適合性原則と説明義務. わが国における適合性原則は、もともと、業界の自主ルールであったが、証券監督者国 際機構(IOSCO)の原則を受けて立法化され、その後若干の改正を経て金融商品取引法により強化された。現在の金融商品取引法40条 1号は、「金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること」のないように業務を行わなければならないとしている。また、消費者基本法 5 条 1 項 3 号では、事業者の義務として消費者との取引に際し、消費者の知識、経験、財産の状況に配慮することが求められている。このように、適合性原則は公法上のルールとして発展してきたが、最判平成17年 7 月14日 (民衆59巻 6 号1323頁)は、「適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為上も違法となるとするのが相当」として、民事上も一定の効果があることが示された。そして、考慮すべき顧客の属性として、投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素が挙げられた。 適合性原則には、狭義と広義があるとされる。狭義の適合性原則とは、ある特定の利用者に対してはいかに説明を尽くしても一定の商品の販売・勧誘を行ってはならないとのルールである。言い換えれば、一定の商品の市場に参加させるべきでない者の存在を想定しており、説明義務は問題とならない。これに対し、広義の適合性原則は、説明義務と合わせて要請される。 投資信託についての裁判例で、適合性原則違反のみを認めたものとして以下のものがある。