「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(以下、PIF)(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2024.8.30
サンワ化学(株)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(xx xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、サンワ化学株式会社(社長 xxxx)と
「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(以下、PIF)(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約の概要
(1)契約日/8 月 30 日(金)
(2)融資金額/1 億 5 千万円
(3)資金使途/運転資金
2.サンワ化学㈱の取り組み
〇同社は 1975 年に化学工業品卸売業として創業し、主に排水処理で使用される工業薬品の製造から販売までを担い、製造業者をはじめ市町の水道局やごみ焼却施設など幅広いネットワークのもと商品を提供されています。
〇また、「エコアクション 21」「ISO9001」の認証を取得し、CO2 排出量の削減、廃棄物の適正処理やリサイクルの推進、xxx発電システムの導入など、循環型社会の実現に向けた取り組みを推進しています。
〇今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・2030 年までにCO2 排出量を 2022 年度比 10%以上削減させる ・今後も不良に伴う製品廃棄ゼロを維持する |
|
社会面 | ・2030 年までに女性 1 名を管理職に登用する ・2026 年までに全従業員の年間休日を 125 日以上にする ・2026 年までに基幹システムを更新し、バックオフィスでテレワーク可能な就労環境を構築する ・今後も重大な労災の発生件数ゼロを維持する |
|
経済面 | ・2030 年までに新規事業創出に向けて大手企業と連携した取り組み 3 件と、研究・開発に向けて産学連携した取り組み 1 件を実施する ・ISO9001 認証を更新し、高度な品質マネジメントシステムの維持向上を図る |
3.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】サンワ化学㈱の概要
所 在 地 | xxxxxxxx 0000-0 | 設 立 | 1975 年 |
従業員 | 40 名 | 売 上 高 | 22.5 億円(2023 年 10 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:サンワ化学株式会社
2024 年 8 月 30 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析 23
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定 23
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性 24
静岡経済研究所は、静岡銀行が、サンワ化学株式会社(以下、サンワ化学)に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、サンワ化学の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響およびネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」および ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
<要約>
サンワ化学は、1975 年に化学工業品卸売業として創業。現在は亜硝酸ソーダや次亜塩素酸ソーダなどの主に排水処理で使用される工業薬品の製造から販売までを担い、製造業者をはじめ市町の水道局やごみ焼却施設など幅広い顧客へ納入。同社は大手から原料を仕入れ、顧客の要望に応じて濃度調整や小分けを行い配送することで、地域におけるハブの役割を果たしている。
同社の事業活動は、環境面においては排水処理剤の製造・販売が地域の水を「キレイ」にするほか、エコアクション 21 認証登録にて CO2 排出量や排水量などを管理するとともに、xxx発電や、 LED 照明の設置など気候変動対策に寄与している。また、ISO9001 を認証取得し、廃棄物の適正処理やリサイクルの推進により資源の有効活用に配慮。社会面においては、女性や高齢者など多様な人材を雇用し活躍の場を与えるとともに、人材育成や、賃上げ等によってモチベーションを向上させている。また、従業員が安全・安心かつ健康に働ける環境を整え、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて全社的に取り組んでいる。そして経済面では、大手自動車メーカーとの共同特許を取得するなど優れた製品開発力や、高い品質、顧客ニーズへの柔軟な対応により競争力を高めているほか、BCP を作成し有事における事業継続を可能にすることで供給責任を果たしている。
サンワ化学のサステナビリティ活動等を分析した結果、ポジティブ面では「健康および安全性」、
「水」、「教育」、「雇用」、「賃金」、「セクターの多様性」、「零細・中小企業の繁栄」、「水域」が、ネガティブ面では「自然災害」、「健康および安全性」、「社会的保護」、「ジェンダー平等」、「民族・人種平等」、「年齢差別」、「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「土壌」、「資源強度」、「廃棄物」がインパクトエリア/トピックとして特定された。そのうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、サンワ化学の経営の持続性を高める7つの活動について、KPI が設定された。
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
金額 | 150,000,000 円 |
資金使途 | 運転資金 |
モニタリング期間 | 5 年 7 カ月 |
サンワ化学株式会社 | |
所在地 | 本社・工場:xxxxxxxx 0000-0 x笠工場 :xxxxxxxxx 000-00 xx営業所:xxxxxxxxxxxx 0-0-00 |
従業員数 | 40 名 |
資本金 | 5,500 万円 |
業種 | 化学薬品・化学製品の製造および販売業 |
事業内容 | 工業薬品の製造および販売受託加工 コーティング材開発・製造・販売 |
沿革 | 1975 年 浜松市早出町にて個人創業 1981 年 サンワ化学株式会社設立 1989 年 xxxxxxxx 0000-0 へ本社移転 1994 年 資本金を 1,000 万円に増資 2008 年 エコアクション 21 認証登録 2010 年 資本金を 4,000 万円に増資 ISO9001 マネジメントシステム認証登録 2011 年 同笠工場完成 2012 年 トレスマイルⓇ商標登録 資本金を 5,500 万円に増資 2014 年 代表取締役xxxxに交代 2017 年 亜硝酸ソーダ粒状体実用新案登録 2019 年 サンホタルナⓇ、サンセラザンⓇ、サンxxxナーⓇ商標登録 2020 年 日産自動車株式会社と防汚塗料に関する共同特許取得 2022 年 サンワ化成株式会社を分割会社とし、新設会社を承継会社とする新設分割 2023 年 代表取締役xxxxに交代 |
(2024 年 8 月 30 日現在)
1. 事業概要
1-1 事業概況
サンワ化学は、1975 年に創業し静岡県袋井市に本社を構える化学工業品の製造および卸売事業者。主な事業内容は、工業薬品の製造・販売、受託加工、機能性材料の開発・製造・販売であり、静岡県を中心に製造業をはじめ市町の水道局や、ごみ焼却施設など幅広い顧客に納入している。
工業薬品では、亜硝酸ソーダ、苛性ソーダ、苛性カリ、次亜塩素酸ソーダ、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過酸化水素、塩化第二鉄などの製品を取り扱う。これらは、大手企業から原料を仕入れ、顧客の要望に応じて濃度調整や小分けを行い配送することで、地域におけるハブの役割を果たしている。また、消泡剤、高分子凝集剤、活性炭、珪藻土、微生物製剤、有機溶剤、各種洗浄剤などの卸売も含め数百種類にわたる化学薬品の取扱いを通じて、地域内の中小企業や工場における供給チェーンの一環として重要な役割を担っている。
さらに、ニッチトップを目指した特殊な機能性材料の開発も行っている。特に、ポリシラザンを使用した高硬度薄膜コーティング材であるトレスマイルⓇ、サンセラザンⓇは日産自動車株式会社と共同特許を保有、現在までに自動車ディーラーの純正コーティング材として納入実績がある。そのほか、有害物質を含まない蓄光顔料サンホタルナⓇ、サンxxxナーⓇを開発しており、建物の塗料や災害時の避難経路のサインなど、多岐にわたる用途で使用されている。
同社は、2008 年にエコアクション 21、2010 年に ISO9001 の認証を取得。各種検査機器を用いて高レベルな検査を実施するとともに、低温 4 類危険物倉庫を保有するなど品質を損なわない生産体制を構築することで、安全かつ高品質な製品を製造・保管している。
2022 年には事業継続力強化計画を策定し、経済産業省大臣より認定を受けた。他県の協力会社との連携や、複数地からの原料仕入れ、自家発電設備の導入、会計システムのクラウド化などを通じて、災害時でも事業を継続できる体制を整えている。さらに、避難訓練や緊急連絡網の整備など、従業員の安全確保にも努めている。
工業薬品の受注例
NO | 製品群 | 製品名 | 用途 | |||||
原料・中間材系 (化学薬品、繊維、紙など) | 洗浄剤系 (界面活性剤、漂白剤など) | 塗料、コーティング表面処理系 | 排水処理系 (凝集剤など) | 化学プロセス調整系 (触媒、 安定剤など) | その他 | |||
1 | 自社製品 | 塩酸(HCI)…10%,35% | 〇 | 〇 | 〇 | |||
2 | 自社製品 | 過酸化水素(H2O2)…35% | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
3 | 自社製品 | 硝酸(HNO3)…10%、67.5% | 〇 | 〇 | ||||
4 | 自社製品 | 硫酸(H2SO4)…10%、25%、78% | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
5 | 自社製品 | リン酸(H3PO4) | 〇 | 〇 | ||||
6 | 自社製品 | 亜硝酸ソーダ(NaNO2)…36%、38%、40%、亜硝酸ソーダブリケット(粒状) | 〇 | 〇 | ||||
7 | 自社製品 | 苛性カリ(KOH)…5%、48% | 〇 | |||||
8 | 自社製品 | 苛性ソーダ(NaOH)…5%、25%※水酸化ナトリウム | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
9 | 自社製品 | 次亜塩素酸ソーダ(XxXXX)…6%、12% | 〇 | 〇 | ||||
10 | 自社製品 | 塩化第二鉄(FeCI3) | 〇 | 〇 | ||||
11 | 自社製品 | PAC:ポリ塩化アルミニウム(AL2O3) | 〇 | |||||
12 | 自社製品 | ポリ硫酸第二鉄(Fe2(OH)n(SO4)3-n/2]m) | 〇 | |||||
13 | 取扱い商品 | 消泡剤 | 〇 | |||||
14 | 取扱い商品 | 高分子凝集剤 | 〇 | |||||
15 | 取扱い商品 | 活性炭 | 〇 | 〇 | ||||
16 | 取扱い商品 | 珪藻土 | 〇 | |||||
17 | 取扱い商品 | 微生物製剤 | 〇 | |||||
18 | 取扱い商品 | 有機溶剤 | 〇 | 〇 | ||||
19 | 取扱い商品 | 各種洗浄剤 | 〇 | |||||
20 | 取扱い商品 | 硫酸バンド(硫酸アルミニウム) | 〇 | |||||
21 | 取扱い商品 | ソーダ灰(炭酸水素ナトリウム) | 〇 | 〇 | ||||
22 | 取扱い商品 | 酢酸(CH3COOH) | 〇 | |||||
23 | 取扱い商品 | チオ硫酸ソーダ(Na2S2O3) | 〇 | 〇 | 〇 | |||
24 | 取扱い商品 | 硫酸ソーダ(芒硝)(Na2SO4) | 〇 | |||||
25 | 取扱い商品 | グルコン酸ソーダ(C6H11NaO7) | 〇 | 〇 | ||||
26 | 取扱い商品 | アンモニア水(NH4OH) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
27 | 取扱い商品 | 尿素 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
28 | 取扱い商品 | 石灰 | 〇 | 〇 | ||||
29 | 取扱い商品 | クエン酸 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
30 | 取扱い商品 | フッ化水素 | 〇 | 〇 | ||||
31 | 取扱い商品 | 塩化カルシウム | 〇 | 〇 | ||||
32 | 機能性材料 | トレスマイルⓇ | 〇 | |||||
33 | 機能性材料 | サンセラザンⓇ | 〇 | |||||
34 | 機能性材料 | サンホタルナⓇ | 〇 | |||||
35 | 機能性材料 | サンxxxナーⓇ | 〇 |
1-2 企業理念・経営理念・品質方針
<企業理念>
サンワ化学は、企業理念の中で「xxに向け、大切な誰かのためにベストを尽くす。」を掲げ、家族や友人、仕事で接する社内外の仲間たち、地域コミュニティなど、従業員が大切に思う「誰か」に向けて自分の持てる力を最大限発揮することを目指している。
<経営理念>
経営理念では「より良い製品や新たなサービス提供を継続して行うため、活動の変化に積極的であり続けます。」を掲げ、技術と品質の向上を追求し、さまざまな角度から顧客に最大の価値を提供することを目指している。
<品質方針>
品質方針は、「お客様と定めた品質を 100%達成する」ことを基本とし、CDSME すべての視点から総合的に品質を捉え、厳格な品質管理体制を確立し、全ての製造プロセスにおいて高い水準を維持を目指している。
1-3 業界動向
化学工業の市場規模は、過去10 年間で年平均成長率約2.3%で推移し、2021 年は約 31兆円と推定されている。中でも、サンワ化学の主要事業である工業用薬品は、製造業の発展と密接に関係している。新設される工場や既存の工場拡張による工業排水量の増加で排水処理剤のニーズが高まっているだけでなく、産業の高度化に伴う洗浄ニーズも高まっている。特に、半導体や精密機器では加工過程で付着する微粒子や化学残渣、金属イオンなどの不純物が、デバイスの性能や歩留まりに悪影響を与えるため、洗浄剤の需要を押し上げている。
加えて、企業における環境意識の高まりも市場へ影響を与える要素となっている。国内では、排水などにおける化学物質の管理に関する法律や条例を厳格に運用しており、これに適応することが求められている。さらに、水資源の枯渇や地域的な水不足へ対処すべく、多くの企業が排水の再利用を積極的に行っている。再利用のためには排水処理剤の役割が重要であり、環境保護と持続可能な水資源の利用を両立させるために工業用薬品市場は拡大を続けている。
2019 年以降は、新型コロナウイルスの影響により衛生面での需要が急増し、消毒剤や抗菌製品、衛生用品の市場が大幅に拡大した。特に医療機関や公共施設、企業のオフィス、家庭などでの消毒剤の使用が急増し、消毒用アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどの工業用薬品の需要が高まり、製造ラインの増強や新規設備投資が進められた。このような状況は、国内だけでなく世界的な傾向でもあり、多くの化学品メーカーが生産能力を増強し供給網を強化している。今後もパンデミックを契機に衛生意識が高まったことで、一定の需要が続くことが予想される。
現在では、紫外線ろ過、逆浸透膜、イオン交換などの高度な技術を用いた物理的な水処理も開発が進んでいるが、化学薬品を用いた水処理は費用対効果が高い。また、産業界では生産工程で大量の水が必要となり排水処理や、水リサイクル技術がますます重要になることから、今後も堅調に推移することが見込まれる。
<化学工業の出荷額等推移>
35,000
(単位:10 億円)
31,708
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2000 01 02
03 04 05
06 07
08 09
10 11 12
13 14
15 16 17
18 19
20 21(年)
(出所:経済産業省「工業統計調査」、「経済センサス」、「経済構造実態調査」)
1-4 地域課題との関連性
【第2次袋井市総合計画】
袋井市では、2016 年度から 2025 年度の 10 年間の「第2次袋井市総合計画」を策定、そ
の基本構想に沿って 2021 年度に5年間の「後期基本計画」を策定した。基本目標として、①心と体の健康、②都市と自然の健康、③地域と社会の健康の3つを定めている。
各目標ごとに政策と 2025 年度の目標値を設定しているが、後述するサンワ化学のサステナビリティ活動はこの施策を後押しし、目標達成に寄与するなど袋井市が目指す方向性と一致している。例えば、②都市と自然の健康の中では、快適で魅力あるまちや、安全安心に暮らせるまちを目指し環境保全活動に取り組むとしており、特に同社の排水処理剤の販売は“安全な水の安定供給”および“豊かな環境の醸成と継承”に資するほか、BCP の策定は“万全な危機管理体制の構築”、xxx発電による再生可能エネルギーの売電は“豊かな環境の醸成と継承”の目標達成に寄与する取組みである。
(出所:袋井市「第 2 次袋井市総合計画」)
【輝く"ふくろい"まち・ひと・しごと創生総合戦略】
袋井市は、直面する人口減少・少子高齢化という構造的課題に対し将来にわたって活力ある地域社会を維持するため、同市人口の現状分析をもとに「2060 年に人口 8 万人維持」を目標に掲げた「袋井市人口ビジョン」および、人口減少問題の克服と地域経済の活性化に向けた施策をまとめた「輝く"ふくろい"まち・ひと・しごと創生総合戦略」を 2015 年 10 月に策定し、地方創生の取組みが始まった。
2020 年 3 月には、「第2期総合戦略」を策定。国の第 2 期総合戦略や、社会経済の潮流、同市における環境変化などを踏まえ戦略の方向性を整理し、新たな政策パッケージ「3 つの挑戦」を掲げた。中でも、「“ふくろい人“ ひとづくりへの挑戦」では、技術革新や国際化が進展する中で地域人材の教育に注力するとしており、同社が行う従業員への人材育成や、地域教育機関との連携などは、同市の若者や働き手のスキル向上に貢献できる。
また、「“支え合い”誰もが活躍するまちづくりへの挑戦」では、人生 100 年時代にすべての世代、外国人市民、誰もが元気に役割をもって活躍できる社会・地域の仕組みづくりに挑むとしている。同社は、女性従業員や外国人、シニア人材を雇用していることで、地域雇用の場としてリードする存在となっている。
<袋井市の将来推計人口>
100,000
(単位:人)
87,864
80,483
21,397
27,696
53,669
43,456
12,798
9,331
75,000
50,000
25,000
0
2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年 2050年
年少人口(0~14歳) 生産年齢人口(15~64歳) 老年人口(65歳~)
(出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」)
2. サステナビリティ活動
2-1 環境・社会面での活動
(1)水を「キレイ」にする製品の販売
サンワ化学は水を「キレイ」にする製品の販売を通じて持続可能な世界の実現に貢献している。具体的には、排水処理剤など数百種類にわたる製品を取り扱い、企業や市町の公共施設へ提供することで地域から排出される水を「キレイ」にしている。
排水処理剤としては、硫酸、苛性ソーダ、次亜塩素酸ソーダ、塩化第二鉄、PAC、ポリ硫酸第二鉄などを取り扱っている。これらの製品は、工場排水や生活排水の浄化に利用され、有害物質の除去や汚濁物質の凝集、消毒、脱臭を行う。工場では製造業を中心に幅広い産業で使用されており、家庭では静岡県西部を中心に南関東からxx県の一部自治体、袋井市xx受水点などの配水拠点、中遠クリーンセンターなどへ幅広く納入されているほか、静岡県西部地域の学校におけるプール消毒剤としても次亜塩素酸ソーダを供給している。同社は大手化学メーカーが一括生産した原料を仕入れ、希釈、配合して顧客のニーズに合わせて提供しており、地域における供給ハブの役割を担っている。
また、高硬度薄膜コーティング材として、トレスマイルⓇやサンセラザンⓇを取り扱っている。特にトレスマイルⓇのコーティング実施車は、未実施車と比較して洗浄時間や洗浄時水使用量を約 30%削減するだけでなく、洗剤使用量を減らすことができ、環境負荷の低減に寄与している。
2-2 環境面での活動
(1)気候変動対策
サンワ化学は、気候変動対策について 2008 年にエコアクション 21 認証を取得し、社内の環境管理の枠組みを整備した。環境管理責任者と担当者を設置し、環境経営理念および環境経営方針を策定しているほか、エコアクション 21 事務局を設置し、CO2 排出量、購入電力、ガソリン使用量、軽油使用量、LPG 使用量などの項目について綿密な管理を行っている。
CO2 排出量削減への取組みは省エネ化とxxx発電による創エネルギーの 2 つの柱で成り立っている。まず、省エネ化への取組みでは、製造と配送の 2 つの側面から行っている。製造での省エネには、社内の照明を LED に交換し、電力の無駄を減らすために不使用時の電力 OFF やセンサー・タイマー制御を導入している。また、製造設備の温水洗浄時間を短縮する方法を検討し、エネルギー使用の効率化を追求している。さらに、営業車の 85%をハイブリッド車に切り替え、燃費の改善を図っている。次に配送での省エネには、配送ルートの最適化とデジタルタコグラフの活用が含まれる。これにより、効率的な運行管理を実現し、燃料消費の削減を図っている。また、平ボディ型のローリー車を採用することで混載を可能とし、車両の稼働効率を高めている。さらに、一部の配送業務を外部の輸送業者に委託することで、全体の配送効率を向上させている。
創エネルギーへの取組みでは、xxx発電システムの導入により、自社で再生可能エネルギーを生産・活用するとともに、余剰電力の売電も行っている。これらの取組みを通じて、2022 年度の排出量は 269,254.51kg-CO2 であり、製造量 1 トンあたりでは 2020 年度比で 27.8%削減することに成功した。
(2)適切な廃棄物処理
サンワ化学は、気候変動対策と同様にエコアクション 21 認証にて産業廃棄物排出量や、一般廃棄物排出量、総排水量などの項目も管理している。
廃棄物管理においては、ISO9001 の不適合および是正処理により不良品率を低下させ、 2023 年度は不良に伴う製品廃棄をゼロにすることに成功した。産業廃棄物(廃ポリ、ガラス屑、発泡スチロール)や一般廃棄物(段ボール、可燃ごみ、鉄屑)は種類ごとに把握し、必要に応じ てマニフェストを発行している。廃棄物の中で最も多く出る廃プラスチックは、ポリ容器をできる限り洗浄・再利用し、廃棄の際はリサイクルへ回している。また、ビニールや段ボールなど分別を徹底したうえ、廃段ボールについては古紙回収ボックスへリサイクルしている。加えて、鉄ドラムは外部業者に有価で引き取ってもらっている。
排水管理においては、2022 年には 2020 年比で製造量 1 トンあたりの排出量を 32.7%削減することに成功した。水場にポスターを掲示して節水を呼びかけているほか、毎月の水使用量を算定し、不自然な使用量が確認された場合には調査を実施している。また、同一製品を連続製造することによって洗浄回数を低減する工夫も行っている。
有害物質や周辺環境対策については、同社は水質汚濁防止法の対象外であるものの、同基準をクリアするための取組みを行っている。液体の回収から中和処理の仕組みを構築することで排水を無害化していることに加え、防液堤やピットを設置や、工場床面はコンクリートで舗装し勾配をつけて排水溝を設けることで敷地外への漏洩を防止している。有害物質は法令に準拠して対策を講じ、周辺への飛散などはないようにしている。また、騒音の発生はなく、近隣住民からの苦情もない。
2-3 社会面での活動
(1)人材育成・定着に向けた取組み
サンワ化学は、従業員の成長とキャリア形成を支援するため、さまざまな研修や資格取得制度を提供している。まず、新入社員への手厚い育成を行っており、短期間から 2 カ月間におよぶ業務研修のほか、本人の申し出および上司や総務課の判断でカウンセリングを実施している。また、充実した階層別の研修プログラムを整備し、早期の業務取得に向けて各部署で作業手順書の整備と業務研修を行っている。さらに、従業員の希望に合わせリスキリング支援の実施を予定している。
資格取得に関しては、受験費用は会社都合の場合や会社が認めた場合に会社が負担している。業務上使用する資格については、毎月 500~8,000 円の手当を支給しており、毒物劇物取扱責任者 7 名、危険物取扱者 7 名、食品衛生管理者(薬剤師)2 名など、化学薬品に関する知見を持つ人材を有している。
キャリア形成においては、新人層、若手層、中堅層、チームリーダー層、管理者層といった各階層 に応じたキャリアモデルを明示。また、評価基準に基づいた人事評価を行い、従業員のパフォーマンス を正当に評価している。さらに、改善提案やヒヤリハットの提出件数を月単位および年単位で集計し、優れた提案や報告を行った従業員を表彰している。
その他の取組みとして、職場積立 NISA や家族手当(配偶者 5,000 円/月、子 6,000 円/月)など、充実した福利厚生制度を提供している。これらの取組みにより、従業員が安心して働き続けられる環境を整えている。
(2)雇用の多様化
サンワ化学は、性別、年齢、国籍、雇用形態に関わらず、すべての従業員に公平で働きやすい雇用環境を提供している。性別に関しては、採用および昇進、賃金において男女の差別がなく、現在の女性正社員は 6 名、管理職候補として 1 名が活躍している。育児休業の取得率は、直近 3年で男性社員が 3 名(100%)90 日、女性社員が 1 名(100%)355 日と高い水準を確保。同時に、出産支援や育児支援の制度も充実しており、従業員のライフステージの変化に柔軟に対応している。また、製造現場には女性専用の更衣室とトイレを完備しているほか、業務分担についても、重量物の取扱いは男性が担当し、女性は軽作業を中心に行うなど体力に応じて適切に配置しており、性別にかかわらず働きやすい環境を整えることで、多様な人材の活躍を促進している。
年齢に関しては、定年後も契約社員として再雇用し、現在 60 歳以上が 4 名在籍している。再雇用は毎年双方の合意に基づいて更新しており、経験豊富な人材が引き続き活躍できる環境を提供している。また、業務内容および能力に応じた賃金体系を整備し、年齢による定期昇給の範囲を限定的にすることで、年齢による差別を排除している。さらに、体力に応じた業務として、軽作業や場内物流などの業務を提供し、年齢にかかわらず働き続けられるよう支援している。
国籍に関しては、技能実習生 2 名を受け入れ、製造現場に配置している。技能実習生には日本人と同じ賃金形態や労働環境を提供し、国籍による差別を排除している。技能実習生が円滑に業務を遂行できるようサポートを行い、彼らの成長を支援している。
雇用形態に関しては、正社員のほかに契約社員4名(60 歳以上の再雇用者)、派遣社員 6 名、パート・アルバイト 4 名が在籍している。雇用形態による賃金格差はなく、すべての従業員に公平な賃金を提供している。また、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトにも正社員と同様の研修機会を提供し、スキルアップを支援している。
これらの取組みにより、同社は多様な従業員が活躍できる職場環境を提供し、全員がその能力を最大限に発揮できるようサポートしている。
(3)ワーク・ライフ・バランス、働きやすい職場環境
サンワ化学は、従業員のワーク・ライフ・バランスの向上と働きやすい職場環境の整備に積極的に取り組んでいる。まず、ワーク・ライフ・バランスに関しては、36 協定を遵守していることに加え、2023年度の 1 人あたりの月間実質労働時間を前年比約 84 分削減することに成功した。これは勤怠管理システムの導入、時間外労働承認制度の整備および就業規則の変更、一部シフト制の導入によるものである。また、生産ラインやシステム関連の設備導入を予定しており、さらなる省力化を目指している。年間休日は 113 日以上(配送担当は 120 日以上)を確保しており、土曜日は 3 休
日 1 勤務(配送担当は週休 2 日)とすることで従業員の負担を軽減している。さらに、年間休日
は2024 年度より3 年連続で増加させる計画を立てており、社内説明会も実施済みである。2023年度の有給取得率は 77.5%と、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」における平均取得率 62.1%を大きく上回っているほか、育休、産休、介護休暇、子の看護休暇など各種制度休暇を提供している。また、3 歳未満の子を扶養する従業員や家族を介護する従業員に対しては、所定労働時間の短縮処置等を実施している。
次に、働きやすい職場環境の整備に関しては、バックオフィスのテレワーク化を推進している。経費精算や労務管理システムはデジタル化済みであり、2025 年度は基幹システムの変更により完全にテレワーク対応を完了する予定である。また、従業員エンゲージメント調査の実施を予定しており、従業員の意見や要望を積極的に取り入れて働きやすい職場環境の構築を目指している。ハラスメントの防止に向けても、男性 1 名、女性 1 名を任命したハラスメント相談窓口の設置のほか、就業規則に「職場におけるハラスメント防止に関する規定」を明記している。
これらの取組みにより、同社は従業員が仕事と生活のバランスを保ちながら、安心して働き続けられる環境を提供しており、2024 年に健康経営優良法人に認定されている。
(4)労働安全・衛生対策の徹底
サンワ化学では、2017 年より各部からの代表者で構成される安全衛生委員会を設置し、安全周知活動、危険源の特定、リスクアセスメント、工場内パトロール、防災訓練などを実施している。例えば、工場内パトロールでは、毎月 1 回実施し、危険箇所に対して、リスク発生の可能性と危険
度を各 3 段階でマッピングし、優先度に応じて是正措置を講じている。
労災に関しては、創業以来重大な労災は発生していない。業務の中で発生しやすい薬傷に対しては、作業着や手袋を提供するだけでなく、保護具着用責任者を2名任命し従業員向けに啓発活動を行うなど対策を講じている。また、危険物を取り扱う従業員には帯電防止の作業着や靴カバーを配布しているほか、アンモニアや水素など危険物が発生しうる場所の周囲には検知器を設置することで重大な事故を未然に防いでいる。重作業については、2017 年より従業員が作業可能な範囲を最大 20 ㎏までに限定している。また、夏場はファン付き作業着やスポーツドリンク、塩分タブレットの配布、1 時間に 1 回の給水時間を設けることで熱中症を防止している。
危険物の適正管理に関しては、低温 4 類危険物倉庫(低温度域、中温度域)を保有し、化管法 SDS 制度に則った SDS(安全データシート)を全種類作成し、そのうち一般的な基礎化学薬品 22 種類を同社ホームページ上に公開しているほか、エコアクション 21 の枠組みの中で化学薬品を適正管理している。
交通安全については、安全運転管理協会から優良安全管理事業所として表彰を受けているほか、第 35 回セーフティドライバーコンテスト静岡県大会において、個人の部で優勝している。さらに、交通安全週間ではあいさつ運動を実施し、地域の交通安全にも貢献している。
2-4 社会・経済面での活動
(1)有事における事業継続
同社は、事業継続力強化計画を策定し、2022 年に経済産業省大臣より認定を受けた。この計画は、災害時における事業の継続性を確保するための包括的な対策を含んでおり、同社の事業運営における堅牢性と信頼性を高めるものである。具体的には、人命の安全確保や、緊急時体制の構築、被害状況の把握・共有、その他の取組みにおける、初動対応と事前対策について定めている。これにより、静岡県が公表している第 4 次被害想定、地理情報システム(GIS)および袋井市が提供しているハザードマップ、ライフライン被害想定に基づき地域住民の生活に不可欠な排水処理の継続性を確保することを可能としている。
また、従業員の安全確保と緊急時の対応能力向上のため、避難訓練や Slack を活用した緊急連絡網での安否確認訓練などを定期的に実施している。これらの訓練により、全従業員が緊急時の行動手順を熟知し、迅速かつ適切な対応ができるよう準備を整えている。特に、安否確認訓練は、災害発生時に全従業員の状況を迅速に把握するための重要な手段であり、定期的な訓練を通じてその効果を高めている。
さらに、複数の地域からの原料仕入れを行うことで供給リスクを分散している。特定の地域で災害が発生しても、他の地域からの供給を維持することで、製造の中断を防いでいる。また、本社工場には 1.5kVA の自家発電設備を設置し、電力供給が途絶えた場合でも必要な電力を確保している。
現在は、会計システムやクラウドシステムの導入も順次進めており、災害時でも迅速に業務を再開することや、データの紛失、破損のリスクを最小限に抑えることを目指している。今後も、さらなる改善と強化を図り、より一層の信頼性と安全性を追求していく。
2-5 経済面での活動
(1)優れた製品開発力
サンワ化学は、革新的な技術開発を推進するために技術開発室を設置し、市場のニーズに応じた多様な製品ラインナップを提供している。具体的には、工業用から家庭用まで幅広い用途に対応する自社製品および他社製品合わせ 100 種類超の製品を取り扱っている。これらの製品は、紙・パルプ、合成繊維、化学薬品などの中間材系における基本的な化学物質から、洗浄剤系、塗装系、排水処理系、化学プロセス調整系といった専門分野に至るまで、多岐にわたる。同社は、これらの製品を通じて業界の多様な要求に応じた独自のソリューションを提供し続けている。特に、 2017 年には独自の亜硝酸ソーダ粒状体の実用新案を登録し、製品の革新を図っている。この新技術は、より高い効率と安全性を実現し、業界内で高い評価を得ている。こうした取組みにより、同社は常に顧客のニーズに応える製品開発を続けている。
また、ニッチトップを目指した機能性材料の開発と製造に注力している。2012 年には被膜の緻密さや硬さを兼ね備え自動車の外装保護や汚れの防止に優れた効果を発揮する高硬度薄膜コーティング製品トレスマイルⓇを開発。2020 年には日産自動車株式会社と防汚塗料に関する共同特許を取得しているほか、複数の自動車ディーラーの純正コーティング材として採用されるなど外部からも高く評価されている。また、2019 年には、高密着性に優れた工業用コーティング材サンセラゼン
Ⓡや、有害物質を含まないセラミック顔料として蓄光製品のサンホタルナⓇ、高耐候アクリルシリコン樹
脂を使用した耐久性に優れた塗料のサンヒカルナーⓇを開発・商標登録し、幅広い業界へ納入している。
(2)品質管理の徹底
同社は、品質管理の徹底を図るため、品質保証部を設置している。2010 年および 2015 年に ISO9001 マネジメントシステム認証を取得し、品質管理の国際基準を満たしている。品質方針として、PQCDSME(生産性、品質、コスト、納期、安全、モラル、環境)のすべての視点から総合的に品質管理を行うことを掲げている。
不適合製品が発生した場合には、ISO9001 のフローチャートに従い、迅速かつ適切な管理や是正措置および予防措置を講じている。また、管理体制についても継続的に見直しと改善を行い、品質管理の向上に努めている。製品保証の一環として、各ロット単位でサンプルを半年間保管しており、トレーサビリティを確保している。
品質チェックには最新の計測機器を導入しており、pH計、密度計(容量・比重)、滴定装置
(容量・比重)、光学分析機器(成分)を使用して高レベルな品質検査を実施している。これにより、製品の品質を詳細に把握し、高い品質基準を維持。2023年度における検査合格率は 90.1%であり、高い品質を維持していることが証明されている。また、品質を損なわない生産体制を構築しており、製品の保管についても低温4類危険物倉庫を保有し、適切に管理しているほか、出荷前には、ローリー積み込み後の検査を実施し、製品が基準を満たしていることを確認している。これらの取組みにより、同社は顧客に高品質な製品を安定的に供給し続けている。
同社の品質保証体制は、全社的な取組みとして従業員一人ひとりが品質向上に努める文化を醸成している。品質保証部が中心となり、定期的な教育や訓練を実施し、品質意識の向上を図っている。また、同社は顧客からのフィードバックを品質改善に役立てていることで、信頼されるパートナーとしての地位を確立している。
(3)顧客ニーズに合わせた対応
サンワ化学は、豊富な配合ノウハウと高度な設備を活用して、顧客のニーズに合わせた製品の濃度・量の調整を行っている。また、小ロットから大量生産まで幅広く対応できる生産体制を整えているため、顧客の在庫負担を大幅に軽減している。特に、製品の需要が変動する場合や特別な仕様が必要な場合でも、迅速に対応することができる。さらに、2002 年に同社より独立した株式会社旭エンジニアリングとの強固な連携体制のもと、貯蔵タンクや排水処理設備の設置および構内配管工事も請け負っている。これにより、顧客に対して一貫したサポートを提供している。
加えて、フレキシブルな生産体制を構築し他社製品の卸売や受託製造にも対応している。これにより、顧客は自社の設備投資コストを抑えながら、自社ブランド品の製造を行うことができる。特に、新製品の開発や市場投入に際しては、同社の生産能力を活用することで迅速かつ効率的に製品を市場に供給することが可能である。たとえば、同社は毒物劇物製造業や食品添加物製造許可など、7 種類の許認可を取得しているため、顧客が独自に許認可を取得する必要がなく、規制の厳しい業界の顧客においても、スムーズに市場投入ができる体制を整えている。これらの取組みにより、同社は顧客の多様なニーズに応え、信頼されるパートナーとしての地位を確立している。
配送においては、小さな試薬瓶からポリ缶、ドラム、コンテナ、ローリーに至るまで、顧客の要求に応じた梱包形態を提供しているほか、配送範囲は山口県から茨城県まで広範囲をカバーするよう、自社および他社との共同輸送体制を構築している。
以上の取組みを通じて、同社は顧客の事業活動をサポートし、共に成長するパートナーとしての役割を果たしている。
3. 包括的分析
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析
「UNEP FI コーポレートインパクト分析ツール」を用いて、サンワ化学の化学薬品および化学製品の製造を中心に、網羅的なインパクト分析を実施した。その結果、ポジティブ・インパクトとして「健康および安全性」、「食料」、「住居」、「健康と衛生」、「雇用」、「賃金」、「零細・中小企業の繁栄」、
「インフラ」が、ネガティブ・インパクトとして「健康および安全性」、「賃金」、「社会的保護」、「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「土壌」、「生物種」、「生息地」、「資源強度」、「廃棄物」が抽出された。
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定
サンワ化学の個別要因を加味して、同社のインパクトエリア/トピックを特定した。その結果、同社のサステナビリティ活動に関連のあるポジティブ・インパクトとして「水」、「教育」、「セクターの多様性」、
分析ツールにより抽出された インパクトエリア/トピック | |
ポジティブ | ネガティブ |
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個別要因を加味した インパクトエリア/トピック | |
ポジティブ | ネガティブ |
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「水域」を、ネガティブ・インパクトとして「自然災害」、「ジェンダー平等」、「民族・人種平等」、「年齢差別」を追加した。一方で、サンワ化学の主要製品は工業用薬品であるため、ポジティブ・インパクトのうち「食料」、「住居」、「健康と衛生」、「インフラ」を削除した。また、業界平均並みの報酬を支給しているほか、生態系への影響はないため、ネガティブ・インパクトのうち「賃金」、「生物種」、「生息地」は削除している。
<特定されたインパクトエリア/トピック>
インパクト カテゴリー | インパクト エリア | インパクト トピック |
社会 | 人格と人の安全保障 | 紛争 |
現代奴隷 | ||
児童労働 | ||
データプライバシー | ||
自然災害 | ||
健康および安全性 | ― | |
資源とサービスの入手可能 性、アクセス可能性、手ごろさ、品質 | 水 | |
食料 | ||
エネルギー | ||
住居 | ||
健康と衛生 | ||
教育 | ||
移動手段 | ||
情報 | ||
コネクティビティ | ||
文化と伝統 | ||
ファイナンス | ||
生計 | 雇用 | |
賃金 | ||
社会的保護 | ||
平等と正義 | ジェンダー平等 | |
民族・人種平等 | ||
年齢差別 | ||
その他の社会的弱者 | ||
社会経済 | 強固な制度・平和・安定 | 法の支配 |
市民的自由 | ||
健全な経済 | セクターの多様性 | |
零細・中小企業の繁栄 | ||
インフラ | ― | |
経済収束 | ― | |
自然環境 | 気候の安定性 | ― |
生物多様性と生態系 | 水域 | |
大気 | ||
土壌 | ||
生物種 | ||
生息地 | ||
サーキュラリティ | 資源強度 | |
廃棄物 |
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性
サンワ化学のサステナビリティ活動のうち、環境・社会面においては、水を「キレイ」にする製品の販売が、健康および安全性、水、水域(ポジティブの増大)に該当する。環境面においては、省エネへの取組みや太陽光発電による創エネが、気候の安定性、資源強度(ネガティブの低減)に、廃棄物の適正処理やリサイクルの推進、あるいは有害物の漏洩防止や近隣の環境へ配慮している点が、水域、大気、土壌、資源強度、廃棄物(ネガティブの低減)に資する取組みと判断される。
社会面においては、多様な人材を雇用し活躍の場を与えるとともに、従業員の人材育成や多能工化、賃上げ等のモチベーション向上への取組みが、教育、雇用、賃金(ポジティブの増大)に該当する。また、安全・安心かつ健康に働ける環境の整備やワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組みが、健康および安全性、社会的保護(ネガティブの低減)に該当し、女性の活躍・登用や、外国人、高齢者雇用を促進していることが、ジェンダー平等、民族・人種平等、年齢差別(ネガティブの低減)への貢献が認められる。
社会・経済面においては、実効性を伴う BCP を作成し、有事における事業継続を可能にしていることが零細・中小企業の繫栄(ポジティブの増大)および、自然災害(ネガティブの低減)に該当し、優れた製品開発力や、高い品質、顧客ニーズへの柔軟な対応が経済面におけるセクターの多様性、零細・中小企業の繫栄(ポジティブの増大)への貢献が認められると評価される。
3-4 インパクトエリア/トピックの特定方法
「UNEP FI コーポレートインパクト分析ツール」を用いたインパクト分析結果を参考に、サンワ化学のサステナビリティに関する活動を同社の HP、提供資料、ヒアリングなどから網羅的に分析するとともに、同社を取り巻く外部環境や地域特性などを勘案し、同社が環境・社会・経済に対して最も強いインパクトを与える活動について検討した。そして、同社の活動が、対象とするエリアやサプライチェーンにおける環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に最も貢献すべき活動を、インパクトエリア/トピックとして特定した。
4. KPI の設定
特定されたインパクトエリア/トピックのうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、サンワ化学の経営の持続可能性を高める項目について、以下の通り KPI が設定された。なお、モニタリング期間内にKPI の設定年度が到来するものは、その年度において再度 KPI を設定し、測定していく。
4-1 環境面
インパクトエリア/トピック | 気候の安定性(ネガティブの低減)資源強度(ネガティブの低減) |
テーマ | 気候変動対策 |
取組内容 | エコアクション 21 認証取得、太陽光発電による創エネ、営業車両の HV 化、LED 照明・センサーライト導入、混載・デジタコによる配送の効率化、アイドリングストップの励行、同一製品の連続生産による温水洗浄時間の短縮 |
SDGs との関連性 | 7.2 2030 年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる 11.6 2030 年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する 13.1 全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)および適応の能力を強化する |
KPI(指標と目標) | ① 2030 年までに、CO2 排出量を 2022 年度比 10%以上削減させる |
インパクトエリア/トピック | 資源強度(ネガティブの低減)廃棄物(ネガティブの低減) |
テーマ | 適正な廃棄物管理 |
取組内容 | エコアクション 21 認証取得、ISO9001 に基づく是正措置による不良率の低下(2023 年度は不良に伴う製品廃棄ゼロ) |
SDGs との関連性 | 11.6 2030 年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する 12.4 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する 12.5 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する |
KPI(指標と目標) | ① 今後も不良に伴う製品廃棄ゼロを維持する |
4-2 社会面
インパクトエリア/トピック | ジェンダー平等(ネガティブの低減) |
テーマ | 雇用の多様化 |
取組内容 | 採用・昇進・賃金に性別の差別なし、対象従業員の育休取得率 100%、出産・育児支援、製造現場に女性専用の更衣室・トイレ設置、体力に適した業務の提供 |
SDGs との関連性 | 5.1 あらゆる場所における全ての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する 8.5 2030 年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する |
KPI(指標と目標) | ① 2030 年までに、管理職に女性 1 名を登用する |
インパクトエリア/トピック | 健康および安全性(ネガティブの低減)社会的保護(ネガティブの低減) |
テーマ | ワーク・ライフ・バランス、働きやすい職場環境 |
取組内容 | 1 人あたり実質労働時間を月約 84 分削減、生産ライン・システムの導入による省力化、年間休日増加計画の策定、有給休暇取得率 77.5%、経費精算・労務管理のデジタル化 |
SDGs との関連性 | 8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する |
KPI(指標と目標) | ① 2026 年までに、全従業員の年間休日を 125 日以上にする ② 2026 年までに、基幹システムを更新し、バックオフィスでテレワーク可能な就労環境を構築する |
インパクトエリア/トピック | 健康および安全性(ネガティブの低減) |
テーマ | 労働安全・衛生対策の徹底 |
取組内容 | 安全衛生委員会の設置し安全周知活動や工場内パトロールなどを実施、危険箇所の特定および是正措置、創業以来重大な労災発生ゼロ、保護具の提供および保護具着用責任者の任命、危険物の発生個所に検知器の設置、夏場の熱中症対策 |
SDGs との関連性 | 8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する |
KPI(指標と目標) | ① 今後も重大な労災の発生件数ゼロを維持する |
4-3 経済面
インパクトエリア/トピック | セクターの多様性(ポジティブの増大) |
テーマ | 優れた製品開発力 |
取組内容 | 技術開発室の設置、亜硝酸ソーダ粒状体実用新案登録、機能性材料 4 製品を商標登録、日産自動車と防汚塗料に関する共同特許取得 |
SDGs との関連性 | 8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する |
KPI(指標と目標) | ① 2030 年までに 、新規事業創出に向けて大手企業と連携した取組み 3 件と、研究・開発に向けて産学連携した取組み 1 件を実施する |
インパクトエリア/トピック | 零細・中小企業の繁栄(ポジティブの増大) |
テーマ | 品質管理の徹底 |
取組内容 | 品質保証部の設置、ISO9001 マネジメントシステム認証登録 (2010 年、2015 年)、品質方針の策定、ISO9001 に基づき不良に対する予防・是正措置、各種検査機器の導入、製品ロットの保管、品質を損なわない生産体制、低温4 類危険物倉庫保有、2023年度の検査合格率は 90.1% |
SDGs との関連性 | 8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する |
KPI(指標と目標) | ① ISO9001 認証を更新し、高度な品質マネジメントシステムの維持向上に努める |
5. 地域経済に与える波及効果の測定
サンワ化学は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、2030 年の売上高を 30 億円に、従業員数(正社員数)を 50 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この
目標を達成することによって、サンワ化学は、静岡県経済全体に年間 42 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
6. マネジメント体制
サンワ化学では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、代表取締役社長西野勝皓氏を中心に、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動などを棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトエリア/トピックやSDGsとの関連性、KPIの設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、代表取締役社長西野勝皓氏が統括責任者となるとともに、エコアクション 21 事務局が中心となり、KPI 達成のために必要な施策の検討、目標達成のための進捗管理等を行い、PDCA を回していく。エコアクション 21 事務局で検討した内容は、部署ごとの勉強会やミーティング、社内の掲示板や回覧等を通じて全従業員に周知・浸透させ、KPI の達成に向けて全従業員が一丸となって活動を実施していく。
統括責任者 | 代表取締役社長 西野 勝皓 |
担当部署 | エコアクション 21 事務局 |
7. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成および進捗状況については、静岡銀行とサンワ化学の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場などを通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金およびその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持・向上していることを確認する。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行とサンワ化学が協議の上、再設定を検討する。
以 上
本評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行および静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するサンワ化学から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパク ト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者および本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
調査部 研究員 駒野峻大
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階
TEL:054-250-8750 FAX:054-250-8770
第三者意見書
2024 年 8 月 30 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: サンワ化学株式会社に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行がサンワ化学株式会社(「サンワ化学」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定したPIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できること、なおかつネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照している IFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクトエリア/トピックにおける社会経済に関連するインパクトの観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されてい
る。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できること、なおかつネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、サンワ化学の持ちうるインパクトを、UNEP FI の定めるインパクトエリア/トピックおよび SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、サンワ化学がポジティブな成果を発現するインパクトエリア/トピックを有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めたPIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しなが
ら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして
定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人であるサンワ化学から貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
川越 広志 間場 紗壽
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候債イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026