しない。また,契約 w(Y)のもとで選ばれる最適な努力は (e b)なので,労働者は契約 w(Y)が履行されると予想される限り,最適な努力 (e b)を選択する。
これより,最適な長期契約は,制約条件δV(b)
/(1−δ)≥ b のもとで V(b)を最大化することで求められる。明らかにδが大きいときには,δ V(1)
/(1−δ)≥ 1 となって,V(b)を最大化する最善の努力 e=1 が達成できる。他方で,δが小さくなると,最適な暗黙的ボーナス b はδV(b)/(1−δ)
=b を満たす水準で決定されることになる 5)。この場合には,最善の努力水準 e=1 は達成できずには,過少な努力((e b)< 1)しか遂行できなくなる。その直観的理由は次のとおりである。暗黙的ボーナス b を高めることで労働者の努力を引き上げることが可能である。しかしながら,b を高めると,企業がその支払いに自発的に応じる条件
─「自己拘束条件」─がより厳しくなる。そのため,あまり高いボーナス b の設定が出来なくなってしまうのである。
場合 2.客観的な成果指標 X が利用価値を持つ
(σ2<+∞)
このとき,二通りの可能性が考えられる。一つは,V * > 0((5)式を参照)となり,短期雇用において企業は正の余剰を手にする場合である。二つ目は,V *≤ 0 となり,短期雇用において企業の余剰は正にならない場合である。
前者のxxx(V * > 0)から考えてみよう。客観的な成果指標が利用可能な場合,企業は労働者に客観的及び主観的な成果指標の両方に依存した,次のような契約を提示できる。
w(X,Y)=α+bY+βX
企業が暗黙的ボーナス b を履行してくれると予想していると,労働者は次の問題を解くように努力を決定する。
max α+be+ηβe−(1/2c)e2
e∈[0,1]
これより,最適な努力は (e b,β)≡ (c b+ηβ)となる。これと労働者の参加制約を企業の利得に代入すると
う。ただし,V * > 0 のときは,雇用関係を解消するよりも最適な明示的契約 w=α+β*X を提示することで取引余剰を正にできる。そのため,トリガー戦略の逸脱が生じた後も,雇用関係の解消には至らずに,企業と労働者は交渉の結果として明示的契約を履行することに合意するであろう。よって,逸脱した場合の罰則戦略としては短期契約における均衡を毎期プレイするという戦略を考える。これより,トリガー戦略逸脱後には,企業は短期雇用の下での最適契約β*を提示し,毎期,取引余剰 V *を得ることになる。逸脱からの利得増加は b であるが,その将来損失は δ( V(b,β)−V*)/(1−δ)となる。そこで企業は,自己拘束条件δ(V(b,β)−V*)/(1−δ)≥ b が満たされれば,暗黙的ボーナス b の支払いから逸脱はしない。よって,企業はδ(V(b,β)−V*)≥(1
−δ)b の制約のもとで,V(b,β)を最大化する。ここでも,δが十分大きければ,最善解 b =1 and β= 0 が達成できる。また,δが小さすぎれば,自己拘束条件を満たす b は存在しない。よって,中程度のδの範囲に限定すれば,最適な契約
─明示的ボーナスβと暗黙的ボーナス b ─は次のように求められる。まず,βは V(b,β)− V*を最大化するように決定される。よって,b を所与としてβ**(b)=(1−b)(1/(1+σ2 )と求まる。次に,このβ**(b)をδ(V(b,β)−V*)=(1
−δ)b に代入すれば,企業の自己拘束条件が等式で成立する場合の最適な暗黙的ボーナス b **が求まることになる。詳細は Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx の原論文に譲るとして,結果だけ述べると,
∂b**/∂σ2 >0
V(b,β)≡Eη[(e b,β)−(1/2c)(e b,β)2]−F
=(c b+β)−(c/2)(b2+2bβ
+β(2 1+σ2))−F
をえる。以下では,V(b,β)の余剰を企業にもたらす契約 w(X,Y)=α+bY+βX が履行される条件を考える。
これまで同様に,企業が毎期において契約
w(X,Y)に従うようなトリガー戦略均衡を考えよ
が確認できる。ここで,評価誤差σ2 の減少は最適な暗黙的ボーナス b**を減少させ,明示的ボーナスβ**(b**)を増加させることがわかる。すなわち,客観的な成果指標の評価誤差が小さくなれば,最適契約は暗黙的ボーナスから明示的ボーナスへシフトすることが分かる。これは,明示的なボーナスと暗黙的ボーナスとの利用が代替的に機能していることを示唆している。その理由は,次のように説明できる。評価誤差の減少によって,
短期雇用のもとでの企業余剰 V *は増加する。よって,企業が暗黙のボーナス支払いを遵守する自己拘束条件はより満たしにくくなる。これによって,暗黙のボーナスの利用は減少することになるのである。
次に,V *≤ 0 の場合を考えてみよう。この場合,短期雇用の下では企業は生産を実行しない。このとき,1 回限りのゲームの均衡における取引余剰はマイナスになるからである。そこで,雇用関係解消による留保利得= F を企業にもたらすようなトリガー戦略を考えれば,企業の自己拘束条件はδV(b,β)≥(1−δ)b となる。この条件のもとで,V(b,β)を最大化する(b,β)が最適契約となる。このとき,中程度なδの範囲では,最適な暗黙的ボーナス b** は
∂b**/∂σ2 < 0
となることが分かる(Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx
(1994) の(20)式を参照)。ここで,評価誤差σ2の減少は暗黙的ボーナス b**の増加をさせることになる。これは,先ほどとは逆の結果である。また,xx**/∂σ2 の符号は確定しないが,∂β**
/∂σ2 < 0 の可能性も出てくる。つまり,明示的ボーナスと暗黙的ボーナスとが補完的に機能しあうこともありうる。その理由は次のように考えられる。評価誤差の減少は明示的ボーナスの利用価値を高める。しかしながら,V*< 0 の範囲では,これは,雇用関係解消による企業の利得を増加させることにはつながらない。他方で,β =0 から β > 0 に増加させることで,労働者の努力誘因が改善するので,企業の利得 V(b*,β)は V(b*,0)から増加する。よって,自己拘束条件δV(b*, β)≥(1−δ)b*はβ= 0 のときのそれ─δV(b
*,0)=(1−δ)b*─と比べて緩めることが可能
になる。これによって,暗黙的ボーナス b は明示的ボーナスが利用できないときの最適値 b *から引き上げることが可能になる。これが労働者の努力誘因を改善して,企業の利得を高めることに貢献することになるのである。
以上,長期雇用の下では,短期雇用では利用できない主観的な成果指標に基づいた報酬契約を作ることで,労働者の動機付けに役立てることが可
能となる。しかし,客観的な成果指標と主観的な成果指標の複数の指標が利用可能である時,それらをどのように組み合わせて労働者の誘因づけに利用するかには注意が必要であることを示唆している。客観的な成果指標に基づく明示的契約の導入は,かえって暗黙的インセンティブの機能にマイナスに働く場合が考えられるからである 6)。
1 暗黙の合意としての長期雇用:留意点
ここでは,これまでの分析についていくつかの留意点を補足したい。
第一に,Baker,Xxxxxxx and Xxxxxx(1994)をはじめとして,労働者のモラルハザード問題に焦点を当てた関係的契約の多くのモデルでは,労働者への誘因付けとしてボーナスによる業績給が利用される。他方で,長期雇用における労働者への規律付けとしては,業績が一定水準以上を下回らない限り雇用を継続して固定賃金を払うが,業績が基準を下回った時には雇用関係の打ち切り(解雇)によって応じるという契約─「効率賃金」と呼ばれる─も,考えることが出来る。xxxxによる誘因ではなく解雇によって労働者にインセンティブを与えるというのである 7)。長期雇用における労働者の動機付けの方法としてどのような時にボーナスが活用され,どのような場合には解雇が利用されるのかを検証することは,雇用契約のマクロ経済的含意を理解するうえで重要な意味を持つ 8)。というのは,解雇による誘因付けという効率賃金が機能するためには,失業が存在しなければならないが,業績給の場合には失業による脅威は労働者への誘因付けとして必要ないからである。よって,効率賃金と業績給のどちらに雇用契約が依拠するかは,失業の発生というマクロ的問題ともリンクしてくる重要な問題となる。
第二に,雇用関係の継続確率δが経済環境の悪化によって低下する場合,暗黙の合意による長期雇用のメリットも低下することに注意したい。したがって,雇用を取り巻く外的環境の変化は雇用契約の内容に自明でない影響をもたらすことが予想される。Moriguchi(2003)によれば,大恐慌を経た 1930 年代の不況の影響が,暗黙的契約を
活用する日本型システムと明示的な契約に依拠するアメリカ型システムの分岐を生み出したとされる。1920 年代までは,日本と米国の企業ともに,労働者には契約で定められた賃金以外の様々な福祉的便益(保険,住宅補助,医療補助など)や雇用保障が暗黙的な約束として遵守されていた。しかしながら,1930 年代の大不況の影響が米国により深刻に働いたため,米国企業では労働者との暗黙の合意を遵守する誘因が薄れて明示的契約の履行へとシフトした一方,日本企業においては不況の影響が相対的に小さかったため,暗黙的契約を維持する誘因が残り,戦後の日本企業システムを特徴づけるような長期雇用が継続したというのである。このように,経済環境の変化によって,企業や労働者が将来の暗黙的契約が遵守される見通しについて予想を変更すると,それまでの雇用契約が揺らぎ,新しい雇用契約へとシフトする可能性が示唆されるのである。
Ⅳ 相対業績評価かチーム評価か?
1 チーム評価の有効性
労働者への報酬は,労働者個人の仕事の成果のみならず,他の労働者の成果に依存する場合が考えられる。たとえば,同僚の業績との相対的な比較によって,報酬の一部が決定される場合が考えられる。また,複数の労働者を一つのチームとしてまとめ上げて,そのチーム全体の業績に応じた報酬を与えるということも考えられる。前者は,労働者相互の競争を促すうえで有効であり,後者は労働者相互の協調を促すうえで有効であると考えられる。では,どのような雇用環境であれば,相対業績評価が最適となり,また,チーム評価が最適となるのか? 本節では,短期雇用と長期雇用の違いが,こうした複数労働者の評価体系に与える効果を見ていくことにする。
これまでの議論とは異なり,2 人の労働者(Aと B)を雇用するとしよう 9)。各労働者は努力水準 ei ∈{ 0,1 }を選択する。ここで,高い努力を選択する費用を e > 0 とする。その客観的な成果指標は yi ∈{0,1}で表されているものとする。ま
た,yi = 1 となる確率はσ+(1−σ)(q ei)で与えられる。ここでσ > 0 は労働者相互の成果に影響を与える共通の外生的要因を表現している。また,yi = 0 となる確率は(1−σ)(1−q(ei )で与えられる。
まず,短期雇用の契約を考えてみよう。労働者 i の賃金を,wij ≡ w(xx,yj)と表記する。ここで,同僚の成果 yj にも賃金が依存していることに注意してほしい。賃金水準の組み合わせは,w≡
{ w11,w00,w10,w01 }の 4 通りが考えられる。これを踏まえて,努力 ek を選択する労働者 k = A,Bの期待賃金は
π(xx,e;l w)≡(σ+(1−σ)qkql)w11
+(1−σ)[q(k 1−ql)w10+(1−qk)qlw01
+(1−qk)(1−ql)w00],k,l=A,B,k≠l
とかける。ここで qk=q(ek),ql=q(el)である。 労働者の賃金契約として,次の区別が重要とな
る。同僚の成果が上昇した時に自分の賃金が減少する場合,すなわち wi0 < wi1 である場合,これを相対業績評価と呼び,そのような賃金契約を wR と表記する。他方で,同僚の成果の上昇が自分の賃金を増加させる場合,すなわち,wi1 > wi0の場合,これをチーム評価ないし共同成果評価と呼ぶことする。また,このような賃金契約を wJと表記する。では,どのような時に,相対業績やチーム評価が最適な契約になるであろうか?
いま,企業が両労働者から高い努力を引き出すことを考えているとしよう。このとき,企業は次の問題を解くことになる。
min π(1,1;w) subject to w ≥ 0 and
π(1,1;w)−e≥π(0,1;w) (ICS)
この最適契約は,w10 > w11=w00=w01=0 という特徴をもつことが分かる。つまり,同僚の成果が低い時により高い報酬を与えるという内容である。これは,まさに相対業績評価の特徴を有している。労働者相互の成果を相対的に評価することで,労働者共通に働く確率的ショックの影響を除去することができるのである。
次に,2 人の労働者が長期間にわたり雇用される場合を考えよう。前節同様に,時間は離散的であり,両労働者と企業との雇用関係は確率δ∈
[0,1]で次期に継続されるものとする。企業は最初の期に賃金契約w を2 人の労働者に提示する。この契約は雇用関係が継続される限り,毎期にわたり履行されるものとする。この賃金契約を所与として,各労働者は毎期努力を決定する。ここで,短期雇用とは異なり,労働者は相互に自分たちの選択した過去の努力が観察できると想定しよう。ただし,企業には労働者の努力は観察不可能である。また,労働者相互では互いの努力水準が観察できるが,それを第三者に立証することは困難であるものとする。
以上の設定の下で,どのような契約が最適になるか検討しよう。Che and Xxx(2001)は,雇用継続の確率δがある程度大きいときに,最適な賃金契約は相対業績評価ではなく,チーム評価になることを示した。
いま,チーム評価の賃金契約 wJ を想定して,労働者が毎期高い努力を選択することが部分ゲーム完全均衡となるような,労働者たちの次のようなトリガー戦略を考えよう。
⃝労働者 k は,初期には高い努力 ek =1 を選択する。
⃝それ以降の期では,過去に一度でも高い努力ペア以外の努力ペア(eA,eB)≠(1,1)が観察されたならば,低い努力 ek = 0 を選択する。
もしこの戦略から逸脱しなければ,労働者は π(1,1;wJ)−e
の利得を毎期得る。他方で,逸脱して低い努力を選択すれば,今期の利得はπ(0,1;wJ)になり,来期以降は毎期π(0,0;wJ)の利得に直面することになる。実際,チーム評価の契約の場合,逸脱後の部分ゲームでは,各労働者は同僚の戦略 ej= 0 を所与として,自分も ei=0 を選択することがナッシュ均衡となる。これはπ(0,0;wJ)≥π(1, 0;wJ)−e から確かめられる。チーム評価の場合,同僚と自分の努力が補完的になるので,同僚が怠ける場合には自分も怠ける誘因が働くからである。よって,次の条件が満たされるとき,各労働者
は高い努力を選択する戦略から逸脱する誘因を持たない。
π(1,1;wJ)−e ≥(1−δ)π(0,1;wJ)
+δπ(0,0;wJ)
一方,企業が相対業績評価の報酬 wR を提示する場合を考えよう。この場合, π(0,1;wR)<π
(0,0;wR)が成り立つ。よって,各労働者は低い努力を選択することで最低でもπ(0,1;wR)の期待賃金を手に入れられるので,各労働者が高い努力から逸脱しないためには,次の条件が必要になる。
π(1,1;wR)−e ≥(1−δ)π(0,1;wR)
+δπ(0,1;wR)=π(0,1;wR)
これは短期雇用の下での誘因条件(ICS)と同じであることに注意したい。すなわち,長期雇用になっても,労働者の努力を引き出す条件を短期雇用と比べて緩めることは出来ないというのである。したがって,相対業績評価の下では,長期雇用は短期雇用と比べて労働者の誘因付けに関して追加的な利益をもたらさないと言える。
以上より,長期雇用の下では,チーム評価は相対業績評価よりも労働者から高い努力をより安い費用で達成できる可能性があることが分かる。とくに,雇用継続の確率δが大きい時には,チーム評価のもとでの誘因条件は満たしやすくなり,企業はより低い賃金費用で両労働者から高い努力を遂行できることになる。その理由は次のように考えられる。チーム評価の場合,相手が怠けるときには,自分も怠ける誘因が働く。そのため,両労働者が怠けるというナッシュ均衡が存在する。しかも,このナッシュ均衡は,チーム評価の下では,両労働者が高い努力を選択する場合と比べて,両者により低い利得をもたらすことが分かる。このように,労働者の努力選択を補完的に機能させることで,チーム評価は高い努力からの逸脱に対してより強い罰則を同僚に科すことが可能になる。これが高い努力からの逸脱を防ぐことにつながると考えられる。
この分析は,労働者相互の業績評価の在り方が,短期雇用か長期雇用かによって大きく異なる
ことを示している。短期雇用の下では,労働者相互の共通の確率ショックを除去するために相対業績評価が有効である一方で,長期雇用の下では労働者から協調を促すためにチーム評価を導入することが望ましいことを示している 10)。
2 長期雇用のもとでのチーム評価の役割
以上,長期雇用においては複数労働者にチーム評価を導入することで,企業は労働者相互の協調を促すことに成功することを見てきた。ここでは,長期雇用の下で生じるチーム評価の機能と問題点について,最近の研究に依拠しながら補足を行いたい。
まず第一に,チームとしての成果が高い場合にはすべての労働者に高い賃金で報いなければならないため,相対業績評価と比べて,労働者すべてにより高い賃金支払いを行う状況が生じる。Che and Xxx(2001)のモデルのように,労働者の成果が立証可能な指標であれば問題はないが,前節のモデルのように,労働者の成果指標が立証不可能である場合には,企業側はより高い賃金払いにコミットすることが困難になる。Xxxxxx and Xxxxx(2006)は,この点を指摘し,企業の自発的なボーナス払いの条件を考慮するときには,チーム評価の有効性が低下する可能性を検討している。
また,Xxxxxxxxx and Xxxxxxxxxxx(2011)も,長期雇用の下でのチーム評価の導入の費用を検討している。チーム評価の有効性には,前述の労働者相互の協調を促すということ以外に,同じ労働者が複数の仕事を同時にこなす際に生じるインセンティブ上の問題─「マルチタスク問題」と呼ばれる─を緩和する機能が指摘されてきた
(Corts 2007)。これは,次のような問題である。同じ労働者が複数の職務を同時にこなすとき,それら複数の職務に関する個別の成果指標が完全に利用可能でない場合,より成果に応じた報酬を支払ってくれる職務へ過度な努力を投入して,そうでない他の職務への努力が低下するという問題である。このようなときに,職務の垣根を取り払って,複数の労働者に職務を跨いだ成果に応じて報酬を支払うというチーム評価を導入すると,こう
したマルチタスク問題は緩和できるというのであ る。Xxxxxxxxx and Xxxxxxxxxxx は,このようなチーム評価がマルチタスク問題を軽減するという効果を,職務の成果指標が立証不可能な状況に拡張して考察した。成果指標が立証できないときに,長期雇用が有効であることはすでに見た。しかしながら,Xxxxxxxxx and Xxxxxxxxxxx は,チーム評価では職務を跨いで働く労働者全体により多くのボーナス払いが必要となることを指摘して,成果指標が立証不可能な状況では,そのような多くのボーナス払いに企業が自発的にコミットすることが難しくなることを明らかにした。したがって,職務の成果指標が立証できない場合には,仮に長期雇用を活用して労働者の動機付けにある程度成功できるにしても,チーム評価は最適にならない可能性があることが明らかにされた。第二に,チーム全体の成果に報酬が依拠する場 合,他の労働者の努力にただ乗りしようという,チーム生産特有の問題─「フリーライダー問題」と呼ばれる─が知られている(Holmström 1982)。仮に,個々の労働者のチーム生産への貢献度を示す成果指標が観察できたとしても,それが立証不可能な情報であれば,個々の労働者への報酬には利用できない。そこで,Xxxx(2007)は,個別労働者の貢献度を示す立証不可能な指標に応じた暗黙的契約が,チーム生産の下で履行可能になる条件を検討した。立証可能な情報はチーム全体の収益だけであり,個別労働者の貢献度は立証できない。そのとき,個々の労働者への報酬としては,チーム全体の収益を労働者相互で分配する明示的な報酬と立証不可能な個別指標に応じた暗黙の報酬の二つが考えられうる。前者は法的に履行可能であるが,後者は当事者間のやり取りが自発的に履行されなければならない。したがって,後者の暗黙のボーナス払いの額があまり大きいと,支払いの当事者は自発的な支払いを拒否するインセンティブを強くもつようになる。これより,暗黙のボーナス支払いは小さければ小さいほど長期雇用の下で自発的に履行しやすい。よって,同じ努力水準を引き出すのに暗黙的ボーナスを多く必要とする労働者には,履行の容易な明示的報酬の割合を高めることでインセンティブを代
替することが最適になる。したがって,チームのなかには,チーム生産の収益のすべてを受け取る一方で暗黙的ボーナスを受け取らない個人とチーム生産の収益は受け取らない一方で暗黙のボーナス払いを受け取る個人が現れることになる。このように,複数労働者との長期雇用契約を考える際には,どの労働者に明示的な契約による動機付けを強く与え,どの労働者に暗黙的な契約によるインセンティブを強く与えるべきか,という問題が重要になってくることが明らかにされている。
Ⅴ 長期雇用と権限委譲
これまでは,労働者への努力インセンティブとして賃金契約という金銭的誘因に焦点を当ててきた。しかしながら,労働者は報酬などの金銭的誘因のみならず与えられる権限など非金銭的な誘因にも反応すると考えられる。仕事を遂行する上でより多くの権限を付与された労働者は,仕事へのより高い動機づけを持つかもしれない。しかしながら,労働者に意思決定の権限を委譲することに,労働者と同じ利害を必ずしも持たない企業ヒエラルヒーの上位層はためらう可能性が高い。多くの仕事上の権限を労働者に委譲すると言っても,企業が事後的にその決定を覆す誘因が存在するかもしれない。もしそのようなことになれば,組織内の意思決定権限はヒエラルヒー上位層に集中することになるであろう。どのようなときに,労働者に多くの権限が委譲され,どのようなときに上位層に集中するのか? こうした問題を考えるうえで,企業と労働者との雇用関係のスパンが重要になってくる。
以下では,Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx(1999)の簡単なモデルを紹介して,この点を調べてみることにする。部下は潜在的なプロジェクトについて,それが自分と上司にとって有益なものかどうかを探索する仕事についているとする。部下は,探索活動によって,プロジェクトが彼らにどのような私的利益をもたらすかを発見する。部下の私的利益は Xff > 0 > XL の二つがありえて,上司の私的利益は Yff > 0 > YL の二つがあり得る。
なる確率を a とする。また,部下の私的利益が正の時,上司の私的利益も正になる条件付き確率を P(r Yff│Xff)=p∈(0,1)とする。ここで,確率 pは上司と部下の利害対立を表すパラメータと解釈できる。また,部下と上司の私的利益はすべて立証不可能な変数であるとする。よって,これらに応じた賃金払いは不可能である。また,部下は探索活動の費用 (c a)を私的に負担する。
ゲームのタイミングは以下のとおりである。まず,部下が探索活動を行い,プロジェクトの価値を見出す。もし,プロジェクトの価値が XL <0 ならば部下はプロジェクトを推奨しない。プロジェクトの価値が Xff > 0 であったとき,部下はこれを上司に推奨する。上司はこれを受けて,自分の価値が Yff か YL かを観察する 11)。
最初に,短期雇用の場合を考察する。すなわち,上司と部下とのインタラクションは一回きりである。このとき,二つの場合を考える。第一に,最終的な決定権限が上司にあり,上司は YLの価値をもたらすプロジェクトは実行しない場合である。これを,上司に権限があるという意味で「集権化」と呼ぼう。第二に,上司は部下に意思決定の権限を委譲し,推奨されるすべての案を実行することにコミットできる場合である。これは,権限委譲に関する契約が可能であることを意味する。これを,部下へ権限委譲が形式上の契約を通じて可能であるという意味で,「形式的権限委譲」と呼ぼう。このような権限委譲へのコミットメントが出来ない場合については,後で考察する。
第一の場合(集権化)を考察しよう。上司は YL
ff
の価値をもたらすプロジェクト案は拒否する。これを予想している部下は,Xff かつ Yff であるプロジェクトだけを受け入れてもらえる。これが実現する確率は P(r Xff)P(r Yff│Xff)=ap となるので,部下の期待利得は paXff−(c a)となる。これを最大化する努力水準は c′(aC)=pX を満たす。これを使って,上司と部下の合計利得を計算すると,
ff ff
VC≡aCp(X +Y )−(c aC)
部下の探索努力を a ∈[0,1]として,X=Xff と となる。
ff
次に,「形式的権限委譲」の場合を考察しよう。このとき,部下はすべてのプロジェクトを受け入れてもらえるので,(Xff,Yff)および(Xff,YL)の価値をもたらすプロジェクトを推奨する。よって,部下の期待利得は aXff−(c a)となる。これを最大化する努力は c′(aD)=X を満たす。これを上司と部下の全体利得に代入して,
VD≡ aDp(X +Y )+a(D 1−p)(X +Y )
て部下の提案に上司がすべて従っていれば,今期も上司は部下の提案を承諾し,部下は Xff の利得をもたらすプロジェクトを上司に提案する。これ以外の行動が過去に観察されたならば,1 回限りのゲームのナッシュ均衡─部下は(Xff, Yff)の利益をもたらすプロジェクトのみ提案し,上司はその提案のみ受け入れる─をプレイする。上司は,この戦略から逸脱して,部下の提案である
ff ff
ff L
(X , Y )の価値をもたらすプロジェクトを拒否
−(c aD)
をえる。VC と VD のどちらが大きくなるかは,モデルのパラメータに依存する。とくに,上司にとっては権限を部下に委譲することで,自分には望ましくない価値をもたらす場合でもプロジェクトが遂行されてしまう。この費用は−YL で測られる。この費用が大きいほど,集権化が望ましくなる。他方で,権限委譲のメリットは,aD > aCより,部下がより高い努力を投入するインセンティブを持つことである。これは,自分にとって有利なプロジェクト案を自分で実行できる権限を持つことで,探索活動により力を入れることになるからである。
これまでは,上司が部下へ意思決定権限を委譲
ff L
L
ff L ff
したとしよう。このとき,今期の利得はゼロになり,−Y > 0 の損失を回避できる。ここでπD≡ aDpY +a(D 1−p)Y およびπC≡aCpY を,それ ぞれ権限委譲の下と集権化の下における,上司の一期当たりの利得としよう。そのとき,上司は部下の提案を拒否すると,将来にわたり利得πD− πC を失う。よって,
L
δ{πD−πC }≥(1−δ)(−Y )
ならば,上司は部下の提案に従う誘因を持つ。ここで,δ∈(0,1)は,前節と同様に,雇用関係が次の期に継続する外生的な確率を表している。また,aD の定義および p < 1 より,
aDX −(c aD)≥ aCpX −(c aC)
することにコミット出来ると仮定してきた。しか ff ff
しながら,権限委譲が契約不可能である場合,これは実現できない。なぜなら,上司は YL をもたらすプロジェクトを事後的に拒否したくなるからである。これを予想している部下は,事前には高い努力を投入する誘因を失ってしまうであろう。しかしながら,上司と部下との関係が長期に及ぶような長期雇用関係を想定した場合には,自発的に上司が部下に権限を委譲する誘因が出てくる。これを「非公式的権限委譲」と呼ぼう。前節のモデル同様,時間は離散的で,t = 0,1,2,……と無限期まで継続する長期雇用モデルを考察しよう。
いま,VD > VC を仮定する。すなわち,組織全体としては,部下に権限を委譲することが望ましい。しかしながら,上司が権限委譲にコミットできなければ,これは実現することはできない。
そこで,上司と部下が以下のようなトリガー戦略を取る均衡を考えよう。過去すべての期におい
となる。これら二つの不等式を合計すれば
L
VD−VC ≥((1−δ)/δ)(−Y )
L
をえる。これは VD > VC を意味する。つまり,権限委譲が組織全体にとって望ましいことが必要である。しかし,これだけでは非公式な権限委譲は実行できない。上司が裏切って権限を部下から取り上げてしまう誘因が存在するからである。これを阻止するためには,権限委譲による組織余剰 VD−VC は上司の裏切りによる利得増加(1−δ)/ δ)(−YL)を超過しなければならない。したがって,モデルのパラメータによっては,(1−δ)/ δ)(−Y )> VD−VC > 0 となることがありうる。つまり,効率性の観点からは,部下に権限を委譲することが望ましいにもかかわらず,それが実行できない場合がありうるのである。
以上から得られる重要な含意の一つとして,長期雇用の下では短期雇用と比べて,企業ヒエラル
ヒーの上位層から下位層への権限委譲がより進むことが示唆される。また,Ⅲの分析と合わせることで次のような問いも検討できるかもしれない。客観的な成果指標を用いた明示的報酬と非公式権限が利用可能な場合,双方は互いの利用を促進するであろうか? すなわち,長期雇用の下で,明示的な成果指標による賃金契約の利用は,非公式権限の委譲と補完的な役割を果たすであろうか,それとも代替的な役割を果たすであろうか? 短期雇用の下では,非公式権限の委譲へはコミットできない。よって,この場合には,明示的な報酬契約による動機付けに頼る以外はないので,意思決定権限の集権化と明示的誘因とがセットとして選択されやすくなる。他方で,長期雇用の下では,権限委譲へのコミットメントが容易になるため,権限の付与を通じた動機付けを利用することが可能になる。明示的賃金契約は,暗黙的ボーナスへ与えた影響と同様に,権限委譲の自己拘束条件を強める方向にも弱める方向にも作用する可能性がある。よって,権限委譲が進むと同時に明示的報酬契約の役割が低下する場合も増加する場合もありうることになる。つまり,「分権化」と明示的契約とがセットになる場合と「分権化」と明示的契約への依存度低下がセットになる場合が考えられる。
Ⅵ 結 論
本稿では,雇用関係の長さが,評価体系や権限体系の変化を通じて労働者のインセンティブに与える影響を,契約の経済理論の視点より整理をしてきた。いくつかのこれまでの理論研究によると,次のようなことが分かった。1)短期雇用では,客観的な成果指標に基づく誘因体系に頼らざるを得ない。また,共通の生産ショックに直面している複数労働者には,競争を促す相対業績評価が有効である。さらに,労働者への決定権限を委譲することは難しく,組織は集権化する。2)長期雇用の下では,主観的な成果指標に基づく暗黙的な賃金支払いが可能になり,これが明示的な賃金契約と補完的にも代替的にも作用しうる。また,複数の労働者への誘因付けとして,長期雇
用のもとでは,相対業績によって競争を促すよりも,チーム評価方式を導入することで協調を促すことが望ましくなる。また,組織内で上司から部下への権限委譲の履行を容易にできるため,組織の分権化が促進される傾向がある。
以上見たように,労働者と企業との雇用期間の長さは,労働者の成果をどのように評価するか,また,複数労働者の相互の処遇をどう決定するか,部下に権限をどの程度委譲すべきか(あるいは,できるか)といった問題を通じて,労働者の誘因に影響を与えることが分かった。
最後に,ここで紹介した研究では十分検討されて来なかった問題についてふれて本稿の結論としたい。これまでの研究では,雇用関係にある当該企業と労働者相互の戦略的作用の問題に焦点を当てて,評価体系や権限体系がもたらす効果を調べている。そこでは,こうした当該企業─労働者関係の外部の市場環境はすべて外生的に扱われている。しかしながら,雇用関係の長期化が進めば,労働者の企業間移動は減少し,労働市場の流動性は低下する。このような市場の変化は,雇用関係の在り方にもフィードバックしてくるであろう。また,労働市場の流動性の低下は,新規企業の参入や既存企業の退出という市場の新陳代謝に影響を与えることで,マクロ経済全体にも何らかの波及効果をもたらすことが考えられる。暗黙的ボーナスなどの,明示的契約によらない誘因体系の効率性は,したがって,市場環境が比較的安定している場合や市場規模が小さい場合など,大きなイノベーションを必要としない状況に依拠しているのかもしれない。よりイノベーションが必要とされるような市場環境や経済発展が進んだ段階などでは,新規参入や退出による資源の再配分を促すような,より流動的な雇用関係へシフトしてくるのかもしれない。こうした,市場環境と長期的雇用関係との相互作用を捉える研究が,今後ますます重要になってくるものと思われる 12)。
1) これは,必ずしもすべてのモデルが市場の役割を軽視しているわけではない。実際,サーチ理論の発展は,雇用関係の内部論理と労働市場の摩擦をうまくモデルに取り込むことに成功している。
2) 以 下 の モ デ ル は,Xxxxx(1992),Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx(1994)を参考にしている。
3) 本節のモデルは,Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx(1994)に基づいている。長期雇用などの関係的契約のモデル分析としては,古くは XxxXxxx and Xxxxxxxxx(1989,1998), Xxxxxx and Xxxxxxxxx(1998),Xxxxxxx and Xxxxxxxx(1994)などがある。また,より一般的な環境における関係的契約の特徴づけを行った最近の研究として,Xxxxx(2003)が挙げられる。
4) ただし,企業の支払額と労働者の受取額の一致を要求する収支均等条件を緩和した場合には,短期契約でも労働者に努力誘因を与えることが出来る可能性がある。それは,次のような契約である。企業は労働者の成果にかかわらず常に一定の支出を行う。労働者への報酬は成果によって変動する。したがって,企業の支出額と労働者の受取額の差はゼロではなく,その差に相当する額は「捨てられる」ことになる。企業の支払いは一定なので,仮に労働者の仕事の成果が立証不可能であったあったとしても,企業側には成果情報を虚位に申告する誘因は存在しない(MacLeod 2003)。以下の分析では,収支均等条件を課して,このようなケースは考えないことにする。
5) ただし,あまりδ が小さい時には,すべての b ≥ 0 に対
してδV(b)/(1−δ)< b となって制約式を満たす b ≥ 0 は存在しなくなる。
6) 明示的契約と暗黙の契約の相互作用を扱った関連研究として,Xxxxxx and Xxxxxxxxxx(1998) および Xxxxxxx and Xxxxxxxx(1995)も参照せよ。Xxxxxxx and Xxxxxxxx(1995)では,明示的契約作成の費用を導入して,その費用があまり低い時には,自己拘束条件が満たされなくなり,暗黙的ボーナスが活用できなくなることが示された。
7) 効率賃金に関する実証的証左については,Xxxxxxx and Xxxxxxx(1988)を参照。
8) 効率賃金モデルの古典については,Xxxxxxx and Xxxxxxxx
(1984)を参照せよ。より最近の研究では,企業側が労働者の仕事の成果に関する情報を私的に得る場合に,効率賃金が最適な契約になる可能性が指摘された(Fuchs 2007)。他方で,Maestri(2012)は,Xxxxx のモデルを拡張して,企業側が私的に労働者の成果を観察するだけでなく,労働者も企業側の私的情報と相関するシグナルを獲得できる場合を考察した。その結果,割引因子が十分大きい時には,暗黙的ボーナスを活用する関係的契約は効率性を近似できるのに対し,効率賃金には必ず非効率性が伴うことが示された。また, XxxXxxx and Xxxxxxxxx(1998)も,長期雇用関係において,効率賃金と業績給のそれぞれが均衡になる条件を検討している。
9) 以下の分析は,Xxx and Xxx(2001)に基づく。
10) また,長期雇用の下で相対業績評価を利用することのデメリットとして,労働者相互の結託による低い努力選択を促してしまうことが考えられる。相対業績のもとでは,労働者は互いに努力するよりも,互いに怠けることで双方に利得をもたらす。よって,互いに怠ける行動が,長期関係の下で均衡としてサポートされてしまう危険があるのである。
11) Xxxxx,Xxxxxxx and Xxxxxx(1999)は上司が自分の価値を観察できない場合も考察しているが,ここでは扱わない。
12) 雇用関係ではないが,貸借関係について,暗黙的な契約と明示的な契約とがどのように経済発展のなかで作用しあうかを研究した論文として,Ishiguro(2012)がある。
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いしぐろ・しんご 大阪大学大学院経済学研究科教授。最近の主な著作に “Contracts, Search, and Organizational Diversity,” European Economic Review, 54, 678-691, 2010. 契約の経済理論専攻。