小 括. 本件贈与契約の錯誤無効又は合意解除により、贈与により取得した財産が贈与前の状態に回復された後に、本件更正処分が行われたものであるから、財産なきところに課税するという事態を招いているのであり、本件更正処分は違法と解すべきである。本判決の論旨は、難解な租税法の解釈適用において、一旦、採用した法律行為が、いかなる場合も「覆水盆に帰らず」という論理であるが、それは、あまりにも過酷な事態を招くことになる。ちなみに、国税庁に長く勤務して、課税争訟及び国税通則法の権威者である堺澤良氏は、「私法ベースでは動機の錯誤に過ぎないとしても租税法の分野でそのことを理由に申告額の是正を拒む根拠はないと考える。」14とされていることを指摘しておく。
小 括. 以上、法制審議会民法(債権関係)部会での「契約の解釈」に関する審議の過程を振り返って検討し、さらにその途上でいくつかの問題点(仮
小 括. 諸外国における消費者保護
小 括. 投資信託をめぐるトラブルは、
1 ) 市場に参入させるべきでない者を市場に参入させたという人的側面に関するトラブル、 2 )顧客と商品のミスマッチに関するトラブル、 3 )市場で販売すべきでない商品を販売したという物的側面に関するトラブルに分類することができる。そして、
1 ) に関連する法理として狭義の適合性原則、 2 )と関連するものとして広義の適合性原則、説明義務、助言義務、
小 括. 説明義務違反の法的性質
小 括. 説明義務違反にかかわる裁判例
小 括. 説明義務違反の法的構成と契約の解除
小 括. 以上が,ドイツと日本における説明義務の基本原理・発生根拠についての議論状況である。 ドイツにおいては上記⑴から⑺の見解が挙げられているが,これらは,
小 括. 以上の流れをまとめると,次のようになる。すなわち,戦前は説明義務違反を不法行為責任として捉えていたが,その後ドイツで cic 責任につい ての議論が盛り上がった時期においてそれが日本にも取り入れられた(松坂,鳩山,我妻説)。その後,研究が進むと(北川,本田説),日本法とドイツ法の違いに着目されるようになり(近江説),やがて不法行為責任説が再び脚光を浴びることとなる(平野,潮見,加藤説)。しかしそれでもなお,この問題を契約責任として捉えることに意義を見出す学説も存在している(平井,宮下,中田説)。 そして,中期まではドイツの議論をいかに日本の民法に落とし込むかに 苦心しており,Ⅱで述べた基本原理についてはほとんど言及されていない。しかし,潮見教授が基本原理を強く意識した上で不法行為責任説を提唱す るようになって以来,基本原理に立ち返って説明義務の理論を検証すべきという認識が強まってきている65)。そして,筆者も基本原理と法的性質の関係は切っても切れない関係にある,つまり基本原理が法的性質を決定すると考えているため,その点では潮見教授の見解に賛同するが,それでもなお,説明義務違反が契約責任を構成する余地は残っているように思う。たとえば,潮見教授のいう上記 1.3.① の,一般的不法行為の認められ る日本においては契約責任と構成する必要がないという理由は,あくまで
小 括. 本章では,説明義務違反の法的性質が問題となった二つの裁判例を検討した。これらは,どちらも「義務違反がなければこのような契約を締結することはなかった」という重大な義務違反が認められている事案である。そうであるにもかかわらず,裁判所の見解は正反対のものとなった。最高裁平成23年判決が,後に成立した契約から遡及して説明義務が生じるとするのは「背理」であるとして契約責任を否定している点については,いささか技術的な論理に偏重しており76),当該義務の重要性を無視しているように感じられる。