判決の要旨. 裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を一部認容した。
判決の要旨. 当裁判所は、昭和 40 年(オ)第 145 号同 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉において、「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」との判断を示した。右の判断は、現在も維持すべきものであるが、右にいう当該規則条項が合理的な ものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによつて労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。 これを本件についてみるに、まず、新規程への変更によつてXらの退職金の支給倍率自体は低減されているものの、反面、Xらの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際延長された定年退職時までに通常の昇給分を超えて相当程度増額されているのであるから、実際の退職時の基本月俸額に所定の支給倍率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の低減による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価しうる不利益は、本訴におけるXらの前記各請求額よりもはるかに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によつてXらが被つた実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではないのである。他方、一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に、労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いこと はいうまでもないところ、本件合併に際しても、右のような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現することができなかつたことは前示したとおりであり、特に本件の場合においては、退職金の支給倍率についての旧花館農協と他の旧六農協との間の格差 は、従前旧花館農協のみが秋田県農業協同組合中央会の指導・勧告に従わなかつたことによつて生じたといういきさつがあるから、本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後の上告組合の人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である。加えて、本件合併に伴つてXらに対してとられた給与調整の退職時までの累積額は、賞与及び退職金に反映した分を含めると、おおむね本訴における被上告人らの前記各請求額程度に達していることを窺うことができ、また、本件合併後、Xらは、旧花館農協在職中に比べて、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長されているのであつて、これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償としてとられたものではないとしても、同じく本件合併に伴う格差是正措置の一環として、新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たつて考慮することのできる事情である。 右のような新規程への変更によつてXらが被つた不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによつて被上告人らが被つた不利益を考慮しても、なおY組合の労使関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならない。したがつて、新規程への変更はXらに対しても効力を生ずるものというべきである。 【概要】 就業規則により定年を延長する代わりに給与が減額された事例で、秋北バス事件、大曲市農協事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、さらに合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列挙し、その考慮要素に照らした上で、就業規則の変更は合理的であるとした。
判決の要旨. 裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。
判決の要旨. 一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。すなわち、労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであり、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。 ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有する だけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。 公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に健康の保持増進に努 める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は、健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされているのであるが、以上公社就業規則及び健康管理規程の内容は、公社職員が労働契約上その労働力の処分を公社に委ねている趣旨に照らし、いずれも合理的なものというべきであるから、右の職員の健康管理上の義務は、公社と公社職員との間の労働契約の内容となっているものというべきである。 もっとも、右の要管理者がその健康回復のために従うべきものとされている健康管理従事者による指示の具体的内容については、特に公社就業規則ないし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者の健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定できる以上、健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきである。 以上の次第によれば、Xに対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否したYの行為は公社就業規則 59 条3号所定の懲戒事由にあたるというべきである。 そして、前記の職場離脱が同条 18 号の懲戒事由にあたることはいうまでもなく、以上の本件における2個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給における昇給額の4分1減額という効果を伴うものであること(公社就業規則 76 条4項3号)を考慮に入れても、公社がXに対してした本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとすることはできないというべきである。 【概要】 就業規則に、36 協定に基づき時間外労働をさせることがある旨の定めがあったが、労働者が残業命令に従わなかったため、懲戒解雇した事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則は合理的であり、労働契約の内容となっているとし、懲戒解雇は権利の濫用にも該当せず、有効とされた。
判決の要旨. 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない。しかし、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不 利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。〉以上は、当裁判所の判例〈第四銀行事件等〉の趣旨とするところである。
判決の要旨. 裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全て棄却した。
判決の要旨. 裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。 (錯誤無効) 賃貸借契約を締結するか否かの判断に際しては、賃料と面積のみならず、使用目的を念頭においた賃借物件の立地や契約可能な時期及び期間、賃借物件の形状及び状態、駐車場の有無等の諸要素が勘案されるものであり、必ずしも面積の広狭が賃貸借契約を締結する際の主要部分となるものではない。 本件賃貸借契約書上、面積はいずれも「約 35坪」と記載され、Xは本件賃貸借契約の締結に際し、本件物件を内覧してその広さや状態等を確認した上で、月額40万円の賃料にて本件物件を賃借することを決定したものであり、その際にXが本件物件の実際の坪数や坪単価を問題とすることはなく、その後も30年弱の間、本件物件が35坪に満たないことを問 題としたことはなかったのであるから、Xにおいて、本件物件の面積が実際に35坪程度あることが本件賃貸借契約の主要部分であったということはできない。 そうすると、本件物件の実際の面積は本件駐車スペースを含めても約28坪であり、契約面積の約35坪には満たないものの、当該事実をもってXに要素の錯誤があったと認めることはできない。 (説明義務違反による損賠賠償義務) 本件賃貸借契約締結時に本件物件の契約面積が約35坪とされた経緯は明らかではなく、故意による虚偽告知がされたものとは認めるに足りない。 次に、Xは、本件物件を内覧してその広さや状態等を確認し、本件物件の現況を受け入れた上で、本件賃貸借契約を締結したものであり、契約面積は約35坪とされているものの、 Xにおいて本件物件の実際の面積が35坪程度あることが賃貸借契約における主要な部分であるということはできないことは前記で説示したとおりである。 このような本件賃貸借契約における各事情を踏まえると、Yにおいて、Xに対し、契約面積は約35坪となっているものの、実際の面積はそれよりも狭いという事実を説明すべき信義則上の義務を負うものと直ちにいうことはできないし、少なくとも、上記義務違反によりXに不足面積分の賃料相当額の損害が生じたといえる関係にもない。 以上のとおり、Yには、Xが主張する説明義務違反は認められない上、Xに上記説明義務違反と相当因果関係のある損害が生じたということもできないから、YがXに対し、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償義務を負うとはいえない。 よって、Xの主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないから棄却する。
判決の要旨. 原審は、次のとおり判断して、本件懲戒解雇を有効とし、Xの請求をすべて棄却すべきものとした。
判決の要旨. 略)原審の確定した右事実関係の下においては、本件労働契約の期間の定めを民法 90 条に違反するものということはできず、また、5回にわたる契約の更新によつて、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいはXとYとの間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。 (中略) 原判決は、本件雇止めの効力を判断するに当たつて、次のとおり判示している。
判決の要旨. 思うに、国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法 101 条1項前段、自衛隊法 60 条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法 98 条1項、自衛隊法 56 条、57 条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法 62 条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国 は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法 76 条)、治安 出動時(同法 78 条以下)又は災害派遣時(同法 83 条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。けだし、右のような安全配慮義務は、ある 法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法 93 条ないし 95 条及びこれに基づく国 家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法 27 条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。