まとめ. 普通建物賃貸借契約のうち、良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則3条の適用により、借地借家法第38条(定期建物賃貸借)が適用されない契約は、同条の施行日(平成12年3月1日)より前に締結された住居用建物の賃貸借契約であり、本裁判で、賃借人の主張は独自の見解として採用できないとされたものである 他方、住居用の賃貸借契約においては、賃貸人が、賃借人と立退き交渉を行い、隣接する貸主所有建物に転居して貰った上で、定期建物賃貸借契約を交わしたとして、賃借人に建物明渡しを求めた事案において、定期賃貸借契約とは言えないとして請求が棄却された事例(東京地裁 H26・11・20 RETIO100-136)もあるので、参考とされたい。
まとめ. 本判決では、買主の地位の譲渡契約を締結したものの引渡日までに契約条件である建物取壊し・更地引渡しができなかった事案について、その後、地位の譲渡人と譲受人が、代替物件の売買契約の協議を進める旨の協定書を締結するなどしたとしても、譲渡契約の違約金の免除の合意は推認できないとしたものである。
まとめ. 本件は、居抜き物件における原状回復義務について、賃貸借契約書には「内装、設備を撤去して本件貸室を原状に復し」とだけ記載されていたため、復すべき「原状」の内容を巡って紛争となった事案である。
まとめ. 事務所賃貸借契約において、借主が保証金を支払い契約書締結前に解約した場合に契約成立となるかが争われ、契約の成立及び貸主の損害賠償請求が否認されたものである。 本件では借主の「契約締結上の過失」までは認められないとされたが、同種事案で、過失が認められたケースもあり(貸主側の過失 RETIO No58東京高判H14.3.13/借主側の過失RETIO No66東京地判H18.7.7/借主側の過失RETIO No73 東京高判 H20.1.31)、併せて実務上の参考になると思われる。 最近の判例から 眈 -心理的瑕疵- (東京地判 平23・1・27 ウエストロー・ジャパン) 太田 秀也 賃貸人が、賃借人に対し、入居者であった賃借人の長女が学生向け賃貸マンションの貸室において自殺したことが、善管注意義務違反にあたるとして損害賠償請求をした事案において、履行補助者による故意過失として、賃借人に対し、賃料等の差額分、内装工事代金、供養費用の賠償責任を認め、請求を一部認容した事例(東京地裁 平成23年1月27日判決 一部容認 控訴(控訴後和解) ウエストロー・ジャパン)
まとめ. 本事例は、都市部(神奈川県川崎市)の学生向けの賃貸マンションにおける賃借人の長女(履行補助者)の自殺事故について、履行補助者による故意過失として、賃借人の債務不履行責任を認めた上で、その損害賠償の範囲として、①新たな賃貸借契約が締結されるまでの賃料等相当額並びに新契約の当初の2年分及びそれ以降で学生が通常において賃貸物件を探すピークである翌年3月までの5ヶ月の間の賃料等の差額分(合計約128万円)、
② 本件貸室貸室内全体に悪臭があったことから、ルームクリーニング及びクロス全体の張替として内装工事代金(約22万円)、③供養費用(約5万円)について、借主(父)の損害賠償責任(合計約155万円)を認めた事例であり、特に賃料の逸失利益分については、原告である賃貸人は6年分を請求していたのに対し、上述のように期間を限定(全体で約 2年9ヶ月)して認めている点など、賃貸住宅における自殺に係る損害賠償の範囲を認定した事例として参考となるものである。 なお、賃貸住宅における自殺に関しては、本誌次号掲載予定の「賃貸住宅における自殺に係る損害賠償責任に関する一考察」をあわせて参照されたい。 (総括主任研究員) 最近の判例から 眇 -心理的瑕疵- (東京地判 平22・12・6 ウエストロー・ジャパン) 太田 秀也 賃貸人が、賃借人が貸室の浴槽内にてリストカットにより自殺をしたことにより損害を被ったとして、賃借人の相続人に対し損害賠償を求めた事案において、ユニットバス交換費用、賃料減額分の損害について賠償責任を認め、請求を一部認容した事例(東京地裁平成22年12月6日判決 一部容認 確定 ウエストロー・ジャパン)
まとめ. 本事例は、賃貸住宅の浴室における借主の自殺事故(リストカット)について、相続人
まとめ. 本事例は、契約書の解釈により、保証委託料が入金されない場合には保証委託契約は更新されず保証期間満了により終了したと認定した事例として参考となるものであるが、他方で、賃貸借契約が更新された場合には保証委託契約も更新されるとして保証委託料の支払を命じた事例(東京地判平成21年10月15日 WL)もあり、また本契約の条項の本来の趣旨は保証委託料の支払がされない場合でも保証委託契約が継続するという保証委託者の便宜のための条項とも考えられることからも、本判決の判断が一般的に妥当するものであるとは必ずしも言えないのではないかと考えられ、留意が必要と思われる。 最近の判例から 眩 -不法取立行為- (大阪地判 平22・5・28 ウエストロー・ジャパン) 石原 賢太郎 家賃を滞納していた借家人である原告が、家賃保証会社である被告の従業員から違法な取立行為等を受けたなどとして、損害賠償を求めた事案において、従業員は、「督促状」という表題だけを見えるようにした書面を原告の居室の玄関ドアに貼り付けたことなどが認められ、社会通念上相当とされる限度を超える違法な取立行為であるなどとして、請求を一部認容した事例(大阪地裁 平22年5月 28日判決 一部変更、一部棄却 ウエストロージャパン)
まとめ. 本事例は、家賃を延滞した原告が、被告保証人により強制退去させられた事案において、原告の制止を無視して家財道具等を搬出・処分して強制退去を行った行為は不法行為を構成し、保証人が振るった暴力は過剰防衛に当たるとして請求を一部認容し、他方で賃貸管理業者、賃貸人、家賃保証会社の責任については否定した事例である。 本事例において、保証人であるY1が不法行為責任を問われたことは、その行為の内容から当然であると考えられるが、他方で、賃貸管理会社であるY3は責任を問われていないものの、Y1に鍵を渡すなどY1の明渡し行為を容認しているとも考えられる面も見受けられることから、慎重な対応が必要であったとも思われる。いずれにしても、賃貸住宅契約における(連帯)保証については、当機構にも賃借人が行方不明になってしまった場合の連帯保証人の責任、その責任が過度にならないような方策などについて相談が寄せられるところでもあり、今後とも裁判例等を注視していく必要があると思われる。 (調査研究部調査役) 最近の判例から 眞 -契約の解除- (東京地判 平22・5・13 ウエストロー・ジャパン) 古本 隆一 店舗を賃借していた借主が、貸主に無断で外壁を塗装したり、建物の内装を行ったりしたため、信頼関係を失ったとして、契約の解除、建物の明け渡し、賃料相当損害金の支払いを求めた貸主に対し、契約解除と建物明け渡しは認め、賃料相当損害金の支払いの請求は棄却した事例(東京地裁 平22年5月13日判決 一部認容 ウエストロージャパン)
まとめ. 賃貸借契約では、様々な禁止事項が課せられ、賃借人は、これを遵守する義務がある。本件は、賃借人が契約書を全く理解していなかったか、遵守する気がなかったかであり、いずれにしても信頼関係が破壊されたとの本判決は、妥当なものといえよう。本件は、事業用賃貸の案件であるが、住宅賃貸においても参考となる判決である。 (調査研究部調査役) 最近の判例から 眥 -契約の解除- (東京地判 平22・2・24 ウエストロー・ジャパン) 松木 美鳥 貸主は、一軒家を賃貸していたところ、借主は約定に違反してフェネックギツネを飼育しており、飼育の停止を求めたが、その後も飼育を続けたため、貸主は借主に対し、賃貸借契約を解除したとして、賃貸借契約終了に基づき本件建物の明渡しを求めた事案において、貸主が本件賃貸借契約の停止期限付解除の意思表示をした時点で本件賃貸借契約における当事者間の信頼関係が破壊されているから、貸主の解除の意思表示は有効であるとして、請求を認容した事例(東京地裁 平成22年2月24日判決 認容 ウエストロー・ジャパン)
まとめ. 本判決は、貸主の飼育行為停止の要望を聞き入れずにフェネックギツネは家族同然であるとしてその後も本件飼育行為を継続したことが明らかであることなどを、信頼関係が破壊されていたことを窺わせる事情として指摘し、賃貸借契約における当事者間の信頼関係が破壊されているというべきであり、貸主の解除の意思表示は有効であるとした事例であり、同種事案の参考となろう。