学 説 状 況. 説明義務違反と契約の解除(藤井) 本来,日本民法において契約締結前の当事者間を規律する規定は存在しない。そのため,古くは契約締結過程の問題は不法行為であると考えられてきたが,契約関係に特殊な場面での問題を契約責任として規律すべきであると川島武宜博士が提唱したことを皮切りに36),契約責任に近づけて処理しようとする考えが広まった。 契約責任説につき,cic 責任に倣った解釈がなされることについては戦 前から通説的な認知がなされていたが,理論的な根拠づけについて最初に 輸入したのは松坂佐一博士であるとされる37)。松坂博士によれば,「財貨 の取得を目的とする給付義務の外に,債務関係の発展過程において,相手 方の物的乃至精神的財貨に対する特別な干渉によって生じ得べき損害の防 止を目的とするところの保護義務が発生」することになる。そしてそれは,契約当事者たちが「国家目的に適える財貨の配分という共同目的のために 相互に協力すべき関係にある結果として,債務関係はその当事者間に信頼 関係を成立せしめ」るが,「この信頼関係は給付関係に従属するものでな く,却てこれが地盤をなすものである」38)とされる。つまり松坂博士は, 保護義務の目的を相互の協力関係から発生する「当事者間の信頼」の保護 に求めている。これは,説明義務は契約締結に向かう当事者の信頼関係か ら生じ,その信頼関係が契約関係の「基礎的前提」になっていると理解で きるのではないだろうか。