助言義務. 助言義務には明文の規定がないが、二. 2でとりあげた最判平成17年 7 月14日の補足意見(才口裁判官)において、「被上告人のような経験を積んだ投資家であっても、オプシ ョンの売り取引のリスクを的確にコントロールすることは困難であるから、これを勧誘して取引し、手数料を取得することを業とする証券会社は、顧客の取引内容が極端にオプションの売り取引に偏り、リスクをコントロールすることができなくなるおそれが認められる場合には、これを改善、是正させるため積極的な指導、助言を行うなどの信義則上の義務を負うものと解するのが相当である」と述べられている。 また、投資信託に関するものではないが、投資商品の販売業者の助言義務を認めた裁判例として、以下のものがある。
助言義務. 説明義務とは、金融商品取引を行おうとする顧客に対して投資判断に必要と考えられる重要な情報を提供すべき販売者の義務である。ここで対象となる情報は、金融商品の購入や保持にかかる手数料や顧客に損失が発生する可能性の有無などの客観的情報である。 これに対し、助言義務の対象となる情報は、顧客の投資判断が適切なものかどうかの評価に加え、場合によっては顧客を一定の投資行動に向かわせようとする情報である。このよ うな情報は、主観的なものであり、内容も事前に定まるものではなく、当該顧客の状況ごとに定まるものである。 いいかえれば、助言義務は情報提供義務とは別個の概念である。後者は契約締結に不可欠となる重要な事実を契約の相手方に知らせる義務であるのに対し、前者は、専門家として一定の判断を下すことを内容としており、後者よりもワンランク上の義務である。助言義務が問題となる場面は広義の適合性原則の適用場面ということになる(8)。 わが国では、販売業者と顧客との間で助言契約が締結される場合はさほど多くなく、そうでない場合にも販売業者に助言義務が認められるかが問題となる。助言義務には、金融商品の販売、勧誘の局面だけでなく、販売後の側面でも問題となり得る。前者は、金融商品の販売・勧誘時に顧客が購入を決定した金融商品について再考を促す助言を行わなかったことが助言義務違反となるかという形で争われる。後者は相場状況などに応じて、顧客に損失が生じないよう、または損失を最小限に食い止めるよう、当該商品の売却を促す助言を行わなかった点について助言義務違反の有無が問題となる。 裁判例⑫では前者の助言義務違反が、裁判例⑬〜⑮では後者の助言義務違反が認められている。
(1) 専門家としての地位を根拠とする見解、(2)顧客との信頼関係を根拠とする見解がある。
(1) では販売業者は、専門家としての地位に基づき、金融取引において、適合性の原則が問題となる場面において、顧客が自己の財産状態との関係でリスクが過度に高い取引を行おうとしている場合、事業者は顧客に対し、その危険性を説明して、当該取引を行わないよう助言しなければならず、契約の履行過程においても、顧客の判断・行動が顧客の利益を損なう可能性 があることを知り得た場合、事業者は顧客の不足している知識を補い、必要に応じて適切に助言し、警告しなければならないとする(9)。
(2) は、顧客と投資商品の販売業者の間に、既に何等かの取引があった場合(10)には、販売業者と顧客の間にはリスクを伴う投資取引の基礎となるような特別の結合関係があるとして、販売業者には、投資判断に必要な情報を提供するのみならず、顧客のリスクをできるだけ抑え、顧客の投資目的と財産状態により適合した商品を積極的に提示し、場合によっては投資を思いとどまらせたり、より適切な投資商品を推奨することが求められるとする(11)。
助言義務. 投資信託に関するトラブルは、それまで投資経験のなかった高齢者が、突然の投資をして大きな損失を被るというケースが多い。これは、相続や退職金の受け取りで、高齢者層が、若年層よりも構造的に金融資産を多く保有していること、そのような高齢者を販売業者がターゲットとして勧誘をしていることも原因と考えられるが、これまで取引関係のあった金融機関から投資信託を推奨されたことで、商品が意向と一致しないにもかかわらず、顧客が金融機関を信頼して購入に踏み切るケースもあると思われる。ここで、問題となる のが販売業者の助言義務である。 ドイツでは、証券取引法で、明示的に販売業者の助言義務が認められているが、これは、もともとは、銀行に対する顧客の信頼を根拠とする判例法理であった。 わが国においても、少なくとも、販売業者と顧客との間に先行する取引関係があり、リスクを伴う投資取引の基礎となるような特別の関係がある場合には、販売業者に助言義務を認めるべきである。 それ以外の場合には、どのように解すべきか。わが国の裁判例では、一律に助言義務を認めると事業者の負担が重くなりすぎることを理由にこれを否定するものもある。 確かに、低廉な価格で利用できるインターネット取引の利用客にも助言義務を負うとすることは、販売業者にとって過度の負担とも思われる。実際、ドイツではディスカウントブローカーの助言義務が免除されている。わが国の実務においては、同一の販売業者であっても、窓口や電話での取引と、インターネットを利用した取引とで手数料体系が異なる場合がある。ネットのみで取引が完結する場合と、担当者と直接やりとりする場合とでは、顧客の販売業者に対する信頼の度合いも異なることから、前者の場合と後者の場合とで、義務の有無若しくは程度が異なると解することも可能であろう。
助言義務. 情報の提供を超えて助言する義務まで認められる場合。 →専門的な金融取引、医療契約、弁護士との委任契約。