Crumbs 事件. Crumbs 事件は,衡平上の理念に基づき,商標ライセンス契約のライセンシーにライセンス契約上の権利の存続を認める見解(Equitable Approach)を採用した事件である。Crumbs Bake Shop, Inc.( 以下, 「Crumbs 社」という)はカップケーキ・焼き菓子・飲料などの小売りを手掛ける会社であり,それらの商標として “Crumbs” を有していた。Crumbs 社は当該商標権のライセンスに関する契約を Brand Squared Licensing, LLC( 以下,「BSL 社」という)との間で締結したが,2014 年には倒産法 11 章に基づく倒産手続き開始の申立てを行った。 その後, Crumbs 社はその資産の大部分を Lemonis Fischer Acquisition, LLC(以下,「LFAC 社」という)に売却する旨の申立てを行い,その申立てに関する裁判所の承認を得るとともに,365(a)条に基づき,BSL社との商標ライセンス契約の履行を拒絶したため,本論点の解決が必要となった。 この点,ニュージャージー州地区倒産裁判所は, Exide Technologies 事件(30)におけるAmbro 裁判官の補足意見に依拠し,衡平上の理念から,商標ライセンス権を 365(n)条の保護の対象から除くべきではないとした(31)。Ambro 裁判官の補足意見の要旨は次のとおりである。「365(a)条に基づくライセンサーによるライセンス契約の履行拒絶は,当該ライセンス契約のもとライセンシーの有する商標ライセンス権の喪失を必然とするものではない。Rejection as Rescission Approach は,365(n)条の制定に際する連邦議会の記録などからうかがえる結論ではない。むしろ,裁判所はその衡平上の理念に基づいた取り扱いによって,倒産手続きを通じた債務者の新たなスタートとともに,ライセンシーが正当に保有する商標ライセンス権をも確保すべきなのである。」 これに対して,LFAC 社は,本件商標権などについては債務者から善意の第三者たる LFAC 社に向けた売却が決定しており,そのような場合に衡平上の理念を持ち出すことは妥当でないと主張したが,ニュージャージー州地区倒産裁判所は,倒産法 11 章に基づく手続きにおいて一般債権者はほとんどその配当を受けることができないのが常であって,そのような一般 債権者たるライセンシーにさらなる負担を強いることは連邦議会が 365(n)条を制定した際の意図であったとは想定しがたいとした。また,LFAC 社は,仮にライセンシーが商標ライセンス権を引き続き有するとするならば,LFAC 社は Naked License を回避するべく当該商標権に関する品質管理義務を負うことになるが,LFAC 社にはそのような能力はないとも主張した。しかし,ニュージャージー州地区倒産裁判所は,ライセンサーの要求する品質水準に沿わない商品の販売はライセンシーにとっても商標権侵害または不正競争といった問題を生じさせることになりかねないから,ライセンシーによる自発的な品質管理が期待できるとし,当該主張についても受け容れなかった。