Contract
ブルー社仲裁準備書面(東京大学)
争点(1)
主張:レッド社はブルー社に対し債務不履行の責任を負う。
第1. レッド社は、ブルー社との売買契約(契約書別添9 、以下「甲契約」)において、
「成長ホルモンを使用していないオット農場産牛肉の引渡し」を債務として負っていた。
1. 契約書(別添9)に定められたレッド社の明示の債務は「ネゴランド国農水省から評価を受けた最高級の牛肉の引渡し」である。
2. UNIDROIT 国際商事契約原則第5.2 条(a)(b) (以下、UNIDROIT 国際商事契約原則については
「UNIDROIT+第+条文番号」)より、レッド社は黙示の債務として「成長ホルモンを使用していないオット農場産牛肉の引渡し」の債務を負っていた。
契約書第1 項.Goods、第5 項.Quality より明示されている。【Therefore?】しかし、本件事情の下では、レッド社の負う債務は当該明示の債務に限られない。【「しかし」と逆説の接続詞が用いられているが、前後が逆説の関係にあるのか疑問。】
明示の債務に加え、本件においては以下の通り黙示の債務の発生原因が存在する。
【法律要件について、よく整理されている。】
(1) 「当事者間で確立した慣行」(UNIDOROIT 第5.2.条(b))
(ア) 本文パラグラフ 17(以下、本文パラグラフについては「¶+パラグラフ番号」)及び質問回答総集編(8)(以下、質問回答総集編については「Q&A+通し番号」)より、両社は2002 年から甲契約までの5 年間という長期にわたり、継続的な牛肉売買取引を行なっていた。そして、この間オット農場産以外の牛肉については話題にも上がらないなど、オット農場産牛肉を取引することが「暗黙の前提」とされている。この「暗黙の前提」は、売買取引の目的物の産地という重要事項についてのものである。かかる重要事項について長期継続的な取引実績が集積されていることから、両社間には
「牛肉取引ではオット農場産牛肉を引渡す」との慣行が確立している。
(イ) さらに、「オット農場産牛肉を引渡す」との慣行が確立していることは、レッド社の契約締結後の行為からも明らかである。すなわち、甲契約締結後レッド社はまずオット農場産牛肉の調達を試みており(¶24)、オット農場産以外の牛肉を引渡す際にはその旨の連絡もしている(¶25、別添10)。これはレッド社の「オット農場産牛肉を引渡す」という慣行に拘束される意思を裏付けている。【別添
10及び11のメールは、この慣行が「確立」していないことを示唆しているとも言えるのではないだろうか?】
(ウ) 当事者間で確立した慣行は、その適用を明示的に排除しない限り両者を拘束する(UNIDROIT 第
1.8 条注釈 2)。そして、本件では当該慣行を明示的に排除するような事情は存在しない。したがって、両社は「オット農場産牛肉の引渡し」という慣行に拘束される。
(2) 「契約の性質及び目的」(UNIDOROIT 第5.2 条(a))
¶21 及びQ&A (10)より、甲契約の目的は「アービトリア国におけるブルー社の顧客向け牛肉の調達」である。この点、成長ホルモンを使用した牛肉は、アービトリア国内では好まれておらず、これはレッド社の知るところでもある(¶18)。【契約の目的から、端的に、「アービトリア国への輸入が可能であることが当然の前提となっている(そうでないと同国内の顧客向けにはなり得ない)、すなわち、レッ
ド社は輸入可能なものを供給する義務を負っている」と言えるのでは?】
加えて、Q&A (6)より、甲契約締結以前からすでに、アービトリア国内では成長ホルモン使用牛肉への表示を義務付ける法令が発布されている。かかる事情から、成長ホルモン使用牛肉はアービトリア国内で最高級の食品販売を行うブルー社にとって商品価値が低い。【この論理には飛躍があるのでは?また、この主張の法的意味は?】
よって、甲契約の性質及び目的にかなう牛肉は、成長ホルモンを含まない牛肉である。
(3) そして慣行として取引されていたオット農場産牛肉は成長ホルモンを使用しておらず、契約の性質及び目的に合致する。
したがって、レッド社は黙示の債務として「成長ホルモンを使用しないオット農場産牛肉の引渡し」という債務を負う。
1. レッド社は、甲契約の変更を申し出た。
第2. レッド社は、債務内容を「成長ホルモンを使用していたサンボ農場産牛肉の引渡し」に変更することを望む旨を申し出たが、ブルー社は拒絶した。
2. ブルー社はレッド社の申込に対し変更を加えた承諾を行ったが、これは申し込みの拒絶にあたり契約は変更されなかった。
レッド社はブルー社に対し、成長ホルモンを使用しており、かつオット農場産ではなくサンボ農場産の牛肉を引渡すことにつき連絡し(¶25、別添 10)、契約内容の変更を申し出た。かかる変更の申し出は、契約の申込(UNIDROIT 第 2.2 条)にあたる。【別添10 及び11 のメールの趣旨について、ここまで読み込むことができるだろうか?】
(1) ブルー社はレッド社に対し、別添 11 のメールを送付している。これは、レッド社からの申込に対する純粋な承諾ではなく、「変更を加えた承諾」(UNIDROIT 第 2.11 条)にあたる。
なぜならこのメールは、レッド社の申し込みに対し「サンボ農場産牛肉が成長ホルモンを使用していないこと」という制限を加えたものであるからである。
この「変更を加えた承諾」は、牛肉の品質に成長ホルモン不使用との制限を加えるものなので、契約の実質的変更にあたり「申し込みの拒絶」となる(UNIDROIT 第 2.11 条(1))。
(2) そして通知は到達したときに効力を生じる(UNIDROIT 第1.9 条(2))ところ、別添11 のメールはオレンジ氏のコンピュータに到達している(¶26)。この時点でブルー社の「申し込みの拒絶」の通知は、相手方に遅延無く到達した(UNIDROIT 第 1.9 条注釈4)。【仮に、これが「申し込みの拒絶」の通知であるとした場合、このような通知の方法は、「状況に応じた適切な方法」(第19 条(1)項)と言えるだろうか?】
(3) 申込の拒絶により、レッド社の契約変更の申し込みは効力を失う(UNIDOROT 第 2.5 条)。よって両当事者は従前の甲契約に拘束されるため、レッド社は従前の通り「成長ホルモンを使用していないオット農場産牛肉の引渡し」という債務を負っていた。
第3. 以上より、レッド社は債務を履行しなかったので債務不履行の責任を負う。
レッド社の債務内容は「成長ホルモンを使用していないオット農場産牛肉の引渡し」であったにも関わらず、レッド社は成長ホルモンを使用したサンボ農場産牛肉を引渡している。
したがって、レッド社は債務不履行責任を負う(UNIDROIT 第7.1.1 条)。【障害・消滅・阻止事由の不存在について主張があれば、なおよい。上記のとおり、「アービトリア国への輸入可能な牛肉を供給する義
務」は容易に認定できると思われ、(1)では、レッド社側の免責事由等が認められるかどうかも重要な争点となると考えられる。】
争点(2)①
主張:レッド社はブルー社に対して、3 割値引きした損害である30 万米ドルの損害賠償責任を負う。
第1. 3 割値引きしたことによる30 万米ドルの損害は、レッド社の債務不履行による直接損害である。レッド社の債務不履行により、ブルー社はパープル社に対し当初の納期である6 月20 日に牛肉を納品 することができなかった。その直接の結果として、ブルー社はパープル社に対し当初の価格の 3 割引で
代替品を納品せざるを得なかった(¶28、29)。よってブルー社に30 万米ドルの損害が発生した。
【以下の論述は分かりやすく、よく考えられている。】
第2. ブルー社の被った当該損害は、レッド社にとって予見可能なものであった。
1. 予見可能性は損害の性質・種類に対してあれば足りる(UNIDROIT 第7.4.4 条注釈)。
「債務者は、契約締結時に、不履行の結果として生ずるであろうことを予見しまたは合理的に予見することができた損害についてのみ賠償の責任を負う」(UNIDROIT 第7.4.4 条)。
2. 値引きは損害賠償の一形態であり、レッド社は値引きという種類の損害について予見可能であった。
ここで、損害の予見可能性は損害の性質や種類に関して求められるものであって、損害の程度について求められているのではない(UNIDROIT 第7.4.4 条注釈)。つまり、レッド社が30 万米ドルという損害の程度について予見していなくとも、値引きという種類の損害が発生することについて予見可能であれば、本件値引き分の損害につき損害賠償責任を負うこととなる。
(1) 値引きは、履行遅滞による損害賠償の一形態である。そして、値引きは国際慣習上、損害賠償の一形態として広く受け入れられている。
ここで、国際物品売買に関する国際連合条約(CISG)及びヨーロッパ契約法原則を、値引きが損害賠償の一形態であるという国際慣習の存在を証明する資料として引用する(添付資料1)。CISG は広く国際物品売買における任意法規として存在しており、またヨーロッパ契約法原則も仲裁廷にて国際慣習が存在する証拠として用いられているものである。これら二つの条約に明示されているということから、国際慣習上、値引きが損害賠償の一形態として広く用いられていることが証明される。
(2) そしてレッド社は1995 年からネゴランド国産農産物を国内に限らず海外にも販売しており、国際売買には10 年以上携わっている(¶8、13)。このように国際売買をxx行ってきたレッド社は、国際慣習上、履行遅滞により損害賠償責任が発生することにつき予見可能であった。
したがって、レッド社は履行遅滞による値引きという損害の種類について予見可能であった。
3. 従って、ブルー社に発生した値引き分の損害は、レッド社にとって予見可能であった。
第3. 以上から、レッド社はブルー社に対して3 割値引き分の損害である30 万米ドルの損害賠償責任を負う。
争点(2)②
主張:レッド社はブルー社に対して、ブルー社が代替取引のために費やした費用30 万米ドルを支払う義務を負う。
1. さくら農場との代替取引は「損害を軽減すべく」なしたものである。
第1. ブルー社がさくら農場から牛肉を調達した行為は「損害を軽減すべく」なされたものであり、費やした費用は「合理的に費やした費用」である(UNIDROIT 第7.4.8 条(2))。
債権者には、自己の懈怠による損害の拡大を防止する義務がある(UNIDROIT 第7.4.8 条(1)参照)。 ブルー社は牛肉100 トンを7 月15 日までに顧客のパープル社に納品できなければ、パープル社に70
2. ブルー社が請求する30 万米ドルは「合理的に費やした費用」である。
万米ドルの損害賠償をしなければならず、ブルー社がレッド社の債務不履行によって被る損害はさらに拡大する可能性があった(¶28)。ブルー社はこれを回避するためにさくら農場と代替取引を行ったが、この行為はまさしく損害を軽減するものである。
(1) 代替取引という措置の合理性
ブルー社としては7 月15 日までにパープル社に納入するためには、6 月30 日までに自社のもとに代替品を確保する必要があった。そして他国と代替取引をする場合には運送日数が相当程度かかることも含めて考えると、6 月14 日の時点でさくら農場という代替取引先を確保しておくことは、パープル社に対する損害賠償を何としても避けたかった(¶28)ブルー社にとっては合理的である。
(2) 30 万米ドルという費用の合理性
全世界で毎月牛肉の市場価格が上昇している中(¶29)、1 キロ当たり、相場である12 米ドルよりわずか1 米ドルだけ上乗せされた13 米ドルで代替品を調達したことは、時期的に切迫した状況で代替取引先を確保しなければならなかったブルー社にとっては合理的である。
【第29 項及び回答(23)によれば、「ブルー社としては、レッド社の申し出(オニク農場産の供給)を受けていれば、30 万米ドルの損害を回避(軽減)できた」と認められるのではないだろうか?ところが、ブルー社は、レッド社に全く照会することなく、さくら農場からの調達を決定した。このような事情の下でも「合理的に費やした費用」と言えるかどうかについて説明が必要では?】
第2. ブルー社はレッド社に対して、UNIDROIT 第7.4.8 条(2)に基づき、「損害を軽減すべく合理的に費やした費用」として代替品を調達するために費やした費用30 万米ドルを請求できる。
ブルー社は、レッド社の債務不履行がなければ100 万米ドルで調達できたはずの牛肉を130 万米ドルで購入したため、差額30 万米ドルを損害軽減義務の履行のために費やした。
したがって、UNIDROIT 第 7.4.8 条(2)に基づき、「損害を軽減すべく合理的に費やした費用」として代替品を調達するために費やした費用30 万米ドルを請求できる。
争点(2)③
主張:レッド社はブルー社に対して信用状により支払い済みの売買代金である
100 万米ドルを支払う義務を負う。
第1. レッド社とブルー社の交わした牛肉の売買契約(甲契約)は6 月15 日に解除されている。
1. レッド社の債務不履行は、解除権を発生させる「重大な不履行」(UNIDROIT 第7.3.1 条)である。
2. ブルー社はレッド社に対し、解除の通知(UNIDROIT 第7.3.2 条)によって解除権を行使している。
UNIDROIT 第7.3.1 条(2)(b)より、「重大な不履行」にあたるか否かは「その債務の厳格な履行が、当該契約のもとで、不可欠な要素であったか否か」等によって決まる。甲契約は、引渡し期の厳守が不可欠な第一次産品の売買契約であり(UNIDROIT 第7.3.1 条注釈3.b)、またブルー社とパープル社間の転売契約の存在はレッド社も認識していた(¶21、Q&A(10))。したがって、甲契約においては債務の厳格な履行が不可欠であった。ところが、現実には債務は期日である5 月末日までに履行されず、契約の目的は達成できなかった。よって、レッド社の債務不履行は「重大な不履行」である。【第28 項で、ブルー社がレッド社に対して、「加工は当社の工場でするので、6 月30 日までに加工前の牛肉を届けてくれれば間に合う」と連絡したことは、履行のための付加期間の付与(第7.1.5 条)=解除権の発生障害事実とは言えないだろうか?】
本件においては、ブルー社のグレープ氏は2007 年6 月15 日に、「決済済みの100 万米ドルも返してもらわなければならない。」(¶29)と口頭でレッド社のオレンジ氏に伝えている。
(1) UNIDROIT 第7.3.6 条(1)によると、契約の解除によってはじめて当事者は自己が給付したものを返還するよう請求できる。このように代金返還が契約の解除を前提としている以上、この代金返還要求には解除の意思が黙示に表示されている。
(2) また、「当事者の言明およびその他の行為は、相手方がその意思を知」っていた時は、「その意思」に従って解釈されなければならない」(UNIDROIT 第4.2 条(1))。
ここで、レッド社側の「貴社の主張を受け入れることはできない。」という発言(¶29)は、ブルー社が解除の意思表示をしていたことを認識した上での主張である。よってレッド社もブルー社の代金返還要求が解除の意思表示であったことを知っていた。
したがって、上記のグレープ氏の発言は解除の意思表示と解釈されるべきである。
3. 解除の通知がなされた6 月15 日時点で、甲契約は解除されている。
第2. ブルー社はレッド社に対し原状回復請求権に基づき100 万米ドルの返還を求める事ができる。
1. 原状回復請求するにあたりブルー社は自己の受領物を返還しなくてはならない。
2. レッド社・グリーン社の間で契約(以下、乙売買契約)が成立した時点(7 月2 日)でレッド社は牛肉の占有を回復し、ブルー社はレッド社に対する原状回復義務を果たした。
UNIDROIT 第7.3.6 条(1)によると契約の解除により、各当事者は、自己が受領したものを返還するのと引換えに、自己が給付したものを返還するよう請求することができる。したがって、ブルー社は自己の受領した牛肉100 トンをレッド社に返還すれば、自己の支払った100 万ドルの返還を請求できる。
両当事者が目的物の占有の回復することをもって原状回復がなされたこととなる。【なぜ、このように言い換える、新たな概念を持ち出す必要があるだろうか?端的に、①ブルー社は当該牛肉を「受領した」のか、②これを「返還」したのか、「受領」、「返還」の意味、これらに該当する具体的事実の有無を論ずればよいのではないだろうか?】
ここで、契約書、UNIDROIT には占有の回復の方法について何ら規定がない。よって、ブルー社の受領した牛肉 100 トンにつきレッド社が占有を回復したか否かは、両当事者の意思によって決まる。
【Why?】
以下、両当事者の意思について検討する。
(1) 乙売買契約の内容について
7 月 1 日の会話で、レッド社がブルー社の受領した牛肉を、グリーン社に売却することを内容と
する乙売買契約を結ぶことが決まり、ブルー社もそれに合意していた(¶30)。乙売買契約の当事者は、レッド社とグリーン社、目的物はブルー社が受領していた牛肉 100 トン、売却代金はレッド社に帰属するというものであった(別添12 契約書)。
(2) レッド社の意思について
7 月 2 日、レッド社はブルー社との会話において、乙売買契約を自己が当事者となって成立させることに同意した(¶30) 。契約当事者として目的物の引渡債務を負う当事者は、目的物を適切に維持・管理する義務を負う。しかし、ブルー社がレッド社に目的物の返還を行った上でレッド社自身が牛肉を保管し、更にレッド社からグリーン社に引き渡すことは迂遠である。よってレッド社は、ブルー社からレッド社への現実の引渡しを省略し、ブルー社を通じて目的物を保管することとした。
したがって、乙売買契約締結以降、レッド社はブルー社が受領していた牛肉について占有を回復したこととなる。
(3) ブルー社の意思について
レッド社の債務不履行をブルー社が知った6 月12 日以降、ブルー社は受領した牛肉をレッド社に返還する意思を有していた (¶29、30)。つまり、ブルー社は牛肉を返還すべく、レッド社のために牛肉を保管し続けていた。よって7 月2 日に乙売買契約が成立した時点でも、ブルー社は契約目的物である牛肉をレッド社のために占有していた。
そして乙売買契約の成立によるレッド社の意思の変化により、ブルー社も牛肉の現実の引渡しの省略に応じ、以後もレッド社のために占有を続けた。
3. ブルー社はレッド社に対し甲契約の解除による原状回復として、レッド社に給付した決済済みの 100 万米ドルを請求することができる。
(4) (2)(3)より、両当事者の意思の合致をもって乙売買契約成立時にレッド社は牛肉の占有を回復した。したがって、ブルー社はレッド社に対し原状回復義務を果たしている。
争点(3)
主張:ブルー社は、50 万米ドルを支払う義務を負わない。
第1. 7 月1 日の会話により、ブルー社レッド社間に運送契約が成立した。
この契約に基づき、ブルー社はレッド社の牛肉引渡し債務の履行を代行する。
7 月1 日の会話(¶30)において、①レッド社がグリーン社と乙売買契約を締結すること、②ブルー社が、レッド社に代わって牛肉をグリーン社に運送すること、以上2 点について合意がなされている。
②の合意により、ブルー社レッド社間に運送契約が成立した。この契約に基づき、ブルー社は、乙売買契約においてレッド社がグリーン社に対して有する牛肉引渡し債務の履行を代行する。【ユニドロワ原則に従って、契約の成否について論証が必要ではないだろうか?】
第2. ブルー社の運送債務の履行期間は7 月7 日までであり、履行期が5 日になることはない。
1. 運送契約におけるブルー社の債務の履行期間は、7 月7 日までである。
ここでは、乙売買契約におけるレッド社の牛肉引渡し債務を「レッド社の債務」、運送契約におけるブルー社の牛肉運送債務を「ブルー社の債務」とする。【以下でも、法律要件の分析がよくされており、分かり易い。】
当該運送契約の下では、レッド社の債務の履行を、ブルー社が代行する。よってブルー社の債務の履行期間は、レッド社の債務の履行期間と同じである。つまり、運送契約から履行期間は確定でき (UNIDROIT 第6.1.1 条(b))、それは7 月7 日までである。以下、これを時系列に沿って説明する。
(1) 7 月1 日の運送契約成立時(¶30)
第 1 で述べたように、7 月1 日に運送契約が成立した。この契約におけるブルー社の債務は、レッド社の債務の履行を代行することであるから、ブルー社の履行期間はレッド社の履行期間と同じである。よって、ブルー社がレッド社の債務の履行を代行することにつき合意がなされたこの時点で、ブルー社の債務の履行期間がレッド社の債務の履行期間と同じであることが確定した。
(2) 7 月2 日の乙売買契約成立時(¶31)
7 月 2 日、レッド社グリーン社間で乙売買契約が成立した。そして乙売買契約の契約書(別添 12)第6 項によると、レッド社は7 月7 日までのthe Bills of Lading を取得する必要がある。つまり、レッド社の債務の履行期間は7 日までである。
ここで、実際に船積みをしてthe Bills of Lading を取得するのは、レッド社の債務の履行を代行するブルー社である。よってこの時点で、ブルー社の履行期間が具体的に 7 日までであることが確定した。
(3) 乙売買契約書(別添12)の送付時(¶31)
乙売買契約の成立後、レッド社はブルー社に別添12 の契約書を送付した。これにより、ブルー社の債務の履行期間が7 日までであることがブルー社にも確認された。
以上より、当該運送契約におけるブルー社の債務の履行期間は7 日までである。
2. 運送契約7 月5 日に船積みする旨の連絡をもって、履行期が5 日になることはない。
(1) 前述1 で履行期間が7 月7 日までであると確定した後に、「7 月5 日に船積みする旨の連絡」(¶31、 Q&A(32)、以下、「当該連絡」)がなされている。しかし、当該連絡は単なる船積み予定日の通知であって法的意味はなく、この通知をもって履行期が5 日になることはない。なぜなら、当該連絡の時点で「履行期を選択すべき事情」(UNIDROIT 第 6.1.1.条(b)但し書き)はないからである。【別添 10 及び11 のメールについての上記のような解釈を取り得るとすれば、このメールも契約変更の申込みとその承諾と解釈することも十分可能ということにならないだろうか?】
(2) UNIDROIT 第 6.1.1.条(b)によると、履行期間が確定した場合、債務者は履行期間内のいずれの時にも履行できるのが原則である。但しその中で債権者に「履行期を選択すべき事情」、すなわち履行期を選択する必要性がある場合にのみ、例外を認めている。したがって、履行期間が7 日までであると確定した後の当該連絡により履行期が5 日になるのは、レッド社にとって5 日を履行期に選択すべき必要性がある場合に限られる。
(3) 本件において、レッド社にとって5 日を履行期に選択すべき必要性はなかった。
(ア) レッド社としては、the Bills of Lading の日付が7 日までになっていれば、グリーン社に対する債務の履行として何ら問題はなかった。
(イ) 当該連絡の時点で予見し得なかった落雷は、必要性の判断において考慮すべきではない。そして、その落雷がなければ、5 日に船積みされなかったとしても損害は発生しなかったはずである。
3. ブルー社の債務の履行期間は7 日までのままであり、ブルー社は7 日までに船積みすれば債務を
履行したことになる。【従って、そもそも5 日に船積みをしたかったことは「不履行」には当たらな
(ア)(イ)より、「履行期を選択すべき事情」がない以上、当該連絡をもって履行期が5 日になることはない。
い、という結論が示されるとよい。】
1. ブルー社の債務不履行は、履行期間中の落雷という不可抗力によるものであり、UNIDROIT 第7.1.7
条が適用される。
第3. ブルー社の債務不履行は不可抗力によるものであるため、UNIDROIT 第7.1.7 条(不可抗力)より50 万米ドルを支払う義務を負わない。
ブルー社の債務は、履行期間中である6 日の落雷による滅失で履行不能となる。かかるブルー社の不履行は、落雷という「自己の支配を超えた障害に起因」しており、「この落雷という障害を契約締結時に考慮しておくこと、または落雷による滅失という結果を回避、克服することが、合理的に見て期待しうるものではなかった」と言える。したがって、ブルー社の債務不履行は不可抗力(UNIDROIT 第7.1.7条(1))によるものである。
またブルー社は、滅失の旨を落雷のあった7 月6 日にレッド社に伝えており(Q&A(31))、UNIDROIIT
第7.1.7 条(3)の通知の要件も満たしている。
2. ブルー社は損害賠償責任を免れるため、50 万米ドルを支払う義務を負わない。
不履行が不可抗力による場合、不履行の責任、具体的には損害賠償責任を免れる(UNIDROIT 第7.1.7
条(1)、注釈2)。よってブルー社は、50 万米ドルを支払う義務を負わない。