問題の所在. 長らく続く超低金利および超高齢化社会の到来により、老後資金の確保が国民にとって重要な課題となり、投資信託に対する社会的関心が高まっている。2011年に90.1兆円だった投資信託の純資産総額は、おおむね右肩上がりに増加し、2018年には206.1兆円に達している(1)。その一方で、投資信託をめぐるトラブルも多数発生している。2015年から2018年にかけて、国民生活センターの PIO-NET に寄せられた投資信託に関する相談件数は、年間数百件から千件以上に及ぶ(2)。 経済的にゆとりがなく、リスク耐性のない顧客や、高齢、病気などにより理解力が必ずしも十分でない顧客が勧誘を受けて商品を購入したり、元本保証の商品ではないにもかかわらず、元本が保証されると誤解して投資したり、低リスク商品であるとの説明を受けていたにもかかわらずハイリスクで元本割れした、手数料が想定外に高額だった、事業者が高齢者の顧客に対して社内ルールを守らない方法で勧誘・販売を行うなど、様々なトラブルが発生している。また、特別分配金は元本 の払い戻しであるにもかかわらず、その説明が十分ではなく、分配金の水準がファンドの実績を示すものだと顧客が誤解するなどのトラブルもある。 特に、投資経験のない高齢者が、販売業者に勧められるままに、多額の退職金を投資して、老後資金が大幅に目減りしてしまうことがあると、深刻な問題となる。 一方、年金制度の先行きが不透明な中、今後も資産運用に関する国民の関心はますます高まっていくことが予想されることから、投資信託契約の適正化を図ることが急務である。
問題の所在. 🎧研究の対象と意義
問題の所在. VAG 第 10a 条
問題の所在. 1. 日本法の状況 従前、わが国の保険業法では、保険契約締結の際の保険会社・保険募集人等の情報提供義務は積極的な行為義務としては定めず、保険契約の契約条項のうち、重要な事項を告げない行為が禁止されるという禁止規定の形で情報提供義務が定められていた(平成 26 年改正前保険業法 300 条 1 項 1 号)(1) が、平成 26 年保険業法改正では、情報提供義務が正面から規定されることとなった(2) 。 保険業法で積極的な情報提供義務の規定が置かれた一方で、保険業法における情報提供義務と私法上の情報提供義務との関係は依然として未解決のままである。この点、取締法規における義務と私法上の義務とは別のものとしつつ、取締法規で
(1) 山本哲夫「顧客への情報提供義務」ジュリスト 1490 号(2016 年)14 頁。
(2) 山本・前掲注 1・14 頁。
問題の所在. 保険約款に失効保険契約の復活請求時における告知義務の定めがあり,復活請求期間が⚓年とされている場合に,失効時から例えば⚒年経過後に復活手続がとられたときに,保険契約者等に告知義務を課し,契約失効後の保険事故の発生可能性の変動状況につき保険者に対する告知をさせることは合理的であろう。この場合,保険契約者等が復活に係る告知事項につき故意または重大な過失により事実の告知をせず,または不実の告知をしたときは,解除阻却事由が認められない限り,復活した保険契約(以下,⽛復活契約⽜と
28) 洲崎・前掲注6)244頁(注7)。判例でこの点を明言するものとして,例えば,東京地判平成23年⚖月30日・前掲注16)。
問題の所在. 昨今、先に加入していた個人保険契約から入院給付金や手術給付金の支払いを受けている被保険者が新たに団体信用生命保険契約に加入するにあたり、当該事実を告知しなかった場合には告知義務違反が成立するが、保険者の過失不知(保険法 55 条 2 項 1 号)にあたるのではないかということが問題となっている。
問題の所在. 判例は、錯誤を理由とする意思表示の無効は、誤解をしていた表意者のみが主張でき、相手方は主張できないと判示 ⇒通常の無効とは異なる扱い (例えば、売買契約において買主に錯誤があるケースでは、買主は無効を主張できるが、売主は無効を主張できない。)
問題の所在. 承諾前死亡は,保険契約の成立前に発生した保険事故に対して保険契約の本来的な給付事由である保険金支払いを行うかという問題である。したがって,一般的な契約法理に従うのであれば,契約が成立していない以上,契約当事者が契約上の履行義務を負うことはないし,契約するかどうかは自由に決定することができる(契約自由の原則,民法521条⚑項)ことになる。 この点,生命保険契約において,承諾前死亡の場合に,保険金支払いを認める考えは,生命保険契約の責任開始時期に関する約款条項を前提とする。生命保険契約においては,契約上の責任開始に関し,次のような条項6) が設けられていることが一般的である。
問題の所在. 生命保険契約の申込みを受けて,保険会社は,告知書扱契約においては告知書の告知内容,診査医扱契約においては,診査結果等を基に当該被保険者の健康状態等を査定し,超過死亡率を算出する。その結果,標準体であれば契約を引受け,謝絶体であれば契約の引受けを謝絶し,特別条件を付せば引受け可能な場合には,契約者にその条件を付した形で契約を締結するか意思確認を行った上で契約者の承諾が得られれば,条件付契約として成立する。契約の条件には,いくつか種類があり,超過死亡率に応じて割増保険料を
問題の所在. 契約は、「その契約上の債権債務関係(以下では、「契約関係」と称する)が発生しなくなったとき」(例、賃貸借契約の期間の満了、解約申入れなど)には当然に終了する。また、「その契約上の債務の履行が完了したとき」にも終了する。ただし、この場面では、「主たる債務が履行されたとき」(例、売買目的物の引渡し、代金の支払いなど)の他、「従たる債務が履行されたとき」(例、売買目的物の据え付 法律論叢 91 巻 2・3 合併号 (付随的義務・保護義務の履行)など、段階的な局面として捉えられる(1) 。さらに、なされた履行が契約内容に適合しなかったり、不履行に基づき契約が解除されたような場合には、原状回復義務や損害賠償債務なども発生するが、この債権債務 関係と当初の契約関係との関連性も問題となる。このように、「契約の終了」概念や終了へ向けたプロセスは、一義的には定まらない(2) 。 他方で、ある契約の終了原因が発生した場合に、契約関係の解消・清算という方向へ向かうのではなく、当初予定していた契約関係ないし契約利益を可能な限り維持・確保する方向での法的処理も考えられる。このような志向は、一般に「契約の尊重(favor contractus)」と称され、後述するように、近時の国際取引法規律の 検討を通じて注目されてきた思想である(3) 。「契約の尊重」の思想からは、例え ば、契約の成立に関して申込みと承諾の完全な一致は要件とされず、原始的不能も契約の無効原因とはならず、契約の解除に関しては、可能な限り本来的な履行請求権(催告)を義務づけて契約関係を維持し、解除権の発生には「重大な不履行(重大な契約違反)」という厳格な要件が課される。また、いわゆる事情変更やハードシップ(履行困難)が生じた場合の再交渉義務や契約改定権の承認、不完全な履行 に対する債権者による追完請求権や債務者の追完権(治癒権)の付与等の契約法規範が導かれる(4) 。このように、「契約の尊重」は、契約の不成立・無効・解除など