取戻権の行使. 1) 取戻権者は,取戻権の内容たる実体法上の権利を主張して財産の返還を破産管財人 に求めることになる。また,破産管財人は取戻権の主張を認めて破産財団に混入した 財産を第三者に任意で返還することもできるが,破産管財人が取戻権を承認するには,裁判所の許可が必要とされている(78条2項13号「取戻権の承認」)。破産管財人が取 戻権を承認しないときは,取戻権者は破産管財人を被告として,取戻しのための給付 訴訟を提起することができる。
2) 破産手続開始前に債権者が債務者の財産に対して強制執行をしていた場合において,差し押さえられた財産が債務者の所有ではなく自己の所有であると主張する者が債権 者の強制執行を排除するためには,第三者異議の訴え(民事執行法38条)を提起すべき である。ところが,強制執行を受けた債務者が破産手続開始決定を受けたときは,強 制執行を申し立てた債権者の債権は破産債権となって当該強制執行そのものが失効し てしまう(42条2項)。そうすると,第三者異議訴訟は不必要な訴えとなって訴えの 利益を欠くことになる。そこで,当該物件について自己の所有だと主張する者は,第 三者異議訴訟ではなく,破産管財人を相手として取戻権を行使すべきである(最高裁 昭和45年1月29日第一小法廷判決(民集24巻1号74頁・倒産判例百選第4版47)。 「しかし,右事実によれば,上告人は,本件仮差押決定正本に基づき,昭和42年12月26日債務者Aに対し本件物件につき仮差押執行をしたが,昭和43年5月1日同人が破産宣告を受けるに至つたのであるから,本件物件は,破産法70条にいう破産財団に属する財産となつたもので,上告人の右仮差押は同条により破産財団に対しては効力を失つたものというべく,その後において右仮差押執行の排除を求めて提起された本件第三者異議の訴は,その利益を欠き,不適法として却下を免れない。被上告人としては,本件物件の所有権を主張してその返還を求めるためには,破産管財人を相手方として破産法87条所定の取戻権を行使すべきものである。」