考え方. 事業者の損害賠償責任の全部を免除する契約条項や、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項のうち当該事業者の故意又は重過失によるものは、第8条第1項の規定により無効となる。これに対して、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項のうち、当該事業者の軽過失によるものについては、第8条第1項の規定により無効となるものではないが、生命又は身体が重要な法益であることに照らすと、消費者の生命又は身体の侵害による損害賠償責任を免除する契約条項は、本条によって無効となり得ると考えられる。 参考になる裁判例として、事業者が損害賠償責任を負う範囲を、事業者の故意又は重過失に起因する損害以外は治療費等の直接損害に限定する契約条項について、本条の規定により無効である疑いがある旨を判示したものがある(札幌高判平成 28 年5月 20 日判例時報 2314 号 40 頁)。 なお、旅客運送契約については、旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償の責任を免除し又は軽減する特約は無効とする旨の規定が設けられている (商法第 591 条第1項)。 〔事例 10-7〕 消費者の所有権等を放棄するものとみなす契約条項 〔考え方〕 らない一般的な法理と抵触するため、本条の第一要件に該当する。 他方で、賃貸借契約終了後に賃借人が廃棄物を残置した場合のように一定の社会的な必要性がある場合や、賃借人等の明示的な作為をもって意思表示が推定されるような場合、然るべき手続や段階・期間等を経ている場合や、消費者の保護の必要性がある場合等、消費者が権利を放棄する意思表示をしたものとみなす契約条項を一律に不当と評価することが適切でない場合もある。 が考えられるが、このような場合は法律に基づき動産類の処分が有効に行われるのであり、契約条項の効力が問題とされなければならない場面ではないと考えられる。 ● 決定権限付与条項・解釈権限付与条項 第8条及び8条の2の規定に該当しない決定権限付与条項及び解釈権限付与条項であっても、本条の規定が適用されることにより無効となるものがある。 例えば、消費者の権利又は義務を定める任意規定の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する契約条項には、個別の事案によるものの、本条の規定の要件を満たし、無効となり得るものがある。 ● 本条に関連する最高裁判決 事件番号: 平成 21 年(受)第 1679 号 事案概要: 居住用建物をY(被上告人)から賃借し、賃貸借契約終了後これを明け渡したX(上告人)が、Yに対し、同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない 21 万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。Yは、同契約には保証金のうち一定額を控除し、これをYが取得する旨の特約が付されていると主張したのに対し、Xは、同特約は本条により無効であるとして、これを争った。 ※契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて 18 万円ないし 34 万 円を保証金から控除。賃料は月額9万 6000 円。 判示内容: ① 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法 10 条により無効となると解するのが相当。 ② 本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ない し3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を 負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法 10 条により無効であるということはできない。 事件番号: 平成 22 年(受)第 676 号 事案概要: 居住用建物をY(上告人)から賃借し、賃貸借契約終了後これを明け渡したX(被上告人)が、Yに対し、同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない 80 万 8074 円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。Yは、同契約には保証金のうち一定額を控除し、これをXが取得する旨の特約が付されているなどと主張するのに対し、Xは、同特約は本条により無効であるなどとして、これを争った。 ※保証金は 100 万円、敷引金は 60 万円。賃料は、契約当初は月額 17 万 5000 円、更新後は 17 万円。 判示内容: ① 上記判例【1】と同旨 ② 本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており、高額に過ぎるとはいい難く、本件敷引金の額が、近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して、大幅に高額であることもうかがわれない。以上の事情を総合考慮すると、本件特約は、信義則に反して被上告人の利益を一方的に害するものということはできず、消費者契約法 10 条により無効であ るということはできない。 事件番号: 平成 22 年(オ)第 863 号・平成 22 年(受)第 1066 号 事案概要: 居住用建物をY(上告人)から賃借したX(被上告人)が、更新料の支払を約する条項、定額補修分担金に関する特約は、本条によりいずれも無効であると主張して、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料の返還を求めた事案。 ※賃貸借期間は1年。更新料は賃料の2か月分。 判示内容: ① 消費者契約法 10 条が憲法 29 条1項に違反するものでないことは、明らかである。 ② 消費者契約法 10 条は、消費者契約の条項を無効とする要件とし て、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわ ち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当。
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考え方. 事業者の損害賠償責任の全部を免除する契約条項や、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項のうち当該事業者の故意又は重過失によるものは、第8条第1項の規定により無効となる。これに対して、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項のうち、当該事業者の軽過失によるものについては、第8条第1項の規定により無効となるものではないが、生命又は身体が重要な法益であることに照らすと、消費者の生命又は身体の侵害による損害賠償責任を免除する契約条項は、本条によって無効となり得ると考えられる。 参考になる裁判例として、事業者が損害賠償責任を負う範囲を、事業者の故意又は重過失に起因する損害以外は治療費等の直接損害に限定する契約条項について、本条の規定により無効である疑いがある旨を判示したものがある(札幌高判平成 28 年5月 20 日判例時報 2314 号 40 頁)。 なお、旅客運送契約については、旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償の責任を免除し又は軽減する特約は無効とする旨の規定が設けられている (商法第 591 条第1項)契約不適合責任の権利の行使期間については、当該契約内容の特性等により任意規定と異なる定めをすることは許容されるべきであるが、正当な理由なく行使期間を法定の場合よりも不当に短く設定する契約条項は、民法第 566 条(権利の行使期間は事実を知ったときから1年以内)に比べ、消費者の義務を加重するものとして、無効となり得る。 〔事例 10-710-5〕 消費者の所有権等を放棄するものとみなす契約条項 消費者が有する解除権の行使を制限する契約条項 〔考え方〕 らない一般的な法理と抵触するため、本条の第一要件に該当する例えば、電気通信回線の利用契約において、消費者による解除権の行使の方法を電話や店舗の手続に限定する契約条項や、予備校の利用規約等において、消費者の解除事由を限定するとともに、中途解約権の行使の際には解除事由が存在することを明らかにする診断書等の書類の提出を要求する契約条項の使用例が見られる。 他方で、賃貸借契約終了後に賃借人が廃棄物を残置した場合のように一定の社会的な必要性がある場合や、賃借人等の明示的な作為をもって意思表示が推定されるような場合、然るべき手続や段階・期間等を経ている場合や、消費者の保護の必要性がある場合等、消費者が権利を放棄する意思表示をしたものとみなす契約条項を一律に不当と評価することが適切でない場合もある民法第 541 条第1項は、解除の意思表示について法律上一定の方式によらねばらないとするものではないため(谷口知平ほか編『新版注釈民法(13)[補訂版]』 (有斐閣、2010)802 頁)、このような契約条項は本条の第一要件に該当する。このような契約条項が使用され、消費者が解除権を容易に行使できない状態が 生じる場合には、消費者に解除権が認められた趣旨が没却されかねない。他方で、事業者は、消費者が消費者契約を解除する際、本人確認や契約関係の確認を行うため、解除を書面や対面によるものに限る必要性が生じる場面も考えられる。また、解除権の行使方法をあらかじめ定めておくことで、消費者からの解除の意思表示を見逃さずに対応できることや、大量の契約について統一的な手法・手続によることで迅速な事務作業が可能になり、それによって多くの消費者に一定の品質でサービスを提供できるといった、消費者にとってのメリットもあり得ると考えられる。 が考えられるが、このような場合は法律に基づき動産類の処分が有効に行われるのであり、契約条項の効力が問題とされなければならない場面ではないと考えられるこれらの事情を総合考量した結果、本条の第二要件にも該当すると判断された場合には、消費者の解除権の行使を制限する契約条項は無効となり得る。 ● 決定権限付与条項・解釈権限付与条項 第8条及び8条の2の規定に該当しない決定権限付与条項及び解釈権限付与条項であっても、本条の規定が適用されることにより無効となるものがある。 例えば、消費者の権利又は義務を定める任意規定の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する契約条項には、個別の事案によるものの、本条の規定の要件を満たし、無効となり得るものがある。 ● 本条に関連する最高裁判決 事件番号: 平成 21 年(受)第 1679 号 事案概要: 居住用建物をY(被上告人)から賃借し、賃貸借契約終了後これを明け渡したX(上告人)が、Yに対し、同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない 21 万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。Yは、同契約には保証金のうち一定額を控除し、これをYが取得する旨の特約が付されていると主張したのに対し、Xは、同特約は本条により無効であるとして、これを争った。 ※契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて 18 万円ないし 34 万 円を保証金から控除。賃料は月額9万 6000 円。 判示内容: ① 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法 10 条により無効となると解するのが相当。 ② 本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ない し3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を 負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法 10 条により無効であるということはできない。 事件番号: 平成 22 年(受)第 676 号 事案概要: 居住用建物をY(上告人)から賃借し、賃貸借契約終了後これを明け渡したX(被上告人)が、Yに対し、同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない 80 万 8074 円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。Yは、同契約には保証金のうち一定額を控除し、これをXが取得する旨の特約が付されているなどと主張するのに対し、Xは、同特約は本条により無効であるなどとして、これを争った。 ※保証金は 100 万円、敷引金は 60 万円。賃料は、契約当初は月額 17 万 5000 円、更新後は 17 万円。 判示内容: ① 上記判例【1】と同旨 ② 本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており、高額に過ぎるとはいい難く、本件敷引金の額が、近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して、大幅に高額であることもうかがわれない。以上の事情を総合考慮すると、本件特約は、信義則に反して被上告人の利益を一方的に害するものということはできず、消費者契約法 10 条により無効であ るということはできない。 事件番号: 平成 22 年(オ)第 863 号・平成 22 年(受)第 1066 号 事案概要: 居住用建物をY(上告人)から賃借したX(被上告人)が、更新料の支払を約する条項、定額補修分担金に関する特約は、本条によりいずれも無効であると主張して、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料の返還を求めた事案。 ※賃貸借期間は1年。更新料は賃料の2か月分。 判示内容: ① 消費者契約法 10 条が憲法 29 条1項に違反するものでないことは、明らかである。 ② 消費者契約法 10 条は、消費者契約の条項を無効とする要件とし て、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわ ち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当。〔事例 10-6〕 消費者の生命又は身体の侵害による事業者の損害賠償責任を免除する契約条項
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考え方. 事業者の損害賠償責任の全部を免除する契約条項や、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項のうち当該事業者の故意又は重過失によるものは、第8条第1項の規定により無効となる。これに対して、事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項のうち、当該事業者の軽過失によるものについては、第8条第1項の規定により無効となるものではないが、生命又は身体が重要な法益であることに照らすと、消費者の生命又は身体の侵害による損害賠償責任を免除する契約条項は、本条によって無効となり得ると考えられる。 参考になる裁判例として、事業者が損害賠償責任を負う範囲を、事業者の故意又は重過失に起因する損害以外は治療費等の直接損害に限定する契約条項について、本条の規定により無効である疑いがある旨を判示したものがある(札幌高判平成 28 年5月 20 日判例時報 2314 号 40 頁)。 なお、旅客運送契約については、旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償の責任を免除し又は軽減する特約は無効とする旨の規定が設けられている (商法第 591 条第1項)契約不適合責任の権利の行使期間については、当該契約内容の特性等により任意規定と異なる定めをすることは許容されるべきであるが、正当な理由なく行使期間を法定の場合よりも不当に短く設定する契約条項は、民法第 566 条(権利の行使期間は事実を知ったときから1年以内)に比べ、消費者の義務を加重するものとして、無効となり得る。 〔事例 10-710-5〕 消費者の所有権等を放棄するものとみなす契約条項 消費者が有する解除権の行使を制限する契約条項 〔考え方〕 らない一般的な法理と抵触するため、本条の第一要件に該当する例えば、電気通信回線の利用契約において、消費者による解除権の行使の方法を電話や店舗の手続に限定する契約条項や、予備校の利用規約等において、消費者の解除事由を限定するとともに、中途解約権の行使の際には解除事由が存在することを明らかにする診断書等の書類の提出を要求する契約条項の使用例が見られる。 他方で、賃貸借契約終了後に賃借人が廃棄物を残置した場合のように一定の社会的な必要性がある場合や、賃借人等の明示的な作為をもって意思表示が推定されるような場合、然るべき手続や段階・期間等を経ている場合や、消費者の保護の必要性がある場合等、消費者が権利を放棄する意思表示をしたものとみなす契約条項を一律に不当と評価することが適切でない場合もある民法第 540 条第1項は、解除の意思表示について法律上一定の方式によらねばらないとするものではないため、このような契約条項は本条の第一要件に該当する。 が考えられるが、このような場合は法律に基づき動産類の処分が有効に行われるのであり、契約条項の効力が問題とされなければならない場面ではないと考えられるこのような契約条項が使用され、消費者が解除権を容易に行使できない状態が生じる場合には、消費者に解除権が認められた趣旨が没却されかねない。他方で、事業者は、消費者が消費者契約を解除する際、本人確認や契約関係の確認を行うため、解除を書面や対面によるものに限る必要性が生じる場面も考えられる。また、解除権の行使方法をあらかじめ定めておくことで、消費者からの解除の意思表示を見逃さずに対応できることや、大量の契約について統一的な手法・手続によることで迅速な事務作業が可能になり、それによって多くの消費者に一定の品質でサービスを提供できるといった、消費者にとってのメリットもあり得ると考えられる。 ● 決定権限付与条項・解釈権限付与条項 第8条及び8条の2の規定に該当しない決定権限付与条項及び解釈権限付与条項であっても、本条の規定が適用されることにより無効となるものがあるこれらの事情を総合考量した結果、本条の第二要件にも該当すると判断された場合には、消費者の解除権の行使を制限する契約条項は無効となり得る。 例えば、消費者の権利又は義務を定める任意規定の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する契約条項には、個別の事案によるものの、本条の規定の要件を満たし、無効となり得るものがある。 ● 本条に関連する最高裁判決 事件番号: 平成 21 年(受)第 1679 号 事案概要: 居住用建物をY(被上告人)から賃借し、賃貸借契約終了後これを明け渡したX(上告人)が、Yに対し、同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない 21 万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。Yは、同契約には保証金のうち一定額を控除し、これをYが取得する旨の特約が付されていると主張したのに対し、Xは、同特約は本条により無効であるとして、これを争った。 ※契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて 18 万円ないし 34 万 円を保証金から控除。賃料は月額9万 6000 円。 判示内容: ① 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法 10 条により無効となると解するのが相当。 ② 本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ない し3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を 負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法 10 条により無効であるということはできない。 事件番号: 平成 22 年(受)第 676 号 事案概要: 居住用建物をY(上告人)から賃借し、賃貸借契約終了後これを明け渡したX(被上告人)が、Yに対し、同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない 80 万 8074 円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。Yは、同契約には保証金のうち一定額を控除し、これをXが取得する旨の特約が付されているなどと主張するのに対し、Xは、同特約は本条により無効であるなどとして、これを争った。 ※保証金は 100 万円、敷引金は 60 万円。賃料は、契約当初は月額 17 万 5000 円、更新後は 17 万円。 判示内容: ① 上記判例【1】と同旨 ② 本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており、高額に過ぎるとはいい難く、本件敷引金の額が、近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して、大幅に高額であることもうかがわれない。以上の事情を総合考慮すると、本件特約は、信義則に反して被上告人の利益を一方的に害するものということはできず、消費者契約法 10 条により無効であ るということはできない。 事件番号: 平成 22 年(オ)第 863 号・平成 22 年(受)第 1066 号 事案概要: 居住用建物をY(上告人)から賃借したX(被上告人)が、更新料の支払を約する条項、定額補修分担金に関する特約は、本条によりいずれも無効であると主張して、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料の返還を求めた事案。 ※賃貸借期間は1年。更新料は賃料の2か月分。 判示内容: ① 消費者契約法 10 条が憲法 29 条1項に違反するものでないことは、明らかである。 ② 消費者契約法 10 条は、消費者契約の条項を無効とする要件とし て、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわ ち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当。〔事例 10-6〕 消費者の生命又は身体の侵害による事業者の損害賠償責任を免除する契約条項
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