Common use of 判決の要旨 Clause in Contracts

判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)。 本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである。 そうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。 A主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る。 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした。

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設 備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にと どまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和 53 年8月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)日午前9時から 24 時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである。 そうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。 A主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る。 【第7条、第9条及び第10条に関する裁判例】 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした就業規則の変更により、定年制度を改正して主任以上の職の者の定年を 55 歳に定めたため、新たに定年制度の対象となった労働者が解雇された事例で、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきとし、不利益を受ける労働者に対しても変更後の就業規則の適用を認めた

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 当裁判所は、昭和 40 年(オ)第 145 号同 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)日大法廷判決〈秋北バス事件〉において、「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」との判断を示した。右の判断は、現在も維持すべきものであるが、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は 変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによつて労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきであるこれを本件についてみるに、まず、新規程への変更によつてXらの退職金の支給倍率自体は 低減されているものの、反面、Xらの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際 延長された定年退職時までに通常の昇給分を超えて相当程度増額されているのであるから、実 際の退職時の基本月俸額に所定の支給倍率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の 低減による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価しうる不利益は、本訴におけるXらの前 記各請求額よりもはるかに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によつてX らが被つた実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではな いのである。他方、一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に、 労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いことはいうまでもないところ、本件合併に際しても、右のような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現することがで きなかつたことは前示したとおりであり、特に本件の場合においては、退職金の支給倍率につ いての旧花館農協と他の旧六農協との間の格差は、従前旧花館農協のみが秋田県農業協同組合中央会の指導・勧告に従わなかつたことによつて生じたといういきさつがあるから、本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後の上告組合の人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である。加えて、本件合併に伴つてXらに対してとられた給与調整の退職時までの累積額は、賞与及び退職金に反映した分を含めると、おおむね本訴における被上告人らの前記各請求額程度に達していることを窺うことができ、また、本件合併後、Xらは、旧花館農協在職中に比べて、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長されているのであつて、これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償としてとられたものではないとしても、同じく本件合併に伴う格差是正措置の一環として、新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たつて考慮することのできる事情であるそうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。 A主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る右のような新規程への変更によつてXらが被つた不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによつて被上告人らが被つた不利益を考慮しても、なおY組合の労使関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならない。したがつて、新規程への変更はXらに対しても効力を生ずるものというべきである。 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした就業規則により定年を延長する代わりに給与が減額された事例で、秋北バス事件、大曲市農協事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、さらに合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列挙し、その考慮要素に照らした上で、就業規則の変更は合理的であるとした

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。すなわち、労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであり、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。 ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有する だけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に健康の保持増進に努 める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は、健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされているのであるが、以上公社就業規則及び健康管理規程の内容は、公社職員が労働契約上その労働力の処分を公社に委ねている趣旨に照らし、いずれも合理的なものというべきであるから、右の職員の健康管理上の義務は、公社と公社職員との間の労働契約の内容となっているものというべきであるそうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ないもっとも、右の要管理者がその健康回復のために従うべきものとされている健康管理従事者による指示の具体的内容については、特に公社就業規則ないし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者の健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定できる以上、健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきであるA主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る以上の次第によれば、Xに対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否したYの行為は公社就業規則 59 条3号所定の懲戒事由にあたるというべきである。 そして、前記の職場離脱が同条 18 号の懲戒事由にあたることはいうまでもなく、以上の本件における2個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給における昇給額の4分1減額という効果を伴うものであること(公社就業規則 76 条4項3号)を考慮に入れても、公社がXに対してした本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとすることはできないというべきである。 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした就業規則に、36 協定に基づき時間外労働をさせることがある旨の定めがあったが、労働者が残業命令に従わなかったため、懲戒解雇した事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則は合理的であり、労働契約の内容となっているとし、懲戒解雇は権利の濫用にも該当せず、有効とされた

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。すなわち、労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであ り、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。 ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有す るだけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合 理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容 公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に健康の保持増進 に努める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を 誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は、健康回復に努める義務があり、その 健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされているのであ るが、以上公社就業規則及び健康管理規程の内容は、公社職員が労働契約上その労働力 の処分を公社に委ねている趣旨に照らし、いずれも合理的なものというべきであるから、右の職員の健康管理上の義務は、公社と公社職員との間の労働契約の内容となっている ものというべきである本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきであるもっとも、右の要管理者がその健康回復のために従うべきものとされている健康管理従事者による指示の具体的内容については、特に公社就業規則ないし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者の健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定できる以上、健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきであるそうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない以上の次第によれば、Xに対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否したYの行為は公社就業規則 59条3号所定の懲戒事由にあたるというべきであるA主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ るそして、前記の職場離脱が同条 18 号の懲戒事由にあたることはいうまでもなく、以上の本件における2個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給における昇給額の4分1減額という効果を伴うものであること(公社就業規則 76 条4項3号)を考慮に入れても、公社がXに対してした本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとすることはできないというべきである。 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした就業規則に、36 協定に基づき時間外労働をさせることがある旨の定めがあったが、労働者が残業命令に従わなかったため、懲戒解雇した事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則は合理的であり、労働契約の内容となっているとし、懲戒解雇は権利の濫用にも該当せず、有効とされた

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主 体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法 92 条参照)ものということができる本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきであるそして、労働基準法は、右のような実態を前提として、後見的監督的立場に立って、就業 規則に関する規制と監督に関する定めをしているのである。すなわち、同法は、一定数の 労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づける(89 条)とともに、就業 規則の作成・変更にあたり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に 就業規則を届け出で、(90 条参照)、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる(106 条1項、 なお、15 条参照)義務を課し、制裁規定の内容についても一定の制限を設け(91 条参照)、しかも、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる(92 条)ものとしているのである。これらの定めは、いずれも、社会的規範たるにとどまらず、法的規範として拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(93 条)就業規則のいわゆる直律的効力まで背認しているのである。右に説示したように、就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきであるそうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。 A主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る。 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした。新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件 を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善に待つほかない。停年制は、〈中略〉人事の刷新・経営の改善等、企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはできない。また、本件就業規則については、新たに設けられた 55 歳という停年は、産業界の実情に照らし、かつ、Y 会社の一般職種の労働者の停年が 50 歳と定められていることとの比較権衡からいっても、低きに失するともいえない。しかも、本件就業規則条項は、停年に達したことによって自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、同条項に基づく解雇は、労働基準法第 20 条所定の解雇の制限に服すべきものである。さらに、本件就業規則条項には、必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによって生ずる過酷な結果を緩和する道が開かれているのである。しかも、原審の確定した事実によれば、現に X らに対しても引き続き嘱託として、採用する旨の再雇用の意思表示がなされており、また、X ら中堅幹部をもって組織する「輪心会」の会員の多くは、本件就業規則条項の制定後、同条項は、後進に譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めている、というのである。以上の事実を総合考慮すれば、本件就業規則条項は、決して不合理なものということはできず、同条項制定後、直ちに同条項の適用によって解雇されることになる労働者に対する関係において、Y 会社がかような規定を設けたことをもって、信義則違反ないし権利濫用と認めることもできないから、X は、本件就業規則条項の適用を拒否することができないものといわなければならない。

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、 労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和 53 年8月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)日午前9 時から 24 時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである。 そうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。 A主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る。 【第7条、第9条及び第10条に関する裁判例】 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした就業規則の変更により、定年制度を改正して主任以上の職の者の定年を 55 歳に定めたため、新たに定年制度の対象となった労働者が解雇された事例で、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきとし、不利益を受ける労働者に対しても変更後の就業規則の適用を認めた

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判決の要旨. 思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合 において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第一小法廷判決 〈電電公社帯広局事件〉)元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性 質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法 92 条参照)ものということができる本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきであるそして、労働基準法は、右のような実態を前提として、後見的監督的立場に立って、就業 規則に関する規制と監督に関する定めをしているのである。すなわち、同法は、一定数の 労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づける(89 条)とともに、就業 規則の作成・変更にあたり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に 就業規則を届け出で、(90 条参照)、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる(106 条1項、 なお、15 条参照)義務を課し、制裁規定の内容についても一定の制限を設け(91 条参照)、しかも、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる(92 条)ものとしているのである。これらの定めは、いずれも、社会的規範たるにとどまらず、法的規範として拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(93 条)就業規則のいわゆる直律的効力まで背認しているのである。右に説示したように、就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきであるそうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。 A主任が右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る。 【概要】 農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした。新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件 を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善に待つほかない。停年制は、〈中略〉人事の刷新・経営の改善等、企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはできない。また、本件就業規則については、新たに設けられた 55 歳という停年は、産業界の実情に照らし、かつ、Y 会社の一般職種の労働者の停年が 50 歳と定められていることとの比較権衡からいっても、低きに失するともいえない。しかも、本件就業規則条項は、停年に達したことによって自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、同条項に基づく解雇は、労働基準法第 20 条所定の解雇の制限に服すべきものである。さらに、本件就業規則条項には、必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによって生ずる過酷な結果を緩和する道が開かれているのである。しかも、原審の確定した事実によれば、現に X らに対しても引き続き嘱託として、採用する旨の再雇用の意思表示がなされており、また、X ら中堅幹部をもって組織する「輪心会」の会員の多くは、本件就業規則条項の制定後、同条項は、後進に譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めている、というのである。以上の事実を総合考慮すれば、本件就業規則条項は、決して不合理なものということはできず、同条項制定後、直ちに同条項の適用によって解雇されることになる労働者に対する関係において、Y 会社がかような規定を設けたことをもって、信義則違反ないし権利濫用と認めることもできないから、X は、本件就業規則条項の適用を拒否することができないものといわなければならない。

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