おわりに. 本稿においては,日本のメインバンクが今もなお大きな存在感をもっているとの認識をもとに,メインバンクが今日において果たしている機能を考察した。まず,アンケート調査とインタビューの結果から,メインバンクが二種類のリスクヘッジ(資金調達リスクのヘッジ,倒産リスクのヘッジ)機能をもつと考え,それらを関係的契約(relational contract)のアプローチを用いてモデル化した。そのモデルを分析することによって,メインバンクが企業の財務リスクをヘッジすることが暗黙の(非公式の)合意として存在しうること,またこの暗黙の合意は両者の長期的な関係によって保持されることを示した。 このモデル分析の結論から,日本のメインバンク関係を見る上でいくつかの有益な知見が得られた。まず,最も注目すべきこととして,金融市場の自由化,国際化の進展が,メインバンクのリスクヘッジ機能を強めるという理論予想が得られたことである。この予想は,これまでの通説(Mayer 1988,Aoki 1994,Rajan and Zingales 2003等)とは逆のものである。しかし,近年の日本企業へのアンケート結果や企業・銀行へのインタビュー結果からすると,この理論的予想は現実妥当性をもつように思われる。 また,本稿のモデルの結論は,メインバンクの支援・救済といえども,全ての企業に一律に行われるのではなく,それが将来の収益性の高い企業に選択的に行われている可能性を示している。このことは,近年の実証分析の結果(福田・鯉渕(2004),大村・水上(2007),中村・福田(2008))とも整合的であり,メインバンクの支援・救済を「追い貸し」「過剰救済」とする通説(星(2006), Peek and Rosengren(2005)など)に疑問を投げかけるものである。 日本のメインバンク関係を,企業・銀行間のリスクヘッジに関する関係的契約(relational contract)ととらえる見方は,双方が相手との関係を維持するかどうかを過去の取引実績のみならず将来のメリットの大きさによっても決め るという意味で,2-3節で紹介したインタビューの結果と整合的である。またこの見方に立てば,メインバンク関係のリスクヘッジ機能は,金融市場の規制によって支えられているものではなく,競争的な市場のもとでの企業・銀行の長期的利益の最大化行動によって生じたものだということになる。そしてもしそうであるならば,金融のグローバル化のいっそうの進展のもとでも,メインバンクのリスクヘッジ機能は今後も維持される可能性が高いと考えられるのである。
おわりに. 再生可能エネルギー業界では、プロジェクトに伴うリスクおよびコストを軽減する方法として、 EPC 契約の普及が進んでいます。EPC 契約の主要な要素や法的条件を理解することは、プロジェクトを成功させるために重要です。さらに、EPC コントラクターがプロジェクトのすべての要件を満たしていることを確保するために、契約を有効に管理するシステムを導入することが重要です。このような手順を踏むことは、企業が、再生可能エネルギープロジェクトを、リスクヘッジしながらも、予定通りかつ予算内に確実に完成させるために不可欠といえます。
おわりに. 秘密保持契約は、企業がビジネス上必須に締結するべき契約であるが、現実に秘密保持を実現するためには、まだまだ多くの条項について研究の余地があるように思われる。今回取り上げた他にも、秘密情報が漏洩したと疑われる場合に相手方の調査の協力を求める 「調査協力義務」や、受領者の関係会社や親族が経営する会社が、秘密情報と同一の情報を利用した場合に「秘密情報の漏洩を推定する規定」、秘密情報の漏洩があった場合の「損害額の推定規定」など、研究の余地は多い。すべての秘密保持契約に、厳格な条項を採用することは柔軟なビジネス交渉を妨げると考えるが、開示が予定されている秘密情報の重要性やビジネスの進捗段階によっては、秘密情報を保護するために最大限の努力をするべく、条項の積極的な研究をする必要があるように思われる。
おわりに. 保険契約の射倖契約性の問題は,改正前に存在した射倖契約の定義規定問題(旧1104条と旧1964条とのズレ),保険契約は民法典の定める射倖契約の定義に合致するのかという問題,保険契約と性質決定するための要素は何かという問題が複雑に絡んでいるために,議論がまさに錯綜しているのだと思われる。 2016年改正によって射倖契約の一つとして保険契約を掲げていた旧1964条が削除され,旧1104条も1108条に形を変えた。しかし,この改正は,保険契約の射倖契約性に関する議論に終止符を打ったわけではない。定義規定のズレ問題は解消されたものの,1108条の解釈次第では,保険契約が実定契約か
おわりに. 本稿では、通則法の下で、労働契約にたいする適用法規がいかにして決定されるかを示したのち、具体的な事案との関連で適用法規の決定のあり方および決定結果に変化がみられるかを検証しようとした。かりに、これまでに問題となった事案が通則法の下で処理されるとしても、適用法規いかんにはそれほどの変更が生じるわけではない。とはいえ、準拠法規決定にいたるプロセスは大きく異なる。 準拠法の問題に触れたこれまでの裁判例のうち、最も多くみられたのは、当事者による黙示の法選択を認定したものである。これらは、当事者の意思の懲表となる要素にもとづき当事者の意思を確定するというよりも、むしろ特定国との関連性を示す客観的要素に基づき契約関係と密接に関係する地を求める傾向にあったといえる。ついで多くみられたのは、日本法を直接的に適用した裁判例である。とくに、強行法規の連結方法が2 分類であった法例の下では、法例7 条の規定の指定対象になるのを回避すべく、日本の労働法規を国際的強行法規として属地的に適用したとみられる裁判例も存在した。適用法規の決定方法にはかならずしも一貫性がなかった。 通則法の下では、黙示の法選択を従来よりも厳格に認定し、また、直接的に適用されるべき労働法規を精査しなければならない。これにより、準拠法の決定プロセスがこれまでよりも明確になり、適用方法にも一貫性がうまれると考えられる。通則法の下で労働契約の適用法規は、次のようにして決定される。
おわりに. 本章では、中国における瑕疵担保責任法の比較法的特徴をまとめた上で、日本法、特に現在進行中の民法(債権関係)改正との比較を行っている。
おわりに. かつて承諾前死亡が検討された際には、背景として、 保険契約の成立段階において、 保険契約者となるものの申込みから保険会社の諾否 1 1 1 なお、自説に従った場合、当初の契約申込み時点において、特別条件付契約の締結の意思が存在していたものとみなせない場合には、保険 者の変更承諾義務を否定するだけでなく、保険者が変更承諾を行ったの ち、保険契約者が条件付契約について承諾の意向を表明するまでの間に 承諾前死亡が発生した場合にも保険金支払いを否定すべきではないかが 問題になる。この場合、保険者の契約自由の原則に対する侵害はないことをもって保険金支払いとすべきか 、保険法 39 条 1 項との関係を重視し て原則として保険金不支払いとすべきかは、今後の検討課題としたい。 変更承諾義務を否定する見解の中でも、こうした場合は保険金支払いを 認めるべきであるとする見解(潘・前掲(注 13 ) 9 頁)と、今後の検討 課題とする見解(溝渕・前掲(注 14 ) 21 頁) がある。なお、いずれにせ よ、実務においてこうした場合に変更承諾の撤回を行わないこと、保険 契約が無効であることを主張しないことは可能であると考える。 の決定までに時間がかかることから、その間の保険契約者側の保護の 必要性が高いことがあった。 しかし、 現在では、 保険会社の IT 技術の採用等により、 申込み・告知情報の契約引受部門への即時報告等が行われ、保険会社内のネッ トワーク構築などにより内部決定の迅速化が図られ、以前に比べ保険 契約者の申込みから保険者の承諾までの所要時間は、大幅に短縮でき ており、 その結果、 承諾前死亡の発生件数は、以前に比べ大きく減少 している。 そのため、 現在では、承諾前死亡の論点について、以前と異なり、あまり政策的な考慮をすることなく理論的に検討することが できるものと考えている。 一方で、特別条件付契約については、契約者に対する丁寧な説明が 必要であり、また、 丁寧な説明により契約者の納得さえ得られれば、 健康状態等から保険加入のニーズは高いだけに、契約成立に至る場合 も一定あるものと思われ、いたずらにスピードばかりが求められるも のでもないと考える。 しかしながら、 いずれにせよ承諾前死亡が生じることは保険契約 者・保険会社双方にとって好ましいことではないので、 保険会社とし ては 、今後も不 断の努力を重ね 、契約 成立にかかる所要時間を短縮し、 承諾前死亡が発生しないよう努力していくことが必要であると考える。
おわりに. これまでの章において,排他的取引契約を用いることにより,新規参入企業が排除される可能性があるかどうかを中心に考察をしてきた。 基本的なモデルはOki and Yanagawa (2011b) に依拠して行っている。特に,既存研究において,排他的取引契約を提示する相手は,その企業がいる下流の市場に対して行われた研究が中心であった。しかしながら,Oki and Yanagawa (2011b) では,流通業者から,自社より上流にある生産者に対して排他的取引契約を提示するモデルを考案した。ここでの研究は,そのような状況において,排他的取引契約が新規参入企業を排除する可能性を様々な観点から,考察を行った。以下で各章に関して,簡単に要約を行う。
おわりに. わが国の任意後見制度においても、移行型においては、財産管理契約が任意後見契約の発効までの間のつなぎとなり、将来型においては、見守り契約が信頼関係の構築のために重要な役割を果たしうる。今後、任意後見制度がさらに普及して行くに伴い、一層注目を集めて行くことが予想されよう。また、任意後見契約受任(予定)者でない者が見守り契約、財産管理契約を受任する場合ともありうるが、信頼関係を築くことができれば、ここから任意後見へと移る可能性も高い。財産管理契約と見守り契約の役務内容の明確化と質を担保してゆくことが、わが国における任意後見制度の普及のためにも必要であり、これら全体が制度として発展することが期待される。 見守り契約の濫用の危険、利益相反など、成年後見人等の権限濫用に準じたリスクがある。これについては、見守り受任者を監督する者を設置すること、見守りを複数人で行うこと、組織を備えた法人によって見守りを受託するようにすること、また、地域の連携による相互の監視といった、従来成年後見制度にかかる議論において指摘されたことが参考になるように思われる。 見守り契約も財産管理の側面を有し、財産管理契約も見守りの側面を有する。支援の基本において代理権を伴うか否かは民法理論に関り、両契約の独自性が追求されるべきである。もっとも、両者とも「身上監護のための財産管理」を基本とするべきと考える。その意味で、両契約の差異は究極的には相対的なものであると捉えたい。 地域連携については、見守り契約の受任者が、地域の医療・福祉関係者と協働して行くことこそが、見守り契約の大きな存在価値であると考える。そのような実務の発展、仕組みづくりが肝要である。見守り契約、財産管理契約は、成年後見制度や他の制度、民間のサービスとも相まって、地域の連携を促すなど、地域社会によりよい効果を及ぼすものと期待される。これらの実務の積み重ねが地域における多種多様な取り組みと綿密な関係を結ぶこと、そのために、柔軟な発想で社会のリソースを上手く活用して行くことが鍵となるであろう。 見守り契約、財産管理契約ともに、受任者に支払う報酬の問題もあり、残念ながらすべての高齢者が利用できるわけではない。しかし、社会において一定のニーズも確かにあり、地域における「見守り」のありかたの一つとして今後とも果たすべき役割は大きい。
おわりに. パブリシティ権が人格権であれば、死亡とともに消滅する。しかし、死者の肖像等が顧客吸引力を有する場合はあり、 その商業的価値の帰属はピンク・レディー事件最高裁判決の理論構成では導けない。 ほ おそらく今後は、パブリシティ権を財産権としてとらえるにはどうすればよいのかという議論の方向性が強まると考えられ、本判決はその議論における橋頭堡となる可能性がある。今後の裁判例の動向を引き続き注視する必要があるだろう。 (すわの おおき)